寝取られ幽霊 第八話 面倒くさい、色々と。
寝取られ幽霊 目次
第1話 守護霊登場
第2話 地獄巡り 上
第3話 地獄巡り 中
第4話 地獄巡り 下
第五話 幽霊、反社からお金をガメる
第六話 図書館にて
第七話 チンピラが深淵を見てしまいそうになった話
第八話 面倒くさい、色々と。
第九話 幽霊対談
蓮は教務課から出てきたところで、サークルの友人、同じ商学部、同じ学年の阿川伊志朗と鉢合わせた。
「坂本~、どうした? 二、三日顔見なかったけど。」
高校までとは違い、大学生なんて、同級生同士でもしばらく顔見ないなんてことあるだろう、とか思いながら、あぁ、ムービーフレンドという映画愛好サークルには、深夜バイトしてた所為もあり顔出してなかったよな。今更絢美にプレゼントなんて間抜けな事ありえないし、バイト代の使い道が消えたおかげで、すっかり小金持ちですよ、とほほほ。
「あ・・・・バイトしてたんだったな。」
この日の講義は終了している時間だった。いつもなら、正式に部室を持っていない任意団体だったので、ロビーのいつも陣取っているスペースに、阿川と顔を合わせたことだし、久しぶりに顔出してみようかと思ったが、
「待てよ。言っとかなきゃいけないことがある。」
阿川が、ただならぬ雰囲気をだして、軽く蓮の肩を叩く。なんだ、なんだぁ?
「言いにくいんだが・・・」
近くのベンチに座り、妙に力を入れ、というか、力の入れ具合を決めかねているようにも見えた。
「篠原さんの事なんだけど」
あぁ、その事か。蓮がムービーフレンドに加入したのは、篠原絢美が参加したことを知ったからだ。それから、結構時間をかけて口説き落としたつもりだったんだが。阿川が心配したのは、蓮が顔を見せることで、雰囲気がおかしくなることなんだろう。
「あ、それ、知ってるから。ラブホの前で鉢合わせした。」
蓮は蓮でちょっと不自然なくらい口調が軽くなってしまった。
絶句する阿川。ゴクリと喉が鳴る音が聞こえそうなほどの沈黙のあと、阿川は蓮の顔をまじまじと見つめた。腫れ物に触るような、哀れみと恐怖が混ざった視線。それがかえって蓮の胸をちくちくと刺す。
「・・・そうか。坂本がいない間に、3年の木島さんとデキちゃったみたいで・・・」
蓮は、この時まで、絢美の相手がムービーフレンドの先輩の木島聡だと気がついていなかった。
「木島さんだったか・・・」
言われてみれば、あの修羅場の夜、絢美の隣でバツの悪そうな、それでいてどこか勝ち誇ったような薄笑いを浮かべていた男の輪郭が、サークルの部室で何度も見た「木島聡」の顔とピタリと重なった。 余程、あの時テンパっていたらしい。
サークル全体では蓮に同情的なのが3割ほど、木島、絢美擁護も同じく3割ほど、残りはどうでもいい、という雰囲気らしい。
蓮も今サークルの雰囲気をおかしくするつもりもないので、その日は、帰る、じゃなくて、時間いっぱい図書館で、ビルマ戦線に関する資料、書籍に目を通すことにした。
サークルの派閥がどうだの、木島と絢美がどうだの、そんな現世のノイズが急にどうでもよくなるくらい、ビルマ戦線という事象の質量は凄まじかった。 少なくとも、ガールフレンドを寝取られたなんて言うことなど吹き飛んでしまうほどには、だ。
今、教務課から出てきたのは、学部学科が違う史学科の成瀬教授に話を訊くために、明日アポイントメントを取ったからだ。
「あ~、なんか面倒くさそうだし、顔出すのやめとくわ。」
蓮が言うと、阿川はほっとしたような、残念そうな、微妙な顔をした。
図書館で、昨日のようにビルマ戦線に関する書籍をあさりながら、そういや、いつからビルマをミャンマーって言い換えるようになったのかな、まぁ、ミャンマーの方が実際の発音に近くて、ニッポンとジャパンとヤーパンぐらいの差ではあるんだろうが、あぁ、グルジアもジョージアなんて言うようになったしな。その国の人たちからの要請があったりしたからなんだろうか? などと考えていた時に、阿川からLINEが入る。
『木島さんも篠原さんも来ていない。来るか?』
正直、どうでもいいし、っていうか、めんどくせ~、ぐらいにしか思わなくなっていた。阿川には悪いが。既読だけ付けて、返信後にしようかと、一旦、デスクの上にスマホを置いたが、思い直し
「やめとくわ」
とだけ返しておいた。
あの後、六本木のはずれの牙狼会の事務所からも、清彦は何百万円かをくすねていたが、どうやら、鷲塚のこの組織には、毎週、4桁万円の実入りがあるらしいことがわかった。覚せい剤取引、女性を借金漬けにして風俗に融通する仲介、そして、わざわざ、No.2を海外に置き行う特殊詐欺を含めた、所謂匿流事案。
清彦は思い出したことがある。清志郎が妻に逃げられたころの事。清志郎が、平日は単身赴任で福岡、週末に父母の下にいる娘奈穂子と会うために熊本に帰るという生活をしていたころのことだ。
その時の清彦も、今と同じ、清志郎に積極的に何かしてやるなんてことはせずに、茶々をいれつつ、福岡、北九州界隈をうろうろしていたんだが、そういえば、と、戦友佐久間と澄江を暴行死に至らしめた、愚連隊とやらのボスは、どうなったのか、確認しに行ったことがある。
そのボスとやらは、既にこの世にはいなかった。晩年は壮絶だったらしい。重度の糖尿病を患い両脚は切断、死の苦しみで、病床では悪鬼のような表情での最期だったようだ。
その魂の残滓と、鷲塚の魂、肉体で言えばDNA的な所での形がひどく近似のものだった。鷲塚自身は、川崎の出身。5代前くらいに九州小倉から出てきたらしいが、愚連隊のボスとは血縁はないようだ。
佐久間の事もある。仇討ちなんて殊勝なことは言わないが、どうやらそういう柄ではないくせに、清彦は自分はそういう反社的なものが許せないらしいことを自覚した。
さてどうしてやろう。と考えながら、日中、清彦は、実体化したり幽体のままだったりしながら、東京中をぶらついた。お笑いライブや寄席の情報があればそこに行ったりしながら。
結構、東京も、太い刷毛でペンキを雑に塗るような開発を繰り返すわりに、塗り残しのように古いものが残ってたりする、そういう感じが気に入っていた。
曾孫の蓮が通う大学を、蓮には告げずに見物に行った後、都電に乗り雑司ヶ谷まで乗って、ぶらぶらと歩いていた時のことだ。
『私の縄張りにフラフラやってくるなんて、いい度胸じゃない。』
人間ではない。自分と同種、自分自身が幽霊であることを忘れて、
『ひゃっ!』
清彦は、悲鳴を上げて飛び上がる。
『幽霊のくせに、幽霊にビビってんじゃないわよ』
呆れたような表情の女の幽霊が立っていた。
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