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【記憶のかけらが目を覚ます】暁にみた夢/番外編vol.2

うたた寝しながら見た夢。
妙にリアルだったな。

夢なんて大抵は、あいまいで
本当の日常生活とは一線を画すもの。
それがいつも見る夢。

目が覚めると同時に
殆どの記憶が、それこそ夢の中へと消えていく。
だけれど、さっきの夢の中は違った。
あの時、ほんの一瞬だけ目が合った。あの人物。
何か言おうとしていた。
あの瞳。
懐かしくて、あたたかで。
心が安心するようで。
夢の中の、単なる登場人物には見えなかった。

「知っている人物」
自分の心がそう答えている。

何だろう、この中途半端で
はっきり解明できない気持ちの悪さ。
なのに、真実だっていう実感。

さあ、
気持ちを切り替えないと。
今日は、週一回のお見舞いの日なんだから。
支度しないと―
あれ?
そのためにシャワー浴びたんだっけ。

父が入院してもう1カ月以上。
一時は、寝たきりになることも覚悟した。
70歳過ぎて、足腰が弱ってから
リハビリ頑張ったよね。
転びそうでハラハラする時もあったけど。
でも何とか、家の中だけなら自力で動ける見込が出てきた。
ただし、手すりの設置は必須だけどね。

私も、しっかり介助のやり方を身に付けないと。
ちょっと面倒って思う時もあるけど
他に家族もいないし。
仕方ないよね。
頑張れ、私。

いつもとは違う感じがした病室

病室に入ると、いつもはベッドに起き上っている父が、めずらしく布団をかぶって横になっている。
今日は、リハビリの予定なのに
体調でも悪いのかな。

枕元に歩み寄って、顔を覗き込む。
寝てる、明らかに寝てる。
起こした方がいいかな。
寝起きでリハビリなんてしたら、転んじゃうよね。

「お父さ・ん…」

「遅い!」
というや否や、目をかっと見開いた。

「あれっ? 起きてたの?」
いや、いや 地獄耳でしょ?

「遅いじゃないか。もうとっくに終わった。今頃来ても用はない」
「え、だって、いつも通りに…」
「変更になったんだ。急に休んだ人が出て、シフトがどうのと言ってた。看護師さんは連絡したって、言ってたぞ」
「そんな言い方しなくても…」

スマホ、バタバタしててちゃんと見てなかった。
あっ、留守電っ!
うたた寝どころか、爆睡してたってことか。

「それで、業者には連絡したのか」
「あ、うん。近所の工務店に、お願いしようかと…」

どうしよう。まだ、どこにも連絡してなかった。
早いとこ工事の依頼しないと、介護用の手すりの設置とか、車いす用のスロープの用意とか、やることいっぱいあったんだ。やば~い。

「ちゃんと、3か所くらいから見積もり取るんだぞ」
「分かってるよ。そんなこと…」
「お前ひとりじゃ、絶対足元見られるからな」

「え、まあ…、しょうがないよね…」
「見積もりが出たら持って来い。俺が見るから」
「あ、う、うん。お願いします…」

猛烈に帰りたい。
でも、まだ来たばっかりか。
もうちょっと穏やかな喋り方が出来ないものかなあ。
機嫌悪いわけじゃないんだろうけど、明らかに怒ってるよね。
退院したら、これが毎日なのかなあ。

「あと、介護マネージャ―だとかっていう人が来たぞ」
「うん。これからのことちゃんと相談しておかないとだよね」

「リハビリは、いつも通りのメニューだったの?」
「あ、ああ」

何なのこの空気。
もう、帰ろう、帰ろう。

「あ、あのさあ、靴下取り換えようか。新しいの持ってきたし。マッサージもしないとね。足指ほぐさないと…」
「今日は、いい」

わー、怒ってる、怒ってる。
もう、こういう時こそお母さんにいて欲しいのに。
お父さんの癇癪をなだめられるのは、お母さんだけだったなあ。
その苦労がたたって、早くに亡くなっちゃったのかなあ。

頑張れ、私。
思い切って言うんだ。
「じゃあ、来たばかりだけど今日はこれで帰るね。次は、ちゃんとリハビリ付き添うから。今日は、ごめんね」
「……」
返事ないんかーい。

ベッドから離れようと背中を向けた時
父親がゆっくりと身体を起こした。

「お前ー、自分の身体を大事にするんだぞ」
「え?」

唐突だった。不意打ちを食らった。
目と目が合った。
こんなにまっすぐに、自分の親の目を見たことがあっただろうか。

この人は、こんなにも慈愛に満ちた瞳を持っていたのだろうか。
私はいったい、この人のどこを見て、今まで生きて来たのだろうか。

「うん。私は…、大丈夫だよ…。じゃあ。またね」
曖昧な返事を残して、足早に病室を出た。

何故だろう。
涙があふれて来てどうしようもない。
何か大切なことを、忘れていた気がする。
何か、何か、とても大事なことを。

(つづく)

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