どうしても、あの薪に火をつけたかった。
私の母の実家。
引っ越す前の家は山の奥の方にあった。
私は母の実家が大好きだった。
縁側もあり、のんびりと寝転がる。
カナカナ カナカナ…
さわさわさわさわ
夕方になると聞こえてくる、
ひぐらしの声と木々の擦れる音。
夜は、星が降ってくるようだった。
表玄関は100cmくらい高くなっていた。
その下は収納になっていたので、
必死になってよじ登った記憶がある。
中でも1番好きだったのは、お風呂。
五右衛門風呂だったのだ。
最初はどうやって入っていいかわからず、
困った記憶がある。
蓋をひっくり返して踏んで入るなんて、
想像がつかなかったし、面白かった。
おじいちゃんは
「周りに当たると熱いからね」
と、よく言っていた。
母の実家でおじいちゃんとお風呂に入ると
タオルに空気を入れて、ぶくぶくさせて遊んだり
しりとりをしていた。
少し大きくなると、
五右衛門風呂の火の番が
私の楽しみになった。
薪を入れ、ちゃんと火がつくと、達成感があった。
棒で書き回しすぎてもいけない。
かといって、少なすぎたら火が消えてしまう。
なかなか調整が難しい。
別々にお風呂に入るようになった頃。
時間があれば、五右衛門風呂の火の世話をしていた。
ぬるくなってくると、薪を入れなくてはいけない。
でも、叔父さんはぬるめが好きだから
薪を入れるチャンスはない。
私の狙いはいつも「おじいちゃん」だった。
おじいちゃんは熱いお風呂が好き。
おじいちゃんが入っているときは、ビッグチャンス!
頼まれてもいないのに、お風呂の外に行っては
「まきを入れる?」と、しつこく聞く。
カラッ
木で出来た小窓が開いた。
『おーい!薪を入れてくれ』
(待ってましたーーー!)
(薪を入れることができる!)
(あ、薪‥‥)
目の前にあったのは、
すごく大きい薪と小さい薪。
達成感があるのは絶対的に大きい方だ。
アイツは、なかなか点かないのを私は知っている。
あの大物をやりたい。
でも、あの大物は確実に熱くなる。
でも、あのサイズは中々ない。
「へへへ」
えいっ!
好奇心が勝ち、大物を入れた。
でも、なかなか燃えない。
燃えないから小さい薪を入れて、
大物のアイツの近くに置いていく。
(‥‥‥)
炉の中はオレンジ色に輝いているのに
アイツはビクともせず茶色いまま。
なかなか燃える様子がない。
(もう少し小さい薪で
周りを固めるしかない)
「なんか熱いなー、もういいぞぉー」
おじいちゃんは、そう言っていた。
(わかってる。)
(でも、あの大物に
どうしても火をつけたい。)
目的は火の番ではなくなっていた。
おじいちゃんが熱いと
言っているのを無視して、
ラスト1本、小さい薪を入れた。
少ししてやっと、大物の周りがオレンジになり
火がつき始めた。
(いぃ、よっしゃーー!)
ものすごい達成感だった。
あの大物に火をつけてやった。
少しして、おじいちゃんがお風呂から出てきた。
『ろくねこ、今日のお風呂は暑かったのー』
ごめん、おじいちゃん。
どうしても、こいつに火をつけたかった
と、説明した。
『おぉぉ、これはまた、でかいなぁー』
『しばらくお風呂入れないぞー』
(…!!!)
そう言われて、はっとした。
そうだった。
その後は
私たちがお風呂に入る順番だった…
やってしまった…
「あ、あつっ!」
「熱い、熱いよう…」
後悔しながらお風呂に入ったのは
言うまでもない。

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