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倀打ちを決めるのは誰か──『はおなの茶碗』が教えるブランドの育ち方【マヌケティングプランナヌの曞棚から―倏の特別䌁画】党4回 第1回

この蚘事でわかるこず

商品そのものが最初から最埌たで倉わらなくおも、倀打ちは䞊がりたす。それを動かしおいるのが、売り手の蚀葉ではなく、売り手以倖が語った蚀葉の蚘録である、ずいう話をしたす。

この倏は、少し違う棚から

このシリヌズでは、ふだん戊略論や歎史曞を扱っおいたす。この倏は、少し離れた棚から䞀冊を取り出したす。ちくた文庫『䞊方萜語 桂米朝コレクション』の第四巻、巻名はそのたた「商売繁盛」です。

これたで扱っおきたのは、物事の仕組みを筋道立おお説明した本でした。萜語は説明したせん。人が倀打ちを感じ、金を出す堎面を、そのたた写しおあるだけです。説明がない分、読み解く䜙地はこちらに残されおいたす。

党四回で、䞊方萜語を販促蚭蚈の芖点から読み解きたす。第䞀回は『はおなの茶碗』です。この䞀垭は第四巻に入っおいたす。第二回で扱う『千䞡みかん』だけは、倏の噺のため第䞀巻「四季折々」から借りたす。

萜語は䞀垭で完結したす。ですから今回は、䞀冊を数回に分けお読む圢ではなく、䞀垭をその回のうちに読み切り、売堎の話たで進みたす。


たず、噺のあらすじ

舞台は京郜です。茶道具屋の金兵衛、人は茶金ず呌びたす。目利きずしお知られた人物です。

その茶金が、枅氎の茶店で出された茶碗を手に取り、しげしげず眺めお銖をひねり、「はおな」ず぀ぶやきたす。それを芋おいた油の行商人が、名品に違いないず思い蟌みたす。目利きが銖をひねるほどの品だ、ず。男は茶店の䞻人からその茶碗を身代限りの二䞡で買い取り、茶金の店ぞ持ち蟌みたす。

ずころが茶金の返事はこうでした。あれはただの茶碗です。どこにも傷がないのに氎が挏る。それが䞍思議で銖をひねっただけです、ず。

぀たり茶金は、倀打ちを認めおいたせん。むしろはっきりず吊定しおいたす。

ずころがそこから話が動きたす。目利きの茶金が銖をひねった茶碗があるらしい。関癜鷹叞公たか぀かさこうのお邞、さらに埡所の内にたで及んで箱曞きが蚘されたす。箱曞きずは、茶道具などの箱の蓋に、その品が䜕で、誰が鑑定したかを筆で曞き付けたものです。品物ではなく箱に蚘すので、品が誰の手に枡っおも由緒が䞀緒に䌝わりたす。噂はさらに䌝わり、最埌は倧坂の豪商鎻池善右衛門こうのいけぜんえもんが千䞡で買い取りたす。

その千䞡を、茶金は䞀人で懐に入れたせん。もずの茶碗を持ち蟌んだ油屋に、五癟䞡を枡したす。氎の挏る安物を持ち蟌んだだけの男が、五癟䞡を手にする。现かなやりずりは原兞か口挔でお楜しみいただくずしお、ここから先は、商売の話をしたす。

茶碗そのものは、最埌たで倉わっおいない

この噺で最初に確認したいのは、物が䞀切倉わっおいないずいう事実です。

最初に枅氎の茶店に眮かれおいたずきも、千䞡で取り匕きされたずきも、その茶碗は氎の挏る安物のたたです。焌き盎しもしおいなければ、修理もしおいたせん。品質は䞀ミリも動いおいない。

それでも倀は千䞡になりたした。

もう䞀぀、芋萜ずしおはいけない点がありたす。茶金は嘘を぀いおいないずいうこずです。それどころか、倀打ちがないず明蚀しおいたす。売り手が党力で吊定したのに、倀は䞊がった。

ここから匕き出せる結論は䞀぀です。倀打ちを決めおいるのは、物でもなければ、売り手の蚀葉でもない。

倀打ちを運んだのは、蚘録だった

では䜕が倀打ちを䜜ったのか。噺の䞭の順番を远うず、はっきりしたす。

はじめに、目利きが銖をひねったずいう行為がありたす。次に、それが噂ずしお人から人ぞ䌝わりたす。そしお噂が、箱曞きずいう文字の圢に固定されたす。最埌に、その積み重ね党郚を匕き受ける買い手が珟れたす。

この䞉番目が芁点です。

噂は消えたす。誰が䜕ず蚀ったかは、䞀幎もすれば誰も芚えおいたせん。しかし曞かれたものは残り、次の持ち䞻に匕き継がれたす。箱曞きがあれば、その茶碗を初めお芋る人にも、これたでの経緯が䌝わりたす。

倀打ちを運んだのは、口ではなく蚘録でした。ここで䞀぀、分けおおきたいこずがありたす。この茶碗が千䞡ずいう高倀になったのは、箱曞きを呜じたのが埡所ずいう最も高い暩嚁だったからです。しかし倀打ちそのものが生たれたのは、暩嚁が高かったからではなく、その評䟡が文字になっお次の買い手に匕き継がれたからです。暩嚁の高さは金額を決めたす。けれども倀打ちが生たれるかどうかは、蚘録が匕き継がれるかどうかで決たりたす。だから、たずえ高い暩嚁がなくおも、蚘録さえ残っお次に枡れば、倀打ちは生たれたす。

そしおもう䞀点。この倀打ちは、茶金が䜜ったものではありたせん。むしろ止めようずしお、止められなかった。䜜った本人が制埡できないからこそ、それは倀打ちずしお働きたす。自分で自分の倀打ちを宣蚀できるなら、誰も苊劎したせん。

箱曞きは遠い昔の話に聞こえるかもしれたせん。しかし同じものが、今も本に巻かれおいたす。垯です。垯に茉る掚薊者の名前ず蚀葉、受賞の蚘録、他の読者の反応は、どれも出版瀟が自分で蚀った蚀葉ではありたせん。第䞉者の評䟡を、本ず䞀緒に運んでいたす。しかも掚薊文には必ず名前が付く。誰が蚀ったかが瀺されおいる。これは箱曞きずたったく同じ働きです。ただし垯には、売り手自身の煜り文句も混じりたす。「話題沞隰」は出版瀟が自分で蚀っおいる蚀葉で、これは箱曞きではありたせん。同じ䞀枚の䞭で、第䞉者の蚀葉ず売り手の蚀葉が同居しおいたす。倀打ちを運ぶのは前者だけです。

ここから先は、今の売堎の話です

売り手が「これは良い商品です」ず曞いおも、それが倀打ちにならないのは、曞いおある内容が悪いからではありたせん。曞いた人が売り手だからです。同じ䞀文でも、売り手以倖の口から出た瞬間に、別のものになりたす。

ここたでは、倚くの方が感芚ずしお知っおいるこずだず思いたす。

問題はその先です。今の売堎の倧半は、売り手以倖の蚀葉を蚘録する仕組みを持っおいたせん。

お客様がレゞで挏らした䞀蚀。詊食のあずの短い感想。買った理由をふず口にした瞬間。これらはすべお、その堎で消えおいたす。箱曞きに圓たるものが存圚しないたた、私たちは毎朝れロから売り蟌みをやり盎しおいたす。

茶碗が千䞡になったのは、倀打ちが蚘録され、匕き継がれたからでした。売堎では、その逆のこずが毎日起きおいたす。

ここたで読んで、今なら口コミや投皿がその圹目を果たしおいるのではないか、ず思われた方もいるず思いたす。半分はそのずおりです。売り手以倖の蚀葉が埌から読める圢で残る点は、同じです。ただ䞀぀違いたす。垯が本に巻かれお動くのに察し、投皿は商品ず離れた堎所にあり、読者が探しに行かなければ届きたせん。同じ蚘録でも、届く確率が違いたす。売堎でたず考えるべきは、離れた堎所の蚀葉を増やすこずよりも、商品のそばに蚀葉を眮くこずです。

では、䜕から始めるか

考えられる入口を䞉぀挙げたす。小さな小売店を仮に想定しお曞きたす。

䞀぀目は、倀打ちを語る䞻語を売り手から倖すこずです。「新鮮です」ず曞く代わりに、「これを䜜っおいる人が、今朝こう蚀っおいたした」ず曞く。䞻語を実圚の人物にしたす。生産者でも、仕入れ担圓者でも、垞連のお客様でもかたいたせん。売り手が自分の口で耒めるのをやめお、誰かの蚀葉を運ぶ圹に回りたす。

二぀目は、消える蚀葉を残す仕組みを䜜るこずです。レゞの脇に玙を䞀枚眮くだけで足りたす。アンケヌト甚玙ではありたせん。お客様が蚀った䞀蚀を、そのたた曞き写すための玙です。敎った文章にする必芁はなく、むしろ敎えないほうがよい。「去幎から探しおた」「これ、母芪が奜きなんです」。この皋床の断片で十分です。芁するに、箱曞きを自分たちで䜜るずいうこずです。

䞉぀目は、集めた蚀葉を売堎に戻すこずです。ここたでやっお、はじめお倀打ちが匕き継がれたす。集めただけで瀟内に眮いおおくのは、箱に曞かずに匕き出しにしたうのず同じです。

どれを遞ぶか、どこたでやるかは、店の事情によりたす。ただ、䞉぀ずも費甚はほずんどかかりたせん。かかるのは続ける手間だけです。

ただし、混同しおはいけないこず

䞀぀だけ区別しおおきたいこずがありたす。

この噺は、氎の挏る茶碗が千䞡になる話です。読みようによっおは、䞭身がなくおも物語さえ䜜れば売れる、ずいう話に聞こえたす。

しかし、この䞀垭が笑い話ずしお成立しおいるのは、茶金が正盎だからです。圌は倀打ちを吊定し、油屋に事実をそのたた䌝えおいたす。そしお千䞡を独り占めせず、もずの茶碗を持ち蟌んだ油屋に五癟䞡を枡したす。誰も隙されおおらず、儲けも独り占めしない。だから読埌に嫌な感じが残りたせん。

倀打ちを育おるこずず、倀打ちがあるように芋せるこずは、別のものです。䞡者を分ける線は䞀本しかありたせん。売り手が正盎かどうかです。

この連茉で扱うのは、前者だけです。

今日から考えたいこず

うちの商品に぀いお、売り手以倖の誰かが語った蚀葉を、䜕か䞀぀でも蚘録しおいるだろうか。

もし䞀぀もないずすれば、倀打ちは毎日その堎で消えおいるこずになりたす。茶碗は倉わらなくおも、箱曞きがなければ千䞡にはなりたせんでした。

次回予告

次回は『千䞡みかん』を取り䞊げたす。䞀個のみかんが千䞡になる噺です。今回が「倀打ちを決めるのは誰か」だずすれば、次回は「倀段を決めるのは䜕か」ずいう話になりたす。同じく倀が跳ね䞊がる噺ですが、動いおいる仕組みはたったく別のものです。

参考文献

『䞊方萜語 桂米朝コレクション  商売繁盛』
著者桂米朝
出版瀟筑摩曞房ちくた文庫

マガゞンに぀いお

この蚘事は、マガゞン「マヌケティングプランナヌの曞棚から」に収録しおいたす。マヌケタヌがふだん手に取らないような戊略論・歎史曞・思想曞を取り䞊げ、読み解いおいくシリヌズです。

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