40年間の末路 第38章 仁美の未来予想図 ドキュメンタリー小説|自叙伝|50代
すると翌年の2025年7月、愛里から突然電話が来た。
「いわきの婆ちゃんがグループホームに入所したみたいよ。
パパ知ってた?」
前年8月に仁美の実家を訪れて以降、連絡を取っていなかった。
「マジで?!どうして知ったの?」
「隣のなっちゃんから連絡来た」
「なっちゃん」とは、仁美の実家の隣に住む、夏海の事で、愛里と歳の近い旧友だった。前回いわきを訪れた際に、LINE交換していたらしい。
「リウマチが悪化して、認知症を発症したら、77歳で一人暮らしは無理だよね」
「どんな状態か、ちょっと心配……」
「じゃ、来週様子を見に行ってくるよ」
と、急遽、施設に面会予約を入れ、翌週一人で向かった。
住宅街の中にある小さなグループホームに13時に到着した。
受付で記帳しようとすると、続柄を書く欄で手が止まった。
(また、ここか)
思わず、苦笑いをしてしまった。
「続柄の選択肢に該当しないんですが…」
「どういったご関係で?」
「離婚したので、元義理の息子です」
施設職員は少々不思議そうな顔をした。
「余白にその旨をお書きください」
案内された二階の面会コーナーで待っていると、奥から職員に手を引かれて雅子が現れた。
「あらー、佳弘さん!よく来てくれたね!どうしてここがわかったの?」
受付で応対した職員の話では、面会前は僕の名前を聞いてポカンとしていたそうだが、僕の顔を見て、思い出したようで、ほっとした。
「お隣のなっちゃんが愛里に連絡してくれたようで、
愛里から聞いて来ました」
「あぁ、なっちゃんがね!」
その後、施設入所までの経緯を聞いた。
施設入所の手配は群馬の義兄・基彦がすべてやってくれたという。
また毎月の通院送迎も基彦が来てくれると聞いて、安心した。
「ところで仁美には連絡したんですか」
「それがその後、連絡がつかなくて……
一人娘なのに、困った人だよね」
「なんとか連絡できるか、検討してみます」
15分の面会を終えて一階の受付に戻ると、
「雅子さんはいいですね。
たくさんの人が面会に来てくれるから…」
「でも、元妻である実の娘はまだ来ていません」
「そうでしたね」
「僕も元妻と連絡が取れないけど、なんとか来てもらえるよう努力します」
「お願いします。
でも中には誰一人面会に来ない方もいますよ」
「そうなんですね」
施設を後にして、すぐに愛里と真那に報告した。
愛里は翌月、孫二人を連れて、雅子に会いに行った。
そして僕は仁美に伝える方法を、あの手この手で考えた。
仁美と光太郎は生活保護を受けていると雅子から聞いた。
そこで市役所の生活支援課に電話した。
「仁美たちが福島に行くのに、支援はできませんか?」
「ご家族の葬儀や危篤なら交通費の支援はありますが、
現時点では難しいですね。
ただ仁美さんにはお母様の状況をお伝えします」
担当者への伝言依頼はできた。だが仁美たちがいわきに行くには、結局、群馬にいる基彦を頼るしかなかった。
2011年の震災以来、14年ぶりに基彦に電話した。
「基彦さん、ご無沙汰しております。佳弘です。お元気ですか」
「何の用だ」
元ヤンキーの基彦は、相変わらずぶっきらぼう話し方だった。
少々緊張しながらも、単刀直入に切り出した。
「先日雅子さんが施設に入所したと聞いて面会に行ったんですが、
仁美に会いたがっていたようでした。
仁美たちは今、埼玉で生活保護を受けていてご実家に行くのが難しい状況なので、基彦さんがご実家に行く際に、序に連れて行ってもらえませんか」
「なんで俺が仁美を連れて行かなきゃいけないんだ。
アイツらがどうなろうと、もう知ったこっちゃない。
たとえ旧姓に戻しても、実家にも墓にも入れるつもりはない」
と、完全な門前払いを受けた。
「わかりました。余計な心配をして失礼しました」
留吉の葬儀に参列しなかったことを、相当根に持っていたようだった。
結果的に離婚後、仁美たちは親戚全員を敵に回していた。そして頼れる身内が、誰一人いなくなっていた。
自業自得、という言葉が頭に浮かび、まさに因果応報だった。
ただ、その事実を仁美に突きつけて溜飲を下げる術はもうない。やがて仁美も若年性認知症が進行して、雅子と同じようにグループホームで職員に手を引かれて歩くだろう。
そんな仁美の未来予想図が、明確にイメージできる。
しかし同情する余地は全くなかった。
第1章はこちらから
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