華麗なるナン 〜3皿目:カビール アイコンタクトでおかわりオーダー 〜 #78
「 ナン、おかわりお願いします 」
その一言さえ、いらなくなる瞬間がある。
視線が交わるだけで、次の一枚が焼き上がる――そんな関係を築いてしまった一軒の話です。
シリーズ3皿目は京王線・千歳烏山駅にあるカビール。
かつて京王線沿いに6年ほど暮らしていた私にとって、この店は単なるカレー屋ではない。生活のリズムの中に自然と組み込まれていた、いわば“ ホームグラウンド ”です。
◇地下のスパイス聖域
最寄りは千歳烏山駅。北口を出て徒歩約2分。
雑居ビルの階段を地下へと降りていく。
この“ 地下 ”というシチュエーションが、実にいい。
扉を開ける前から、濃密なカレーの香りが漂ってくる。
階段という空間にスパイスの香りが充満し、まるで結界のように外界と切り離されている。
一歩踏み入れた瞬間、思う。
「 あぁ、帰ってきた♡ 」
これは誇張ではありません。香りが記憶を呼び起こす。
クミン、コリアンダー、カルダモン…
鼻腔をくすぐる刺激が、この記事を書いているだけで当時の自分の生活ごと蘇ります。
◇迷うこともまた楽しい
カビールの魅力の一つは、カレーの種類の豊富さにある。

私が通っていた頃、よく選んでいたのはこの“ 四天王 ”。
王道のチキンカレー
深いコクのほうれん草カレー
肉の旨味が直球で届くマトンカレー
ぷりぷり食感が楽しいエビカレー
チキンは安定感。
ほうれん草は優しさ。
マトンは力強さ。
エビは華やかさ。
その日の気分で主役を決める。この“ 迷う時間 ”さえも、私のカビールへ通う楽しみの一部でした。
しかし、正直に言えば――
真の主役は私にとって、やはり「 ナン 」です。
◇カリふわ、そして甘いギー

カビールのナンは理想的だ。
縁はカリッと香ばしく、中央は空気を抱き込んだようにふわふわ。
ちぎった瞬間に立ち上る湯気。そこへ塗られたギーのほのかな甘み。
この“ 甘み ”が実に絶妙だ。
カレーの塩味とスパイスを優しく受け止め、全体を丸くまとめてくれている。
そして何より嬉しいのが、ナンおかわり自由という懐の深さ。
1枚目はペロリ。
2枚目は余韻で。
3枚目はルーを使い切る贅沢感。
気づけば満腹を超えた頂きに立っています。
◇アイコンタクトという特権
5年通えば人は変わる。いや、関係性が変わる。
食べ進める私の皿の残量。
ナンの消費具合。
カレーの残り具合。
店員さんはそれを見ている。
目が合う。
ほんの一瞬の頷き。
数分後、焼きたてのナンが音もなくテーブルに到着。
言葉は交わしていない。
だが確実に通じている。
そう、心で☆
この「 アイコンタクトでオーダーが通る 」瞬間の高揚感。
これは、通い詰めた者だけが味わえる特権だと思っています。
チェーン店では得られない、個人店ならではの距離感。
それが、街のカレー屋での醍醐味だ。
◇私にとっての“ ナンの基準点 ”

シリーズ1皿目、2皿目とナンを語ってきたが、私の中での基準点は間違いなくこの店にある。
カリふわ。
甘いギー。
地下に充満するスパイスの香り。
そしてアイコンタクト。
この体験があるからこそ、他店でナンを食べるときも無意識に比較してしまう。
「 今日のナンは、あの地下を超えているか?」
そんな問いを心のどこかで投げながら、今日もナンを求めています。
◇千歳烏山で、あの階段を

もし千歳烏山を訪れることがあれば、ぜひ北口を出たとこにある、あの階段を降りてみてほしです。
地下に広がるスパイスの香りと、甘いギーの誘惑があなたを待っています。
そして、もし何度も通うことになったなら――
いつかあなたも、言葉を使わずにナンを注文できる日が来るかもしれません。
ただしーーー
おかわり自由という言葉の魔力には、くれぐれもご注意を、、、
本日もご拝読いただき、ありがとうございました。
