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ギーク過ぎる原料解説HOP Vol.1 Columbus(a.k.a Tomahawk, Zeus)

初公開(2020.11.02)
追記・修正(2024.12.19)
追記・修正(2026.07.01)


前書き

クラフトビールに熱中し始めた2014年頃、日本語で得られる情報は限られていました。Wikipediaレベルの知識を焼き直したような記事が多く、深い情報を求めていた私は物足りなさを感じていました。

しかし、一部の先駆的なブルワーが発信する生きた知識は、私にとって暗闇の中の灯火であり、この魅力的な世界への小さな入り口となりました。

時を経て、今度は私が、これからこの道を志す若い醸造家や熱心な愛好家に向けて、何かしらのヒントを提供できればと考えています。

この記事がどれほどの価値を持つかは分かりませんが、まずは自身のアウトプットとして、そして知識の共有のために続けていきたいと思います。

記念すべき第一回は、コロンバス。名前からして大航海時代の匂いがします。

新大陸を"発見"した男の名を冠したこのホップもまた、その出自を巡って「発見者は誰だ」という争いを繰り広げた——というのは、少し出来すぎた話でしょうか。力強く、個性的で、そして少しばかり厄介。そんなホップです。

本シリーズでは、「基本情報」「アロマ・フレーバー特性」「歴史的背景」「醸造における考察と経験則」という流れで解説を進めていきます。

本文

基本情報

  • 特徴: 一般的にスパイシー(特にブラックペッパー)、大地(アーシー)、柑橘(グレープフルーツの皮)、樹脂(レジン、パイニー)、ハーブ、そして特徴的な「ダンク」な香りと表現されます。パンジェント(刺激的)なニュアンスを持つこともあります。

  • α酸: 14 - 18% (時にそれ以上それ以下になることも)

  • β酸: 4.5 - 6.0%

  • コフムロン: 28 - 35%(α酸に対する割合。数値自体はやや高めに見えますが、総オイルや他成分とのバランスから、苦みの質はクリーンと評価されることが多いです)

  • 総オイル量: 1.5 - 3.5 mL/100g (比較的高く、アロマへの寄与が大きい)

    • 主要オイル成分(参考値):

      • ミルセン: 40 - 55% (柑橘、ハーバル、レジン香に寄与)

      • フムレン: 10 - 18% (ウッディ、スパイシー香)

      • カリオフィレン: 6 - 12% (ウッディ、スパイシー、ペッパー香)

      • ファルネセン: < 1%

  • 用途: 高いα酸値からビタリングに適していますが、その強烈なアロマ特性からアロマホップ、特にドライホップとしても広く使用されるデュアルユースホップです。

アロマ・フレーバー特性

コロンバスの香りは複雑で、使用法によってその表情を大きく変えます。ケトル(煮沸釜)での使用、特に初期の投入では、その高いα酸を活かしたクリーンでシャープな苦みをもたらします。煮沸中の麦汁からは、控えめながらもグレープフルーツの皮のような柑橘香や、ハーバル、アーシー(土っぽい)な香りが立ち上ります。

ホットサイド(煮沸やワールプール)での使用では、しばしば言及されるスパイシーさ(特にコショウのようなニュアンス)は、他の香りに比べて前面に出にくいかもしれません。

しかし、ドライホッピングに用いると、コロンバスはその真骨頂を発揮します。多くの場合、「ダンク」と表現される、湿った土、松脂、あるいはマリファナを連想させるような、強烈で独特なアロマが支配的になります。

このダンクな香りは、ミルセンやカリオフィレンなどのテルペン類に加え、硫黄化合物(チオール類など)の存在が関与している可能性が指摘されています。Scott Janish『The New IPA』でも、ダンク・ガーリック様の香りに硫黄化合物が寄与しうる点が論じられており、単純なテルペンだけでは説明しきれない複雑さがこのホップにはあります。

フレッシュな状態では、このダンクさに柑橘感が伴い、非常に魅力的ですが、時間の経過や酸化により、アッシュ(灰)のようなドライな印象や、時には不快な渋みへと変化する可能性も指摘されています。

歴史的背景

コロンバスには、トマホーク(Tomahawk®)とゼウス(Zeus)という、非常によく似た(あるいは同一とされる)ホップが存在し、これらを総称して CTZと呼ばれます。この背景には、やや複雑な権利関係の歴史があります。

物語の中心人物の一人は、ホップ育種家のチャールズ・"チャーリー"・ジマーマン(Charles "Charlie" Zimmerman)氏です。彼は1970年代にUSDA(米国農務省)のホップ育種プログラムで働いており、その際に後のコロンバスとなる系統を開発したとされています。その後、ジマーマン氏は民間のHopunion社に移り、さらにYakima Chief社(現Yakima Chief Hops)へと移籍します。

問題の発端は、ジマーマン氏がYakima Chief社に移る際、開発中だったホップの遺伝資源を持ち出したとされる点です。苗を。根を。葉を。(詳細は不明ですが)

当時(1980年代半ばまで)は植物新品種の特許保護に関する法律が整備途上で、権利意識も現在ほど高くありませんでした。そういう時代だった、とも言えます。

そしてジマーマン氏が去った後、古巣のHopunion社は「Columbus」として、移籍先のYakima Chief社は「Tomahawk®」として、ほぼ同じホップの特許を出願しようとしました。同じ親から生まれたホップが、別々の名前で世に出ようとしたわけです。

これを"持ち出し"と見るか、"時代のゆるさ"と見るか。判断はお任せします。

ジマーマン氏が去った後、Hopunion社は「Columbus」として、一方、Yakima Chief社に移ったジマーマン氏(あるいは同社)は「Tomahawk®」として、それぞれ同じ、あるいは極めて類似したホップの特許を出願しようとしました。これにより、どちらが正当な権利者であるかを巡る法的な争いが生じましたが、最終的には両社が合意に達し、それぞれが自身の名称で権利を保有することで決着しました。

さらに、Hopsteiner社も非常によく似た品種「Zeus」の特許を取得しました。後のガスクロマトグラフィー分析により、ColumbusとTomahawk®は実質的に同一品種であり、Zeusは遺伝的にはわずかに異なるものの、香味特性は酷似していることが判明しました。このため、これら3つのホップをまとめて「CTZ」という総称が使われるようになりました。

現在では、多くのサプライヤーがこれらを区別せずに、あるいは特定の名称(多くはColumbusまたはCTZ)で販売しています。

コロンバス(CTZ)の正確な系譜については、特許情報が非公開とされている部分もあり、完全には明らかになっていません。母親については、英国品種のブリューワーズ・ゴールド(Brewer's Gold)の系統(おそらく風媒受粉による偶発的な交配)であるという説や、米国のナゲット(Nugget)との関連を指摘する声もありますが、確定的な情報はありません。

CTZを巡る物語は、関係者の記憶違いや立場の違いにより、細部で異なる証言も存在します。もはや真実を完全に明らかにすることは困難かもしれませんが、一つのホップにこれほどドラマチックな歴史が刻まれていること自体が興味深く、今私たちがこのホップを使える奇跡に感謝したいものです。

醸造における考察と経験則

コロンバスは、その強力な個性ゆえに、醸造家にとって挑戦しがいのあるホップと言えるでしょう。

ビタリング
高いα酸値にもかかわらず、クリーンで質の良い苦みをもたらすと評価されています。これは、α酸に対するコフムロンの比率が中程度であることや、他の成分とのバランスによるものと考えられます。「ビタリングホップはどれも同じではない」という近年の研究でも、コロンバスは煮沸によるスパイシーな苦みが出にくい、クリーンな苦みをもたらすタイプに分類されており、私の経験則とも一致します。

私の在籍していたブルワリーでも、多用していたビタリングホップでした。

ところが、ある時期からα酸が著しく低くなった。CTZは近年、収穫年や産地によってα酸のばらつき・低下が指摘されているホップでもあります。これをきっかけに、他のビタリングホップも色々と試すようになりました。「いつものコロンバス」が「いつも通り」とは限らない。ロットごとの数値確認の大切さを、身をもって学んだ出来事です。

West Coast IPAなどのスタイルで、しっかりとした苦みの骨格を作るのに最適です。

アロマ(ホットサイド)
ケトルへの後期投入(レイトホッピング)やワールプールでの使用では、柑橘(グレープフルーツ)、樹脂、ハーバルな香りを付与できます。ただし、その後のドライホップでキャラクターが支配的になることも多いため、ホットサイドでのアロマ寄与をどこまで狙うかは設計次第です。

ドライホップ
コロンバスの真骨頂であり、最も注意が必要な使用法です。

  • ダンクな香り: 強烈なダンク香は、ビールに独特の個性を与えます。特にIPAやペールエールで、そのキャラクターを前面に出したい場合に有効です。

  • 投入量: その強力さゆえ、投入量は慎重に検討する必要があります。少量でも十分なインパクトを与えることが多く、多すぎると他のホップの香りを覆い隠したり、バランスを欠いたりします。初めて使う場合やダンクさを抑えたい場合は、レシピ全体のホップ量の中で控えめな割合から試すことを推奨します。

    ——ここで、ひとつ失敗談を。

    あるとき、ダンクを狙ってコロンバスをたっぷりドライホップしたビールを飲む機会がありました(自分のレシピではないのですが)。結果は、ひどい渋み。ダンクどころではありません。舌に残るドライな収斂感に、正直、驚きました。

    コロンバスは、量を攻めると牙を剥きます。マジで気をつけてください。

  • 香味の変化と渋み: ドライホップで使用した場合、フレッシュな状態では魅力的なダンク&シトラスの香りですが、時間経過や酸化によって、アッシュ(灰)のようなドライさや、不快な渋みに繋がる懸念があります。これは、ホップ由来のポリフェノール類の過抽出や、香味成分の酸化劣化などが原因として考えられます。対策としては、接触時間や温度の管理(低温での短時間接触など)、溶解酸素の低減、ホップの品質管理(鮮度)が重要になります。

  • バイオトランスフォーメーション: 酵母の種類や発酵条件によっては、ホップ中の香味前駆体(特にチオール類)が酵母の酵素作用によって変換され、より強いダンク香やトロピカルなニュアンスを生み出す可能性があります。

個人的な香味の連想(余談)

以前の記事でも触れましたが、コロンバスのペレットを直接嗅ぐと、どこかカレーに使われるスパイス、特にクミンやコリアンダーのようなエキゾチックな香りを連想させることがあります。柑橘感と大地やスパイスのニュアンスが組み合わさることで、そう感じるのかもしれません。ちなみに、個人的に最もカレー欲を刺激されるホップはチヌーク(Chinook)です。実際にビールにカレーのような風味を付与できるかは別問題ですが、こうした香味の連想から新しいビールのアイデアが生まれるかもしれませんね。もし試された方がいれば、ぜひ結果を教えてください!

追記(2025年4月)|ホップもスパイスの1つ?

なんと、この記事の執筆から4年半の歳月が経ち、なんと2025年の4月のエイプリルフールにサンクトガーレンから「カレーは飲み物」というHAZY IPAが発売されました。

アプローチこそ違うものの、イメージに近いものが具現化されて驚きました。サンクトガーレンのエイプリルフールネタはいつも攻めていて面白いですね。コロンバスを使用しているかは定かではありません。

原材料は、麦芽、ホップ、カレー、ラクトース、カレーリーフ、クミン、ターメリック、コリアンダー、カルダモン、シナモン、生姜だそうです。

ちなみに、私は飲めていません…。
カレー風味といったらこのビールも記憶に残っている人もいるはず。

感想をここに記すのはやめておきます。笑
Untappdのレートが物語っていると思いますが、こうした攻めたチャレンジは大好きです。

追記(2026年7月)|四半世紀を超えて、それでもCTZは強い

この記事を書いてから5年以上が経ちました。せっかくなので、コロンバス(CTZ)の"今"を数字で振り返っておきます。

結論から言うと——このホップ、いまだに滅法強いです。

USDA(米国農務省)が2025年12月に発表した最新のNational Hop Reportによると、2025年のアメリカのホップ生産量でCTZは1,080万ポンドを記録し、全品種中トップ。あのCitra(870万ポンド)やMosaic(510万ポンド)を上回っています。 

「ポンド(重量)で全米No.1」。派手なトロピカル系に押されているようでいて、実は生産量の面では今なお王者なのです。

なぜか。理由はシンプルで、CTZが高α酸のビタリングホップだからです。高α酸ゆえに苦味付けやエキス(抽出物)用として使われ、その多くは輸出にも回ります。華やかな香りで勝負するアロマホップとは、そもそも土俵が違う。地味ですが、ビールの苦味の骨格を支える"縁の下の力持ち"として、揺るぎない需要があるわけです。

ただし、無条件に安泰というわけでもありません。CTZの作付面積は、この10年で40%以上も減少しています。2009年のピークには遠く及びません。背景には、貯蔵性の悪さ(Hop Storage Indexが0.40〜0.50と低く、室温6ヶ月でα酸・β酸の約45%しか保持できない)や、うどんこ病・アブラムシ・ダニへの弱さといった、栽培・保管上の難点があります。

私が「一時期からα酸が著しく低くなった」と書いたのも、思えばこうした背景と無縁ではなかったのかもしれません。

さらに構造的な逆風もあります。アメリカのホップ産業全体が、生産過剰と嗜好の変化——ノンアルコールや微アルコール志向の高まりを含む——を受けて、作付けの"適正化"を進めている最中です。オレゴンでは、ホップ棚を引き抜いてヘーゼルナッツ園や苗木栽培に転換する農家も出ています。

それでもCTZは、生産量トップの座を守り続けている。派手さはなくとも、確かな仕事をする。まるで、寡黙な熟練ブルワーのようではありませんか。

——というのは、さすがに贔屓が過ぎるでしょうか。

おわりに

コロンバス(CTZ)は、その力強さと独特の個性で、多くの醸造家を魅了し、時に悩ませるホップです。その歴史を知り、特性を理解し、経験を積み重ねることで、このホップを最大限に活かした素晴らしいビールを生み出すことができるでしょう。この記事が、皆さんのビール造りの一助となれば幸いです。

最初なんで読み切りやすいように短めに意識しましたが、これが第1回目です。どうでしょうか?

励みになりますので良かったら「♡」頂けると嬉しいです。

参考文献

[1] Scott Janish 著/田開清(Kiyoshi Takoi)訳『THE NEW IPA:あたらしいビールスタイルを生んだビールの香りと味わいの科学』(2024)

[2] Chris "The Rise and (Eventual) Fall of the CTZ Hop" Beer Maverick
https://beermaverick.com/the-rise-and-eventual-fall-of-the-ctz-hop/

[3] Yakima Chief Hops "CTZ"
https://www.yakimachief.com/ctz

[4] RahrBSG "CTZ"
https://rahrbsg.ca/

[5] Craft Beer & Brewing "CTZ (hop)"
https://beerandbrewing.com/dictionary/SifxXZ7osw/

[6] USDA National Agricultural Statistics Service "National Hop Report"(2025年12月19日発表)
https://www.usahops.org/img/blog_pdf/505.pdf


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