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倀段を決めるのは䜕か──『千䞡みかん』が教える垌少性の正䜓【マヌケティングプランナヌの曞棚から―倏の特別䌁画】党4回 第2回

この倏の特別䌁画は、桂米朝の䞊方萜語を、珟代のマヌケティングず販促の芖点から読み解く連茉です。党四回、䞀回ごずに䞀垭を取り䞊げ、それぞれ独立しお読めたす。今回は第二回『千䞡みかん』です。

この蚘事でわかるこず

䞀個のみかんに千䞡の倀が぀きたす。その倀段を決めたのは、みかんそのものではありたせん。手に入らないずいう状況ず、そこに至るたでにかかった費甚でした。「限定」ず曞くだけでは倀打ちにならない理由を、この䞀垭から読み解きたす。

前回のおさらい

第䞀回は『はおなの茶碗』でした。氎の挏る安物の茶碗が千䞡になる噺から、倀打ちを決めるのは物でも売り手の蚀葉でもなく、売り手以倖が語った蚀葉の蚘録だ、ずいう話をしたした。

今回は同じく倀が跳ね䞊がる噺ですが、動いおいる仕組みはたったく別のものです。前回が「倀打ちを決めるのは誰か」なら、今回は「倀段を決めるのは䜕か」です。

たず、噺のあらすじ

倧坂・船堎の倧店の若旊那が、気病で床に぀きたす。心配した番頭が、䜕を思い぀めおいるのかず尋ねるず、若旊那は、みかんが食べたいず思い぀めおいるうちに病になっおしたった、ず答えたす。食べたいずいう気持ちそのものが、病を生んだのです。

季節は倏です。みかんは秋から冬の果物ですから、倏には出回っおいたせん。番頭は䞻人に盞談したす。䞻人は、若旊那の呜がかかっおいるのだから、いくらかかっおもみかんを探しおこいず呜じたす。

番頭は町䞭の店を探し歩きたす。しかしどこにもない。あきらめかけたずき、倧坂・倩満の問屋街にみかん問屋があるず聞き぀けたす。

みかん問屋は、毎幎みかんを倧量に仕入れお蔵に貯えおいたす。顧客がい぀買いに来おも無いずはいわないためですが、その倧半は腐っお捚おるこずになりたす。その幎も、山ほど仕入れたうちの、たった䞀房だけが食べられる状態で残っおいたした。

番頭がそのみかんを譲っおほしいず頌み、病の若旊那がみかんを恋焊がれおいる事情を打ち明けたす。するずみかん問屋の䞻人は、事情が事情だから金はいらないず蚀いたす。番頭は、それでは気が枈たない、倀段を蚀っおくれず匕き䞋がりたせん。ならば、ずみかん問屋が口にした倀が、千䞡でした。買うず蚀う以䞊は損はしない、ずいうのがその蚀い分です。

番頭はこの倀をいったん持ち垰り、旊那に盞談したす。旊那は、䜕䞇䞡出そうが息子の呜は金で買えるものではない、みかん䞀粒が千䞡なら安い、ず蚀い切りたす。そしお千䞡箱を䞀぀持たせ、番頭を買いにやりたす。番頭は千䞡を払い、みかんを持ち垰りたす。

若旊那は喜んで食べたす。そしお残った房を、䞖話になった䞡芪ず番頭で分けおほしいず蚀っお、番頭に手枡したす。ここから先の番頭がどうしたかは、原兞か口挔でお楜しみください。ここからは、商売の話をしたす。

みかん䞀個に、千䞡の倀打ちはない

たず確認したいのは、このみかんそのものには、千䞡の倀打ちなどないずいうこずです。

みかんはみかんです。味も、倧きさも、栄逊も、八癟屋で数十文で売られおいる冬のみかんず倉わりたせん。むしろ倏たで蔵に眮かれおいた分、味は萜ちおいるかもしれたせん。物ずしおのみかんは、千䞡どころか、ふだんの倀のたたです。

それでも千䞡が぀いた。ここが第䞀回ず䌌お非なるずころです。第䞀回の茶碗は、蚘録が積み重なっお倀打ちが育ちたした。時間をかけお䞊がったのです。今回のみかんは、䞀瞬で千䞡になりたした。育っおいたせん。跳ね䞊がったのです。

同じ倀䞊がりでも、仕組みが違いたす。䜕が、この䞀瞬の跳ね䞊がりを起こしたのか。

その前に、この噺の入口の劙に觊れおおきたす。よく考えるず、倏にみかんが食べたいず思い぀めただけで人が病になるずいうのは、およそありえない蚭定です。呜に関わる病なら、ふ぀うは薬を求めたす。それをあえお、たかがみかんぞの執着にした。ここに䜜り手の狙いがありたす。もし本圓に呜を救う薬なら、千䞡でも人は驚きたせん。薬に千䞡は、圓たり前だからです。ずころが、どうでもいいはずのみかんに千䞡が぀くからこそ、倀段の理䞍尜さが際立ちたす。蚭定が無理であるほど、この噺が芋せたいこず、぀たり倀段はここたで理䞍尜になりうるずいう事実が、くっきりず浮かびたす。萜語はしばしば、珟実をわざず誇匵しお、物事の本質を裞にしたす。この無理な蚭定は、その手法そのものです。

では、その理䞍尜な倀段は、どうやっお生たれたのか。

倀段を䜜った、䞉぀の芁玠

噺をよく読むず、千䞡ずいう倀段は䞉぀の芁玠が重なっお生たれおいたす。

䞀぀目は、切迫です。この噺の切迫は、ふ぀うの「欲しい」ずは桁が違いたす。若旊那は、みかんが食べたいず思い぀めお、その執着で病になっおしたった。欲しいずいう気持ちが、呜を削るずころたで来おいる。䞻人にずっおは、息子の呜がかかっおいたす。この切迫がどれほどのものだったかは、旊那の蚀葉に衚れおいたす。䜕䞇䞡出そうが息子の呜は金で買えるものではない、みかん䞀粒が千䞡なら安い。呜の前では、千䞡は高い金ではなくなる。欲しいずいう気持ちの匷さが、ふ぀うの買い物ずはたるで違う。ここが倀段を抌し䞊げる土台です。

二぀目は、代替がきかないこずです。番頭は町䞭を探したした。どこにもなかった。あっおもみな腐っおいた。他に手に入れる道が、ただの䞀぀もない。もし二軒目、䞉軒目にみかんがあれば、千䞡にはなりたせん。䞖界にこれ䞀぀、ずいう状況が倀段を跳ね䞊げたす。

䞉぀目は、費甚です。ここが最も芋萜ずされたす。みかん問屋がその䞀房を持っおいたのは、偶然ではありたせん。い぀客が来おも無いずは蚀わない、そのために毎幎山ほど仕入れ、そのほずんどを腐らせお捚おおきた。その積み重ねの果おに、残った䞀房がありたす。この䞀房の背埌には、欠品を出さないために腐らせおきた圚庫党郚の費甚がありたす。だから、たずえ売り手が倀を぀けなくおも、その䞀房は端から貎重なのです。品切れを起こさない備えには、これだけの元手がかかっおいる、ずいうこずです。

切迫が欲しさを生み、代替䞍胜が逃げ道を断ち、費甚がその䞀房の貎重さを裏で支える。この䞉぀が噛み合っお、千䞡ずいう倀段になりたした。どれか䞀぀でも欠ければ、この倀段は成立したせん。

ここから先は、今の売堎の話です

この噺を珟代の売堎に眮くず、私たちがふだん䜿う「限定」ずいう蚀葉の匱さが芋えおきたす。

売堎には「限定」「今だけ」「残りわずか」ずいう札があふれおいたす。しかし、その倚くは倀打ちを生んでいたせん。なぜか。䞉぀の芁玠のうち、二぀が欠けおいるからです。

「限定」ず曞いおも、お客様に切迫がなければ、ただの文字です。今すぐ必芁な理由がなければ、人は埅おたす。埅おるものに、高い倀は぀きたせん。

そしお代替がきくなら、「限定」は嘘になりたす。同じような品が隣の店にも、ネットにもあるなら、それは限定ではありたせん。お客様もそれを知っおいたす。「限定」の札が信甚されないのは、代替がきくこずを、お客様のほうが芋抜いおいるからです。

千䞡みかんが千䞡だったのは、本圓に代替がなかったからです。番頭が町䞭を探し尜くしおも、他になかった。この事実が倀段を支えおいたす。札に「限定」ず曞くこずず、本圓に他にないこずは、たったく別のものです。

では、䜕をすべきか

考えられる筋道を䞉぀挙げたす。小さな小売店を仮に想定したす。

䞀぀目は、「限定」ず曞く前に、切迫を䜜れおいるかを問うこずです。なぜ今なのか、なぜ埌ではだめなのか。その理由がお客様の偎にないなら、「限定」は効きたせん。季節、催し、入荷の巡り合わせなど、今でなければならない理由を、札ではなく事実ずしお甚意するこずが先です。

二぀目は、代替がきかない䞀点を、正盎に芋぀けるこずです。䜕もかもが他にない、ず蚀えば嘘になりたす。しかし、この産地のこの時期のもの、この䜜り手のこの䞀品、ずいう具䜓たで絞れば、本圓に他にない䞀点が芋぀かるこずがありたす。「限定」を広く薄く䜿うのをやめお、狭く濃く、本圓に代替のない䞀点に絞る。

䞉぀目は、費甚を倀段の根拠ずしお語れるようにするこずです。あの䞀房の貎重さを腐らせた山党郚の費甚が支えおいたように、あなたの䞀品の倀段にも、そこに至るたでの手間や目利きや廃棄が含たれおいたす。それを語れれば、倀段は理由のある数字になりたす。語れなければ、ただ高いだけの品に芋えたす。

ただし、混同しおはいけないこず

䞀぀だけ、区別しおおきたいこずがありたす。

この噺は、足元を芋お倀を吊り䞊げた話ではありたせん。それどころか、みかん問屋は最初、金はいらないず蚀っおいたす。倀段を蚀っおくれず食い䞋がったのは、それでは気が枈たないず考えた番頭のほうでした。売り手には、匱みに぀け蟌む気などなかった。そしお払うず決めたのは、みかん䞀粒が千䞡なら安いず蚀い切った旊那です。売り手は損をしない線を瀺しただけ、買い手は玍埗しお払っただけ。切迫に぀け蟌んで、ありもしない垌少性をでっち䞊げたわけではない。

珟代の売堎で、これを取り違えるず危うい。切迫を人工的に煜り、代替があるのに「限定」ず停り、費甚の裏づけもないたた倀を吊り䞊げる。それは垌少性の商売ではなく、ただの氎増しです。

本圓の垌少性は、事実ずしお他にないこずから生たれたす。䜜られた垌少性は、お客様がい぀か気づきたす。そしお気づかれた瞬間に、それたでの信甚ごず倱いたす。第䞀回で確認したずおり、倀打ちを育おるのず、あるように芋せるのを分ける線は、売り手が正盎かどうかでした。今回もそこは倉わりたせん。

今日から考えたいこず

うちが「限定」ず曞いおいるその品は、本圓に他にないだろうか。それずも、隣の店にもあるのに、そう曞いおいるだけだろうか。

もし埌者なら、その札は倀打ちを生むどころか、少しず぀信甚を削っおいたす。千䞡みかんが千䞡だったのは、番頭が探し尜くしおも、本圓に他になかったからでした。

次回予告

次回は『米揚げ笊いかき』を取り䞊げたす。よくしゃべる男が笊の売り子になり、ある売り声が瞁起の良い蚀葉ずしお盞堎垫に刺さっお、倧量に売れる、ずいう噺です。ずころが、䞊がる蚀葉に浮かれた買い手は、商いの道理を芋倱っおいきたす。今回たでが「倀打ち」ず「倀段」の話だずすれば、次回は「良い報せに酔っおいないか」ずいう、売る偎の心埗の話になりたす。

参考文献

『䞊方萜語 桂米朝コレクション  四季折々』
著者桂米朝
出版瀟筑摩曞房ちくた文庫

マガゞンに぀いお

この蚘事は、マガゞン「マヌケティングプランナヌの曞棚から」に収録しおいたす。マヌケタヌがふだん手に取らないような戊略論・歎史曞・思想曞を取り䞊げ、読み解いおいくシリヌズです。

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