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【エッセイ】 遺品整理…。思い出の品物は夏の甲子園

彼女の実家の2階は、この邸宅の住民たちのプライベートルームである。
彼女の部屋は、推定約20畳ほどの広い洋室。
その隣には同程度の広い和室があって、ご両親の部屋だった。
今はもう、この2階で寛ぐ住民は誰もいない。

ご親族の意向で、数ヶ月前から遺品整理を始めていると聞いていた。
そんな折に訪問した私は、本当に久しぶりにこの邸宅の階段を昇った。
おそらく30年以上は2階に上がることはなかった。


※彼女の遺品についてはこちら↓


ご両親の和室には、秘密めいた小部屋があることに気付き、そっと覗いてみた。
クロゼットとして活用していたようだが、奥の方に小さな書棚があって、難しそうな本ばかり並んでいる。
どうやらお父様の「秘密基地」だったのか?
他の場所には「あの日」を報じた新聞各紙が、たくさん積まれていた。
41年前の新聞は、手を伸ばせば粉々に形を失いそうなほどに、風化してしている。

寡黙な紳士だったお父様は、この小部屋で何を思っていたのだろうか…。
いつもあんなに冷静で…。
目に入れても痛くない愛娘を失ったのに…。
一度たりとも取り乱す姿を見せなかった…。
この小部屋で…。
人目を忍んで一人で過ごす夜を、いくつ越えたのだろうか…。
私の胸の奥に、どうしようもない切なさが去来する。

もうこれ以上ここにいたら、私の方が取り乱しそうな焦燥から、振り返ってここを出ようとした。
その時、そこに置かれた埃だらけの物が私の目に映った。

タオル。
袋に入ったまま、無造作にあった。
手に取り、袋から取り出してみた。

心が震えた。
おりしも1985年夏の甲子園大会。

お父様は「あの夏」に甲子園に野球観戦に行ったのか?
いや、違う、それはあり得ない。
甲子園大会が始まる8月上旬は、ご親族の葬儀があり、お父様は野球観戦どころではなかった。
そして予想だにしない「あの日」に、彼女は飛行機に乗ってしまった。
だからお父様が1985年の夏の甲子園を訪れる時間的な余裕は、なかったはず。
このタオルは、きっと誰かに貰ったお土産なんだと想像出来た。

それにしても…。
よくぞ1985年版のタオルを、41年も保管してくれていたものだ。

この年の各県の代表校名が並ぶ。
第67回の優勝校はPL学園。
K.Kコンビとして大活躍した、清原選手と桑田選手が高校3年の時代だ。


御巣鷹の尾根からヘリで搬送され、数日後に身元が確認された。 
墜落から1週間後だった。
彼女を連れて帰る道中の車で、甲子園の野球中継がカーラジオから流れていた。
それはただ聞こえている「音」で、試合の内容は全く頭に入ってこなかったことを記憶している。

お父様は私のことを「娘みたいなモンだ!」と言ってくれていた。
でも、やっぱり「娘」にはなれないことをわかっていらしたし、私も同じように認識していた。

今日から甲子園夏の大会が始まった。
高校野球もナイター試合になった。
お父様が元気でいらしたら、冷たいビールを飲みながら、観戦したことだろう。
思い出としていただいたこのタオルも、大切にしていくつもりだ。
                      了
几戸姶洛


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