芋出し画像

『戊う必芁がなかった日本』Vol.3 歎史のif 柎五郎線 第䞉章「軍を囜家の䞊に眮くな」

もし英囜が認めた男「柎五郎陞軍倧将」が総理倧臣になっおいたら、今ずはたったく違う日本囜が誕生しおいた。

日英関係は切れず、満州事倉も日䞭戊争も起きず、真珠湟攻撃もなく、䞭囜共産党政暩も北朝鮮も誕生しおいなかったかもしれない。

そしお2026幎什和八幎。
人口2億人の倧日本垝囜、䞭華連邊、米囜、欧州地䞭海連合など。
これらが競う、珟実より20幎ほど進んだ䞖界ぞ。
そんな「もう䞀぀の100幎」を歎史 if 物語に。

第䞉章「軍を囜家の䞊に眮くな」

䞃十䞃歳の老宰盞は、日䞭戊争を止められるのか

「号倖号倖」
「ビッグニュヌス」
「号倖です」

1937幎昭和十二幎7月13日。
東京。

朝から、街を号倖売りの声が駆け抜けおいた。

「柎五郎、再び組閣ぞ」
「䞃十䞃歳の老宰盞、日䞭危機収拟に再登板」
「第二次柎五郎内閣成立」

人々は足を止めた。
新聞を受け取った男が、思わず声を挏らす。
「柎閣䞋が、たた総理をやるのか」

その隣では
「もう䞃十䞃なのに」
ずいう声。

さらに別の男が答えた。
「でも、今床ばかりは柎さんじゃないず無理なんじゃないのか」

六幎前。
柎五郎は満州で、日本軍が自ら仕掛けようずした爆匟を止めた。

五幎前。
東京駅で䞀発の銃匟が、柎自身の呜を奪おうずした。
匟䞞は、柎が偶然暪を向いたこずで右耳の䞊をかすめ、
そのたた駅舎の壁ぞ食い蟌んだ。

翌日。
柎は包垯姿で垝囜議䌚ぞ珟れ、
軍制改革法を成立させた。

そしお二幎前の1935幎昭和十幎11月15日。
柎五郎は自ら総理倧臣を蟞した。

理由は明快。
「軍を政治から远い出した人間が、軍服の嚁光で政治に居座っおどうする」

政暩は政党政治ぞ返された。

そしお翌幎。
二・二六反乱未遂。

柎は総理ではなかった。
それでも、柎が残した軍制改革法ず囜家統制制床は機胜する。
政治目的で兵を動かそうずした青幎将校たちは、決起前に摘発された。
倧芏暡な銃撃は起こらなかった。

死者は、れロ。

それは柎五郎にずっお、自分が満州事倉を止めたこず以䞊に倧きな意味を持っおいた。

自分がいなくおも、日本は動いた。

英雄がいなければ守れない囜家ではなく、制床によっお自分自身を守れる囜家ぞ。
日本は、少しず぀倉わり始めおいる。

だが 。
1937幎昭和十二幎7月7日。
北京郊倖。
盧溝橋で響いた数発の銃声が。


日本を再び詊そうずしおいた。

1937幎昭和十二幎7月13日、第二次柎五郎内閣発足。

最初の閣議。
銖盞官邞の䌚議宀には、異様な緊匵が挂っおいた。

柎が垭に぀く。
癜髪はさらに増えおいた。

東京駅狙撃事件で負った右耳䞊郚の傷痕も、よく芋れば残っおいる。
しかし、その目だけは六幎前ず倉わっおいなかった。

柎は机の䞊の資料を芋た。
そしお、顔を䞊げる。
「陞盞」
「はい」
「北支ぞの増揎案を出せ」

陞軍倧臣は、䞀瞬だけ衚情を明るくした。
「はっ」
資料を前ぞ出す。
「珟圚、陞軍ずしおは北支方面ぞ二個垫団を増掟し、珟地邊人及び駐屯郚隊の安党を確保する必芁があるず――」

柎は、話を最埌たで聞かなかった。
「そこぞ眮け」
資料が机に眮かれる。
柎は数枚めくった。
赀鉛筆を取る。

そしお。
䞀枚目二枚目、䞉枚目。
すべおに、倧きく䞀本の赀線を匕いた。

华䞋。

陞軍倧臣が立ち䞊がった。
「なっ....総理」

柎は顔を䞊げる。
「䜕だ」

「䞭囜偎は兵力を増匷しおおりたす」
「知っおいる」

「このたたでは珟地の我が軍が䞍利になりたす」
「䞭囜偎にも撀兵を芁求する」

「応じなければどうなさるお぀もりで」
「亀枉する」

陞盞の声が匷くなる。
「亀枉しおいる間にも、䞭囜軍は増えるのです」

柎は、黙っお陞盞を芋た。
「なら聞こう」
静かな声だった。
「二個垫団を送るずする、その埌䞭囜が四個垫団を出したら」

陞盞が倩井を芋䞊げながら。
「必芁であれば、我が方もさらに――」

「䜕個だ」
「  」

「十個か」
「  」

「二十個か」
柎は䞭囜倧陞の地図を広げた。
北京を指す。
「ここたでか」

次に、南京を指す。
「ここたでか」

さらに内陞の重慶を。
「それずも、ここたで行くか」

誰も答えない。
柎が、赀鉛筆を眮いた。
「満州で蚀ったはずだ」

閣僚たちが柎を芋る。
六幎前。
柳条湖。
あの倜に柎が関東軍将校ぞ蚀った蚀葉。

柎はもう䞀床、同じ蚀葉を口にした。
「止たる堎所を決められない戊争を、始めるな」

陞盞が蚀った。
「しかし総理」
「䜕だ」

「軍人が撃たれおいるのです」
「だから䜕だ」

「垝囜の嚁信が」
柎の衚情が倉わった。
「嚁信」
「はい」

柎は、しばらく陞盞を芋぀めた。
「嚁信で兵士に飯を食わせられるのか」
「  」

「嚁信で石油が出るのか」
「  」

「嚁信で工堎が動くか」
誰も答えない。

柎は続けた。
「嚁信のために䞀䞇人以䞊死ぬだろう」
「そうすれば、死んだ䞀䞇人のために匕けなくなる」

「さらに十䞇人送る」
「その十䞇人が死ねば、今床は癟䞇人のために勝たなければならなくなる」

そしお、䜎い声で蚀った。
「そうやっお囜家は、自分で䜜った戊争に喰われる」

䌚議宀は静たり返る。
柎は資料を閉じた。
「増揎は認めん」
「しかし総理」
「呜什だ」

第二次柎内閣最初の方針を告げた。
「増揎を送るな」
「戊線を広げるな」
「南京ず話を぀けろ」

だが。
今回の危機は、1931幎の満州ずは違った。


満州事倉未遂では、暎走しようずしたのは日本軍だった。

日本政府が自囜の軍を止めればよかった。

しかし、盧溝橋にはもう䞀぀の軍隊がいる。

䞭囜軍。

日本が増揎を止めおも、䞭囜偎が増揎すれば日本囜内では匷硬論が再燃する。

䞭囜が䞀発撃おば、日本も撃ち返す。
日本が䞀歩進めば、䞭囜も䞀歩出る。
盞手を、自囜の法埋で止めるこずはできない。

必芁なのは、倖亀だった。

その日の午埌。
柎は、南京政府ぞ電報を送る。

文面は短かった。
日本政府は、盧溝橋事件を理由ずしお䞭囜ずの党面戊争を行う意思を有さず。
日本軍増掟を凍結する。
䞭囜偎にも同様の措眮を求む。
双方代衚による盎接協議を提案する。

最埌に、柎自身の蚀葉が添えられた。

私は満州で戊争を止めた。
今床も止める。

南京。
蒋介石は、その短い電報を䜕床も読み返しおいた。

偎近が尋ねる。
「どうされたすか」
「日本軍は、本圓に増揎を止めたのか」
「我々の情報では、二個垫団の増掟案を柎銖盞自身が华䞋したようです」
「確かなのか」
「はい」

蒋は怅子にもたれた。
「䞃十䞃歳だったな. 」

蒋は少し笑った。
「ただ自分の陞軍ず喧嘩しおいるのか」

再び偎近が口を開く。
「我が囜内では抗戊論が匷たっおいたす」
「分かっおいる」
「日本に譲歩すれば、囜民政府が匱腰だず」
「それも分かっおいる」

蒋は、柎からの電報をもう床芋る。

日本ず戊ずいうこず。
それは、䞭囜にずっお容易な遞択ではない。

日本は海軍力。
工業力。
航空戊力。
いずれも䞭囜を䞊回る。

䞀方、䞭囜は広倧だった。
人口も倚い。
日本軍が深く入れば、泥沌になる。

぀たり、始めれば双方に勝利がない。

蒋は蚀った。
「柎本人が来るのか」
「日本偎は、必芁であれば盎接䌚談も可胜ず」
「 なら䌚おう」

偎近が驚く。
「䞻垭、自らですか」

蒋は頷いた。
「日本の総理が䞃十䞃歳で出おくる」

そしお、静かに蚀った。
「こちらが机の埌ろに隠れおいるわけには、いかんだろう」


䞀方、東京では、第二次柎内閣ぞの反発が始たっおいた。


新聞。
「䞭囜ぞ匱腰」
「垝囜軍人が撃たれおも柎内閣は動かず」
「再び譲歩倖亀か」

街頭挔説では
「満州を売り、今床は華北を売るのかっ」
ずいう声も飛んでいた。

柎は、新聞を机ぞ眮く。
偎近が蚀った。
「䞖論が割れおいたす」
「い぀ものこずだ」

「東京駅の時よりは穏やかですが」
柎は右耳を觊った。
「今床は耳だけで枈たんかもしれんな」
偎近の顔が匷匵った。

柎は、少し笑った。
「冗談だ」
「総理の冗談は笑えたせん」
「そうか」

柎は新聞を畳んだ。
「だが」
衚情を戻す。
「私は䞀床撃たれおいる」
「はい」
「撃たれたくらいで政策を倉えなかった」
そしお蚀った。
「新聞に悪口を曞かれたくらいで倉えるわけなかろう」

柎の行動は玠早かった。

7月16日、倩接。
日䞭双方の代衚団が集たった。
そこには柎五郎の姿も。
英囜ずアメリカも立䌚人ずしお倖亀官を送った。

日本偎。
䞭囜偎。
互いの顔には、譊戒しかない。

䞭囜代衚がたず口を開いた。
「日本軍が最初に発砲したんだ」

日本代衚が返す。
「いや、䞭囜軍偎から発砲があった」

「日本軍は倜間挔習を行っおいた」
「挔習は以前から行っおいる」

「我が䞭囜領内である」
「条玄䞊認められた駐屯だ」

議論は、最初から平行線だった。
䞀時間。
二時間。
䞉時間。
誰が最初に撃った。
どちらが挑発した。
どちらに責任がある。
同じ蚀葉が繰り返される。

柎は、ずっず黙っお聞いおいた。
やがお、机を指で軜く叩いた。
コツ。
党員が柎を芋る。

柎が聞いた。
「誰が最初に撃ったか」
通蚳が蚳す。

「それが分かれば」
柎は続けた。
「戊争を始めおよいのか」

䞭囜代衚が黙る。
日本代衚も答えない。

柎は続ける。
「誰が䞀発目を撃ったか」
「それを調べおいる間に」
「二発目が撃たれる」
「二発目を調べおいる間に」
「十発撃たれる」
「十発が癟発になり」
「癟発が砲撃になる」

柎は䞡囜代衚を芋る。
「その頃には、誰が最初に撃ったかなど、誰も芚えおいない」

䞭囜代衚が尋ねた。
「では責任を問わないのか」

柎は答えた。
「調べればいい」
「しかし...」
「戊争しながら調べる必芁はない」
柎は、䞀枚の玙を前ぞ出した。
そこには、日本偎からの提案。

日䞭双方の同時撀兵。
非歊装緩衝地垯。
合同調査。
第䞉囜監芖。
事件を理由ずした新芏軍事芁求犁止。

䞭囜偎が玙を芋る。
「日本軍も退くのか」
「退く」
柎が即答。

「条件は」
「䞭囜軍も退くこず」

「日本人居留民の保護は」
「䞭囜譊察に任せる」
日本偎代衚の䞀人が、思わず柎を芋る。

柎は構わず続ける。
「ただし、日䞭合同委員䌚を眮く」
䞭囜代衚が聞く。
「華北に新たな暩益を求めない」

「求めない」
「本圓か」

柎は答えた。
「満州を取らなかった日本が、なぜ今さら華北を取る」

だが、䞭囜偎も簡単には匕けなかった。
囜内䞖論がある。
日本ぞの長幎の䞍信。
過去の二十䞀か条芁求。
満州で日本が持぀暩益。
䞭囜から芋れば、日本ぞの譊戒は圓然だった。

そこで、柎は䞀぀の提案を出した。
「英囜ずアメリカを入れる」

䞭囜代衚が顔を䞊げる。
「監芖団ぞ」
「そうだ」

日本偎から反発が。
「そ、総理」

柎は無芖した。
䞭囜代衚が聞く。
「日本ず䞭囜の問題を、倖囜に監芖させるのか」

柎は答えた。
「我々だけでは互いを信甚できんのだろう」
「  」
「なら第䞉者に芋おもらえばいい」

英囜代衚が苊笑した。
米囜代衚も、顔を芋合わせた。
䞭囜代衚が、少し笑った。
「ずいぶん割り切った考え方ですな」

柎は答えた。
「信甚できないから戊争する、よりは安いもんだ」


7月18日。
蒋介石が、倩接ぞ到着。

柎五郎ず、初めお正匏に向かい合う。

䞃十䞃歳の日本銖盞。
四十代埌半の䞭囜囜民政府指導者。

䞡者が笑顔で握手。
カメラのフラッシュが激しくたかれる。

だが、䌚談宀ぞ入るず、空気は重かった。
蒋が最初に聞く。
「柎総理」
「䜕でしょう」

「あなたは䞭囜を信甚しおいたすか」
柎は、間を眮かずに。
「しおいたせん」

䞭囜偎の空気が固たった。
蒋も少し驚いた。
柎は続ける。
「あなたも日本を信甚しおいないでしょう」

蒋は、柎を芋る。

そしお、ゆっくり頷く。
「信甚しおいたせん」

柎も頷いた。
「それでいい」

蒋の眉が動く。
「それでいい」

「囜家間で」
少し間を眮き
「必芁なのは友情ではありたせん」

「では䜕だ」
蚛りのある早口の北京語だったが、通蚳はゆっくりず日本語で話す。
柎は答える。
「信甚できなくおも、戊争にならない仕組みです」

蒋は、しばらく黙った。
そしお笑った。
「あなたは、本圓に軍人か」

柎も、少し笑う。
「若い頃からよく蚀われたす」

「たるで商人のようだ」
「それも蚀われた」
柎は続けた。
「商人は盞手を殺しおしたえば商売できたせんからな」

蒋が笑った。
郚屋の緊匵が、ほんの少し緩んだ。
しかし、䌚談は笑い話だけでは終わらない。
蒋が蚀った。
「䞭囜は、これ以䞊倖囜に領土を奜き勝手されるわけにはいかない」

「圓然でしょう」
「日本は、本圓に䞭囜を支配する意思がないのか」

柎は、しばらく黙った。
そしお蚀った。
「この囜の人口は四億を超える、それを支配する」
柎は銖を振った。
「冗談ではない」

蒋が、思わず柎を芋る。
柎は続けた。
「満州で関東軍にも蚀いたした」
「四億の人間を」
「䜕人の日本兵で支配する぀もりだ、ず」

蒋は黙っお聞く。
柎は、テヌブルに眮かれた䞭囜地図を芋る。
「日本は䞭囜を必芁ずしおいる」

䞭囜偎代衚団が䞀斉に柎の顔を凝芖する。
柎は続けた。
「垂堎ずしお」
「貿易盞手ずしお」
「資源䟛絊地ずしお」
「そしお....」

柎は蒋を芋る。
「将来」
「䞖界最倧玚の経枈囜になる可胜性を持った隣囜ずしお」

蒋は聞いた。
「ならば、日本は䜕を求める」

柎は答えた。
「䞭囜を所有する必芁はない」
少し間を眮き。
「䞭囜ず、商えばいい」


「䞭囜ず商えばいい」

蒋は、黙っお柎を芋続けた。
その蚀葉は、六幎前の日本で、䜕床も新聞に茉った蚀葉だった。

「取るな。商え」
䞭囜偎にも、すでに知られおいた。

7月20日正午。
䞀週間近い亀枉の末。
日䞭双方は、協定ぞ眲名した。

盧溝橋停戊協定。

内容は、単玔だった。
日䞭双方、盧溝橋呚蟺から同時撀兵。
䞀定地域を非歊装化。
䞭囜譊察が治安維持を担圓。

日本人居留民保護のため、日䞭合同委員䌚を蚭眮。
英囜・アメリカを含む四か囜監察団を半幎間配眮。
事件の責任に぀いおは、合同調査委員䌚が調査。
そしお、最も重芁な䞀文。

日本及び䞭囜は、本事件を理由ずしお新たな領土的・軍事的芁求を行わない。

眲名が終わった。

柎は、ペンを眮く。
蒋介石も、ペンを眮いた。

固い握手。
カメラの閃光。
䞖界は、ただその意味を理解しおいなかった。
ただ、䞀぀だけ確かなこずがあった。

日䞭戊争は、始たらなかった。

翌朝、東京。
新聞各玙。

「日䞭停戊成立」
「柎・蒋䌚談、党面戊争を回避」
「北支増揎䞭止」

街には、安堵が広がった。

しかし軍郚匷硬掟は激怒。
囜家䞻矩者も
「屈蟱倖亀」
ず批刀の嵐。

だが、普通の家庭では、別の反応だった。
「戊争にならないんだっお」
「息子を䞭囜ぞ取られなくお枈む」
「よかった」
商瀟も動いた。
垂堎も動いた。

停戊成立翌日。
東京株匏垂堎は䞊昇。
察䞭貿易関連株。
海運。
機械。
繊維。
銀行。
幅広く買われた。

報告を聞いた柎は、小さく笑う。
偎近が尋ねる。
「どうされたした」
柎は蚀った。
「ほらな」
「䜕がでしょう」

「戊争しない方が、儲かる」
偎近は、思わず吹き出した。
しかし。
柎にずっお本圓の問題は、ここからだった。

䞀旊、停戊しただけ。

日本ず䞭囜が、互いを信甚したわけではない。

䞭囜囜内には、日本ぞの䞍信。
日本囜内には、䞭囜ぞの蔑芖ず譊戒。

軍人。
新聞。
政治家。
民衆。
双方に、盞手を敵ず芋る者は倚かった。

柎は銖盞官邞の執務宀で、倧きな東アゞア地図を芋おいた。

日本。
朝鮮。
満州。
䞭囜。
゜連。
倪平掋。
そしおその向こうのアメリカ。

偎近が聞いた。
「䜕を芋おおられるのですか」
柎は答えなかった。

やがお、䞭囜倧陞を指す。
「これほど倧きな囜ず」
「はい」
「日本は䜕十幎も隣同士で生きおいく」
「はい」
「そのたびに、事件が起きるたび」

柎は蚀った。
「䞃十䞃の老人を呌び戻すわけにはいかんだろう」
偎近が笑う。
「確かにそうですね」
柎は笑わなかった。
「仕組みにしなければならん」
「䜕をでしょう」

柎は、日本ず䞭囜の間ぞ線を匕いた。
「戊争しない仕組みだ」
「条玄ですか」
「それだけでは匱い」
「軍事協定ですか」
「違う」

柎は地図に指を眮き。
䞊海。
倧連。
奉倩。
東京。
倧阪。
それぞれを指で結ぶ。

「金だ」

偎近が、驚いた顔をする。
「金」

柎は頷いた。
「日本䌁業が䞭囜で工堎を䜜る」
「䞭囜䌁業が日本ぞ商品を売る」
「䞭囜の鉄道を日本が䜜る」
「日本の機械を䞭囜が買う」
「䞭囜人が日本の倧孊ぞ来る」
「日本人が䞊海で商売する」
「そうすれば」
柎は蚀った。

「戊争を始めた瞬間、䞡方が共に損をする」

偎近が、少し考える。
「぀たり、経枈を人質に」

柎は銖を振った。
「違う」
そしお蚀った。

「平和を、儲かる商売にする」


䞀方、ほが同時刻の䞭囜。
蒋介石も同じ地図を芋おいた。

日本ずの戊争が回避された。
それは、囜民政府にずっお、極めお倧きな意味を持぀。

軍閥敎理。
工業化。
教育。
鉄道。
蟲村改革。
そしお、囜内最倧の政治的に察立する敵。
䞭囜共産党。

史実なら、日本軍ずの戊争によっお、囜民政府は莫倧な兵力ず財政を消耗しおいく。

䞀方、䞭囜共産党は「抗日」を掲げ、蟲村ぞ勢力を拡倧する。

だが、この䞖界ではその戊争がない。
南京は陥萜しない。
䞊海は巚倧戊堎にならない。
䞭華民囜囜民政府の皎収も、工業地垯も、軍隊も残る。

そしお、日本ずいう巚倧な倖敵がいない。
䞭囜共産党にずっお、これは臎呜的だった。

南京の政府本郚。
偎近が蒋介石ぞ報告する。
「共産軍に察する包囲が進んでいたす」

蒋は資料を芋る。
「日本軍は」
「盧溝橋協定通りです」

「増揎なしか」
「ありたせん」

蒋は、しばらく黙った。
そしお口を開く。
「柎五郎」

「はい柎䜕でしょうか」

蒋は少し笑いながら蚀った。
「厄介な日本人だな」

偎近が驚く。
「厄介敵...ですか」
蒋は銖を振った。
「違う」

ゆっくりず窓の倖を芋る。
「日本ず戊わなくお枈む」

そしお、少し間を眮き。
「我々は、䞭囜囜内の問題から逃げられなくなった」

1937幎昭和十二幎秋。
第二次柎内閣は、新しい構想を発衚した。

『日䞭産業協力構想』

䞭囜囜内の鉄道敎備。
発電所。
枯湟。
補鉄。
機械工業。
通信網。
倧孊。
医療。
日本䌁業だけではない。
英囜資本。
アメリカ資本。
䞭囜資本。
耇数囜による共同投資。

日本が䞭囜を独占しない。
䞭囜も日本を排陀しない。
互いの利益を、できるだけ耇雑に絡たせる。

蚘者䌚芋で、蚘者が柎に聞いた。
「総理、䞭囜を匷くしすぎれば」
「将来、日本の脅嚁になるのではありたせんか」

柎は、少し考えた。
「なるかもしれん」

蚘者たちがざわめく。
「ではなぜ支揎するのですか」
柎は答えた。
「匱い䞭囜が、日本にずっお安党だず思うか」
「  」
「匱ければ」
「゜連が入る」
「軍閥が争う」
「共産䞻矩が䌞びる」
「難民が出る」
「暎動が起こる」

柎は続ける。
「隣の家が貧乏なら」
「自分の家が安党になるわけではない」
蚘者たちは黙る。

柎は蚀った。
「匷くおも、戊争をしたら損をする䞭囜にすればいい」

この考え方は、日本囜内でも議論を呌んだ。
䞭囜を育おれば、い぀か日本を远い越す。
人口では勝おない。
垂堎芏暡でも勝おない。

それでも柎は、䞭囜の発展を止めようずしなかった。

むしろ、こう考えおいた。
䞭囜の成長を止めるこずなど、日本にはできない。

なら、その成長の䞭に、日本が入ればいい。

埌に、この思想は、柎倖亀のもう䞀぀の有名な蚀葉ずしお残る。

「隣囜の成長を恐れるな。その成長から利益を埗よ」

だが。
䞖界は、日本ず䞭囜が仲良くするこずを、手攟しで歓迎したわけではなかった。

北。
゜ビ゚ト連邊。
モスクワでは、日本ず䞭囜の急接近に、匷い譊戒が生たれおいた。

日本ず䞭囜が戊わない。
さらに、英囜ずアメリカたで、その経枈協力ぞ入っおくる。

それは゜連にずっお、極東での孀立を意味する可胜性があった。
満州。
モンゎル。
新疆。
沿海州。
東アゞアの地図が、静かにだが確実に倉わり始めおいた。

1938幎昭和十䞉幎初頭。
銖盞官邞。
柎の机ぞ、䞀通の報告曞が眮かれた。

゜連極東軍、増匷の兆候あり。


「゜連が日本ず䞭囜の接近を譊戒しおいたす」

偎近が蚀った。

柎は、報告曞を読む。
「圓然だろう」
「どうしたすか」

柎は、地図を芋る。
日本。
䞭囜。
゜連。
䞉぀の巚倧な囜家。

そしお呟いた。
「日本ず䞭囜が戊わなければ」
「はい」
「次に困る者が出おくる」

偎近が聞く。
「゜連、ですか」

柎は答えなかった。
代わりに、別の蚀葉を口にした。
「䞭囜を敵にするな」
「  」
「敵にしなければ」
柎は北を指した。
「東アゞアの地図そのものが倉わる」

1938幎昭和十䞉幎。
第二次柎内閣は、盧溝橋危機を止めただけの内閣ではなくなっおいた。
日䞭関係を、敵察から競争ぞ。
軍事から経枈ぞ。
領土から垂堎ぞ。
その構造そのものを倉え始めおいた。

柎五郎は、䞃十八歳になろうずしおいた。
自分に残された時間が、倚くないこずも分かっおいる。
だからこそ、急いでいた。

次に戊争が起きそうになった時。
もう、柎五郎を呌ばなくおも枈むように。

日本ず䞭囜が、互いに
「戊うより商売した方が埗だ」
ず思う䞖界を䜜る。

それこそが、第二次柎内閣最埌の仕事になる。

そしお、それはやがお、䞭囜共産党政暩の存圚しない䞭囜。
朝鮮半島が分断されない東アゞア。
台湟共和囜。

そしお䞀䞖玀埌。
人口十五億近い、巚倧民䞻囜家『䞭華連邊』ぞず぀ながっおいく。
その隣には䞭華連邊を競争盞手に切磋琢磚し、巚倧な囜に䞀歩も匕けを取らない『倧日本垝囜』の姿も。

しかし、そこぞ至る道には、ただ䞀぀、巚倧な障害が残っおいた。
日本人の䞭にある、䞭囜ぞの優越意識。
䞭囜人の䞭にある、日本ぞの譊戒。
囜境線よりも、軍隊よりも、消すこずの難しい壁。

柎五郎が次に戊う盞手は、陞軍ではない。
爆匟でもない。
銃匟でもない。
人間の心の䞭にある敵意だった。

第䞉章・終


次章「䞭華民囜を敵にするな」

日䞭戊争は、起こらなかった。
しかし、戊争をしないだけでは、平和ずは呌べない。

柎五郎は考える。
日本ず䞭囜を、ただの「仲の悪い隣囜」のたた残せば、十幎埌。
二十幎埌。
別の盧溝橋が必ず珟れる。

ならば、戊争そのものが銬鹿らしくなるほど、二぀の囜を経枈的に結び付ければいい。

日本の技術。
䞭囜の垂堎。
英囜の金融。
アメリカの資本。
満州の資源。
東アゞアに、史実には存圚しなかった巚倧経枈圏が生たれ始める。

䞀方、日本ずの戊争ずいう远い颚を倱った䞭囜共産党は、急速に远い詰められおいく。

そしお北では、゜ビ゚ト連邊が、日䞭接近を譊戒し始めおいた。
日本ず䞭囜が戊わなかっただけで、䞖界の地図が倉わり始める。

次に柎五郎が止めるのは、戊争ではない。
「敵を必芁ずする政治」そのものだった。

次章第四章Vol.4ぞ続く。


柎五郎ずは䜕者なのか

柎五郎がどんな人物でどんな人生を実際に歩んだのか
史実を元に柎五郎玹介蚘事を曞いおみたした。
実際の歎史で柎五郎は、䜕をしおどんな経隓をしたのか
こちらも䜵せお読んでみお䞋さい。

#戊う必芁がなかった日本
#柎五郎
#歎史IF
#もしもの䞖界
#日本史
#近代史
#昭和史
#盧溝橋事件
#日䞭戊争
#もしもの歎史
#小説

いいなず思ったら応揎しよう