見出し画像

🧭ハヤトの冒険08|目覚めの羅針

ハヤトの冒険
01|選んでしまった一歩
    ︙
06|何かが変だ
07|動き出した好奇心
08|目覚めの羅針← 今ここ

朝の光がやわらぎはじめたころ、ハヤトは森の奥へ向かう支度をしていた。

「ハヤトー」

振り向くと、いつのまにかモコが来てた。

「今日は探検の日だモコ!」

「うん。昨日の続きだよ。
前に見つけた秘密の場所に行こう」

「うわぁ、楽しみだモコ〜!」

モコは満面の笑みを浮かべて、
ぴょこぴょことハヤトの後ろをついてきた。

道中、モコは小さな探検を楽しんでいた。

「あっ」

足を止める。

「なんかあるモコ」

木の根元に落ちていた小さな羽を拾い上げ、光に透かすように眺めた。

「ふわふわしてるモコ」

振り返ってハヤトに見せる。

「いいの見つけたじゃん」

モコは嬉しそうにカゴに入れると、
今度は道の端へ駆けていく。

「あ!こっちにもキレイなのあるモコ!」

今度は、形のいい葉っぱを集めはじめた。
しばらく眺めてから、大事そうに両手いっぱいに抱えた。

「宝物ふえたモコ〜」

楽しそうなモコを尻目に、
ハヤトは何度も後ろを振り返っていた。

今日はモコと二人だ。
前みたいに、気づいたら知らない場所──
では、済まない気がした。

「……今日こそ、ちゃんと目印つけていこう」

布切れを近くの枝に結びながら、小さく呟く。一本結んで、それからまた歩き出す。

「えらいモコ!」

「戻れなくなったら困るからね」

「道、知ってるモコ?」

「うん、前に来たんだ。」

キキと一緒に──
そう言いかけてハヤトは止めた。

(来なかったな。モコにも見せたかったのに)

「ハヤト、どうしたモコ?」

「……なんでもないよ」

森の中は、前に来た時より少しだけ暗い。
それだけで、違う場所みたいに見える。

「確か……こっちだったはず」

同じような木に同じような草。
目印になりそうなものは、ほとんどない。

「あ!あそこにハヤトの目印あるモコ!」

見ると、赤い布が風に揺れていた。
こないだの帰り道に、急いで結んだやつだった。

ホッと胸を撫で下ろす。

それから少し歩いたその先。
背の高い草むらの奥、苔に埋もれるように、
あの小さな石碑が静かに佇んでいた。

ハヤトは思わず駆け寄った。

そして気付く。
あの時と違う。
今日ははっきりと石碑が光っている。

胸の奥がざわつく。
ハヤトはリュックから丸い装置を取り出した。

さっきまで静かだったはずなのに、
今は掌の奥で微かに震えている。

「やっぱり……反応してる」

ハヤトはゆっくり石碑へ手を伸ばした。

指先が触れた瞬間。
石碑の模様が、呼吸をするみたいに淡く浮かび上がった。

苔の奥へ埋もれていた線刻が、青白くゆっくり繋がっていく。

「……!」

石碑が青白く浮かび上がった瞬間、
ハヤトの手の中の丸い装置も、
呼応するように淡く光った。

「うわっ……!」

細い光が、石碑から装置へ流れていく。

中心にはめ込まれたパーツの溝を、
青白い線が静かに、なぞるように。

まるで、石碑と繋がっているみたいだった。

「すごいモコー!!」

モコは隣で目をきらきらさせていた。

ハヤトの手の中で、装置がドクン、と脈打つ。
中央にはめ込まれたパーツが、
針みたいにゆっくり回り始める。

「う、動いた……!」

最初は不規則だった。
右へ、左へ。揺れながらぐるぐると回りだす。
それからまたゆっくり向きを変えていく。

迷うみたいに、何度も小刻みに震える。
けれど次第に、
針の動きから迷いが消えていった。

そして──

ピタリ、と止まる。

森の奥。

針の先端は、
そこだけを真っ直ぐ指していた。

「わぁーい!!」

隣で、モコが興奮した声を上げる。

「すごいモコ!! 宝物モコ!!」

その声に返事すらできぬまま、
ハヤトは手の中の装置を見つめていた。

「これ……やっぱりコンパスだったのか……」

掌の奥で、まだ微かな震えが続いている。

ハヤトは知らない。
石碑が反応した瞬間、森のどこかで、
何かが目を覚ましたことを。

針は、揺れながらも森の一点を指している。

「あっちに何があるモコ!?」

「いや……、僕にもわかんないよ」

「楽しみモコ!!」

モコは待ちきれないみたいに、
その場で小さく足踏みした。

「うん、そうだね」

ハヤトは笑って、コンパスを握り直す。
掌の奥で、微かな震えが返ってきた。

コンパスは真っ直ぐに行き先を示していた。


森の奥へ進むにつれて、
葉の擦れる音が減っていく。

足音だけが、やけに大きく聞こえた。

ピタリとモコが急に立ち止まる。
耳がぴん、と立ち、その後ゆっくり伏せられた。

「……どうしたの?」

モコは森の奥を見たまま、小さく後ずさった。

「……ここ、なんか怖いモコ」

さっきまでの明るい声が消えている。

ハヤトは思わず周囲を見回したが、見える景色は変わらない。

「えっ、何もないみたいだけど……」

モコはぎゅっと耳を伏せたまま、小さく首を振る。

「なんか……いやだモコ」

「……帰るモコ」

ハヤトはすぐに引き止められなかった。
怖がっているのが、冗談じゃないと分かったから。

「……そっか」

少しだけ迷ってから、モコへ笑いかける。

「一人で戻れる?一緒に帰ろうか?」

「湖のとこ、わかるモコ!」

「そっか、じゃあ気をつけて帰るんだよ」

モコは元気よく頷くと、
そのまま来た道を駆けていった。

小さな背中が木々の向こうへ消えていく。
ハヤトはしばらく、その方向を見つめていた。

それから、森はまた静かになった。

「……僕も、一人はちょっと怖い……かも」

──そう、つぶやいた直後だった。
ザザッと、頭上で葉が鳴った。
ハヤトは急いで木の上を見上げた。

「キキ!?」

黒い影が、木の上から静かに飛び降りる。
キキは当然みたいに、森の奥へ歩みを進めた。

ハヤトは思わず大きく息を吐いた。

「やっぱり来てくれたんだね」

コンパスの針が、かすかに揺れる。

「よし、行こう!」

さっきまでの迷いはもうなかった。


(続く)


ハヤトの冒険

最初から読む ・ 次の話へ



ハヤトってどんな子?|全話一気読み⬇︎


モコってどんな子?⬇︎


暮らしの森をもっと歩く⬇︎



暮らしの森ってどんなところ?⬇︎


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集