良い人をやめた日
↓まずはこちらから
そうと決まったら私は早い。
今日、社長に退職したい旨を伝えた。
小さな会社なので、大事なことは社長に直接話せる。
月曜日までこのモヤモヤを持ち越すのは嫌だ。土日はスッキリした気持ちで夫とのんびり過ごしたい。
最低だが、さっさとこのモヤモヤを社長に移してしまおう。
………仕事辞めたいです。
その言葉を言う寸前まで心臓が飛び跳ねていたが、その後は不思議とスラスラと言葉が出てきた。
社長はびっくりしていた。
これからずっと働き続けてくれると思っていたみたい。
そりゃそうだ。私は辞める素振りなんて一切してこなかったのだから。
実は過去にも一度退職を申し出たことがある。
そのときはあれこれ説得され、給料も上げてもらい、まんまと承諾してしまった。
今回もそうだった。あれこれ辞めさせない理由を言ってきた。社長はそういう言葉を使うのが上手い。さすが社長だ。
でも、私は今日は絶対にその手には乗らないと決めていた。
検索をすると、「退職を伝えるときは、引き止められないように、本音ではなく建前を使いましょう」なんてことが書いてある。
私には建前なんて器用に使えない。
だから、いっそのこと不満は全部吐いた。
私なんかの若造になにがわかるのかと言われたら、何もわからない。
だけど、他の人より少しくらいは信頼を積んだ、私の言葉を受け取って欲しいという思いを込めて話した。
しかし、退職を申し出た瞬間に私は「部外者」となる。「部外者」の発言など聞くに値しない。
そうなってしまう前にもっと早く言ってほしかった。
社長から出た言葉はそれだった。
温まった感情が一気に-1℃まで下がった。
積み重なった不満は、人が辞めるたびに、誰かの退職に乗っかって、何度も何度も伝えてきたはずだった。
でも、いいところもたくさんあった。
自由に働けるし、融通も利く。
今まで食べたことのないような高級焼肉に連れて行ってもらったし、毎年ある社員旅行も豪華だった。
でもなぜか感謝は生まれてこない。利用されていた感覚と同じくらい、私も会社を利用していた気がする。
一度退職したいと思ったなら、その後覆ることなどほとんどない。いずれまた同じ気持ちになる。
そんなことずっとわかっていたはずなのに、3年も居続けてしまった。それは、いいところもあったから。
どんどん他の人の仕事を飲み込んでいく向上心の塊が、3年も居続けてしまったせいで、私がやめたときの穴はおそらくかなり大きい。
でも、そんなことはもう私は知ったことではない。
いずれまた私の代わりが見つかり、少しずつ穴が修復され、私の存在などすぐに忘れ去られる。
だけど、少しくらいは爪痕を残せたと思う。
少しくらいは痛手を食らっていると思いたい。
だからいいじゃないか。
この先のことはなーーんにも決まってなくて、もちろん不安もある。
だけど、この会社に居続けるより、マシな人生だと信じたい。
私はやっと「良い人」をやめることができた。
