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無料で一度来てもらった人を、どうすれば二度目の有料観戦へつなげられるのだろうか|無料招待について考える②

拙著『Jリーグ交通経済論』と、スタジアム観戦から生まれた問い。

前回の記事では、Jリーグの無料招待について考えた。

Jリーグ自身は、大規模招待を単なる「ばらまき」ではなく、新しいファンに観戦を体験してもらう「サンプリング」と位置づけている。

2025シーズンには、招待施策などへの延べ応募数が約282万件に達し、新規JリーグIDを約14万6000件獲得した。そして、新規来場者のリピート率は30%を超えたという。(Jリーグについて)

これはかなり重要な数字だと思う。

無料で来た人が、全員一度きりで終わっているわけではない。

一方で、この数字だけで、

無料招待は成功している。

と結論づけるのも早い。

「再来場」と「有料観戦」は同じではないからである。

私が無料招待について最も知りたいのは、その先だ。

無料で一度来てもらった人を、どうすれば二度目は自分のお金で来てもらえるのだろうか。

おそらく無料招待の本当の勝負は、ここにある。

無料チケットの役割は、「一回目」をつくること

そもそも、サッカーにそれほど関心のない人にとって、初めてスタジアムへ行くハードルは意外と高い。

チケットはいくらなのか。

どの席を買えばいいのか。

何時に行けばいいのか。

服装はどうするのか。

ゴール裏は怖くないのか。

子どもを連れて行って大丈夫なのか。

雨が降ったらどうするのか。

帰りの電車は混まないのか。

そして何より、

数千円払ってまで行くほど楽しいのか分からない。

ここが大きい。

一度も経験したことのないものに、お金と時間を使うのは難しい。

だから無料招待によって、最初のハードルを下げる。

Jリーグ自身も、招待を将来的な有料チケット、ファンクラブ、シーズンシートなどにつなげていくロードマップの中で、「観戦1回目のハードルを下げる」ものとして設計している。(Jリーグについて)

だとすれば、無料チケットに求める仕事は明確である。

一回目をつくること。

しかし、一回目を作っただけではファンになったとは言えない。

ここから先が難しい。

無料→有料の間には、いくつもの段階がある

私は、無料招待から継続観戦までを、こんな流れで考えてみたい。

無料招待を知る

応募する

JリーグIDを作る

初めてスタジアムへ行く

観戦を楽しむ

また行きたいと思う

クラブから次の試合の情報が届く

二度目のチケットを自分で買う

何度か観戦する

ファンになる

マーケティングの言葉を使えば、一種の「ファネル」と考えられる。

重要なのは、

無料→有料

と一気に変化するわけではないことである。

その途中に、

「また行きたい」

がある。

ここを作れなければ、どれだけ無料招待を増やしても、一回限りの観客が増えるだけになってしまう。

Jリーグも「最初の体験の質」を重視している

興味深いことに、Jリーグ自身もここをかなり明確に意識している。

2025シーズンレビューで、Jリーグのマーケティング担当者は、新規客をリピーターへ変えるうえで「最初の体験の質」を重視していると説明している。

そのため、集客が苦しい試合の穴埋めとして招待を使うのではなく、ゴールデンウイークや夏休みなど、人が集まりやすく、スタジアムが盛り上がる試合に招待を設定するようクラブへ求めているという。(Jリーグについて)

これは、とても重要な考え方だと思う。

普通に考えると、

客が少ない試合
→空席が多い
→無料招待で埋めよう

となりそうである。

しかし、新規ファン獲得という目的なら、逆なのだ。

初めて来る人にこそ、できるだけ良いスタジアムを見てもらう。

観客が少なく、静かな試合ではなく、大勢の人が集まる試合。

イベントもある。

スタグルも賑わっている。

応援も大きい。

ゴールが決まれば、スタンド全体が揺れる。

その体験自体が、

「もう一度来てみよう」

という動機になる。

Jリーグは、収容率80%以上を「満員」と定義しているが、2025年にはその満員試合が前年の147試合から229試合へ増えた。Jリーグ側も、初来場者が満員のスタジアムの熱気を経験すること自体が、次回来場への強い動機になると説明している。(Jリーグについて)

無料招待と満員のスタジアムは、別々の施策ではないのだろう。

サッカーを見に来なくてもいいのかもしれない

ここで、最近読んだある観戦記が印象に残った。

横浜FCが国立競技場で行った試合について書かれたものだった。

その書き手は、最初から横浜FCを熱心に応援していたわけではない。

むしろ大きな目的の一つは、ポケモンとのコラボだった。

スタジアムへ行くと、

スタンプラリー。

企業ブース。

グッズ。

マスコット。

吹奏楽。

ダンス。

場内演出。

ハーフタイムショー。

さまざまな企画が行われていた。

書き手自身が、少し笑いながら「企画が多すぎるのでは」と感じるほどだった。

でも、これは面白い。

なぜなら、その人は、

サッカーを見ることだけを目的にスタジアムへ来たわけではない。

からである。

それでもスタジアムへ来れば、サッカーを見る。

選手の速さを見る。

応援を聞く。

ゴールを見る。

スタジアムの熱気を経験する。

入口はポケモンでもいい。

スタグルでもいい。

マスコットでもいい。

花火でもいい。

友達に誘われたからでもいい。

そして無料招待でもいい。

最初からサッカー好きだけを集めようとしなくてもよいのではないか。

むしろ、

サッカーを好きな人をスタジアムへ呼ぶだけではなく、スタジアムへ来た人の中からサッカーを好きになる人を増やす。

これも裾野を広げる方法なのだと思う。

ただし、イベントを増やせばいいわけでもない

一方で、ここには注意も必要だと思う。

イベントをたくさん用意する。

プレゼントを配る。

人気コンテンツとコラボする。

それ自体は悪くない。

しかし、

イベントが楽しかった。
プレゼントももらった。
でも、もうサッカーには来ない。

で終われば、無料招待から継続観戦への転換にはならない。

最終的には、

サッカーそのものの面白さ

にも触れてもらう必要がある。

これはクラブが完全にコントロールできるものではない。

0対0の試合もある。

応援していたチームが大敗することもある。

雨も降る。

だからこそ、クラブができるのは、

サッカーを見る前後も含めて、「また来たい」と思える一日を作ること

なのではないだろうか。

初観戦者は、90分だけを評価しているのだろうか

サッカー好きなら、試合が目的である。

多少スタグルが混んでいても行く。

雨でも行く。

駅から遠くても行く。

負けても、次の試合へ行く。

しかし初観戦者は違う。

その人が評価するのは、

90分の試合だけではない。

家を出る。

電車に乗る。

スタジアムへ着く。

イベントを見る。

食事をする。

試合を見る。

帰る。

この全部である。

つまり、

初めてのJリーグ観戦とは、90分の商品ではなく、半日程度の体験商品なのではないか。

ここまで考えると、無料招待の設計はチケット部門だけでは完結しない。

キックオフ時刻も「無料招待政策」の一部ではないか

例えば、土曜日の14時キックオフならどうだろう。

午前中に家を出る。

昼前にスタジアムへ着く。

スタグルを食べる。

子どもがイベントへ参加する。

14時から試合を見る。

16時ごろ終わる。

そのあと街で食事をしてもいい。

夕方には帰宅できる。

子ども連れでも比較的動きやすい。

一方、日曜日19時キックオフならどうだろう。

試合終了は21時前後。

そこから数万人が一斉に帰る。

駅まで歩く。

シャトルバスへ並ぶ。

電車を乗り継ぐ。

家に着けば23時。

翌日は学校や仕事である。

同じ試合でも、初観戦者の体験は大きく違う。

無料招待だからこそ、

「楽しかったけれど、こんなに大変なら次はいいかな」

となる可能性もある。

だから私は、

空席が多そうな試合を無料招待にするのではなく、初観戦者が楽しみやすい試合を無料招待にする

という発想が必要だと思う。

Jリーグが「集客の苦しい試合の穴埋め」ではなく、人が集まりやすい時期の試合に招待を組み合わせているのも、この考え方に近い。(Jリーグについて)

「家に帰るまで」が最初の観戦体験である

これは、私が以前からJリーグの交通について考えてきたことともつながる。

試合が面白かった。

スタグルもおいしかった。

イベントも楽しかった。

ところが試合終了後、

シャトルバスに1時間並んだ。

駅までたどり着けない。

電車が混雑している。

子どもが疲れて泣いている。

帰宅が深夜になった。

これでは最後の印象が、

「Jリーグ、楽しかった」

ではなく、

「Jリーグ、疲れた」

になってしまう。

無料招待で新しい人を連れてくるのであれば、なおさら帰宅まで考える必要がある。

常連サポーターは帰り方を知っている。

どの出口が空いているか。

どのバスへ乗るか。

少し時間をずらした方がいいか。

初観戦者には、その知識がない。

だから、

無料招待の「一回目」は、家に帰るまで終わらない。

と思う。

そして、スタジアムを出た瞬間から「二回目」が始まる

ここでJリーグIDが効いてくる。

Jリーグは、招待応募時にID登録を求め、主催クラブをお気に入り登録してもらうことで、当選者だけでなく応募者との接点を作っている。

さらに、一度来場した人には来場のお礼と次の試合の案内を送り、反応がなければ内容を変えたオファーを送るなど、「ナーチャリング=顧客育成」を行っているという。(Jリーグについて)

これは、かなり合理的だと思う。

無料招待した人を、

「今日はありがとうございました」

で終わらせない。

むしろ試合翌日からが重要である。

例えば、

「昨日のゴールはこちら」

「次のホームゲームは3週間後です」

「昨日初めて観戦された方へ」

「次回使えるチケット案内」

「昨日活躍した選手のインタビュー」

などが届けば、スタジアムで生まれた感情が消える前に、次の試合へつなげられる。

無料招待によってJリーグIDを獲得する意味は、ここにあるのだろう。

二回目は、少し安くてもいいのではないか

ここで一つ提案したい。

一回目を無料にしたからといって、

二回目からいきなり通常料金。

でなければならないのだろうか。

例えば、

一回目 無料招待

二回目 初観戦者限定価格

三回目 通常価格

でもいい。

重要なのは無料を続けることではない。

自分でお金を払って観戦する経験を一度作ること

だと思う。

0円から4000円への壁が高ければ、

0円。

1500円。

4000円。

と段階を作ってもいい。

映画、動画配信、アプリなど、多くのサービスで初回体験から継続利用まで段階的な導線が設計されている。

スポーツ観戦でも、

「無料客」と「有料客」を二種類の人間として分けるのではなく、無料から有料へ移っていく途中の人

と考えた方がよいのではないだろうか。

ただし、既存の有料客との公平感や価格価値を損なわないよう、対象や回数を限定する設計は必要だろう。

本当に測りたいのは「有料転換率」ではないだろうか

2025年の新規来場者リピート率30%超は、重要な成果である。(Jリーグについて)

しかし、私はその先も知りたい。

例えば1万人が無料招待で初来場したとして、

何人が二回目に来たのか。

そのうち何人が有料だったのか。

三回目は何人か。

一年後も来ている人は何人か。

ファンクラブへ入った人はいるか。

グッズを買うようになった人はいるか。

家族や友人を連れてきた人はいるか。

ここまで追えるようになれば、無料招待をめぐる議論も変わると思う。

「タダ券を何万枚配った」

でも、

「観客が何万人増えた」

でもない。

無料招待から何人の継続的な有料観戦者が生まれたのか。

これを成果指標にする。

そうなれば、「水増し」という批判に対しても、感情ではなく数字で答えられる。

無料チケット政策の成否を決めるのは、無料チケットではない

ここまで考えて、少し不思議な結論にたどり着く。

無料チケット政策について考えていたはずなのに、その成否を決める要素の多くは、チケットそのものではない。

試合。

応援。

スタグル。

イベント。

マスコット。

スタッフ。

座席。

トイレ。

アクセス。

キックオフ時刻。

帰宅。

そして試合後のコミュニケーション。

全部が関係している。

つまり、

無料招待とは、チケットを0円にする施策ではなく、新しい人にJリーグの観戦体験を丸ごと一度経験してもらう施策なのではないか。

だからこそ、その一回を大切にしたい。

二回目を生むのは、無料チケットではなく「最初の一日」である

一回目は無料でいい。

私はそう思う。

サッカーを知らなかった人が来る。

スタジアムを知らなかった人が来る。

子どもが来る。

家族が来る。

ポケモンが目当てでもいい。

スタグルが目当てでもいい。

友人に誘われただけでもいい。

そこで、

「思っていたより面白かった」

「生で見ると全然違った」

「また来たい」

と思ってもらう。

そして次は、自分でチケットを買う。

その瞬間、

「無料招待客」は「観客」に変わる。

さらに何度か通えば、

「観客」は「ファン」になるかもしれない。

だから無料招待の成功を、当日の入場者数だけで測ってはいけない。

本当に見るべき数字は、その後にある。

一回目を何人作ったかではなく、二回目を何人作れたか。

そして、その二回目を生み出すのは無料チケットそのものではない。

無料チケットによって最初に経験した「一日」なのだと思う。

次回は、その時間軸をさらに長くして考えてみたい。

一回目の観戦が、その人の数十年後まで影響するとしたらどうだろう。

特に、まだ自分でチケットを買うことのできない子どもなら。

子どもの無料招待を、その日のチケット代だけで評価してよいのだろうか。

地域の子どもたちに一度でもプロサッカーを生で見る機会を渡すことには、どんな意味があるのか。

次回はそこを考えてみたい。


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