🧭ハヤトの冒険08|目覚めの羅針
朝の光がやわらぎはじめたころ、ハヤトは森の奥へ向かう支度をしていた。
「ハヤトー」
振り向くと、いつのまにかモコが来てた。

「今日は探検の日だモコ!」
「うん。昨日の続きだよ。
前に見つけた秘密の場所に行こう」
「うわぁ、楽しみだモコ〜!」
モコは満面の笑みを浮かべて、
ぴょこぴょことハヤトの後ろをついてきた。
◆
道中、モコは小さな探検を楽しんでいた。
「あっ」
足を止める。
「なんかあるモコ」
木の根元に落ちていた小さな羽を拾い上げ、光に透かすように眺めた。
「ふわふわしてるモコ」
振り返ってハヤトに見せる。
「いいの見つけたじゃん」

モコは嬉しそうにカゴに入れると、
今度は道の端へ駆けていく。
「あ!こっちにもキレイなのあるモコ!」
今度は、形のいい葉っぱを集めはじめた。
しばらく眺めてから、大事そうに両手いっぱいに抱えた。
「宝物ふえたモコ〜」

楽しそうなモコを尻目に、
ハヤトは何度も後ろを振り返っていた。
今日はモコと二人だ。
前みたいに、気づいたら知らない場所──
では、済まない気がした。
「……今日こそ、ちゃんと目印つけていこう」
布切れを近くの枝に結びながら、小さく呟く。一本結んで、それからまた歩き出す。
「えらいモコ!」
「戻れなくなったら困るからね」
「道、知ってるモコ?」
「うん、前に来たんだ。」
キキと一緒に──
そう言いかけてハヤトは止めた。
(来なかったな。モコにも見せたかったのに)
「ハヤト、どうしたモコ?」
「……なんでもないよ」
森の中は、前に来た時より少しだけ暗い。
それだけで、違う場所みたいに見える。
「確か……こっちだったはず」
同じような木に同じような草。
目印になりそうなものは、ほとんどない。
「あ!あそこにハヤトの目印あるモコ!」
見ると、赤い布が風に揺れていた。
こないだの帰り道に、急いで結んだやつだった。
ホッと胸を撫で下ろす。
◆
それから少し歩いたその先。
背の高い草むらの奥、苔に埋もれるように、
あの小さな石碑が静かに佇んでいた。
ハヤトは思わず駆け寄った。
そして気付く。
あの時と違う。
今日ははっきりと石碑が光っている。
胸の奥がざわつく。
ハヤトはリュックから丸い装置を取り出した。
さっきまで静かだったはずなのに、
今は掌の奥で微かに震えている。
「やっぱり……反応してる」
ハヤトはゆっくり石碑へ手を伸ばした。
指先が触れた瞬間。
石碑の模様が、呼吸をするみたいに淡く浮かび上がった。
苔の奥へ埋もれていた線刻が、青白くゆっくり繋がっていく。
「……!」
石碑が青白く浮かび上がった瞬間、
ハヤトの手の中の丸い装置も、
呼応するように淡く光った。
「うわっ……!」
細い光が、石碑から装置へ流れていく。
中心にはめ込まれたパーツの溝を、
青白い線が静かに、なぞるように。

まるで、石碑と繋がっているみたいだった。
「すごいモコー!!」
モコは隣で目をきらきらさせていた。
ハヤトの手の中で、装置がドクン、と脈打つ。
中央にはめ込まれたパーツが、
針みたいにゆっくり回り始める。
「う、動いた……!」
最初は不規則だった。
右へ、左へ。揺れながらぐるぐると回りだす。
それからまたゆっくり向きを変えていく。
迷うみたいに、何度も小刻みに震える。
けれど次第に、
針の動きから迷いが消えていった。
そして──
ピタリ、と止まる。
森の奥。
針の先端は、
そこだけを真っ直ぐ指していた。
「わぁーい!!」
隣で、モコが興奮した声を上げる。
「すごいモコ!! 宝物モコ!!」
その声に返事すらできぬまま、
ハヤトは手の中の装置を見つめていた。
「これ……やっぱりコンパスだったのか……」
掌の奥で、まだ微かな震えが続いている。
ハヤトは知らない。
石碑が反応した瞬間、森のどこかで、
何かが目を覚ましたことを。
◆
針は、揺れながらも森の一点を指している。
「あっちに何があるモコ!?」
「いや……、僕にもわかんないよ」
「楽しみモコ!!」
モコは待ちきれないみたいに、
その場で小さく足踏みした。
「うん、そうだね」
ハヤトは笑って、コンパスを握り直す。
掌の奥で、微かな震えが返ってきた。
コンパスは真っ直ぐに行き先を示していた。
森の奥へ進むにつれて、
葉の擦れる音が減っていく。
足音だけが、やけに大きく聞こえた。
ピタリとモコが急に立ち止まる。
耳がぴん、と立ち、その後ゆっくり伏せられた。
「……どうしたの?」
モコは森の奥を見たまま、小さく後ずさった。
「……ここ、なんか怖いモコ」
さっきまでの明るい声が消えている。
ハヤトは思わず周囲を見回したが、見える景色は変わらない。
「えっ、何もないみたいだけど……」
モコはぎゅっと耳を伏せたまま、小さく首を振る。
「なんか……いやだモコ」
「……帰るモコ」
ハヤトはすぐに引き止められなかった。
怖がっているのが、冗談じゃないと分かったから。
「……そっか」
少しだけ迷ってから、モコへ笑いかける。
「一人で戻れる?一緒に帰ろうか?」
「湖のとこ、わかるモコ!」
「そっか、じゃあ気をつけて帰るんだよ」
モコは元気よく頷くと、
そのまま来た道を駆けていった。
小さな背中が木々の向こうへ消えていく。
ハヤトはしばらく、その方向を見つめていた。
それから、森はまた静かになった。
「……僕も、一人はちょっと怖い……かも」
──そう、つぶやいた直後だった。
ザザッと、頭上で葉が鳴った。
ハヤトは急いで木の上を見上げた。
「キキ!?」
黒い影が、木の上から静かに飛び降りる。
キキは当然みたいに、森の奥へ歩みを進めた。
ハヤトは思わず大きく息を吐いた。
「やっぱり来てくれたんだね」
コンパスの針が、かすかに揺れる。
「よし、行こう!」
さっきまでの迷いはもうなかった。
(続く)
ハヤトの冒険

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