第30話 | いつかこれがペンでなくなる日が来るなんて
第30話 轍の行方 | いつかこれがペンでなくなる日が来るなんて
拓実と優花は、智之から少し離れた木の根元で、静かにその背中を見つめていた。
日の光がベンチをオレンジ色に染める。智之が走らせる緑色の万年筆の先が、時折キラリと光る。智之は迷うことなく、一気に言葉を綴っているようだ。
しばらくして、智之が立ち上がり、2人を呼び寄せた。
「書けたよ。2人に一緒に読んでもらいたい。一通しか書いていないから」
智之から手渡されたのは、緑色のインクで丁寧に書かれた一通の手紙だった。
『優花、手紙ありがとう。でも、その返事は「ごめん」だ。実は俺、サッカー部のマネージャーと付き合い始めたんだ。それにさ、優花。お前が本当に手紙を書くべき相手は、俺じゃないだろ?
俺はずっと、お前たちと一緒に、隣で隊員をしながら、羨ましいと思ってたんだよね。
ほら、ロケットを合体させるきっかけになったあの時。怪我をした拓実の手を引いて水道へ連れて行ったときの優花。あの時の2人は、誰にも入り込めないくらい、最高にお似合いだったよ。
優花が万年筆で「好き」と書いたとき、それは本当は拓実への想いだったんじゃないかな?』
読み終えた優花の手が、小さく震えた。便箋を見つめたまま、優花の瞳から一粒の涙が流れた。そして、智之の綴った緑の文字の上に落ちた。
「私、なにやってたんだろう」
優花は自嘲気味に、でもどこか憑き物が落ちたような顔で呟いた。
「智之くんに憧れてるんだと思ってた。でも、私がずっと、この万年筆で一番伝えたかったのは、本当は…」
優花はゆっくりと顔を上げて、隣りで一緒に手紙を読んだ拓実を見つめた。
3年間、バラバラになったロケットの破片を一緒に拾い集め、夢を共有し、ボロボロになった黒いペンをロケットにして愛でてきた日々。その中心には、いつも拓実がいた。
「智之。お前、ほんと余計なことばっかり言うなよ。嬉しいけど。」
拓実は照れながら、智之への深い感謝の気持ちでいっぱいだった。
「あはは、親友の特権だよ。じゃあ、俺はもう行くわ。マネージャーが待ってるんだ。俺は今、彼女にも恵まれてるし。その上、何よりも、目の前に、掛け替えのない親友が2人もいるんだから」
智之は緑色の万年筆を胸のポケットに深く差し込み、満足げに笑って手を振った。
「拓実、優花。そのペンで、これからの続きをしっかり書けよ!2人一緒に!」
智之の背中が遠ざかっていった。拓実は、優花の震える手をそっと包み込んだ。
「優花。また、新しく書こう。これからのことを」
「それよりも前に、私の今の気持ちを確かめなくていいの?」
そういうと、優花は拓実に駆け寄った。次の瞬間、優花の口唇は、拓実の口唇と重なっていた。
…つづく

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