🧭ハヤトの冒険06|何かが変だ
ハヤトの冒険
01|選んでしまった一歩
02|キキを追ったその先に
03|風が動く日気をつけろ
04|風が動いた日
05|湖のほとりで
06|何かが変だ← 今ここ
細い川沿いを、キキは迷いなく進んでいく。
ハヤトはその少し後ろを追いかける。
水の音だけが、静かな森に小さく響いていた。
踏み入るたびに、森の空気が少しずつ変わっていくのがわかる。湖の近くは明るかったのに、木々が増えるにつれて、足元の影が濃くなっていた。
「キキ……、どこまで行くの……?」
そう声をかけた時、
胸元にかすかな振動が走った。
「……!?」
首から下げた首飾りに触れる。
気のせいかと思って手を離す。
けれど数歩進むたび、わずかな震えが伝わってくる。脈みたいに、小さい震えが。
「え……?」
立ち止まって、もう一度触れる。
今度は、はっきり分かった。
首飾りが、震えている。
ハヤトは思わず周囲を見回した。
風……ではない。
胸元だけが微かに脈打っている。
「キキ!ちょっと待って!……なんか変だ」
キキは少し先で足を止めた。
「震えてるんだよ。これ……」
尻尾だけが、ゆっくり揺れる。
ハヤトは首飾りを握ったまま、ゆっくり歩き出す。
進むたびに、震えが少しずつ強くなる。
かと思えば、また一瞬弱くなる。
まるで、何かを探しているみたいに。
「なんかあるのかも。
キキ、ちょっと付いてきて」
ハヤトは手の振動を見逃さないよう注意しながら歩く。
「……こっち……か?」
「いや……」
ハヤトは立ち止まり、
ゆっくり周囲を見回した。
また一度、首飾りが強く震える。
ハヤトは無意識に、そちらへ顔を向けた。
そこだけ、木の並びが妙だった。
周囲の木は空へ向かって真っ直ぐ伸びているのに、その奥の影だけが、何かを隠すみたいに絡み合っている。
「……なんか、あそこ変じゃない?」
途中から、キキは先導するのをやめ、
ハヤトと並んで歩いていた。
ハヤトは首飾りを握りしめながら、
一歩ずつ奥へ進む。
進むたびに、振動が強っていく。
足元の土は柔らかく、湿った森の匂いがする。長い間、人が踏み込んでいないような、独特な空気。
「近い……気がする」
そう呟いた直後、ハヤトは思わず足を止めた。
木々の奥に、巨大な影が見えた。
そして、そこに立っていたのは──
樹齢何千年にもなりそうな大樹だった。

「……でか……」
ハヤトは思わず息を呑んだ。
見上げても、てっぺんがよく見えない。
幹には深い裂け目が刻まれ、盛り上がった根は岩みたいに地面を覆っている。
一体、いつからここにあるのだろう。
静かに佇んでいるだけなのに、
近づくだけで異様な圧迫感があった。
「ここだけ……空気が違うみたいだ」
キキは隣で立ち止まり、細い尻尾をゆっくり揺らしている。
ハヤトは巨大な根の間を歩きながら、何気なく足元へ視線を落とした。
根が複雑に絡み合った奥。
ほんの少しだけ、不自然に暗く沈んだ場所がある。
「うわ……ここ、穴みたいになってる」
しゃがみ込み、身を屈めた途端、
胸元がドクンと脈打った。
首飾りが、さっきまでとは比べ物にならないほど強く脈打ち始めた。
「な、なに……?」
ハヤトは思わず首飾りを押さえる。
まるで、目の前の穴へ反応しているみたいだった。
恐る恐る、空洞の奥を覗き込む。
暗闇の底。
土と苔に半分埋もれたまま、
何か丸いものが見えた。
「えっ!! 」
「なんかある!」
穴の底に埋もれている何か。
土と苔に覆われているけれど、
自然物じゃないとすぐ分かった。

「……キキ!!ちょっと来て!」
キキは細い尻尾をゆっくり揺らしながら、穴のそばに近付いてきた。
「掘り出してみよう!」
ハヤトは周囲を見回し、太くて丈夫そうな枝を拾い上げた。
慎重に空洞へ差し込み、軽く叩いてみる。
──コツン。
低く硬い音が響く。
ハヤトの目が見開かれた。
「……やっぱり!人工物だ!」
枝を隙間へ差し込み、てこの原理でゆっくり力をかける。
けれど、なかなか動かない。
木の根が深く食い込んでいた。
「くっ……!」
角度を変え、もう一度押し込む。
ミシ、と根が軋む音。
そのまま力をかけていくと、円盤がほんの少し動いた。
「浮いた……!」
ハヤトはさらに力を込める。
ガッ……ミシミシ……
──スポンッ!!
勢いよく抜けた円盤が、穴の中で転がり回った。
ハヤトは手を思いきり伸ばし、何とか拾い上げる。それから、表面についた土を丁寧にぬぐった。
埋もれていた線刻が、少しずつ現れていく。
「……え? これって……」
見覚えがあった。
どこからどう見ても、似ている。

裏面には、方角を示すような紋様。
表面には、首飾りによく似た意匠と、
そして、その中心に小さな突起が一つ。
まるで──
何かが、ぴたりとはまりそうな。
「……これ」
ハヤトは息を呑む。
迷うより先に、手が動いていた。
「もしかして……」
(続く)
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