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女学雑誌が読み替えた、皇后の姿:一枚の挿絵に隠された時間のねじれ〈2〉

前回、明治初期の女性活動家たちが、女性兵士を従える神功皇后の姿を、自分たちの政治的主張の裏付けとして引用していたことを見ました。しかし、この「女帝」としての神功皇后のイメージは、その後、静かに姿を変えていきます。
今回は、その変化がどのように起きたのかを、当時の女性誌の誌面から具体的にたどります。

一枚の絵の中で、時間の順序がこっそり書き換えられている――そう聞くと、少し推理小説めいた話に聞こえませんか。今回たどるのは、まさにそういう話です。


女性の地位向上を掲げた雑誌の創刊号

1885年、日本初の女性専門誌『女学雑誌』が創刊されました。その前身『女学新誌』とともに、女権拡張運動の後継として、女性の地位向上を謳う「女学」を掲げた雑誌です。その創刊号の巻頭を飾ったのが、「神功皇后の御図」と題された挿絵でした。

一見、これは女性の地位向上を訴える雑誌にふさわしい選択に見えます。しかし、陣内恵梨氏による研究(『ジェンダー史学』第18号、2022年)は、この挿絵に、これまで見過ごされてきた奇妙な点があることを指摘しています。

生まれていないはずの子どもが、そこにいる

その挿絵の中央には、髭を蓄えた武内宿禰が、幼い応神天皇を抱いている姿が描かれています。画面右上には神功皇后、左下には貢物を捧げる大陸風の衣装の男性たちが配置されており、これが「三韓征伐」における服属の場面を描いたものだとわかります。

しかし、ここで陣内氏が指摘するのは、応神天皇の誕生は、神功皇后が朝鮮半島から帰国した後の出来事だという点です。つまりこの挿絵は、物語上の時間軸を無視して、まだ生まれていないはずの子どもを、遠征の場面に描き込んでいることになります。
陣内氏の調査によれば、江戸期から明治期にかけて確認できる神功皇后の図像268件のうち、この時間軸を無視した構図が確認できるのは、この挿絵ただ一件だけだといいます。

なぜ、わざわざこのような不自然な構図が創られたのでしょうか。
陣内氏は、この挿絵が、神功皇后という人物の意味そのものを塗り替える仕掛けだったと分析しています。画面の中心に応神天皇を置くことで、神功皇后の物語の重心は「朝鮮半島を征服した英雄」から、「息子を産んだ母」へと移されている、というのです。

政治に口を出さなかった皇后と、並べられる

同じ頃の『女学新誌』の表紙にも、変化が表れています。
それまで神功皇后は、夫や息子以上の権勢を振るった呂后や則天武后、あるいはエリザベス女王と並べて語られる存在でした。
ところが『女学新誌』の表紙解説では、神功皇后は中国・五胡十六国時代の皇后「劉娥」と並べられます。陣内氏によれば、劉娥は奢侈にふける夫を諫めた聡明な女性ではあるものの、あくまで後宮という私的な領域にとどまり、政治には口を出さなかった人物です。

神功皇后がこうした人物と同格に語られるようになったこと自体が、大きな読み替えを意味していました。

さらに、それまで神功皇后とともに描かれてきた弓矢や太刀、軍を指揮する軍配といった武具は、この表紙から姿を消し、代わりに書物、そろばん、琴、雛人形、犬張子といった、当時の女子教育で重んじられた教養・嗜みの道具に置き換えられていました。陣内氏は、雛人形や犬張子が安産・多産の象徴であることに触れ、これらの道具立てが「女学が認める女性の知性は、最終的には結婚と出産に行き着くためのものだ」というメッセージを示唆している、と論じています。

読み替えは、消去より静かに進む

ここで興味深いのは、この読み替えが、神功皇后を否定する形では行われなかった、という点です。彼女は雑誌の創刊号や表紙に、堂々と登場し続けました。ただ、その隣に置かれる人物や道具、そして描かれる場面の切り取り方が、少しずつ変わっていっただけです。

否定ではなく、隣に置くものを変えることで意味を書き換える――これは、何かを声高に禁止するよりもずっと見つけにくく、それゆえに効果的な手法なのかもしれません。
陣内氏の研究は、1889年までに発刊された『女学雑誌』148号のうち、神功皇后に触れた記事はわずか18件しかなく、しかもその中で皇后の人物像は、統治者から次第に「良き妻・良き母」へと変質していったことを、丹念に跡付けています。

女性を主役に据えた雑誌が、その主役の意味を静かに書き換えていくこの逆説は、次回見る地方伝承の世界とは対照的な結末を、神功皇后という象徴にもたらすことになります。

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