見出し画像

8月のPFAS情報まとめ|「74%が知らない」月に、87人中59人が指標値を超えた

8月に、二つの数字が発表されました。

ひとつは8月24日。ある調査会社が全国の消費者に聞いたところ、PFASについて「まったく知らない」と答えた人が74.0%でした。

もうひとつは8月31日。京都府宇治市で、住民87人が血液検査を受けた結果、59人が米国の学術機関が示す指標値を超えていました。

同じ月の、9日ちがいの数字です。

片方では、4人に3人がこの言葉を知らない。もう片方では、検査を受けた人の3人に2人が指標値を超えている。この二つが並んでいることが、いまのPFASという問題の形を、たぶんいちばん正確に表しています。

今月も、8月に起きたことを整理しておきます。


日本で起きたこと

8月6日|環境省、汚染土壌の対策技術2件を採択

環境省が進めているPFOS等の濃度低減のための実証事業で、二次公募の結果が公表されました。6件の応募から2件が採択されています。

  • 前田建設工業(共同提案:ボルクレイ・ジャパン)/ベントナイト系材料による汚染土壌の固定化

  • 太平洋セメント(共同提案:太平洋コンサルタント)/含有土壌のセメント資源化と品質評価

注目したいのは、二次公募の採択がどちらも土壌だったことです。一次公募は水処理系が中心でした。水道水の基準が今年4月に施行され、水のほうに一区切りついたところで、論点が土壌に移りはじめている。実証事業の採択リストは、行政がいま何を優先しているかがいちばん素直に出る資料です。

固定化とセメント資源化という組み合わせも示唆的です。どちらも「分解」ではなく、動かないようにする、あるいは別の形に閉じ込める技術です。汚染された土をどうするかという問題に、いま現実的に取りうる選択肢が並んだ、という見方ができます。

8月4日|超音波でPFASを分解、水質基準値をクリア

日立ハイテクと韓国のFUST Lab社が、環境省の実証事業のなかで、超音波分解装置によるPFAS分解技術を検証した結果を公表しました。長鎖PFASを主体に短鎖を含む実際の汚染水を処理し、PFOSとPFOAの合計濃度を50ng/L以下まで下げています。

これは「除去」ではなく「分解」です。活性炭で吸着する方法は確立されていますが、PFASを吸った活性炭そのものが行き場を失うという問題が残ります。分解できれば、その先送りが要らなくなる。ラボスケールの実証という段階ではありますが、意味のある一歩です。

(この件は改めて企業シリーズで詳しく書きます)

8月24日|「まったく知らない」74.0%

冒頭の数字です。同じ調査で、メーカーの環境問題への取り組みに「期待する」と答えた人は67.0%でした。

同じ会社が5月に行った別の調査では、PFASという言葉を「全く聞いたことがない」人が77.8%、「内容も知っている」人は5.0%でした。

水道水の検査が義務化された年です。それでも、認知はほとんど動いていません。

8月31日|宇治市で、87人中59人

京都府宇治市で診療所を運営する医療生協が、住民87人の血液検査の結果を公表しました。59人が、米国科学・工学・医学アカデミーが「健康への影響のリスクが高まる可能性がある」とする血中濃度20ng/mLを超えていました。府に対し、汚染源の特定と除染を求める要望書が提出されています。

岡山県吉備中央町、東京・多摩地域、大阪府摂津市に続く動きです。共通しているのは、いずれも行政ではなく、住民や民間の医療機関が自分たちで検査を始めているという点です。


世界で起きたこと

8月12日|EUで、世界初の「食品包装のPFAS規制」が発効

たぶん、8月にいちばん実務を動かした出来事です。

EUの包装・包装廃棄物規則(PPWR)の第5条が適用開始となり、食品と接触する包装に含まれるPFASについて、法的拘束力のある濃度上限が世界で初めて発効しました。個別の非ポリマーPFASで25ppb、その合計で250ppb、ポリマーを含む総フッ素で50ppm。しかも移行措置がなく、製造日を問わず、この日以降は非適合の包装をEU市場に出せません。

これは、PFAS規制の重心が動いたことを示しています。これまで規制の中心は「環境中にどれだけあるか」でした。それが「製品にどれだけ入っているか」に移り、しかも入っていないことを企業が証明する義務に変わった。

日本の食品メーカーや包装資材メーカーで、EUに出荷している企業は、すでに対応が必要な状態にあります。

(この件は公式サイトのほうで実務向けに詳しく書きました)

8月7日|ニュージャージー州、約25億ドルの和解が承認

米国の連邦地裁が、ニュージャージー州がデュポン系企業(EIDP、ケマーズ、コルテバほか)および3Mと結んだ和解を承認しました。デュポン系は25年間で8億7,500万ドルの支払いに加え、12億ドルの浄化基金。3Mは4億〜4億5,000万ドル。合計で約25億ドル、単一の州が獲得した環境和解としては史上最大です。

判決文で、担当判事はこの和解が州の人々にとって「世代を超えた利益」になると述べています。25年という支払期間は、この問題の時間軸そのものです。

3Mは声明のなかで、昨年PFAS製造から完全に撤退したことに触れました。作るのをやめても、過去に作った分の清算は25年続く。それがこの物質の性質です。

一方で、米国の規制は止まっています

EPAが5月に出した2本の規則案——PFOAとPFOSの遵守期限を2029年から2031年へ延長する案と、PFHxS・PFNA・GenXなどの飲料水規制を撤回する案——は、7月20日にパブリックコメントが締め切られたまま、8月中に最終化されませんでした。

司法は動き、行政は止まっている。米国のPFASはいま、そういう状態です。


二つの数字のあいだにあるもの

冒頭に戻ります。

74%が知らない。87人中59人が超えている。

このギャップを「知らないほうが悪い」とは思いません。PFASは、知ろうとしても入り口が見つけにくい問題です。

水道水の基準、環境基準、化審法、EUの規則、米国の州法。関係する制度が多すぎて、しかもそれぞれ数字の単位も対象も違う。ng/Lとng/mLとppbとppmが同じ記事に出てきます。健康影響の話は、確からしさの度合いが物質ごとに違う。「発がん性がある」と言い切れるものと、「関連が示唆されている」までのものが混在しています。

そのうえ、伝えられ方が両極になりがちです。「危険だ」か「大丈夫だ」か。実際に必要なのは、その中間にある「どの程度、どういう順序で気にすればいいのか」という情報のはずですが、それがいちばん流通していません。

宇治市で検査を受けた87人は、たぶん、その中間の情報を求めて自分で動いた人たちです。行政が測ってくれるのを待たずに、自分たちで採血をした。その結果を持って要望書を出した。

一方で、同じ月に74%の人が「まったく知らない」と答えている。

この二つは矛盾していません。関心を持った人にとっては切実で、そうでない人にとっては存在しない。それがいまのPFASです。そしておそらく、切実になるかどうかは、住んでいる場所や仕事によってほとんど決まってしまう。

8月に起きたことを並べてみると、制度のほうは着実に進んでいることがわかります。EUは製品規制に踏み込み、米国は25年の清算を始め、日本では土壌の対策技術が実証段階に入りました。

進んでいないのは、それを「自分の話」として受け取れる人の数のほうです。

来月も、また整理します。


※本記事は、2026年8月1日〜31日に公表された情報をもとに、2026年9月時点で一般向けに整理したものです。制度や数値は今後変わる可能性があります。血液検査の指標値は日本の法的基準ではなく、健康影響そのものを直接示すものでもありません。最新情報は、環境省、EPA、EU、自治体などの一次情報でご確認ください。

あわせて読みたい

PFAS規制は製造業にどこまで影響するのか。2026年秋に確認したい4つのこと

PFAS対策、何から始めればいいのか|中小製造業の5ステップ

いいなと思ったら応援しよう!