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連載小説「オボステルラ」 【第五章 巨きなものの声】  8話「巨大樹の沈黙」(4)


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8話「巨大樹の沈黙」(4)


 「リカルド……」

 その日の夜。目を覚ましたゴナンは、そう声を上げた。しかし返事はない。

(あれ……? リカルドがいたの、夢だった…?)

 また、自分に都合の良い夢を見てしまったのだ。そう考えて、ゴナンはポロリと涙をこぼす。熱は全く下がっておらず、ボンヤリとして何も考えられない。喉が渇いて身体を起こそうとすると、いつもゲオルクがしつこくベッドに入れてくる剣とナイフがないことに気がついた。

(……、ゲオルクさん、いない…。そうだよ、お別れの挨拶を、したはず……。あれも夢……?)

「……あ、ゴナン、起きてた?」

 と、部屋にリカルドが入ってきた。

「ご飯を調達しに行っていたんだ。カーユの材料もあればと思ったんだけど、この街ではなかなか見つからなくてね」

「……リカルド…。よかった……」

 そう呟きながら涙を流すゴナンに、リカルドは驚いて駆け寄ってくる。

「ゴナン、どうしたの? 熱が辛い? 怖い夢でも見た?」

「……リカルドがいたの、夢だったのかと、思って…」

 小さい声でそう口にするゴナンに、リカルドは安心させるように微笑む。

「大丈夫だよ。もう何も心配しないでいいから」

「うん…」

「果物のジュースを買ってきたんだ。食べ歩きの屋台からね。これなら胃に入ると思うよ。そうしたら、弱ってしまった気持ちも元気を取り戻すよ。そして薬を飲んで、休もう」

 リカルドはゴナンの熱い身体をゆっくり起こして、ジュースを飲ませる。美味しそうに飲むゴナン。実は高級果実のマルルの実の果汁も入っているのだが、その果物の名はリカルドは口にしない。そうして、薬を飲んで、またゴナンは横になった。

「あ、そうそう。ゴナンの荷物も僕が持ってきているんだ。今、君が持っている荷物と一緒にまとめて、整理していいかな?」

「うん……」

「さあ、ゆっくり寝て。きっと良くなるよ」

 リカルドは優しくゴナンの頭を撫でた。ゴナンは何か言いたげにリカルドの顔を見ていたが、リカルドの大きな手を心地よさそうにしながら、すぐにウトウトと眠りにつく。薬が効いているようだ。高熱なのは心配だが、自分の手の元で安らかに眠りに入るゴナンの姿を見るのが嬉しいリカルド。

 ひとときゴナンの寝顔を噛みしめるように眺め続けたが、「さて…」とひとまず、荷物の整理をすることにした。部屋の隅にまとめてあるゴナンの荷物を一つ一つ、取り出してみる。

(……お金…、そこそこの金額あるな…。いったいどうやって……?)
 と、脇の袋に干し肉と燻製肉が詰まっているのを見つける。

(これを売ったのかな…?)

 燻製は初めて見る。物色して、ミニボアらしき肉を一つ拝借し、口にする。

(……うまい…! これは、キィ酒が飲みたくなるな……)

 後ほどゆっくり堪能しようとテーブルに置き、さらに荷物を整理する。大きな毛皮のマント。ラギオンの義娘が言っていたもののことだろうか? ゴナンに譲ってくれたようだ。

 それに、矢が随分増えている。茶色の羽が付いた、手作り感満載の矢。これが真っすぐ飛ぶのかは謎だが、使い込んでいる雰囲気がある。袋にまとめられた鳥の羽に、岩塩らしき白い塊も出てきた。削った形跡がある。燻製肉の味付けはこれで行ったのだろう。

 さらに、布に丁寧にくるんでいるものを開くと、使い込まれた小鍋と、ラギオンが焼いたものらしき器が出てくる。

(……! ゴナン、こんな高級品を…!)

 余談だが、ゴナンは確かなところでこの器を売れば、エルダーリンドの宿に何ヵ月でも泊まれるほどのお金を手に入れることができたのだが、それはゴナンの知るところではない。

 そして、見覚えのある小さな機械が出てくる。ルチカがストネで使っていた、小型の発光石の照明だ。

(ルチカに会ったのか……? もしかして、彼が保護してくれていた…?)

 リカルドはソワソワとしてその機械を操作し、あれこれと観察してみる。やはり光量がかなり強い。すごい技術だ。しかしすぐに、リカルドは少し寂しげな表情になった。

(…僕が知らない持ち物が、とても増えてるな…)

 そこから、ゴナンがどんな日々を過ごしてきたのか予想しようとしたが、想像もつかない。リカルドはやはり少し切ない気持ちを抱きながら、それらのゴナンの荷物の中に、ラギオンから託された黒と赤の石をそっと置いた。

*  *  *

 翌朝、ゴナンは朝日のまぶしさに目を覚ます。

 ここ数日は、顔の左右を挟むように置かれている剣とナイフを除けるところから1日が始まっていたが、今日はそれがなかった。

 代わりに、左側から感じる人の温もり。見ると、リカルドがゴナンのベッドに潜り込んで小さくなりながら、布団の中でゴナンの腕をぎゅっと握って眠っている。あまりにも『いつも通り』の光景に、ゴナンの心はほっと和らいだ。




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