見出し画像

Brewing hack Vol.1「Dip Hop(ディップホップ)製法 (≠ AFDH)」

この記事は2025年4月11日に「DIP HOP製法が思っていたよりクラフトクラフトしていた件」という旧記事を大幅に再編集したものです。

【旧記事:2023年03月21日】
【再編集:2025年04月11日】


前書き

題名は「節子、それディップホップやない、AFDHや。」にするかで悩みましたが、無難な方を選んでしまいました…。

さて、巷で語られる「DIP HOP(ディップホップ)製法」、その実態は多くの人が思っているものとは少し違うかもしれません。

ビール業界の同業者の方々による「ディップホップ」に関する解説や説明を拝読する中で、核心部分が必ずしも正確に捉えられていないと感じる記述も散見されます。この現状が、ディップホップ製法に対する多くの誤解を生んでいる一因ではないかと考え、この記事を執筆するに至りました。

本稿では、こうした誤解を解き明かし、「ディップホップ製法」の本来の姿、そしてその魅力に迫ることを目的としています。

本文

0. ディップホッピングとは?

従来のホップ投入のタイミングとしては、主に以下の三つのタイミングが知られています。

  1. ケトルホッピング (Kettle Hopping): 麦汁煮沸工程中にホップを添加する手法です。高温下での煮沸により、ホップ中のα酸が効率的に異性化され、ビールの主要な苦味成分であるイソα酸が生成されます。煮沸初期に添加されるホップは主に苦味付け(ビタリング)を目的とします。

  2. レイトホッピング (Late Hopping): 麦汁煮沸工程の終盤、または煮沸終了後のワールプール(麦汁静置)工程中にホップを添加する手法です。ケトルホッピングに比べて熱負荷が低いため、揮発性の高いホップ香気成分の一部を保持しつつ、穏やかな香りを付与することを目的とします。

  3. ドライホッピング (Dry Hopping): 主発酵終了後、または貯酒・熟成工程中の低温下でホップを添加する手法です。熱による香気成分の揮散や変質を最小限に抑え、ホップ由来の華やかで強い香りをビールに直接付与することを目的とします。特に近年のクラフトビール市場で人気のあるIPAなどのスタイルで多用されます。

「ビール発酵液中へのホップ添加がもたらす酵母とホップの相互作用(土屋 友理、太田 拓)」(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan/115/8/115_458/_pdf/-char/ja)より引用

これらの手法は、それぞれ目的とする香味特性に応じて使い分けられてきましたが、特に香気成分に関しては、熱による損失や、ドライホッピングにおける香味の粗さや辛さといった課題も存在しています。

このような背景の中、キリンビール株式会社(以下、キリン)は、ホップの香味特性を最大限に引き出すことを目的とした独自のホップ添加技術を開発しました。

これが「ディップホップ(DIP HOP)」製法、あるいは「ホップアロマ製法」として知られる技術です。この製法は、キリンのホップに関する長年の研究と、原料加工・製造工程における革新的な取り組みの一環として位置づけられています。

ディップホップ製法の基本的な考え方は、麦汁煮沸工程が終了し、麦汁が冷却された後、主発酵が開始される前または主発酵の初期段階で、特定の温度(例えば65℃前後)に管理された麦汁やお湯などにホップを「浸漬(Dip/Steep)」する点にあります。このタイミングと温度管理により、高温による揮発性香気成分の損失を抑制しつつ、ホップ由来の豊かな香り、特にフローラルさやフルーティーさを効率的にビールに付与し、深く複雑な香りの余韻を実現することを目指しています。

1. よくある誤解(AFDHとの違い)

多くのブルワーやビールファンの方々の間で、「ディップホッピング」は単に「発酵前や発酵初期にドライホッピングを行うこと」と解釈されているケースが見受けられます。しかし、これは一般的に海外で「Active Fermentation Dry Hop(AFDH)」と呼ばれる手法であり、キリンが開発し特許を取得している「ディップホッピング」とは、重要な点で異なります

では、キリンが定義する本来のディップホッピングとはどのようなものでしょうか?キリンホールディングスの特許(例: 特開2019-110843)や関連文献を読み解くことで、その核心が見えてきます。

ご自身で理解を深めたい方は、上記のリンクから特許公報をご確認いただくことで、ディップホップについて理解を進められると思います。

私の解釈や説明にご興味をお持ちいただける方は、引き続きお付き合いいただけますと幸いです。

さ、アップデートしよ?

ここから先は

15,147字

¥ 100

Amazon Payで支払うと最大2%還元のチャンス! 9/30まで

こんなニッチでマニアックな記事にチップを送って頂き、ありがとうございます。創作意欲やモチベーションに繋がっています。眠気覚ましのコーヒー代にありがたく使わせて頂きます。