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暗闇で大量の「何か」が降ってきた

「ぎゃーーーーー!!」
真っ暗な山の中で、「何か」が一斉に降ってきた。


子どものころの忘れられない
驚いた思い出がある。


母の実家でのことだ。


母の実家を出て坂を下る。
防火水槽の横を通った先は道は2つに分かれる。



右は、小さなお茶畑へ続く道。
左は、山から染み出したような
小川が流れる少し暗い山道。




その2つの道の真ん中は、
大きな桜の巨木が立っていた。


夏にしか行ったことがないので
桜は見たことがない。


子ども心に10mくらい
あったんじゃないかと思う
桜の大木には、いろんな虫が集まる。


カブトムシにクワガタ。
カナブンにセミ。


セミは、分かっているのか
絶妙に届かない位置に止まり
鳴き声を上げる。


背伸びしても、近くの石を使っても
セミには届かなかった。


昆虫が好きな私の弟。


夜になると、カブトムシとクワガタ探しを
叔父さんに頼みこみ、いそうな場所に
連れて行ってもらっていた。


弟の狙う場所は2つ。
少し離れた場所にある外灯があるポイント。
そしてもう1つが、桜の巨木だった。


ただ、桜の木の近くには外灯はない。
ほぼ暗闇。

外灯がある「ポイント」は、車でないと行けない。

「車で行こう!行こう!」

夜の車移動は
ちょっとした冒険のようだった。


車に乗りこむと車内灯が消える。
もちろん真っ暗だ。


「暗い、暗いぃぃー」


東京だと夜でも明るいのを実感する。
私たち姉弟は、その暗さにビビっていた。


桜の巨木に着くまで、5分もかからない。
坂の下に着くと、叔父さんは車のライトを消した。
カブトムシに気づかれないようにするためだった。

巨木まで真っ暗な道を進む。

「ひぃいぃぃーーー暗いぃぃぃ」
「何も見えない」


車内は大騒ぎだった。


満月ではない夜。
月明りだけでは何も見えなかった。

 ーー りーりーりー
 ーー シャワシャワシャワ


外からは、鈴虫やいろんな虫の声。

道を進むと
桜の巨木らしきものが見えてきた。


桜の木の左側の道は、舗装されていない山道。
いかにも何か出てきそうなほど暗い。
怖くて私はその奥を覗くことが出来なかった。


懐中電灯を片手に車を降りた。
上の方に黒い塊が無数にいるように見える。
弟は暗闇よりカブトムシに期待を寄せ興奮している。

「いそう、いそう!」

その時だった。



  ーーピカッ!!


叔父さんが、車のライトを点けた。



  ーー ボタボタボタボタッ


「ぎゃーーーーーー」
「うわぁぁぁぁ」
「何?なにーー?」



「何か」が、大量に落ちてきた。


いや、落ちてきたというより
大量に降ってきた。


雨ではない。
稲荷寿司くらいの大きさの。
しかも黒っぽくてかたい。


真っ暗闇につけられた車のライト。
まぶしくて私たちもよく分からない。


足元を見ると何かがうごめいている。



「ひぃぃぃ…って、あれ?」


誰か、その正体に気がついた。



「これって、セミ?」


よく見ると大量のセミが落ちている。
30匹はいたと思う。


セミが車のライトにびっくりして
一気に落ちてきたのだった。


昼間、あれだけ必死で手を伸ばしても
捕まえられなかったセミ。


落ちたセミはビックリしているのか
手でも捕まえられた。


でも、セミは網で捕まえるからロマンがある。


落ちた彼らセミたちを端に寄せ、
本命のカブトムシを探したが、
残念なことに1匹もいなかった。


いたのは大量に落ちたセミとカナブン。
あとハチだけだった。


桜の木ですやすや寝ていたセミたち。
まさか、ライトを当てられるとは思わなかっただろう。


私もセミが大量に降ってくる体験をしたのは
人生でこの時だけだ。


もう1回あの体験をしたいと思った。
残念ながら、桜の巨木はもうない。

また弟たちと、あの驚きを体験してみたい。

久しぶりに訪れたら、切り株になっていた。



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