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ギーク過ぎる原料解説HOP Vol.9 Apollo(アポロ)

前書き

「Apollo(アポロ)、それは神の名を冠するホップ」

ビールの世界で知的探求の旅をしていると、まるで未知の惑星を発見したかのような興奮を覚えることがあります。今回、私が深く掘り下げていくのは「Apollo(アポロ)」というホップ。この「ギーク過ぎる原料解説HOP」シリーズでは、ビールづくりの根幹を成す4大原料(麦芽、ホップ、酵母、水)の中でも、特に「ホップ」に焦点を当て、その深遠なる世界をマニアックに探求してきました。

今回は、そのラインナップに、この一筋縄ではいかない魅力的なホップ、Apollo(アポロ)を迎え、その特性を解き明かしていきましょう。高いアルファ酸含有量と、一度嗅いだら忘れられない強烈な個性を持つアロマ。

Apollo(アポロ)は、多くのブルワーを魅了する一方で、時としてその扱いに頭を悩ませる「曲者」でもあります。しかし、その足跡は多様なビールスタイルや醸造手法に確かに刻まれています。さあ、この神の名を冠するホップの特性、歴史、そして醸造現場でのリアルな経験則を深く探求する、知的好奇心を満たす旅に出かけましょう。

本文

ネーミングの由来

ギリシャ神話に登場する神「アポロン (Apollon)」。光明、音楽、芸術、予言、医学、弓術など、実に多才な男神として知られています。「Apollo(アポロ)」というホップの名前は、この高名な神に由来するようです。

ちなみに、かの有名なアポロ宇宙計画も、同じくギリシャ神話のアポロン神が由来とされています。アポロンが光や知識を司る神であることから、人類の新たなフロンティア開拓や科学技術の進歩といったイメージを重ね合わせたのでしょう。NASAの宇宙計画には、他にも神話由来の名前が見られます。

ギリシャ神話に登場する神にまつわる宇宙計画

マーキュリー計画 (Mercury Program)
ローマ神話の伝令神メルクリウス(英語名:マーキュリー)に由来。

ジェミニ計画 (Gemini Program)
ギリシャ神話の双子の神カストルとポルックス(ラテン語名:ゲミニ)に由来。(偶然にも、広く知られるAIの名前と同じですね)

アルテミス計画 (Artemis Program)
ギリシャ神話の月の女神であり、アポロンの双子の妹アルテミスに由来。アポロ計画の後継として、再び人類を月面に送るミッションです。

さて、ホップのネーミングに話を戻しますが、実は「Apollo(アポロ)」ホップの名前の公式な由来は発表されていません。しかし、ここで注目したいのは、ギリシャ神話においてアポロンは最高神ゼウスの息子であるという点です。Apolloホップの親品種の一つが「Zeus(ゼウス)」であることを考えると、育種家がこの神話上の親子関係を意識して命名した可能性は十分に考えられます。(ホップは雌株なので、厳密には「息子」という関係性は当てはまりませんが、命名のインスピレーションとしては非常に興味深いですよね。)

結論として、「Apollo(アポロ)」の名が「Zeus(ゼウス)」に直接由来するという確たる証拠はありません。しかし、神話上の関係性を踏まえれば、間接的な繋がりや影響があった可能性は否定できないでしょう。育種者の真意は謎に包まれたままですが、想像を掻き立てられる、実に興味深い関連性と言えます。

基本(スペックを徹底解剖)

基本スペック

Apolloの基本スペック

アロマとフレーバー
アポロホップの最も際立った特徴の一つが、その複雑怪奇とも言えるアロマ特性です。一般的には、柑橘系、特にグレープフルーツ、ライム、オレンジのような、明るく弾けるような香りが強く感じられ、ビールにフレッシュな印象を与えます。

それだけにとどまらず、松のような樹脂(レジン)の香りや、森林を思わせるウッディなニュアンスも報告されており、ビールの香りに奥行きと複雑さをもたらします。 特筆すべきは、大麻を連想させるような、いわゆる「ダンク」な香りを持つという記述が多く見られる点でしょう。さらに、スパイシーさや土っぽさ(アーシー)を感じるといった意見もあり、その香りの多面性がうかがえます。まさにカメレオンのようなホップです。

しかし、注意点として、特にドライホッピングで使用した場合、「オニオン」のようなオフフレーバー(2M3MB:2-mercapto-3-methyl-1-butanolに由来する)が生じる可能性が指摘されています。後述しますが、ディップホップ製法を使用するとこのオフフレーバーが低減されるという特許製法もあります。

このように、アポロのアロマは、明るい柑橘系から深みのある樹脂、そして強烈なダンクや潜在的なオフフレーバーまで、非常に幅広い表現力を持っています。まさに振り幅が激しい、個性派ホップと言えるでしょう。

苦味の質
アポロホップは、主にビタリング(苦味付け)用途で重宝されます。その理由は、前述のスペック表が示す通り、非常に高いアルファ酸含有量にあります。多くのブルワーは、アポロがもたらす苦味を「クリーン」だと評価しています

これは、アポロのコフムロン含有量が比較的低い(一般的に20-28%程度)ことに起因すると考えられます。コフムロンは、含有量が多いとビールに粗く、やや不快な苦味を与える傾向があるとされていますが、アポロの低いコフムロンレベルは、よりシャープで洗練された苦味の質に貢献していると言えるでしょう。したがって、アポロホップは、ビールにしっかりとした苦味の骨格を与えつつも、その苦味が過度に舌に残ることなく、バランスの取れた仕上がりを期待できるホップと言えます。

α酸・β酸含有量
アポロホップを特徴づけるのは、その高いアルファ酸含有量だけではありません。独特のアロマとフレーバーも相まって、他のホップとは一線を画す存在感を放っています。

その基本スペックをさらに詳しく見ていきましょう。

アポロのアルファ酸含有量は、一般的に15%から19%の範囲で変動しますが、ロットによっては20.5%に達する驚異的な数値も報告されています。アルファ酸はホップの苦味成分の主要な供給源であり、この数値が高いほど、少ない使用量でビールに強い苦味を与えることができます。

ブルワーにとっては、効率的に目標とするIBU(国際苦味単位)を達成できることを意味し、コスト面でもメリットがあります。 また、ベータ酸含有量は5.5%から8%程度、総オイル含有量は0.8から2.5 mL/100gの範囲で報告されており、これらの成分もビールの風味やアロマ、泡持ちなどに影響を与えます。特に、圧倒的なアルファ酸含有量は、アポロが強力なビタリングホップとしての地位を確立する上で、決定的な要素となっています。

用途
アポロホップの最も一般的な用途は、その高いアルファ酸を活かした苦味付け(ビタリング)用途です。煮沸初期に投入することで、効率よくクリーンな苦味を引き出すことができます。

しかし、そのポテンシャルはそれだけではありません。特徴的なアロマプロファイルから、煮沸後期(レイトホッピング)やワールプール、さらにはドライホッピングに使用することで、柑橘系(特にグレープフルーツやライム)、松、樹脂のような複雑なアロマとフレーバーをビールに付与することも可能です。

アポロは、アメリカンIPAやペールエールといった、ホップの個性が前面に出るビアスタイルで特にその真価を発揮します。また、その力強い苦味は、インペリアルスタウトやバーレーワインのような、濃厚な麦芽風味を持つビールにおいて、全体のバランスを引き締める役割も果たします。

このように、アポロは主に苦味付けのエースとして活躍しながらも、投入タイミングや使い方次第で、多様なアロマとフレーバーをもたらすことができる、汎用性の高いデュアルパーパスホップと言えるでしょう。

ただし、ドライホッピングに関しては、前述の通り、オフフレーバーのリスクも考慮に入れる必要があり、ブルワーの腕の見せ所とも言えます。

優れた貯蔵安定性
アポロホップは、その優れた貯蔵安定性を持つことでも知られています。これは、ホップの品質が時間とともにどれだけ維持されるかを示す「Hop Storage Index(HSI)」という指標で評価されます。HSIは、ホップを特定の条件下(例えば、20℃の暗所)で6ヶ月間保管した際に、主成分であるα酸とβ酸がどれだけ減少(酸化・分解)するかを測定したもので、この数値が低いほど、そのホップは酸化劣化しにくく、貯蔵安定性が高いことを意味します。この記事の読者で、ブルワーの方は覚えておいた方が良いかと思います。

多くのホップ品種がある中で、アポロホップはこのHSIが比較的低い(つまり貯蔵性に優れる)品種として評価されています。一般的に、HSIが0.250を下回ると「良好な貯蔵性」とされますが、アポロホップはしばしばそれよりもさらに低い値を示すことが報告されており、トップクラスの貯蔵性を持つホップの一つと言えるでしょう。(具体的なHSI値は収穫年やロットによって変動します。)この優れた貯蔵性は、ホップに含まれる天然の抗酸化物質の組成バランスなどが寄与していると考えられています。

この高い貯蔵安定性は、ブルワーにとって非常に大きなメリットとなります。収穫後も比較的長期間にわたって、ホップの持つ苦味価(α酸)やアロマ特性の一部を良好な状態で維持できるため、在庫管理がしやすく、計画的なホップの使用が可能になります。また、品質劣化のリスクが低いため、醸造スケジュールにおける柔軟性も向上します。

歴史(誕生と進化の物語)

アポロホップは、ホップの世界では比較的新顔の品種であり、その開発には明確な目的と背景が存在します。その誕生秘話から今日に至るまでのストーリーを紐解いていきましょう。

育種背景
アポロホップは2000年に、当時すでに人気を博していた高α酸ホップ「Zeus(ゼウス)」を母株とし、98001系統とUSDA 19058m系統の交配によって生まれた雄株を掛け合わせることで誕生しました。

この交配は、高い苦味価と魅力的なアロマ特性を両立させることを意図して行われたと考えられます。 特に、親であるゼウスは、その高いアルファ酸含有量と強いアロマ(しばしばダンクと表現される)で知られています。また、この育種の過程で、同じく高α酸で知られる「Nugget(ナゲット)」ホップの遺伝子も受け継いでいる可能性が示唆されています。これらの背景から、アポロは、強力なビタリング能力と、複雑で個性的なアロマ(柑橘、樹脂、ダンクなど)を兼ね備えたエリートホップとして設計・開発されたことがうかがえます。

開発者
アポロホップを世に送り出したのは、アメリカの大手ホップサプライヤーであるホップシュタイナー社(Hopsteiner)です。同社は長年にわたりホップの育種・研究開発に注力しており、アポロはその先進的な育種プログラムが生んだ成果の一つと言えます。2000年に最初の交配が行われ、その後、数年間の評価・栽培試験を経て、2006年に商業リリースされました。

リリース以来、アポロはその際立った特性、特に高いアルファ酸とユニークなアロマによって、世界中のブルワリーから注目を集め、広く採用されるようになりました。

評価の変化
リリース当初、アポロはその圧倒的なアルファ酸含有量から、主にビタリングホップとして認識されていました。

しかし、探求心旺盛なブルワーたちが煮沸後期やドライホッピングでの使用を試みる中で、その隠れたアロマとフレーバーのポテンシャルが徐々に明らかになり、近年ではデュアルパーパスホップとしての評価も高まっています。

その評価は、使い方次第で大きく変わる、まさにブルワーの経験と技術が試されるホップと言えるでしょう。

ディップホップ製法での使用例

ホップのアロマとフレーバーを最大限に引き出す新たな手法として注目されているのが「ディップホップ(Dip Hopping)製法」です。これはApolloホップのポテンシャルを語る上で興味深いトピックなので、少し触れておきましょう。

ちなみに、下記の記事は最近(2025年4月)に2年ぶりに再編集(文字数1万字以上加筆)したばかりです。もちろんひどくニッチな内容ですが、ビールに関する知的好奇心がバキバキの方は是非ご覧いただきたいです。

ディップホップ製法の基本的な手順は、専用の容器または発酵タンク内で、熱湯または熱い麦汁の一部(通常65℃~80℃未満)をホップに加え、一定時間(多くの場合、1時間以内)浸漬(Dip/Steep)します。その後、冷却された麦汁の大部分をそのタンクに加え、混合するというものです。

ちなみに、発酵中にドライホッピングを行う「Active Fermentation Dry Hop (AFDH)」としばしば混同されがちですが、ディップホップは発酵前に行う点で異なります。調べてみると非常に奥深く、興味深いテクニックなので、ブルワーの皆さんはぜひ探求してみてください。

話を戻すと、このディップホップ製法を用いることで、通常の煮沸やドライホッピングでは得られにくい、より複雑で豊かな、あるいは繊細なアロマやフレーバーを引き出すことができると期待されています。特に、高温に弱いとされる一部のアロマ成分を効果的に抽出しつつ、不快な香味成分の生成を抑制する効果があるとも言われています。

興味深いことに、日本の大手ブルワリー、スプリングバレー(Spring Valley Brewery)のブルワーとの会話の中で、「Apolloホップをディップホッピングに使用した際に、驚くべきフレーバーが得られた」という事例が報告されています。

そのブルワーは、「Apolloホップ単体では通常考えられないような、非常にユニークで魅力的なフレーバーが、ディップホッピングによって引き出された」と語ったそうです。

具体的な手法としては、おそらく冷却後の麦汁(またはその一部)にApolloホップを投入し、酵母添加前に一定時間浸漬させるというプロセスだったと考えられます。このプロセスにより、ホップ中のテルペンアルコールなどの成分が、通常のワールプールやドライホップとは異なる形で麦汁に溶け込み、独特の香味プロファイルを生み出した可能性があります。

ディップホッピングの正確な化学的メカニズムについては、まだ完全には解明されていませんが、ホップオイル中のミルセンのような揮発しやすい成分の低減や、リナロールやゲラニオールといった好ましいテルペンアルコールの効率的な抽出と変換(バイオトランスフォーメーションの前段階)などが期待されています。

アメリカのGigantic BrewingFair State Brewing Cooperativeなど、他のブルワリーでもディップホッピングは実践されていますが、Apolloホップに特化した詳細な研究データやレシピは、今回の調査では限定的でした。

しかし、Spring Valleyの事例は、アポロホップがディップホッピングという先進的な技術においても、その隠れたポテンシャルを発揮する可能性を強く示唆する、貴重な事例と言えるでしょう。

今後の更なる研究やブルワーたちの実践によって、Apolloホップとディップホッピングの組み合わせに関する知見が深まることが大いに期待されます。

使用例について

アポロホップは、そのリリース以来、多くのブルワーによって様々なビールに使用され、その特性に関する経験的な知識が蓄積されてきました。ここでは、ブルワーたちの評価や使用感に関する情報を紹介します。

アポロホップを使用したビールに関する情報
アポロホップは、シングルホップのAPA(アメリカンペールエール)やIPA(インディアペールエール)をはじめ、様々なビアスタイルで使用されています。実験的なビールにも積極的に採用されており、ブルワーたちがその可能性を探求している様子が伺えます。

▶事例①「The Alchemist HEADY TOPPER」
アメリカ合衆国バーモント州を拠点とする、カルト的な人気を誇るブルワリーThe Alchemist(アルケミスト)。そのフラッグシップであり、クラフトビール界の伝説とも言える「HEADY TOPPER」は、Apolloを使用したビールの代表例の一つです。「缶から直接飲むこと」を推奨する独自のスタイルや、Hazy IPAの潮流を切り開いた存在としても有名ですね。

The Alchemist HEADY TOPPERのラベル

独自の情報源によると、The Alchemistの「HEADY TOPPER」のレシピでは、Apolloがワールプールと1回目と2回目のドライホッピングで使用していると推察されています。これは複数のクローンレシピでも同じようにアポロホップが使用されていることを示唆している点で非常に興味深く思います。しかしながら、これらの情報は公式発表によるものではなく、憶測の域をこえないため、非公式に情報であることを念頭に置きつつ、この銘柄やレシピへの知的好奇心を向ける必要があります。

アポロホップをドライホッピングで使用すると「オニオン」様のオフフレーバーリスクが指摘されます。いくつかのクローンレシピによると、大胆に複数回のドライホッピングでアポロホップが使用されていることに驚きを隠せません。

私自身も「HEADY TOPPER」は何度か飲む機会がありましたが、あの独特なピンクグレープフルーツ感と強烈なダンク(樹脂っぽさや湿った草のようなニュアンス)な印象は、もしかするとApolloホップが重要な役割を担っていたのかもしれません。

あるいは、彼らの卓越したホップハンドリング技術が、ネガティブな側面を抑え込み、ポジティブな特性だけを引き出しているのでしょうか。非常に興味深い事例であり、真偽もについても気になるところです。

パブでしか飲めない時代にトイレで瓶に移し替える人がいたり、南アフリカからプライベートジェットで買いに来た家族がいたり、闇流通したりと、多くのビールファンを夢中にさせ、狂わせたHEADY TOPPERのはなしでした。


事例②「Innovative Brewer THAT'S HOP Polaris & Apolloの魔法」

日本のビールファンなら覚えている方もいるかもしれませんね。
サッポロビール傘下のジャパンプレミアムブリューが2018年4月に発売した限定醸造ビールです。

私にとっては、ブルワーとしてのキャリアをスタートさせた時期と重なり、非常に思い出深い銘柄です。たしか首都圏のファミリーマート限定発売だったため、当時住んでいた会津若松から夜行バスで東京へ遠征し、購入して街中で飲んだ記憶があります。

キリンの「グランドキリン」シリーズしかり、サッポロの「Innovative Brewer」シリーズしかり、この時期の大手ビールメーカーによるクラフトビール市場へのアプローチは、非常にチャレンジングで意欲的なものが多かった印象です。

この「Polaris & Apolloの魔法」について、残念ながら詳細な味わいまでは記憶していませんが、個人的には好印象だったと記憶しています。「アポロホップのグレープフルーツを思わせる香り」という当時の商品説明からも、Apolloの特徴をしっかりと活かした設計だったのかもしれません。大手による採用例としても注目に値します。

サッポロビール(株)の100%子会社であるジャパンプレミアムブリュー(株)は「Innovative Brewer THAT'S HOP Polaris & Apolloの魔法」表面
サッポロビール(株)の100%子会社であるジャパンプレミアムブリュー(株)は「Innovative Brewer THAT'S HOP Polaris & Apolloの魔法」裏面


ブルワーによる評価、使用感などの経験談
多くのブルワーは、アポロホップがもたらす苦味の質を「クリーン」で「滑らか」だと高く評価しています。煮沸後期やワールプールで添加した場合、期待通り柑橘系(特にグレープフルーツやライム)、松、樹脂のようなアロマが得られるという経験談が多数報告されています。

一方で、(重複にはなりますが)やはりドライホッピングでの使用には注意が必要という声も根強くあります。先述のように「オニオン」や「ガーリック」のような硫黄系のオフフレーバーや、過度に「ダンク」な(時に「キャティ=猫のおしっこ」とまで言われる)風味が現れたというネガティブな報告も少なくありません。

これはホップに含まれるチオール類(特に3MHや3MHA、そして2M3MBなど)が原因の一つと考えられます。

しかしながら、The Alchemistの「HEADY TOPPER」のように、これらのネガティブな側面を巧みに回避、あるいは魅力的な個性へと昇華させているブルワリーも存在します。

ロット差(収穫年や畑による違い)、使用量、投入タイミング、他のホップとの組み合わせ、酵母の種類、発酵条件など、様々な要因によって結果が大きく左右される、非常にセンシティブなホップであると言えるでしょう。

対照的な事例として、ドライホップで「青ネギ」「臭いチーズ」「ガソリン」のような強烈なオフフレーバーに遭遇したというブルワーの報告があることも事実です。

これらの多様な経験談は、アポロホップが秘める高いポテンシャルと、その使用における極めて高い技術と繊細なコントロールが要求されることを示唆しています。まさに、ブルワーの腕が試されるホップなのです。

他のホップとの比較
アポロホップは、その出自から、親品種であるZeus(ゼウス)と比較されることがよくあります。Zeusは、しばしばColumbus(コロンバス)やTomahawk(トマホーク)と共に「CTZ」として一括りに扱われますが、近年の遺伝子解析では、Zeusのみが他の2つとは遺伝的に異なることが示されています。

アポロは、苦味の質においてはZeusやCTZ系のホップと類似していますが、アロマプロファイルには微妙な違いが見られます。一般的にアポロの方がより柑橘系のニュアンスが強いとされる一方、Zeus/CTZはよりダンクさやスパイシーさが強調される傾向があります。

また、Magnum(マグナム)やNugget(ナゲット)といった他の高アルファ酸ホップも、ビタリング用途でのアポロの代替として検討されることがあります。これらのホップも同様にクリーンな苦味を提供しますが、アロマ特性はそれぞれ異なります(マグナムは比較的ニュートラル、ナゲットはハーバルやウッディな特徴を持つ)。

最終的にどのホップを選択するかは、目指すビールのスタイルや求める苦味・香味のバランスによって決定されます。

経験則(ブルワーとしての感想)

私自身も、ブルワーとしてアポロホップを使用していた時期があります。主な用途は、やはりその高いα酸を活かしたコスト効率の良いビタリングホップとしてでした。煮沸初期に投入すれば、計算通りにしっかりとしたクリーンな苦味を与えてくれる、頼れる存在でした。

ドライホッピングで使用した経験もありますが、正直なところ、シングルホップで試す勇気はありませんでした。というのも、使用したロットの問題なのか、あるいは私の鼻が過敏だったのか、ビールに投入する前のホップペレットの状態から、既に乾燥したタマネギの皮のような匂いを感じ取ってしまったからです。そのため、他のホップとブレンドして、ごく少量だけアロマにアクセントを加えるような、かなり警戒した使い方をしたのを覚えています。

個人的な見解としては、アポロホップは「このホップでなければ絶対にダメだ」というような、代替不可能な絶対的エースというタイプの品種ではないかもしれません。しかし、その強烈な個性と潜在能力は間違いなく魅力的です。うまく使いこなすことができれば、他のホップでは表現できないような、ユニークで記憶に残る香味をビールに与えることができるはずです。

最近はこのホップを使用する機会に恵まれていませんが、いつか醸造技術をさらに磨き上げ、例えばディップホッピングのようなテクニカルなアプローチで、この「曲者」ホップ、アポロの真のポテンシャルを最大限に引き出してみたい、というブルワーとしての好奇心は尽きません。

まとめ

アポロ(Apollo)を探求して

さて、神の名を冠するホップ、Apollo(アポロ)を巡る我々のディープな探求の旅も、いよいよ佳境です。この記事を通して、アポロが決して単純なキャラクターではない、実に多面的で奥深い存在であることを明らかにしてきましたね。

改めて、その核心を振り返ってみましょう。

  • 圧倒的なα酸含有量(15%~時に20%超え)がもたらす、ビールにしっかりとした骨格を与えるクリーンでシャープな苦味。

  • 変幻自在のアロマプロファイル。グレープフルーツやライムのような爽やかな柑橘香から、松や樹脂を思わせるウッディ/レジンノート、さらには強烈な「ダンク」な特性までをも併せ持つ、まさにカメレオンのようなホップです。

  • そして、HSI(Hop Storage Index)が示すトップクラスの貯蔵安定性。これはブルワーにとって実用的な強みとなります。

しかし、このスペック上の優等生ぶりとは裏腹に、アポロはその「曲者」ぶりも遺憾なく発揮します。特にドライホッピング時に顔を覗かせる「オニオン」や「ガーリック」といったオフフレーバーのリスクは、多くのブルワーを悩ませ、同時にその攻略心を掻き立ててきました。

The Alchemistの「HEADY TOPPER」が示すように、その潜在的なリスクを乗り越え、あるいは逆手に取って唯一無二の傑作を生み出すブルワリーも存在します。これは、アポロが使い手を選ぶホップであり、ブルワーの深い経験と技術、そしてホップへの鋭敏な嗅覚が試される存在であることを雄弁に物語っています。

昨今、日本のクラフトブルワリーの数は目覚ましい勢いで増え(1,000社超えたとか!)、多様なビールが楽しめる素晴らしい時代になりました。一方で、時に「似たようなスタイルが多い」「もっと突き抜けた個性が欲しい」といった声が聞こえてくることもしばしば(私も個人的に、そう感じることがあります)。

画一的な方向性ではなく、ブルワー自身の哲学や、ちょっとした「捻り」や「偏愛」が込められたビールこそ、クラフトビールの真の面白さではないでしょうか。アポロホップのような、扱いは難しいけれども強烈な個性と計り知れないポテンシャルを秘めた「曲者」を使いこなすことは、まさにそうしたチャレンジングなビール造りの一つの象徴と言えるかもしれません。

ブルワーの読者の方はこのアポロという挑戦的な素材、その真価を引き出してみたくなったのではないでしょうか?ぜひ、アポロ手中計画を立ててみてください。

ホップの世界は宇宙のごとく広大で、どこまでも無限に広がっていく。

次はどんなホップを解説しましょうか。

リクエストありましたらメッセージでも、コメントでも頂けるとありがたいです。

後書き

この記事を書いている最中に、「Apollo」と言ったらディップホップ製法のエピソードで登場していたホップだと記憶していたので、ディップホップ製法のことを振り返ってみたら、気づかぬ間に注意が「Apollo」から「ディップホップ製法」になってしまっていました。

結果として「DIP HOP製法が思っていたよりクラフトクラフトしていた件」改め、「Brewing hack「Dip Hop(ディップホップ)製法 (≠ AFDH)」という記事を数日前にリブートしました。良くも悪くもこのように興味と集中が転じやすい…。

注意散漫ですし、よく失敗もしますがご容赦ください。

「失敗しない人は、何も挑戦しない人」だと思っています。

私の敵は私です。

参考文献

・Apollo Hops: Flavor, Pairings, Dosage & Recipes - Beer Analytics

・Apollo Hops - Substitution, Flavor, Aroma [2025] - Beer Maverick

・Apollo Hops - U.S. Grown T-90 Pellets - SoCal Brewing Supply

・Apollo - Explore Different Hops | Hopsteiner | Hop Profiles

・Apollo™ Hops (Pellets) - MoreBeer

・Apollo - Hopslist

・Apollo™ - Charles Faram

https://charlesfaram.com/hop-oracle/apollo/

・Apollo Hops

・Zeus - Explore Different Hops | Hopsteiner | Hop Profiles

・Zeus (CTZ) Hops - Beer Grains


・hop breeding and selection | Craft Beer & Brewing

・The ten year "overnight" success of a new hop - Indie Hops
https://indiehops.com/seed-to-sip-a-new-hop-is-born

・Apollo Creed Cascadian Dark Ale | Beer Recipe - Brewing With Briess

・ギーク過ぎる原料解説HOP Vol.1 Columbus|鈴木栄は黙らない。

・Survivables: Unpacking Hot-Side Hop Flavor - Scott Janish


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