週刊アンチ・ドーピング通信 #15|夏の「点滴」に要注意──2026年6月の最新情報
はじめに
こんにちは、TechKeepです。今週のアンチ・ドーピング情報をお届けします。
前号の第14号 「葛根湯はNG?」競技者が漢方を避けるべき理由 では、漢方薬が競技者に推奨されない理由(複数の生薬の混合物で全成分を特定できず、TUE申請もできない)を解説しました。
今号は 2026年6月の最新情報号 です。6月は夏に向けて体調を崩しやすい季節。今月のメインは、夏に受ける機会が増える 「点滴」に潜むアンチ・ドーピングの落とし穴(禁止方法 M2) を取り上げます。あわせて、6月に公表されたJADAの違反事例、そして前号(第10号)で深掘りした FIFAワールドカップ2026 のその後を、毎月恒例のトピックとして手短にお届けします。
3〜5分で読める内容で、6月のアンチ・ドーピング動向をキャッチアップしましょう。
トピック① 夏の「点滴」に要注意 ── 禁止方法 M2(化学的・物理的操作)
6月は夏に向けて体調を崩しやすい時期。夏風邪・脱水・胃腸炎などで受診して 点滴(静脈内注入) を受けたり、疲労回復・栄養補給を目的に「ビタミン点滴」「疲労回復点滴」を利用する人もいます。実はこの「点滴」に、見落とされがちな禁止方法 M2 が関わってきます。
静脈内注入(点滴)の量に上限がある
M2.2=静脈内注入及び注射が、12時間あたり合計100mLを超える場合は禁止方法(「常に禁止される」=競技会の内外を問わない)
ただし 入院施設を有する医療機関での治療・外科手術・臨床検査、および 救急車内で開始された点滴 は対象外
それ以外で100mL超の点滴を受けた場合は、原則として 遡及的TUEの申請が必要(出典:JADA 2021-08-24 通知)
⚠️ 「夏バテ・脱水だから点滴を1本」という何気ない受診が、量によっては禁止方法に該当しうる点に注意。
水分・栄養補給は「口から」が基本 ── 点滴は受診・回復の場面で
日常の水分・電解質の補給は 経口補水(飲む)が基本。経口補水液・スポーツドリンクはドーピングの問題になりません。
体調不良や疲労回復で点滴を勧められたら、競技者であることを医師に伝え、量と必要性を確認してもらうことが大切です。
💊 薬剤師ポイント:M2は「物質」ではなく「方法」の禁止。薬の成分が禁止物質でなくても、投与方法(点滴量) で違反になりうるのがM1〜M3(禁止方法)の特徴です。
🎯 試験対策ポイント
M2.2の閾値=12時間で合計100mL超(数字を問う出題に直結)。入院・手術・救急車内開始は除外。
禁止方法(M1〜M3)は「常に禁止される」分類。「物質ではなく方法」が禁止される点が問われやすい。
点滴の例外的使用には 遡及的TUE という手続きがある(第12号 TUE号と接続)。
トピック② 6月のJADA違反事例 ──「一覧に載る決定・載らない決定」
JADAは規律パネルの決定を「国内のアンチ・ドーピング規則違反及びその他の違反」のページで公表しています。2026年6月に新たに公表された決定は、第13号で詳しく取り上げたツロブテロール(ホクナリンテープ)の事例(決定公表 2026年6月2日)が中心で、ほかに大きな新規の公表はありませんでした。
そこで今号は事例の再掲ではなく、「違反決定の読み方」 を補足します。
公表される決定・されない決定
公表されるのは、聴聞を経た 規律パネル決定 と、競技者が制裁を受け入れた 同意に基づく決定 です。
一方、要保護者(18歳未満等)やレクリエーション競技者の事案は、規程上 一律の公開の対象外(日本アンチ・ドーピング規程 14.3.6項)。「一覧に載っていない=違反がない」とは限りません。
💊 厳格責任の再確認:検体から検出された物質については、意図や知識の有無を問わずアスリート本人が責任を負います(厳格責任)。「貼り薬1枚」でも例外ではない ── これが第13号の教訓でした。
🎯 試験対策ポイント
違反決定の公表には例外があり、要保護者・レクリエーション競技者は一律公開の対象外(規程14.3.6項)。
制裁が確定する経路は2つ:規律パネルの聴聞 と 同意に基づく決定。
厳格責任(Strict Liability) は頻出論点。「意図・知識・過失の有無を問わない」が原則。
トピック③ 今月のその他のトピック(毎月恒例・軽め)
(1)FIFAワールドカップ2026 続報(前号#10の深掘りのその後)
前号(第10号・5月号)で深掘りした 3カ国NADO連携のアンチ・ドーピングプログラム が稼働中です。大会は 2026年6月11日(メキシコ現地時間)に開幕し、7月19日の決勝まで 続きます。全 16開催都市 に 16名のFIFA ドーピング・コントロール・オフィサー(DCO) が配置され、各国NADO(USADA・Sport Integrity Canada・MEX-NADO)が競技会外検査と会場での検査を支援。尿・血液検査が予告なしで行われています。
開催都市の一部で嗜好用大麻が合法でも、アンチ・ドーピングのルールは州法とは独立して適用されます(THC=S8カンナビノイドは競技会(時)に禁止/CBDは除外)。
📌 大会全体のアンチ・ドーピング的な総括(検査数・結果など)は、決勝(7月中旬)を経た 7月号(第19号) でまとめる予定。本号では「体制が稼働中」という続報に留めます。
(2)2027年WADAコードへの移行動向
2027年WADAコードは 2025年12月5日に韓国・釜山の第6回世界ドーピング防止会議で承認済み、2027年1月1日発効 です。2026年は現行の2021年版が適用される移行期間にあたります。
6月の動き:WADAは2027年版への移行を支援する アジア・オセアニア地域シンポジウム を 2026年6月2〜3日に中国・北京 で開催しました(第10号で開催予告をお伝えした会合)。移行支援プログラム(CISP)のツールは教育プラットフォーム ADEL で公開されています。
主な変更点(再掲):
非意図的違反の制裁が 3段階化(経緯のみ立証→3年/非意図的を立証→2年/意図的→4年)
濫用物質(Substances of Abuse)初回・競技会外使用 → 2ヶ月固定
汚染源(Contaminated Source)の定義拡大(食品・飲料・環境・接触汚染も対象)
国際基準が8つ → 9つ(Intelligence Standard 独立・新設)
(3)IOC・直近大会関連
6月は、IOC・主要国際大会に関する大きな新規の制裁・メダル再配分の動きは確認されませんでした(継続モニター)。なお、パリ2024の検体は 10年間保存 され、検査技術の進歩や新たな情報に応じて将来 再分析 される可能性があります。
今月のまとめ
夏の点滴(補液・ビタミン点滴など)は 12時間で合計100mL超 が禁止方法(M2.2)。水分・栄養補給の基本は「口から」。点滴を勧められたら競技者だと伝えて量を確認。
禁止物質(成分)だけでなく 投与方法(点滴量など)でも違反になりうる(M1〜M3=禁止方法)。
JADAの違反決定一覧には「載らない」事案もある(要保護者・レクリエーション競技者は義務的公開の対象外)。それでも 厳格責任 は全員に適用される。
FIFAワールドカップ2026は前号#10で深掘りした体制が稼働中。大会全体のAD総括は閉幕後の7月号で。
2027年WADAコードは2027年1月1日発効。2026年は2021年版が適用される移行期間。
来週もアンチ・ドーピングの最新情報をお届けします。
著者プロフィール
TechKeep_pharma
JADA認定スポーツファーマシスト・薬剤師
IRONMANみなみ北海道2024完走
アスリートへのアンチ・ドーピング相談・教育活動を行います。
Kindle書籍「薬剤師・薬学生のためのアンチ・ドーピング入門」準備中
X:https://x.com/TechKeep_pharma
note:https://note.com/techkeep_pharma
ご利用にあたって
禁止表国際基準は最低年1回、WADAコードも随時改定されます。
当アカウントは正確な情報発信を心がけていますが、最新情報は必ず GlobalDRO(医薬品の禁止状況検索データベース)・JADAの公式情報でご確認ください。
ドーピング違反に関わる最終判断は、アスリート自身の責任において行われます。
※ note自動翻訳は機械的翻訳のため、専門用語が必ずしも WADA公式英語表記と一致しない可能性があります。正確な情報は WADA公式(wada-ama.org)または JADA公式(playtruejapan.org)をご参照ください。
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