読み手の“感情”と“行動”をロジカルに設計する、Lipple流・行動変容ライティング
「商品は間違いなく良いはずなのに、なぜか売れない」
「競合他社より性能は高いはずなのに、なぜか選ばれない」
経営者の方や事業責任者の方とお話ししていると、業種を問わず、こうした“歯痒さ”を耳にすることがよくあります。
目の前で熱心に商品の説明を受ければ、私自身も「こんなに素晴らしい技術があるのか」「なんて誠実なものづくりなんだろう」と感動することばかりです。
しかし、その熱量がウェブサイトやパンフレットの文章になった途端、なぜか「伝わらない」ものになってしまう。
対面なら伝わるはずの情熱がテキストになった瞬間に、単なる「無機質なデータ」や「説明書き」に変わってしまうのです。
多くの企業は、ここで「もっと広告費をかけよう」「もっと露出を増やそう」と考えがちです。
ですが少し厳しいことを言わせていただくと、どれだけ広告費をかけて「説明書き」を多くの人に配っても、人の心は動きません。
問題の本質は「露出の量」ではなく、その手前にある「何のために書くのか」という根本的なスタンスにズレがあるのです。
今回は、なぜ“良い商品”ほど文章にすると魅力を失ってしまうのか。
そして私自身が読み手の心を動かすために意識している「シンパシー(共感)」と「エンパシー(想像力)」という、ふたつの心理メカニズムについてお話します。
最適なソリューションやテクノロジーを知るだけでは、課題解決や目的達成ができるとは限りません。実践的に活用できる「リテラシー」をnote記事にして提供していきます。
株式会社Lipple 取締役 根本

「説明」と「説得」は違う。
そもそも、なぜ私たちはビジネスにおいて文章を書くのでしょうか。
「商品の特徴を伝えるため」
「会社の情報を掲載するため」
そう答える方が多いかもしれません。
もちろん間違いではありませんが、それは手段であって目的ではありません。
ビジネスにおけるライティングの真の目的・・・
それは「読み手の行動を変えること」にあります。
・「ふーん、すごいね」で終わらせず「欲しい!」と思って購入ボタンを押してもらう
・「便利そうだね」で終わらせず、「これがないと困る!」と思って問い合わせてもらう。
この“行動変容”こそがゴールです。
しかし多くの企業サイトの文章を見ていると、ここを履き違えてしまっているケースが多く見受けられます。
「伝えたいこと(自社の魅力)」を書くことがゴールになってしまっているのです。
■ 最高級の椅子を、あなたならどう売りますか?
例えばあなたが、機能性に優れた最高級のオフィスチェアを販売しているとします。
もしも目的意識が「魅力の説明」にあると、文章はこうなりがちです。
「弊社が開発した新素材メッシュを使用し、座面には5層構造のウレタンを採用。人間工学に基づいた3Dアームレストは上下左右に可動し、リクライニングは135度まで可能です」
これは正しい情報ですが、単なる“スペックの羅列”にすぎません。
これを読んだ人は「高機能なんだな」とは思うかもしれませんが「今すぐ買わなければ」とはなりません。
なぜなら、そこには“自分にとってどういいのか”が書かれていないからです。
一方、目的意識を「相手に買いたいと思わせる」にセットすると、書くべき内容はガラリと変わります。
「夕方になっても腰の重みを感じない。長時間のデスクワークが“苦行”から“集中できる時間”に変わります。仕事が終わった後のビールがおいしく感じるほどの軽やかさを、あなたの腰に・・・」
前者は「商品のこと」を語っていますが、後者は「商品を使った後の読み手の未来」を語っています。
ライティングを行う際、私が意識しているのは「必要なのは、商品の魅力を伝えることではなく、どうしたら相手が買いたいと思ってもらえるかを考えること」です。
自分自身が伝えたいこと(機能・スペック)は、一旦脇に置いてみる。
読み手が求めているのは“情報”ではなく、その情報によって得られる「解決」や「感情」なのです。
読み手の心を動かす「共感」の正体
では、テキストを使って読み手の行動を促すには、どうすればいいのでしょうか。
その鍵となるのが“共感”です。
「この商品は、私のためにある」
「この会社は、私のことを分かってくれている」
そう感じた瞬間、人は理屈を超えて行動します。
ビジネスやマーケティングの文脈では、この“共感”をさらに解像度高く分解してとらえる必要があります。
英語には「シンパシー(Sympathy)」と「エンパシー(Empathy)」という“共感”を表すふたつの言葉があって・・・
① シンパシー(Sympathy)
感情の共有・同調
「わかるわかる」
「うれしい」
「かわいそう」
自分以外の誰かの感情に触れて、同じように心が動くこと。ライティングにおける最終ゴールは「そうそう、私もそこで悩んでたの!」「まさにこれが欲しかったの!」と、読み手にこの「シンパシー」を感じてもらうことにあります。
② エンパシー(Empathy)
知的・能動的な想像力
エンパシーは「能力」です。
自分とは違う立場、違う考えを持つ相手に対して「もし自分が相手の立場だったらどう感じるか?」を想像し、理解しようとする知的なプロセス。相手の靴を履いて、相手の視界から世界を見ようとする努力のことです。
双方の違いを理解しているかどうかが、売れる文章と売れない文章の大きな分かれ道になります。
書き手に必要なのは「エンパシー」
多くの企業が陥りがちな失敗は、書き手である企業側が読み手に対して「シンパシー(同調)」を求めてしまうことです。
「私たちはこんなに苦労して開発しました!(だから感動して)」
「私たちの理念はこんなに崇高です!(だから賛同して)」
「この機能は世界初です!(だからすごいと思って)」
これは「僕のことを見て!僕の気持ちを分かって!」と叫んでいる子どもと同じで・・・
書き手が自分の感情に浸ってしまっていて、読み手は置いてけぼりになってしまいます。
これでは、読み手の心に“シンパシー(共感)”は生まれません。
つまりライティングをする書き手側に絶対的に必要になるのは、他者を想像して理解する“エンパシー”なのです。
【実践編】どちらの言葉が刺さる?エンパシー診断クイズ
どちらも決して「悪い文章」ではありません。
しかし、“エンパシー(想像力)の深さ”が決定的に違います。
あなたが読み手の立場なら、A、Bどちらの文章のほうが心に刺さりますか?
Q1. 重さ800gの「最新モバイルPC」
A:「驚異の800gを実現。バッテリーは最大20時間持続。どんな場所でも最高のパフォーマンスを発揮できる、プロフェッショナルのための1台です。」
B:「カフェで充電席を探して彷徨う時間は、もう終わりにしましょう。あなたのバッグに入っていることすら忘れる軽さが、どこでも“集中できる書斎”に変えます。」
Q2. 工場スタッフ向けの「高機能ユニフォーム」
A:「耐久性と伸縮性を兼ね備えた新素材を採用。企業のブランドイメージを向上させ、働くスタッフの快適な作業をサポートします。」
B:「袖を通した瞬間、背筋が伸びる。これは単なる作業着ではありません。スタッフが“ここで働けてよかった”と誇りを持てる、一番身近な福利厚生です。」
いかがでしたか?
実はエンパシーが効いていたのは、どちらも「B」です。
Aは「機能や正論」で説得しています。
Bは「日頃の悩みや自尊心」を刺激しています。
“機能”を語れば、読み手は“比較”を始めます。
しかし、言葉にできない“本音”を言い当てれば、読み手は“信頼”してくれます。
そうやって「ていねいに整えられた」文章を読んだとき、初めて読み手は「あ、この人たちは私のことを分かってくれている」と感じます。
「共感を呼ぶ文章」とは感情的な文章ではなく、書き手が極めて論理的に、“相手の感情を計算し尽くして設計した文章”のことなのです。
戦略的なターゲット設定は、こちらの記事もヒントになるかもしれません。↓
あなたの商品を、顧客の人生の「主役」にしてはいけない
エンパシーを持って文章を書くとき、わかりやすい指針となる「たとえ話」として、よくゲームの「スーパーマリオブラザーズ」で伝えるのですが・・・
お客さまの人生がスーパーマリオブラザーズだとすると、あなたの商品やサービスは、このゲームにおける何に当たるでしょうか?
多くの企業は、自社の商品こそが“主役”かのように語ってしまいがちです。
しかし“お客さまの人生”という物語において、主役はあくまでお客さま自身。
つまりマリオが冒険の途中で手に入れる「スター」というあなたの商品の魅力を伝えるのではなく、その商品を使ったマリオの変化を伝えるべきなのです。
・「商品(スター)」を主役にした伝え方
「見てください! このスターはすごいんです! 光沢のある黄色いボディ、鋭角な5つの先端、そして10秒間も輝き続ける持続性。 当社の技術の結晶である、素晴らしいスターなのです!」
→ これを聞いたお客さま(マリオ)はこう思います。「へえ、すごい星だね。(で、それが僕の冒険にどう役に立つの?)」
・「顧客(マリオ)」を主役にした伝え方
「このスターを取れば、あなたは無敵になれます。今まで怖かったクリボー敵に当たっても平気だし、穴に落ちても大丈夫。ピーチ姫(目的)を救うための最短ルートを走れるようになりますよ」
→ お客さまは、「まさにそれが必要だった!」とスターを手に取ります。
エンパシーを発揮するとは「どうすればお客さまがもっと活躍できるか?」を考えることです。
スターの持つスペック(色や形)を自慢することではありません。
「これを使えば、あなたはもっと強くなれる」
「もっと楽になれる」
「もっとステキになれる」
と、主役であるお客さまの“変身後の未来”を見せてあげること。
これだけで、伝わり方は劇的に変わります。
経営資産として「設計」する
「エンパシー(想像力)が大事なのはわかった。
でも具体的にどう書けばいいのか?」
そう思われた方のために、私がいつも実践している思考フレームをご紹介します。
それが「事実(Fact)→ 利点(Merit)→ 未来(Benefit)」の3段階デザインです。
多くの企業は、1段階目の「事実」で止まっていることが多いです。
少し気が利く企業は、2段階目の「利点」まで書きます。
しかし読み手の心を動かし、行動させるのは3段階目の「未来」だけです。
具体例で見てみましょう。
例えば、あなたが「3万円のノイズキャンセリング・イヤホン」を販売しているとします。
① 事実:企業視点のスペック
「業界最高クラスの騒音低減技術(-40dB)を搭載しています」
(読者の反応)「へえ、性能がいいんだね。(で?)」
② 利点:機能的なメリット
「周囲の雑音を強力に遮断するので、静かな環境で音楽を楽しめます」
(読者の反応)「なるほど、それは便利だね。(でも今のイヤホンでも十分かな)」
③ 未来:読者の人生における変化(エンパシー)
「新幹線の中でも、カフェでも。装着した瞬間に、そこはあなただけの“プライベートルーム”に変わります。雑音を消して、思考を経営戦略だけに集中させる時間を買ってください」
(読者の反応)「それ!まさに移動中の騒音に悩んでたんだ。この集中力が手に入るなら安い投資だ!」
「ノイズカット機能」という事実はどれも変わりません。
しかし、それをどうデザインし直すかで、受け取る印象は劇的に変わります。
このチューニングを行うために必要なのが、先ほどからお伝えしているエンパシー。
「このイヤホンを買う人は、音楽を聴きたいんじゃない」
「移動中や出先でも、誰にも邪魔されずに考え事をしたいはずだ」
そこまで想像できて初めて「‐40db」という数字が「あなたの思考を守る防壁」という言葉に変わるのです。
一度、フラットな目線で自社のウェブサイトを見返してみると、意外と「事実」や「利点」の説明だけで止まってしまっている箇所が見つかると思います。
その先に、読者が本当に求めている「より良い未来」を描くことができれば、お客さまの反応は間違いなく変わるでしょう。
ライティングの目的は“説明”ではなく、読み手の“行動”を変えること。
そして、読み手に“共感”してもらうためには、書き手が徹底的な“想像力”を持つこと。
もし、あなたの商品が「自信があるのに売れない」としたら・・・
それは商品そのものの問題ではなく、その商品がお客さまの人生において「どんな意味を持つのか」という設計が、ほんの少しうまくいっていないだけなのかもしれません。
その「設計」の土台となる、自社のスタンス(誰に何を届けるか)を再構築する手順については、こちらの記事で解説しています。↓
カメラのレンズを「自分たち(商品)」から「相手(お客さま)」へ、くるりと向けてみる。
たったそれだけで、そこから見える景色も紡ぎ出される言葉も、驚くほど変わるはずです。
小さな視点の転換が、今まで出会えなかったお客さまとあなたを繋ぐ一番の近道になり、商品との出会いが待ち望んでいる誰かのもとへ正しく届くことを願っています。
それではまた。

