男社会から脱出するために 第三部:なぜ恋愛が男性の価値を決めるのか(全九回)

第一部:男社会は誰を支配しているのか
第二部:「弱者男性」はどこから生まれるのか

第十章 なぜ「非モテ」はこれほど男性を傷つけるのか

恋愛でうまくいかないことは、本来なら人生の一領域における経験でしかない。
好きになった相手から断られる。交際経験がない。性的経験がない。結婚していない。これらは事実としては、それぞれ別個の、その人の状態でしかない。
しかし男性の場合、恋愛上の不成功が「男としての価値」全体へ拡張されてしまう。
「非モテ」という言葉には、その拡張が凝縮されている。

単に恋人がいない人ではない。
魅力がない。社会性がない。自信がない。性的価値が低い。人間的に何か欠けている。そうした複数の評価が、一つの言葉の中へ入り込む。
非モテの痛みは、孤独だけでは説明できない。
恋人がいないことそのものが寂しいという痛みはあるだろう。しかし、それに加えて、「女性から選ばれない自分は、男として価値が低い」という痛みが重なる。
ここでは恋愛結果が、男性性の試験結果として読まれている。

この仕組みは、第二部まで見てきた「男らしさは資格である」という構造の延長にある。
仕事では所得や地位が男性性を証明し、身体では強さが証明し、恋愛では女性から選ばれることが証明になる。
女性から好かれる。恋人がいる。性的経験がある。結婚している。
それらが「社会的に正常な成人男性である」という認証として働く。
そのため、恋愛に失敗した男性は、単に関係が成立しなかったと感じるのではなく、「自分の男としての資格が証明されなかった」と感じることを強いられる。
もちろん、すべての男性がそう感じるわけではない。恋愛を人生の中心に置かない男性もいるし、性的経験を男性性と結びつけない人もいる。しかし社会全体として、恋愛や性的経験が男性の地位と結びついている文化は確かに存在する。

その文化は、男性の側からも強く再生産される。
「彼女いないの?」
「まだ童貞なの?」
「その歳で結婚してないの?」
こうした言葉は、単なる質問ではない。「お前は男としてどこまで進んでいるのか」という確認になっている。
ここで、恋愛は二人の人間の私的な関係ではなく、男性社会の公開試験になる。
この構造がある限り、恋愛に失敗することの代償は大きい。
拒絶そのものの痛みに、社会的な羞恥が加わるからである。

第十一章 女性から選ばれることは、男性から認められることでもある

男性が女性から選ばれたいと思うとき、その欲求は必ずしも女性との親密さだけから成り立っているわけではない。
もちろん、恋人がほしいという気持ちには、愛情、性的欲求、身体的な接触、会話、生活の共有、将来への期待などが含まれている。
しかし、そこにはもう一つの欲求が混ざっていることを見逃してはならない。
「恋人のいる男として認められたい」という欲求である。

ここで重要なのは、女性からの承認と男性からの承認が重なっていることである。
女性から選ばれることによって、他の男性からも「魅力のある男」「一人前の男」と評価される。
逆に、女性から選ばれないことによって、男性集団の中でも低く評価される。
このとき女性は、男性同士が互いの価値を確認するための媒介になる。
女性そのものが目的であると同時に、男性性の証明書にもなる。
この構造が強くなると、恋人は一人の主体ではなく、勲章に近づいてしまう。

「どんな女性と付き合っているか」が、その男性の価値を示す。
恋人の容姿や年齢が男性の地位を示す。
性的経験の多さが男性の経験値を示す。
ここでは女性との関係が、男性同士の競争へ組み込まれている。
だから「彼女がほしい」という言葉を理解するときも、欲求を一つにまとめないほうがよい。
本当に親密な関係を求めている部分。
身体的な接触や性愛を求めている部分。
孤独から逃れたい部分。
「普通の男」になりたい部分。
他の男性から低く見られたくない部分。
それらが重なっている。

人間の欲望は、社会から完全に独立しているわけではない。
だから、「本当に恋人がほしいのか、それとも恋人がいる自分がほしいのか」と完全に二分することもできない。
むしろ重要なのは、その二つが混ざっていることを自覚できるかどうかである。
自分は誰かと関係を築きたいのか。
それとも「恋人のいる男」という資格がほしいのか。
両方なのか。
この問いを持つことによって、恋愛を男性性の試験から少しずつ切り離すことができる。

第十二章 拒絶はなぜ「不公平」に見えるのか

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