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第29話 | いつかこれがペンでなくなる日が来るなんて




第29話 未完の告白 | いつかこれがペンでなくなる日が来るなんて


 拓実は封筒を差し出した。ただ「優花へ」とだけ記されていた。万年筆の黒いインクが、白い紙に深く鋭く刻まれていた。

「拓実くん、それ、なに?」
 優花の声が微かに震えた。

「俺が、この前会った時の夜に書いたラブレターだよ。これを読んでほしい。俺ならこう書く、っていう答えが、全部ここにあるから」

 拓実は、手紙を優花に手渡した。
 智之は黙ってそれを見つめていた。親友の拓実は優花への思いをどう書いたのだろう?

 優花は震える指で封から便箋を取り出し、広げた。
 そこには、かつてロケットの破片を拾い集めていた頃のような、不器用だけれど、真っ直ぐな拓実の言葉が並んでいた。

 「好きだ」という言葉を、拓実が何十回も書き直した跡があった。インクが滲み、紙が波打っている箇所は、彼がどれほどの時間をかけてこのペンと向き合ったかを物語っていた。

 読み終えた優花の瞳から、一涙がこぼれた。便箋に落ちた。

 インクの文字は、涙に濡れ手て、淡い輪を作って広がった。

「ごめんね、拓実くん。私、最低だね」
「違うよ、優花。お前は自分の気持ちに正直なだけだ。智之だって、自分の気持ちがわからないから書けないんじゃない。優花と俺のことを大切に思ってるから、書けないだけだろ?」

 拓実は智之の肩を叩いた。
「智之。お前も優花のことが好きなら、俺に気なんて使うな。でも、もしそうじゃないなら、その緑のペンで、お前自身の言葉を綴れよ。万年筆は、嘘をつけない道具なんだから」

 智之はしばらく考えたあと、こう言った。

「わかった。じゃあ、今、ここで書いてもいいか?」
 どちらからと言うことなく、拓実と優花は目を合わせた。そして、2人とも、智之を見つめて頷いた。

「じゃあ、今から書くから、その間、2人とも少し離れていてもらえるかな?」



…つづく





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山根あきら | 哲学者 記事を読んで頂き、ありがとうございます。お気持ちにお応えられるように、つとめて参ります。今後ともよろしくお願いいたします