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「わたしはベジータかもしれない」正論で人を震えさせてしまった日の話③

ふてぶてしい態度で、彼はわたしを横目で見た。
その目には、申し訳なさも温かみもなかった。

(馬鹿にされている)


パソコンに疎いわたしは、いつもこのサポートさんを頼ってきた。

信頼関係を築こうと丁寧に接し、対価もキチンと支払ってきたつもりだった。


…でも、この扱い。
何も通じていなかった。


ふだんは、身体の奥深くに慎重に閉じ込められている。

怒りのマグマが…


尊厳を踏みにじられたと感じた瞬間。
わたしの戦闘力は、静かに、そして澄み切った臨界点へ達した。

そう、わたしの中のベジータが。



目覚めた!


それからの事は、はっきりとは記憶にない。

ベジータは叫ばない。
尊厳を守るための聖戦。

静かに、用意周到に、逃げ道をふさいだ。
信頼と誠実という名の感情を織り交ぜながら。


「わたしは、あなたを信頼していつも任せてきました」

「わたしの顔、わかってますよね?」

「それなのに、あなたはわたしの信頼を裏切った」

「あまりに不親切で不誠実な態度」
「本当に残念でとても悲しいです」



語りかけるように。
トコトン追い詰めた。


その時…。


ペンを握る彼の手が小刻みに揺れている。


一瞬、何が起きているのか分からなかった。


驚いて、顔を見上げると、さっきまでの態度は消えていた。

逃げ場を失ったうさぎのように目は泳ぎ、身体も震えていた。

「えっ…?」
震えてる?



わたしの中に冷たい勝利感が湧き上がるのを感じた。


でもその時…。震えるその人を見たとき。

…この人、傷付いてる。


わたしの攻撃が彼をこんなにも傷付けてる。


彼もまた弱い人間なんだ。


(言い過ぎたのかもしれない)
憐憫の情が心をかすめた。


でも、止まらなかった。
勢いづいちゃって。


いつも「誠実であれ」と聖人君子づらしてるわたし。
でもこうして容赦なく人を切り付けてる。


自分の加害性に気づきながらも…
諸刃の刃となって、わたし自身をも切り裂いてる。


でもわたしの手は震えていなかった。
どろりとした罪悪感が胸を締め付けた。


恐ろしかった。いつも我慢して空気読んで。

正論と誠実さが自分を守る盾だと信じて。



結局のところ、Office試用版が切れた後にまた店頭にパソコンを持ってくるという話になった。


「間違えないようにわたしが設定します」と怯えた目で彼は言った。

その事実を彼の目の前でいつもの小さなノートに書きこんだ。

なぜか恨めしそうな視線を背中に感じながら。


正論は時に人を酷く傷付ける。そしてそれを振り回す自身をも。

(あのサポートさんと、今後も笑って付き合っていけるかな)


顛末をそばで見届けていた女性店員が、なんともいえない顔でわたしを見送った。


店の外に出た。


空は晴れてた。


でも、心はちっとも晴れていなかった。


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