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40年間の末路 第8章 「デキちゃった」 ドキュメンタリー小説|自叙伝|20代

 しばらくして仁美はニヤリと笑って、ぽつりと言った。

 「デキちゃった。あなたの子よ。責任取ってよね」

 頭の中で、何かが止まった。

 帰国したあの夜のことを思い出した。
一年ぶりの再会で、仁美を慰める事に夢中で、避妊をしなかった。
あの日のたった一度だけだった。
あの時の油断が、こういう結果を招いたのか。

 「えっ?!マジで?」

 開口一番そう答えた。
いや、それしか言葉が出なかった。

本当に僕の子なのか?
もしかしたら、帰国前に他の男と寝ていたのではないか?
そもそも「デキた」って虚偽か妄想か?

 やっと別れられたと思った矢先だったのに、最悪のシナリオを携えて、ブーメランのように仁美は戻ってきた。
頭上から巨大な岩が落ちてきて、その下敷きになったような感覚だった。

 やむを得ず仁美を部屋に入れて、話を聞いた。
まだ妊娠15週とのことで、中絶は可能だった。
費用を負担することも、責任の取り方としてあり得ると思った。

 「産むの?」

 仁美は下を向いたまま黙っていた。

 「堕すの?」

 仁美は即座に、迷いなく首を横に振った。

 「じゃ、どうしたいの?」

 「あなたと結婚して、この子を産みたい」

 部屋の空気が変わった気がしたが、何も変わっていなかった。
ただ、逃げ場がなくなっただけだった。

 しかも自分はまだ大学3年生だ。叶えたい夢はたくさんあった。それらを諦めたくなかった。
ただ二十歳を超えていても、宿った命に対して、何も決定権は持っていなかった。持ちたくもなかった。

 「二人だけでは決められない。それぞれの両親に相談しよう」

 それぞれの両親に怒鳴られて結婚・出産を却下されることを、正直なところ、祈った。

後日まずは福島の仁美の実家に先に報告に行った。

 仁美の実家の中では、父親の留吉とめきちは怖いと聞いていた。頑固で、人の話を聞かない人らしい。仏間に二人並んで正座し、一連の事情を説明した。

 留吉はしばらく腕を組んだまま黙っていた。
ちゃぶ台をひっくり返されることを期待していると、
ゆっくり頭を下げた。

「こんなわがままな娘ですが、よろしくお願いします」

 福島訛りではっきりとした口調で、あっさりと許可が出た。

 隣に座っていた母親の雅子も一緒に頭を下げた。

さらに里帰り出産なら出産費用も持つと言った。拍子抜けした。

 ただ僕の実家の父、康雄やすおは世間体を気にする人だった。どんな事を気にして、どう反応するか読めなかった。

 数日後、仁美を連れて実家に帰ると、

「結婚式を挙げるなら認める」

 こちらもあっさり許可がでた、しかも予想外の条件付きだった。仁美は結婚式に乗り気ではなかったが、結婚式費用は両親が全額負担するというので、否が応でも受け入れるしかなかった。

しかも両家とも、僕の卒業まで経済的に支援すると言った。
 結局どちらの両親も反対しなかった。その理由はひとつだけだった。

早く初孫の顔が見たい、ただそれだけだ。

 こうして二人の結婚が決まった。

 結婚式の件で自分たちが何かを決めた、という感覚はほとんどなかった。気づいたら茨城の両親たちが地元の式場を選び、日程を決め、仲人を手配し、招待客リストや式次第を作り上げていた。

僕らは敷かれたレールの上の貨車に乗せられただけだった。

 招待客は両家合わせて二百名近くになっていた。式場で最も大きい会場が押さえられた。
 何が起きているのか、しばらく実感が追いつかなかった。数ヶ月前まで別れ話をしていた相手と、二百人の前で誓いを立てることになっていた。

見栄っ張りな康雄の言動は不愉快だったが、止める方法もなかった。

見世物小屋の客寄せパンダ

そんな言葉がぴったり合った状況だった。

第7章   第9章

#創作大賞2026 #恋愛小説部門

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