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トランプ、製薬17社に薬価引き下げ要求

“最恵国待遇”政策、再び?

2025年7月末、トランプ大統領は、世界の主要製薬企業に対し、米国の薬価を国際基準に引き下げるよう求める書簡を送付しました。

この動きは、いわゆる「最恵国待遇(Most Favored Nation, MFN)」政策の"再起動"と見なされています。ある国が他国に対して「どこよりも有利な条件と同じか、それ以上の待遇を提供する」というルールです。

これを医薬品の価格に当てはめると、製薬会社に対して「他のどの国よりも高い価格で薬を売ってはいけない」と求めることを意味します。例えば、フランスや日本などで1本100ドルで売っている薬なら、アメリカでもそれ以下の価格で売るように!という考え方です。

この背景・各社の反応・政策の実効性、そして市場や業界への影響をなるべく中立的な立場から整理していきます。

ちなみに毎日書いています。



ホワイトハウスの公式Fact Sheet

何が起きたのか?

7月31日、ホワイトハウスは、17のグローバル製薬企業に対し、以下のような措置を求める書簡を送付したと発表しました。

  • 米国の薬価を、他の先進国での最低価格(MFN)に揃える

  • Medicaid(低所得者向け公的保険)向けには、必ずその価格を適用する

  • 新薬の価格を、米国よりも他国で安く設定しないことを誓約する

  • PBM(Pharmacy Benefit Manager)などの中間業者を排除し、可能であれば消費者への直接販売を行う

政府は、「60日以内(=9月末)に対応策を提示しない場合、あらゆる手段を用いる」と警告しています。

ちなみに、Astellas、Bayer、Biogen、Takedaは対象外でした。その理由は、公式に書いてあるものはありませんが「米国における存在感や影響力があると判断された企業に限定したリスト」という主張も見聞きしています。

書簡を受け取った製薬大手17社(アルファベット順)
AbbVie(アッヴィ)
Amgen(アムジェン)
AstraZeneca(アストラゼネカ)
Boehringer Ingelheim(ベーリンガーインゲルハイム)
Bristol Myers Squibb(ブリストル・マイヤーズ スクイブ)
Eli Lilly(イーライリリー)
Merck Serono(メルクセローノ)
Genentech(ジェネンテック/ロシュ傘下)
Gilead Sciences(ギリアド・サイエンシズ)
GSK(グラクソ・スミスクライン)
Johnson & Johnson(ヤンセンを含む)
Merck & Co.(米メルク)
Novartis(ノバルティス)
Novo Nordisk(ノボノルディスク)
Pfizer(ファイザー)
Regeneron Pharmaceuticals(リジェネロン)
Sanofi(サノフィ)

Whitehouse


目的と背景

「薬価の高さ」と「欧州のフリーライド」

トランプ政権の主張の根底には、

  • 米国の薬価は、欧州・カナダ・日本などと比べて2~3倍に達しており、国民の負担が重すぎる

  • 他国は米国の医療イノベーションに「ただ乗り」している

  • 米国が価格を引き下げれば、他国にも価格負担の再配分を迫れる

という背景があるとされています。これらは、2020年の大統領任期中にも掲げられた「アメリカ・ファースト」的なロジックと一致します。しかし、当時は製薬業界による訴訟で政策実行が差し止められています。

※当時のニュース


各社・業界団体の反応

この通達を受け、企業側の反応について、7月31日の業界メディアFierce Pharmaではこのように報道しています。

  • ノボノルディスク
    「アクセスと価格のバランスを追求する姿勢に変わりはない」

  • ノバルティス・ファイザー・アッヴィ
    前向きな協議姿勢を示しつつ、「イノベーションの持続可能性」にも言及

  • アストラゼネカ・イーライリリー・GSKなどはコメントを控える

  • PhRMA(米製薬業界団体)
    最恵国価格の輸入は「米国のリーダーシップと雇用を損なう」と反対声明

また、PBM業界団体(PCMA)は、ホワイトハウス側に歩調を合わせ、「薬価引き下げの実行に協力する」と述べているようです。

"deploy every tool in our arsenal" = あらゆる手段を尽くす、
という表現から圧の強さは伝わってきます。

実効性はあるのか?

鍵を握るのは「法的強制力」

今回の書簡が大きく報じられた一方で、「実際に制度として定着するかどうかは別問題である」という論調が強いです。

  • 現状、大統領令の延長線上にある行政指導であり、議会承認を経ていない

  • 製薬企業が対応を拒否しても、罰則や法的拘束力は明確でない

  • 2020年も、業界による訴訟(差し止め)で撤回された経緯あり

つまり、今回のアプローチは、"ディール"に基づく「強い言葉による政治的プレッシャー」に近いのでは?ということなのです。

一定の理解も?

とはいえ、CNBCによれば、多くの企業は、トランプ大統領の懸念に一定の理解を示しているようです。例えば、アストラゼネカのパスカルCEOは、最恵国待遇(MFN)政策や米国製造業への投資について、政権と緊密に連携してきたと述べました。

また、「価格の均等化が必要だという大統領の指摘は正しいと思う」と語り、同社が米国に500億ドルを投資する計画であることも明らかにしました。価格政策への前向きな姿勢がうかがえます。


今後の注目点と含意

株式市場と投資家の反応

報道直後、該当企業の株価は一時的に下落しましたが、市場全体としては冷静な反応も見られました。

アナリストの見解:

  • 「政策が議会を通過する見込みは薄い」

  • 「過去の経験から、期限や施策は繰り返し変更される可能性が高い」

そしてこの一連の動きは、より広い文脈に関係しているとされます。

① 医薬品関税との連動
米EU貿易協定により、製薬品にも15%の関税がかかる予定

② PBM排除論
中間業者を排除し、価格透明性を高める構造改革の兆し

③ 海外企業への圧力
欧州系企業(SanofiやRocheなど)にも実質的な価格圧が加わる

④ 中間選挙を見据えた動き
2026年の中間選挙に向け、有権者への「目に見える成果」を提示したい意図

※今年の5月時点で詳しく書いていますので、そちらも


おわりに

今回の通達は、政策としての即効性よりも、政治的な交渉圧力やメディア効果を狙った側面が大きいと見る声も多くあります。ただし、それが業界にとって「無視してよい話」であるとは限りません。

価格設定、PBMとの関係、グローバル戦略における「米国市場の意味合い」など、あらゆる側面で再検討を迫られる起点となりうるからです。

とはいえ、もともとは今年5月の大統領令から始まり、製薬大手は既に水面下で準備を進めていると推察されます。2025年9月末というリミットを前に、今後の企業の対応や、政権の次の一手に引き続き注目が集まります。


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