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🧭ハヤトの冒険09|隠されていた森の秘密

ハヤトの冒険
01|選んでしまった一歩
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07|動き出した好奇心
08|目覚めの羅針
09|隠されていた森の秘密← 今ここ

コンパスの針は、ずっと同じ方を指している。
掌の奥では、微かな震えが続いていた。

ハヤトは何度も手の中のコンパスを見下ろした。

数日前まで、ただの首飾りだと思っていた。
風の日に木の枝から見つけて、誰かの落とし物だと思っていたのに。

それが今は、森の奥のどこかを指している。

「なんか、すごいな……」

思わず小さく笑う。
この先に何があるのかは分からない。
けれど、確かにどこかを示している。

本当に何かある。
そう思うたびに、胸が弾む。

「ねぇキキ、どこに行くと思う?」

返事がないのはわかっている。
それでも、なんだか楽しかった。

不意に、手の中がひときわ強く震えた。

「えっ」

ハヤトは思わず立ち止まる。
針がゆっくりと動き始めた。

今まで指していた方向から、
少しだけ向きを変えていく。
震えも、さっきよりはっきり伝わってくる。

「近い……?」

そう思った瞬間、胸が高鳴った。
ハヤトは思わず顔を上げる。

「キキ!こっちだ!」

元気よく手を振り上げる。
もう、じっとしてなどいられなかった。

湿った苔を踏み越え、
針の指す方へと勢いよく駆け出したその時。

「わっ……!」

足裏がずるりと滑った。

体が大きく傾く。とっさに手をついたものの間に合わず、膝を強く地面へ打ちつけた。

「いたっ……!」

一瞬息が止まりそうになった。
細い枝が皮膚を浅く裂き、
膝には細い赤い線がじわっと滲んできた。

キキは少し離れた所から、
静かにこちらを見ていた。

しばらくその場でうずくまっていたが、
やがて息を吐きながら体を起こした。

「いたた…」 

水筒の水で傷口を流すと、
ぴりっとした痛みが広がった。

キキはゆっくりとハヤトのそばへと近付き、
それから顔を覗き込んだ。

「……ごめん。焦っちゃった」

絆創膏を貼りながら、小さく苦笑する。

ハヤトは深呼吸をして、立ち上がる。

「今度は気を付けるよ」

それからは足元をしっかり確かめながら歩いた。その横を、キキが一定の距離を保ちながら進んでいく。

ある場所でキキが、すっと進路を変えた。
落ち葉の積もった場所を避け、少し遠回りするように歩き始める。

ハヤトは立ち止まった。
キキが避けた落ち葉の隙間。
その下で、小さな石が崩れかけていた。

踏み込めば、また滑っていたかもしれない。

「ありがと……僕もちゃんと見るよ」

キキは一瞬だけチラリと振り返った。
それからまた静かに先を歩いていく。

森の空気が、さらに冷たくなった。

葉の音はさらに遠くなり、
コンパスの震えだけが少しずつ強くなっていく。

ハヤトは一度だけ足を止める。

そういえば、さっきから妙に静かだった。

風は吹いている。
枝も揺れている。

それなのに鳥の声が聞こえない。

歩きながら何度か周囲を見回していたが、
いつもならどこかで見かける小さな動物の姿もなかった。

「……なんだろ、この感じ……」

思わず呟く。

その時、モコの顔が頭に浮かんだ。

『ここ、なんか怖いモコ』

あの時はよく分からなかった。
ただ嫌な予感がしただけだと思っていた。

けれど今なら少しだけ分かる気がする。

怖いというより、誰かの家へ勝手に入ってしまった時のような、なんだか落ち着かない感じ。

ハヤトはもう一度辺りを見回した。

森はいつもと変わらない。

それなのに、今自分のいる場所だけが場違いな気がした。

「キキ……」

呼びかけても振り返らないのはわかっている。
それでも声をかけずにはいられなかった。

キキは一度だけ足を止めると、
尻尾をゆっくりと揺らした。

その仕草につられるように、
ハヤトは顔を上げた──その時だった。

木々の隙間の向こうに、大きな影が見えた。
最初は大木だと思った。

けれど、数歩進んだところで足が止まる。

「あれっ……?」

どこかで見たことがある気がした。
もちろん、こんな場所まで来たことはない。
それなのに妙な既視感だけが残る。

ハヤトは目を細める。
ゆっくりと近付くと、
木々の隙間からその輪郭が見えてくる。

そして──

「まさか……これって」

それは、あまりにも大きかった。
森には似つかわしくないほどに。

苔に覆われながらも、ずっと昔からそこにあったみたいに佇んでいる。

「……ここだったんだ」

静かな森に、その声だけが落ちる。

手の中のコンパスは、まだ微かに震えていた。


(続く)


ハヤトの冒険

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