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はじめおの連茉ラむタヌ 短線小説

「え、䌚瀟蟞めちゃうんですか」

 思わず倧きな声が出お、すぐに口を぀ぐむ。目の前にいるむトりさんはそんな自分を芋お、クスっず埮笑んだ。駅地䞋のレトロ喫茶店。客がほずんどいなかったのが救いだった。
「た、人生ちょっず冒険しおみようかなず」
 悪戯っぜく埮笑んで玅茶を矎味しそうに飲む圌女を芋ながら、『冒険』っお䜕だろうず考えおいた。

◇

 業界雑誌の線集蚘者に転職しお䞀幎。それなりに取材も執筆も量をこなすようになり「自分の曞いた蚘事です」ずようやく胞を匵っお蚀えるようになったころ、デスク副線集長から新しい連茉の担圓を蚀い枡された。ずいっおも自分が曞くわけじゃない。倖郚のラむタヌによる寄皿の連茉だ。自分はそのラむタヌの担圓線集者になる。

 ラむタヌは、むトりさんずいう女性。本業は倖資系ベンダヌので、副業ずしおうちの雑誌にたたに寄皿しおいる。最初は取材先だったのが、「曞いおみたせん」ずいう先茩の軜い誘いで特集蚘事に寄皿しおもらったのがデビュヌらしい。

 ただ、自分は䞀床も䌚ったこずがなかった。写真だけ。連茉を担圓するずいうこずで、メヌルず電話でコミュニケヌションは取っおいたけれど、実際に䌚うのはその日がはじめおだった。

 デスクいわく「圌女は、瀟䌚人ずしお真っ圓なやり取りができるずころがいい」。先茩も「むトりさんなら安心だよ。こっちも勉匷になるし」ずいう。

 実際に䌚っおみるず、写真通りのずおも萜ち着いた女性だった。シンプルな玺のゞャケットにロングスカヌト。長い髪。きれいな革のトヌトバッグを肩にかけおいる。正確な幎霢は聞けないけれど、たしか自分より少し幎䞊の代埌半のはず。

「むトりです。これからよろしくお願いしたす」
 声も䜎いトヌンで聞きやすい。頭を䞋げる姿も背筋がピンず䌞びおいお品がある。芁するにザ・倧人の女性だ。連茉を担圓するのはもちろん、女性ラむタヌを担圓するのもはじめおだったから、少し緊匵する。

 けれど、「理孊郚出身なんですよ」ずいう圌女のひずこずですぐに打ち解けた。自分が工孊郚ずいうこずもあり、リケゞョに同じ匂いをかぎ取ったのかもしれない。
 しばらく連茉の方向性や締め切りの確認など、具䜓的な打ち合わせが進んだ埌、雑談になった。

「〇〇さんは、゚ンゞニアから蚘者に転職したっお聞きたした」
 事前にそんな情報は䌝えおないから、たぶん先茩が教えたのだろう。
「ええ。ただ䞀幎ちょっずです」
「ずいぶん思い切りたしたね。冒険じゃないですか」
 『冒険』ず蚀われたのは初めおだった。たしかにそうかもしれない。
「たあ、倧倉なこずばかりで  」
「転職しお良かったですか」
「  自分で決めた道ですからね」
 そう答えるず、むトりさんは深くうなずいた。そしお玅茶に口を぀けおから、さらっず蚀った。
「私も、倏には転職したす」
 
 アヌルグレむ独特のさわやかな銙りが挂っお、䞀瞬、䜕を蚀われたのかわからなかった。思わず倧きな声が出た。
「え、䌚瀟蟞めちゃうんですか」
 むトりさんがクスっず埮笑んでうなずく。
「次はどこの䌚瀟に行くんですか」
「いえ、独立しようかなっお」
「独立  」
「ご存じかもしれたせんが、来月、瀟から曞籍を出すんです。はじめおのコンピュヌタ技術解説本」
 瀟は倧手の技術系出版瀟だ。曞籍を出す件は先茩から聞いお知っおいた。狭い業界だし、うちの垞連ラむタヌには、競合他瀟からもいろんな誘いが来る。
「じゃあ  フリヌのラむタヌに」
「  たあ、圓面は曞くこずが䞭心ですね。でも、せっかくだから、いろいろやっおみる぀もり」
 いろいろが䜕を意味しおいるのかさっぱりわからなかったけれど、こんなに萜ち着いた雰囲気を醞し出しおいお、けっこうアグレッシブな人かもしれない、そう思った。
「今の䌚瀟、絊料いいですよね  それなのに蟞めちゃうんですか」
「転職の先茩ずしお、いろいろ教えおくださいね」
「先茩はやめおください」
「  私も人生ちょっず冒険しおみようかなず」
 そう蚀っおむトりさんは、残りの玅茶を矎味しそうに飲んだ――

◇◇

 連茉の線集者は、蚘者ず䜿う筋肉が違う。

 連茉党䜓の方向性ずいった長期戊略のほか、毎回の原皿の査読、赀入れも行う。連茉誌面のレむアりトやデザむンもデザむナヌず話し合う。初校たでは自分ずラむタヌでキャッチボヌルしお進むが、そこから先はデスクがチェックするので、自分の曞く蚘事より校了たで時間がかかる。担圓者は、そういったやりずりを的確か぀効率よく進め、連茉を続けおいけるようにラむタヌを毎回、叱咀激励し続けないずいけない。

 自分の蚘事しか考えられなかった『蚘者』に比べお、『線集者』はプロデュヌサヌだ。ちゃんずした蚘事になるよう仕䞊げ、人気が出るように党䜓を俯瞰しおいろいろなずころに目を配る。文字通り二人䞉脚。

 それを考えるず、線集者ずしおはただ若葉マヌクの自分にずっお、はじめおの連茉ラむタヌがむトりさんずいうのは本圓に幞運だった。

 圌女は締め切りを必ず守る。しかも原皿の出来がすこぶるいい。事実関係にも間違いはなく、文章もさらさらず読めお気持ちよく、か぀わかりやすい。自分の堅苊しくお面癜くない文章に比べ、むトりさんの文章は流暢でリズミカルでやや文孊的。芁するに䞊手いのだ。ああ、良い曞き手っおこういう人のこずを蚀うんだ。原皿を読むたびにそう思った。

 自分ずはレベルが違う――その割り切りが良かったのか。自分ずむトりさんずのコンビは思いのほかうたくいった。頻繁にメヌルでやりずりし、意芋を亀わした。自分のアむデアをむトりさんがうたく具珟化しお曞いおくれるこずもあった。そういった努力が実ったのか、読者アンケヌトではむトりさんの連茉が䞀番高く評䟡されるようになった。先茩やデスクにも耒められ、正盎ちょっず錻が高かった。

 倏になっお、むトりさんは宣蚀通り退職しおフリヌランスになった。

 線集長の配慮で原皿料が少し増えるこずを䌝えるず、「〇〇さんのおかげです。もっず期埅に応えるよう頑匵りたす」ず、深々ず自分に頭を䞋げた。そのあず、独立のお祝いで先茩ず人、飲みに繰り出した。

 期埅に応える――それは本圓だった。

 瀟から発行されたむトりさんの曞籍は、この手の専門曞にしおは想像以䞊に売れた。すぐに重版が決たったずいう。うちの出版瀟からも、連茉の原皿が貯たったら曞籍にしお出そうずいうこずになった。

 さらに倧手ベンダヌ瀟のむベントでは、業界の有名゚ンゞニアを集めたパネルディスカッションで叞䌚もやるずいう。同瀟のオりンドメディアにも、圌女を前面に出した連茉コラムが始たった。

 そのどこにも、圌女は名前本名や経歎、写真を堂々ず茉せおいた。

 圌女には、か぀お自分が感じたような実名を出すこずに぀いおの葛藀はなかった。たぶん、自分の名前で食べおいくずいう芚悟が最初からあったのだろう。や動画サむトで情報発信も積極的に始めた。

 䞀方で、圌女にもアンチはいた。取材先で名指しで批刀する人もいたし、でし぀こく批刀する投皿も芋぀けた。それでもむトりさんは、「ここで螏ん匵らないずね」ずあっけらかんだった。連茉の打ち合わせで䌚いに行くず、い぀もその盎前たで資料を読み蟌んでいる。い぀䌑んでいるのだろうず思った。

 その幎の暮れ。

 むトりさんは同業者の系ラむタヌたちず小さな䌚瀟を䜜った。

 そこを拠点に共同で雑誌、、曞籍、ムック、むベントの䌁画を各瀟に売り蟌み、手分けしお執筆から線集、むベントでの講挔や叞䌚業たでこなすようになった。線プロ線集プロダクションずマネゞメント事務所が䞀緒になったようなものだ。その䌚瀟名矩で、曞籍が他瀟から䜕冊も出るようになった。

 ああ、これが『いろいろ』やりたかったこずだったんだなず理解したころには、むトりさんは最初に䌚ったずきずはずっず別の存圚になっおいた。もう、うちの雑誌だけのラむタヌじゃない。ラむタヌやフリヌの線集者たちを組織化した䌚瀟の経営者だ。

 連茉原皿の校正䜜業䞭、「忙しそうですね」ずメヌルするず䞀床だけ「ほんずに倧倉」ずひずこず返事が来たこずがあった。でも、埌日䌚っおみるずい぀も通り。少なくずもそう芋えた。

 むトりさんがだんだん成功しおいくこずに぀いお、圌女をデビュヌさせた先茩は耇雑な気持ちだったようだ。正盎、自分もそういう感じがなかったずいえばり゜になる。けれど、自分は圌女のような才胜がないこずを自芚しおいたから、うらやたしいずいうより凄いなあずいう気持ちのほうが匷かった。線集者ずしお、圌女の成功に少しは貢献できたず思いたかったのかもしれない。

 ただ、圌女の䌚瀟が忙しくなっおくるに぀れ、以前よりメヌル返信のスピヌドが遅れおくるず、少し寂しさを感じるようにはなった。連茉原皿のクオリティは萜ちなかったし、打ち合わせでは気さくに話せるのに、メヌルの曞き方が杓子定芏ずいうか、フォヌマット化しおくるようにも感じた。圌女の䌚瀟から、圌女の埌任ずしお新しいラむタヌの売り蟌みもあった。

 翌幎、うちの雑誌でのむトりさんの連茉は圓初の予定通り終了した。

 もちろん、自分はもっず䞀緒に仕事を続けたかった。だけど、誌面の郜合もあり、連茉は継続できなかった。それでも自分は「次の機䌚にぜひ」ずメヌルした。「もちろん」ず短い返事が来た。

 こうしお、ほが毎週のようにコミュニケヌションしおいた自分ずむトりさんずのやりずりは自然消滅しおいった。うちからの曞籍化の話もかなわなかった。

 盛倧にやろうず蚈画しおいた連茉終了の打ち䞊げは、互いの郜合が合わず、結局できなかった――

◇◇◇

 むトりさんに再䌚したのは数幎埌だ。

 雑誌業界も、線集蚘者の仕事も、その数幎ですっかり倉わった。昔のように雑誌や曞籍が売れる時代ではない。うちの䌚瀟や線集郚だけでなく、埌茩ができお自分の立堎もいろいろ倉わった。やるべきこずも倉わった。

 そんなずきに、最初にむトりさんに䌚った駅地䞋の喫茶店で、ばったり圌女ず再䌚した。

 たたたた䌑憩に入ったら、むトりさんが䞀人で玅茶を飲んでいたのだ。

 それたで、䜕床か仕事ですれ違う堎面はあったけれど、互いに忙しくお頭を䞋げる皋床だった。でも、そのずきは店の入り口でお互いすぐに目が合っお、どちらからずもなく笑顔になり、自分はむトりさんの向かいの垭に座った。ちょうど、以前ず同じ垭だった。

 コヌヒヌを泚文しお、お久しぶりですの挚拶を枈たすず、むトりさんがあの萜ち着いた䜎いトヌンの声で切り出した。
「盞倉わらず忙しそうですね」
 初察面のずきに芋たきれいな革のトヌトバッグは色が萜ち、角も少し擊り切れおいる。もちろん、それは口に出さない。
「たあ、こういう時代ですから、生き残るのに必死ですよ」
「うちも同じ  」
 『うち』ずいうのは圌女が䜜った䌚瀟のこずだろう。所属ラむタヌが枛り぀぀も、圌女の䌚瀟は続いおいた。でも、あたり話題に䞊らなくなっおいる。最近は䜕をしおいるかよく知らなかった。

「〇〇さんは、もう転職はしないの」
 ふいにむトりさんが聞いおきた。
「  たあ」
「  もう冒険はしない」
 むトりさんが悪戯っぜく埮笑んでいるこずに気づいた。ああ、あのずきず同じだ。

「䜕をもっお冒険ずいうのかわかりたせんが  」
 むトりさんが静かに玅茶に口を぀けるのを芋ながら蚀った。たた、アヌルグレむの銙りがほんのりする。
「  自分はいたでも冒険しおいる぀もりですよ」

 店員がコヌヒヌを持っおきお、自分の前に眮く。カチャリず、カップず゜ヌサヌがずれる音がした。コヌヒヌの苊い銙りが挂う。

「良かった。私もただ冒険䞭」

 むトりさんが自分の目を芋ながら、少し埮笑んだ。

 アヌルグレむの銙りずコヌヒヌの銙りが混じりあう。自分も静かにコヌヒヌに口を぀けた――


了


䜜者より
䞋蚘は本䜜の䞻人公の別のお話です。䜵せおお読みいただけたすず幞いです。緩やかに぀ながっおいたすが、それぞれ単独でお読みいただけたす。

スピンオフ䜜品


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