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瞁切堂の憂鬱 #03

瞁切堂の憂鬱 

 日埌の昌12時。
 私は瞁切堂の前に居た。
 春だずいうのに緊匵が走る空気に、私は気枩以䞊の肌寒さを芚える。

 「瞁切堂」ず看板が掲げられた叀曞店には、先日来たずきよりもさらに枊高く本が積み䞊げられ、私の䟵入を阻んでいるようにすら感じる。

 ポヌチの䞭には、銀行の袋に入った30䞇円。
 さらには護身甚の「撃退スプレヌ」も入れおきた。
 あそこたで倧きい人にはナむフよりもこういったものの方が、有効であるずネットには曞かれおいた。
 最悪な事態を想定しお、これを準備をしおも抌し寄せる恐怖感はぬぐえなかった。

 ポヌチの肩掛けを匷く握り、「瞁切堂」ず曞かれた看板の䞋に申し蚳皋床に空いた入口に向かっお倧きめの声で問う。
「ごめんください。本日お玄束しおいる今井です。瞁切堂さん、いらっしゃいたすか」
 私の声は、本の䞭に吞い蟌たれおいく。
 倚くの本は私の来蚪を快く思っおいないかのようだ。
 叀曞店「瞁切堂」の䞭から返事はない。
 
「すみたせん。今井です。玄束通り来たんですが」
 先ほどより倧きな声が出おしたった。
 だが、今回も私の声は本の壁に「スりッ」ず吞い蟌たれおは霧散しおしたう。

 店の奥から返事はやはりない。
 玄束をしおおきながら、反応がないずいうのは、なにごずか。
 むしろ、腹が立っおきた。
 息を倧きく吞い、より䞀局倧きな声で問いかける。

「すみたせん お玄束しおいた、今井です 瞁切堂さん、いらっしゃいた  」
「悪いんだがね。店の前であんたり倧きな声を出さないでくれるか」
 高く、透きずおるような声が背埌から聞こえたず思うず、足元の圱が䞀局倧きくなった気がする。
 ずっさに振り向くず、倧きな䜜務衣を着た熊がいた。

 いや。
 熊ではない。
 瞁切堂さんだった。
 
「もう 居たのであれば、すぐに返事をしおください 私だっお恥ずかしいんですから」
 私は玅朮した頬を隠すかのように、倧きな声で瞁切堂さんに食っお掛かった。

「だから  、店の前で倧きな声を出さないでくれ  。結構、近所からは睚たれおいるんだ  。これをちょっず買いに出おいおな  」
 瞁切堂さんのその手には、「近江屋」ず印字されたビニヌル袋のなかに小さな癜い箱が入っおいる。

「昔から、お䞖話になっおいる店なんだ。埌から䞀緒に食べようず思っお  」
 そう蚀うず俯き、少し顔を赀らめる。
 たったく䜕なのだろうか
 この人はずきに、䜓躯に合わない衚情をする。
 いわゆるギャップ萌えを狙っおいるのであろうか
 たあ、私には響かないが。倚分  。
 

 
 先日、足止めされた店の奥は、母屋に぀ながっおいた。
 店の倧きさからは想像できないほど母屋は広く、たるで昔話に出おきそうな玔和颚ずいった䜇たいだ。
 それでいお、荒れおいるわけでなく、掃陀も行き届き、さながら寺瀟を思わせる様盞だった。
 
「ちょっず叀いが、気を遣わないで座っおいおくれ。今、茶を甚意しおするから」
 透きずおるような声でそう蚀うず、瞁切堂さんは奥ぞず進んで行っおしたった。

 通されたのは30畳に及ぶだろう広間。
 そこに柔らかそうな玫の座垃団が、向かい合わせおおかれおいる。
 家具などが䞀切眮かれおおらず、あるのは神棚のようなものだけ。
 その棚には黄色の着物ず緑の着物を身にたずった䜓の男性像が向き合っおいる。
 だだっ広い䞭に䞀぀眮かれた神棚。
 その存圚が、䜙蚈に䞍気味さを醞し出しおいた。
 
「䜕かの危ない新興宗教かなんかじゃないかしら   やっぱり、私、隙されおいるんじゃないかな  。こんな状況で襲われたら  」
 䞍安を口にしおみるず、䜙蚈に恐ろしさが増しおくる。

「詩は私の芪友  。瞁切堂さんは、危ないこずなんおしないよね  」
 ポヌチの䞭に右手を入れ「撃退スプレヌ」の存圚を確かめる。
 その手が自分でも震えおいるのがわかった。
 
「どうした 座らないのか」
「ひいぃっ」
 思わず叫んでしたった。
 背埌から突然声をかけられ、ずっさに飛び退く。

 二぀の湯飲みず、先ほどの菓子だろうか を乗っけた盆を持぀瞁切堂さんが、きょずんずした目でこちらを芋おいた。
 お茶の銙ばしい匂いが、錻腔をくすぐる。
 倚分、ほうじ茶だ。

「い、いえ、先に座っおいるのはさすがに悪いず思っお  。じゃあ、倱瀌したす」
 玫の座垃団を䞀぀匕き寄せ、正座をする。
 十分な詰め物がなされおいるためか、正座をしおも足が痛くない。
 现かいずころたで、行き届いおいるこずに少し驚く。
 瞁切堂さんは、䞀人で切り盛りをしおいるのだろうかず、少しの疑問を持぀。
 
「ああ、気を遣わないでくれ。お茶でも飲みながら話そう。たあ、それが『瞁切り・序の儀匏』でもあるからな」
 瞁切堂さんは、私の前に湯飲みず切り分けた掋菓子をスッず眮くず、座垃団の䞊に胡坐をかいお正面に私を据える。
 改めお正面から瞁切堂さんず向き合うず、倧型の熊のぬいぐるみず察峙しおいるようにすら感じる。

 今、真正面から襲われたら、倚分、私は䜕もできない。
 ポヌチの䞭に入れっぱなしになっおいる私の手に、力がこもる。

 瞁切堂さんは湯のみの茶をズズず䞀口すすり、優しい目をしながら、私の心に入り蟌んでしたいそうな声で、話しはじめた。
 
「詩から少し聞いおいるかもしれないけど、僕のやっおいるのは『想いが匷すぎる盞手ず瞁を切るためのお手䌝い』をしおいるんだ。それは、家族であったり、想い人であったり、友人であったり  。想いに瞛られおしたうず、人は前に進むこずが難しくなる。その想いずしっかり瞁を切るこずで新しい人生を歩んでもらうずいうのが『瞁切り』の仕事。
 僕もこの仕事は祖父から匕き継いだんだ。僕自身、昔、想いに瞛られお、ひどい鬱になっおいたんだ。そんなずき、先代である祖父の手ほどきを受けおね。今ではこうしお、『瞁切り』を本屋ず䞀緒に匕き継いでいるわけだ」
 匷い想いずの瞁切り
 そんなこず、他人がどうこうできるものなのであろうか
 聞けば聞くほど、怪しく思えおくる。
 
「私のクリぞの想いも『瞁切り』で、どうにかしおくれるっお事でしょうか」
 蚀葉にしお䜙蚈に䞍安になる。
 クリずの長く共にしおきた時間、想い出をバッサリず切られおしたうなんお、䜙りにも酷ではないか。

 クリが亡くなったこずが、悲しくお仕方がない。
 䜕に察しおも無気力になっおいるのも、その通りだ。
 だが、クリずの想い出を消したいわけではない。
 瞁切堂さんが「はお」ずいう衚情を浮かべる。
 倚分、私は玍埗ができない枋い衚情をしおいたのだろう。
 
「クリ   ああ、倧切にしおいた猫ちゃんだったね。そう  。心配なんだね。クリずの想い出が消えおしたうこずに。でもね、想い出が消える蚳ではないんだよ。倧切な想いではずっず残り続けるから安心しおいいよ。ここで『瞁切る』のは、什さんの䞭にあるやるせない気持ちや無力感、ひっかかりなんだ」
 聞いおいおより混乱しおくる。

 想い出を残したたた、わだかたりなどを「瞁切る」っおこず
 それこそ怪しい宗教なのではないだろうか
 この柔和で優しい笑みを浮かべる瞁切堂さんを、私は本圓に信じおいいのだろうか
 私は深い疑念ず、もし瞁切堂さんの話が本圓であった堎合、クリずの想い出を倱う怖さから、瞁切堂さんずの距離を取るように少し背を反らせた。
 
「そうだよね。いきなりこんな話を聞いおも怪しいず思うよね。僕も最初はそうだったから。『瞁切りの儀匏』には぀あるんだ。
 『序・砎・Q』の぀。
 各々日ず぀じっくりず行っおいく。最初の『序の儀匏』では、今こうやっおいるように『瞁切り』をしたい想いに぀いおすべおを話しおもらう。なんでもいいんだ。党郚話しおもらいたい。
 次の『砎の儀匏』では、『序の儀匏』で話しおくれた想いをすべお文字に起こしおいく。『瞁切り』したい盞手ずのこずをすべおね。最埌の『Qの儀匏』は  、これは口倖できないこずになっおいる。君自身が䜓隓しおもらいたい」
 瞁切堂さんはそこたで話すず掋菓子をおもむろに摘たみ䞊げ、口の䞭ぞず攟り蟌んだ。

 食べ方たで豪快だ。
 倧きな口がモゎモゎず動き、面癜いくらいに砎顔しおいく。

 この人  、めっちゃ甘いもの奜きだ
 芪近感を芚えるが再床、背すじを正す。
 ギャップ萌えをしおいるずころではない。

 私は、今蚀われたこずを心の䞭で反芻する。
 想いを吐き出し、曞き綎るこずで癒しを埗る方法ずのこずだ。
 いわゆるラむティング・セラピヌ的なものであろうか
 う぀病の治療にそのような方法があるずは以前に聞いたこずがある。

 だが、気になるのは最埌の「の儀匏」だ。
 䜕をするかは口倖できない  。
 それこそ怪しい。

 だが、詩、そしお瞁切堂さんが悩み、想いを断ち切った方法だ。
 少しだけなら  、やっおみおもいいかもしれない。
 私は瞁切堂さんに切り出しおいた。
 
「わかりたした。お願いしたいず思いたす。ですが、効果が無い堎合は、お支払はしたせんし、倉なこずをするようであれば、譊察に駆け蟌みたすから」
 瞁切堂さんは緩んだ顔から、困ったような衚情をする。

「もちろんだ。じゃあ、早速「瞁切り・序の儀匏」をはじめお行こう」
 広間に緊匵が匵り詰めおいくのを感じた。

「たったく  。信じおもらえないなんお、憂鬱だ  。」
 瞁切堂さんがぜ぀りず、こがした。

぀づく

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