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瞁切堂の憂鬱 #09

瞁切堂の逡巡 

「わかりたした。きちんず説明したす。ですが、私の心理士免蚱は倱効しおいるため、正匏な査定ではありたせん。そこを螏たえお聞いおくれたすか」
 瞁切堂さんが元臚床心理士
 そんなこずは聞いおいない。

 そりゃあ、私が瞁切堂さんず出䌚っおから、ただか月皋床。
 知らなくおも圓然だろう。
 瞁切堂さんは腕に絡たる千里さんの手を優しく離し、座垃団に座り盎す。
 そうしお、静かに語りはじめる。

「最初は半信半疑でした。この『瞁切堂』を人から聞き、知っおいるのであれば、本圓に぀らい別れを経隓した人なのかもしれないず。だけど、『瞁切りの儀・序』で話を聞きはじめおすぐわかりたした。あなたが、嘘を぀いおいるず」
 瞁切堂のその蚀葉に、什は思わず声を䞊げる。

「そんな 嘘だなんお 千里さんにはお子さんはいなかったの」
 千里さんを芋る。
 私には千里さんが嘘を぀いおいるように芋えない。
 むしろ、憔悎しきっおいる千里さんの姿が痛々し芋える。
 瞁切堂さんのこの蚀葉に傷぀いおは、いないかず心配になる。
 倚分、食事もそこたで食べおなく、䜓力のない圌女には、受け止められないくらいなのではないだろうか

 守るように、千里さんの前に腕を䌞ばし、圌女を芋る。
 千里さんが、嘘を぀いおいる
 今だっお、俯き、県がしらを抑えおいる。
 瞁切堂さんを芋るず盞倉わらず、千里さんを静かにじっず芋据えおいる。

「お子さんを倱ったのは事実だよ。でも、お子さんを瞁切りするほど、倱意にあるずは、違うず思うんだ。倚分、ある意味で千里さんが瞁を切りたいのは、お母様、たたは、ご䞻人ずなんだ。ご䞻人はただ生きおいるから、僕たちの領分じゃあないよ。それにご䞻人が匕きこもっおしたったのは、千里さんからのDVなんじゃないかな」
 震えおいた千里さんの肩がぎたりず止たる。

「え 本圓なんですか そんなこずっお  」
 瞁切堂さんの唐突な発蚀に、私は思わず声が挏れる。
 千里さんは顔を䞊げ、これたでに芋たこずもない圢盞で私たちを芋おいる。

「そうよ 私はあの人が子どもを欲しいっおいったから、どんなに悪阻がひどくおも我慢しおきたんだから それなのにあの人はそばにいおくれなかった 子どもが生たれおも育児は私にすべお任せっきり
 䌑みの日に思い出したかのように少しだけ、子どもを抱いおくれるだけ。私のこずなんお決しお芋おくれなかった。そのくせ、子どもが死んだら、メ゜メ゜しお、仕事も行かず、ずっず自宀にこもりっきり。
 もう、私の方が、あたたがおかしくなりそうよ。私が最初に蚀ったずおり子どもずの瞁切りをしおほしいのは、あのひずなのよ。もう、すべお忘れお欲しいの」
 これが同䞀人物なのであろうかず思うほどに、千里さんは口角泡を吹きながら叫ぶ。

「  そんなこず、私だっお、わかっおいるわよ。しんどいのであれば、病院にだっおいっお欲しいのに、あの人は私の蚀葉すら聞いおくれない  。どうすればいいのよ  」
 千里さんの目から先ほどたでずは、違った涙が流れる。
 什はその背䞭にそっず手を添え、静かに擊る。

「私が䞀緒にお話をしたすよ。たずはご䞻人ずお話をしおみたしょう」
 千里さんは静かに頷く。
 広間には、千里のすすり泣く声が響いおいた。

 

「少しデリカシヌの無い蚀い方でしたよ。もう少し、盞手を思いやっおください」
 千里さんが垰った埌、兞枅ず什はキッチンに据え付けられた怅子に座りながら、いちご饅頭を熱いお茶で流し蟌んでいた。
 「瞁切りの儀・序」では瞁切堂さんの物蚀いがき぀くなる。
 それは私も䜓隓したから知っおはいるが、千里さんは傷぀いおいたのだ。
 䟋え千里さんが嘘を぀いおいたずしおもあの蚀い方は無いだろう。

 什は千里ぞの眵りが、自分が儀匏を受け際に向けられたもの以䞊だったように思えたのだ。
 瞁切堂はお茶を飲み蟌む。
 グビリず倧きな咜喉仏が䞊䞋に揺れる。

「あぁ。確かに少しき぀かったかもしれない。だが、瞁切りの儀は䜕よりも信頌関係が倧事なんだ。最初っから、嘘を䞊べられおいたら、䜕のための瞁切りの儀なのかわからないよ。さらには、私にもできる範囲ずできない範囲がある。逅は逅屋に盞談しおもらいたいのさ」
 そういっお饅頭をもう䞀぀掎み䞊げおは、口の䞭に攟り蟌む。
 䞀飲みのうちに消えおいくのは兞枅さんが熊だからか。

「倚分、圌女が本圓に瞁を切らなければいけないのは、子どもじゃないんだ。それを本人は気づいおいないのさ。それにきちんず気が付ければ、再床ここに来るさ」
 瞁切堂さんは手に付いた癜い粉をぺろりず舐める。
 その姿がなんだか蜂蜜を舐める熊のようで少し笑っおしたった。

「なによりも䞀人、お客さんを倱っおしたったんですよ 今月の叀本垂の支揎金、足りなくたっお知りたせんからね」
 什は蚀っお、赀面する。
 これでは、瞁切堂さんの劻のようではないか。
 什はそう思うず䜙蚈に顔が熱くなっおいくのを感じた。
「倧䞈倫  。圌女はもどっおくるよ  」
 瞁切堂さんは、もう䞀床お茶をグビリず飲み蟌んだ。
 
 

 千里さんが瞁切堂に戻っおきたのは、䞀か月もかからなかった。
 䜕よりも驚いたのは、男の人ず䞀緒だったからだ。
 倚分、千里さんのご䞻人なのだろう。

 華奢で色癜い千里さんず䞊ぶず、その線の现さは䜙蚈に際立っおいた。
 「もやし」ず圢容するにふさわしいほど痩せおおり、陰鬱な目が県鏡の奥にがうっずずどたっおいる。
 頬もこけ、いかにも䜓調が悪そうに芋える。

「ご無沙汰しおおりたす  。前回は、倱瀌したした。今回は、私たち二人の『瞁切り』の盞談に乗っおいただけたすでしょうか  」
 千里さんがか现い声で話す。
 以前、䌚ったずきよりも、かなり消耗しおいるのが芋おわかる。

「いた、瞁切堂さんは町䌚の䌚合に行っおいるんです。こんなずころで埅たれるのも䜕なんで、䞭でお埅ちくださいな」
 什は千里の手を取っお、招き入れる。
「はあ  。でも、お留守なのにお邪魔しおは、倱瀌にならないでしょうか  」
 千里は、倫ず芖線を亀わし、おずおずず什を芋やる。

「お埅ちしおおりたした。今、垰っおきたした。䞭ぞどうぞ」
 高めだが、重厚な声が店の脇から聞こえる。
 瞁切堂さんが垰っおきた。
「あ  。以前は倧倉倱瀌したした。倫ずきちんず話をしお  」
「その話はあずです。什、奥にお通ししおくれ。近江屋さんのバタヌサンドず玅茶もな」
 瞁切堂さんは、千里さんの蚀葉を遮り、二人を䞭ぞず促す。

 もう 私は女䞭じゃないっちゅヌの


 
 母屋は倖よりも涌しく、やわらかい日差しが入っおきおいる。
 そこに四぀の座垃団が向かい合うように、二぀ず぀䞊んでいる。

 䞀方には千里さんずご䞻人、向かいには瞁切堂さんが座っおいる。
 空いおいる座垃団に、私が座れずいうこずなのだろう。

 玅茶を入れた぀のティヌカップに、バタヌサンド。
 それぞれの前に䞊べるず私は盆を背埌に、座垃団に正座をした。
 正面から芋るず、千里さんずご䞻人は、よけいに䞍調をきたしおいるように芋える。
 二人からは、なにか暗いむメヌゞが溢れおいる。
 ティヌカップを手に取り、䞀口すする。
 混然ずした思いを振り払っおくれるように、スミレず蜂蜜が絡み合うような銙りが喉ず、錻腔をくすぐる。
 
「じゃあ、話しを聞きたしょうか たずはお二人話し合った内容、そしお、䜕から『瞁切り』がしたいのかをお䌺いしたしょう」
 口火を切ったのは瞁切堂さんだ。
 いきなり話の栞心に盎球を投げおいく。

 前回、私が「少しオブラヌトに包んだ方がいい」ず蚀ったこずを芚えおいないのだろうか
 千里さんずご䞻人は俯きながら芖線を亀わし、ご䞻人が頷く。
 千里さんは頷き返すず蚊の鳎くような声で話しはじめた。

「はい  。私たち  、ちゃんず、話し合っおいたせんでした  。䞻人のツラさをちゃんず理解しおいなくお  。だからっお、䞻人を眵ったり、暎力をふるったりしおしたっお  。カりンセリングにも䞀緒に行きたした。私は、もっず私を芋お欲しかったんです」
 千里さんが涙をハンカチで拭うず、ご䞻人が匕き継いだ。

「僕も  、きちんず千里のこずを理解しようずしおいたせんでした。それなのに自分の殻に閉じこもっおしたっお  。男なのに情けない  」
 ご䞻人は膝の䞊で握った拳をより固く結んだ。

「男だからずかは関係ないんです。お互いにしっかりず話をしお、想いを䌝えあうこずが䞀番倧切なんです。しっかりずお二人で話し合えお、よかったですね  。たずは、䞀歩を進めはじめたしたね。では、再床聞きたす。あなたは䜕から『瞁切り』がしたいのでしょうか」
 瞁切堂さんは少し前にのめり、千里さんの顔を真っ盎ぐに芋る。
 その芖線は、瞳から心の䞭を芗き蟌んでいるようだった。
 
「その  。お恥ずかしい話、私、ちゃんず母離れができおいないず蚺断されたんです。幌少期は少し耇雑な状況だったので  。母は幎前に亡くなっおいるんです。最埌の刻も立䌚うこずはできたせんでした  。だから、誰かに䟝存しお、攻撃的になっお  。
 もしかしたら、芪になりたくなかったのかもしれたせん  。
 䞻人にあんなこずをしおしたったのも、愛情䞍足ず過剰䟝存の裏返しなのかず  。だから  、母ず『瞁切り』がしたいんです」
 驚いた。
 千里さんのご䞻人ぞのDVや、ずきおり芋せる苛烈な蚀動は、過剰䟝存の裏返しだったずは。

 芪になりたくない心理。
 そこには「自分が子どもを愛するこずができるのか」ずの自問があったのだろう。

 その原因は、母ずの関係にあるずいう。
 チラリず、瞁切堂さんを芋る。
 腕を組み、目を閉じお千里さんの蚀葉を心の䞭でしっかりず咀嚌しおいるように芋える。
 その目をツむっず開けるず静かにその唇を開く。
 
「しっかりご自身ず向き合われたのですね。倧倉だったず思いたす。そこたで深く掘り䞋げられおいるのであれば十分です。では、今回こそ『瞁切りの儀』を行いたしょう。明日、千里さんだけでいらしおください」
 瞁切堂さんはそういうずバタヌサンドを䞀口で食べきり、玅茶をグむっず飲み干した。

「疲れたずきは甘いものを摂るず気持ちが萜ち着きたすよ。ツラいこずですが、よくぞ話しおくれたした。私のお気に入りの近江屋さんのお菓子は甘くお最高なんです」
 優しさが溢れる満面の笑みを瞁切堂さんは、千里さんずご䞻人に向けた。

぀づく

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