【エッセイ】 彼女の愛したMickey Mouseがやってきた
1985年8月12日。
彼女の愛した物たち全てが、『遺品』と呼ばれるようになった。
それらを大切に保管していた彼女の実家の部屋は、長い歳月を経て、扉と窓が解放された。
遺品整理・・・。
この度、ご親族の意向で片付けることになった。
そんな折にこの部屋を訪れた私。
いつかはこういう日が来ると予想していた。
関西から帰ってきた彼女の私物は、封じられていた段ボールから、41年ぶりに取り出された。
それらが所狭しと…というより、足の踏み場もないほど、部屋中に溢れていた。
彼女の物たちに囲まれた私。
言葉もなく、ただ茫然としていた。
カタカタカタカタカタカタ…………
突然鳴る、けたたましい音。
乾いた音が耳をつんざいた。
音は数秒ほど続いて、やがてピタリと止まった。
「なんだろう?」
部屋の隅から聞こえたようだ。
カタカタ…とまた聞こえた。
音を頼りに、段ボール箱に近付くと・・・。
ミッキーマウスの人形が顔を出していた。
「この前も急に鳴り出して…。40年以上経つのに、まだ電池が残っているのかしら…?」
片付け作業をしていた人が言った。
またカタカタと鳴る…。
私は箱からミッキーマウスを取り出した。
埃を被ったミッキーマウス。
私はミッキーマウスの人形に向き合った。
可愛くて・・・。
ひょうきん者で・・・。
おしゃれなミッキーマウス。
彼女の中性的な魅力と、どこか似ていた。
カタカタと鳴った音は、電池式ではなくネジ巻き式で、梱包されていた箱の角度が変わったことから動き出すキッカケになったのだろう。
しかし…40年以上経つのに…。
なんだか奇妙だ。
私はミッキーマウスのネジを回して、床に置いた。
カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ…。
勢いよく動き出した。
「私んちに来る?一緒にウチに行こうか!」
埃に塗れたミッキーマウスに囁くと、彼は少し微笑んだ気がした。
私は、彼を、譲り受けることになった。



ミッキーが首に下げているのは、彼女のアクセサリーで、これも偶然に見つけた物。
ペンダントトップの裏側に彼女の名前が刻まれていた。
何処かに行った時の記念に、自分で買ったのか?
誰かにプレゼントされたのか?
今となっては誰にもわからない。
私はミッキーマウスに、そのアクセサリーを付けた。
彼女の愛したミッキーマウスは、我が家のリビングの一員となった。
母に埃を拭き取って貰ったミッキーマウス。
カタカタ…と鳴ることもなく、穏やかに我が家の平凡な生活を見下ろしている。
了
几戸姶洛
