見出し画像

エッセイしりとり企画│いつも季節が、あの頃を連れてくる

3月になると、私には聞こえる歌がある。
「ごーにんばやしの、めんたいこー♪」

もちろん、本当の歌詞は「五人囃子の笛太鼓」である。明太子ではない。雛壇に、突然の博多名物である。

子どもたちがまだ小さかった頃、「うれしいひなまつり」を覚えて、ご機嫌で歌っていた。
「ごーにんばやしの、めんたいこー♪」

あまりにも堂々と歌うので、こちらも一瞬、「あれ、そんな歌詞だったっけ」と思いそうになる。

違う。笛太鼓だ。

そして7月になると、また別の歌が聞こえてくる。
「ごーひきーの、たーぷたぷ♪」

こちらの正解は、「五色の短冊」。
なぜ短冊が5匹になったのか。
そして何がたぷたぷしているのか。

今となっては、本人たちにも分からないと思う。
でも当時は、これまた自信満々だった。
我が家の七夕には、正体不明の「5匹のたぷたぷ」がいた。


いつの間にか、正しくなっていた

そんな子どもたちも、今ではちゃんと正しい歌詞を知っている。

「五人囃子の笛太鼓」
「五色の短冊」

何の迷いもなく歌う。

いつ直ったんだろう。私は覚えていない。
ある年のひな祭りには明太子だったのに、次の年にはもう笛太鼓になっていた。

子どもの成長って、そういうものなのかもしれない。

初めて歩いた日。
初めて「ママ」と言った日。

そういう「できるようになった瞬間」は、写真を撮ったり、記録したりする。
でも、「最後に間違えて言った日」は、誰も記録していない。

いつが最後だったのかも分からないまま、ある日ふと、その言葉をもう聞かなくなったことに気づく。
少し寂しい。

とはいえ、まだ現役もいる

……とはいえ。我が家には、まだ一つだけ生き残っているものがある。

「エベレーター」。
エレベーターではない。エベレーター。
何度聞いてもエベレーターである。

以前なら、「エ・レ・ベーターだよ」と直していた。
でも最近は、あえて何も言わない。

どうせ、そのうち正しく言えるようになる。
小学校に入ったら、お友達に教えてもらうかもしれない。ある日突然、「エレベーター来たよ」と言うようになるのだろう。

そのとき私は、たぶん気づかない。
何日か経ってから、「あれ? 最近、エベレーターって言わないな」と思うのかもしれない。

だから今は、もう少しだけ間違えていてほしい。
エベレーターには、できるだけ長く生き残ってもらいたい。

子どもが忘れたことを、親が覚えている

子どもたちは、「五人囃子の明太子」と歌っていたことなんて、もう覚えていない。「明太子じゃないの?」と聞いたら、「笛太鼓だよ!」と怒られた。

「五匹のたぷたぷ」も、きっと忘れている。
これから先、もっとたくさんのことを忘れていくのだろう。

初めて保育園へ行った日のこと。
抱っこしてほしくて泣いた夜のこと。
意味の分からない言葉を作って、得意げに話していたこと。

本人たちにとっては、記憶にも残らないような小さな出来事。でも、親の中には残っている。
子どもが忘れてしまった幼い頃を、親だけが覚えている。

そう考えると、親というのは少し不思議な存在だ。
誰かの人生の、本人も知らない最初の数年間を覚えている。

いつも季節が、あの頃を連れてくる

今年も3月になれば、どこかで「うれしいひなまつり」が流れる。7月になれば、「たなばたさま」を耳にする。隣では、子どもたちが正しい歌詞で歌っている。

でも私には、その向こうから、もう一つの歌が聞こえてくる。
「ごーにんばやしの、めんたいこー♪」
「ごーひきーの、たーぷたぷ♪」

きっとこれからも、毎年思い出す。
子どもたちがどれだけ大きくなっても。
正しい歌詞しか歌わなくなっても。

季節が巡るたびに、あの頃の小さな二人が、ひょっこり顔を出す。
だから私は、春になるたびに明太子を思い出し、夏になるたびに謎の5匹を思い出すのだろう。

そして今はまだ、「エベレーター!」と叫びながら走っていく二人の後ろ姿を見て、ひそかに思っている。

どうか、もう少しだけ間違えていて。


終わりに:エッセイしりとり企画

今回の記事は、流行りのエッセイしりとり企画に乗っかって書いたものです。JINYOKUさんから「い」で始まるタイトルの記事のバトンを受け取って書くに至りました。

JINYOKUさんのマネジメント記事、いつも楽しみにしているのですが、今回もまさにこの企画の核となる「人との縁」に関する素敵なエッセイでした。JINYOKUさん、ありがとうございます。

次のバトンはこの方へ

いただいたご縁をつなげるため、この記事のタイトルの末尾「る」から始まるバトンを次の方へお渡しします。勝手ながら3名、ご指名させていただきました。
「る」…なかなか難しいお題になってしまってすみません💦もしバトンを受けとってくださるなら、こちらの企画記事もぜひご覧ください!

1人目:ゆかんさん
女医をしながらのワンオペ育児にも関わらず、Kindleを3冊出版し、かつ育児部というコミュニティも回してらっしゃるスーパーママさん。ゆかんさんの問題提起にはいつも「わかる…」と考えさせられます。


2人目:あさこさん
同じ2児の母、管理職、人材系のお仕事ということで勝手に親近感を持っております。細やかな視点での育児やキャリアの記事に、毎回共感するとともになんだか癒されています。


3人目:なおさん
投資歴15年。そう聞くととても遠い人のように思えますが、なおさんの投資記事はとても身近で、わかりやすく書かれています。いつも勉強させていただいてます!

皆さんお忙しいと思うので、ご参加は気が向いたらで結構です😊でも書いてくれたらめちゃくちゃ喜びます。笑

その他、「る」から始まる記事を書いてみたい!というチャレンジャーな方も大歓迎です。

いいなと思ったら応援しよう!

KIKKA|双子育児×管理職 いただいたチップは、双子とのお出かけやおやつに使わせていただきます。双子のご機嫌を糧に、私も執筆がんばります。