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【䞀氣読み・長線小説】「愛の歌を君に」

こちらは長線小説「愛の歌を君に」党16話を通しで読めるようにたずめた蚘事です䞭盀にカット順番を倉えた箇所あり。その他、党䜓的に修正あり。
テヌマは「人々の目芚めを促す」です。読み応えたっぷりの物語ずなっおおりたす。今の瀟䌚に疑問を持っおいる方、生きづらさを感じおいる方、瀟䌚に䞍満を持っおいる方にオススメ。ぜひ読んでみおください🥰

ただ最終話を読んでいない方はこちら  
【連茉小説】「愛の歌を君に2」#最終話 新たな野望を胞に

第䞀郚・䞀氣読み「愛の歌を君に」あらすじありはこちら
※初めおの方は、こちらで䞖界芳を知っおから読むずより楜しめたす


<<あらすじ738字>>

麗華の所属事務所・瀟長から「䞉人でメゞャヌデビュヌしないか」ず声がかかった。断れば音楜業界から締め出されるこずが分かっおいた麗華だが、拓海ず智節に励たされ事務所を蟞める決意をする。

「いじめ」はすぐに始たり、行き぀けのラむブハりスのオヌナヌからも出入り犁止を蚀い枡されおしたう。

埌日、音楜プロデュヌサヌ・ショヌタず、りェブ䞊で人氣のバンド「ブラックボックス」の協力により、ミュヌゞックビデオのりェブ配信を成功させた䞉人だったが、協力者の䞀人であるリオンが麗華の所属しおいた音楜事務所に匕き抜かれたこずでメンバヌの仲が悪化する。

リオン䞍圚のたた、サザンクロス単独のラむブを業界の息がかかっおいない野球堎で開催するこずが決たる。麗華が所属しおいた音楜事務所が同日に急遜、音楜フェスを開催するずいう察抗策をずっおきたり、台颚接近に䌎う悪倩候に芋舞われたりず困難な状況に陥る䞭、ラむブ䌚堎には熱心なファンが集い盛り䞊がる。

前半のラむブもいよいよラストずいう時、停電が発生する。そんな䞭、りェブ配信を続けろず蚀ったのはオヌナヌだった。その蚀葉に埌抌しされ、再開したラむブは無事に終わる。

控え宀に戻るず、そこにはなんずリオンがいた。葛藀の末、ショヌタの手匕きにより停電に乗じおアリヌナを抜け出しおきたずいう。圌はサザンクロス封じのためメゞャヌぞの憧憬しょうけいを利甚されおいたのだった。真盞を聞いた仲間はすべおを赊した。

停電が続く䞭、六人で始たった埌半のラむブは歌の奇跡がたびたび起きるなどしお䞀局盛り䞊がる。いよいよ最埌の曲ずいう時になっお麗華の元所属事務所・瀟長が姿を珟した。麗華は瀟長を、そしお聎衆を目芚めさせるために歌う。その倜、その堎所はたさに愛ず平和に溢れる䞖界になったのだった。

前半玄42000字


麗華

 ――で、どうする 麗華の考えを聞かせおくれ。
 声を倱った拓海の新しい䌝達手段である手話を読み取ったあたしは、腕を組んでしばし悩んだ。

 倧型連䌑に、新生サザンクロスで初めお行った路䞊ラむブは倧成功のうちに終わった。それに぀いおは䜕ら䞍満はなく、むしろ誇らしくさえ感じおいる。が、問題はそのあず。

 音楜事務所に呌び出されたあたしは、「いい加枛゜ロに戻りなさい」ず蚀われるに違いないず身構えおいた。ずころが瀟長の口から飛び出したのはたさかの「サザンクロスのメゞャヌデビュヌ」案。人づおに路䞊ラむブの撮圱動画を芋た瀟長があたしたちの集客力をみお「売れる」ず思ったらしい。

 これが二十代の頃の誘いだったらどれだけ良かったこずか。あの時はあたしだけが匕き抜かれ、それが原因でバンドは解散。メンバヌには長らく恚たれるこずになったわけだが、䞉十数幎が経った今になっおあの頃望んでいた「メゞャヌデビュヌ」のお声がかかるずは皮肉なものである。

 これがただの、、、再結成埌の話なら喜んで飛び぀いただろう。しかしあたしたちは拓海の病を機に集たり、圌の声の喪倱を乗り越えおここにいる。自分たちの音楜を衚珟するこずの歓びを改めお知り、たさに今、新生サザンクロスずしお出発しようずしおいるずころぞ「メゞャヌデビュヌしないか」ず蚀われおも困惑するばかりだ。

 名を売りたいなら受けるべきだず蚀うこずは党員が承知しおいる。ただ、今のあたしたちの目的は内なる想いを衚珟するこずに尜きる。メゞャヌの䞖界に足を突っ蟌むず蚀うこずは、自分の意志ずはかけ離れた音楜䜜りを甘んじお受け容れるこずでもある。それが嫌でむンディヌズで掻躍しおきた拓海ず智くんが銖を瞊に振るずは到底思えなかった。いや、あたし自身、今では圌らず同じ考えに至っおいる。プロデビュヌしおからずいうもの、倚くの曲を事務所に蚀われるがたた䜜っおきたが、改めお聞き盎しおみるず党然「あたしの思い」が籠もっおいないのが分かる。自分の仕事甚の音楜に玍埗できないたたメゞャヌの䞖界に戻っおも無意味なのは明らかだ。

 ではなぜ悩む必芁があるのかず蚀えば、この誘いを断るこずで䜕が起きるのか想像できおしたうからだ。端的に蚀えば「いじめ」が始たる。䞻芁な音楜むベントには出られなくなるだろうし、悪評が流される恐れもある。そうなっおしたえばあたしたちの掻動は制限され、「䞖界埁服」など倢のたた倢になるだろう。

「メディアの力ずはそれほどたでに匷倧で恐ろしいものなのよ  」
 自分の考えをたずめ二人に説明するず、智くんも拓海も呆れたようにため息を぀き、顔を芋合わせた。

「今曎そんなこずを恐れる僕たちじゃないよ」

 ――そうだぜ。芚悟を決めなきゃいけないのは倚分、麗華のほう。これからも俺たちずむンディヌズの䞖界でやっおいく぀もりがあるなら誘いを蹎っお欲しい。事務所を通しお出る仕事を断っお路䞊ラむブをするず決意した時のように。

「    」

「むンディヌズにはむンディヌズのやり方があるし、僕らは金で買えないものを持っおる。音楜業界の圧力には決しお屈しない」
 智くんの蚀葉に拓海も頷く。

 ――なんだかんだ蚀っお、デビュヌ曲が䞀番良かったっおアヌティストは倚い。  そう、誰でも最初は魂が籠もっおる。だけど売れるに埓っお魂が抜かれおく。俺たちはそうはなりたくないし、麗華にももう、そういう道を歩いお欲しくない。  っおいうか、俺たちを信じおるっおいうなら䜕も怖いこずはないだろう

 二人の力匷い蚀葉ず目力を芋おホッずする。
「やっぱり二人ず䞀緒で良かった  。そこたではっきり蚀っおもらえたなら、こっちもすっぱり断れる」

 どのみち、路䞊ラむブが枈んだら事務所ずは話し合う必芁があるず思っおいたのだ。あちらはいい条件を提瀺しおくれたが、仲間ずずもに「䞖界埁服」を果たそうず目論むからには既存の組織ずの察峙は必至。たずえそれが業界の非垞識であったずしおも。

 二人の顔を亀互に芋ながら蚀う。
「あたし、事務所を蟞める。瀟長には悪いけど、話をもらったこずでメゞャヌデビュヌできるだけの実力があるんだっお分かったし、実際に路䞊ラむブでは手応えを感じたもの。蟞めるなら今しかない」

 拓海ず智くんは目を䞞くしたが、盎埌ににやりず笑い合った。


拓海

 芚悟に満ちた衚情が印象的だった。口には出さずずもずっず以前からこの日が来たらどう動くか遞択肢を甚意しおいたに違いない。長幎䞖話になった事務所からの「優しさ」を拒吊し、むンディヌズでやっおいくず宣蚀するのは決しお容易たやすいこずじゃない。しかし麗華には確かな実瞟がある。俺たちにもある。そこに人が居さえすれば、そしお歌声ずギタヌさえあればいかようにも出来るこずを知っおいる。この自信はちょっずやそっずじゃ折れない。ずりわけ死の淵から戻っおきおいる俺の堎合は。

 やりたいこずは党郚やった぀もりだった。死んでも埌悔しないはずだった。だけどそれは俺個人の話で、俺ず䞀緒に新しい䞖界を䜜りたいずいう二人の想いに応えおいなかったず氣付いたのは死の間際。生還の代償に自分の声を差し出さなければならなかったのは正盎蟛かったが、二人の笑顔を目の圓たりにしたずきは悪い取匕ではなかったかな、ず思えたのだった。

 生きるこずの意味を知ったのもその時。ちっぜけに思えるこの呜も誰かを喜ばせるのに圹立っおいるなんお、死にかけなければきっず䞀生氣づけなかった。二人にはただちゃんず䌝えおいないが、俺が䞖界に向けお発信すべきはこの氣づきだず思っおる。

 俺は智節を小突き、手を小さく動かす。
 ――頌みがあるんだけど  。俺の代わりに歌っおほしい歌がある。

「拓海の代わりに」

 ――ああ。麗華の綺麗な声よりお前の力匷い声の方がむメヌゞに合うんだ。  俺を生かした責任、ずっおくれるんだろう

「そう蚀われたんじゃ断れないな  。オヌケヌ。リヌダヌの頌みなら䜕でもするよ。で、どんな曲」

 問われた俺は歌詞ず楜譜を手枡し、早速ギタヌを奏で始める。心の䞭で歌いながらリズミカルに匟く。智節が口ずさみながら身䜓を揺らす様子を麗華が埮笑みながら芋おいる。

「ずっおもいい曲。確かにその歌詞なら、あたしより智くんの声の方が断然いいわ。ねぇ、もう䞀回匟いおみおよ。今床はあたしも䞀緒に匟く」
 麗華は俺たちの返事も埅たずにギタヌを匕っ提げ、音を合わせ始めた。

 俺たちの挔奏に合わせお智節が二床䞉床、同じ歌を歌う。聞けば聞くほど惚れ惚れする矎声。りむング時代は曲ずの兌ね合いもあっお俺がメむンでボヌカルを務めおいたが、「オヌルドニュヌワヌルド」をはじめ、智節の歌が始たるず誰もが「魂の叫び」を聎く䜓勢に倉わったものだ。そんな智節の才胜を矚みながらも俺は文字通り喉を嗄からしお歌うこずしか出来なかった。

 そんなこずを考えおいたら智節の呟きが聞こえる。
「ただただ歌いたかったんだろうね  。歌詞に君の、歌いたいずいう想いが詰たっおる」

 確かに思いは蟌めた。しかしあくたでも延長戊に入った人生で思うこずを俺なりに衚珟しただけ。完党に声を倱った生掻に慣れた今は、地声で歌いたいずいう氣持ちはだいぶ薄れおいる。その理由を手話で䌝える。

 ――いんや。お前の声を通しおちゃんず衚珟されるからなんの未緎もねえよ。いたや、お前の声は俺の声も同然だ。俺たちゃ䞀心同䜓。そうだろう

「なるほど  。それが声ず匕き換えに君を生かしたこずに察する莖眪ならば、僕は君の『声圹こえやく』を、君が死ぬたで続けなくちゃいけないわけだ。たぁ、いいさ。君の想いを感じながら歌えば自ずず君らしく歌える。  あ``ヌあ``ヌ。そういうこずならもうちょっず喉を朰した方がいいかな」

 ――そい぀はオススメしねえな。ほんずに喉を痛めかねない。

「冗談さ。君が声を倱うのを目の圓たりにしおるし、君ず違っお喉のケアをするのは僕の趣味だからな」

 その蚀葉を聞いお反射的に小突いたが、こうなったのはすべお自分に責任があるのも分かっおいるので、湧き䞊がっおきた自分ぞの怒りはギタヌに乗せお発散するこずにした。


智節

 長きにわたる音楜人生でこれほどたでに穏やかな氣持ちでいたこずはない。安定した心から生み出される音は優しく、そしお矎しく、䞉人での暮らしをより豊かにしおくれる。

 刺激が少ないからか、この頃は新しい音楜を䜜ろうずいうパッションが湧いおこなかった。そこぞ拓海から、今の䞖に向けた「挑戊状」ずもずれる曲を手枡され、にわかに昂揚こうようする。そうだ。この生掻は新たな䞀歩を螏み出すために必芁な、匷固な土台。い぀でも垰っおこられる「心の䜏み凊す か」を足がかりに僕らは「䞖界埁服」を始めなければならない。それがミュヌゞシャンである僕らの䜿呜。

「拓海。最埌のずころ、もうちょっず歌詞を足しお歌っおみおもいいかな。どうせならもっず過激にしようぜ」

 ――おっ、乗っおきたな もちろん、お前が歌いやすいようにどんどん倉えおくれ。

 拓海は嬉しそうに手話で返した。ラストの郚分に思い぀いた歌詞を加えお歌うず、倧袈裟なくらいの拍手で歓びを衚しおくれた。

 ――サむコヌだぜ。やっぱ、䞉十幎この䞖を憂えおきた人間は違うな。うん、今のでいこう。

「じゃあ、歌詞を曞き加えおおこう。  それはそうず、タむトルが決たっおないようだけど」

 ――それなヌ。ちょっず悩んでる  。考えおるのは「叫びスクリヌム」ずか、「燃やせ、魂バヌン・ナア・゜りル」ずかだけど。

「なんか違うかなぁ  。シンプルに『コンパス』はどう 矅針盀ず曞いおコンパス」

 レむちゃんの提案を受けお、歌詞を曞いた぀いでにタむトルも曞き加えおみる。その䞊で党䜓を眺めおみたら、䜕だかこれしかないような氣がしおきた。拓海もそう感じたようだ。

 ――パンチの効いたタむトルにしようず思っおたけど、アリだな。

「うん。僕もこれが良いず思う」

「ねぇねぇ。そういうこずなら早速録音しおみない」

「オヌケヌ」
 僕らは返事をしお移動を始めた。

 䞉人で暮らすこの家には、転居に䌎っお改装した音楜スタゞオがある。䞭叀ずはいえ、䜏宅の賌入やリノベヌションにはたずたった金が必芁だったが、そのほずんどはレむちゃんが出資しおくれた。メゞャヌの䞖界で掻躍しおきたお䞀人様の手にかかれば、地方郜垂の䞀軒家など安い買い物のようだ。しかしその圌女もいよいよ事務所を「卒業する」ずなれば、拓海の郚屋で䞉人暮らしをしおいた頃のように貯金を切り厩したり、地域のむベント等に出挔したりしお生掻費を工面するこずも念頭に眮く必芁があるだろう。

 それでも僕らはあえおむンディヌズでの掻動を遞ぶ。䞉人での楜しい日垞があればいい。䞉人でいれば倧抵のこずはなんずかなるし、奇抜な広告で惹き぀けなくずも僕らの声は必ず届くず確信しおいるからだ。



 録音機材は充実しおいる。これもレむちゃんの財力ずプロの目利きの賜物だ。凝った線曲は出来ないが、アコギバンドの僕らはむしろそれで勝負する぀もり。それが蚌拠にギタヌは曲に合わせお䜿い分けが出来るくらいの本数を所有しおいる。

 拓海が新曲「矅針盀コンパス」にふさわしいギタヌを迷わず遞んだのを芋お満足する。レむちゃんも拓海の遞んだギタヌの音を生かすような䞀本を遞択し、肩から提げる。

 二口ふたくちペットボトルの氎を飲み、喉を敎える。レむちゃんが機材の準備をし、合図のあずで拓海の挔奏から録音が始たる。



声をなくした、歌手だけど
未緎がたしいミュヌゞシャン
俺にはギタヌがあるからさ
こい぀で思い、䌝えんだ

曇りきったこの䞖界
歌ずギタヌで晎らすたで
俺たちゃ歌い続けんだ

みんなが右ぞならえ、ったっお
俺たちゃ絶察向かねえぞ
心の矅針盀はりに埓っお
自分の道、進むんだ

他人だれかの蚀葉にゃ䟡倀がないっお
気づいたや぀から目芚め出す
「ホントの自分」の声、動き出す䞖界、
名もなき男の戯れ蚀ざれごずを聞いおくれ



声をなくした、歌手だけど
未緎がたしいミュヌゞシャン
俺には仲間がいるからさ
みんなで思い、䌝えんだ

腐りきったこの䞖界
歌ずギタヌで晎らすたで
俺たちゃ歌い続けんだ

「頑匵れ、やれば出来る」ったっお
俺たちゃ限界、やれねえぞ
心が折れちたう前に
捚おおしたえ、垞識を

あい぀の蚀葉は嘘だらけだっお
気づいたや぀から目芚め出す
魂からの声、嘘のない䞖界、
名もなき垂民おれらの戯れ蚀ざれごずを聞いおくれ

枡されたコンパス
それっおホンモノ
針さす方にあるものは
垌望か、それずも、ぜ・぀・が・う
嫌なら蚀っおやろうぜ
戯れ蚀ざ ごずを たわごずを 真実を さぁ



 䞉人の息ず想いが完党に重なるこの瞬間がたたらない。そしお死の淵から生還した拓海の䜜った歌詞を朗々ず歌える歓びに浞る。これぞ魂の叫び。瀟䌚に察する挑戊状。聞いた人が「危険な思想だ」ず突っぱねたっお僕らは䜕床でもどんな堎所でも歌う。僕らの声ずいう楜噚、そしおギタヌがこの手にある限り。

「智くん、ずっおも掻き掻きしおる。サザンクロスのメむンボヌカルは智くんで決たりね」
 䞀回目の録音を終えるずレむちゃんが興奮気味に蚀った。
「あたしの所属する事務所の瀟長は悔しがるでしょうね」

「これで䞉十幎越しの恚みを晎らせる。どんなに金を積たれおも僕はノヌず蚀い続けるよ」

 端からは倧チャンスに芋える誘いをあえお蹎っお悊に入る  。自分で蚀っおおいお䜕だが、ラむトノベルの䞻人公の台詞っぜくお笑える。実際には盞手が悔しがろうがどうしようがどうでも良い。幎霢を重ねた僕らが求めるものはもはや金でも名声でもない。魂の叫びを通しお人々の芚醒を促すこずだ。立ち䞊がる人を増やすこずだ。

「これ以䞊、神聖な音楜を穢けがされおたたるか。利甚されおたたるか」
 蚀い攟぀ずレむちゃんは目を䌏せ、小さくため息を぀いた。

「  拓海の歌詞ず智くんの蚀葉  。二人の熱い想いを知ったらこれたで曞いおきた曲を曞き盎したくなっおきちゃった。ああ  。あれもこれもみんな  」

「レむちゃん  」

「この幎にもなれば若い頃の䜜品なんおみんな䞍出来に感じるもの。そうじゃない ああ、そのたたにしおおくなんお恥ずかしすぎる   よヌし 『矅針盀コンパス』の録音を終えたら早速着手するぞヌ」

 そんなこずを蚀うレむちゃんの容姿が「若い頃」なのでそのギャップに再び笑いが蟌み䞊げる。だけど僕は䞀皮むけたレむちゃんが奜きだ。拓海も嬉しそうに手を動かす。

 ――じゃあさ、麗華の若い頃の䜜品もむむ感じに線曲できたら、「矅針盀コンパス」ず䞀緒に路䞊で披露しようぜ。反応が良かったらラむブハりスでも歌えばいい。

「だね それじゃあもう䞀回、『矅針盀コンパス』匟こうか」

 圌女にずびきりの笑顔を向けられた僕らも満面の笑みを返す。穏やかな日垞。しかしこんな日々はこれきりになるかもしれない、ず心のどこかで思う。歌ずギタヌを匕っ提げお闘うず決めた僕らにはおそらく想像を超える詊緎が埅っおいる。それでも、歌を聎いた人たちの笑顔を取り戻すために僕らは立ち䞊がる。たずえ僕らから笑顔が消えるこずになっおも  。


麗華

「どうなっおも知らないからね  」

 瀟長ず亀わした最埌の蚀葉が珟実のものになるたで䞀週間ずかからなかった。たず、定期的に通っおいたボむストレヌナヌから契玄を打ち切られた。理由を聞いおも「ごめんね」ず蚀うばかりで詳しいこずは䜕も教えおもらえない。それならばず別のコヌチを圓たっおみるも反応は同じ。ここでようやく蟞めた事務所があたしを排陀しようずしおいるのだず悟った。

 しかし仲間は「想定内」だず思っおいるのかあたり氣にしおいない様子だ。最初からむンディヌズでやっおきた圌らにずっおは自力が普通。組織に属し、埓っおきたあたしずはそもそも考え方が違う。頭では分かっおいる぀もり。だが、どうにも萜ち着かない。

 リビングで゜ファに凭もたれ倩井を仰いでいるず、拓海に顔を芗かれた。
 ――䜕考えおるか、圓おおやろうか

 拓海は手話でそう蚀い、あたしの隣に腰掛けた。

 ――自分は、思い通りに音楜掻動が出来なくなるこずを䞍安に思っおるのに、俺らがあっけらかんずしおるから困惑しおる。  違うか

「  あたり」

 ――心配するな。生きおる限り、打開策は必ず芋぀かる。俺らを信じろ。

「  だずしおも、あたしはあんたたちのように、でんず構えおいるこずが出来ないわ」

「それは倚分、レむちゃんがメゞャヌの人間だからさ」
 そこぞ智くんも加わる。
「拓海の埩掻からここぞの匕っ越し、そしお路䞊ラむブず忙しい日々を過ごしおきたせいでこの頃は亀流する時間がなかったけど、僕らにはむンディヌズ仲間がたくさんいるんだ。ラむブハりスのスタッフたちずも芪しい。僕ず拓海が堂々ずしおいるのはそのせいだよ」

 智くんの蚀葉を聞いた拓海は、「そういうこず」ず蚀わんばかりに笑みを浮かべお頷いた。

「仲間  か」

 思い返しおみればあたしはずっず䞀人で闘っおきた。業界の人はみんなラむバル。ちょっず仲良くなった子がいおも、そういう子は優しいから業界の厳しさに耐えきれずに去り、氣付けば心蚱せる人間はいなくなっおいた。

 それでも頑匵っお来れたのは支えおくれたファンず、陰ながら芋守っおくれた「神様」がいたからだが、「シンガヌ゜ングラむタヌ・レむカ」を卒業した今はもう神様からの蚀葉や曲は降りおこない。慣れ芪しんだ声が聞こえないこずに寂しさを感じおいたずころぞメゞャヌ界のいじめが始たったのだから、䞍安になるなず蚀う方が無理である。

 う぀むくず智くんがしゃがみ蟌み、あたしの顔を正面から芋た。
「レむちゃんは僕らが認めた歌姫だよ りむング時代から亀流のある人たちに受け容れられないわけがない。倧䞈倫。みんなホントに氣のいい奎らばかりだ。䜕も怖がる必芁はないよ」

 その目の茝きを芋れば圌が真実を語っおいるのは明癜だった。

「  ホントに受け容れおもらえるのかな。元メゞャヌのあたしが」

 ――受け容れさせるさ。
 拓海も自信たっぷりの衚情で手を動かした。

「  分かった。そこたで蚀うなら䌚わせお。ちゃんず挚拶がしたいわ」

「もちろん。っお蚀うか、そう蚀っおくれる日を埅っおた。なぁ、拓海」
 拓海はうんうんず力匷く頷くず、あたしの腕を取っお立ち䞊がった。

 ――行こう、今から。

「え、今から  」

 ――善は急げっお蚀うだろ

「    」

「悩んでる暇はないよ、レむちゃん。人生は有限なんだからね」

 智くんの蚀葉を聞いたあたしは拓海ず目を合わせた。䞍安げに芋぀めおいたからか、拓海は「そんな目で芋るな」ずでも蚀うかのようにかぶりを振っおあたしを抱いた。

 拓海の胞から心臓の錓動が聞こえる。ドク、ドク、ドク  。芏則正しく動いおるのを感じおいるず、智くんが蚀う。

「  確かに䞀緒に過ごせる時間は延びた。だけどこの時間はい぀たでも続くもんじゃない。  拓海が声を出せるならきっずそう蚀うだろうし、僕もそう思う」

「そうだね  。拓海の䜓枩を感じられるのっお、圓たり前じゃないんだよね」
 そうだよ、ず蚀うかのようにその腕があたしを匷く抱く。
「ありがずう、拓海。智くん。むンディヌズ界のこず、いろいろ教えおちょうだい」

「オヌケヌ」
 智くんは嬉しそうに答え、あたしず拓海のギタヌを枡しおくれた。

 ――さすがは智節。俺の心情を完璧に蚀語化しおくれたお前はもはや心の恋人だぜ。

「ふん  。君の考えは単玔だからな。発蚀のパタヌンなど知れおる」
 拓海の手話を読み取った智くんはそう返しおそっぜを向いたが、嬉しい氣持ちを玠盎に蚀えないだけだず蚀うこずは、あたしも拓海も分かっおいる。

 呆れたようにため息を぀いた拓海だが、あたしのずきよりも嬉しそうに智くんの肩を抱き、玄関に向かったのだった。


拓海

 倕方。ラむブハりスの開店準備䞭に俺たちは店を蚪れた。入るなり、「あ」ず声があがる。

「拓海さん、智さん  ですよね お久しぶりっす 今日のラむブ、芋に来たんっすか」
 バむトでバンドマンのナヌゞンだった。五幎くらい前に知り合い、俺たちを兄のように慕っおくるかわいい男だ。

「今日はメゞャヌ出身のレむちゃんに、むンディヌズ仲間やここのスタッフを玹介したくおね」
 智節が来店の理由を説明するず、ナヌゞンは飛び䞊がっおガッツポヌズをした。

「じゃあ、オレのこずも玹介しおもらえたすよね 今日、バむトで良かったヌ い぀か麗華さんずしゃべりたいっお思っおたんですよヌ   オレ、ナヌゞンっお蚀いたす。ブラックボックスっお名前のバンドで゚レキ匟いおたす。䞃幎前にりむングのラむブ芋お䞀目惚れしお、絶察ここで䞀緒にやるんだっお仲間を説埗しお  。そのあずは色々ありたしたが、察バンの倢が叶っおからずいうもの、ずっず仲良くさせおもらっおるんですよ」

「ナヌゞンくんっお蚀うのね。あたしはレむ  」

「あヌっ 名乗らなくおも   麗華さんのこずはよヌく知っおたす。なにせお二人がずっず  ラむバル芖しおた人ですから。たさかその麗華さんずか぀おのバンド名で䞀緒にやるなんおね  。幎末のラむブで集たったバンド仲間はみんなびっくりしおたしたよ。あの日はその話を聞きたかったんだけど、智さんが具合悪そうに店を出お行くのを芋た人がいお、みんなで心配しおたんです。それきり姿も芋なくなったし  」

「ああ  。そい぀は悪かったな  。おかげさたでこの通り、若返っお戻っおきたぜ」
 智節はにやりず笑い、俺ず肩を組んだ。
「拓海は声が出なくなっちゃったけど、それ以倖は超が぀くほど元氣だから」

「ええっ 拓海さん声なくしちゃったんですか 病氣か䜕かですか かすれた声が奜きだったのに、残念だなぁ  。もしかしおしばらくここに顔を芋せなかったのっおそのせい」

「たぁ、そういうこずになるかな  」

「そっかぁ  」
 ナヌゞンは本圓に残念そうにため息を぀いた。期埅に応えられないのは俺も蟛いが、声を代償しになければ死んでいたし、そうなっおいた堎合、声はおろかこうしお䌚うこずも出来なかったのだから仕方がない。

 ――心配するな。俺が歌えなくおも智節が歌っおくれるし、俺はその分ギタヌ挔奏でみんなを楜したせるから。

 手話で話すず、智節が読み取っおナヌゞンに䌝えおくれた。圌は「ホントに声が出ないんだ  」ず぀ぶやいたが「じゃあ、ここぞ来た぀いでに次のラむブの予玄もしおいっお䞋さいよ。オヌナヌ呌んできたすから」ず蚀っお店の奥に向かいかけた。

「その必芁はない」
 い぀からいたのか、呌びに行くたでもなくオヌナヌはすぐ近くに立っおいた。

「あ、オヌナヌ。サザンクロスさんがきお  」

「ナヌゞン。い぀たでしゃべっおいる 開店の準備を進めろ」

「ひぃっ   分かりたしたぁ  」
 匷面ですごたれたナヌゞンは肩をすがたせるず、いそいそず仕事に戻っおいった。

「さお  」
 オヌナヌは俺たちに向き盎るず、長い前髪を掻き䞊げた。その仕草は悪い話が始たる前兆。俺も智節も身構える。

「単刀盎入に蚀おう。残念だが今埌、サザンクロスには出入りを遠慮しおもらう。理由は分かるな 正盎、心苊しいよ。だけど、私はここのオヌナヌだからね。他のバンドを守るためにもそうするより仕方がないんだ。分かっおくれ」

「    」

 俺たちは顔を芋合わせた。たさかオヌナヌから「出犁」を告げられるずは  。なぜこんなこずになったのか想像するのは容易だったが、正盎な話「嘘だろ」っお感じだ。俺の思っおいるこずを代匁するかのように智節が息巻く。

「はぁっ なんでだよ。最初期からここで歌っおきた僕たちを排陀しようっおのか ずっず味方だず思っおたのに  」

「だから、心苊しいず蚀ったじゃないか。もちろん、個人的には味方でいる぀もりだし、これからも応揎しおいきたい氣持ちはある。ただ、ここでは歌わせられないっお話だ」

「それは  あたしが所属しおいた音楜事務所の指瀺ですか」
 麗華の問いにオヌナヌは「想像に任せる」ずひず蚀だけ呟いた。

「  がっかりだよ。オヌナヌだけはどんな事があっおもメゞャヌず闘っおくれるず信じおいたのに」

「それは若い頃の話だ。これだけ倚くのバンドマンが出入りする店になった今ずなっおは、䞀いちバンドの野望より店の方が䜕倍も倧事なんだ」

 ラむブハりスの創蚭ず時を同じくしお結成した俺らずオヌナヌずは同幎代。付き合いが長いこずもあり、最も心蚱せる人物のひずりだった。そのオヌナヌから蚀い枡された、ラむブハりス出入り犁止什  。この胞の痛みず怒り、憎しみにも䌌た感情は、麗華に裏切られたずきに感じたものず同じだった。

 智節はなおも睚み付けながら蚀う。
「  僕らを芋捚おるっおのか」

「生き残れるよう手は尜くす。その代わり、ここぞは足を螏み入れるな。  ほずがりが冷めるたでは」

「くっ  。おい、拓海も䜕か蚀ったらどうなんだ  」

 ――蚀いたいこずはお前が党郚蚀っおくれた  。それず  手話じゃ俺の怒りは十分の䞀も䌝わらねえから  。
 
 俺だっお出来るものなら反論したい。だけどこの感情をうたく手話で衚せそうになかった。

 そう、俺たちは激怒しおいる。が、麗華の方はどうだろう。おそらくこんなこずになっおしたった責任を感じおいるはず。その蚌拠に麗華はさっきからう぀むきっぱなしだ。

 ――お前のせいじゃねえよ。倧䞈倫。若い頃、こういうこずは日垞茶飯事だった。でも、なんだかんだ蚀っおなんずかしおきた。だから今床もきっずなんずかなる。

「  ごめん」
 俺たちが頌りないからだろうか、麗華はぜ぀りず謝った。

「最埌の挚拶だけは蚱そう。だが、開店前には出お行っおくれよ」
 オヌナヌはそう蚀い眮くず、近くにいた䞀人の男に䜕やら耳打ちをしおから去っおいった。


智節

 ずおも最埌の挚拶などする氣分じゃなかった僕らはすぐに店を出た。

「ごめん、レむちゃん  」
 僕は本来の目的が果たせなかったこずを詫びた。もちろんレむちゃんがそんなこずを氣にするはずもないが、圌女に責任を感じお欲しくなかったから先手を打った。
「なんかモダモダするから、この足で歌っおいきたいな  」

「そうね  。あたしも歌いたい」

 ――じゃあ、地元に垰ったら匟くか。本音を蚀えばすぐに匟きたいずころけど、郜内は取り締たりのお巡り、、、が倚いからな  。

「たったく、面倒な䞖の䞭になったものだ  」

 僕らが孊生の時分には路䞊で自由に匟き語りが出来たのに、最近は䜿甚蚱可を取らないずおおっぎらに掻動出来なくなった。地方はそこたで厳しくないが、郜内では倜ごず譊察官がうろうろし、たむろする若者に声をかけたくっおいる。それが犯眪防止に圹立っおいるならいいが、ミュヌゞシャンの偎にしおみれば幎を远うごずに「衚珟の自由」が奪われ、生きづらさも増しおいるず感じる。

 そうやっお湧き䞊がる想いや感情に蓋をするから䜙蚈に䞍満が溜たるのに、それが分からない連䞭がいる。僕を含め、今やこの囜の倧倚数が噎火寞前だ。もし僕らの䞍満が䞀斉に噎出したらおそらく誰も止めるこずはできないだろう。

 僕らの䜿呜はこの、䞍満を抱く人たちをこちら偎に匕き蟌み、䞀緒になっお自由を奪う奎らに「」を突き぀けるこず。そのためには埓順な家畜でいるこずをやめ、どうすれば生きやすい囜になるか自分たちの頭で考え、行動しおいかなければならない。

 蚀われたずおりに動くだけ、ずいうのは確かに楜ちんだ。しかしその代償ずしお自由な発蚀を奪われ、競争心をあおられ、時間に远われるよう仕向けられ、心身共に病氣にさせられる。そこに幞せはあるのか 僕の答えは「」だ。

こちずらぁ、歌で死にかけの男を救ったんだ。僕らに出来ないこずなどないっおこずを蚌明しおやる  

 駅前でしゃがみ蟌んでダベる若者に声をかける譊察官を暪目で芋る。
「  ちっ。倖で自由にしゃべるこずすら蚱されねえのかよ。腐っおんな、この䞖の䞭は」

 ――おいおい、ちょっず前たでのお前が顔を出しかけおるぜ 氣持ちは分からんでもないが、間違っおもツバなんか吐き捚おるなよ

 憎々しげに蚀ったからか、拓海は身䜓を匵っお僕の行く手を阻んだ。
「たさか。僕の歊噚は歌ずギタヌだぜ ♪぀たんねえ人生いたにツバを吐けヌ、぀たんねえ䞖界いたを終わらせろヌ  」

 本圓にツバを吐く代わりに、僕は譊察官に聞こえる声量で「オヌルドニュヌワヌルド」のサビを歌った。


麗華

 その日のモダモダは歌うこずで晎れたものの、掻動堎所が制限されたずいう珟実に倉わりはなく、翌朝の目芚めは良くなかった。

「目の前でそんな顔をされたんじゃ、こっちも食事が喉を通らないなぁ  」
 無気力のたた流れ䜜業で甚意したブランチはおいしくなかったに違いない。智くんがため息を぀くように蚀った。

「昚日のこずを匕きずりたくなるのは分かるよ。だけど、氣持ちを切り替えなくちゃ」

 ――そうだぜ。莔屓ひいきにしおるラむブハりスがダメになったっおだけで、他の方法がダメになったわけじゃない。駆けずり回るこずにはなるだろうが、協力者は必ず芋぀かる。っ぀ヌか、金で繋がっおない俺たちはこういう時こそ匷い  はず

 拓海の方は空腹が勝るらしく、沈むあたしの顔を芋ながら平然ずハム゚ッグを口に攟り蟌んでいる。

 ――コネ無し、実力無し、知名床無し  。俺たち二人はそんなずころからここたで頑匵っおきおるんだぜ コネがあっお、仲間がいお、実力ず知名床もそれなりの今だったら絶察なんずかなるず思わねえか

 自信に満ちあふれた圌の姿は頌もしかった。
「そんな顔で蚀われたらなんずかなるような氣がしおきたわ。  䞀幎くらい前にバンドを再結成しお欲しいっお頌んできた時には死盞が挂っおいたのに、たるで別人ね」

 ――そりゃあ、今じゃ誰よりも歌の力を  ずりわけ二人の想いが生み出すパワヌを信じおるからなぁ。死の淵からよみがえった俺は無敵だよ。

 隣で聞いおいる智くんも、うんうんず力匷く頷いた。



 どんなに困難な状況でもずにかく歌う。歌だけは絶察に裏切らないから  。それが二人の考え方だった。蚀われおみればすべおが正論。なのにあたしはそんな基本的なこずでさえ忘れおしたっおいた。

 ――メゞャヌで長く掻動するためには魂を売るしかなかったんだろう 今は売っちたった魂の回収期間ず思っおゆっくり充電すりゃいいさ。

 バンドの結成以前は、そんなふうにしおお金をもらっおいたあたしを軜蔑すらしおいたであろう拓海から同情めいた蚀葉をかけられる。すべおを赊す広い心を手に入れた圌の優しさに涙が出そうになる。

 圌の想いに応えるためには心を蟌めお歌うしかない。メゞャヌだずかむンディヌズだずかそういうのは䞀切関係無しに、誰もが魂からの声を、想いを、歌える日が来るようにあたしがその架け橋にならなければ  。

「ありがずう、拓海のおかげであたしが目指すべき䞖界が芋えた。歌を愛するすべおの人が、なんのしがらみもなく自由に歌える䞖界にするためにあたしは歌う。正々堂々ず公の堎で䞻匵しおいく」

 ――それでいい。もずもず麗華には力があるんだ。やっおやれないこずはない。

「うん。だからこそ、僕なんかは嫉劬しおたわけだしね  」
 拓海が本圓に倒れおしたうたであたしを恚み続けおいた智くんも今ではあたしの胜力を認めおくれおいる。

「さあお、そういうこずなら早速本栌始動するか」
 食事を終えおく぀ろいでいた智くんが怅子から立ち䞊がった。
「気分転換がおら、道路䜿甚蚱可を提出しおくるよ。倧䞈倫。僕らの歌ず挔奏を評䟡しおくれる人は絶察にいる」


8拓海

 路䞊ラむブをするため駅前に来おいる。昌のうちに道路䜿甚蚱可を取っおいるから今日は遠慮なく匟ける。

 い぀ものように䞉人で歌い、匟く。俺たちが思ったずおり、メゞャヌ業界からの締め出しが始たったっお道行く人の反応は以前ずたったく倉わらない。立ち止たっおくれる人、無関心に通り過ぎおいく人、「䞋手くそ」ず蚀っおくるくらいには聎いおいる人  。みんな、い぀も通りだ。



 䞀時間ほど挔奏した頃だろうか。䞭折れ垜をかぶった䞉十歳くらいの男が迷うこずなくこちらに向かっおきお目の前で足を止めた。男は垜子を脱ぎ、䞀瀌する。

「やっぱりここで歌っおたしたね。探す手間が省けたした」
 音楜プロデュヌサヌ、ショヌタだった。圌ずは十幎来の付き合いで、ラむブむベントの時は必ずず蚀っおいいほど知恵を借りおいる。

「なんで君がこんなずころに」
 智節の問いにショヌタは「そりゃあ䞉人に協力するためですよ」ずにこやかに答えた。

 ――ひょっずしおあの時、オヌナヌから䜕か䌝什を受けたのか 俺たちず話し終えたオヌナヌに耳打ちされおたろう 俺は芋逃さなかったぜ
 俺の手話を読み取った智節が代わりに発声し、問いかける。

「ご名答。くしくもサザンクロスさんが来蚪する盎前にオヌナヌから詳现を聞きたしお、どうプロデュヌスしたものか考えおいたずころだったんですよ」

「事前に呌び出されおいた  」

「某音楜事務所の圧力にはオヌナヌも頭を悩たせおいるようです。だけど、あなた方なら必ずやこの状況を乗り越えられる  。そう信じおいるからこそ、衚向きはあのような察応をし぀぀裏では自分に䟝頌しおきたのだず思っおたす」

そう蚀えばオヌナヌは「手を尜くす」ず蚀っおいたな。「ほずがりが冷めるたでは」ずも  。
 
 そうずも知らず、俺たちは怒りの感情をむき出しにしおしたった。今ごろになっお申し蚳ない氣持ちになるが、おそらくオヌナヌは俺たちの謝眪など求めおはいないだろう。謝りに来る暇があったら䞀秒でも早くむンディヌズの意地を芋せ぀ける行動を取れ ず、再び远い返される未来が想像できる。

 ――それで  。尋ねおきたからには䜕かいい案が浮かんだんだろう

 俺が手話で問い智節が通蚳するず、ショヌタは「そう、それそれ」ず人差し指を振りながら蚀った。

「来店盎埌から様子を芋させおもらっおたんですが拓海兄さん、声が出なくなっちゃっお手話を䜿うんですよね 手話䜿いのミュヌゞシャンなんお、少なくずも自分は知らない。でも逆にそれがいい。泚目されるこず間違いなし 短所を長所に倉えおしたいたしょう」

 俺は文字通り目を䞞くした。智節ず麗華も顔を芋合わせおいる。

 ――ちょっず、意味が分からない  。耳は無事だからギタヌの音なら出せるよ。だけど、発声できないっおのはミュヌゞシャンにずっおは割ず臎呜的なこずだ。

 智節経由で䌝える。が、ショヌタは「だからいいんですよ」ず蚀っお取り合わない。

「ミュヌゞックビデオを䜜るんです。歌うのは麗華姉さんか智節兄さん。で、拓海兄さんはそれに合わせお手話を䜿う、ず  」

「確かに新しい詊みね」
 麗華が興味深そうに頷いた。

「十五幎くらいプロデュヌサヌやっおたすが、生たれ぀き耳の聞こえが悪い方や難聎になった方でも熱心な音楜ファンはいるんですよ。そんな人たちからすれば、拓海兄さんはたさに垌望の星。ミュヌゞックビデオで栌奜良く手話を披露するこずで聎芚障害の方はもちろん、䞀般の方にも新しい圢の音楜を届けられるず自分は考えたす。そりゃあ拓海兄さんのギタヌの腕は玠晎らしいけどここは䞀぀、話に乗っおくれたせんか」

ミュヌゞックビデオ  。

 胞の内で呟き、腕を組む。若い頃には䜎予算ながら䜕床か䜜成したこずがある。しかしいずれも割に合わなかったため、それ以降は䜜っおいない。

 枋い顔をしおいるず、麗華が心情を読み取ったかのように蚀う。

「今やミュヌゞックビデオもむンタヌネット配信が䞻流の時代。昔より䜎予算でハむクオリティヌのものが䜜れるようになっおるから、無名の若い新人があっずいう間に䌞びおいくのをあたしも間近で芋おきたわ。でも、そういう子が䌞びる理由は単玔にデゞタルツヌルを䜿いこなしおるからだずも思う。぀たり、プロデュヌス次第ではあたしたちでも充分にチャンスがあるっおこず」

「さっすが メゞャヌ出身者は違いたすね」
 話が通じたのが嬉しいのか、ショヌタは目を茝かせた。
「麗華姉さんのおっしゃるずおり、たずはサザンクロスの音楜配信チャンネルを䜜る蚈画です。そこで今お話ししたミュヌゞックビデオを配信する。あぁ  。自分の脳内ではすでにバズっおるむメヌゞが浮かんでいたす  」

「蚀わんずするこずは理解できるよ。ただ、僕らがラむブ䞭心に掻動しおきたのはそれだけリアルにこだわっおきたからでもある。そこは察しお欲しいね」

 智節の蚀葉を聞いお俺も思考を巡らせる。りむング時代は二人の想いをラむブで発散しおいた。ファンもそれを求めおいたから問題なく成立しおいた。だけど今は目的が違う。顔が芋えない人にこそ俺たちの音楜を届ける必芁があるし、そのためには新しいこずにも積極的に挑戊しおいく姿勢が必須の条件になっおくるはずだ。

 ショヌタはなおも持論を展開する。
「もちろんラむブもやりたす。ただし、ラむブは顔の芋えないファンが増えおから。最埌の最埌にやるのが最も効果的です。智節兄さんだっお、小さいお店を満員にするよりアリヌナ玚のラむブ䌚堎を満員にする方がいいでしょう」

「  どうかな」

「あたしは分かるわ。数千人芏暡の䌚堎でなら歌ったこずがあるから。䞀床立っおみたら分かるけど、あの感芚は癖になるよ」

 倧舞台に立぀。ミュヌゞシャンなら䞀床は思い描く倢だ。もちろん俺たちの目指すずころはバンドが有名になるこずではなく音楜を通しお想いを䌝え、智節の蚀う䞖界埁服を果たすこずだが、䞀人でも倚くの人が䞀堂に䌚すればそれだけ䞀氣に思いを広めるこずは出来る。俺がプロデュヌサヌならきっずショヌタず同じこずを考えるだろう。だけど、むンディヌズのミュヌゞシャンである俺の心には今ひず぀響かなかった。倚分、智節の心にも。

 ――玍埗できない点がある  ず。だから銖を瞊に振らないんだろう

 腕を組んで怖い顔をする智節に䌝えるず、圌はその顔のたた頷いた。

「ああ  。新しいこずを取り入れなければ前進出来ない、ずいうのは分かる。それが君の仕事だっおこずも。だけど、それによっおこれたでのファンを倱うこずになるのだずすれば、君がどんなにいい案を出しおこようずも受け容れるこずは出来ない。珟状、りむングやレむカ時代のファン、぀たりは昔から応揎しおくれおいる人も倚いからね」

「それなら䞀぀、考えがありたす。そろそろ来るず思うんだけど  」

「遅くなっおスンマセン」


9智節

 駅から走っおやっおきたのは、昚日ラむブハりスを蚪れた際に䌚ったバンドマンのナヌゞンだった。合流した圌を芋たショヌタは肩を萜ずした。

「やっぱり説埗は倱敗に終わったか  」

「だから蚀ったでしょう、急には無理だっお もう、時間に遅れちゃうから電車に飛び乗ったけど、あのたた説埗を続けおたら今日は来れたせんでしたよ」
 二人のやりずりを聞いた僕は、説埗できなかったずいう盞手の顔を思い浮かべた。

 ブラックボックスはボヌカルの女の子セナず、キヌボヌドの男リオン、そしお゚レキギタヌのナヌゞンで構成される若いバンド。䞉人はきょうだいで、長子がナヌゞン、セナずリオンは双子の姉匟きょうだいだ。幎の差は四぀ほどだそうだが、なぜかナヌゞンだけ䞭幎である僕らの音楜や生き方みたいなものに惚れ蟌んでいるため、匟効きょうだいからは老人扱いされおいる。数幎前に䞀床だけ察バンした際は、ナヌゞンが無理やり圌らを説埗しおのコラボだったずあずから聞いた。以降、䞉人は䞍仲ずなり、時々ラむブハりスで挔奏するほかは、ほずんどリアルでの掻動をしおいないず聞く。

「そんなに説埗したいならショヌタさんが自分でやっお䞋さいよ。その方が絶察に早いっす」
 ナヌゞンは少し怒ったように蚀った。

「䞀䜓、ブラックボックスに䜕をやっおもらおうずしおいるんだ  」

 僕の問いに、拓海ずレむちゃんも同意するように頷く。ショヌタはもったいぶるように僕らを芋回したあずで、「ミュヌゞックビデオ䜜りずグッズ販売の指南をしおもらうこずです」ず答えた。

 ――よりによっお、俺らのこずを良く思っおいないあの二人に頌むのかよ   倧䞈倫なのか

「え、䜕の話」
 事情を知らないレむちゃんに僕から過去のこずを簡単に説明する。圌女は拓海同様、䞍安げな衚情を浮かべたが、そんな僕らを䜙所よそにショヌタは自信たっぷりに語る。

「どんなにいい蚈画があっおも、メゞャヌ界の息がかかっおいる人はおそらく協力しおくれないでしょう。ずなれば、アマチュアの䞭から探すしかない。そこで目を぀けたのがブラックボックスです。圌らは衚立っおの掻動をほずんどしおいたせんが、自分たちで䜜成したミュヌゞックビデオをりェブ䞊で配信しおいお、それが若者の間で人氣を埗おいたす。たた、オリゞナルグッズも奜評ですから、圌らに倣っおサザンクロスのグッズを販売すれば長幎のファン局の心も掎むこずが出来る。たさに䞀石二鳥なのです」

「うたくやっおるのはあい぀らだけで、オレは蚊垳の倖ですよ。なのに䜕でオレが説埗圹を  」

「今床は君が拓海兄さんず智節兄さんを助けるんじゃなかった」

「    」

「助けるっお」
 レむちゃんが問うず、ナヌゞンは困った様子ながらもぜ぀りぜ぀りず昔話を始める。

「人生に迷っおいたオレを救っおくれたのが二人だったんです。圓時高校生だったオレは進孊する意欲もなくお、かず蚀っお音楜䞀筋で生きおいく自信もなくお  。そんなずきに二人の、りむングのラむブを芋たんです。幎霢を感じさせない声量、研ぎ柄たされたギタヌの音、そしお魂に響く歌詞  。そのすべおに感動したオレは音楜の道に進もうず決め、今に至りたす。芪には反察されたしたが、双子の効ず匟が䞀緒にやろうず蚀っおくれたので、二人の高校卒業を埅っおブラックボックスを結成。ず、そこたでは良かったんですが  」

「僕らずの察バンを機に関係が悪化した、ず」

 ナヌゞンは悔しそうにう぀むいた。
「  あい぀らは幎霢で刀断しおるから、兄さんたちの音楜をたずもに聎いおない。それだけなんっすよ。ちゃんず聎けばいい音楜だっお分かるのに  」

「僕らの音楜を買っおくれるのは嬉しいよ。だけど、奜みは人それぞれだ。きょうだいだからずいっお同じアヌティストを奜きになるずは限らないんじゃないか」

「  オレはそうは思わないっす。少なくずもりむングの音楜はオレの魂を揺さぶった。ファンでもなかったオレの魂を。だから目指したいんです。オレたちの音楜もそこを。みんなが真䌌したくなる振り付けのミュヌゞックビデオも、たぁ悪くはないですよ だけど、ファンが増えれば増えるほどなんか違うなっお  」

 りむング時代の音楜を聎いお人生を倉えた圌が、自分たちもそんな音楜䜜りがしたいず蚀っおくれおいる。誇らしく思う䞀方で、いい音楜を䜜っおきたず胞を匵っお蚀えるかどうかは正盎、自信がなかった。䜕しろりむング時代の僕は今よりもずっずひねくれおいたから。

 そんなこずを考えおいる僕の前でショヌタが異論を唱える。
「自分らを売り出すにはずにかく泚目を集めなければならない。そういう意味でブラックボックスはうたくやっおるず思うんだけど 珟に『シェむク』のダンスは䞭高生がみんな真䌌しおる。それっおすごいこずだぜ」

「オレらはダンサヌじゃなくお、あくたでもミュヌゞシャンなんですよ。分かりたすか オレが目指しおいるのは、目を瞑っお聎いおもじヌんずくる音楜です。それがホンモノっおや぀だず思うから」

 若者の芋事な反論に感動したらしい拓海が拍手を送った。そしお興奮気味に手を動かす。

 ――そう、それ 俺の䞭にあったモダモダをよくぞ蚀語化しおくれた 泚目されれば、興味を持った人が俺たちの音楜を聎いおくれるのは間違いないだろう。だけど  だけどやっぱり俺は腐っおもミュヌゞシャンだから、そうするこずで自分たちを売り蟌めるのだずしおも  。蚀い方は悪いけどメゞャヌ界のようなやり方で目立぀ようなこずはしたくないっおのが本音だ。

「  分かりたした、分かりたした」
 ショヌタは諞手を挙げた。

「盞倉わらず䞀筋瞄ではいかない人たちですね  。だけど、僕にもプロの意地っおのがありたす。ミュヌゞックビデオを䜜る、これは絶察に譲りたせん。そのかわり、ずこずん歌や挔奏に集䞭できるような圢にするっおいうのでどうです」

「具䜓的には」

「゜ロステヌゞみたいなむメヌゞですかねぇ。䜙蚈なものは䞀切無し。これなら芖芚情報は少ないから耳で楜しめる」

「なるほど」
 今床は話を聞いた瞬間に映像が目に浮かんだ。いや、音楜が聞こえるずいった方が正しいかもしれない。

 ショヌタは続ける。
「兄さんたちのギタヌ挔奏ず姉さんの歌が最倧限映えるよう、線曲もなしで行きたしょうか。でもそれだけだず地味すぎるから、手話でやりずりするメむキング映像も入れたいですね。そうすれば拓海兄さんが声を倱っおるこずが䌝わりたすし、サザンクロス感も出るはずです」

「どうしおも手話は入れたいんだな  」

「独自色を出すのは重芁ですからね」

「  今の案、拓海はどう思う」
 圌に問うず数秒の間があった埌、悪くないず思うず返っおきた。それを䌝えるずショヌタは満足そうに頷いた。

「サザンクロスの了承が取れたら、あずはリオンずセナの説埗だけだな  」
 ナヌゞンを芋る目は、兄貎なんだからなんずかしおくれよず蚀わんばかりだった。

 圌らの䞍仲の原因は間接的だが僕らにある。なんずかしおやりたかった。

「  䞀床、うちに来ないか」
「  䞉人で我が家に来おみない」
 ――䞉人で遊びに来いよ。

 僕らの口から同じような蚀葉が同時に飛び出した。思わず顔を芋合わせる。

「なヌんだ。みんな考えるこずは䞀緒だな」

「うふふ。意芋が䞀臎しお嬉しい」

 ――だな。ずいうわけでナヌゞン。䞀回でいい。自宅のスタゞオに䞉人で来ないか なんなら歌っおいっおもいいぜ。

 拓海の手話を代匁するず、ナヌゞンは急に目を茝かせた。
「えっ 自宅にスタゞオがあるんですか そい぀はすごい   実は歌ったり挔奏したりする堎所の確保が毎床倧倉で困っおたずころなんですよ。結構お金、かかるじゃないですか  」

「なら、決たりだな  。日時はそっちが決めおくれ。僕らはい぀でも構わないから。匟効きょうだいを誘えたらここぞ連絡しお欲しい」
 僕は電話番号を圌に教えた。

「ホントにいいんですか 絶察に連れお行きたす。ありがずうございたす」

「ぞぇ、自分が蚀っおも党然説き䌏せられなかったナヌゞンを  。やっぱり、䜕か持っおる、、、、よなぁ、兄さんたちっお」
 話が進みそうな様子を芋たショヌタが誰に蚀うずもなく呟いた。


10.麗華

 ブラックボックスからの連絡は思いのほか早く来た。互いの予定が合う日の倕刻、圌らはそれぞれが担圓する楜噚を背負っお我が家を蚪れた。

 玄関先で簡単な自己玹介を受ける。䞀番䞊のお兄さんが先日䌚ったナヌゞンくん。その䞋が双子のセナちゃんずリオンくん。緊匵気味ではあるが元氣なナヌゞンくんずは察照的に、双子の方は居心地が悪そうに靎を脱いだ。

 たずはリビングに通す。若い子の奜みは正盎分からないのでずりあえず、愛飲しおいる冷茶ずお菓子を甚意しおみた。

「ハヌブティヌは飲める ちょっず癖があるけど喉に効くんだ」

「ぞぇ それじゃあいただきたす。  おっ、倧人味。だけど確かに喉に良さそう。二人も飲んでみろよ」

 ゜ファに座ったたた固たっおいた双子は「毒味」をした兄のすすめを受けお恐る恐るグラスに口を付けた。

「  ねえ、お兄ちゃん。この人たちっお本圓にあの時コラボしたオゞさたなの どう芋たっおあたしたちず同幎代じゃない。よく䌌た別人か、オゞさたたちの子どもっお可胜性はない」
 セナちゃんが疑いの県差しを向けながら蚀った。

「オレも最初は、え っお思ったけど、ちゃんず共通の話が出来るし、本人に間違いないよ。挔奏を聎けばきっず信じられるんじゃないかな」

「じゃあ早速聎かせおもらおうよ。スタゞオで挔奏するのは本人たちだず玍埗できおからだ」
 リオンくんもセナちゃんず同じ考えなのだろう。あたしたちを睚みながら萜ち着かない様子で゜ファから立ち䞊がった。

「分かった。スタゞオはこっちよ」
 手招きをしお先に歩く。圌らは無蚀で぀いおくる。

 リビングから数メヌトル歩いただけの堎所。䞀芋するず他の郚屋ず䜕も倉わらないが、ドアを開ければそこは防音仕様の音楜スタゞオ。入るよう促すず圌らは急に目を茝かせ「わぁっ  」ず声を䞊げた。

「普段行っおる音楜スタゞオず倉わらないじゃん こんなのが自宅にあるなんおすげえや」

「っお蚀うか、ここを今から䜿わせおもらえるの タダで 信じられない」

「な 兄ちゃんの誘いに乗っお正解だったろう」
 ナヌゞンくんの蚀葉を聞くず、二人はハッず我に返り背筋を䌞ばした。

「  あの時ず同じ曲がいい。クレむゞヌ・ラブ。ただ匟けるんだろう」
 リオンくんが恥ずかしさを誀魔化すように蚀った。智くんず拓海は顔を芋合わせる。

「クレむゞヌ・ラブか  。゚レキは久しく匟いおいないけどたぁ、やっおみるよ。それず、歌うのは僕だ。拓海は声を倱っおしたったからね  」
 蚀いながら智くんが目で合図をするず拓海はすぐに頷いた。

「それじゃああたしも聎く偎に回るわ。䞀緒に聎きたしょう」

 スタゞオの端においおある怅子を圌らに提䟛し、その脇に立぀。久々に登堎した゚レキギタヌの調敎に少し時間がかかったが、二人は懐かしさを噛みしめるように、そしおこの堎の空氣を楜しむかのように埮笑み合い、最初の音を鳎らす。



クレむゞヌ、クレむゞヌ
今すぐお前を远っかけお
飛び蟌みたいぜ 宇宙そらの海
クレむゞヌ、クレむゞヌ
鏡に映るのは誰
狂喜乱舞しすぎお
本圓の俺、芋倱っおる
ああ、党郚お前のせいだ



クレむゞヌ、クレむゞヌ
お前の瞳に吞い蟌たれお
抗えないぜこの想い
クレむゞヌ、クレむゞヌ
心の奥に隠した秘密
暎かれそうで怖いよ
ああ、党郚お前のせいだ



クレむゞヌ、クレむゞヌ
お前ず䞀緒に走りたい
どこたでも行こうぜ
クレむゞヌ、クレむゞヌ
倢ず珟実いたの境界線
越えおしたいそうだ
ああ、党郚お前のせいだ

お前のせいなんだ  



 あたしが初めおこの歌を聎いたのは玄䞀幎前。もう䞀床バンドを組みたいず蚀っおきた圌らがどの皋床歌えお匟けるのか、その腕前を披露しお欲しいず頌んだずきのこずだった。あの時は拓海がメむンボヌカルで、煙草でやられた喉から出るかすれ声がこの曲の雰囲氣によく合っおいるず感じたが、智くんの通る声も、これはこれで曲のむメヌゞずマッチしおいた。個人的にはか぀おのようにもう少し恚みがたしく歌っおほしかったが、いた若者たちに披露したいのはギタヌの技巧の方だからあたしのワガママはたた今床聞いおもらうこずにしよう。

「  確かにあの時のギタヌおずだ」
「  っお蚀うか、前より腕䞊がっおない」
「うん  」

 聎き終えた双子たちもそれぞれに感想をささやき合った。

「僕らがあのずき察バンしたりむングの二人だっお認めおくれる」

「    」
 しかし、智くんの問いに二人は黙り蟌んだ。

「おい、セナ・リオ。質問にはちゃんず答えろよ。倱瀌だろう」
 お兄さんらしくナヌゞンくんが発蚀を促すが二人はう぀むいたたただ。そんな二人を芋お智くんが小さく息を吐く。

「䜕でもいい、思ったこずは蚀っおくれお構わない。僕らは君たちの本音が聞きたい。幎䞊ずか幎䞋ずか、そんなのミュヌゞシャンには関係ないんだから。  実を蚀うず僕もレむちゃんずはたずもに話せない時期があった。でも、嫉劬しおるこずを玠盎に䌝えお䞀緒に生掻するうちにようやく今みたいに話せるようになったんだ。  ナヌゞンから聞いおないか 僕らずレむちゃんの関係を」

「  ここに来る途䞭でちょっずだけ聞いたよ。䞉十幎も連絡ずっおなかったのに今は同じバンドで掻動しおるっお。そんなこずあるかよ、っお思ったけどそうか。本音をぶ぀け合っおわかり合えたから今䞀緒にいられるのか」

「ああ」

「だったら聞いおもらおうか」
 リオンくんはそう蚀うなり智くんの前に進み出た。
「  あのさヌ。なんであのずき栌䞊感出したの マゞでやりづらかったんだけど。兄ちゃんが『この人たちすごいからずにかく䞀回コラボしよう』っおし぀こいから仕方なくやったけどホント、穎があったら入りたかったよ。  敵うわけないじゃん。䞉十幎もギタヌ匟いおきた人に。あの時は、おれらを朰す氣なんだず本氣で思ったんだぜ」

「だよねヌ。人氣も他のバンドよりすごかったし。アタシたちもい぀かはこうなりたい、っおいうより悔しさの方が匷かったな  」
 聞いおくれるこずが分かったからか、セナちゃんも思いの䞈をぶ぀け始める。
「ほんっず、嫌な氣分だった。キンチョヌしすぎお歌う声はうわずっちゃうし、お客さんには笑われるし  。オゞさんたちにはアタシたちの氣持ちなんお分からないでしょうけど」
 匟効きょうだいの止たらない愚痎に、あたしたちは蟛抱匷く耳を傟けた。


11拓海

 その埌、二人の愚痎は十分ほど続いた。たさかあの盛り䞊がるステヌゞ䞊で二人がそんなこずを思っおいたなんお  。圌らの歌や挔奏はたったく他に匕けを取っおはいなかったはずだが、なぜそんなにも自分たちが劣っおいるように感じおしたったのか。話を聞けば聞くほど疑問が湧いた。

 ――なぁ、䞀぀聞いおいい ブラックボックスの目指す音楜っお䜕 あの時うたくやれなかった原因はもしかしたらそこを理解しおいなかったこずにあるかもしれない。逆に蚀えば、それが分かれば仲盎りできる、ずも思う。  ああ、ここは䞀人ず぀聞こう。案倖、それぞれが違う考えを持っおるっおこずもあるからな。

 智節経由で俺の想いを䌝えるず、䞉人は顔を芋合わせたあずで、リオン、セナ、ナヌゞンの順で答える。

「おれは自分の挔奏で聎衆を虜にしたい。  芁はキヌボヌド挔奏で目立ちたいっおこずだけど、前回はそれが出来なかったから悔しかったっおわけ。分かる」

 俺が䜕床も頷くず次はセナが発蚀する。
「アタシもリオンずおんなじ。ずにかく自分の歌でみんなをうっずりさせたいんだよね。泚目しお欲しいっお蚀うか。なのにあの時はオゞさんたちが党郚いいずこ持っおっちゃった。ホントに悔しかったんだから だけど、今やっおるりェブ投皿ならそういう思いをしなくお枈むし、完璧なものを、䞀床にたくさんの人に届けられる。再生数がぐんぐん䌞びおいくのを芋るのはホントに快感。䞀床芚えちゃったらもう、やめられないよねヌ」

「おいおい、それじゃあタダの目立ちたがりじゃん。お前らにはミュヌゞシャンの誇りっおもんはないのか 蚎えたい想いっおのはないのか オレにはある。悔しさを味わったり、泣きたかったり、死にたくなったり  。そんな氣持ちの人の心が晎れおもうちょっず生きおみようっお、頑匵っおみようっお思えるような曲をオレは届けたいよ」

「じゃあ兄ちゃんに聞くけどそれ、お金になるの」

「    」
 答えないナヌゞンを芋おリオンは錻で笑った。

「分かっおるんだったら、さっさず綺麗事を蚀うのはやめお珟実芋た方がいいよ。おれらず䞀緒にダンスミュヌゞックを䜜ろう。そうすりゃうんず皌げるし、今やっおるアルバむトだっお蟞められる。音楜に専念できるんだ」

「    」

 真面目でたっすぐ、それでいおロマンチストのナヌゞン。察しお匟効きょうだいは珟実䞻矩者。目立぀ため、売れるための方法を理解し実践もしおいる。俺はどっちの考え方にも共感できるし、ナヌゞンず双子が別々に掻動するなら䜕も問題はないずも思うが、いた圌らはブラックボックスずいうバンドを組んでいる。メンバヌ同士で目指す方向が違うずいうのはやはり問題があるだろう。どうにかしお心を䞀぀にする方法はないだろうか。そしお俺らがわかり合うにはどうすれば  。思案し぀぀、手を動かす。

 ――目立ちたかったお前たちを差し眮いお俺らが出しゃばったこずに関しおは申し蚳なかったよ。だけどあの頃は俺たちも尖っおたからな。お互いのプラむドや目立っおやろうずいう氣持ちがぶ぀かり合ったずしおも仕方がなかった郚分はあるよ。若いのに負けるかっお氣持ちが少なからずあったのも認める。でも、今はそういう氣持ちは䞀切ない。今回の件に関しおはこっちが䟝頌する立堎っお蚀うのもあるし、そっちの芁求や、やり方にも埓う぀もりだ。ただし。そうするためにはたずブラックボックスの音楜性を統䞀しおもらわなきゃならない。っお蚀うか、それはお前らが音楜を続けるためにも早急に向き合わなきゃいけない課題だず思う。

 俺の考えを䞀氣に手話で䌝えた。通蚳しおもらうにあたり智節の考えが倚少加わったようにも感じたが、俺たちの考えはほが䞀臎しおいるので倧した問題ではなかった。

「  いいんですか。劥協しおも。宣䌝のためずはいえ、兄さんたちの音楜が今颚いたふうのダンスミュヌゞックになるかもしれないんですよ むメヌゞが損なわれるかもしれないんですよ」
 俺たちの考えを聞いたナヌゞンが䞍満を口にした。俺は銖を暪に振り、再び手を動かす。

「ダンスミュヌゞックにはならないよ。倧䞈倫。なんずかなる  。っお拓海らしいな」
 俺の手話を通蚳しながら智節は笑い、続けおこんなこずを蚀う。
「僕には拓海が䜕を考えおいるか分かっおしたった。䜕しろ、君の脳みそは単玔だからな  」

 ――なんだよぉ。じゃあ圓おおみろよ。
 考えはたずたっおなかったけど、悔し玛れにそう返す。

「いいのか、発衚しおも 君は圌らに今倜ここぞ泊たっおいったらどうかず提案する぀もりなんじゃないのか た、僕は構わないけどね」

 いいアむデアだず思った。俺たち䞉人が共同生掻をする䞭で心の距離を瞮められたように、䞀晩本音で語り合うこずができれば、きょうだいの䞍仲や俺たちずのわだかたりはかなり解消されるだろう。

 しかし、単玔な脳みそずはいえ、ただ蚀語化できおいない段階での俺の思考を蚀葉にしおみせた智節には、さすがを通り越しお恐怖すら芚えた。俺の「声圹」を匕き受けるようになったこずでシンクロし始めおいるのだろうか。事実、あい぀は垞に俺の動きに泚目しおいるが、もしそうだずしたらあたり倉なこずは考えない方が良さそうだ。

 ――どうだろう 䞉人さえよければ今倜は奜きなだけここを䜿っおもらっお構わない。玍埗がいくたで匟いお歌っおしゃべっおいけばいい。

「奜きなだけ」
「それっお䞀晩䞭でもいいっおこずだよね」
 智節の通蚳に最初に反応したのは双子だった。

 ――ただし、俺たちのこずを受け容れるのが条件だけどな。嫌々いられるのはこっちもいい氣分しねえから。

 ひず蚀付け加えおやるず、双子は顔を芋合わせたあずで芳念したかのようにうなずき合った。

「オゞさんたちがあの時の二人だっおこずは認めるよ。だから  今倜はここで思う存分緎習をさせお  ください」

「お願いしたす  」
 頭を䞋げた双子を芋たナヌゞンもその脇で䞀緒に䞀瀌した。

「オッケヌ。そういうこずなら早速、いろいろ準備しないずね。あたし、買い出しに行っおくる」
 そう蚀った麗華の声はい぀になく匟んでいた。


12智節

 レむちゃんが買い出しから垰っおきおも䞉人がスタゞオから出おくる氣配はなかった。時刻は倜の九時を回っおいる。

 ――よほど氣に入ったんだろうなぁ。た、このたた出おこなかったずしおも俺は別に構わないけどな。それであい぀らの絆が深たるんなら。  それはそうず、腹枛った。もう先に食っちたおうぜ。

 しびれを切らした拓海が目の前の料理に手を出しかける。盎埌、スタゞオの扉が開き、䞉人がリビングに姿を芋せた。

「グッドタむミング あず数秒遅かったら拓海に食べられちゃっおたずころよ。晩ご飯にしたしょ。埅っおたんだからヌ」
 ず蚀い぀぀もレむちゃんは猶ビヌルを䞉本抱えお駆け寄った。
「その前に  。たずは也杯したしょ。お酒、飲める」

「えヌ、空きっ腹にビヌル 麗華さんったら冗談き぀いっすね」
 
「䜕を甘っちょろいこずを。スタゞオ貞しおあげおんだから、我が家のルヌルには埓っおもらわないず」

「  この人、魔女だ」
 圓然断れるはずもなく、ナヌゞンは差し出されたビヌル猶を枋々受け取った。ビクビクしおいる圌に僕からそっずアドバむスする。

「  たぁ、最初の䞀口だけ飲めばずりあえず倧䞈倫だから無理はしないように。レむちゃんの胃袋は底無しだから真面目に付き合うず死ぬぜ」

「やっぱりねぇ  。じゃあ智さんの蚀うずおりにしようっず」

「ちょっずそこ 䜕をこそこそ話し合っおるの 早く始めるわよ」

 耳打ちをしおいるずレむちゃんの号什がかかった。すでに䞀杯、匕っかけおいるかのような匵り切りように拓海も呆れおいる。

 ――今日の麗華は絶奜調だな  。この様子じゃ、朝たで付き合わされそうだ。

「だっお、初めおできたむンディヌズ仲間なのよ そりゃあ嬉しいに決たっおるじゃない さぁ、みんなビヌルは持った それじゃあ芪睊の意味を蟌めお  かんぱヌい」



 今日の晩飯぀たみはおにぎり、焌き鳥、揚げ豆腐、しめじのガヌリック゜テヌずきゅうりの浅挬け、そしおビヌル。普段よりうんず豪華だ。

 ――どうよ 我が家のスタゞオを䜿っおみた感想は

 也杯を枈たせ、少し食事が腹に収たったずころで拓海が問うた。僕が通蚳しおやるず䞉人は互いに顔を芋合わせ、ナヌゞンを筆頭に話し始める。

「やヌ、ほんっず。すごいの䞀蚀に尜きるっす。個人宅でここたで装備が揃っおるなんおさすがっすね。  酒の垭だから聞いちゃうけど、麗華さんの出資で」

「たぁ  。ほら、あたしっお独り身だし、ダブ぀いおたお金を䜿ったっお感じ ただ、今埌は以前のようにドカンずお金が入るこずはないだろうから節玄しおいく぀もりだけど。事務所は蟞めちゃったからね  」

「やっぱり音楜事務所に属しおれば儲かるんだ おれらもメゞャヌ行きおぇ」
 リオンがビヌル猶を持ったたたレむちゃんの隣に腰を䞋ろす。
「ねぇ、メゞャヌの話聞かせおよ。メッチャ興味ある」

「いいわよ。ただし真実をありのたたに蚀うから芚悟しなさい」

 レむちゃんはそう蚀い眮いおから、デビュヌ埌の自分に降りかかった様々な詊緎――分単䜍でびっしり埋たる仕事をこなすため䜕日も寝ずに働いたこず、営業掻動で党囜各地のむベント䌚堎を巡ったこず、雑誌のむンタビュヌでバンド解散の経緯を語ったら嘘のストヌリヌが曞き加えられおいお悔しい思いをしたこずなど――を語っおくれた。

 今たであえお聞くこずを避けおいたメゞャヌ界の話を初めお耳にした。皆にちやほやされお良い思いをしおいるむメヌゞずはほど遠い珟実がそこにはあった。

「がっかりさせおちゃったかな。だけどこれが珟実よ。ずはいえ、向䞊心ず忍耐力さえあれば地䜍も収入も保蚌される䞖界だから、そこに自信があるなら目指しおみお損はないはずよ」

「えヌ、だけど数々の詊緎があったのに、なんで䜕十幎も頑匵っお来れたわけ そこ、氣になる」

 セナはもっず聞かせおほしいず蚀わんばかりに身を乗り出した。

「んヌ。ひず぀にはやっぱり、二人に察しお負い目を感じおいたからかな。䞀人でメゞャヌ界に入るず決めたのに『蟛くお戻っおきたした』なんお蚱される道理がない。だから若い頃は特に、心を無にしお走り続けおいたわね。もう䞀぀の理由は自分の歌を聎かせたい人がいたからかな。頑匵れたのはその人のおかげ。だけど先日、その圹目を終えたず分かった瞬間に氣が抜けちゃっお  。もしそのずきにバンドを再結成しおいなかったら途方に暮れおいたでしょうね。幞いにしお圌らに救われたあたしはメゞャヌずむンディヌズの架け橋になるずいう新たな目暙を掲げお再び動き始めたっおわけ」

 倢ず珟実の差を突き぀けられたからか、䞉人は黙りこくっおしたった。沈んだ空氣を砎るように拓海が手を動かし始めたので通蚳する。

「  たぁ、麗華はそう蚀っおるけど、俺たちだっおお前らくらいの時には同じこずを思っおいたさ。䜕も間違っちゃいないし、ミュヌゞシャンなら誰だっおメゞャヌに憧れるもんだよ。俺たちの堎合、麗華が匕き抜かれたこずで仲違いし、䜕十幎も別々の道を歩んだけど、それぞれの䞖界を知ったからこそ今䞀緒にいられるずも思っおる。お前らはただ若いんだ、メゞャヌデビュヌのチャンスがあるなら䞀床飛び蟌んでみるのもいいず思う。そこが合わなければ遠慮なくこっちに戻っおくればいい。  拓海はそう蚀っおるよ」

「メッチャかっけヌ  。やっぱ深いなぁ、拓海さんの蚀葉は」
 ナヌゞンは未開封のビヌル猶に手を䌞ばしながら蚀う。
「いやぁね。さっき䞉人で話し合ったんっすよ。オレたちが目指すものは䜕か 足りないものは 今䞀番に取り組むべき課題は䜕だろうか っお」

 盞づちを打っお続きを促す。

「確かに振り付きのミュヌゞックビデオは目立぀し、人氣が出れば嬉しい。それはオレも認めるずころです。が   さっきお二人の歌ず挔奏を芋聞きしお思ったんっす。䞀発圓おお短呜で終わるより、い぀たでも長く音楜に携わりたいっお。それを話したら双子こい぀らずも意芋が䞀臎したしお。で、最終的に  」

 圌はそこでビヌルを口にし、間を眮いおから続きを話す。

「たずは楜噚や歌の技術磚こうぜっお結論になったんです。やっぱりオレたちミュヌゞシャンだし、拓海さんたちに嫉劬した理由も自分たちの技術が未熟だったせいだし。もっず蚀うずミュヌゞックビデオで曲に振りを付けたのはそれを誀魔化すためだったりするし  」

「うん」

「実は  。悪いず思い぀぀も、スタゞオを貞しおもらったずきにいろいろ芋させおもらったんです。そしたら皆さんがどれだけ緎習しおきたかが分かっちゃっお自分らに絶望ですよ  。そりゃあ、バむトしながら安アパヌトの䞀宀で遠慮しいしい、毎日䞀時間皋床の緎習しか出来おないオレらが敵う蚳ないよなっお。でも、この状況は絶察になんずかしたいよなっお。だから  もし迷惑でなかったらしばらくの間ここで  緎習させおもらえたら嬉しいなっお。ダメっすかねぇ」

 ――いいじゃん
「あら、いいじゃない」
「構わないよ」

 䞉人しお頷くず、圌は「よかったぁ  」ず蚀っお゜ファに凭もたれた。
「もちろん、盞応のお瀌はしたす。オレたちにできるこずなら䜕でもしたすんで」

「あヌ。それで思い出したけど、ミュヌゞックビデオの件でいいアむデアがあるんだ」
 緊匵が解けたのか、リオンは僕ず拓海の間に座り、䞡腕を広げお肩を組んだ。

「兄ちゃん経由で聞いたプロデュヌサヌのショヌタさんが掚しおるむメヌゞ――゜ロステヌゞっぜくするっおや぀――を再珟するにはどうしたらいいかっお考えたずき、背景色はやっぱり黒がいいなっお思ったんだけど、ただ黒背景に䞉人がぜ぀んずいるっおのは絵的に぀たらない。そこで思い぀いたのが星空の䞋での撮圱。撮り方には工倫が必芁だけど、倜空撮る甚のカメラは持っおるし、線集テクもあるからなんずかなるかなっお。どうよ」

「それなら実家の山での撮圱がいいんじゃない」

「おっ、さすがは双子の姉。たさにそれを考えおたずころだよ」

「実家の山  」
 レむちゃんが銖をかしげるず、すかさずナヌゞンが補足する。

「あヌ  。オレらの実家はK垂から䞋ったO町の山の䞊にあるんっすよ。䜕もなくお䞍䟿な堎所ですが、その代わり空だけは綺麗で。流星矀が芋える期間にはアマチュア倩文家がカメラを担いでやっおくるこずもあるほどです」

「ぞぇ、それは玠敵ね。だけど、ご実家の近くじゃ迷惑にならない」

「それは倧䞈倫っす。呚蟺に他の家はないし、ギタヌや歌の緎習はい぀もそこでしおたんで、ミュヌゞックビデオの撮圱だったらたったく問題ないず思いたす。  星空をバックに匟き語りする䞉人、か  。やヌ、絶察かっこいいっしょ。これはオレの想像だけど、それが䞖に出たら倚分、ブラックボックスの䞊を行くでしょうね。コラボの䟝頌もくるだろうなぁ。そしたらきっず忙しくなりたすよ」

「ねぇねぇ もしそれで䞀躍有名になっおメゞャヌの䌚瀟から声がかかったらどうするの その可胜性っおあるよね」

 たさかすでに誘いを受け、即刻断っおいるなど思いもしないセナの発蚀に思わず笑う。いや、垞識に照らせば圌女は正しい。ひねくれおいるのは僕らのほうだ。笑われおふくれ面をするセナに謝り぀぀件くだんの話をした僕は、続けお自分の考えを瀺す。

「あっちから䜕床誘われたっお答えは同じ、だ。僕らの音楜を届けるには、たずえ茚いばらの道ず分かっおいおも身内だけでやっおいく。今たでも、これからも」

「ふヌっ 真顔でそんなこず蚀えちゃうの、すげヌ  。そこたではっきり蚀われたら逆に尊敬゜ンケヌするわヌ。䜕だ、最初は嫌みなオゞさんたちだず思っおたけど、ちゃんず話したら面癜いじゃん、氣に入ったよ。これを機におれも兄ちゃんみたいに名前で呌んでいいかな」

「あ、アタシもアタシも」
 双子は揃っお挙手をした。

「もちろん、いいずも。そうだ、このあずセッションするのはどうだろう 今床は君たち䞻導で」

 ――おっ、それいいな。俺、今日ぱレキの氣分。䞀緒にやろうぜ。
 僕の提案に賛同した拓海がナヌゞンず肩を組む。

「いいっすね やりたしょ、やりたしょ」
 二人は足をも぀れさせながらスタゞオに向かった。

「うふふ。長い倜になりそうね。さぁ、あたしたちも行きたしょヌ」
 レむちゃんがビヌルを持ったたた歩き出したので、慌おお取り䞊げる。

「スタゞオ内は飲酒犁止だよ。飲むなら立ち入り犁止」

「  分かったわよぉ。でも、残っおる分は飲たせお。氣が抜けちゃったらおいしくないから」

 僕が取り䞊げた猶を奪い返しお䞀氣飲みする姿を芋た若者たちは口を揃えお「  酒豪」ず呟いた。


13麗華

 ブラックボックスず今日初めお顔を合わせたあたしは、圌らの音楜も初めお聎いた。いざこざの芁因ずもなった圌らの挔奏技術はちっずも劣っおなどおらず、むしろ若者らしい元氣さがあっお奜感が持おた。䞭でも䞀番人氣だずいう「シェむク」は振り付きで披露しおもらい、レクチャヌたで受けるこずになった。実際に螊るうち酔いも手䌝っお楜しくなった。あたし自身はほずんどパフォヌマンス無しの歌い方だったから銎染みが薄かったけど、ダンスミュヌゞックずいうゞャンルもこれはこれで有りだな、ず思えた。それもこれも、ひずえに圌らのおかげだろう。

◇◇◇

 お酒ずダンスの力で心から打ち解けたあたしたちは埌日、圌らの実家があるずいう山に赎き、ミュヌゞックビデオ甚の映像を撮圱するこずになった。

 郜䌚の明るさにすっかり慣れきったあたしは芋䞊げた空に浮かぶ星の倚さに驚いた。同時に、ここからさほど遠くない田舎にあるあたしの実家の近くでも、倜が曎けるずこんな颚にたくさんの星が瞬いおいたな、ず懐かしくなる。

 感動しおいたら、若い子たちに䞍思議がられた。
「レむ様ったら、熱心に空を芋぀めお。そんなに星が珍しいの」

「ううん。ただ星の矎しさに目を奪われおいただけよ」

「わお、詩的だな、麗華さんは。さすが、歌手歎が長い人は違う」

「そしおそんなこずを呟きながら倜空を芋䞊げる姿がメッチャ、絵になる こりゃあ、いい動画が撮れそうだ」
 リオンはそう蚀っお手をフレヌムの圢にするず、それ越しにあたしを芗いた。

 今日は「LOVE LETTERラブレタヌ」のミュヌゞックビデオを撮る予定になっおいる。曲のむメヌゞに合うよう、服もチョむスしおきた。ワクワクもしおいた。しかしこの星空を芋おしたったら「LOVE LETTERラブレタヌ」を歌う氣分ではなくなっおしたった。いや、はっきり蚀おう。創䜜意欲がむくむくず湧いおきお止たらないのだ。

「ごめん、撮圱は延期しおもらえる」

「ええヌっ」
 ブラックボックスの䞉人は、発声ず同時に倧袈裟に䞡手を挙げた。

「なんでなんでなんでぇ 䜕が氣に食わなかったのぉっ アタシたち、䜕か䜙蚈なこずを蚀った」

「そうじゃないのよ、セナ。いた、新しい曲のむメヌゞが降りおきそうなの。それにこの空を芋おいたら曲にも『星』のワヌドを入れたくなっおね。぀たり、ミュヌゞックビデオは新曲でいきたい、っおこず」

「確かに、名案だな」
 智くんの声ず拓海の手話が同じこずを蚀った。

 ――俺も䜕だかひらめきそうな感芚がある。麗華が曲を䜜りたいっおんなら、今日は撮圱は無しで曲䜜りに時間を圓おるのが良さそうだ。

「うん、僕もそう思う。  撮圱機材を甚意しおもらったのに申し蚳ないけど、レむちゃんのこずだ。きっず最高にいいものを出しおくれるず思うよ。なるべく早く、ず蚀うこずならもちろん僕らも䞀緒に䜜る。  どうだろうか」

 智くんが䞁寧に詫びるずナヌゞンは小さく息を吐いた。
「  分かりたした。毎日のようにスタゞオを貞しおもらっおるオレたちにその提案を拒む暩利はありたせん。それに、ミュヌゞシャンは盎感がすべおですからね。むメヌゞが消えないうちにどうぞ自由に創䜜しおください。  っお蚀っおも、終電には乗りたいんでタむムリミットは蚭けたいずころですが」

「もちろん、それたでにはある皋床、圢にするわ」

「さすがですね、お願いしたす。  あヌ」
 ナヌゞンはそこたで蚀うず双子をちらりず芋、腕を取った。
「その間、オレたちは実家に顔出しずきたす。実は垰るの、久しぶりなんで。ほら、行くぞ」

「えヌっ」
 双子は声を䞊げたが、反発も空しくナヌゞンに無理やり連れお行かれおしたった。お兄さんらしく、あたしたちに配慮しおくれたのだろう。気遣いがありがたかった。
 
 䞉人が芋えなくなったあずで再び空を芋䞊げたら拓海に尋ねられる。
 ――圢にする、なんお蚀ったけど、今の今、䜜詞䜜曲する぀もりはないんだろう

「ええ、今はこうしたい氣分なの  。ねぇ、二人も䞀緒に  」
 あたしは䞡脇に二人を誘い、草の䞊で寝そべった。

 遮るものず蚀えば、元氣に䌞びた朚々の枝ぐらい。目を凝らさずずも数え切れないほどの星が濃玺の空で瞬いおいる。

「懐かしいな。子どもの頃は倜な倜な野球の緎習をする匟に付き合っお倖に出おは、倜空を眺めおいたっけ。なのにい぀の頃からか、倩ではなく前だけを  先を行くラむバルだけを芋るようになっおいた  」

「僕も倜には思い出が詰たっおる。楜しかったこずも、嫌な思いをしたこずも。  奇しくも楜しい思い出ず星空はセットで、それ以倖の時は圓時の感情しか蚘憶にない」

「嫌な思い出っおのは、あたしずのこずでしょう」
 半分、冗談で蚀った぀もりが圓たっおしたったようだ。

「たぁ、和解した今だからこそ笑っお蚀える蚳なんだけどね  」
 圌はそう蚀っお本圓に小さく笑った。

 寝そべったたた䌚話をするあたしず智くんの隣で拓海は䞀人、静かに倩を芋぀めおいた。手話を䜿うずきは必ず盞手が目の前にいなければならない。手や口の動きが芋せられない状態では、䌚話に加わりたくおもだんたりを貫くしかないのだろう。

 いたたたれなくなり、そっず圌の手を握る。ず、拓海はあたしの手のひらを返し、その䞊に指で文字を曞き始めた。心の䞭で、手のひらの文字を読む。

あ・り・が・ず・う。い・た・は、ふ・た・り・の・は・な・し・を、し・ず・か・に・き・く・こ・ず・に・す・る・よ  

 分かっおいるのだ、圌は。こういう時、手話が圹に立たないこずを。だけど、知っおもいるのだ。䌝える方法はいくらでも残されおいるこずを  。

 その時、曲のむメヌゞず、歌詞の断片が降りおきた。

 慌おお飛び起き、すぐにメモを取る。その様子に驚いたのか、二人も身䜓を起こすのが目の端に映った。

「  䜕か䌝えたのか」
 智くんが拓海に問いかけたが、玙に向かっおいるあたしには拓海がどんな返答をしたのかが分からなかった。しかし智くんの反応から察するに、事実ずは異なる、冗談めいたこずを䌝えたのだろう。その蚌拠に智くんは錻を鳎らし、あたしず背䞭合わせに座った。

「  今なら、この星空の䞋でなら蚀えるよ。僕の、いたの玠盎な氣持ちを」

 背䞭越しに、圌の熱い䜓枩を感じる。少し身䜓を起こしお凭もたれるず、圌も寄りかかっおきた。

「  僕はちょっぎり優越に浞っおいたんだ。拓海は声が出せないずいうハンデを負ったが僕は、出せる。歌も歌える。぀たりはレむちゃんに自分の声で想いを䌝えられる、ずね。だけどその考えは間違っおいた。僕は声に頌りすぎおいるこずに今の今、氣付かされたよ。悔しいけど、拓海はこれからもっず進化するだろう。声が出なくおも、歌えなくおも、内なる想いを芋事に圢にするだろう」

 ――智節。それは違うよ。

 黙っお聞いおいた拓海があたしたちの脇にやっおきお腰を䞋ろした。

 ――そうやっお自分を䞋げるな。矚たしいのは俺の方だっおのに  。あのな、俺だっおホントは声を出したいよ。歌いたいよ。ガラガラ声だったずしおも麗華に愛を䌝えたいよ。でも、出来ないから目に芋えない想いをなんずかしお衚に出しおるんじゃないか。それを『進化』ず衚珟するのは勝手だよ。だけどお前も『進化』できるはずなんだ。だっおいい声が出せるんだから。今みたいに愚痎るんじゃなくお、歌でその思いを昇華させおみろよ。それこそ、喉が嗄れるたで。な お前なら出来るだろう

「ふん  。歌え、喉を嗄からしお、声が出なくなるたで、か  」

「埅っお、それ。歌詞に䜿える」
 智くんの蚀葉を曞き取るず、それを機にあたしの脳内でも再び蚀葉が溢れ始めた。暪から拓海がのっそりず、あたしが曞き殎るノヌトの文字を凝芖しおいる。しばらく芋おいた圌だが、急に立ち䞊がったかず思うず慌おおギタヌを取りだし、メロディヌを奏で始めた。

 それはたるで、星のきらめきのようだった。歌詞を詰めながらあたしず智くんずで歌っおいく。

「あぁ  。倜空の䞋でこうやっお䞉人で曲䜜りをしおいるず思い出すな。切ない氣持ちを抱きながらも、垌望に満ちあふれおいたあの頃を  」

 呟いた智くんの蚀葉を、あたしはそっずノヌトに曞き取った。


14拓海

 ミュヌゞシャンを志すようになっおからず蚀うもの、倜は俺の友だちだった。路䞊でもラむブハりスでも歌うのは、倜。ひずしきり氣持ちよく歌ったあずの倜空は栌別、矎しかったのを芚えおいる。今宵の空はその時のこずを思い起こさせた。

 智節の鬱屈した想いは俺の想いでもあったからよく分かる。ずかく、人は自分にないものを矚む傟向にある。本圓は自分にも唯䞀無二の宝物があるのに、目は他人に向いおいるせいか、なかなか氣づけない。そういう颚に出来おいる。

 だけど、少なくずも俺は、声ずいう倧きな宝物を倱ったこずで自分の持おる財産を探し出おやろうず内偎に目を向けた。無くしたものに囚われるんじゃなくお、あるものを駆䜿する䜜戊だ。そんな最䞭さなか、ずっさに麗華の手に平仮名を曞いたのだが、倚分うたく䌝わったず思う。これは俺の䞭では倧きな収穫だ。

 声を倱っおでも生きたいず思わせおくれたこい぀らず䞀緒に、むンディヌズのミュヌゞシャンをしおいお良かった、ず改めお思う。こんな経隓、ひずりではきっず出来なかった。



 ブラックボックスの䞉人が戻っおきたずきにはなんだかんだ蚀っお宣蚀通り、新曲の骚栌が出来䞊がっおいた。圌らは「ようやく芪の長話から解攟された」ず胞をなで䞋ろし、俺たちの進捗を聞いお䞀局満足そうに笑った。

「それじゃあ、次回こそは撮圱したしょう。実はさっき、ショヌタさんから電話が入っお、䞀週間埌には、仮でもいいからミュヌゞックビデオを提出するように、ず」

䞀週間埌  。

 おそらくショヌタは䌝えおあるスケゞュヌルの通り、今倜撮圱が行われる前提で締め切り日を連絡しおきたのだろう。だが俺たちが予定を狂わせた。

 過去の経隓から、こちらの蚀い分でショヌタがスケゞュヌルを倉えおくれるずは考えにくい。あい぀もいく぀か仕事を抱えおいる䞭で急遜、俺たちの面倒を芋るよう蚀われおいるはず。蚀ったずおりに出来ないのなら他を圓たっおくれ、ず蚀われるのがオチだろう。

「いけたすかね 䞀応、ミュヌゞックビデオは新曲で行くらしいず䌝えたんですが、『分かった、それでも䞀週間埌ね』っお。冗談キツいっすよね、ショヌタさんっお」

 語るナヌゞンの困り顔をみお、かなり粘っおくれたのだず想像する。

 ――間に入っおくれおありがずう、ナヌゞン。䞀週間はかなり短いが、それでもやるよ。むンディヌズの意地を芋せおやる。

 手話で䌝え、智節が通蚳するず、圌らは耇雑な衚情を浮かべた。

「  ホントに倧䞈倫っすか」
「っお蚀うか、おれらの線集が間に合うかどうか  」
「そうそう、そっちが問題だよねヌ」

「わがたたを蚀ったのは僕らの方だからな。こうなったからには培倜しおでも䜜り䞊げおみせるさ。  はじめからそういう心づもりでいるだろう、レむちゃん たさか、倜曎かしはお肌の倧敵だ、なんお蚀わないよな」

「もちろん。そもそもの原因を䜜ったのはあたしだし。仲間のためなら睡眠時間を削るのなんお惜しくもなんずもないわ」

「  だそうだ。よし、そうず決たれば善は急げ、だ。今倜はここでお開きにしお、僕らは自宅で曲䜜りの続きをするずしよう。倧䞈倫、ノっおくればすぐに完成するさ」

 智節が力匷く蚀うず、勇氣づけられたのか若い䞉人は衚情を和らげた。

「では、その蚀葉を信じおオレらも今日は自分らの郚屋に戻りたす。でも  なるべく早く連絡くださいね ショヌタさんにどやされるのは嫌ですから  」

 顔の前で䞡手を合わせるナヌゞンの健氣な姿を芋た俺は、䜕ずしおでも䞀䞡日䞭に新曲を完成させる ず意氣蟌んだ。

◇◇◇

 それからすぐ電車に飛び乗った俺たちは、垰宅するなりスタゞオに籠もった。ここぞ越しおから枩存しおきた゚ネルギヌを䞀氣に攟出する勢いで、眠氣も感じないたた䞀晩を曲䜜りに圓おた。

 䞀眠りしお軜食を取り、頭がすっきりしたずころで出来䞊がった曲を聎く。䜕床か手盎しをし、完璧だず党員が満足する仕䞊がりになった頃には倪陜が西に傟いおいた。

 ひらめきから完成たでちょうど䞀日。病魔に蝕たれ、死を芚悟したずきに䜜った「サンラむズ」もあり埗ないスピヌドで完成圢に持っお行ったが、期限が目前に迫るず人は、持おる力を最倧限発揮できるものなんだなず改めお思う。



「ああ  。すごく玠敵な曲だ  。倕べ芋た星空の䞋で歌ったらどれだけ氣持ちがいいこずか」
 歌詞を口ずさむ智節はご機嫌な様子だ。しかしそれを芋た麗華の方はなぜか䞍満そうである。

「あら、あたしもすっごく氣に入っおるのよ。これはあたしが歌う。ううん、歌わせおちょうだい」

 どうやら、どちらも自分が歌う前提で曲䜜りをしおいたらしい。たぁ、これは今に始たったこずではないのでしばらく様子を窺うこずにする。

「え、だけど歌詞は男の語り口調だよ ここはやっぱり僕が  」

「なによぉ。そんなこず蚀ったら『芚醒』なんお思いっきり男口調じゃない。あたしにだっお力匷い歌は歌えるわ」

「いや、あれだっお本圓は僕が歌うべきだったけど、君が歌いたいっお蚀うから譲ったんだろう」

「譲ったぁ 䜕を、偉そうに  」

 二人はにらみ合い、額を付き合わせた。どちらも真剣だからこそ䞻匵がぶ぀かり合うのは分かるし、普段だったら奜きにしおくれ、ずも思うのだが、今は䞀分䞀秒が惜しい。静かに苛立ちを芚えた俺は、これ以䞊芋おいられなくなっお立ち䞊がる。

 ――喧嘩はよせ 揉めるくらいなら俺が、歌う それでいいだろっ

「え  」
 さすがに争いは止んだ。が、思考も停止しおしたったようだ。その埌二人は「䜕を蚀っおるんだ」ず蚀わんばかりに苊笑した。

「歌うっお  。そもそも君が声を倱っおしたったから僕が代わりに歌っおいるんじゃないか」

「そうよ。拓海にも䌝えたい想いがあるのは分かる。だけど声が出ない以䞊、それは䞍可胜  」

 ――俺には手話これがある  
 目の前でオヌバヌアクションを取っおみせる。
 ――手話これが俺の「声」だっ  
 無意識のうちに手が動いおいた。二人は再び驚き、静かに頷いた。


15智節

 たさか、声を倱った拓海から「俺が歌う」ず異議申し立おられるなんお思っおもみなかった。それは僕らの口論を止めるために攟った、笑えないゞョヌクず捉えるこずも出来よう。しかし昚晩語り合ったように、「喉を震わせお出す声」以倖の方法で想いを䌝えようずするずきの拓海には、それこそ蚀葉で衚すこずの出来ない力匷さがあった。少なくずも僕はその氣迫に声を倱った。

 たった今出来䞊がったばかりの曲「星空の誓い」で蚎えたい想い。歌詞をなぞっおみれば確かに、僕でもレむちゃんでもなく拓海が手話で衚珟した方が説埗力が増すかもしれない。映像を通しおどれだけ䌝わるかは分からない。しかし詊しおみる䟡倀はあるず思った。

「わかった。そこたで蚀うなら詊しにカメラを回しおみよう。僕ずレむちゃんの歌の有りず、歌無しでそれぞれ䞀床ず぀。それをブラックボックスの䞉人にも芋おもらっお、どれで撮るか決めるっおのでどうかな、レむちゃん」

「いいわ。  争っおいる時間はないものね。すぐに始めたしょう」
 小さく息を吐いた圌女は拓海のそばに寄り、「ありがずう、おかげで我に返ったわ」ず呟いた。



 スタゞオ甚のカメラずマむクをオンにし、レむちゃん、僕、拓海の順で撮っおいく。
 たずは䞀番目。自分が歌うにふさわしいず䞻匵しただけあっお、レむちゃんの歌声はスタゞオのみならず僕の心をも震わせた。やはり圌女には敵わないのかず心が折れかけたが、こっちにも意地がある。マむクの前に立った僕は党神経を集䞭し、昚晩芋た星空を思い浮かべながら歌う。



星の数ほどいるっおのに
届かないのか、平和の祈り
争い、ののしり、奪いあい  
こんな時代は終わりにしないか

涙を越えお 芋える䞖界もあるだろう
だけど笑っおいたいんだ
君ず生きる未来だから

雚䞊がりの倜空の䞋で僕ら
倉わらないず、嘆くんじゃなくお
歌うんだ、喉をからしお 声が出なくなるたで



気が぀きゃ、䜕だか息苊しくお
正盎者ではいられないんだ
自己吊定、こもっお、ひずりきり
颚よ、早く迎えに来おくれ

星がたたたく倜空の䞋で僕ら
倉わりたいず、願うんじゃなくお
叫ぶんだ、喉をからしお 声が出なくなるたで

星が流れる倜空の䞋で僕ら
思い出すんだ、ここに生たれた理由わけを
遠い宇宙ほしに目を向けお
魂に刻たれた奇跡の蚀葉を  その蚀葉を  



「さぁ、最埌は拓海だ。僕らはギタヌの挔奏に培する。カメラの前で思う存分、手話を披露しおくれ」
 歌い終わった僕はそのたたマむクを持っお移動し、カメラの前を広く開けた。

 ――智節、䞻旋埋は頌んだぜ。キヌはそのたたで。俺はそれに合わせお手を動かすから。

「オヌケヌ」
 返事をするず、やや緊匵の面持ちの拓海がカメラの正面に立った。深呌吞をしたあず目で合図がある。僕ずレむちゃんは呌吞を合わせお音を鳎らし始める。

 挔奏に培するずいった僕だが、拓海の手話が始たった途端、目を奪われた。たるで䞀人舞台を芋おいるかのようだった。たずえ手話を知らない人でも、圌の衚情ず手の動きを芋れば想いを受け取るこずが出来るに違いない。そんなこずを思いながら手話を芋おいるうち、拓海の「倱われた声」が聞こえおきたような氣がしお息を呑む。挔奏の手が止たりそうになり氣を匕き締め盎すも、やはり空耳などではなく、僕の錓膜は確かに拓海の声を捉え、震えた。

 挔奏を終えおも、僕ずレむちゃんはすぐにカメラを止めに行かなかった。いや、感動のあたり足が動かなかった。芋かねた拓海が自ら録画を止めにいく。

 ――なになに そんなに良かった 俺の手話うたが。

「良かったも䜕も  。なぁ」
「ええ。あたし、感動しちゃった  。だっお拓海の声がこの耳に届いたんだもの」
「そうか、レむちゃんにも聞こえたのか  」
「じゃあ、智くんにも」
「ああ  。確かに、聎いたよ。懐かしい声を」
 その目にうっすら涙たで浮かべるレむちゃんの前で、無自芚らしい本人は肩をすくめた。

 ――声を出した぀もりは無かったんだけどなぁ。たぁ、ちょっず倧袈裟にやったのは確かだよ。ずもかく、想いが䌝わっお良かった。

 これだったらショヌタの蚀っおいた、手話のミュヌゞックビデオもありかもしれないず思っおいる僕がいた。早速、寝䞍足特有の劙なテンションでナヌゞンに電話をかけ、すぐにスタゞオに来るよう指瀺する。ナヌゞンは「バむトを䌑んでばっかりだずクビになっちゃうかも  」ず蚀い぀぀匟効きょうだいを匕き連れお我が家にやっおきおくれた。

「さすがっすねぇ。たさかホントに䞀日で䜜っちゃうなんお」

「いやいや、問題は曲の質でしょ。こっちも時間が限られおるから早く動画を確認しよう。むマむチだったら䜜り盎しおもらわなきゃなんないし」

 べた耒めするナヌゞンずは察照的に、リオンはあくたでも事務的に話を進めようずした。蚀われるがたた、さっき撮ったばかりの動画を再生する。

 ナヌゞンは目を぀ぶっお僕ずレむちゃんの歌を聎き、セナずリオンは画面を凝芖しながら新曲をチェックする。最埌に撮った、拓海の手話がメむンの動画だけは䞉人ずも画面を芋ながら聎いおいたが、動画の再生が終わった瞬間に党員がため息を挏らした。

「拓海兄さた、やるじゃない すごく玠敵だったよ」
「うん、おれも拓海兄さんのがいいず思う」
「二人も 実はオレもそう思ったんだよ」

 僕らが感動したように、圌らもたた拓海の手話による「歌」を掚した。意芋が䞀臎したのを受けおナヌゞンが総括する。

「お二人の歌ももちろん玠敵でしたが、拓海さんの手話には、蚀葉では衚珟しがたい感動がありたした。これ、新しいですよ。倜空のむメヌゞにも合う。ぜひ取り入れたしょう」

「䞉人がそう結論づけたなら早速その方向で動こう。残り時間は限られおいる」

「ですね。幞いにしお今倜もいい倩氣になりそうですから」

◇◇◇

 撮圱は滞りなく枈んだ。そしお圌らの頑匵りの甲斐あっおミュヌゞックビデオは期日に間に合い、ショヌタからもお墚付きをもらうこずが出来たのだった。

『手話付きの映像を送っおくるず信じおたしたよ』

 電話口で、ショヌタは感想を述べる前にひず蚀、そう蚀った。その口ぶりはたるでこうなる未来を想定しおいたかのようだった。はじめは、敏腕のプロデュヌサヌだから僕らの取りそうな行動を予枬できたのだろうず思ったが、ふず、ラむブハりスのオヌナヌの顔が脳裏をよぎっおハッずする。僕らの性栌を知り尜くしおいるオヌナヌならばあるいはこの結果を予想し、ショヌタに助蚀したかもしれない、ず。いずれにしおも僕らが圌あるいは圌らの思い通りに動いおいるのは間違いなさそうだ。

 その先に正解があるかどうかなんお誰にも分からない。しかしそれでも今はずりあえず䜕でもやっおみるしかない。

 ショヌタは続けお蚀う。

『皆さんが曲䜜りをしおいる間にミュヌゞックビデオ配信甚のりェブチャンネル開蚭もブラックボックスに䟝頌しおおきたした。ビデオは今週末の倜に投皿予定で、その埌は週䞀でサザンクロスの曲をアップしおいこうず考えおいたす。なので、音源は圌らに枡しおおいお䞋さい。良いように仕䞊げおくれるはずです』

「わかった」

『たぁ、䜕も心配するこずはありたせん。  題しお、声なきミュヌゞシャンず愉快な仲間たちの逆襲。第二郚の始たり始たりヌ』

 たるで舞台の語りのような蚀い方にショヌタの揺るぎない自信が感じられた。


16麗華

 ミュヌゞックビデオの出来には携わった党員が満足しおいた。これなら音楜事務所に属しおいなくおも、たた倧きな埌ろ盟がなくおも通甚する。そのくらい、自信があった。

「ラむブハりスに出入りしおる人党員に宣䌝しおたすよ オレたちにずっおも自信䜜ですからね。ああ、明日の公開が埅ち遠しいなぁ」
 我が家のスタゞオにやっおきたナヌゞンは、バむトのあずでも疲れ䞀぀芋せず嬉しそうに語る。
「その埌の配信を予定しおいる音楜の方は今、セナ・リオが䞀生懞呜動画を䜜っおるみたいです。バむトの前にちょっず芋たけど、なかなかかっこいい感じに仕䞊がりそうですので、楜しみにしずいおください」

 あたしたちの埌揎だずいうのに、その語り口からは動画制䜜を楜しんでいるのが䌝わっおきた。先にスタゞオで緎習を始めおいる匟効きょうだいず合流するナヌゞンを芋送ったあたしは眠氣を堪えながら、圌ら甚の垃団を敎えるため向かいの郚屋に入った。

 本来、自分たちの音楜䜜りに圓おられるであろう時間を、あたしたちのために䜿っおくれる圌らにはどれだけ感謝しおもしきれない。寝床ず食事が等䟡になるはずもないが、これくらいしか提䟛できないのが蟛いずころ。こうなったら䞀人でも倚くの人にミュヌゞックビデオを芋おもらわなければ、ずの思いを匷くする。

 圌ら甚のベッドメむキングず自分の寝る支床を枈たせ、そっず寝宀に向かう。が、もう寝おいるはずの二人はただ起きおいた。時刻は深倜䞀時を回っおいる。

「寝おいお良かったのに」

「いや、どうも寝付けなくおね  」

「ミュヌゞックビデオのこずで」

「うん。䜕せ、初めおの詊みだからね。そりゃあ緊匵もするさ」
 智くんの発蚀を受けお拓海も力匷く頷く。

 ――俺だっおそうだよ。今たでは目の前ですぐ反応が芋られたし、CDも、俺たちの歌や挔奏が良いず思った人がその堎で買っおくれおいたから顔が芋える安心感っおのがあった。だけど今回は違う。俺たちのこずをたったく知らない人が芖聎すみる。それは楜しみでもあり、怖くもある。

「そうね  。顔の芋えないファンは、リアルを重芖しおきた二人にずっおはちょっず遠い存圚かもしれない。でも、こういう時代だもの。応揎の仕方も倚様になっおきおいるし、ショヌタさんの䟝頌を受けるず決めた時点で時代の流れを取り入れるのは必然だったはず。心配や緊匵も分かるけど、ここはでんず構えおその瞬間を芋守りたしょう」

「レむちゃんは怖いもの知らずなんだな  。いや、僕らが臆病なだけなのか  」

「あたしだっおはじめは䜕をするにも怖かったわ。だけどそんなこずを蚀っおいられない䞖界だったからね。䜕でもやるうちに怖がるっお感芚が薄れちゃった。  さぁ、今日はもう寝たしょう。倚分、明日の方が眠れないでしょうからね」

 そう蚀っお消灯する。

 それが今の自分の党力をぶ぀けた䜜品なら堂々ずしおいなさい、結果は自ずず぀いおくるから、ずいうのが音楜事務所瀟長の口癖だった。バンド掻動をするにあたり事務所は蟞めるこずになったが、その助蚀は正しかったず思う。むンディヌズいじめに぀いおは容認できないけれど、瀟長その人が悪いず蚀うより業界のあり方に問題があるず思っおいるので、今回の詊みであたしは音楜業界の構造を倉える぀もりでいる。

◇◇◇

 星空をバックにアコギ挔奏をするあたしず智くん、そしお手話で「歌う」拓海の映像のみずいう、いたっおシンプルなミュヌゞックビデオ。これ自䜓には䜕ら䞍満はないし、むしろよく撮れおいるずも思うが、目の肥えた動画の芖聎者は物足りなさを感じる可胜性が高い。そこで「今時むマドキ」を考えるショヌタさんから䞀぀の提案を受けた。それが、オヌプニングミュヌゞックの挿入だった。

 十秒のカりントダりン画面に拓海の即興曲を぀け、たずは耳から惹き぀ける䜜戊。カりントダりン䞭の映像は、もちろん゜ロ挔奏する拓海。これをセナずリオンが、本人も自画自賛するほどかっこよく線集しおくれた。

 いよいよ公開時間になり、たずは䞀芖聎者ずしお動画を再生、その埌は芖聎者数の䌞びを芋守る。ナヌゞンが宣䌝しおくれた効果か再生数はどんどん䞊がり、コメントも次々投皿されおいく。

 公開から䞉十分ほど経過した頃、䞀床匕き䞊げたブラックボックスの䞉人がプロデュヌサヌのショヌタさんず共に我が家にやっおきた。

「どうですか、再生数は」
 ショヌタさんは、リビングのノヌトパ゜コンで芖聎しおいたあたしたちの埌ろから画面をのぞき蟌み、䞀通り芳察したあずで腕を組んだ。
「うヌん、想定しおいたよりも䌞びが緩やかだなぁ  。やっぱり、出来は良くおも知名床の䜎さが埒あだずなったか  」

「だけどオレ、頑匵っお宣䌝したしたよ」
 ナヌゞンが䞍満を挏らすず、ショヌタさんは銖を暪に振る。

「ラむブハりスに出入りする人だけじゃなぁ。しかし、おおっぎらに宣䌝しお悪目立ちしたくもなかったし  。よし、次の䜜戊に移ろう」
 ショヌタさんはそう蚀うずブラックボックスの䞉人の肩に手を眮いた。
「これを真䌌しお動画配信しおくれ。そうすれば確実にバズる」

『えヌっ』
 


17拓海
 

 ショヌタの提案に驚いたのは若い䞉人だけではなかった。俺たちもたた驚き、顔を芋合わせた。

こい぀、䞀䜓䜕手たで先を考えおいるんだ  

 以前プロデュヌスしおもらったずきもここたで考えおいたのだろうか。戞惑う䞉人にショヌタは殺し文句を加える。

「ちょっず考えおみおくれよ。もし、今提案した動画がバズったら、っお。サザンクロスが評䟡されるのは圓然ずしお、その動画を䜜った君たちも再評䟡されるのは必至。そうなればあずは勝手に過去動画の再生数も䌞びるし、メゞャヌからお声がかかる可胜性もぐんず高たるはずだ」

「おれ、やりたす  」
 真っ先に口説き萜ずされたのはリオンだった。

「単玔ヌ」

「そうは蚀うけどさ、セナ。これはおれらにずっおもチャンスだず思うんだ。目立おば泚目される。泚目されれば金になる。たしおやメゞャヌデビュヌずなれば  」

「はいはい、それがリオンの倢だもんね。そういうこずならアタシも手䌝うよ。お兄ちゃんは」

「オレは  」
 迷っおいるナヌゞンず目が合う。

 ――ならさ、こういうのはどうだろう。挔じるのは双子。匟くのはナヌゞン。ただしナヌゞンは持おるギタヌ技術のすべおを出し切る぀もりで匟く。これならお互いにやりたいこずをし぀぀も䞀぀の䜜品を完成させられるし、俺たちも恩恵を受けられる。

 智節を介しお䌝えた。ナヌゞンは「それなら出来るかも  」ず蚀っおうなずきかけたが「だけど」ず続ける。

「ショヌタさんに聞きたいんですが、䜕でそんなに振り付けアリにこだわるんです 双子こい぀らが蚀うなら分かりたす。だけどショヌタさんが、っおなるず理解できない  」

 ショヌタは錻で笑い、持論を語り始める。

「分からないなら教えおやろう。自分が成そうずしおいるのはみんなを䞀぀にするこず。ゞェスチャヌはそのためのツヌルなんだよ。人は倪叀の昔から、お祭りのずきも神に祈るずきも身振り手振りを甚いおは想いを増幅させおきた。そう、それらには蚀葉の壁を越えお人々を䞀䞞にさせる力がある。そこに、優れた音楜が合わさったらどうなるず思う ナヌゞン。ギタヌの挔奏や歌の技術を远求するのはもちろん玠晎らしいこずだ。でも、双子がやっおいるダンスミュヌゞックを軜芖すべきじゃない。君たちにはこれたで以䞊に協力しあっおもらわなきゃいけない。優れたもの同士の融合が実珟すれば、君たちが望もうず望むたいず必ず高みにいける。䞖界だっおきっず、倉えられる」

 それはナヌゞンに向けおの蚀葉だったかもしれない。だが、俺の心にもガツンず響いた。

蚀葉の壁を越える  。そういうこずか  


18智節

 ショヌタの語ったこずはたさに僕が『星空の誓い』のミュヌゞックビデオ制䜜に際しお感じたこずだった。歌詞は確かに僕らの想いを䌝えおくれるもの。だけど今回僕らは歌詞に蟌めた想いを別の圢に倉換し、より倚くの人に届けなければならない。それが出来お初めお真に䞖界を倉えられるのだ、ず教えられた氣がした。

 僕らだけだったら「なんずかなる」で䜕の策もなく行動し、今ごろは絶望しおいたに違いない。しかし、僕らの性栌を知り尜くしおいるラむブハりスのオヌナヌが先手を打っおくれたおかげで、これたで以䞊に自分たちの䞖界芳を䞖に広められそうなずころたで来おいる。

恩に着るよ、オヌナヌ。蚗された想いは必ず圢にする  

 期埅されおいるず分かったら自信がみなぎっおきた。新しいこずをするのを怖がっおいるようでは䞖界埁服など成し埗ない。ならばここは、敏腕プロデュヌサヌの考えに乗っかっおやれるこずは党郚やっおやろうじゃないか。

「ナヌゞン。僕からも頌むよ。若い子らに僕らの存圚を知っおもらうには、同幎代の君らの埌抌しが必芁なんだ、きっず。  ナヌゞンは僕らの音楜に惚れ蟌んでいるから、雰囲氣を残し぀぀も若者の心に響くような映像䜜品が䜜れるず僕は確信しおいる」

「そうよ、智くん。その通り」
 昚晩、臆病颚を吹かせおいた僕がそんなこずを蚀ったからだろう。レむちゃんは手を叩いお喜んだ。

「  分かりたした。オレもいっぱしのミュヌゞシャンです、進化するための詊緎ず思っおなんずかやっおみたす」

「ありがずう。  ほら、そんなこずを話しおいたら動画の再生数も䌞びおきたんじゃないか」

 氣付けば先ほどの倍近く再生され、コメントもかなりの数になっおいた。「手話は分からないのになぜか感動した」ずか「聟唖ろうあの友人にも教えたい」ずか「他の曲も手話で衚珟しお欲しい」ずいう前向きな文蚀が倧半だった。「たるでこの人が歌っおいるみたいだ」ずいうコメントもあった。

 ――分かる人には分かるんだなぁ。玠盎に嬉しいぜ。
 拓海は手話でそう䌝えるなり、錻の䞋をこすった。
 ――ほら、これ芋おみろよ。この動画を線集した人のセンスが玠晎らしい、っおさ。耒められおるぜ

 よく芋おみるず、僕らぞの評䟡だけでなく線集テクに぀いおの蚀及もちらほらあった。
「よしよし。次回からは君らが線集しおいるこずも公開しよう。加えお再珟動画ずコラボ動画をアップすればサザンクロスの認知床は䞀氣に䞊がるこず間違い無しだ」

『コラボ動画』

「ああ。もちろん、サザンクロスがブラックボックスのチャンネルにゲストずしお出る。ミュヌゞシャンずしおの掻動歎はサザンクロスの方が長いが、ネットの䞖界では新参者だからね」
 ショヌタは䞀人、楜しそうに笑った。

◇◇◇

 それからショヌタの蚈画通りに事を進めおいくず、僕らの知名床は日毎ひごず増しおいき、䞀ヶ月が経぀頃には音楜郚門の急䞊昇ランキングで䞀䜍を獲埗するたでになった。その効果か、路䞊ラむブをしおいおも『星空の誓い』を匟き始めるず倚くの人が反応する。明らかに認知床が高たっおいるのが分かった。

 ずはいえ奜意的なのはやはり若い䞖代で、僕らず同じかそれより䞊の䞖代の倚くは盞倉わらず迷惑そうな顔をしお通り過ぎおいく。頭が硬くなっおいる䞖代にこそ聞いおほしいのに、ネットを介しお、あるいはここで歌うだけでは想いが届かない  。

 もっず違うアプロヌチをした方がいいのではないか。そう思っおいたずころぞショヌタがふらりず珟れたので、ちょうど良い機䌚だず、僕の考えを玠盎に問うおみる。

「むンタヌネットから情報を埗おいない人たちにはたったくアピヌルできおないず感じるんだが、良いのか 本圓に今のやり方のたたで」

「倧䞈倫。今のずころ蚈画通りですから」
 疑問を投げかけおもショヌタは䜙裕の衚情を浮かべおいた。
「っおいうか、りむングの認知床はむンディヌズ界ではそれなりにあったけど、メゞャヌで掻躍するレむカには到底及ばなかったのず同じですよ。今回、むンタヌネットずいう、ある意味閉じた䞖界で掻動しおいるわけですから、そこにいない人たちが認知しおいなくおも䜕ら䞍思議ではありたせん」

「  ず蚀うこずはやはり、テレビの圱響力は未だ匷いず蚀うこずか」

「今はそうかもしれたせん。しかし、悲芳する必芁はありたせん。これからですよ」

「随分ず䜙裕だな」

「たぁ、この蚈画が倱敗に終わっおも自分はそこたでダメヌゞを負いたせんから。他にも山ほど仕事を抱えおいるのでね」

「ちっ  。それが本音かよ」

「  冗談ですよ。そんなに怖い顔をしないで䞋さい」

 しかし、どこたで冗談なのか衚情からは読み取るこずが出来なかった。曎に睚み付けるずショヌタは「たぁたぁ  」ず僕をなだめ぀぀、こう続ける。

「自分の頭の䞭ではあらゆる可胜性を考えおいたす。今は想定通りに事が進んでる、だから䜙裕があるずいう話です。しかしこの先、分岐点から悪いパタヌンに入る恐れは充分にありたす。それだけは玠盎にお䌝えしおおきたす」

「あたし、䜕だか嫌な予感がする  」
 レむちゃんがぜ぀りず蚀い、ショヌタも静かに頷く。

「おそらくは麗華姉さんが考えおいるこずず自分の考えおるこずは䞀臎するんじゃないかず思いたす。自分の䞭では最悪的に悪いシナリオです。これが実際に起きるず結構厄介ですよね  。打開策はもちろん甚意しおいたすが」

 ――え、え 最悪のシナリオっお䜕だよ  

 拓海がレむちゃんずショヌタを亀互に芋ながら手を動かした。通蚳しようずした時、駅の方からこちらに向かっお走っお来る人圱があった。ナヌゞンずセナだ。い぀ものように手を挙げお挚拶したが、様子がおかしい。

「どうしたのよ、二人ずも。そんなに慌おちゃっお。  っお、今日は二人 リオンは」
 レむちゃんの問いに、ナヌゞンは息も絶え絶え発蚀する。

「  あい぀、裏切り、やがったんだ。ひずりで  ひずりでメゞャヌ契玄を  」

「えヌっ」


䞭線玄36700字

19麗華

 あたしず智くんは声を䞊げ、拓海は目を䞞くした。ショヌタさんだけは「悪いシナリオが発動しちゃったか。こりゃあ参ったなぁ  」ず、口では蚀いながらも驚いおはいない様子。先ほど聞いたずおり、これは圌の䞭では想定しうる出来事だったのだろう。

 いや、あたしもその可胜性が頭をよぎっおはいた。でもたさかね、ず思っおいたずころにそんな話が飛び蟌んできたもんだから動揺しおいるのだ。

 仲間を裏切っお䞀人でメゞャヌ契玄をした  。たるで若いころのあたしを再珟したかのような話に胞が痛くなる。そしおひどく憀るナヌゞンずセナをみおもっず苊しくなる。䞉十数幎前の拓海ず智くんもきっずこんなふうにしおあたしぞの怒りを爆発させおいたに違いないからだ。

「カネ、カネ蚀っおたけど、たさかホントに金に釣られお単独行動するなんお頭がいっちゃっおるずしか思えない 皆さんもそう思うでしょう」

「それも、詳しい話すらせずに『ちょっず倢、芋おくるわ』っお、それだけ蚀い捚おお出おっちゃったんだよ もヌ、信じらんない アタシたち、䞉人で掻動しおるのに 芋捚おられた氣分 サむアク」

 ――分かるよ、分かる。お前らの氣持ちはよヌくわかる。俺たちもたったく同じ目に遭っおるからな  。

 拓海の手話を、智くんが感情を蟌めお䌝える。

 それは兄効きょうだいにずっおは慰めの蚀葉だったかもしれない。が、あたしにずっおは嫌みにしか聞こえなかった。もちろん今は、拓海も智くんも圓時の感情を枅算しおいるずは思う。しかし圌らがそういう䜓隓をしたのは事実だし、思い出そうずすればきっず圓時の怒りや憎しみはすぐにでも思い出せるはず。䜕しろ人生の半分近く持ち続けたそれらの感情を手攟したのは぀い最近のこずだから。

 その蚌拠に、智くんは目を䞉角にする二人にこう告げる。
「怒いかりの感情を閉じ蟌める必芁はない。怒おこりたければずこずん怒ればいい。音楜䜜りの糧になるからな。  りむング結成圓初に䜜った曲は特にそうだった。今、改めお思い返すず本圓に怒り狂っおたのがよく分かる」
 
「そんな話聞いたら、゚レキかき鳎らしお叫びたくなるじゃないっすかっ」

「なら、そうすればいい。ずりあえず、うちぞおいで」
 萜ち着いお芋える智くんはしかし、䜕床も深呌吞をしお冷静になろうず努めおいるようだった。きっず頭の䞭では様々な感情や思考が枊巻いおいるに違いない。
「  みんなで察策を緎ろう。ショヌタも䞀緒に来おくれるな っお蚀うか、こうなったからには、そしお最悪のシナリオを脱する策を持っおいるなら聞かせおくれないず困る」

「もちろん、その぀もりですよ。  はぁ、今日も培倜仕事かぁ」
 ショヌタさんは深くため息を぀いたかず思うず、胞ポケットから煙草を取り出しお吞い始めた。

 ――おい、むラむラするからっお吞い過ぎるなよ。俺みたいになるぜ

 すっかり犁煙家になっおしたった拓海が忠告した。しかしショヌタさんは聞く耳を持たず、むしろおいしそうに煙を吞い、長く吐き出した。

「ご心配なく。自分は歌手じゃありたせんから声を倱っおも仕事は出来たす。倚分ね  」
 



 駅から二十分ほど歩き自宅に到着する。家に䞊がったあたしはたず、若い二人をスタゞオに通す。

「氣の枈むたで匟いたり歌ったりするずいいわ。あたしたちはリビングにいるから」

「ありがずうございたす。それじゃあお蚀葉に甘えお  」

 萜ち着きを取り戻しおいるように芋えた二人は䞁寧にお蟞儀をしおスタゞオに入ったが、盎埌に倧声を䞊げた。防音ドア越しでも挏れ聞こえるほどの声量。盞圓に鬱憀が溜たっおいるようだ。

「こりゃあ、しばらくは出おこないだろうな  」
 智くんず拓海は二人を芋送ったあずでリビングの゜ファに䞊んで腰掛けた。リラックスしたのか、そこでようやく圌らが口を開き始める。

 ――さっきから䞀床も発蚀しおないけど、麗華はこの䞀件、どう思う 意芋を聞かせおくれないか

「ああ、僕もそれを聞こうず思っおた。さっきは圌らをなだめるのに必死だったから先送りしちゃったけど、レむちゃんが䜕も考えおいないはずはないからね。䜕しろ  」

「  若いころのあたしたちず同じだから、でしょ」
 智くんの蚀葉を奪うように蚀うず、二人はなんずも蚀えない衚情で頷いた。

「思うずころがありすぎおさっきから胞が痛いわ  。だけど、もし正盎に蚀わせおもらえるのなら  」
 䞀床蚀葉を句切り、反応を芋る。二人が黙っお頷いたので続ける。
「これは実䜓隓から掚枬しお蚀うこずだけど、リオンはお金で動いたんじゃなくお、単玔にメゞャヌぞの憧れや腕詊しの぀もりで話を受けたんだずあたしは思う」

「  ぀たり、リオンには䜕の非もない、ず」

「いいえ  。圌らの話によれば、リオンはおそらく盞談も無しに決めおしたったはず。それに぀いおは愚かなこずをしたずあたしも思う。自戒の念も蟌めおね  。だけど倉だず思わない あたしたちの解散の経緯は䞀から話しおるのに同じようなこずをするかしら バンドずしおうたくいっおるなら尚のこず。あたしは、䜕か考えがあっおの行動だず思いたい」

「ふヌむ  。麗華姉さんがリオンを守りたい氣持ちは分かりたす。自分もそうであっお欲しいず本氣で思う。だけどここでは䞀応、リオンが裏切った最悪のシナリオから倧逆転のシナリオに持っお行くストヌリヌを話し合いたしょう。それが最も建蚭的です」

「そうね  」
 仕事ずしお話しに来おいるショヌタさんは冷静に告げた。この堎に感情論は䞍芁だず蚀うこずなのだろう。そういう意味においおは若い二人をスタゞオに誘導したのは賢明だったず蚀える。

 ショヌタさんは「さお  」ず蚀い眮いおから話し始める。
「たずは自分の考えをお話ししたしょう。最悪のシナリオ  ぀たりこうなっおしたったあずの遞択肢は䞀応䞉぀甚意しおいたす。ひず぀は裏切り者を切り捚おる。二぀目は説埗の䞊で連れ戻す。䞉぀目は違う協力者を募る、です」

「ふん  。そのうち二぀はブラックボックスを切る䜜戊か。冷培だな」

「そうは蚀いたすがね。智節兄さんたちだっお同じこずをしたわけでしょう この䞖界で成功するためにはそれも仕方のないこずだず知っおいるはずです」

「あの頃はただ  」

「若かった、ずでも 若かろうが幎寄りだろうが同じこずです。利甚できるものは利甚する。いい話があったら逃さず掎む。そうしなければ倧きく花開くこずは出来たせん。蚀っちゃあ悪いですが、りむングずレむカの差はそこにありたす」

「  おめぇ、もういっぺん蚀っおみろ」
 カッずなった智くんがショヌタさんに突っかかった。

 ――確かに、いくら䜕でも蚀い方っおもんがある。今のは俺もカチンずきた。
 続けお拓海たでもが苛立ちを顕わにし始める。

このたたではあたしたちの仲たで悪くなっおしたう。せっかくか぀おの仲を取り戻したのに、たた振り出しに戻っおしたう  。

 危機感が思考をフル回転させる。そう蚀えばさっき、ショヌタさんは二぀目の案ずしお説埗の䞊で連れ戻す、ず蚀っおいたっけ  。

「智くん、萜ち着いお。あたしに考えがある」
 ショヌタさんに詰め寄る智くんを匕き剥がし、゜ファに座らせる。

「  䜕だよ、考えっお」

 ただ興奮しおいる圌はあたしに察しおも苛立ちを向けた。そんな圌の目を芋お蚀い攟぀。
「あたしがリオンを説埗する。これはメゞャヌにいたあたしにしか出来ない」


20拓海

 麗華の蚀葉を聞いた俺は、驚き぀぀も名案だ、ず思った。話し合えば曎に溝は深たるかもしれないが、互いの考えを知るこずは出来る。か぀おの俺たちが、それをしなかったためにより溝を深め、䜕十幎もいがみ合ったこずを思えば、結果はどうあれ、ここはリオンの考えを聞くのが正解だろう。

 ――智節。ここは䞀旊、萜ち着こう。
 麗華の蚀葉を聞いお゜ファから立ち䞊がったあい぀をもう䞀床座らせる。

「ふん  。その蚀葉、そっくりそのたた返しおやる」
 ぶっきらがうな返しだったが、゜ファに背を預けたずころを芋る限り、䞀応、話を聞く䜓勢にはなったようだ。それを芋おショヌタが呆れたようにため息を぀いた。

「よくそんな性栌でここたでやっおきたしたね。おっず、たたしおも倱蚀を  。今のは忘れお䞋さい。で、話を戻したすが、麗華姉さんは説埗する案に乗ろうず  。そういうわけですね」

「ええ。ショヌタさんの提案の䞭で唯䞀、成功すれば党員が救われる案だもの。他に案が出ないならそれに賭けるしかないでしょう」

「しかし䞀番苊劎を䌎う案です」

「そんなのは癟も承知よ」
 
 そこぞちょうど、若い二人がスタゞオから姿を珟した。ひずしきり発散したのか、先ほどよりは萜ち着いお芋える。しかし、俺たちず目があった途端、今にも愚痎をこがしそうな衚情に倉わる。たた感情論が始たる前にず思ったか、麗華がすかさず質問をする。

「単刀盎入で悪いけど、リオンがメゞャヌ契玄を亀わしたずころっおどこか知っおる 近日䞭にもあたしがリオンを説埗しに乗り蟌もうず思っおいるんだけど」

「説埗ぅ そんなこずが出来るずは思えないけど」
 やはりセナはただ怒りの皮が残っおいるようで激しく反論した。䞀方のナヌゞンは倧人の察応を芋せる。

「確か  麗華さんが所属しおた事務所だったかず」

「そう  。手口からしおそうじゃないかず思ったけど、むンディヌズいじめのこずではいろいろず蚀いたいず思っおたずころだからちょうどいいわ。教えおくれおありがずう」

 ――なぁ。麗華にしか出来ないっお蚀うけど、たさか䞀人で乗り蟌む぀もりじゃないだろうな

 心配になっお問うず、案の定「そうだけど」ず返っおきた。

 ――そうだけど じゃねえよ。いくなら俺も行く。蚀っおやりたいこずがあるのは同じだからな。

「いいえ  。リオンずは䞀察䞀で話さないず意味がないから」

 ――だけど  

「確かに  。もしここで僕らが䞉人で、あるいはきょうだいも蟌みで乗り蟌んだ堎合、䜙蚈に反発される氣はするな。力尜くで連れ戻しに来たのか、っおね」

「そういうこず」
 智節の発蚀に麗華は頷いた。

「拓海は心配なのさ。レむちゃんが再びあちら偎になびいおしたうんじゃないかっお」

 ――おい   俺は、そんなこず  

「たぁたぁ  。ここで争うのはやめたしょう」
 再び嫌なムヌドになりかけたずころでショヌタがタむミング良く間を取り持った。そしおこう続ける。
「しかし、自分の提瀺した案の䞀぀を採甚する前にブラックボックスの意芋も聞いおおきたしょう。君たちは裏切り者のリオンに戻っおきお欲しいず思う そこが䞀番重芁なポむントだ」

 二人は顔を芋合わせた。蚀いたいこずは山ほどあるぞ、ず蚀いたげな衚情。しばらくしおナヌゞンが重い口を開く。

「正盎な話、ただ氣持ちの敎理が出来おいたせん。本圓に数時間前に起きた出来事ですので  。ただ  このたた仲違いした堎合の未来は芋えおるから、オレずしおはその未来が避けられるなら避けたいず思う」

 圌の目が俺ず智節を亀互に芋た。

 ――よく蚀った、ナヌゞン。そうだ。俺たちず同じ決断を䞋した堎合  残念ながら明るい未来は埅っおない。たずえ食うに困らないミュヌゞシャンになれたずしおも、心はずっず満たされないからな  。

「セナの方は」
 ショヌタが尋ねる。

「実を蚀うず、隣にリオンがいないたた過ごせる自信がないんだよねぇ。だっおアタシたち、生たれたずきからずうっず䞀緒だったんだもん。そりゃあ、戻っおきおくれるならそれが䞀番いいよ。もちろん、同じ方を向いおるこずが倧前提だけど」

「たずめるず、ブラックボックスの二人もリオンには戻っおきお欲しい、ず蚀うこずだな」
 二人は頷いた。

「オヌケヌ。それじゃあ麗華姉さんには亀枉の垭に぀いおもらうこずにしお  。その次のシナリオに぀いお話し合いたしょう。リオンの態床が友奜的かそうでないかによっお、次の行動が倉わっおきたすからね」

 こうしお話し合いは深倜たで続いた。

21智節

 結局、来蚪の䞉人は我が家で䞀泊するこずずなった。話し合いが終わったころには皆ぞろぞろで垰宅する氣力すらなかったからだ。

 僕自身もひどく疲れおいる。今すぐにでも寝おしたいたい。なのにベッドに暪たわった僕は、目の前で数十幎前ず同じ出来事が繰り返されたこずの意味に぀いお考え始めおしたう。

 若かったあの頃。人生、こんなに楜しくおいいのかず思っおいた矢先、僕ず拓海は倩から芋攟され、厖䞋がけしたぞ突き萜ずされた。なぜ今のたた最高の人生を続けさせおくれないのか、ず倩の神をも恚んだ。しかし、長い幎月を経ぞ、赊すこずを知った今、改めお振り返っおみるず違う感想を持぀。

 楜しい日々は実に甘矎だ。それゆえ誘惑的であり、人を怠惰にも傲慢にもさせる。圓人にその自芚がなくおも、倩から芋お調子に乗っおいるず刀断されれば灞を据えられる。きっず、そう蚀うこずなのだろう、ず今は思う。もちろん、過去のこずだから劂䜕様にも解釈できるわけだが、ずりわけ若いころは自分芖点でしか考えられなかったこずが解散劇に繋がったのは間違いない。

 灞を据えられた僕は拓海の生還を機に、抱き続けおきた負の念や埌悔のすべおを手攟した぀もりだった。それでも未だ「やり盎せたら  」ず思うこずはある。いた、新たに立ち珟れたブラックボックスの分裂危機が、その思いが圢になったものだず考えるのは、少々、突飛すぎるだろうか。しかしそう考えた方が僕ずしおはしっくりくる。圌らず共にこの危機を乗り越えたずき、傷぀いた「あの頃の僕ら」は完党に癒やされ、いよいよ高みに向かうこずが出来る。そんなふうにさえ思う。

 寝返りを打ち、拓海が寝おいるベッドの方に身䜓を向ける。ず、圌も起きおいるらしく目があった。拓海が起き䞊がっお䜕か蚀いたげに手招きしたので、僕も身䜓を起こし、圌の隣に腰掛けた。

『むかしのこずを、かんがえおんだろう』

 拓海は手を䜿わず、ゆっくりず口だけを動かした。半幎間、それも四六時䞭、圌の口の動きを読んできた僕は、萜ち着いた環境であれば、手話がなくおも蚀っおいるこずがだいたい分かるようになっおいた。それどころか、昔みたいに声垯を震わせおしゃべっおいるかのようにさえ感じる。

 僕はもう䞀぀のベッドに目をやり、レむちゃんが眠っおいるのを確認しおから小声で話す。

「ああ、昔のこずを、考えおいた」

『だず思った。たぁ、リオンの行動を思えば嫌でも考えちたうのは分かるけど』

「  そういう拓海はどうなんだよ」

『俺は今埌の流れに぀いお改めお考えを巡らせおたずこだよ。䞀応、麗華に任せるっおこずにはなったけど、䞀人で叀巣に殎り蟌みに行かせるのはやっぱり䞍安があるからな。だっお、新たな人生を歩もうずする麗華の道をあえお塞ぎに来るような組織だぜ 話し合っおどうにかなるわけがない。お前だっお薄々そう思っおるだろう』

「そうだな  。話し合ったずおりに事が進むのを祈るばかりだが、䜕せこちらは暩力も金もないむンディヌズバンド。盞手にそれらを振りかざされたら勝ち目はないだろう。それでも立ち向かわなきゃいけないわけだけど」

『䞖界埁服を成し遂げるためにも』
 問われお、小さく頷く。

「おそらく盞手も僕らの動きくらい読んでいるだろう。そしお倧したこずは出来ないず舐めおかかっおくるだろう。  なぁ、拓海」
 名を呌んでから耳打ちをする。
「僕らだけで、誰も予想できないような手を䞀぀、甚意しおおかないか ショヌタも思い぀かないような奥の手を」

 これたでの僕らは䜕も考えおこなかった。ラむブハりスのオヌナヌにもその性栌を芋抜かれおショヌタをあおがわれたほどだ。しかし、い぀たでもそう思われっぱなしず蚀うのは面癜くない。

『いいじゃん、その提案に乗るよ』
 拓海はにやりず笑った。
『そうそう。䞀぀、考えおたこずがあるんだ。実はさ  』

 拓海の口の動きを読みずった僕は、自分ず同じ考えだったこずに満足した。

「さすがは拓海。僕もそう蚀おうず思っおたんだ」

『䜕だ。それじゃあ話は早い。  実行日は、麗華が事務所に乗り蟌みに行く日がいいだろうな』

「ああ  。泥臭く動き回っお、僕たちの意地を芋せ぀けおやろう」

 拓海は倧きく頷いた。今こそ、暪の繋がりの力を発揮するずき。倧きな組織に属さなくおも僕らの歌声を届けられるっお事を蚌明しおやる。

 自分たちでも動くず決めた途端、安心したのか急に眠氣が襲っおきた。
「ありがずう、拓海。やっぱり君は僕にずっおなくおはならない盞棒だ」

『お互い様だよ。さぁ、もう寝よう。おやすみ  』

「おやすみ  」
 再びベッドに朜り蟌む。今床は䞀分も経たないうちに眠りに萜ちた。


22麗華

 瀟長があたしの話を真面目に聞いおくれる保蚌はどこにもなかった。むしろ面䌚を断られる可胜性すらあった。しかし瀟長は、あたしが連絡するず䞉日埌にリオンを含めた䞉人で䌚う時間を䜜っおくれた。

「お久しぶりね、麗華。むンディヌズでもうたくやっおいるみたいじゃなヌい」

 通された応接宀で埅っおいるず、瀟長はあたしより䞃぀も䞊ずは思えない、真っ赀なスヌツに真っ赀なヒヌルずいう出で立ちでリオンず共に珟れた。そしおあたしに向かっおわざずらしく煙草の煙を吐き出した。

「ええ、リオンたちの協力の甲斐あっお、サザンクロスの知名床は䞊がっおきおいたす。  そのリオンを、瀟長が匕き抜いたわけですが」

「たるで私があなたたちの邪魔をするために圌を匕き抜いたず蚀いたげね。たぁ、どう思おうがあなた方の勝手だけど、私の誘いに、圌は喜んで乗っおくれた。それが真実よ」

「本圓に  」
 リオンの顔を芋る。圌は顎を匕いおあたしをキッず睚んだ。

「麗華姉さんだっお同じだったでしょう メゞャヌデビュヌするのが倢だった。そのおれに、぀いに声がかかった。だから誘いに乗った。䜕もおかしなこずはないでしょう」

「おかしいずは䞀蚀もいっおいないわ。ただ、疑問が残るのよ。なぜ、あたしたちず同じ道をたどろうずしおいるのか。あたしはそれが知りたいだけなの」

「おれが麗華姉さんず同じ行動を取ったからっお、同じ結末になるずは限らないっしょ」

「ナヌゞンもセナも怒っおたわ。若いころの拓海ず智くんみたいに。同じにならないず考える方が難しい  」

「だったらどうだっおんだよ さっさず垰っおくれ」

「    」

「麗華。䜕を蚀っおも無駄よ。圌の決意は固いわ」
 あたしの声が届かないず分かったからか、瀟長はほくそ笑んだ。

「  諊めたせん。あたしは必ず圌を連れお垰りたす。仲間ずも玄束しおるんです」

「玄束   笑っおしたうわね。そんなのでお腹いっぱいになるずでも蚀うの 麗華は仲間の元に戻っおすっかり毒されおしたったようね。忘れおしたったならもう䞀床教えおあげる。いいこず ビゞネスの堎においおは成果がすべおなの。皌いだもの勝ち。競り負けたラむバルがどうなろうがこっちには関係ない。情なんお必芁ないのよ」

「  あたしたちミュヌゞシャンがお金を運んでくればあずはどうでもいい  。そういう発想ですか」

「そうよ。あなたたちはただ、䜜られた流行に沿っお蚀われたずおりに動けばいいの。それでお金がもらえるんだからいいず思わない ミュヌゞシャンは、䜙蚈なこずは考えないでただカメラの前で笑顔を䜜っおいればいいの。そうすればあなたたちは楜に皌げるし、こちらにもお金が入る。ファンも喜ぶ。みんなハッピヌになれる。それでいいじゃないの」

「  い぀からあなたの目の奥の茝きが倱われおしたったんでしょう あたしず出䌚ったころの瀟長はただ倢を語っおいたのに」

 瀟長は錻で笑い、ゆっくりず銖を暪に振った。

「  倢だけあっおもダメなのよ。そこに、ドラマずお金が加わっお初めお音楜で生きおいけるの。麗華、あなたなら分かるでしょう 倧切な友や愛する家族のため、仲間を裏切っおでもプロシンガヌになる、ず蚀うストヌリヌが『レむカ』のキャラクタヌを確立させたこずくらい。だから長きにわたっおその地䜍を維持できたず知っおいるはずよ。リオンも同じ。ダンスミュヌゞックで人々の目を楜したせる、笑顔にする。そういう䜿呜を負っおデビュヌするから意味があるの。いいこず 聎衆は自分たちを喜ばせおくれるミュヌゞシャンが、『掚おし』がそこにいればいいの。圌らがどんな想いを胞に抱いおデビュヌしたかなんおどうでもいいの。だから私たち音楜事務所の人間はそのニヌズに応える圢でミュヌゞシャンをデザむンする。それですべおがうたく回る」

「  しかしそれではミュヌゞシャンが䞍幞になっおしたう」

「どうしお たくさん皌げるずいうのに シンガヌ゜ングラむタヌ・レむカは䞍幞だったずいうの」

「圓時は䞍幞などずは思っおいたせんでした。しかし、玠のあたしが殺されおきたこずに氣付いおからはもう、音楜業界の垞識を受け容れられなくなっおしたった。業界の垞識は、䞖間の非垞識です。瀟長。もう少しミュヌゞシャンに寄り添った仕事の進め方は出来ないのでしょうか。それをお玄束しおいただけるなら、リオンの説埗も諊めたす。あたしだっおメゞャヌで掻躍したいずいう圌の倢を奪うようなこずはしたくありたせんから」

「分かっおないのは麗華の方よ。  私はもう埌には匕けないの。倚くの繋がりを持ちすぎおしたったわ。この䞖界はお金で出来おいる。メディアにお金を貢げなくなったら最埌、その䌚瀟は朰れるしかない。そう蚀う仕組みになっおるの。そしおその仕組みに異を唱えるミュヌゞシャンの存圚は目障りだから、どんなに小さくおもすべお朰す」

「  本圓にそれが瀟長のお氣持ちなのですか あたしにはそうは思えないんです。昔のように、たた倢を語っおくださいよ」

「  瀟長たる私に求められるのは経営力。自分の感情はずうの昔に捚おたわ。だからいくら情に蚎えかけおも無駄よ」

「なら、䌺いたす。倢を語っお口説いたんじゃないずしたら、リオンに䞀䜓いくら枡したんですか。どのくらい、皌げず呜じおいるんですか」

「あら。ただお金は枡しおいないわよ。期埅を蟌めお、居䜏費蟌みで癟䞇、取匕料ずしおもう癟䞇っお提瀺したんだけど、それじゃあ䞍十分だっお蚀われおおね。これから䌞びるであろうサザンクロスずブラックボックスの掻動を制限させるんだからもっずくれなきゃ困るっお蚀うの。若いのにわがたたで困っおいるわ。口説き甲斐はあるけれどね」

 今の話から、やはりリオンはメゞャヌデビュヌの倢を叶えたいず蚀う理由だけで話に乗ったわけではなかったず知る。

「瀟長。姉さんの前でその話はしお欲しくなかったんですが  」

「だけど、話したずころで麗華には䜕も出来ないんだから問題はないでしょう」

「それはそうかもしれたせんが  」

「この件に関しおは、あなたは黙っおいればいいのよ。私があなたに求めおいるのはそのルックスずダンスの技術だけなのだから」

「    」

「  瀟長。そんな蚀葉を聞かされお、リオンが蚀うずおりにするずでもお思いですか」

「するわよ。あなたたちを人質にしおいるうちは」

 たさか手の内を堂々ずこちらに䌝えおくるずは思っおいなかった。よほど口説き萜ずせる自信があるようだ。぀たりはあたしたちが舐められおいる、ずいうこず  。

 もう䞀床リオンの目を芋る。瀟長ず違っおその目は力匷く、闘志に溢れおいた。

ごめんね、リオン  。あたしたちが䞍甲斐ないばっかりに  。

 あたしたちからすれば人質になっおいるのはリオンの方だ。立堎を守るためずは蚀え、今の瀟長のやり方は党うではない。蚀うこずを聞く埓順な人間だけを可愛がり、かみ぀いおくる茩は排陀する。もはや実力の有無すらどうでもいいのかもしれない。

 瀟長は闘志むき出しのリオンを芋おも盞倉わらず䜙裕の笑みを浮かべおいる。

「サザンクロスずブラックボックスを守りたいずいうリオンの氣持ちは分かるわ。だけどさっきも蚀ったずおり、簡単にオヌケヌするわけにはいかないのよ。  そうだ。いっそ、双子のお姉さんず二人でデビュヌするのはどう それだったらあなたの心配事も少しは枛るんじゃない」

 瀟長の新たな提案にも驚くこずなく、リオンは静かに問う。
「  なぜ兄は倖れるんですか」

「りェブであなたたち䞉人がおしゃべりしおいる動画を芋たわ。お兄さん、ずっおも玔粋な子でしょう 目を芋れば分かるわ。だからダメ。ああいう玔朎な青幎は私ずは合わない」

「  セナに聞いおみたす」

「ちょっず、リオン  」
 圌の目から茝きが消えたような氣がしお焊る。事前の打ち合わせを思い出し、すぐさた次なる手を打぀。

「瀟長。圌ず二人で話す時間を䞋さい。どうしおも確かめたいこずがあるんです。五分で構いたせん。お願いしたす」

「自分の郜合でやめたあなたに、そんなこずが蚱されるず思っお そうでなくおも、こうしお䌚う時間を䜜っおあげたんだから感謝しおもらいたいわね」

 瀟長はあたしの目も芋ずに、倩井に向かっお煙草の煙を吐き出した。ショヌタさんはあらゆる事態を想定し案を出しおくれたが、話し合いに持ち蟌めない今の状況では出せる手が限りなく少ない。

もはや、最埌の䞀手しか残っおいない  。これに賭けるしか  。
「もう充分でしょう 諊めお垰りなさい」

 応接宀のドアを開け攟぀瀟長。しかしあたしは退宀せず、リオンの正面に立っお「最埌の䞀手」を告げる。

「瀟長の話によれば、あたしたちの掻動を制限させるために提瀺された金額は癟䞇だったわね それでも足りない、ずリオンは思っおるず。ええ、癟䞇皋床で掻動をやめるようなあたしたちじゃないわ。リオンがそう思っおくれおるず分かったからには、どんな困難な状況䞋でもそれ以䞊を皌いでみせる。人々を振り向かせおみせる。あらゆる手を駆䜿しお、メゞャヌのミュヌゞシャンにも匹敵する知名床を獲埗しおみせる。だからリオン。あたしたちのために自分を犠牲にしないで。メゞャヌにいなくおも有名にはなれる。倧舞台にだっお立おる。あなたの倢、みんなで叶えたしょう」

 右手を差し出した。今すぐ、圌がこの手を取っおくれるずは思わない。だけど、この手はあたしの、あたしたちの想いのすべお。リオンを埅぀人がここにいるず蚀うこずをどうしおも䌝えたかった。

 リオンの右手が動いた。だが、その手はあたしの手を振り払った。

「  セナに䌝えお欲しい。䞀緒にデビュヌする氣があるならおれに連絡しおくれっお。  だから、姉さんはもう、垰っおくれ」

「  分かった。今日のずころは匕き䞊げる。でも、次に来るずきはセナも䞀緒だず思っおおくこずね。もちろん、あなたを連れ戻すために」

「  垰っお」
 開け攟たれたドアの向こうを指さされる。もうこれ以䞊は䜕も話したくないず蚀いたげな顔。あたしには迷いがあるように芋えた。


23拓海

 リオンの説埗を麗華に任せた俺たちは、ずあるこずを䌁おようずしおいる。思いのほかその日は早く蚪れたが、互いの頭の䞭ではすでに思い描いおいたこずだから根詰めお話し合わなくおも問題はなかった。

 い぀も通りギタヌを匕っ提げ、ふらりず家を出た俺たちが向かった先は近所の喫茶店。そこのオヌナヌずは、麗華の友人を介しお少し前に知り合った。本業は喫茶店だが、宎䌚や䌚議宀ずしおの利甚も出来るず聞いた。オヌナヌ曰く、「面倒事」を持っおくるのはい぀も同じ知人らしいが、文句を蚀いながらも受け容れおいたずころをみるず、寛倧な心の持ち䞻なのだろう。その、広い心で俺たちの話にも耳を傟けおもらえたら  ずの思いで足を向ける。

 朝食をスキップしおいるのでメチャクチャ腹が枛っおいる。麗華が早くに家を出おしたったせいだ。朝ずも昌ずも蚀えない䞭途半端な時間。店のドアを開けるず案の定、人圱はほずんどなかった。オヌナヌに甚がある俺たちにずっおは奜郜合だ。

「いらっしゃヌい。  っお、今日はお二人様、ですか」
 オヌナヌは俺たちを芋た途端、珍しい組み合わせの客が来たぞ、ずいうような顔をした。

「ああ、構わないだろう」

 智節が、もはや垞連客であるかのように答えた。俺も受け答えはしたいずころだが、䜕せ喉を震わせるこずが出来ないので亀枉事は智節に䞀任しおいる。どうしおも、の時は手話を䜿う予定だが、今のずころ俺の出番はないず思っおいる。

「も、もちろんです めぐっち、接客を」

「はい。空いおいる垭にどうぞ。今、お冷やをお持ちしたすね」

 かわいらしい店員さんが、カりンタヌ垭に着いた俺たちに埮笑みかけた。氎を運んできた圌女にコヌヒヌずサンドむッチのモヌニングセットを二぀頌んだ智節は、その流れで早速オヌナヌに䟝頌事をする。

「実は頌み事があっおきたんだ」

「え 頌み事」

「ああ。突拍子もない話に聞こえるかもしれないが、僕らの音楜をここで流しおほしいんだ。ゆくゆくはここでのラむブも考えおいる。出来ればりェブで䞭継しながら」

「はぁ。ラむブ配信、っおや぀ですか」

「そう、それ。先日もここで匟かせおもらっおるし、どうだろうか」

「そりゃあ別に構いたせんけどね。なんだっお急にうちなんかでやろうず」
 圓然、そういう話になるだろう。智節も、想定しおいた質問が飛んできたずばかりに持論を話し出す。

「簡単に蚀うならこれは、掻動堎所を奪われ぀぀ある僕らの抵抗だよ。金ず暩力がすべおじゃないっお、想いの方が匷いんだぞっお事を瀺すためのね」

「あっ、分かりたした この間の動画で蚀っおた『歌の力』っおや぀ですね」
 女の子が手を叩いお応答した。
「わたし、芋たしたよ。サザンクロスずブラックボックスのコラボ動画。歌っおる皆さんが普段どんなこずを考えおいるかが分かっお、ずおもいい動画でした」

 コラボ動画あれは䞀日で十䞇回再生された人氣動画だ。目の前の圌女も芋たず聞き、智節も嬉しそうだ。

「若い子の方が理解が早いな。そう、僕らは歌の力で䞖界を倉えたい。ここを、その足がかりにしたいんだ」

「いいじゃないですか、玠敵です 歌の方も䞻人ず䞀緒に聎いたんですが、智節さんの声も麗華さんに負けず劣らず玠敵でした。わたしも惚れちゃいそうです」

「ぞぇ。若いのにもう䌎䟶がいるのか」

「それどころか、めぐっちは䞀児の母ですよ。芋えないでしょう」
 オヌナヌが合いの手を入れ、女の子がはにかんだ。

「若い子がファンになっおくれるのは嬉しいよ。だけど、䞀番聞いおほしいのはオヌナヌ䞖代なんだよな。そういうわけで、どうかな。野球䞭継を流すのもいいけど、店で僕らの音楜を流すっお蚀うのは」
 誰が芋おいるわけでもないテレビを指さす。

「うヌん  。日を決めおやるのはたぁ、ありかもしれたせんが、うちは基本、シヌズン䞭は野球䞭継を流すっお決めおるんです。䜕せおれが元球児だし、それに  」

「そこを、なんずか頌むよ  」

 智節が頌み蟌むが、オヌナヌは唞ったきり抌し黙っおしたった。䞀旊話は途切れ、その間に頌んだモヌニングセットが提䟛される。サンドむッチを頬匵っおいるず、ようやくオヌナヌがさっきの続きを話し始める。

「おふたりに䌺いたすが、音楜をうちで流しおどうするんです ただ曲を知っおもらいたいだけならぶっちゃけ、りェブ配信でもいいわけでしょう もしくは路䞊で歌うずか」

「いや。これたでのやり方では届かない人に聞いおもらうのが狙いなんだ。この意味が分かるか」

「぀たり、自分から情報をずりに行かない人にも聞かせたい、ず」

「ああ」

「それだったら  」
 オヌナヌはそこで䞀旊蚀葉を切った。
「おれ、いいこず思い぀いちゃったんですけど、聞いおもらえたす」

「もちろん」

「店で曲流すっおのも悪くはありたせんが、埌にラむブもやるずなった堎合、ここはあたりにも狭い。人を集めおのラむブ、それも想いを䌝えるのが目的なのだずしたらもっず広い堎所、それこそ球堎ずかでラむブを開催した方がいいず思うんっすよ」

「球堎  」

「理人さん、それ、最高です 氎沢さんに頌むんでしょう」

「さすがはめぐっち。倧正解」

「氎沢  。もしかしおレむちゃんの匟」

「そうです。実は氎沢みずさわセンパむは少幎野球クラブを䞻宰しおたしおね、球堎ずは瞁があるんですよ。元プロ野球遞手の氞江センパむずも懇意ですから、広い堎所の確保ずいう意味では䜕も困るこずはありたせん」

 今の提案を聞いお、さすがの俺も黙りこくっおいるわけにはいかなくなった。

 ――智節。球堎を借りるなんお考えもしなかったけど、いいんじゃねえか ただ音楜を流しおもらうより、俺らにはラむブそっちの方が性に合っおる。

「そうだな、確かにその方がずっずやりやすい」
 智節も頷いた。

「球堎でラむブずなったら、その様子をうちのテレビで流すこずは出来るず思いたす。そしたらここのお客さんも聎ける。テレビにネットを繋げばいいんでしょ、そっちの方がうちずしおも楜だし」

「レむちゃんの匟ずはすぐに連絡取れるのか」

「ええ、もちろん。っお蚀うか、うちの垞連でもありたすからね。そのうちに来るんじゃないですか ほヌらね  」

 話し蟌んでいるず、店のドアが開いお二人の男性が入店した。
「わぁ、これは奜郜合。氞江センパむも䞀緒だヌ」

「  どうやら僕たちのうわさ話をしおいたようだね」

「ですです。だけどいい話ですよ。こちらのお二人から折り入っお頌みたいこずがあるそうで」

「二人  」
 氞江ず呌ばれた県鏡の男性がこちらを芋た。

「あぁ、サザンクロスの  。今日は麗華さんは䞀緒じゃないんですね」
 圌ずは面識があるが、その発蚀から俺らはい぀でも䞉人で行動するもんだず思われおいるようだ。

「  この店ではレむちゃん蟌みじゃないず歓迎されないのか」

 ――だなぁ  。もっず二人の名前を売り出さないず  。

「すんたせん、盞方が䜙蚈なこずを  」

 俺たちががやいおいるず、もう䞀人の男性――麗華の匟――が詫わびを入れおきた。普段から鍛えおいるであろう屈匷な肉䜓を持぀圌はしかし、俺たちを前にしおぞこぞこ頭を䞋げた。

「あのヌ。それで、俺たちに頌み事っお蚀うのは お二人で来たっおこずはもしかしお、姉貎には聞かれたくないこずでしょうか」

「勘がいいな」

「やっぱり  。なんか嫌な予感がしたんです  」

 麗華の匟はあからさたに嫌そうな顔をした。姉匟きょうだいの力関係を思えば圓然の反応だが、ただ䜕も頌たないうちから拒たれるのは困る。

 ――頌む。どうか俺たちを助けおくれ。匟である君の力がどうしおも必芁なんだ。

 手話を智節に通蚳しおもらったあず、䞉぀指を぀いお頌み蟌む。智節も俺の暪で深々ず頭を䞋げた。

「えヌっ  。そんな、土䞋座なんおやめお䞋さいよ  。っおいうか、そんなにピンチなんっすか   もしかしおたた解散、ずか  」

「そうじゃないんだ。  あヌ、時間はあるかな。食事をしながらで構わない。もし良かったらここたでの経緯を聞いおくれないか」

「分かりたした。䌺いたしょう」
 智節から事情を説明したい旚を申し出るず、氞江くんの方が空氣を読んで応答しおくれた。


24智節

 レむちゃんが事務所を離れおから今日こんにちに至るたでの出来事をざっくりず話した。匟の庞平くんは怒りの感情を顕わにしたが、県鏡の氞江くんは元プロ野球遞手だったこずもあり、「いかにもありそうな話ですね」ず僕らの話を冷静に受け止めた。

「僕は野球しか胜がなかったから、野球界で生き残る戊略の䞀぀ずしお、蚀われるがたたスポンサヌ䌁業の顔になったりCMに出たりしたしたが、そう蚀った仕事に口を出す男は嫌われおいたしたね。玠盎じゃないず蚀われお。詊合でどれだけ掻躍しおも、䌁業が求めるむメヌゞ通りの仕事が出来ないや぀は本業ですら干される。  音楜業界も同じなのでしょう」

「ったく、倢のない話だな  」

「圌らの蚀う『倢』は僕らの思っおいるのずは違う。圌らにずっおの倢は金を皌ぎ続けるこず。決しおその職業に就けたり長く働けたりするこずじゃあない」

「たすたす倢がねえじゃん」

「それが珟実さ」

「お前、よくもそんな冷静に蚀えるな」

「そりゃあ、もう匕退しお久しいし、野球から離れた男が䜕を蚀おうが構わないず思っおいるからね。最近では開き盎っおすらいるよ。これたで培っおきた実瞟ずいうものを利甚しおもいいんじゃないか、ずね。たぁ、僕も頑匵ったんだ、ご耒矎をもらったっお眰は圓たらないだろう。  ずいうわけで話を元に戻したすが」

 氞江くんは䞀呌吞おき、
「垂営球堎くらいでしたら僕の䞀声でなんずでもなるず思いたす。もちろん、日頃から庞平が䞖話になっおいるから出来るこずでもありたすが」
 ず続けた。
「ただし、倏堎いたは高校野球の予遞で埋たっおいたす。無理を蚀えば予備日をおさえるこずは出来るでしょうが、予遞の䞭日なかびにラむブ䌚堎の蚭眮ず片付けを行うずいうのは珟実的ではないでしょう。準備や人員確保を考えれば秋以降が劥圓ず考えたす」

「なるほど  。ちなみに、考えおる垂営球堎の収容人数は」

「確か、䞀䞇人ほどだったかず。費甚は曜日や時間垯によっお倉わりたす」

「䞀䞇人  」
 球堎、ず聞いたずきから数千人の前で歌うこずになるんだろうずは思っおいたが、そうか、䞀䞇、か  。

 ――そんな倧人数の前でやったこず、ないよな。

「ああ  」
 数の倚さにビビっおいるのは拓海も同じらしい。

 ショヌタの蚈画では、ラむブは芋えないファンが増えたあず。最埌の最埌ずいう話だった。珟状、ブラックボックスの力添えもあっおネット䞊のファンは急増した。今ならそれなりの人数を集められるずは思う。それでも䞀䞇人収容できる䌚堎を䞀杯に出来るかず蚀われるず自信はないし、たしおやネットにアクセスしない人を呌び蟌めるかず問われたら尚曎、疑問笊が぀く。

 ――ああ、この堎にショヌタがいたらいい案出しおくれるだろうけどなぁ。

 しかし、いくら拓海ががやいおもショヌタは珟れない。今日は僕らだけで蚈画倖のこずをしようずいうのだから、ない知恵を絞っお問題を解決しおいくしかない。

 尻蟌みしおいる僕らを芋おか、オヌナヌたちからいく぀かの提案が成される。

「じゃあ、こういうのはどうです 最初に話しおいたずおり、秋たではうちでサザンクロスさんの曲を流す。加えおラむブ日の告知を倚方面にしおいく。たぁ、人海戊術にはなりたすが、これで䞊手くいった前䟋があるのでなんずかなるんじゃないっすかねぇ」

「前䟋  」

「あヌ、実は、氞江や俺がそれぞれに䞻宰しおいるクラブの䌚員の倧半は足で集めたんですよ。チラシを盎接手で配るっおいう叀兞的なやり方でしたが、案倖うたくいきたしお。俺ら䞖代の人間を集めたいなら、顔が芋えるこのやり方が合うかもしれたせん」
 庞平くんが補足説明しおくれた。

 ――チラシの手配りだっおさ。懐かしいよな。
 拓海が僕にだけ分かるよう、手ず口を動かした。僕は頷きながらりむング結成圓初を思い出す。駆け出しのころは本圓に無名だったから、それこそ手曞きのチラシをコピヌしおはラむブの勧誘をしおいた。出挔しない日でも、ラむブハりスの前で勝手に自分たちの曲を匟き語り、アピヌルしたこずもあった。

「なるほど。原点回垰はありかもしれない」
 呟いおから、今回の䌁みは「泥臭く」やろうず決めたこずを思い出す。

「では、僕らの䜓操クラブでもチラシを配垃したしょう。孫ず䞀緒に入䌚されおいる方を䞭心に枡しおみたす」

 氞江くんの蚀葉を受けお、庞平くんが頷きながら自身の考えを付け加える。

「いっそのこず、盎接クラブに足を運んでもらっお生歌を披露しおもらうっおのはどうでしょう それだったらサザンクロスさんの曲のむメヌゞもわかっおもらえるし、幎配者にも受け容れられやすいかず」

「ああ、それがいい。招いおくれればどこでも行くよ。っおいうか、若いころの僕らはそうやっお生きおいたんだから慣れたもんさ。なぁ」

 ――ああ。俺は声を出せないけどその代わり、持ち曲党郚匟いおやる、くらいの氣持ちで匟くよ。

「よかった、じゃあそれでいきたしょう」
 庞平くんがホッずしたように息を぀いた。
「しかし、お二人はずもかく姉貎はどう思うでしょうね 賛同しおくれるでしょうか」

 僕はずっさに店内の時蚈を芋た。今ごろは事務所に着いおいお亀枉しおいるころだろうか。うたくいっおいるず信じたいが、正盎な話、リオンを説き䌏せられるずは思っおいない。断蚀は出来ないけれど、芋たずころあの子も僕ず䌌おプラむドが高そうだから、䞀床こうず決めた意芋を簡単に倉えるようなこずはしないだろうず思っおいる。

「賛同しおくれるかどうかは亀枉結果次第だろうが、䞇が䞀亀枉が決裂した堎合、僕らのプロデュヌサヌは今床こそ裏切り者を切る、ず断蚀しおいる。そうなれば内郚分裂は避けられないだろう。僕らのやろうずしおいるこずはそれを避けるための策でもある。  僕らは自分たちの力のなさを痛感しおいる。だけど、どうしおも達成したいこずがある。そのためには倚くの人の協力が䞍可欠なんだ。  みんなで成し埗たい。みんなで同じ景色が芋たい。そのためなら䜕でもする。たずえ畑違いず分かっおいおも、力になっおくれる人がいれば頌み蟌む぀もりでいる。君たちにしおいるように」

「うっわ  。暑苊しいのは野球人だけかず思ったけど、ミュヌゞシャンも同じくらい暑苊しいんすねぇ。あ、勘違いしないで䞋さい。これは耒めおるんっすよ」
 僕の蚀葉を聞いたオヌナヌは、そういうなりカりンタヌの内偎から出おきお手を差し出した。

「おれ、こうみえおそう蚀うの、嫌いじゃないんですよ。おれ自身が、䞍噚甚でたっすぐで暑苊しい、ずある、、、センパむの蚀葉に救われおたすからね。あなた方の匷い想いが届けばきっず、過去のおれみたいな人間を救える氣がしたす。なので、埮力ながらお手䌝いさせお䞋さい。  ホントにちょっずだけですけど」

「いや、頌んでいるのはこちらの方だ。力になるず蚀っおくれおありがずう。必ず期埅に応えおみせるよ」

 手を握り返す。圌は反察偎の手も重ねお力匷く頷いた。
 盎埌、僕のスマホが鳎った。ショヌタからだ。嫌な予感を抱き぀぀、通話ボタンを抌す。

『麗華姉さんから報告がありたした。亀枉は倱敗に終わったそうです。぀きたしおは、倧至急ラむブハりス「グレヌトワヌルド」たで来お䞋さい。次の䜜戊をお䌝えしたす』

「  了解した。拓海ず䞀緒に急行する」

『お埅ちしおたす』

 電話を切り、聞いた内容を拓海に䌝えるず、圌はすぐさた財垃を取り出しお店を出る支床を始めた。

「すたない、プロデュヌサヌから呌び出されおしたった。今し方しおいた内容の詳现に぀いおは埌日、改めお話し合おう」

「  いい話じゃなさそうでしたが、倧䞈倫です」

「想定の範囲内さ。必ず、いい報告を持っおここに戻る。それじゃあたた。ごちそうさた」

 䌚蚈を枈たせお店を出た僕らは足早に駅を目指す。電話口のショヌタの声は実に萜ち着いお聞こえた。おそらくはこうなる可胜性が高いずみおいたのだろう。事前に話しおいた最悪のシナリオに近い道を進んではいるが、たったく䞍安はない。なぜなら  。

 ――これで、俺たちの䌁おも掻きおきそうだな  。
 拓海の蚀葉に、にやりず笑い返す。

「ああ。無事に協力者も埗たからな。たずえ䜕か問題が発生しおもその郜床みんなで知恵を出し合えばいいだけの話さ」

 もう以前のように、䜕もかもがうたくいかないず嘆いたりはしない。歌の力、祈りの力で死にかけた拓海を救った僕は、想いが珟実を䜜るこずを知っおいるから。

「さぁ、声なきミュヌゞシャンずひねくれ者たちの逆襲。第䞉郚の始たりだ」


25麗華

 ラむブハりス「グレヌトワヌルド」は以前、拓海たちが連れおきおくれた堎所。ブラックボックスのナヌゞンずの出䌚いもここだった。その圌はあたしより先に店の前に着いおいお、顔を合わせるなり睚んできた。あたしが説埗しきれなかったから怒っおいるに違いなかった。

「ごめん。連れ戻せなくお  」

「あ、いや  。麗華さんに怒っおるわけじゃなくお  」
 しゃがみ蟌んでいるナヌゞンに謝るず、圌は我に返ったように衚情を和らげた。
「麗華さんの蚀葉を聞いおも考えを倉えなかったあい぀に憀っおるんです」

「それなんだけど  」
 リオンが眮かれおいる状況を説明する前に拓海たちが合流する。

 ――亀枉、お疲れさん。䞀発でうたくいかなくお残念だったな  。たぁ、予想通りだけど。

 拓海はそう䌝えおきたが、蚀うほど残念がっおいないように芋えた。智くんの衚情も穏やかだ。ショヌタさんが招集の連絡をした際、あたしには蚀わなかった秘密の蚈画でも䌝えたのだろうか。

「セナもそろそろ来るかしら  」

「あヌ、あい぀はバむトだから来れないっお。たぁ、悪い報告を受けたらいい氣分はしないですよね。バむトを䌑んでたで話し合いに参加するなんおあり埗ない そう䌝えお ずのこずでした  」
 ナヌゞンはあたしの問いに答え、咳き蟌みながら煙草を吞った。

「マズそうに吞うなぁ  。普段は吞わないのに、今日はどうした」

「吞わなきゃ、やっおらんないっすよ  。智さんも、たたにはどうです」

「いや  遠慮する。こうはなりたくないんでね  」
 煙草を勧められた智くんは拓海を指さした。

「たぁ、それもそうか  」
 説埗力があったのか、ナヌゞンはもう䞀口だけ吞うず「やっぱ、マズっ  」ず蚀いながらもみ消した。

 その時、店のドアが開き、ショヌタさんが顔を出す。
「時間です。オヌナヌには店内で話し合う蚱可を埗おいたす。入っお䞋さい」



 営業時間倖の店内は薄暗かった。党員が入ったずころで内から鍵がかけられ、店の奥の応接宀に通される。そこにはブルヌアッシュグレヌに染めた長い前髪が印象的な男性が、゜ファで足を組み座っおいた。

「お連れしたした」

「  ったく。ショヌタから話しおくれりゃあいいものを、䜕だっおオヌナヌであるこの私が、盎々にこい぀らに蚀っおやらなきゃなんねえんだ」

「それは、先ほども申し䞊げたしたが、オヌナヌず元りむングの圌らずは旧知の仲。盎接蚀っおいただいた方が受け容れおもらいやすいのです」

「だずしおも面倒だな  。たぁ、しゃヌない  」
 オヌナヌはぶ぀ぶ぀文句を蚀いながらも「立っおないで、党員そこぞ座れ」ず数の少ない怅子に座るよう指瀺した。

「  拓海。智節。お前らの掻躍はこの耳にも届いおいる。ここで歌わなくおもちゃんず倧勢の人に歌を聎いおもらえおるみたいだな。それに぀いおは私も感心しおいるよ。それから、ナヌゞン。こんなどうしようもないオゞさん二人の力になっおくれお感謝する。これからも支えおやっお欲しい」

 おっきり苊蚀を呈されるのかず思っおいただけにその堎にいた党員が驚いた。智くんにいたっおは怅子から立ち䞊がったほどだ。

「  オヌナヌ。あの時は突っかかっお悪かったよ。ショヌタを掟遣しおくれたおかげでなんずかここたで来るこずが出来た。あの日のオヌナヌの蚀葉は本圓だった。ありがずう、ございたす  」

 智くんが頭を䞋げるのを芋お、拓海ずあたしも同じようにした。オヌナヌはしかし「ふんっ  」ず錻を鳎らしただけですぐに本題に入る。

「  さお。今日したいのはその話じゃない。ブラックボックスからリオンが匕き抜かれたこずはショヌタから聞いおいる。あのババアのやり口、今も昔も氣に入らん。この間は店を守るため、泣く泣くお前らの出入りを犁じたが、これ以䞊奜き攟題されるのは我慢がならない。そろそろ反撃させおもらおうず思う」

「反撃  」

「拓海、智節」
 オヌナヌは名前を呌び、二人に顔を近づける。

「店の前で歌え。昔みたいに。あの頃は芋向きもされなかったかもしれない。だが今は、歌えば必ず集客できるレベルになっおる。人だかりが出来れば無関心な人も耳を傟ける。さらに興味を持っおもらえれば口コミで広たるこずも期埅できる」

「オヌナヌ  」

「向こうが金にものを蚀わせるずいうなら、こっちは倢を語っおやれ。  あの女だっお、若いころは倧局な倢を抱いおいたんだ。こっちが本氣で語れば思い出すかもしれん」

「その倢っお  」
 あたしが呟くず、オヌナヌは長い前髪を掻き䞊げながら倩井を芋た。

「  起業しおからは、䞖界䞀の歌手を排出するのがあの女の倢だったはずだ」

 あたしでも聞いたこずのない、瀟長が過去に抱いおいた倢  。
「なぜ、そんなこずたでご存じなのですか  」

「野暮なこずは聞くな。䞖の䞭には、知らなくおもいいこずっおのがあるんだよ。  もういいだろう、ショヌタ。埌はお前に任せる」
 オヌナヌはそう蚀っお立ち䞊がるず郚屋から出お行った。

「  ず蚀うわけで、今のが次の䜜戊です」
 ショヌタさんがオヌナヌの埌を匕き継いだ。
「リオンの説埗に倱敗したのですから、これ以䞊そちらに時間をかけるのはもったいない。こちらはこちらで今すぐ出来るこずをしおいこうずいう話です」

「それが、店の前で歌うっおこずか」

「ええ。䜕かご䞍満が」

「それに぀いおは䜕の異論もない」

 ――異論があるのはリオンの方。俺らは誰䞀人、あい぀を芋捚おおないから。  だろう

「ああ。僕らはリオンを芋捚おたくはない」
 しかし二人の反論を聞いおもショヌタさんは匕かない。

「なぜ圌にこだわるんです 麗華姉さんの亀枉術が劣っおいたずは思えない。だずすれば、圌は匷い意志でもっおメゞャヌ行きを決めた。そう考えるのが普通でしょう」

「埅っお、ショヌタさん。それは誀解よ」

「えっ」

「みんな、聞いおちょうだい。実はリオンは  」

 これ以䞊誀解されないうちにず、急いで真実を告げる。䞀同は目を䞞くしながらあたしの話を最埌たで黙っお聞いた。

「たさかそんな  。じゃああい぀がオレたちに嘘を぀いお  」

「ええ。それも優しい嘘をね」

「マゞですか  。こりゃあ、早くセナにも教えおやらないず」
 話を聞き終えたナヌゞンは頭を抱え蟌んでしたった。圌だけじゃない。拓海も智くんも耇雑な衚情を浮かべたたたう぀むいおいる。

 そんな䞭で䞀人、ショヌタさんだけは薄ら笑いを浮かべおいる。䜕かよからぬこずを考え぀いた、ず蚀った顔だ。

「䜕を䌁んでいるの」
 問いかけるず圌はくっくず笑いながら蚀う。

「今の話、もう手遅れかもしれないなず思ったらおかしくっお」

「手遅れっお  。どういうこずっすか、ショヌタさん」
 ナヌゞンが詰め寄る。

「もしこうしおいる間にリオンが、生たれたずきから䞀緒にいるセナに自分の考えや眮かれおいる立堎を話しおいたら、セナはリオンになびくだろうなず思っお。なんだかんだ蚀っお、やっぱり双子は考え方が䌌おいるからね」

「     じゃあオレたち、どうすればっ  」

「たぁたぁ、萜ち着こうじゃないか」

 ショヌタさんは、すぐにでも話を聞きたいこちらを焊らすようにナヌゞンの胞ポケットから煙草ずラむタヌを抜き取るず、ゆっくり火を付け優雅に吞い始めた。

「ちょっ   オレのなけなしの金で買った煙草を  」

「䞀本もらったくらいで隒ぐなよ。これから話す蚈画が成功すれば、䞀本どころか䜕ダヌスも買えるようになるんだぜ」

「ど、どういうこずっすか  」

 息ず共に煙が吐き出される。宀内に充満した煙が消えかけたころ、ようやく蚈画が発衚される。

「皆さんの、リオンぞの執着心には正盎呆れおいたす。ですが、互いの意芋が平行線をたどったたた前進しないのが䞀番時間の無駄です。ここは自分が譲歩するこずにしたしょう。連れ戻せたあずのご耒矎にず思っお枩存しおいた案を出したす。姉さんには亀枉の材料に䜿っおもいいずお䌝えしたしたが、リオンの氣を匕くにはもうこれしかない。それは、圌だけの舞台を甚意しおやるこず。぀たり、キヌボヌドの゜ロ匟き曲を提䟛し、こちら偎になびかせる、この䞀択だけです」

26拓海

 亀枉に倱敗したらリオンを切る、ず断蚀しおいたショヌタの口からそんな案が飛び出すずは思っおいなかった。意地でも考えを曲げない男だず思っおいたが、どうやら俺たちの粘り勝ちらしい。ただ、癟パヌセント玍埗しおいるわけではないず蚀わんばかりに「ただし」ず続ける。

「この蚈画を成功させるための条件はピアノ曲を甚意するこずです。それも、リオンが匟きたくなる曲を。この䞭でピアノが匟ける方は」
 誰も手を挙げなかった。

「いるずすればセナだけど、珟状では頌むのは難しいだろうな  」
 ナヌゞンは腕を組み、唞った。

「たぁ、そうでしょうね」
 ショヌタは提案しおおきながらこうなるこずをも読んでいたずしか思えない、なんずも䞍敵な笑みを浮かべた。

 悔しい。思い通りにならないこずが。所詮俺たちはしがないミュヌゞシャンで、倧きな組織や金持ちの蚀い分を聞き入れるこずしか出来ないのか  。

「ったく  。任せるずは蚀ったが、匄もおあそんでいいずは蚀わなかったぞ」
 唇を噛んでいるず退宀したオヌナヌが戻っおきた。ショヌタが身䜓をビク぀かせる。

「䞀任したならなぜ戻っおきたんです それ以前に、どこから話を聞いおたんですか」

「銬鹿野郎が。お前らの声がデカすぎお店のどこにいおも話が䞞聞こえなんだよ。  ずころで、ピアノが匟ける人間が必芁だず蚀ったな それならここにいる」

「  ここっお、オヌナヌご自身が」

「そうだ。こう芋えおも、若いころはいく぀ものコンクヌルで入賞した実瞟があるんだぜ 䜜曲も出来る。持ち曲もある。私なら曲を提䟛できる。  どうだ これでリオンを切る案を䞍採甚にしおくれるか たさかお前ほどの切れ者がこうなるこずを予想しおいなかったはずはあるたい」

「  さすがにオヌナヌが手を挙げるずころたでは想定しおいたせんでしたが、凄腕すごうでピアニストの協力が埗られるシナリオは考えおいたしたので問題ありたせん。  やれやれ、リオンを切るのが䞀番手っ取り早いんだけど、皆さん、頑固ですね」

「ふん  。お前のこずは頌りにしおいるが、無感情に仲間を切り捚おるずころだけは受け容れがたくおな」

「  たぁたぁ」
 ショヌタはオヌナヌをなだめるようにいい、吞わないうちに短くなった煙草を灰皿に捚おた。

「このシナリオで完走できればかなりいい結果が埗られたすし、困難だからこそ埗るものも倧きいですからやっお損はないず思いたす。ただし、この方向で進めるにあたりもう䞀぀だけクリアしなければならない問題がありたす。リオンのための舞台ステヌゞを甚意できるかどうか、です」

「なるほど  」
 オヌナヌは぀ぶやき、顎に手をやった。
「ここ同様、どこかの䌚堎を借りようにもあちらが圧力をかけおくる、ず。そういうこずだな」

「おっしゃるずおりです」

「それなら  」
 ――そういうこずなら  。

 俺ず智節は同時に動いた。目を合わせ、うなずき合う。

「  䌚堎なら僕らにアテがある」

27智節

 盎埌、ショヌタが呆れた顔をした。お前らに䜕が出来る ず思っおいる顔だ。垞識的に考えお、僕ら二人だけだったら圌の掚枬は正しい。が、僕らはもうりむングではない。レむちゃんを含めた䞉人組バンド、サザンクロスの人脈を䟮あなどっおもらっおは困る。

「アテがあるっお蚀いたすけど、自分が想定しおいるのは千人芏暡の䌚堎ですよ。別に芋䞋す぀もりはありたせんが、あなた方二人がそのような堎所をおさえられるずは到底  」

「千人どころか、䞀䞇人を収容できる堎所だず蚀ったら」

「い、䞀䞇   銬鹿な  。どこです、そこは  」

「  野球堎だ」

「    」
 ショヌタは目をぱちくりしたたたしばらく声を倱った。が、レむちゃんはピンずきたらしく、僕らの呚りを飛び跳ねた。

「もしかしお庞平に頌んだの ねえ、そうなんでしょう」

「正確には、喫茶ワラむバのオヌナヌ経由で、だけどね。たぁ、詳现はあずで話すよ」

「やっぱり やるじゃないの、二人ずも そっか、さっきから萜ち着いおた理由はこれだったのね」

「た、埅っお䞋さい  」
 ショヌタは珍しく動揺しおいる。
「仮にいたおっしゃった野球堎がおさえられたずしお、䞀䞇人も集められるんですか   さすがにそれは無理でしょう  」

「無理かどうかはやっおみないず分からないじゃないですか。オレが手䌝えば  客匕きのために店の前で『シェむク』を螊れば倚分、かなりの人を集められる。背に腹はかえられたせん。兄さんたちのためなら、やりたす」

「よく蚀った、ナヌゞン。ならばしばらくの間、ナヌゞンにはサザンクロスの面倒を芋る仕事をしおもらおう。もちろん、バむト代は出す」

「ダッホヌ オヌナヌ、最高っす」

 盛り䞊がる僕らの暪でショヌタだけがふくれ面をしおいた。
「  どうしたらそんな劄想が実珟できるず思えるんですか うたくいく保蚌だっおないのになぜ  」

「ここをどこだず思っおる」
 オヌナヌがショヌタの肩に手を眮く。
「ここは倢を語れる堎所。むンディヌズバンドが集う『グレヌトワヌルド』だぜ デカい倢を、劄想を語っお䜕が悪い」

 にやりず笑うオヌナヌが頌もしく、たた栌奜良く映った。それを芋お、さすがにショヌタも笑った。

「ははっ  。こりゃあ参ったなぁ  。むンディヌズバンドのプロデュヌサヌずしお十五幎やっおきたけど、いただに倢を語る人間が、それもこんなに身近にいたずはなぁ  」

「ショヌタは忘れおるだけで本圓は知っおたはずだ。むンディヌズがメゞャヌに挑戊しようずするずきの情熱を。あい぀らに負けるかず立ち向かっおいく様を」

「ええ、知っおいたしたずも  。ですがい぀の間にか、最短で効率よく人氣が出る人材の茩出を目指すようになっおしたった。どうやら自分は、それで皌げるこずにちょっずばかり倩狗になっおいたようです」

「それに氣づけたならただ取り返せるはずだ。  改めお問う。協力しおくれるか」

「  ナヌゞンの蚀うずおり、やっおもいないのに出来ないず決め぀けるべきではありたせんよね。䞀䞇人収容の球堎を䞀杯にする。倢があっおいいじゃありたせんか。やりたしょう  」

 ショヌタはオヌナヌずがっちり握手を亀わした。

「それでは新しい䜜戊に移りたしょう。オヌナヌにはピアノ楜曲の提䟛をお願いしたす。それず、兄さんたちには䌚堎の件で繋がっおいる人ず自分ずを䌚わせおもらいたいですね。野球堎を提案しおくるっおこずはどうせ、野球のこずしか知らない人なんでしょう きちんずこちらの状況や思惑をプロデュヌサヌの自分から話しおおく必芁がありたす」

「確かに野球銬鹿だけどねぇ  。あたしからもお瀌が蚀いたいから、面談の日皋調敎はあたしがするわ」

「お願いしたす。それから最埌に  」
 ショヌタは蚀っおナヌゞンを芋た。

「セナがバむトから戻ったら自分に連絡するよう䌝えおくれないか。このシナリオで走るず決めたからにはセナにも協力しおもらわなきゃならない。こちらがリオンを取り戻す手立おはそれしかないんだから」

「  そういうこずなら、ショヌタさんにはオレらの郚屋たで来おもらった方がいいかも。あい぀に逃げ道を䜜っちゃいけない氣がする」

「  こっちも忙しいんだけど」

「そこをなんずか  」
 ナヌゞンが手を合わせお頌み蟌むず、ショヌタが右手を差し出した。

「それじゃあ、煙草をもう䞀本。それから、次にここぞ来たずきにカクテルを䞀杯おごっおくれ。そうしたら他の仕事を調敎しおセナに䌚っおやっおもいい」

「     わ、分かりたしたよぉ」
 ナヌゞンは枋々煙草を差し出した。ショヌタは満足そうに火を付け、吞い始める。

「  やっぱり面癜いな、兄さんたちず仕事するのは。思い通りにならないからこそやりがいがある。実を蚀うずね、すべお自分の蚀ったずおりに動くだけの人間は、指瀺がないず動けないから䞀床のプロデュヌスで終わっちゃうこずが倚いんです。そういう仕事はやっぱり぀たらない。少々面倒には思いたすが、こうしおあヌだこヌだ意芋をぶ぀け合っお、時にはサプラむズもあっお  の方が達成感も倧きい。いた、改めおそれを実感しおいたす。だから  」

 ショヌタは䞀床煙草を吹かし、僕らに右手を差し出した。

「どうせやるなら最高のラストを迎えたしょう。自分のプロデュヌスで、あなた方の蚀う䞖界埁服ずやらを実珟させおみせたしょう」

 僕も拓海もレむちゃんも、同時に圌の手を取る。ここを蚪れたずきには䞍満顔だったナヌゞンも僕らの䞊に手を重ね、やる氣に満ちた衚情で頷いた。


28麗華

 ラむブ日は奇しくも䞀幎前に、サザンクロスを再結成するず宣蚀した祝日に決たった。それもこれも匟たちがうたく話を付けおくれたおかげ。本圓に感謝の蚀葉しかない。

 特別に球堎内に入れおもらい、広さを䜓感する。ショヌタさんは芳客垭を芋回しながら「これだけの人数、集められるかなぁ」ず䞍安を吐露したが、その隣であたしは自分が球堎の真ん䞭に立っお歌うむメヌゞをする。ステヌゞに立぀前にはい぀もこうしおむメヌゞトレヌニングを行う。これたでは䞀人きりだったが、今回は䞉人。こんなに心匷いこずはない。

 脳内のあたしたちは満面の笑みを浮かべおいる。党方䜍を埋め尜くすお客さんに芋぀められ、䞀぀になっおいるのを想像するだけでワクワクしおくる。

「倧䞈倫よ、ショヌタさん。今日は拓海たちが売り蟌みをしおくれおるんだもの。認知床が䞊がれば必ずここを満員に出来る。あたしはそう信じおる。  ショヌタさんが最終的に目指しおいたのもそのむメヌゞでしょう」

「  確かに、アリヌナ玚の䌚堎でラむブをするのが目暙だず蚀ったのは自分ですが、わずか数ヶ月でその舞台に立぀なんお。さすがに想定倖です」

 ショヌタさんの発蚀を聞いた匟が「ちっちっ」ず指を振る。
「䞀点ビハむンド。九回裏でツヌアりト。塁に䞀人いる状況で打垭には九番バッタヌ。誰もがこのたた詊合終了だず思うような堎面で、そい぀がホヌムランを打っおサペナラ勝ち、みたいな奇跡が起こりうるから人生、面癜いんじゃねえか」

「  音楜ず野球を同列に扱わないで䞋さい」

「いやいや、おんなじだっお。なぁ、孝倪郎」

「たぁ、そういう面癜い詊合があるこずは吊定しないが、それは奇跡ではなくバッタヌの匷い想いがホヌムランずいう結果を生むのだず僕は思う。だから、麗華さんがここを満員にするず匷く願い、そのための行動を取れば実珟するんじゃないかな」

 いかにも元プロ野球遞手らしい、それでいお実䜓隓に基づいた発蚀にはさすがのショヌタさんも玍埗したようだ。頷いお話を続ける。

「集客のための䜜戊は動いおいるので今はおいおおきたしょう。䌚堎を抌さえおも問題はただありたす。準備の人手が足りないこずです。ラむブの挔出をするスタッフ――カメラマン、音響担圓、ラむティングなど――の目凊めどは぀いおいるのですが、ステヌゞの蚭営やチケットの販売、管理をする人員が圧倒的に足りない」

「それなら心配はいらないよ。俺らの方で人を集められる。無論、どんな手䌝いをするかにもよるが、元野球郚の男をかき集めりゃ、そこそこ圹には立぀はずだ」

「それっお、高校時代の  」

 庞平は頷く。
「それだけじゃ足りないから、長幎勀めた瀟䌚人野球郚の元郚員にも協力をお願いしおみるよ。  どういうわけか、レむカのファンだっお蚀うや぀が倚くおさ。俺が匟だず知っお䌚いたがる人も倚かったから、サむンでも曞いおやれば喜んで手䌝っおくれるず思う」

「サむンだけじゃ申し蚳ないわ。もしその方々に協力を仰げるなら、あたしが自腹を切っおでもチケットを買っおお枡しするわ」

「おおっ、それなら絶察手䌝っおくれるよ。䜕十人かは確保できるはず。近々、連絡ずっおみるよ」

「ありがずう、庞平」

「  たさか、姉さんの過去の偉業がこんな圢で光るずは」
 ショヌタさんはこの状況を面癜がっおいるようだった。

「人員の目凊が立ったずころで早速ラむブの構成に぀いおも話を進めたいんだけど、今回のラむブでは新旧のファン、それぞれが満足するようなものにしたいず思っおいるの」

 提案するずショヌタさんは意味ありげに笑いながら蚀う。
「智節兄さんが蚀っおいた、昔からのファンを倧切にしながらも新しいファンを取り蟌む、ず蚀うや぀ですね それに぀いおは考えがありたす。ちょっずリスクのある話ですが」

「今曎、䜕を蚀われおも驚かないわ。聞かせお」

「それではお耳を拝借」
 ショヌタさんはほくそ笑み、耳打ちする。
「  レむカ時代の歌を歌っお䞋さい。そうすればいた話に出おきたような、昔からのファンを喜ばせるこずが出来たす」

「昔の歌を歌う  。それがリスクになる、っおこずはもしかしお  」
 脳裏に瀟長の顔が浮かんでは消えた。ショヌタさんは「ご想像の通りです」ず蚀い眮いお続ける。

「契玄曞を芋たわけではありたせんが、おそらくレむカの䜜った曲は今も事務所に垰属しおいるはず。それを、退所した姉さんが歌うずなれば向こうは圓然、指摘しおくるでしょう。歌ったのが本人であろうずも」

「  盞手の出方が分かっおいるのに歌うの」

「メゞャヌずむンディヌズの架け橋になりたいんでしょう だったら危険な橋を枡る芚悟をしおもらわないず。生半可な氣持ちではリオンも取り戻せないず思っおいたす。  出来たすか」

 圌は腕を組むず、あたしを詊すようにじっず芋぀めた。

 掻動堎所を制限されたずお、その範囲内でも现々ず音楜をやるこずは可胜だ。たた、力のある者に埓っおいれば呜たで取られるこずはないず、䞍自由を甘んじお受け容れる道もある。にもかかわらず反発するのはなぜか問われれば、理由は䞀぀。自分の人生は自分の足で歩きたいからだ。流されお生きたくはないからだ。

 振り返っおみれば、倧きな力に抱き蟌たれおいたあたしは、䞎えられた仕事を淡々ずこなすだけのロボットだった。事務所がデザむンした「シンガヌ゜ングラむタヌ・レむカ」を挔じ続けたし、アルバムに時折、神様のギフトである曲を収録するこずは出来たがその数は少なく、倧半は販促甚の曲。そこにあたしの意思はほずんどなかった。

 再び仲間ず䞀緒に掻動する日々は昔を思い出せお楜しい。倚分二人も同じ氣持ちなのだず思う。だが、残された人生で成し遂げたいこずがあるならい぀たでものんびりしおいるわけにはいかない。拓海がそうであったように、い぀病に倒れ、死に瀕するか分からないのだから。

「歌うのは簡単。だけど、歌うこずであちら偎にラむブを䞭断させられるのは困るわ。もし察策があるなら聞かせおもらえるかしら。もう頭の䞭にあるんでしょう」

 あたしは芚悟を胞に抱き、問い返した。

「もちろんです」
 圌は嬉しそうにうなずき、話し始める。

「地方の球堎ずはいえ、䞀䞇人を収容できる斜蚭を䞀日貞し切っおのラむブです。告知もしおいるし、向こうが動かないはずはない。圓然のこずながら芖察  いや、最悪の堎合、邪魔をしお来るこずも考えられるでしょう。レむカ時代の歌を歌えば尚曎です。しかし我々には心匷い味方がいたす。䌚堎に集たった䞀䞇人のファンず、りェブ䞊でラむブを鑑賞する䜕䞇ずいう芖聎者の目がある䞭で圌らがどれだけ動けるでしょう 仮に、ラむブを䞭断するような事態になればファンは黙っおいたせん」

「なるほど。こっちは数で勝負、っお蚳ね」

「ええ  。それでも暩力を乱甚しおくる恐れはありたすが、少なくずもラむブが倱敗に終わるこずはないず思っおいたす。ただし先ほども蚀ったように、ここをファンで䞀杯にするのが倧前提ではありたすが」

「埋め尜くしおみせるわ。そしお必ずやあたしがメゞャヌずむンディヌズの架け橋になっおリオンを振り向かせる」

「自信がおありなのですね いいでしょう、ならばもう䞀぀。せっかく䞀日貞しきれるのですから、それを利甚しない手はありたせん。自分は二郚構成でいこうず考えおいるのですが、どうでしょう」

「たずえば午前ず午埌に分けるっおこず」

「ええ。前半はサザンクロスメむンで、埌半はレむカずりむングメむンにすれば、新旧どちらのファンも楜しめるラむブになりたす。欲を蚀えば、曲のかぶりがない方がいいですね。そうすれば、通しでチケットを買っおくれるファンも出おくるでしょうし、前半ず埌半でお客さんが入れ替わる堎合でも环蚈客数は䜕割か増すはずです」

「サザンクロスの曲はそんなに倚くないけど  」

「だったら今からでも、䜕曲か足しお䞋さい。未発衚曲なら食い぀きもいいでしょう」

「  無茶蚀うわねぇ。たぁ、いいわ。考えおおきたしょう」

 経隓䞊、ラむブでなら即興に近い曲を匟いおもお客さんは喜ぶ。日垞を歌った曲の方がりケる堎合もある。今回は䞉人でステヌゞに立おるのだからトヌクで繋いだっおいいし、拓海の手話を取り入れたっおいい。

「昌ず倜で、むメヌゞを倉えるのもいいわね。ああ、今から楜しみだわ」

 ゜ロでのラむブ前はい぀も緊匵しおいたが、今回は倧芏暡䌚堎にもかかわらずそれがない。それだけ二人が心の支えになっおいるのだろう。倚分あたしはもう、䞀人には戻れない。

どうか、たくさんの人にあたしたちの想いが届きたすように  。


29拓海

 店の前で匟き語っおいたのは䞉十幎以䞊も前のこず。暮らすのがやっずの貧乏ミュヌゞシャンだった俺たちは、それでも店のステヌゞに立ちたい䞀心でありずあらゆる仕事――バヌ、パヌティヌ䌚堎、商店街のむベントなど――に手を出し、資金を貯めた。䌑む間もなく動き続けられたのは間違いなく、恚みず怒りの力。解散は最悪的な出来事だったが、俺たち二人のギタヌスキルず経隓倀を䞊げるずいう意味では必然だったのかもしれないず、今では思う。

 今日、麗華はショヌタず共にラむブ日の擊り合わせに行っおいお䞍圚だが、代わりにナヌゞンずセナが来おくれおいる。セナは自らリオンに電話をかけお本心を聞き、その䞊でこちら偎からリオンを助ける道を遞んでくれたのだった。

「ただし、今日来たのは兄さたたちの本氣床を確かめるためよ。情熱が感じられなかったら協力しない。堎合によっおはリオン偎に぀くかも。それだけは最初に蚀っおおくね」

 双子の間でどのような䌚話が成されたのかは分からない。だが、俺たちが䞭途半端な芚悟で臚めばセナはこっちを芋限る぀もりのようだ。発蚀だけでなく、腕を組んで少し距離を眮く様子からもセナの芚悟が分かる。

「セナ。そうやっお兄さんたちを挑発するなよ。これはオレたちにずっおも新しい詊みなんだ。䞀緒に成長する぀もりでやろうっお蚀っただろう」
 ナヌゞンの蚀葉にセナは曎にかみ぀く。

「それはそれ。これはアタシにずっおは人生の分かれ道なの。リオンずこの先も䞀緒に生きるか、それずも別れるか  。どちらに転ぶかは兄さたたちの腕にかかっおるず蚀っおも過蚀ではないんだから。お兄ちゃんには分からないよ、双子の氣持ちは」

「    」
 セナの、リオンに察する想いが今の蚀葉に詰たっおいた。

 ――双子の氣持ちは分からないが、セナの想いには最倧限応える぀もりでやるよ。倧䞈倫、俺たちならやれる、きっず。

 智節に通蚳しおもらうず、セナはちょっずだけ衚情を和らげた。

「  ほんっず、呆れちゃうよね。兄さたたちの前向きさには。た、お手䞊み拝芋ね」



 ラむブハりスが開店する䞀時間前。沈みかけた西日を济びながら俺たちは挔奏を開始した。東京ずいう街で人々の耳を奪うのは難しい。倧抵がむダホンをし、自分の䞖界に籠もっおいるからだ。それがラむブハりスの前であっおも、人々の関心は珟実䞖界ではなく自分の興味関心ある䞖界  。

 ――嫌でも聎かせおやるよ、俺たちのギタヌず歌を  

 道行く人が知っおいる曲はおそらく「星空の誓い」ずブラックボックスの「シェむク」だけだろう。だからずいっお、そればかりを繰り返すのでは胜がない。俺たちはこれたでに䜜り、歌っおきた曲から䞀぀ず぀披露しおいく。

「おっ、兄さんたち、なんか面癜いこずやっおるじゃん」

「オレたちも混ぜおくれよ」

 しばらくするず、今日の出挔者であろうむンディヌズ仲間たちが声をかけおきた。そうだ、道行く人は知らなくおも、叀くから付き合いのある仲間たちは俺たちの曲を知っおいる。

「オヌナヌから話は聞いおるよ。メゞャヌに察抗するんだっおな。そういうこずならオレたちも手䌝うぜ」

「若いのには手䌝わせお、付き合いの長いオレたちには声をかけないなんお氎くさいじゃねえか」
 そう蚀っお、頌んでもいないのに圌らは勝手にバックで挔奏し始めたのだった。

 過去に䜕床も同日にラむブをしおいるからむントロが流れればどの曲か分かるし、挔奏も出来るのがむンディヌズ仲間ずいうもの。歌詞だっお、サビくらいは分かるず蚀わんばかりに智節ず歌声を響かせおいる。氣付けばちょっずしたむベント䌚堎䞊みに人が集たっおいた。

「  勝手に仲間が集たるなんお、兄さたたち、やるじゃないの。アタシたちも負けおられない。お兄ちゃん、次はアタシたちの番よ」

 セナはそう蚀っおナヌゞンず目を合わせ、自分たちの持ち曲「シェむク」の挔奏を始めた。

 むンディヌズ仲間の飛び入り参加で泚目が集たっおいたずころに、巷ちたたでも人氣の「シェむク」を生ナマで、しかもパフォヌマンス぀きで芋聞きできた通行人はさすがに拍手を送った。

 ――この勢いに乗っお「星空の誓い」をやろう。
 手話で䌝える。

「オヌケヌ。だけど君は匟かずに手話で歌っおくれ。挔奏は僕がする」

 ――了解。でも智節も歌っおくれよ。道行く人に歌詞をアピヌルしたい。

「分かった。それじゃあ遠慮なく歌うよ」
 俺たちは鳎り止たない拍手を割るように「星空の誓い」を歌い、、始めた。


30智節

 「星空の誓い」の歌詞を、僕は喉を震わせお歌い、拓海は手話で歌う。今たでこんな衚珟をしたこずはなかったから新鮮だった。それは聎衆にずっおも同じらしく「シェむク」の時ずはたったく異なる姿勢で僕らの「パフォヌマンス」を芳おいた。サビの郚分にさしかかるず、セナがアドリブでハモり始め、ナヌゞンも再珟動画の撮圱時に芚えた手話を披露する。もはやここがラむブステヌゞず蚀っおも過蚀ではなかった。誰もが息を呑み、僕らを芋守っおいる。

 歌い終わるず同時に歓声が䞊がり、求めたわけでもないのに投げ銭をする人が続出する。

「ありがずう。僕ら、普段は元シンガヌ゜ングラむタヌのレむカず䞉人でサザンクロスっお蚀うバンドを組んでるんだ。秋以降にはラむブもする予定。よかったら聞きに来おくれ。これからも応揎よろしく」

 皆が泚目しおいるこのタむミングで自己玹介ずラむブの告知を挟む。僕らが䜕者かを知っお「あヌ、やっぱり」ず合点がいった人、「ぞぇ、氣にしずこう」ず興味を持った人。反応は様々だったが、かなり倚くの人に顔ず名前を芚えおもらえたず思う。

 店内でも仲間がラむブ䞭であるこずを䌝え、䞀旊䌑憩に入る。

「ありがずう、助かったよ。お前らのラむブ、あずで芳おくから、っおさ」
 拓海が手話を䜿ったので、このあずステヌゞでラむブをする仲間に僕を介しお䌝える。

「よろしく頌むぜ。じゃ、たたあずで」
 仲間たちはいいりォヌミングアップが出来たず喜びながら楜屋に向かった。

 ――いい感じだな。今日は麗華がいないけど、セナがそこをカバヌしおくれた。
 拓海の感想を通蚳するず、セナは小さく笑った。

「  別に、レむさたの代わりをしようず思ったわけじゃないよ。兄さたたちが楜しんでたから自然ずハモっちゃっただけ。  うん、すごく楜しかった。バむトがない日にはたた応揎に駆け぀けるよ。これだけの人前で歌い続けたら、アタシも床胞が぀きそうだし」

「  っおこずは、僕らず䞀緒にリオンを救出する䜜戊に乗っおくれるのか」

「  うん。兄さたたちずなら出来るっお、今䞀緒にやっおみおはっきり分かったから」
 僕らを芋るセナの目は力匷かった。
「  キヌボヌドを匟きたいリオンはすごく悩んでる。だから、ショヌタさんがアタシにしかできないっお蚀っおたこず。オヌナヌ䜜のピアノ曲をアタシが匟いお聎かせるっお䜜戊を実行すればリオンは必ず戻っおくる。アタシはそう信じおる」

 聞けば䜜戊䌚議のあずでセナはショヌタから、「こんなピアノ曲を甚意しおいる」ず蚀っおリオンにピアノ曲を聞かせおやっおほしいず䟝頌されたそうだ。双子のセナが匟くこずで圌の感情を揺さぶるこずが出来る、ずいうのがショヌタの考えらしい。

「  リオンの反応は」

「口では、氣が向いたらっお蚀っおたけど、双子の勘では絶察に聎いおくれるず思う。それが自分のために甚意されたオリゞナル曲だず知ったら誰だっお䞀床は聎いおみたいし、氣に入ったら自分で匟きたいず思うのがミュヌゞシャンじゃない」

「リオンは目立ちたがりだからなぁ  」
 ナヌゞンがしみじみ蚀うず、店内からオヌナヌが珟れた。仲間から僕らのこずを聞いお様子を芋に来たのだろう。

「客匕きご苊劎。おかげで普段より盛況だよ」

「そい぀はよかった。  それはそうずオヌナヌ、䟋の䜜曲は順調に進んでるのか」

「こっちはメむンの仕事の合間を瞫っお曲䜜りをするんだ、専業のお前らのようにはいかないよ。だが、必ずいいものを䜜るず玄束しよう」

「ショヌタの発案で、リオンのために䞀床セナが匟いお聎かせるこずになっおるらしいが」
 
「ほう  」
 話を聞いたオヌナヌはあごひげを撫でた。
「それ聞いお䞀぀、いい考えが浮かんだよ。玠晎らしい曲が出来そうだ。楜しみに埅っおろ」
 オヌナヌは䞀人でニダニダしながら店内に戻っおいった。

 その顔からは自信のほどが窺うかがえた。しかし、オヌナヌの良曲でリオンを取り戻す䜜戊がうたく蚀っおも、僕らの技術や知名床の䜎さが原因で䌚堎に人を集められなかった、ずなればあたりにも申し蚳ない。リオンの芋せ堎を甚意するためにも、たたラむブを成功させるためにも僕ら自身がもっず頑匵らねば。

「  よし、もう少し䌑んだら再開しよう。持ち曲はただただたくさんある」
 僕は党楜譜を広げた。

 ――おいおい、それ、党郚歌う぀もりか 適圓にしずけよ

 拓海は僕から楜譜を奪うず、玠早く五曲分遞んで突っ返しおきた。反論しようずしたが、枋い顔で喉を指し『リヌダヌ呜什』ず手を動かすので、それ以䞊は䜕も蚀えなかった。


31麗華

 ラむブハりス前での生挔奏ず歌の披露に加え、喫茶「ワラむバ」であたしたちの曲を流しおもらう䜜戊が功を奏し、サザンクロスの存圚を知らなかった局にも少しず぀浞透しおいるのを肌で感じるようになった。

 意倖な効果を䞊げおいるのが球堎内に貌ったチラシ。旧友、氞江孝倪郎コりちゃんの提案で、高校野球の芳戊に蚪れる人が目にする堎所を占拠するようにポスタヌを貌ったら、チケットが目に芋えお売れ始めた。満垭は難しいかもしれないが生配信もあるし、䜕より䞉人で倧舞台に立ち、歌声を響かせるこずに意味がある。

 これはあたしたちの「歌の力」がホンモノであるこずを瀺す絶奜の機䌚なのだ。聎衆のみならず、メゞャヌ界に属するすべおの人の目を芚たさせるためにも、このラむブは絶察に成功させなければならない。

 ラむブハりス「グレヌトワヌルド」のオヌナヌはあたしに蚀った。アヌティストを金儲けの道具ずしか考えおいないメゞャヌ界の連䞭をぎゃふんず蚀わせおやれ。もう、人々を思考停止にさせるような音楜を聞かされるのはうんざりだ、ず。

 その期埅に応えるためにもあたしたちは日々自分たちの音楜を磚き、最高の状態で圓日を迎えなければならない。


32拓海

 立秋を過ぎたずいうのに秋の氣配は埮塵も感じられず、それどころか最高氣枩を曎新する日々が続いおいる。日が萜ちおも䞉十床を䞋回らないので、店の前での挔奏は倜遅くなっおから。人通りの倚い時間垯を遞んだほうが宣䌝に向いおいるのは癟も承知だが、こうも暑くおは倒れおしたう。圓日に最高のパフォヌマンスができるよう、氣力ず䜓力を枩存しおおくこずも必芁だ。

 お氣に入りのフレヌズを匟いおいるず、今日のラむブを終えた旧知のバンドメンバヌが裏口から出おきた。こちらを芋るなり埮笑み、手を挙げる。
「あ、姉さん。お先に倱瀌したヌす。お疲れさたヌ」

「お疲れさた。おやすみなさい」

「うわぁ、おやすみなさい、だっおヌ こりゃあよく眠れそうだヌ」
 麗華に挚拶されたバンド仲間は䞊機嫌で垰っおいった。

 ――ここで歌い続けお半月はん぀き。すっかり仲間に受け容れられたな。

 メゞャヌ出身である麗華はむンディヌズの人間ず仲良くやれるか心配しおいたが、メゞャヌずむンディヌズの架け橋になりたいずいう想いを聞けば誰だっお応揎したくなる。加えお持ち前の矎声を響かせれば倧抵の男はむチコロだ。女の堎合、麗華のさっぱりずした性栌が奜印象らしく、䜕人かの効分が出来たようだ。
 
 ――さお、ず。俺たちもそろそろ匕き䞊げるか。

 仲間の背䞭を芋送った俺はギタヌを片付けようず立ち䞊がった。するず、仲間ず入れ替わるように誰かがこちらぞやっおきた。

「  セナ こんな時間にどうしたの」
 麗華が声をかけ、近寄る。

「どうしたも䜕も  。オヌナヌから聞いおないの」

「いいえ、䜕も」
 䞉人揃っお銖をかしげおいるずラむブハりスの看板がラむトオフした。時蚈を芋るず普段の閉店時刻より早い。今日はもう店じたいのようだ。そのうちにバむト䞭のナヌゞンが出おきお、衚に出おいる立お看板を片付け始める。

「お疲れさたです。  ああ、セナも来たのか。よし。それなら皆さんも入っお䞋さい。もう準備は出来おたすから」

「だから、いったい䜕が始たるんだよ」

「䜕っお  。オヌナヌがセナを呌び぀けた時点で氣付きたせんか ピアノ曲が完成したに決たっおるじゃないですか」
 智節の問いにナヌゞンが答えた。
「立ち話をしおたら怒られたす。早く䞭ぞ」

 急いでギタヌをケヌスにしたい、店内に入る。ホヌルスタッフが店内の片付けにいそしむ姿を暪目で芋ながらステヌゞに歩み寄る。

 ステヌゞ䞊のピアノの前にはすでにオヌナヌが座っおいた。普段の厳぀い顔からは想像も出来ない、優矎な挔奏姿に思わず息を呑む。オヌナヌは俺たちに氣が぀くず挔奏をやめた。

「よう、お前らも聎いおけ。終電を逃したらタクシヌを手配しおやる。今日は特別だ」
 䜙皋、機嫌がいいず芋える。オヌナヌは笑顔のたた手招きし、セナをステヌゞに䞊げた。

「隣に座れ」

「隣に   匟いおいるずころを間近で芋ろっおこず」

「いいや。私ず䞀緒に匟くんだよ」
 セナは目を䞞くした。

「  連匟、っおこずですか」

「そうだ」

33智節

 連匟、ずは䞀台のピアノを二人で挔奏するものだ。先日オヌナヌは「いい考えが浮かんだ」ず蚀っおいたが、たさか連匟ずは思いもしなかった。

「楜譜だ。芋ながらだったら匟けるだろう」
 譜面台のそれをオヌナヌが指し瀺し、セナが確認する。

「  倚分。っお蚀うか、䜕で連匟にしようず 確かに子どものころは良くリオンず二人で匟いおいたけど、そのこずは誰にも話したこずがないよ。もしかしお、お兄ちゃんから聞いたずか」

「䜕も聞いおはいない。ただ、二人が匟くむメヌゞが浮かんだからそれ甚に䜜曲しおみただけだよ。ずにかく䞀床、通しで匟いおみよう。絶察に氣に入るはずだ」

「はい。アタシは鍵盀の巊偎を担圓すればいいですか」

「ああ。セナのサポヌトで、目立ちたがり屋のリオンがちゃんず目立おるように䜜っおある。ペダルは、今日は私が担圓しよう」

「分かりたした。それじゃあ、お願いしたす」
 セナの合図のすぐあずでオヌナヌが鍵盀の䞊に手を眮き、匟き始める。

 ゞャズのような栌奜良さず、クラシックのような静かさず、ポップスのような明るさが、たるで壮倧な物語のように流れおいく。はじめは遠慮がちに匟いおいたセナも、次第にオヌナヌず息が合っおきたのか音のずれが枛り、最埌の盛り䞊がるずころでは完党に䞀䜓ずなった。

 僕はピアノの䞖界を知らない。そんな僕でも二人の挔奏が始たった瞬間から鳥肌が立ち、蚀葉では蚀い衚せない感動を味わっおいる。

 オヌナヌは無名のピアニストだが、プロより劣っおいるのかず蚀えばたったくそんなこずはない。こうしお玠晎らしい曲を䜜るこずができ、僕の心を震わせられるのだから。もしスポンサヌがいるかどうかで奏者の良し悪しを刀断する人がいるなら、今すぐやめろず僕は蚀いたい。ピアノに限らず、歌ずギタヌの䞖界においおも同様だ。

 レむちゃんが、メゞャヌずむンディヌズの架け橋になるず宣蚀しおいるように、オヌナヌもたたメゞャヌずむンディヌズの境界をなくそうずしおいるに違いなかった。でなければ僕らに期埅を寄せ、曲たで提䟛しおくれるはずがない。

 二人が匟き終え、拍手を送る。ホヌルに残っおいたスタッフからも倧きな拍手が響く。

「たさか、無料でこんなに玠晎らしいピアノ挔奏が聎けるずは思っおなかったよ。感動した。ありがずう、オヌナヌ、セナ」

 正盎な感想を䌝えるず、オヌナヌは満足そうにほほえみ、セナは恥ずかしそうに顔の前で手を振った。

「アタシは党然だよ  。感動したのはオヌナヌのテクニックが優れおいたから。でも  」
 セナは楜譜を手に取る。
「オヌナヌ。もし良かったらこの曲を、サザンクロスのラむブで䞀緒に匟いおくれたせんか アタシ、䞀䞇人の前で匟いおも恥ずかしくないように䞀生懞呜緎習したすから」

「うん その倧舞台でリオンず匟くんじゃないのか」

「今、䞀緒に匟いおみおメッチャ鳥肌が立ったんです。アタシ、倧舞台でたずはオヌナヌず匟きたい。お兄ちゃんが蚀っおたけど、コンクヌルで䜕床も入賞した経隓があるんでしょう オヌナヌも久々に人前で栌奜いいずこ、芋せたしょうよ」

「  たさかセナからラブコヌルを受けるずはな。お前らはどう思う 私が匟いおしたったら、おいしいずころを党郚持っお行っおしたうかもしれんが」

 その可胜性も吊定できないくらい玠晎らしい挔奏ではあったが、それで慌おふためく僕らではない。

「仮にそうなったずしおも、次の挔奏でたた僕らがおいしいずころを持っお行くさ。空氣をがらりず倉える曲ならいくらでもある」
 僕の発蚀を受けお二人も頷いた。

「たぁ、お前らがいいずいうなら遠慮なく匟かせおもらおうか。  さお、リオンはどんな感想を持぀かな」

「ねぇ、こういうのはどう ラむブは二郚構成にするこずに決たったから、たずは前半で二人の連匟を披露しお、リオンずは埌半で匟くの」

「アタシも同じこずを考えた」
 レむちゃんの提案にセナが同意する。
「今日のこずはアタシからリオンに䌝える。もちろん、興奮しながらね。そうすれば絶察にラむブ䞭継を芋るはずだし、こんなに玠敵な曲が匟けるず分かったら、自分の挔奏で魅了しおサザンクロスのラむブをブラックボックスが乗っ取っおやろう っお蚀うず思うんだよね」

 ――それもありじゃねえか 䞀応、俺たちのラむブっお銘打っおるけど、スペシャルゲストでブラックボックスが来おるこずにすりゃあ盛り䞊がるし、これたでの恩返しが共挔っお圢でできるならこっちも嬉しいからな。

 拓海の手話を通蚳しながら頷く。
「前半でブラックボックスの出挔を知ったファンが、埌半の圓日刞を買い求めお䌚堎に足を運ぶっおこずも考えられる。僕らにずっおもメリットが倧きい」

「え、嘘 アタシ、冗談で蚀ったんだけど っお蚀うか、本氣 蚀っちゃ悪いけど、アタシたちの方が知名床、䞊だよ」

「ギタヌの腕は僕らの方が䞊だ  ず蚀いたいずころだけど、前回の察バンの件があるからね。ここは互いに尊敬し合っお、最高のラむブを䜜り䞊げようじゃないか」

「ふっ  。智節が和協わきょうするずは。ちょっずは倧人になったな」
 たるで芪が子の成長を喜ぶような蚀い方だったが、支揎者であるオヌナヌからすれば僕らは子どもみたいなもの。異議を唱える必芁はなかった。

 ここで拓海が咳払いをし、リヌダヌらしく音頭を取る。
 ――䞀旊いったん、話をたずめるぜ。二郚構成のラむブのうち、前半戊でオヌナヌずセナの連匟ずブラックボックスずの共挔を挿入。そこでの反応を芋お、埌半戊ではブラックボックスの出番を増やすかどうかを決め、リオンが合流した堎合は、最高の圢で目立おるよう挔出する  ず。もし、異論がなければこの案をショヌタにも䌝えおおこうず思う。あい぀なら曎にいい案を出しおくれるかもしれないからな。

 僕が通蚳するずオヌナヌが、
「ショヌタには私から䌝えよう。ピアノ曲も聎かせたいしな」
 ず蚀った。

 僕の腕時蚈がピッず鳎り、日付が倉わったこずを知らせた。郜内から出る垂行きの最終列車は二十䞉時台。最終䟿それを逃すず本圓に垰る足がない。時蚈を芋た僕はため息を぀いた。

「玄束だ。こい぀を䜿え」
 オヌナヌは内ポケットから䞀枚の玙を取りだすず僕に手枡した。タクシヌ刞だった。

 瀌を蚀い、店を出ようずしたずころでセナがオヌナヌに蚀う。
「明日から毎日通いたす。お忙しいずは思うんですが、緎習に付き合っおもらえたせんか」

「もちろんその぀もりだ。しかし、私の指導は厳しいぞ」

「構いたせん」

「よし。それなら、ラむブたでみっちり指導しおやるから今のバむトはすぐに蟞めおうちに来い。店が開いおる時間はバヌフロアのピアニストずしおピアノを匟き、閉店埌からは私が指導すれば今よりずっずマシになるはずだ。本番ではリオンが嫉劬するくらい、二人で息のあった挔奏をしよう」

「は、はい ありがずうございたす」

「ず蚀うわけだから、お前らも粟進しろよ」
 オヌナヌは、店をあずにする僕らの背䞭に向かっお蚀葉を投げた。

 ――俺らも負けおらんねぇ。明日からは䞀日䞭、自宅のスタゞオでみっちり緎習しようぜ。オヌナヌをぎゃふんず蚀わせおやるんだ。

 闘志に燃える拓海ずがっちり握手を亀わす。
「もちろんさ。䜕しろ、僕らが䞻圹のラむブなんだからね。おいしいずころは持っお行かせない。だろう、レむちゃん」

「ええ。䞀䞇人を、この声で魅了しおみせるわ」

「うっわ、䞉人ずもやる気満々だぁ  。あのぉ、足手たずいにはなりたくないんで、オレも緎習に加えおもらっおもいいですか  」

「もちろん 䞀緒にやろうぜ」

「良かった  。それじゃ、たた明日」
 ナヌゞンはホッずしたように蚀い、セナず䞀緒に垰っおいった。



埌線玄39500字

34麗華

「音楜性の䞍䞀臎からブラックボックスは解散し、リオンだけが゜ロデビュヌするこずになったず事務所から公匏発衚がありたした」

 ある皋床心づもりはしおいたが、ショヌタさんから報告を受けたあたしたちは耳を疑った。それは䞀週間ぶりにラむブハりスを蚪れたずきのこず。開店前に特別にステヌゞを借り、䞉人でラむブの予行挔習をしたあずの出来事だった。
 
 加えお、未だ、、ブラックボックスを名乗るナヌゞンずセナに察しおは、即刻掻動を停止せよずの譊告文も出おいるずいう。

「あたしたちに蚀うならずもかく、ブラックボックスを暙的にするなんお  」

「たぁ、逆に考えれば、サザンクロスずブラックボックスがタッグを組むこずで䞀䞇人集められるず思っおいるから先方も朰しにかかっおくるのでしょう。ネット䞊では、シヌクレットゲストはブラックボックスだろうず予想する人が倧半ですからね。そういう情報を流すこずでチケット賌入者を混乱させる狙いもあるかず」

 ブラックボックスを名指しした譊告文曞が出たず蚀うこずは、おそらくリオンはただ取匕料を受け取っおいない。受け取っおいれば、その金は掻動停止料ずしお速やかにこちら偎ぞ届けられるはずだからだ。これは突飛な考えかもしれないが、ナヌゞンずセナがこの文曞を受けお掻動を停止しなければ、リオンはプロのダンスミュヌゞシャンずいう名の奎隷ず化す。それでもいいのかず脅しおきおいるようにも思える。

「  どうしお瀟長は、バンドから䞀人だけ匕き抜いおメンバヌず察立させるようなこずをするのかしら あたしの時もそうだったけど」

「䞉人寄れば文殊の知恵ず蚀いたすからね。事務所はそれを恐れおいるのだず思いたす。察しお、若者䞀人ならコントロヌルしやすい」

「    」
 今の自分たちの実力が高く評䟡されおいるのはいいこずだが、その裏で起きおいるであろうこずを淡々ず説明されお氣が滅入った。

 ラむブ日たで䞀ヶ月あたり。チケットもかなり売れおいる状況でこの発衚はかなりの痛手。なぜなら、ブラックボックスゲスト出挔するず芋越しおラむブに来るファンが倚いこずは分かっおいるからだ。今埌、事務所が倧々的に報じれば䞍信感を持ったファンがキャンセルを申し出るこずも充分考えられる。

 しかし、ネガティブになっおいるあたしの隣でショヌタさんは䜙裕の衚情を浮かべおいる。

「この出来事は最悪のシナリオではない、っお顔ね」

「こうならないに越したこずはありたせんでしたが、想定の範囲内、ずいうや぀ですね。こっちも秘密裏に手を打っおいるので焊りはたったくありたせん」

「䞀䜓どんな手を  」

「それは秘密です」
 圌は唇の前で人差し指を立おた。

「実は、バッドニュヌスがもう䞀぀ある」
 ず続けたのはオヌナヌだ。

「サザンクロスのラむブ日ず時を同じくしお、垂営球堎に隣接するアリヌナで事務所䞻催の音楜フェスを急遜、行うこずになったず聞いた。そこで、リオンを含む新人アヌティストを発衚するのだず」

「急遜っおどういうこずだよ 祝日のアリヌナがそう郜合よく空いおるはずがない」
 智くんが詰め寄った。

「無論、お前らのラむブを台無しにするために決たっおる。どうやらカネの力で先客のむベントを別日に移動させたようだ」

 ――「聞いた」ずか、「ようだ」ずか  。いったい、オヌナヌは誰から聞いたんだよ

 拓海の手話を智くんが通蚳するず、オヌナヌは「音楜フェスの䞻催者本人に、だよ」ず答えた。

「䞻催者っお、瀟長のこずですよね やはり瀟長ずオヌナヌは䜕か因瞁が  」
 あたしの問いに小さく頷く。

「  私ずあい぀は同じ音倧のピアノ科でな。成瞟を競い合った間柄なんだ。互いに倢を語り合ったこずもあったが、ピアニストずしおやっおいける人間はほんの䞀握り。ピアニストの道から倖れおしたった私たちが遞んだのが、ミュヌゞシャンの茩出だった。はじめはあい぀も私ず同じ、倢を語るミュヌゞシャンを探しおいたんだが、それでは成功できないず思ったのだろう。倧手メディアず蜜月を亀わし、メディアの意に沿ったミュヌゞシャンを䞖に出す方に舵を切り今に至っおいる。

   あい぀は確かに成功した。事務所を倧きくし、たくさんのミュヌゞシャンを䞖に出しおも来た。だが、その代償ずしお倢を売った。だから蚱せないんだろう、嫌いなのだろう。自分が諊めた倢を語るミュヌゞシャンのこずが。  いや、本圓に蚱せないのは私䞀人なのだず思うが、あい぀も耄碌もうろくしおきたのかもしれん。でなければ、䞀いちバンドのラむブを朰すためにそこたでするはずがない」

「  なぜ瀟長ずコンタクトを」

「脅しの連絡が入ったのでな。その察応をしたたでだ」

「脅し  」

「反瀟䌚的な歌を歌うサザンクロスおよび協力者のブラックボックスは害悪そのもの。圌らの支揎を続けるなら次こそ店を朰す。それが嫌なら、盎ちに支揎をやめおこれたで通り小さな店でお遊戯䌚をやっおろ、ず。  無論、芁求は突っぱねたがな」

「反瀟䌚䞻矩者だっおこずは認めるが、ここでのラむブをお遊戯䌚だず蚀われるのは心倖だな」

「それだけ歌の力を恐れおいるのさ。本物ホンモノのシンガヌが想いを蟌めお歌うこずで聎衆の意識が倉わり、掗脳から目芚めるこずを知っおいる。だからお前らのラむブを、果おは私の店を朰そうずしおいるのだよ」

 オヌナヌの智くんに察する返答を聞き、あたしは先日、瀟長に䌚ったずきのこずを思い返した。

 あたしやリオンが䜕を蚀おうずも、瀟長は䞀切耳を貞そうずしなかった。自分のしおいるこずは党たっずうなのだず蚀わんばかりに。しかし時折、䜕かに迷っおいるかのように衚情が曇ったのをあたしは芋逃さなかった。

 瀟長は成功のために倢を売った、ずオヌナヌは蚀ったが、それはここ数幎の話だず思う。あたしが「ファミリヌ」のような、情に蚎える歌でデビュヌしおいるのだから、圓時の瀟長はただ音楜業界に倢や垌望を抱いおいたし、家族愛を歌うこずにも理解があったはず。

「もし、あたしたちの歌に瀟長が恐れおいるような力があるなら、あたしは誰よりもたず瀟長のために歌う。そしお必ずや救っおみせる。あたしには、瀟長が完党に倢を捚おたずはどうしおも思えないから」

 あたしの蚎えを聞いた拓海がクスッず笑った。

 ――すげえな  。瀕死の人間や心を病んでる奎がいれば、たずえそれが敵であっおも真顔で「歌で救う」ず蚀う。これぞ、ホンモノのシンガヌ。  そうか。だからあっちは麗華を手攟すこずになっお焊りを感じおいるんだな

「なるほど。衚向きはわかりやすく、反瀟䌚䞻矩のむンディヌズバンドを排陀するず蚀っおいるが、本圓のずころは非科孊的な力、すなわち歌の力を信じ恐れおいるから掻動を犁じおくる、ずいうわけか」

 瀟長がそこたであたしの胜力を高く評䟡しおいるかは分からないが、二人の発蚀を聞いお劙に玍埗しおしたった。

「オヌナヌも蚀いたしたよね 瀟長を救っお欲しいず。あたしには歌しかない。だから歌で救いたす」

「今のやり方や考え方を改めさせろ、ずは蚀ったよ。たぁ、お嬢が本氣で歌えばあの女の心に䜕かしらの倉化を起こせるかもしれん。そい぀を期埅するずしよう。䜕しろ、死にかけたこい぀、、、を䞉途の川岞から匕き返させたんだから。なぁ、拓海」

 ――俺は䞉途の川は芋おねえっおば

 拓海は反論したが、あたしも智くんも笑っおしたっお通蚳しなかったので拗すねおしたった。それを芋たショヌタさんは「たぁたぁ」ず圌をなだめ、話を進める。

「歌に力があるかどうかはおいずいお、今は情報を鵜呑みにしたチケット賌入者が離れおいかないようにするのが最優先だず考えたす。䞀぀考えおいるのは、告知甚のりェブ広告の制䜜・配信ず広告チラシの再配垃です。こうなった以䞊、シヌクレットだったゲストがブラックボックスであるこずを正匏に発衚し、ラむブ䌚堎に䞉人、、が集うこずを公玄するしかありたせん」

「え、䞉人」
 あたしたちは揃っお目を䞞くした。

 ――ショヌタはリオンが合流するず確蚌しおるのか

「いいえ。本圓に圌が駆け぀けるかどうかは正盎、分かりたせん。しかしこのくらいの倧博打おおばくちを打たなければ愚かな民衆の心は動かせない。  そう、我々が思っおいる以䞊に民衆は暩嚁ずいう倧きな声に流されるものなのです」

「民衆が愚かだずいうなら、僕らの小さな歌声で掗脳から解き攟っおやる。倧きな声こそが嘘っぱちであるこずを暎いおやる」

「さすがは智節兄さん。蚀うこずがデカいなぁ。しかし、䞀歩やり方を間違えれば営業劚害で蚎えられかねない。発蚀は慎重に行おこなっおもらわないず」

「心配するな。ラむブができなくなるようなこずは蚀わないし、ラむブ䞭は、拓海に代わっお盛り䞊げ圹に培する぀もりでいる。今回はブラックボックスもいるし、背負っおいるものも倧きいず自芚しおるからな。口は慎むさ」

「お願いしたすよ。  さお。ナヌゞンずセナが合流したずころで次の䜜戊䌚議ず行きたしょうか」
 圌はそう蚀いながら煙草を䞀本取りだしお火を付けた。


35拓海

 ショヌタの次なる䜜戊ずしお、ブラックボックスの二人には、ラむブ圓日たで動画投皿も含めお目立぀ような掻動はしないず蚀う指瀺が、持ち曲の少ない俺たちにはラブ゜ングを䜕曲か曞き䞋ろせ、ず蚀う指瀺が出た。智節はラブ゜ングずいう蚀葉に難色を瀺したが、「人々を目芚めさせたあずに築き䞊げるべきは愛ある䞖界なのだから、『サンラむズ』のような曲も甚意しおおくべきだ」ず指摘され枋々受け容れたのだった。

 ショヌタが、俺が声を倱う盎前に䜜詞䜜曲した「サンラむズ」を愛ある歌の䟋ずしおあげたのには驚いた。少し前にプレスしたミニアルバムには収録したものの、公の堎で生歌を披露したこずのないレア曲だからだ。

もう䞀床、声が出せたら  。

 しかしそれはこの呜が尜きるたで叶わない願いだ。  いや、心を蟌めお「手話うた」えばあるいはか぀おの声が届くかもしれない。「星空の誓い」を手話で歌ったずき智節ず麗華が俺の声を聎いた、、、ように。

 今回のラむブでは、圓然のこずながら智節ず麗華が䞻で歌うこずが決たっおいるが、みんなの氣持ちが䞀぀になった頃に俺の声の入った「サンラむズ」を流し、手話を披露すればより䞀局、盛り䞊がるのではないか。同日に倧手事務所の音楜フェスが催されるなら、それに察抗しうるような曲に差し替えるこずも必芁だろう。

せっかくのラむブなんだ、俺のいいずころも芋せおやる  

 今は智節に歌っおもらっおいるが、俺が䜜った曲の䞭には俺にしか歌えない歌もある。「サンラむズ」はその䞀぀だず思っおいる。

 リビングの゜ファで思い巡らせおいた俺だが、じっずしおいられなくなっおすぐにショヌタにメヌルを送った。数分埌、俺らの自宅近くの駅前で仕事をしおいるから、そのあずだったら話を聞くず返事が来たので了承した。

 その時、タむミング良く智節が自宀から出おきたので手招きする。

 ――ちょうどいいずころに。これからショヌタずラむブの曲に぀いお盞談に行くんだが、䞀緒に来おくれないか。

「あヌ、悪い。これから出かけるんだ。  筆談ならなんずかなるだろう 僕にも氣晎らしは必芁だ」

 ――えヌ   じゃあ、麗華に頌むか。

「  レむちゃんも忙しいんじゃないかな」
 智節は蚀葉少なにその堎をあずにした。

 

 結局麗華にも振られた俺は䞀人、ショヌタず䌚うため喫茶「ワラむバ」を蚪れた。玄束通り、テレビの代わりに俺たちの曲がスピヌカヌから流れおいるのを確認しお満足する。

「あ、どヌも。ちゃんず宣䌝しおたすよ」
 店䞻が俺たちを芋るなりそう蚀った。
「チケットも売れおたすね。ただ、このペヌスでは䞀䞇人分さばけるかどうか  。䜕か他に手䌝えるこずがあればいいんだけど、うちは喫茶店だから  」

「いえいえ、充分助かっおたすよ。  さお、ず。それじゃあ座りたすか」

 ショヌタは、サザンクロスの曲をかけるのにふさわしい喫茶店かどうかをチェックするために䞀床ここを蚪れおいるず聞く。ただ、スポヌツ䞭継を流しっぱなしの喫茶店に音質のいいスピヌカヌなどあるはずはなく、それだけは無理を蚀っお最高玚のものを甚意しおもらったそうだ。おかげで、俺たちの生歌にも匕けを取らない歌声ずギタヌの音色が裏路地の小さな喫茶店でも聎ける。

「ええず、ラむブで歌う曲を倉曎したいんでしたね」
 垭に着くなりショヌタが問うた。俺は持参したノヌトを取り出しお、あらかじめ曞き蚘したメモを芋せる。ショヌタはそれを受け取るず、文字を指でなぞりながら読んだ。

「なるほど。ラストに『サンラむズ』を入れたい、ず。手話を䜿っお『歌う』んですね」

 ――その通り。だけど䌚堎が䞀぀になった状態でなら、マゞで地声も届くず思っおる。

 筆談ノヌトにそう曞くず、「ぞぇ」ず驚かれた。
「兄さんの声、奇跡の埩掻 ですか。  自分を呌び出したくらいですから、圓然本氣で蚀っおるんですよね」

 俺は力匷く頷いた。
「いいでしょう。そういう倢のある話を聞くずワクワクしたす。では、ここのトヌクを削っお、オヌナヌたちのピアノ挔奏のあずに『サンラむズ』を挿入したしょう。  おいしいずころは兄さんが持っおく感じになりたすね」

 もう䞀床頷き、ノヌトに思いを綎る。
 ――みんなには悪いけど、「星空の誓い」で俺も「歌える」こずが分かっちゃったからな。ラむブでも「歌わせお」もらうよ。蚀っずくけど、倧手事務所のアヌティストには出来ない技だぜ

「察抗ずいう意味ではふさわしい䞀曲だず自分も思いたす。ではこの方向で再線を  」

 蚀いかけたずころでショヌタの電話が鳎った。圌は䞀床俺をちらりず芋たが「ちょっず倱瀌」ず蚀っお店の倖に出、話し始めた。

 手持ち無沙汰になっおしたったので、店内の音楜に耳を傟ける。ちょうど「芚醒」が流れ始めたずころだった。

 これは初めお䞉人で䜜った曲。新生サザンクロスずしお本栌始動するこずを路䞊で宣蚀した思い入れのある曲だ。「芚醒」を聎いお麗華が所属しおいた事務所の瀟長がメゞャヌデビュヌの話を持ちかけおきたのはなんずも皮肉なこずだが、俺たちはこの歌を匕っ提げお人々を芚醒させる぀もりでいる。そしおラストに歌う、、のが「サンラむズ」  。想像するだけでゟクゟクする。

 聞き終える頃にショヌタが戻っおきた。圌は垭に着かず、すぐに手荷物をたずめた。

「次の仕事が入りたしたので、今日はこの蟺で倱瀌したす。最終の曲順をたずめ次第、远っお連絡したす」

はぁっ お、おいっ  
 匕き留めたくお声を出そうずしたが、喉からはかすれた息しか出なかった。


36智節

 愚かな民衆が目芚めたあずに築き䞊げるべきは愛ある䞖界。人々の救䞖䞻になりたいならその先のこずも考え、完璧に準備しおおかなければならない。これたでお前は䞖を憂う曲ばかり䜜っおきたが、これからはラブ゜ングを䜜れ。それがお前のためだ  。

 ショヌタにそのようなこずを蚀われた僕は頭を抱えた。ラブ゜ングが䜜れないからではない。先々のこずたで考えるショヌタず、盞倉わらず珟状を嘆くしか胜のない僕ずの差を芋せ぀けられたからだ。

 ラブ゜ングならぬラブレタヌらしきものを曞いたのは今から八ヶ月ほど前。圓時、ただレむちゃんを恚んでいた僕が曞いた恋文はたさに愛憎に満ちおおり、ずおもじゃないが玔愛を語ったずは蚀えないものだった故に、それを「ラブレタヌ」ずいう歌に仕䞊げたレむちゃんのこずは尊敬しおいる。その埌、拓海が生還し、今の家で共同生掻をするようになっおからは、圌女に恋心を抱き぀぀もあえおそれを口にするこずはなかった。正匏な恋人が拓海だずいうのもあるが、僕ずしおは䞉人での穏やかな暮らしがあればそれで充分、ず蚀うのが本音だ。

ラブ゜ング、か  。今ならもっずマシな歌詞を玡げるだろうか  。

 い぀だったか、二人の前で語ったこずがある。僕は埁服を成し遂げたあずの䞖界で生きたい、そのために歌うのだず。僕が想像しおいるのは今のようにギスギスしおいない、争いや差別のない䞖界だが、ショヌタに蚀わせればそれが「愛ある䞖界」なのだろう。

 恋愛、異性愛、家族愛、人類愛  。このすべおをひっくるめお愛ず呌ぶなら、僕らが目指す「愛ある䞖界」は「人類愛」に圓たるだろうか。

笑っおしたうな  。この䞖を恚み尜くした僕が人類愛をテヌマに曲を䜜るなんお  。

 ずおもじゃないが、䞀人で曞ける氣がしなかった。
協力を仰ごう  。
 僕は怅子から立ち䞊がり、身支床を調えおから郚屋を出た。

◇◇◇

「二人だけで出かけるのはい぀ぶりかしら」

「ひょっずするず、拓海が埩掻する前たで遡るかもしれないね」

「っおこずは、半幎以䞊前かぁ。  拓海の通蚳をしなくおいいっおのも、たたにはいいね」

 そう蚀っおレむちゃんは僕の腕を取った。

 䞉人で暮らすのが圓たり前になっおいるから、こんなこずは久しくしおいなかった。拓海に匕き留められたずきにはどうなるこずかず思ったが、圌はリヌダヌずしおラむブの打ち合わせを、僕はショヌタから蚀い枡された課題をこなすためにレむちゃんずデヌトする。たたにはこういう日があったっおいいだろう。

 真倏のデヌト。  ず蚀っおも海や山ぞ出かけるほど若くはないし、屋倖は溶けおもおかしくないくらい暑いので、屋内デヌトスポットのひず぀である郜内の氎族通に足を向ける。



 倏䌑み䞭ず蚀うこずもあり、通内は子連れ客が倚かった。冷房は効いおいるのだろうが、生ぬるく感じるのは通路がすし詰め状態だからだろうか。䞀方で、氎䞭の魚たちは涌しげに泳いでいる。匕っ付きながら汗ばむ僕らをあざ笑うかのように悠々ず。

 いや、よくよく芳察しおみるず魚たちはぶ぀かりそうになりながら泳いでいるこずに氣付く。たるで、スクランブル亀差点を行き亀う人々が蟛うじおすれ違う人を避けおいるかのように芋え、どこの䞖界も同じなのかもしれない、ず思い改める。
 
「ここの魚たちも苊劎しながら生きおいるのかな。海ず違っお、倩敵に食われたり逌にあり぀けず逓死したりする心配はないが、管理された氎槜の䞭では自由などない。垞に監芖され、堎合によっおは倜たでラむトアップされお眠るこずも蚱されない。  海の方がマシ、たであるかもしれない」

「智くんは自由を愛する男だもんね、そういう感想を持぀のは圓然のこずだず思う。たぁ、長幎組織に属しおいたあたしにはグサリず刺さる蚀葉だったりするんだけど」

「ああ  。ごめん、そんな぀もりはたったくなかった。っお蚀うか、デヌトしようっお誘ったくせに愚痎っぜくおダメだな、僕は」
 反省する僕の暪でレむちゃんは銖を振った。

「  そういうこずなら、氎族通゚リアを出お展望宀に行こうよ。開けた景色が芋られる。きっず智くんはそっちの方が奜みなんじゃないかな」

「だけど、それじゃあレむちゃんが楜しめない」

「あたしは倧䞈倫。ね、行こう」
 そっず背䞭を抌す圌女が無理をしおいるようには芋えなかった。いくら容姿が若くなっおも、やはり僕らは成熟した倧人なのだず思い知らされる。

「ありがずう、レむちゃん」
 圌女の手を取り、そっず握り返した。



 展望宀を利甚する人は氎族通ほど倚くなかった。䞀面ガラス匵りで開攟感があるだけで息苊しさから解き攟たれる。

 県䞋には東京のビル矀が広がっおいた。どこたでも建物で埋め尜くされる景色を芋お先ほどの話がよみがえる。たた愚痎っぜくなりそうだったが、その前にレむちゃんが蚀葉を発する。

「この街で暮らす人たちの倚くは、毎日同じ電車に乗り、芏則に埓い、決められたスケゞュヌルに即しお動いおいるかもしれない。だけど、そんな人たちをほっずさせられるのが音楜だず思うの。今回のラむブでは、そんな人たちを歌の力で䞀぀にしおあげられたらなっお思う」

「僕らの歌が、圌らの意識を倉えるキヌになればいいんだけど」

「もちろん、あたしたちはきっかけを䞎えるに過ぎないわ。本圓に人生を倉えたいならその人自身が動かなきゃ。あたしが事務所を蟞めたみたいにね」

 圌女の蚀葉は力匷かった。

「レむちゃんが思いきった決断をするこずが出来たのはなぜだろう やっぱり拓海の病氣が倧きいのかな」

「  拓海の人生の終したい方が栌奜良すぎたからかな。悔いがないように生き切りたいからずはいえ、䜕十幎も恚んできたあたしに連絡しおくるなんお、垞識に囚われおいたら出来ないこずよ。い぀か氣が向いたらしようっお思っおるうちに、拓海のように病に倒れるかもしれない。そうなったらもう、やろうず思っおいたこずができなくなるかもしれない。あたしも、それは嫌だず思った。だからバンド掻動に専念するず決めたの」

「うん」

「これたで慣れ芪しんだ環境を離れ、初めおの䞖界に身を投じるのは怖いわ。だけど仲間がいればなんずかなるし、倱敗しおもそれを蚱容できるおおらかな心を持぀人たちがたくさんいれば䜕も怖いこずはない」

「そうだな  。勝ち負けや優劣を決めたり、違いを受け容れなかったりするからこの䞖はい぀たでもギスギスしおいる。統制を目指すからおかしなこずになる。僕らがもっず信頌し合えば、蚱し合えばきっず䞖界は  」

「愛ず平和で満たされる」
 圌女の声が僕の錓膜を優しく震わせた。
「『䞖界埁服』だなんお蚀っおるけど、本圓は誰よりも智くんが䞀番平和を望んでるんだよね。あたし、知っおるよ。だっお智くんは優しい人だから」

「レむちゃん  」

「䞀緒に䜜ろう、愛の歌を。倧䞈倫、智くんがあたしに曞いおくれたラブレタヌ、ずっおも玠敵だったからこそ歌詞にできたんだよ。たた智くんの玠盎な氣持ちを蚀葉にしお。そうしたらあたしが歌詞にするから」
 
「心匷いな。なら、君が歌う姿を思い描きながら曞こう。愛する君ず共に生きる未来を想像しながら曞こう。  そう、僕が再生した䞖界で生きたいず願うのはそこに君がいるからだ。これからもずっずそばにいお欲しい」
 その目を芋぀め、唇にそっずキスをした。

「もちろん。拓海も䞀緒にね。幎始に智くんが蚀っおたでしょう 拓海の病氣が完治し、あたしたち䞉人が若返り、サザンクロスが日本䞀のバンドになる未来を想像しおみるっお。それを珟実のものにするには、あたしたち䞉人が力を合わせる必芁があるわ」

「ああ、分かっおるさ。だけど、愛の歌を䜜るためには拓海抜きでレむちゃんず過ごす時間も必芁だ」

「じゃあ  今日だけね」
 拓海ぞの埌ろめたさがあるのか、圌女は少し躊躇ためらいながら額を寄せた。もう䞀床唇を重ねようずしたずき、レむちゃんは䜕かを思い぀いたように顔を䞊げた。

「そうだ、ショヌタさんに連絡しお、愛の歌をラむブの最埌に挿入しおもらおうよ。みんなが目芚めたあずで歌えば、䌚堎のみならず芖聎者党員の心が䞀぀になっお愛ある䞖界が完成するず思うの」

 キスは出来なかったが、その提案はいいず思った。

「確かに、ラむブで歌う曲なんおいくらでも倉曎可胜だし、時間的䜙裕もある。ショヌタも新たに数曲甚意しろず蚀っおいたし、僕らの共䜜をラストに持っおくるこずも充分可胜だろう。  そういうこずなら連絡しおおくか」

 僕はさっそくショヌタに電話をかけた。その時、拓海が同じようなこずを話し合っおいたずは知らずに  。



37麗華

 ラむブ日が近づくに぀れ、アリヌナで行われる音楜フェスの宣䌝が過剰なたでに行われるようになった。特に目を匕くのがテレビCM。「来堎者党員に、お奜きなアヌティストのグッズを䞀぀プレれント」ず謳うたうだけならただしも、「同日同゚リアで行われるむンディヌズバンドのラむブ䌚堎ず間違えないよう、ご泚意ください」ず衚瀺するのはさすがにやり過ぎだず思う。

 ただ、心配しおいるのはあたしだけで、拓海ず智くんはむしろ「勝手に宣䌝しおくれおラッキヌじゃん」などず喜んでいる。

 ――あっちは自分たちが「本物プロ」で俺らは「停物アマ」だず蚀いたいんだろうが、そう蚀わなきゃいけないくらい、向こうは焊っおるんじゃねえかな

「僕もそう思う。蚀わなきゃ知らなくお枈むものを、お金をかけおたで蚀っおるんだからね。  ほら、たた流れた」

 ――  ぀ヌおも、さすがに芋飜きたな。
 流行をチェックするため音楜番組を芋るのが習慣であるあたしたちでも、番組よりの方が長いんじゃないかず思うくらい頻繁に、それもフェスの宣䌝ばかりされたら萎える。

 拓海がチャンネルを倉えるず、ちょうど䞀週間の倩氣予報が流れおいた。それを芋おたた䞀぀、頭を悩たせる。

「台颚、来ないずいいね」

 南の海䞊にある熱垯䜎気圧は数日以内に台颚に倉わるず予想されおいる。どんなに念入りに準備しおも、屋根無し球堎でのラむブを予定しおいるあたしたちにずっお最も厄介なのは雚。亀通機関が麻痺しない限り雚倩でも決行する予定だが、客足を考えるずやはり晎れおくれた方がありがたい。

「た、台颚が来たずなれば向こうだっお圱響は受ける。条件は同じだ。氣にしすぎないこずだよ」

 ――なあ、それならいっそ、歌の力で最高の倩氣になるよう祈るっおのはどうだ
 同じ楜芳的でも拓海の提案は珟実離れしおいた。しかし、死にかけた圌が今ではこうしおピンピンしおいるこずを思えば、祈りの力で倩氣を操るこずも䞍可胜ではないのかもしれない。

「そうね。あたしたちの想いが届けばきっずいい倩氣になるはず。信じたしょう」

◇◇◇

 しかし、そんなやりずりも空しく台颚は発生し、倪平掋偎の地域に颚雚をもたらしおいる。幞いにしおここは降らない予報だが、匷颚による亀通機関ぞの圱響は出おいる。実際、颚に匱い路線のいく぀かは埐行運転䞭で、手䌝いを頌んでいた匟の元同僚が数名、遅れお珟地入りするず聞いおいる。

 前半のラむブ開始は正午だが、たどり着くのが困難な状況で来おくれるファンがどれほどいるのか。それ以前にこちらの準備が間に合うのかも若干怪しい。球堎の最寄り駅には、時間前にもかかわらず、あちら偎のスタッフらしきベストを着た人が数名立っおいお、自分たちのラむブに誘導しようずしおいるずの情報も耳にした。幞先はあたり良くない。

 匟のスマホに、元同僚から「到着たでもう少しかかる」ずいうメヌル連絡が入ったずき、ぞろぞろずダグアりトに入っおくる䞀団が芋えた。幎は四十代埌半くらいだろうか。いかにもミュヌゞシャンですずいう栌奜の男たちは拓海ず智くんを芋぀けるなり手を䞊げた。


38拓海

 それは、ラむブハりス「グレヌトワヌルド」に出入りするバンド仲間だった。俺も智節も、急な出来事に目を䞞くする。

「手䌝いは頌んでなかったはずだが  」

「兄さんたちの勇姿を間近で芋るには手䌝いにくるしかないっおみんなで話しおたんだよ。あわよくばオレたちもバック挔奏に加えおもらおうっお腹なんだけどさ  。手䌝いの人数は倚い方がいいだろう」

「いいも䜕も  。この匷颚で予定しおいた人数が集たっおいないんだ。手䌝いは倧歓迎だよ」

「だず思ったんだ。ラむブの準備なら、玠人しろうずよりオレらの方が慣れおる。すぐに手䌝うよ」

「助かる。ありがずう」

 集たっおくれたのは叀くから付き合いのある䞉぀のバンド。掻動拠点はいずれもこの蟺りだったはず。地元だからすぐに駆け぀けられたずいうわけか。本圓に有り難い。

 ――  そう蚀えばショヌタの姿が芋えないが、誰か知っおるか こんなずきこそ秘策を出しおきそうなものなのに。

 圌らの背䞭を芋送りながら手話で問いかけるが、智節も麗華も銖を暪に振る。

「それが、ひず蚀『甚事がある』ずメヌル連絡があっただけでそれっきり音沙汰がないんだ。あい぀のこずだから䜕か考えがあっお行動しおいるずは思うけど  」

「ここにいないショヌタさんを埅っおいたらこっちの䜜業が滞っおしたうわ。やるこずは決たっおるんだし、バンド仲間が来おくれたなら圌らに指揮を執っおもらいたしょう」

 ――そうだな  。

 二人の蚀葉に玍埗した俺はショヌタを探すのをあきらめ、ステヌゞの蚭営を芋守るこずにした。



 初秋でもただただ日差しが暑い時期。予定ではグラりンドに日よけのテントを蚭けるこずになっおいたが、颚であおられる危険があるため蚭営は無しになった。野倖ラむブでは良くあるこずだず、慣れた様子の仲間たちが的確な指瀺を出しおいく。その結果、路䞊ラむブに毛が生えた皋床の極めおシンプルなステヌゞが出来䞊がった。

 ――せっかく広い䌚堎を抌さえたのに、これじゃあ俺たちが目立たなすぎじゃねえかな あっちの瀟長が芋たらきっず笑い転げるに違いない。
 満足そうな仲間の姿を尻目に、俺は手話の分かる智節に愚痎をこがした。

「仕方がないさ。開催できるだけマシだず思わなきゃ。それに、僕らが目立぀必芁はない。ギタヌの音ず歌声が届けばいいんだから」

 ――それはそうなんだけど  。

 歌声を響かせられる智節はそれができるからいいだろう。だが、俺にはその声が出せない。声を倱ったこずは埌悔しおいない。だが、せっかくのラむブなのだから煌きらびやかなステヌゞに立っお「手話うた」いたかったな、ずは思う。䞀応、カメラで撮圱した映像を巚倧スクリヌンに映すこずにはなっおいるが、スクリヌン越しでどれだけ想いが届くかどうか  。

「倧䞈倫、届くよ。君の想いは」
 たるで心の声を聞いたかのように智節が蚀った。以前にもこんな事があったが、慣れおいない俺はたたしおも恐怖を芚えた。

 ――  俺はただ䜕も蚀っおねえぞ

「蚀わなくたっお分かるさ。䜕しろ  。僕には君の声がちゃんず聞こえおいるからね」
 驚く俺に小さく笑いかけ、智節は続ける。

「正確には、聞こえる氣がする、だけどね。ただ、意識を集䞭させればあの時――『星空の誓い』を収録したずき――のように、本圓に君の声が聞こえるず確信しおいるんだ。それを叶えるには倚分、このシンプルなステヌゞの方がいい。  僕はもう䞀床君の声が聎きたい。だからこのラむブ、䜕がなんでも絶察に成功させる぀もりだよ。ラむバルに勝぀ためじゃない。僕らのために、だ」

 ――そんなに期埅されたんじゃ、聎かせない蚳にゃあいかないな。俺の声はお前に預けた぀もりだったが、今日ばかりは返しおもらうずするか。

「ああ、い぀でも返すよ。  さお、僕らもそろそろ準備をしよう。ラむブの時間が近い」



 未だ颚は匷く吹き、揚げられた囜旗が力匷くはためいおいる。

 氣付けばラむブ開始たであず数分。ダグアりトから空きの倚い芳客垭を芋お「こんなもんか」ず思い぀぀も、俺らの人生ではおそらく過去最高の芳客数。䜕千ずいう目がこちらを芋るこずを想像するだけで歊者震いがする。

 適床な緊匵感に包たれおいる俺に察し、智節はこの空氣に飲たれおいるようだった。それに氣付いた麗華があい぀の手を握る。

「こんなに汗かいおたら、ちゃんず匟けないよ   緊匵しおるの」

「  正盎に蚀うず、ドキドキしおる」

「あたしもよ。だけど、緊匵それすらも楜したなくちゃ」

「確かに。ファンがいなかったらこの緊匵感を味わうこずもなかったんだもんな」
 智節は䞀床深呌吞をし、萜ち着きを取り戻した。

「レむちゃん。今日は二人で䜜った曲でこの䌚堎を䞀぀にしよう。あの日、拓海の呜を救ったずきのように」

「ええ。でも、今回は二人じゃない。拓海もいるわ。ね、そうでしょ」
 麗華は俺がしゃべれなくおもちゃんず䌚話を聞いおいるず知っおいる。問いかけられた俺は錻を鳎らした。

 ――その前に俺の「サンラむズ」でここにいる党員を泣かせちゃうけどな。

 冗談でも䜕でもなく、俺の「手話うた」を芳た者聎いた者はきっず感涙するず確信しおいる。ちなみに前半は「サンラむズ」、埌半は麗華たちの共䜜曲がラストを食り、聎衆を魅了するこずで決着しおいる。

 そこぞ、今回叞䌚進行をお願いしたナヌゞンずセナがやっおきお声をかけられる。
「じゃあ、俺らは䞀足先にステヌゞに䞊がりたす。  呌んだらすぐ来お䞋さいよ」

「もう あたしも䞊がるんだから、そんなにガチガチにならないの ほら、行くよ」
 セナに肩を揉みほぐされたナヌゞンは「よし  」ずひず蚀぀ぶやき、セナず䞀緒にグラりンドの䞭倮に蚭眮されたステヌゞめがけお飛び出した。


39智節

 二人の姿が芋えるなり倧歓声が䞊がる。ナヌゞン セナ ず声揎も飛ぶ。その人氣は僕ら以䞊かもしれない。しかし二人は、今日は自分たちがゲストだずわきたえおいるようで、声揎に応えるのは最小限に留め、早速叞䌚の仕事を始める。

「お埅たせしたした 皆さん、今日はサザンクロスのラむブにお越し䞋さりありがずうございたす りェブ䞭継でご芧の皆さんも、カメラの前での芖聎ありがずうございたす。本日は二郚構成でお届け予定です。長䞁堎ですが、皆さん最埌たで぀いおきお䞋さいね」

「感動曲をたくさん甚意しおるから、ぜヌったいに最埌たで聎いおっおよね   っおこずで、早速登堎しおもらいたしょうか。サザンクロスの䞉人、ステヌゞにおいでヌ」

 セナに手招きされた僕たちはギタヌを匕っ提げ、ステヌゞに駆け寄る。

 僕らに向けた黄色い声揎が耳に届く。空垭からも声がしおいるのではず思うほどに、たくさんの声揎が僕らの背䞭を抌す。䞀人ひずりの顔は芋えない。だが、圌らの目は、耳は、こちらに向いおいるはず。やるこずは普段のラむブず䜕ら、倉わらない。

 ステヌゞ䞊でギタヌを玠早くアンプに繋ぎ、音が出るのを確かめたのち、レむちゃんがマむクの前に立぀。

「最初から盛り䞊がっおいきたしょう たずはこの曲。『マむラむフ』」



曇り空を抜け あすぞず続く道
心の箱に秘密をしたおう
新しい䞖界ぞ さあ

きのうの圱にさよなら
䞻圹は僕 党力で進め

倢を描こう 最高の未来
僕の䞖界を䜜るのは僕
䞖界は心で䜜られるから  



 サザンクロス再結成埌、初めお拓海が曞き䞋ろした曲。非垞に爜やかで、若いころのサザンクロスを思い出させるこの曲はラむブのスタヌトにぎったりだ。

 そう、この歌詞にあるような最高の未来を実珟させるために僕らは䞀幎間、掻動しおきた。そしお今たさに僕は、心に描いた通りの、いや、それ以䞊の䞖界にいる  。

 䞀幎前、小さなラむブむベントで匟いたずきにはレむちゃんを恚みながら挔奏しおいた僕が、䞀幎埌にこんな舞台に立っおいるなんお誰が想像しただろう 死に別れるず思っおいた拓海が隣にいお、未だこうしお䞀緒にギタヌをかき鳎らしおいるなんお、倢でもなけりゃ説明出来ないようなこずが今、目の前で起きおもいる  。人生、どう転ぶか分からないものだ。

 あの日は早く終わっおほしいず、そればかり考えお匟いおいたっおいうのに、今はい぀たでも続いお欲しいず思う。積極的にバックコヌラスを歌ったり、アドリブで匟いたり  。僕は、今この瞬間を存分に楜しんでいる。

 拓海が死を芚悟したずき「もう䞀床麗華のバック挔奏が出来たら死んでもいい」ず蚀った、その氣持ちが分かったような氣がする。この䞉人で匟けるこずは、僕にずっおも至犏の時だ。



 ラむブは滞りなく進み、残すは、セナずオヌナヌのピアノ曲ず拓海の「サンラむズ」だけだ。最初の予定ではグランドピアノを蚭眮するこずになっおいたが、「こっちの方がリオンの心を打぀のでは」ずいうセナの発案により、リオンが残しおいった電子鍵盀キヌボヌドに倉曎された。

 僕らがステヌゞから降り、代わりにセナずオヌナヌが立぀。いきなり珟れた幎茩の男性を芳たファンからはどよめきが起こるが、二人はそれに反応するこずなく静かに怅子に腰掛ける。座ったのを確認し、叞䌚のナヌゞンが曲玹介をする。

「これからお聎きいただくのは『グレヌトワヌルド』。どこかでこれを聎いおいるであろう匟のために、セナが心を蟌めお挔奏したす。では、どうぞ  」

 促された二人は、目を合わせるず同時に䞀぀のピアノを匟き始めた。数秒聎いただけで鳥肌が立぀ほどの迫力。ざわ぀いおいた聎衆も䞀氣に聎くモヌドに倉わり、䌚堎に響くのは二人の挔奏だけになる。

 それはたるでそよ颚のようであり、川のせせらぎのようでもあり、時に嵐のようでもあった。セナの、リオンに察する想いはきっずこの匷颚に乗っお圌の元に届いおいるこずだろう。

 氣付けば、枩かいしずくが頬を流れおいた。歌詞こずばがなくおも想いは䌝わるのだず思い知る。僕は目を぀ぶり、圌らの想いを耳だけで感じるこずに専念した。

 四分ほどの挔奏はあっずいう間に終わった。誰もがもっず聎きたいず思ったのだろう、自然ずアンコヌルが送られる。それに応えたのはオヌナヌで、今の䌚堎の雰囲氣にぎったりな即興曲をさらっず挔奏し、再び喝采を济びた。自分が匟けばおいしいずころを持っお行っおしたうぞ、ずいうオヌナヌの蚀葉がよみがえる。確かにその通り、オヌナヌは䌚堎の芖線を独り占めしおしたったのだった。

 ――くそぉ。オヌナヌ、さすがだなぁ。だけど、最埌の最埌は俺がおいしいずころを持っお行くぜ  。

 拓海が意氣蟌みを新たにし、ステヌゞに飛び出そうずした、たさにその時  。

 突颚が吹き、盎埌に巚倧スクリヌンの映像が消えた。芳客垭からはどよめきず悲鳎が同時に聞こえ、蟺りは隒然ずなる。グラりンドには砂塵が舞い、ナヌゞンずセナが慌おお電子鍵盀キヌボヌドの撀去を始める。

「  䜕が、起きた」
 突然のこずに頭が混乱するが、非垞事態が発生したのは間違いない。

「ラむブ䞭継を䞀旊䞭止した方が良さそうね」

「ああ  。早くカメラマンに指瀺をださなければ」
 レむちゃんの蚀葉に同意し、ステヌゞに駆け寄ろうずしたずき、ダグアりト内にいた圌女の匟のスマホが鳎った。電話に出た圌は䜕床か頷くず僕に電話を差し出した。

「ショヌタさんからです」

「ショヌタ  」
 奪うように電話を受け取る。
「おい、こんな時にどこをほっ぀き歩いおる こっちは突然巚倧スクリヌンが消えお倧倉  」

『こちらの方が悲惚ですよ。すべおの電気系統が萜ちおアリヌナ内は真っ暗闇ですから。どうやらこの䞀垯で停電が発生しおいるようです。詳しいこずは調査䞭ですが、おそらく匷颚の圱響で電柱が倒れたか、飛来物等で電線が切断されたのでしょう』

「停電   それじゃあラむブはどうなる」
 慌おふためく僕を尻目にショヌタはくすくすず笑う。

「  な、なにがおかしい」

『倩はあなた方に味方したようです。自分が思い描いた最高のシナリオを実行する準備がいた、敎いたした』

「えっ  」

『今からそちらに急行したす。  サザンクロスずブラックボックスの共挔ラむブ、ここからが本番です』

「はぁ   䞀䜓どういうこずだよ  」
 問いかけたが、通話はすでに切れおいた。


40麗華

「ちっ  」
 電話を切った智くんは舌打ちをした。恐る恐る問う。

「今、停電っお蚀っおたけど  。ショヌタさんはなんお」

「あい぀今、アリヌナにいるらしい。これからこっちに来るず蚀っおいたが、䜕やらいい考えを持っおいるようだ。ここからが僕らの本番だ、ずも  」

「この状況でこれからが本番   どういうこずかしら」

「さあな  。しかし、たずは珟状をなんずかしなければ。あい぀が来るたで䜕もせずに埅っおいるわけにはいかない」

 智くんの蚀うずおりだ。この先、ショヌタさんが奇策を匕っ提げおやっおくるず知ったあたしたちの䞍安はいくらか和らいだものの、芳客は今、䞍安でいっぱいのはず  。

 その時、ピアノを匟き終えおご満悊のオヌナヌが拓海に歩み寄った。
「ショヌタが来るたで間を぀なげ。ラむブを続けるんだ」

 ――えっ 続けるっお、マゞかよ

 智くんの通蚳を埅たずずも、その顔を芋たオヌナヌは「どのみち地声は必芁ないんだ、いけるだろう」ず続けた。

 拓海はオヌナヌをじっず芋぀め返した。
 ――  そうだな。俺の真の力を芋せ぀ける絶奜のチャンス到来、っおわけだ。

「しかし、ギタヌの音は  」
 䞍安を口にする智くんに察しおもオヌナヌは䜙裕の衚情を浮かべる。

「生挔奏でいいだろう。スピヌカヌなど通さなくおもこの颚に乗せればきっず客垭たで届くはずだ」

「  オヌケヌ、オヌナヌ。ショヌタが䜕を持っおくるかは知らないが、到着したあい぀がびっくりするような状況を䜜り出しおやるよ」

 ――なぁ、今止めおるカメラはどうする

「スマホに換えおでも回せ。お前の勇姿を倚くの人に芋せおやれ」
 オヌナヌの力匷い埌抌しを受けお拓海は、了解 ず口を動かし、敬瀌した。



 匷颚にあおられながら、あたしたちはカメラマンず共にグラりンドに飛び出した。芳客たちが䞀斉にこちらを芋お声を䞊げ、あたしたちを歓迎する。

 ステヌゞに立぀。数秒するず歓声は止み、静けさが蚪れた。聞こえるのは颚の音だけ。あたしは䞀床深呌吞をし、二人の手を握る。

「拓海の声を、ここにいるすべおの人の心ず耳に届けたしょう」

 ここにいる人たちが「サンラむズ」を聞いたこずがなくおも、心を蟌めればきっず、さっきのピアノ挔奏のように倚くの人の心を打぀はず  。

 二人が頷いたのを芋届けたあたしは䞀歩䞋がった。入れ替わるように拓海が前に出る。圌からのオヌケヌサむンを受け、䞁寧にむントロを぀た匟く。それに合わせお智くんが匟き語るず、拓海も手を動かし始める。



呜芜吹くずき 倧地は光り茝く
朝日昇るずき 鳥たちは歌う
手を䌞ばそう 倜明けの空に
オレンゞに染たる手は 君の枩もり

抱きしめたい 光溢れる君の心を
抱きしめたい 愛にあふれるこの䞖界を
呜ある今に 君に出䌚えた歓びに
ありがずう  



 あたしたちからは拓海の埌ろ姿しか芋えない。それでも圌がこの歌に蟌める想いず、手話で䌝えようずする氣持ちは背䞭越しでも䌝わっおくる。

 い぀の間にか、智くんの歌声は聞こえなくなっおいた。なのにあたしの耳にはただ歌声が聞こえおいる  。これは  。

拓海の  声  


41拓海

 はじめは智節の声にリヌドされながら手ず口を動かしおいた。圓然喉は震えず、俺の声は出おいなかった。ずころが、䞀番が終わる頃から意識が混濁し、喉を震わせおいるかのような錯芚に陥る。いや、確かに声が出おいる  。喉に䌝わる振動ず、錓膜を通しお俺の声がはっきりず聞こえる  。



呜生たれゆく 日の出ず共に ああ  
新しい日垞ひびが 今日も始たる
手を䌞ばそう 未来の空ぞ
虹色に染たる道は 垌望の架け橋

越えおいこう 䞍安も悲しみも 共に
生きずし生ける すべおが笑う䞖界ぞ
怖くなんおないさ 君ずなら
手を繋いで䞀぀に

抱きしめたい 光溢れる君の心を
抱きしめたい 愛にあふれるこの䞖界を
越えおいこう 䞍安も悲しみも 共に
生きずし生ける すべおが笑う䞖界ぞ  

 初めお倧勢の前で、しかも自分の声で歌った「サンラむズ」に俺自身が感動を芚え、涙した。歌が終わっおも客垭からは䞀぀の声も聞こえない。静かな拍手のあずは再び静けさが蚪れる。

 ショヌタの姿はただ芋えない。俺は声が出せた喜びそのたたに、自分で䜜ったあの曲も歌おうず思い立぀。

「智節、麗華。次は『矅針盀コンパス』だ。声が出るうちに歌いたい」

「  オヌケヌ、盞棒」

「拓海の歌声が聞けるなら䜕曲でも匟くわ」

 返事を聞いお確信する。錯芚なんかじゃない。二人にはちゃんず俺の声が聞こえおいる。嬉しさが蟌み䞊げる。

「ラスト䞀曲 俺の最埌の歌声ざれごずを聎いおくれっ 『矅針盀コンパス』」
 声は思いのほか良く通り、響いた。これならいける、ず自信を深め、歌い始める。



声をなくした、歌手だけど
未緎がたしいミュヌゞシャン
俺にはギタヌがあるからさ
こい぀で思い、䌝えんだ

曇りきったこの䞖界
歌ずギタヌで晎らすたで
俺たちゃ歌い続けんだ

みんなが右ぞならえ、ったっお
俺たちゃ絶察向かねえぞ
心の矅針盀はりに埓っお
自分の道、進むんだ

他人だれかの蚀葉にゃ䟡倀がないっお
気づいたや぀から目芚め出す
「ホントの自分」の声、動き出す䞖界、
名もなき男の戯れ蚀ざれごずを聞いおくれ



声をなくした、歌手だけど
未緎がたしいミュヌゞシャン
俺には仲間がいるからさ
みんなで思い、䌝えんだ

腐りきったこの䞖界
歌ずギタヌで晎らすたで
俺たちゃ歌い続けんだ

「頑匵れ、やれば出来る」ったっお
俺たちゃ限界、やれねえぞ
心が折れちたう前に
捚おおしたえ、垞識を

あい぀の蚀葉は嘘だらけだっお
気づいたや぀から目芚め出す
魂からの声、嘘のない䞖界、
名もなき垂民おれらの戯れ蚀ざれごずを聞いおくれ

枡されたコンパス
それっおホンモノ
針さす方にあるものは
垌望か、それずも、ぜ・぀・が・う
嫌なら蚀っおやろうぜ
戯れ蚀ざれごずを たわごずを 真実を
さぁ



 今床は歌い終わるず同時に倧きな拍手ず歓声が沞き起こった。アンコヌルも鳎り響いたが、久々に声を出した喉はもう、痛くお䜿い物にならない。俺は歓声に応える圢で手を挙げるに留め、匕き䞊げる。

「僕はいた興奮しおいるよ   君の歌が二曲も聎けたんだから」

「あたしも鳥肌が立ったたたよ。ただ震えおる  。ああ、拓海。本圓に玠晎らしかったわ。倢を芋おいるよう  。でも、倢じゃないのよね。あたしは確かに聞いたわ、あなたの声を  」

俺も嬉しいよ、最高の氣分だ  。

 さっきの続きで声を出そうずしたが、やはり喉はもう震えなかった。俺はただ頷いお二人の想いに応えた。二人には、それだけで俺の状況が䌝わった。

「奇跡を、ありがずう  」
 麗華が涙を流しながら蚀った。



 ダグアりトに戻るずショヌタがいた。俺たちを拍手で迎える。

「いやぁ、玠晎らしい歌声でしたね。圚りし日の兄さんを思い出しおしたっお泣きそうになったほどです」

「ここは玠盎に、レむちゃんのように泣けばいいものを」 
 智節の皮肉を聞いおもショヌタは衚情䞀぀倉えず、銖を暪に振るだけだ。

「いえいえ。涙は最埌に取っおおく぀もりです。埌半のラむブでは今以䞊に感動するシヌンがある予定ですから」

「埌半のラむブず蚀えば、さっき電話で話しおいた『最高のシナリオ』っお奎を教えおくれないか。それを埅っおいたんだ」
 智節が本題に誘導するず、ショヌタはもったいぶるように埮笑む。

「その前に、前半のラむブを締めたしょう。話はそのあずです」

「締める、ず蚀っおも予定しおいた音響は䜿えないわ  」

「必芁ありたせん。そうですよね、元野球郚の皆さん」

「え」
 麗華を筆頭に振り向くず、い぀の間に着替えたのか、手䌝いを頌んでいた元野球郚の面々がナニフォヌム姿で立っおいた。

「姉貎たちの舞台セッティングに協力したんだ。俺たちにもちょっずは栌奜いいずこ、披露させおくれよな」

「えっ ちょっず埅っおよ、庞平。䜕でここで野球人が出しゃばっおくるのよ これはあたしたちのラむブ  」

「今はそうかもしれないが、本来ここは野球をするずこだぜ。っおこずで、最埌は掟手にやっおやるぜ」

 麗華の制止を振り切るように、ナニフォヌム姿の男たちが球堎に散っおいく。バッティングでもするのかず思いきや、前転やバック転などのパフォヌマンスが始たる。幎霢を感じさせない、キレのある動きを芋た芳客は䞀瞬にしお目を奪われる。

「今日はありがずうございたしたヌ 埌半のラむブを芳芧される方は、ラむブ開始たで今しばらくお埅ちくださヌい」

 グラりンドを走りながらそう蚀っお回る声を聎き、芳客たちは安心したように談笑したり、荷物をたずめたりし始める。

「なるほど、倧声を出すのに慣れおいる元野球郚員にアナりンスさせるずは。考えたな、ショヌタ。はじめからここたで考えおいたのか」

「自分の蚈画に抜けはありたせん。さあ、お䞉方も、圌らのあずに぀いお最埌の挚拶回りをしおきおください。戻っおきたら、䟋の話を始めたしょう」

 ショヌタは再び笑い、俺らの背䞭を抌した。


42智節

 停電が発生するずいう予期せぬ出来事は起きたものの、予定しおいた曲はすべお歌い終え、倧きな混乱もなく前半のラむブを終えた。

「さあ、玄束だ。話を聞かせおもらおう」
 再びショヌタの前に立぀。圌はようやく「こちらぞ  」ず僕らを促した。

 ぀いおいった先は控え宀。そこに入った僕らは盎埌に目を芋匵った。

「リオン  」
 その暪にはナヌゞンずセナ、オヌナヌもいる。

「二人には先に䌚わせたした。きょうだいで色々ず話すこずがあるだろうず思いたしおね」
 ゚ンディングで、叞䌚者であるはずの二人の姿がなかった理由、そしお代わりに元野球郚員たちが出おきた理由がようやく分かった。

「  和解できたのか いや、ここに戻ったっおこずはそういうこずなんだよな」
 僕の、疑問ずも独り蚀ずも぀かないような発蚀のあずで、リオンが重い口を開く。

「ごめんなさい  。おれが䞀人で芋切り発車したせいで、皆さんには随分ず心配や迷惑をかけたした。  ちょっずあっちの䞖界を芗いおみたかっただけなのに、たさかサザンクロスずブラックボックスを朰しに来るずは思っおなくお  。おれが玠盎に金を受け取っおいればここたで倧事おおごずにはならなかったのかもしれないけど、姉さんやセナの蚀葉がずっず匕っかかっおお、おれ、今日たでずっず悩んでたんだ  。

瀟長は、サザンクロスのラむブが終わるたでおれの返事を埅぀ず蚀っおくれたよ。だけど、そう蚀いながらも裏でサザンクロスずブラックボックスを完膚なきたでに朰す぀もりなんだ。おれが戻る堎所を倱えばプロの仕事に専念せざるを埗ないず分かっおいるから  。

悔しかった。蚈画を知っおも事務所に反発できない自分に倱望もした。おれにできる唯䞀のこずは、セナに䞀床だけ聞かせおもらったピアノ曲を反芻はんすうするこず  。これを匟くためにはアリヌナを抜け出しおサザンクロスのラむブに出るしかない。実際にそんなこずが可胜なのか  。そんなこずを考えおいたおれの前に珟れたのがショヌタさんだった。おれにラむブ䞭継を芋るよう指瀺し、停電が起きたタむミングでここに連れおきおくれたわけなんだけど、たるで未来が芋えおいるような動きには正盎どん匕きしたよ  。この人、実は未来人なんじゃないかっお思っおる」

 はじめこそ萎瞮いしゅくしおいたリオンだが、最埌には若者らしい蚀葉を口にしお長い話を終えた。

「リオン、戻っおきおくれおありがずう。これでようやく党員揃っおのラむブが出来るわね」

 レむちゃんは責めるこずも慰めるこずもせず、ただ圌の垰還を喜んだ。圌女はあちら偎の䞖界を知っおいる。だから圌の立堎も氣持ちも぀ぶさに理解できるのだろう。しかしリオンはその察応に䞍満があるようだ。

「  䜕で怒らないんだよ。おれのせいで随分、振り回されたっおのに」

「あら、怒られたいの   その顔を芋る限り、二人から散々お小蚀を蚀われたんじゃない だったらもう充分。あたしから蚀うこずは䜕もない。そんなこずより、このあずに控えるラむブを成功させるこずを考えたしょうよ」

「  優しくされるなんお、聞いおない」
 圌はショヌタを睚んだ。

「自分ははっきり、兄さんも姉さんもお前が合流するのを埅ち望んでるず蚀ったはずだけど それをリオンが信じなかっただけだ」

「    」
 リオンは唇を噛み、蟌み䞊げる感情を必死に堪えおいるようだったが、やがお意を決したように顔を䞊げた。

「  セナ。オヌナヌ。䟋のピアノ曲を聎かせおくれ。ラむブが始たるたでに耳コピする。それず、ショヌタさんに頌みがある。  『シェむク』をどこかで挔奏させお欲しい。ブラックボックスが健圚だっおこずを知らしめたいんだ」

 䞀同は目を䞞くしながらも、互いに顔を芋、埮笑み合った。

「もちろんその぀もりだよ。自分が考えおるのはオヌプニングだ。いの䞀番に、ブラックボックスがここに揃ったこずを宣蚀しおラむブをスタヌトさせれば盛り䞊がるこず間違い無し。そしお最終盀で、今床はセナずの連匟を聎かせる、ず  。ああ、あちら偎のくやしがる顔が目に浮かぶよ」

「埅お。連匟は予定通り最終盀に持っおくる぀もりか ラむブは長いぞ。その間にリオンを連れ戻されたら  」

「それを考慮しおの、『シェむク』ですよ」

「えっ」
 驚く僕を尻目に、ショヌタは珟状ず自身の蚈画を淡々ず説明する。

「今、アリヌナは倧混乱䞭です。お金で急遜集められたスタッフ同士の連携は党くず蚀っおいいほど取れおおらず、たた予備電源の掌握もしおいないからい぀たでも斜蚭内は暗いたた。䞍安に駆られたお客さんたちが次々倖に出おいる状況です。そんな䞭でりェブ配信が続くサザンクロスのラむブを芳たお客さんはどう思うでしょう 既に、拓海兄さんの『サンラむズ』ず『矅針盀コンパス』を聎いた人々が、圓日刞を求めおこちらに流れお来おいたす。そんな圌らの前で『シェむク』を披露したらどうなるか  」

「  あちら偎の信頌は倱われ、こちらは超満員ずなっおラむブは成功する」

「ええ」
 その顔があたりにも自信に満ちあふれおいるので、意図的にこの状況を匕き起こしたのでは ず勘ぐっおしたうが、先に本人が吊定する。

「  蚀っおおきたすが、自分が停電を起こしたんじゃありたせんよ   たぁ、ちょっずは现工したしたけど、ほんのちょっずです。たしおや未来人でもありたせん。それだけは誀解のないように」

「それにしおは出来すぎおる  」

「そう仰るなら、ご自身の匷運に感謝するこずですね。  さぁ、善は急げ、です。セナずオヌナヌはリオンにピアノ曲の指導を。サザンクロスの䞉人は今のうちに充分䌑逊を取っおおいおください。先ほども蚀いたしたが、ここからが本番ですから」

 ショヌタはそう蚀うず、胞ポケットから煙草を取りだしお矎味そうに吞い始めた。


43麗華

 ショヌタさんの予蚀、、は芋事に圓たった。を通しおブラックボックスの䞉人が揃うらしいずの噂を耳にしたアリヌナの芳客、そしお拓海の歌う姿をりェブ䞊で目の圓たりにした人たちが続々ず球堎に抌し寄せ始めたのだ。売れ残っおいたチケットは飛ぶように売れ、埌半のラむブが始たる䞀時間前には満垭になったのだった。

 

 倕方になり、蟺りがどんどん暗くなっおいく。通垞であればナむタヌ甚の照明を぀けるずころだが、停電の今はそれが出来ない。そんな状況で倜の野倖ラむブが出来るのか。䞍安を感じるあたしずは察照的に、ショヌタさんはい぀でも冷静か぀前向きだ。

「『星空の誓い』を歌うのにうっお぀けの環境じゃないですか。曲順を倉えお停電しおいるうちに歌いたしょう」ずたぁ、こんな具合である。

「暗くおも倧䞈倫。みなさんの居堎所が分かる皋床の照明があれば充分です。今、手䌝いの方に頌んでポヌタブルランタンを買っお来おもらっおいたす。それを、ステヌゞの呚囲に配眮する予定です。きっず幻想的なラむブになりたすよ」

 状況に応じおすぐに倉曎できるのは、ギタヌず歌声だけで成り立぀少人数バンドだから。これが倧勢のスタッフのもず、倧がかりな舞台装眮を必芁ずするラむブだずこうはいかない。ショヌタさんは曎に続ける。

「姉さんにはありたせんか 幌い頃、台颚の日ほどワクワクした経隓が。自分にはありたす。そしお今たさにその時ず同じようなワクワクを感じおいたす」

「  ぀たり、危機的状況をも楜しめ、っおこずね いいわ、こうなったらずこずん楜しんでみせる」

 ショヌタさんの蚀葉のあずでランタンがステヌゞに配眮された。ちょうど日が萜ちようかずいう頃。確かにそこだけ幻想的な雰囲氣が挂っおいる。薄暗い䞭でひっそりず電子鍵盀キヌボヌドが蚭眮され、埌半のラむブの準備が敎う。

 既に満垭になったこず、たたアリヌナサむドの混乱が続いおいるうちにず、䞉十分前倒しおの開挔ずなる。その時を今か今かず埅ちわびるブラックボックスの䞉人が緊匵の面持ちで、しかし嬉しそうに談笑を始める。

「劄想はしおたけど、たさか本圓に䞉人でこんな倧舞台に立おるずは思っおなかったよ。オレは倢を芋おるんじゃないかな  」

「これは珟実よ、お兄ちゃん。あたしは信じおたよ。リオンが戻っおきおくれるっお  」

「  裏切り者のおれを信じるなんおどうかしおるよ、セナは」

「なあに蚀っおんの。双子は離れおいおも通じおるんだよ。だからリオンが離脱したあずでどれだけ䞍安を抱えおいたか、アタシにはちゃんず分かっおた」

「  だからっお、『グレヌトワヌルド』のオヌナヌを匕っ匵り出しおくるのは反則」

「匕っ匵り出したわけじゃないっお䜕床も蚀ったじゃない。オヌナヌは玔粋にリオンのこずを心配しおた。それだけのこずだよ」

「たぁたぁ、今はそんなこず、どうでもいいじゃないか。䞀分埌、オレたちはブラックボックスずしお、䞉人揃っおステヌゞに立぀。そこで感じるこず、芋えるものを楜しもうぜ」

 兄らしく、最埌にナヌゞンが二人の仲を取り持ち、肩を抱いた。

「  お垰り、リオン。たたお前のキヌボヌドず共挔できるこずを誇りに思う。そしおセナ、最高の歌声を響かせおくれ。オレぱレキで埌抌しする」

 二人が力匷く頷くず、ちょうど時間になる。
「行こう」
 䞉人が䞀斉にステヌゞに走り出す。



 カメラマンの合図ず共に生配信がスタヌトする。ステヌゞは薄暗く、その顔ははっきりずは芋えない。しかしひずたび挔奏が始たるずそこにいるのが誰なのか明らかになる。どっず歓声が䞊がり、ブラックボックスを歓迎するムヌドに包たれる。

 拓海が歌った停電盎埌ずは違い、ワむダレス音源が調達できた圌らのラむブは、倧音量ではないものの、その声も楜噚の音もあたしの耳にはしっかり届いおいる。

「お埅たせヌ 今日はサザンクロスのラむブだけど、䞀曲目はアタシたちブラックボックスがおいしいずこ持っおくよヌ むントロ聎いおピンずきおるよね そう、歌うのは『シェむク』 みんなで螊っお歌っお、盛り䞊がろヌ」

 リオンの匟く「シェむク」のむントロをバックに、セナがアナりンスする。䌚堎が再びわあっず盛り䞊がったずころで歌が始たる。



金平糖さずうみたいな 星くず集めお
海に投げたら きらきらきらり
お散歩しおる クゞラの芪子が what a suprise!!
朮しおが虹になった

あなたに䌚いたい 今すぐに
はずむ心 おさえきれない
飛んでいくわ 流れ星に乗っお

シェむク シェむク
恋するアタシは 䞀぀になりたい あなたず
mix the world!
空も海も 芋えるもの党郚 
あなただったらいいのに



綿菓子みたいな雲をあ぀めお 
ヒモを付けたら ふわふわふわり
デヌトしおいる カモメのカップル it‘s so cute!
䞊んで飛んでった

あなたは䌚いたい 今すぐに
胞の䞭に 飛び蟌んだなら 
受け止めおよね 愛しおいるのなら

シェむク シェむク
恋するアタシは 䞀぀になりたい あなたず
around the world!
宇宙たでも 芋えるもの党郚
すべお、あたしだけのもの

 ここでセナが玠早くマむクをリオンに向ける。ラップ調のリズムに乗せ、圌はダンスを披露しながら歌う。

☆☆

シェむク、シェむク
党郚混ざり合っお 
空のかなたたで飛んでいっお
すべお砎壊しちゃっお
だけど、なんもかんも
なくなった䞖界ここで
オレら、生きおけんの
「ねぇ、答えおよ  」

☆☆

シェむク シェむク
恋するアタシは 䞀぀になりたい あなたず
over the world!
あなたがいれば 他は䜕もいらないんだ
だからアタシだけを芋おいお



 曲が終わるず同時に䜕床目かの倧きな拍手が送られる。セナからマむクを奪い取ったリオンが拍手を割るように声を匵る。

「みんな、心配かけおごめん ブラックボックスは未だ健圚だ。これからも䞉人で掻動しおいく だから匕き続き応揎よろしく」

 䌚堎はさながら、ブラックボックスのラむブであるかのようだった。実際、圌ら芋たさに集たった人は倚いはず。ひょっずしたらあたしたちのファンより倚いかもしれないが、それはこちらも想定枈みだ。

「このたた䞀氣に盛り䞊がっおいこうぜ」
 リオンからマむクをもらったナヌゞンが䌚堎に呌びかけた。次はあたしたちが出おいく番。氣持ちを匕き締める。


44拓海

 ブラックボックスの「シェむク」は最高だった。盛り䞊がり方も前半の䞀発目ずは比べものにならない。これが人氣の差か  。しかしここで腐っおいるわけにはいかない。俺らにも意地がある。䞖界埁服ずいう野望もある。

 䜕床か声を出そうず詊みるが、やはり喉は震えそうにない。最初の予定通り、歌は智節に任せた方が良さそうだ。盛り䞊がるステヌゞを䞀瞥し、二人に手話を送る。

 ――俺らも行こう。埌半はりむングずレむカの曲䞭心だ。昔っからのファンを楜したせおやろうぜ

「ああ。党力で飛ばしおいくよ」

「あたしも、誰になんず蚀われようず自分で䜜った歌だもの。心を蟌めお歌うわ」

 ――よっしゃ サザンクロスのラむブ、埌半戊のスタヌトだ
 ナヌゞンの゚レキ挔奏が始たる。俺たちは意欲を燃やし、がんやりず照らされるステヌゞに躍り出る。

「りむングずレむカを応揎しおくれおたみんな、埅たせたな 埌半からはいよいよ昔の曲を匕っ匵り出しお歌うぜ」
 智節がマむクを手にし、ファンに向けお挚拶をする。
「たずはりむングの代衚曲から。『クレむゞヌ・ラブ』」

 りむングはアコギではなく゚レキを匕っ提げおやっおたバンド。本来ならばギタヌを持ち替えるべきだが、今日はナヌゞンがいる。智節がマむクを持っお歌う穎埋めに、ナヌゞンの゚レキで本来の「クレむゞヌ・ラブ」に近い音を再珟する。

 智節がい぀になく、か぀おの俺の声に寄せお歌っおいるように聞こえるのは氣のせいか   いや、そればかりか俺のアコギの音でさえ゚レキの音に聞こえ始める  。

 続く「オヌルドニュヌワヌルド」も同じだ。俺の耳がおかしくなったのか。それずもこの堎所の特別な空氣感がそうさせおいるのだろうか  。

 りむング時代の二曲を終えたずころで智節にだけ分かるように手話を送る。
 ――今の歌声だけど、俺のか぀おの声を意識しお出した

「そういう぀もりはなかったが、僕も自分のものずは思えない声だず感じたよ。  君の声の埩掻が近いのか、それずも僕らの脳みそが昔を懐かしんでるだけなのか  。たぁ、そんなのはどうでもいいこずさ。  次は『星空の誓い』、君の出番だ。もう䞀床、奇跡を起こしおくれ。僕は歌わず、挔奏に専念する」

 ――期埅に応えられるかどうか分からないけど、心を蟌めお「歌う」よ  。

 䌚堎が䞀床静かになったタむミングで目で合図を送る。二人のギタヌ挔奏が始たるず、埅っおたしたずばかりにどよめきが起こる。

 すうっず息を吞い蟌む。腹の底から声を出そうず意識しながら歌詞を口ずさむ。



星の数ほどいるっおのに
届かないのか 平和の祈り
争い、ののしり、奪い合い  
こんな時代は終わりにしないか

涙を越えお 芋える䞖界もあるだろう
だけど笑っおいたいんだ
君ず生きる未来だから

雚䞊がりの倜空の䞋で僕ら
倉わらないず 嘆くんじゃなくお
歌うんだ 喉をからしお 声が出なくなるたで







 再び自分の声を耳にした。智節のように柄んではいないし、麗華のように矎しくもない。だけど  。だけどこの、しゃがれた声ず共に䜕十幎も生きおきたし、この声を歊噚にミュヌゞシャンを名乗っおもきた。

 俺はこの声がそんなに奜きではなかった。人ず比べおは、あんな声だったらいいのにず䜕床思ったこずか  。だが倱っおみお、そしお再び発声しおみお思う。自分の声も悪くないじゃないか、ず。

 やっぱり俺はミュヌゞシャンなのだ、ず痛感する。歌えるこずがこんなにも嬉しい。歌で自己衚珟できるこずがこんなにも誇らしい。



気が぀きゃ 䜕だか息苊しくお
正盎者ではいられないんだ
自己吊定、こもっお、䞀人きり
颚よ、早く迎えに来おくれ

星がたたたく倜空の䞋で僕ら
倉わりたいず 願うんじゃなくお
叫ぶんだ 喉をからしお 声が出なくなるたで

星が流れる倜空の䞋で僕ら
思い出すんだ ここに生たれた理由わけを
遠い宇宙ほしに目を向けお
魂に刻たれた奇跡の蚀葉を  その蚀葉を  



 芋䞊げれば、普段は街の明かりのせいで芋るこずの出来ない星がたくさん瞬たたたいおいた。時折、流れ星も芋えた。目に映ったそれは雫しずくずなっお俺の頬を䌝い、最埌には倧地を湿らせた。

 俺からは䌚堎のファンの様子は芋えない。だけど感じる。みんな、俺ず同じ空を芋䞊げおるっお。

「俺たちは今、䞀぀になっおる  」
 自然ず二人の手を取っおいた。
「ありがずう、みんな  。ありがずう  」



 その埌、レむカの「ファミリヌ」やブラックボックスの曲などを披露するず、䌚堎は䞀局盛り䞊がった。この薄明かりのステヌゞが、かえっお俺らず䌚堎を䞀぀にしおいるかのようにさえ思える。ファンは芖芚を頌りに出来ない。その他の感芚を研ぎ柄たし、音ず堎の空氣でこのラむブを楜しむしかないずいう氣づきが、ファンを「今、ここ」に集䞭させおいるように感じる。



 ラむブはあっずいう間に最終盀を迎えた。俺たちサザンクロスがステヌゞに䞊がっおいる合間を瞫っおピアノ曲「グレヌトワヌルド」を頭にたたき蟌んだリオンが、セナず共に電子鍵盀キヌボヌドの前に座る。

 オヌナヌずセナの連匟は緎習の時から䜕床も聞いたが、リオンずセナのペアはどんなふうに挔奏するのか。俺たちも䞀いちファンずしお二人の挔奏に耳を傟ける。

 たるでこれたで䜕ヶ月にもわたっお緎習しおきたかのようにぎったりず息のあった音が鳎り始める。これが、双子のなせる技か。オヌナヌの時は自然の情景が目に浮かんだが、リオンの挔奏は俺たち聎く偎の人間を錓舞するような力匷さを感じる。ここに戻っおきたこずをアピヌルしおいるかのようにも聞こえる。きっず、電子鍵盀キヌボヌドで聎衆を虜にしたいず蚀った、その蚀葉を実行しおいるのだろう。

「リオンの奎、気持ちよさそうに匟くじゃねえか。おっ、月たでもがあい぀の挔奏を聎きに来おいる。本圓に、最高の舞台だな」
 オヌナヌが、たるで息子を自慢するかのような口ぶりで蚀った。

 さっきたで星しか芋えなかった空に十䞃日月たちたちづきが浮かぶ。青癜い光はセナずリオンを照らすように差し、連匟する二人を幻想的に浮かび䞊がらせる。

「これがあの子の、本来の姿なのね  」
 突劂ずしお背埌から声が聞こえた。月光のもずに姿を珟した人物、それは  。

「瀟長   なぜここぞ  」

 麗華は驚きの声を発するず同時に、女瀟長の正面に立ち塞がった。実幎霢を遙かに䞋回る芋た目で矎魔女ずの異名さえ持぀ず聞くが、月圱぀きかげは真実を映し出すのか、女瀟長の容姿は幎霢盞応かそれ以䞊に老け蟌んで芋えた。

「リオンを連れ戻しに来たのですか それだけは絶察にさせたせん」
 麗華が静かに怒りをぶ぀けた。しかし女瀟長の目はオヌナヌに向けられる。

「  この曲、あなたが提䟛したのね」

「ああ、そうだ」

「だず思った。あらゆるゞャンルをミックスしたようなピアノ曲なんお他では聞いたこずがないもの」

「だからいいんじゃねえか。こういう、荒くれ者たちが挔奏するには打っお付けだろう」

「そうかもしれない  」
 察峙したら蚀い合いになるず芚悟しおいたが、どうやらその぀もりはないらしい。

「  もしかしお瀟長は、リオンのピアノを聎きに」
 怪蚝な顔で麗華が問うが返事はなかった。しかしそれが答えなのだず誰もが悟った。

「  おしゃべりしおいる暇はありたせんよ、皆さん。いよいよ最埌の曲です。そろそろスタンバむを」

 ショヌタに促され、珟実に匕き戻される。ギタヌを肩から掛けるず、さっきたで眉根をひそめおいた麗華が堂々たる姿で俺の正面に立った。

「拓海。これから歌うのはみんなのための歌であるず同時に、拓海の声を取り戻すための歌でもある。だから、聎いおいお  」

 ――もちろん。息継ぎの音さえも逃さずに聎くよ。
 答えるず、今床は智節が俺の肩に手を眮いた。

「今日は䜕もかもが神がかっおいる。僕は䞉床目の奇跡を信じるよ。  もし、可胜ならばレむちゃんのバックで、䞀緒にハモろう。僕らが心を蟌めお䜜った曲、『LOVE  PEACEラブ ピヌス』を」
 俺が銖を瞊に振るず、二人も同じように頷いた。

 リオンたちのピアノ曲が終わり、䌚堎からさざ波のような拍手が起こった。ステヌゞに足を向けたずき、麗華がもう䞀床女瀟長ず向き合った。

「あたしの歌で瀟長を救いたす。どうか最埌たで芋守っおいおください」
 女瀟長は麗華を芋぀め返すだけで䜕も蚀葉を発しなかった。

「行こう、レむちゃん、拓海。時間だ」
 智節に促され、グラりンドぞ螏み出す。


45智節

 ショヌタが蚀っおいたように、倩が僕らに味方をしおくれたずしか思えなかった。䞀䞇人のファンで埋め尜くされた球堎。僕らは今、その真ん䞭に立っおいる  。

 レむちゃんがマむクを握る。
「  いよいよ最埌の曲になりたした。これから歌うのは『LOVE  PEACE』。このラむブのために、あたしず智くんずで曞き䞋ろした最新曲です。このラむブを聎いおいるすべおの人に愛ず平和が蚪れたすように  」

 圌女から目で合図を受け、アルペゞオを奏でる。歌詞が始たるずころで拓海がコヌドを匟き、矎しい声が星空の䞋に響く。



䞖界を䜜るのはむマゞネヌション
散らばるパズルのピヌスの䞭から
どれを遞ぶ あたしはね  

思い描けばクリ゚ヌション
みんなばらばら、ピヌスはカラフル
君は遞んだLOVE, LOVE, LOVE

ケンカしたっお、違ったっお、
いいじゃん、認め合えたなら

友だち以䞊、恋人以䞊、
あたしたちはもう、ファミリヌなのよ
この歌を歌えばほら、
䞖界䞭がひず぀になれる
PEACE, PEACE





䜕をしようか ニュヌワヌルド
みんなの倢をたくさん集めお
君は遞んだ 僕はね  

手を取り合えばクリ゚ヌション
どれも玠敵で決められないから
党郚叶えよう、LOVE & PEACE

ケンカしたっお、違ったっお、
最埌は分かりあえるから

友だち以䞊、恋人以䞊、
僕たちはもう、ファミリヌなんだ
この歌を歌えばほら、
新䞖界も䞀぀に繋がる
PEACE, PEACE





たずえ声が出なくおも
たずえ病に倒れおも
僕らは決しお諊めない
呜、尜きるたで

黒いきのうを远い越しお
茝くあしたを芋に行こう
僕らならいける
心は䞀぀に  あぁ  



 あのデヌトのあず、僕は家に戻っお圌女ず二人、顔を寄せ合いながら詩を玡いだ。それは特別な時間でありながら、圓然あるべき未来の姿だずいう感芚が垞に胞の䞭で枊巻いおいた。その郚屋にはいなかった拓海の存圚もなぜだか傍そばに感じた。僕らを取り巻く小さな䞖界ず、もっず倧きな䞖界ずを繋ぐ蚀葉たち。それを今、目の前のレむちゃんが矎しい声で歌い䞊げおくれた。

 そう、この䞖界は、本圓は矎しいのだ。争う必芁だっおないのだ。男女の愛があっお生たれ、やがお自身も愛し合っお呜を生みだし、育み、生を党うする。それだけで成り立぀はずの䞖界。それが真の平和。あるべき䞖界だず僕は思う。

 この歌にあるような䞖界が実珟したずき僕はもう歌わなくなるだろう。これたで歌っおきたのは僕が生きたい䞖界を、理想を叫びたかったから。愛で溢れる䞖界になったずき、蟌み䞊げる愛を歌うのはレむちゃんや拓海でいい  。

 歌は、終わった。静かに手拍子がなる。アンコヌルだ。もう䞀床「LOVE  PEACE」を歌っお欲しい、そんな声がそこかしこから聞こえる。

「  どうする」
 振り返り、レむちゃんが問うた。

 ――もう䞀回歌えばいい。っお蚀うか俺も、もう䞀回聎きたい。

 拓海の手話を読み取っお、僕は倧きく頷く。
「僕も同じ意芋だ。今は぀い聞き惚れおしたったからね。二回目はアレンゞを加えるこずにするよ」

「分かったわ。じゃあ、『LOVE  PEACE』で」
 レむちゃんが向き盎ったずき、ダグアりトからリオンずセナが歩み寄っおきた。

「アンコヌルに応えるんだろう おれたちも挔奏に参加させおくれないかな。最埌の曲を䞀緒に盛り䞊げたいんだ」
 リオンはそういうなり、電子鍵盀キヌボヌドの前に立った。

「アンコヌル曲にもよるけど、サザンクロスの曲はだいたい頭に入っおるからどれでもいけるず思うんだ。だから、おねがヌい。䞀緒に匟かせお」
 セナも、顔の前で手を合わせおリオンの隣に立぀。

「ありがずう、二人ずも。アンコヌル曲は『LOVE  PEACE』よ。  あ、そうだ。ナヌゞンにも来おもらいたしょう。圌の゚レキはこの曲に合わないけど、あたしのアコギが空いおる。もし匟けるなら䜿っおもらっお構わないず䌝えお」

 レむちゃんの蚀葉を受けおリオンがすぐに走っお䌝蚀する。ナヌゞンは戞惑いながらもアコギを片手にステヌゞに䞊がった。

「麗華さんのアコギを匟かせおもらえるなんお感激っす。うたく出来るか分かんないけど、邪魔にならないよう頑匵りたす」

「オヌケヌ。じゃあ、本圓にこれで最埌  。みんなで心を䞀぀に  」
 六人で円陣を組み、団結する。レむちゃんはマむクを握り、䞀䞇人の聎衆をたんべんなく芋枡しながらいう。

「ありがずう、みんな。アンコヌルにお応えしお、もう䞀床『LOVE  PEACE』を歌いたす。今床はブラックボックスの䞉人も䞀緒よ。この、特別な倜をみんなで分かち合いたしょう」

 拍手喝采の䞭、今床はピアノの音からスタヌトする。原曲ずはたた違った雰囲氣。アレンゞの方を匕き立おるよう、ギタヌは぀た匟く皋床に鳎らす。

 ず、隣から聞き芚えのある声が聞こえおくる。拓海の声だ  。

もしかしお、歌の力が働くずきだけ声が出せるのか  

 その事実に氣付いた僕は驚愕した。いや、「䞉床目の奇跡を信じる」ず蚀ったのは確かに僕だが、䞉床も起きたらそれはもはや奇跡などではない。歌の力は確かに存圚し、䜕床でも効力を発揮する。拓海がそれを蚌明しおくれた。

 圌を芋぀めおいるず、䞀緒にハモるっおいったよな ず蚀わんばかりに芖線を投げられる。うなずき、タむミングを芋蚈らっお僕自身も声を発する。

 歌の力に圧倒された僕は蟌み䞊げる涙を抌し殺すこずが出来なかった。いや、止める必芁なんおない。これが、これこそが、魂の叫び。心が、むせび泣いおいる  。

 芋れば拓海もレむちゃんも萜涙しおいた。それぞれの想いを胞に、この゚ンディングを噛みしめおいるに違いない。

 ありがずう、サザンクロス
 ありがずう、ブラックボックス

 客垭から聞こえおきたのは僕らに察する感謝の蚀葉。その声は次第に倧きくなり、氣付けば䌚堎䞭がお瀌の蚀葉で溢れかえっおいた。

「ああ  。これだよ、僕が望んでいた䞖界は。歌が人々の心を癒やしたんだ  」
 感極たる僕の暪で、拓海ずレむちゃんが頷く。

「俺の心もあったかいよ。なん぀ヌか  生きおるっお感じ。目を閉じれば、䞀人ひずりの想いに觊れられそうな氣さえするよ  」

「拓海。その声を通しおあなたの想いを聞くこずが出来お、あたしは今ずっおも幞せよ  。これが氞遠に続かないこずは、盎感的に分かる。だからこそ、今この瞬間を噛みしめおいたい  」

「  倧䞈倫さ。俺の声はい぀でも聎ける。お前らの歌の力さえあれば、きっず」
 拓海は小さく笑い、僕らの肩を抱いた。
「愛しおるよ、麗華。これからもずっず。そしお智節。これからも䞀緒に歌おう。俺が生きおる限り、歌うのをやめるなんお蚀わせねえからな」

「えっ  」
 さっき考えおいたこずを蚀い圓おられ、動揺する。拓海は勝ち誇ったように笑った。

「䞖界埁服はただ終わっちゃいねえよ。それに今埌、埁服した䞖界で生きるならやっぱり愛の歌を䜜っお歌わなきゃ。『LOVE  PEACE』、本圓にいい曲だよ。こんな感じのをもっずもっず䜜っおくれ。次は俺が歌うからさ」

「  分かった。なら次は、君ず共に䜜る䞖界を歌詞にしよう」

「ああ、頌たの  」
 急に声が途切れた。圌は喉を抌さえ、おしゃべりはたた今床な、ず手話で衚したのだった。


46麗華

 数曲のアンコヌルにも応え、ラむブは終了した。䜕もかもが倢のような䞀日。歌の力が、想いが、あたしたちを党力でサポヌトしおくれた。そう思わずにはいられなかった。

 ステヌゞから降りるず瀟長があたしたちを出迎えるように立っおいた。目が合うず拍手を送られる。

「聎かせおもらったわ、麗華の魂の歌を」
 その衚情は、あたしたちが歌う盎前に芋たものずはたるで違い、すがすがしささえ感じられた。

「玠盎に負けを認めるわ。  麗華たちの䜜る䞖界は優しいずころね。愛にあふれおる。麗華が二人のもずに戻った理由が今、はっきりず分かったわ。愛する人のそばで歌えお麗華は幞せね」

 そういうなり圌女は目を䌏せた。

「最初から、麗華の蚀葉には力があるず分かっおいたわ。蚀葉ず魂が䞀臎したずき、聎いた者の目を芚たさせる力があるず蚀うこずも  。今回のラむブで芋事にそれを成し遂げたあなたのこずを尊敬する。私個人ずしおはね  。だけど瀟長ずしおの私は、アヌティストずいう商品を売る努力をしなければならない立堎。業界のルヌル、぀たりは暩力者が思い描く䞖界を実珟させなければならない私が、麗華たちのような人間を容認するわけにはいかなかったのよ  。どんなに実力があっおも、業界のルヌルを無芖する人間は䞀生、衚舞台に出られないか、最悪の堎合、消されおしたう  。埓順な人間しか生き残れないのがこの䞖界、いいえ、この囜なのよ  」

「それが息苊しいっお蚀っおんだよ」
 智くんが突っかかるず、瀟長は圌を睚み返した。

「この囜ではなぜ生きづらいのか教えおあげる。自由がないからじゃない。倚数掟の攟぀空氣、、が私たちを苊しめおいるの。そう、真の支配者は目に芋えない『空氣』。暩力者はそれを知っおいるからこそ倚数掟の意識をコントロヌルし、自分たちに目を向けさせないようにしおきたの。  だけど、それももう通甚しなくなっおいるのでしょうね、これだけの人が集たったずいうこずは。私でさえ、あなたたちならきっずその空氣を倉えられるず思わずにはいられなかったもの」

「瀟長  」

「麗華のその歌声をもっず響かせなさい。そうすればこの囜の空氣はきっず倉わる。人々がそれを望んでいる以䞊、歌い続けるべきだわ」

「あたしの歌声を買っお䞋さり嬉しく思いたす。ですが今日、自信を持っお歌うこずが出来たのはバンド仲間のみならず、あたしたちに協力しおくれたすべおの人のおかげです。幞い、倩氣も味方になっおくれたした」

「そうね  」

 瀟長はそう蚀うず、ステヌゞに眮かれたたたの電子鍵盀キヌボヌドをポロンず鳎らした。

「䞀䜓、誰の仕業だったの 電氣が埩旧したアリヌナの巚倧スクリヌンにこっちの様子が映るよう现工をしたのは あの瞬間、䞭に残っおいたわずかなファンでさえあなたたちに釘付けになったわ。負けを認めたのはその時。いくらで契玄したのか知らないけれど、優秀なスパむを雇ったものね」

「え」
 そんな现工が出来る人物など䞀人しかいない。あたしたちが芖線を向けるず、ショヌタさんは「䞀䜓䜕のこずでしょうか」ずしらばっくれた。瀟長は続ける。

「サザンクロスの歌詞をよくよく聎いおみお分かったわ。あれはあなたたちの魂の叫びであるず同時に聎衆の想いでもある、それを代匁しおやっおいるに過ぎないのだず。だからみんなあなたたちの歌を聎きたがるのだず。  ラストに『LOVE  PEACE』を持っおきたのはさすがね。あれで皆の心が䞀぀になったのを肌で感じた。間近で聎けお良かった。玠晎らしかったわ」

 ショヌタさんは倧いに顔をニダ぀かせたが、あれは自分のプロデュヌスだずひけらかすようなこずはしなかった。

「  それで、リオンの凊遇はどうなるのでしょう 䜕䞇ずいうファンがブラックボックスが解散しおいないず知っおしたっおも尚、事務所に属しおいるず蚀い匵る぀もりですか」

 あたしが問うず瀟長は銖を暪に振った。

「リオンを含む新人を利甚しお聎衆をコントロヌルしようずした事務所の  いえ、ありのたたに蚀えば暩力者の蚈略は倱敗に終わった。もちろん、あなたたちの悪あがきによっお。これから次々ず真実が明るみに出、䞍圓な契玄を亀わされたアヌティストは自由の身になるでしょう。圓然ながら私は凊分されるず思うけど、あなたたちのラむブを芋届けた今ずなっおは未緎も埌悔もない。今は、利最を远求するあたり倧きな声の蚀いなりになっおいた自分を恥じおいる。リオンはもちろん、あなたたちにも酷いこずをしたわね。本圓に申し蚳なかったわ」

「埅っおくれ。今の口ぶりから察するに、僕らを朰しに来たのもリオンの匕き抜きもあんたの考えじゃなかったっおこずか たさか、この期に及んで蚀い逃れをする぀もりじゃ  」

「あなたが信じられないのも無理はないわ。でも、本圓のこずよ」
 瀟長は智くんの蚀葉を遮っお蚀った。

「あなたたちが芋おいるのは氷山の䞀角に過ぎない。さっきも少し觊れたけれど、この囜は暩力者の声が色濃く反映されおいるの。圌らは、未来のためず蚀いながら必芁以䞊に金を搟取し、郜合のいい情報だけを流し、恐怖を䞎え、掗脳し、あなたたちを埓順なペットにしようずしおいる。メゞャヌのミュヌゞシャンや俳優を、その䞖界で生きる暩利ず匕き換えに利甚しお私腹を肥やしおいるの。こんなふうになっおしたったのは、数幎前に時の暩力者が倉わっおから。今や、メディア業界は完党にコントロヌルされおいる。䞭から倉えようずいう気抂のある人間がいない以䞊、あなたたちのような荒くれ者にすべおを蚗すしかない  。それが、この囜の実情よ」

「そこたでご存じなら、なぜ自らが先陣を切っお内から倉革しようずしなかったのです」

「前にも蚀ったはずよ。私はこの業界で繋がりを持ちすぎたず。今回のラむブも䞊からの圧力によるもの。瀟長ずいえども私は階局構造の䞋䜍にいる人間、蚀われたずおりにするしかなかったのよ」

 ――そうやっお蚀い逃れる぀もりかよ。これたで散々俺たちの邪魔をしおきたくせによ。
 拓海の手話を智くんが代匁するず、瀟長は圌らを睚み返した。

「綺麗事を䞊べるだけでは生き残れない。それがこの䞖ずいうものだし、あなたたちがどう思おうが、私は私なりにそんな䞖界でもがきながら今日たで生きおきたこずに誇りを持っおいるわ。ずはいえ、ここ数幎に限定すれば良心の呵責かしゃくもあった  。ずっず、䜕かが匕っかかっおいた、モダモダしおいた  。そんなずき麗華に、か぀おのバンド仲間のもずで掻動したいず蚀われたもんだから、驚くより先に裏切られた氣分だったのよ。若いころからミュヌゞシャンずしお成功者であり続けたあなたは、私の理想の姿だったから」

「ミュヌゞシャンになる倢を諊めたあんたずレむちゃんを䞀緒にしないで欲しいね」

「もちろん、䞀緒ではないわ。だけど、ピアノを匟く道を諊めずに暡玢しおいたら違う未来もあったのではないか、ず思ったのは事実  」

「なら、今からでも匟けばいいじゃないですか」
 そう蚀ったのはリオンだった。瀟長は目を芋開いた。

「ずうに倢を捚おた私が  」

「姉さんのこずを矚んでたっおこずは、ピアノを匟く倢を諊めきれおなかったっおこずじゃないんですか でも、今日のラむブで目が芚めた。っお蚀うか思い出したんでしょう だったら、今からもう䞀床倢を芋ればいいじゃないですか」

「リオンの考えに同意するよ」
 オヌナヌが話に加わる。
「ここでセナず連匟しおみお思ったこずがある。ピアノはい぀匟いおも感動があるし、聎いた人にも感動を䞎えられるものなのだず。だからもし、今日のラむブで䜕か感じるものがあったのだずしたら、自分のためにピアノを匟いおみたらいいず思う。どうせ䜕幎も匟いおいないんだろう」

「    」
 電子鍵盀キヌボヌドを指し瀺された瀟長は恐る恐る怅子に座るず、ぎこちなく指を動かし始めた。しかしその動きは次第になめらかになり、数分埌には勘を取り戻したかのように匟いおいた。

「  若いころに䜜曲したのに、ただ芚えおいるものね」

「それは身䜓が倢を远っおいた頃のこずを忘れたいずしおいるからだ。  少なくずも私はそうだった。真面目に匟くのは䜕十幎ぶりかだったが、䞍思議なこずに勘を取り戻すこずができた」

「倢  。いい幎をしおそんなこずを  ず思っおいたけれど、幎寄りこそ倢を語るべきかもしれないわね。あなたを芋おいたら私もちゃんずピアノを匟きたくなっおしたったわ」

「  いいじゃねえか。もう充分利口に振る舞ったんだから、これからは自分の人生を生きればいい」

「それも悪くないかもね」
 䌚話を聞いお、やはり二人は、か぀おはあたしたちのように倢を語る仲間だったのだず深く感じた。瀟長は今床はあたしたちに向かっお蚀う。

「あなたたちがギタヌず歌だけでラむブを成功させたのを芋お、掟手な音響や挔出は集客ず関係ないのだず悟ったわ。䞭身さえ良ければ、そしお思いが匷ければ䜙蚈なものはいらないのだず  。成功者になるこずが幞せなのだず教わり、その通りに生きおきた。事実、衣食䜏に困るこずはなかった。けれど心はどこか満たされず、垞に将来ぞの挠然ずした䞍安を抱いおいた  。そんな私の䞍安をあなたたちの音楜が取り陀いおくれたの。ここ数幎、所属アヌティストには人々を楜したせる歌を歌わせおきたけれど、改めお聞くずやっぱり昔のレむカの歌がいいわね」

「あ、レむカの歌ず蚀えば事務所に垰属しおいるんじゃ  」
 慌おたあたしを芋お瀟長は笑った。

「安心しお。レむカの歌は麗華のものよ。私がそうなるよう、手続きしおあげる」

「え  」

「あなたたちの音楜を聎いお決心が぀いたわ。私、瀟長の座を退く。今回の責任を取るずいう圢で。そしお新しい事業を始めるわ」

「新しいこず いったい䜕を  」

「内緒。でも音楜に関係するこずよ。この先もお互いに頑匵りたしょう。さお、そろそろお開きの時間じゃない ステヌゞを撀収しお私たちも家路に぀きたしょう」
 そう蚀った瀟長の目はキラキラず茝いおいた。


47拓海

 俺たちのラむブは噂に噂を呌び、秋が深たるころには瀟䌚問題にたで発展しおいた。新手の宗教だず揶揄されもした。しかし批刀的なこずをいう人間の倚くは、人々に嘘やねじ曲げた情報を流すこずで金儲けしおいる連䞭。端から俺たちの話など通じない茩だった。しかしそういう人間がこの囜を、もっず蚀えば䞖界を牛耳っおいるのは確かな事実。そい぀らの考えを倉えるか存圚を消すかしない限り、真の平和は蚪れないだろう。

 ずはいえ、悪いこずばかりではない。皮肉なこずにそうやっお取り䞊げられたが故に俺たちの名はラむブを芋聞きしなかった人にも知れ枡るこずずなった。それがきっかけで興味を持っおファンになっおくれる人もたくさん珟れた。もっずテレビや音楜専門チャンネルで芋聞きしたい。秋が終わる頃にはそんな声も聞こえるようになったが、俺たちは既存のメディアで掻躍する氣は䞀切ない。これたで通りのスタンスでやっおいく  。氣持ちを新たにしおいるずころぞ、麗華を通じお思わぬ話が飛び蟌んできた。

「瀟長が  あヌ今は元だけど、圌女から新䌚瀟を蚭立する準備が敎ったず連絡をもらったの。䜕の䌚瀟だず思う メゞャヌずむンディヌズの架け橋になるべく、その䞭間に䜍眮する新しいタむプの䌚瀟を立ち䞊げたずいうの。で、その第䞀号アヌティストにならないかっお、あたしたちに声を掛けおきたんだけど、どう思う」

「はぁっ あり埗ないだろっ、そんな話 华䞋だ、华䞋」

 智節は詳しい話も聞かないうちにそう蚀った。しかし麗華は最初からその぀もりで打ち明けたのだろう、動じずに説埗を詊みる。

「萜ち着いお聞いお、智くん。圌女はあたしがメゞャヌ時代に䜜った曲のすべおを自分の䌚瀟においお守るず蚀っおくれおるの。぀たり、そこに属せばサザンクロスの麗華ずしお、シンガヌ゜ングラむタヌ・レむカの歌が䜕の瞛りもなく歌えるっおこず。それは今埌の掻動をするに圓たっおはメリットが倧きいず思うの。あんな事があっお蟞めた圌女だけど、その考えに共感しおくれる人は少なからずいるみたい。そういう人たちず力を合わせお、これたでずはたったく違うやり方で音楜を発信しおいきたいそうよ。  ちなみに、ブラックボックスにも声を掛けおお、あちらは前向きに怜蚎しおいるっお聞いたわ」

「えっ   あい぀らは乗り氣なのか」

「そのようね。やっぱり若い子は考え方が柔軟ね。それに比べお  」

「    」
 癜い目で芋られ、智節は唇を噛みしめた。
「  拓海はどう思っおるんだ 君の考えを聞きたい」
 自分では決断できないのか、あろうこずか俺に意芋を求めおきた。

 ――俺はいいず思うけど。
 手話で䌝えるず案の定、突っかかっおくる。

「どの蟺がいいっおんだ ちゃんず説明しおくれよ」

 ――んヌ、麗華のやりたいこずが出来そうだず思うのがひず぀。それから、俺たちの音楜をもっず広めるためにはやっぱり発信力が必芁だ、っおずころでその道に粟通しおいる人ず手を組むのはありなんじゃねえかなっおのが二぀目の理由だ。

「手を組むず蚀っおも、盞手は過去から珟圚に至るたで散々僕らを匕っかき回しおくれた人間だぞ」

 ――お前が人間䞍信なのは分かる。あっちにされた仕打ちに憀りを感じるのも分かる。だけどさ  。麗華のこずを赊せたんなら、あの人のこずも赊しおやろうよ。やりたくないこずもやらなきゃいけない立堎だったみたいだし。

「  どこかに属するこずで僕らの音楜が出来なくなるのはごめんだ」

「それなんだけど、圌女はあたしたちの自由にしおいいず蚀っおくれおるわ。  嘘を蚀っおいないずいう蚌拠は出せないけれど、この話をしおくれた圌女の口調は明らかに以前ずは違っおいた。䞞くなったずいうか、吹っ切れたずいうか、柔らかい雰囲氣に倉わっおた。どうしおも䞍信感が拭えないずいうなら盎接話しおみればいいわ。あちらは䌚いたがっおいるから」

「    」
 反論も空しく、盎接話せばいいず蚀われた智節は黙り蟌んでしたった。


48智節

 確かに僕らの野望は道半ばだ。ラむブはきっかけに過ぎず、珟実䞖界はほんの少しの膿出しが行われただけで本質は䜕も倉わっおいない。そこに僕らが切り蟌むためにはもっず前に出なければならない。そんなこずはこの僕だっお分かっおいる。

 ただ、その協力者が数ヶ月前たで敵だった人、ず蚀うのが玍埗いかない。僕らの歌を聎いお改心したず蚀いたいのだろうが、だからずいっお簡単に信甚できるはずがない。

 ――なぁ、俺も䞀緒に行くからさ。ずりあえず話だけでも聞いおみようぜ。決めるのはそのあずでもいいだろう ほら、俺らのこずをいけ奜かねえ奎だず決め぀けおたセナずリオンも、ちゃんず話したら認めおくれたように、膝を亀えお話せばわかり合えるかもしれねえじゃん

 拓海たでもが僕を説埗しにかかる。悔しいけれど、圌の蚀うこずは正しい。僕はただ、過去の経隓からその人を決め぀けおいるに過ぎない。前に進むには、僕の蚘憶を曎新する以倖にない。

「  分かった。ただし䌚うのは䞀床だけだ。  あぁ、ブラックボックスにも同垭しおもらおうか。あい぀らの考えも聞いた䞊で刀断したい」
 僕から少しだけ前向きな発蚀が出たからか、二人は顔を芋合わせお埮笑んだのだった。

◇◇◇

 秋が過ぎ、急に冬めいおきた頃に僕らは䌚うこずずなった。そこに集たった人間のうち、仏頂面をしおいるのは僕だけ。居心地の悪さを感じながら面談堎所を蚪れる。

 そこは既に完成を芋た先方のオフィス。非垞にこぢんたりずしおいるが、そこでは協力者ず思われるスタッフが忙しそうに働いおいた。そこの応接宀に通される。垭に着くず「新瀟長」が、盞倉わらずの掟手な栌奜で珟れた。

「わざわざ来おくれおありがずう。話したいず蚀っおくれお嬉しいわ。  あヌら、そんなに怖い顔をしないで。お茶菓子でも食べながら楜しく話したしょう」

 その蚀葉が聞こえたかのように、スタッフの䞀人が籠かごに盛られた菓子ずお茶を運んでくる。

「毒なんか入っおないから遠慮なく召し䞊がっお」
 新瀟長はそう蚀っお自らそれらに手を䌞ばした。

「それで  。私のこずが信甚できないず蚀っおいるのはあなただったわね 甚心深いのはいいこずよ。こういう䞖界だもの、簡単に信じないのが基本だず私も思う。もう過ぎたこずだから氎に流すず蚀っおあっさり受け容れるのも考え物よねぇ」

 思いがけない蚀葉に党員が動揺した。新瀟長はクスリず笑う。

「そんな甚心深いあなたに提案なのだけど、たずはうちの䌚瀟から先日のラむブのDVDを発売するずいうのはどうかしら 芳たかったけど時間が合わなかった人、あずから存圚を知っお今からでも芳たいず思っおいる人のために映像を提䟛するこずが出来れば、あの日の感動をもっず倚くの人ず分かち合えるず思うの。党囜に私の顔が利く販促ルヌトがある。あなたたち単独では難しいこずも、うちに所属するこずでそれが容易になる。あなたたちにずっおもメリットが倧きいず思うの。本栌的にうちで掻動するかどうかはの売れ行きを芋おから決めおもらっお構わないわ。ただし、その前にブラックボックスが先に掻動を開始しお人氣を博しちゃうかもしれないけれどね」

「  ブラックボックスはもうしおるのか あんな事があったのになぜそう簡単に赊せる」

 新瀟長の話を受けおブラックボックスの䞉人に疑問を投げた。䞉人は顔を芋合わせ、クスクスず笑った。

「実はこの話をもらった時にピアノの話題になったんだけど、めちゃくちゃ盛り䞊がっちゃっおさ。その時の瀟長の目が子䟛みたいにキラキラしおお、ああ、この人本圓はこんなにピュアなんだっお思った。たぁ、兄さんたちず䞀緒だよ。音楜のこずずなったら䞀日䞭でも語れちゃうような人に悪い人はいないよ」

 たずはリオンが経緯を話しおくれた。すぐあずでナヌゞンが「智ずもさんに䞀぀蚀いたいこずがあるんっすけど」ず続ける。

「確かにこだわりを持぀こずも倧事だず思いたすよ。だけどそれにしがみ぀くこずで逃すチャンスもあるず思うんっすよ。オレ、『シェむク』に振りを぀けお䞖に出しおみお分かったんです。自分のこだわりを貫くだけじゃうたくいかないこずもある、仲間の意芋を取り入れる方が結果的にチャンスが広がるこずもあるっお  」

「ナヌゞン  」

「これはオレの勝手な提案だけど、なんだったら䞀緒にやりたせんか。六人でオレたちの音楜を届け、理想の䞖界を䜜りたせんか」

「  六人で」
 思いも寄らない提案に動揺する。
「だけどそれじゃあギタリストが倚すぎる。そんな偏ったバンドでうたくいくずは  」

「そう蚀うず思っおたした。じゃあ、オレがドラムに転向するっお蚀ったらどうです 実はオレ、高校の時に少しだけやっおたこずがあっお、六人でやるずなったらそれもありかなっお思っおるんですよ。たぁ、緎習は必須ですけどね  」

「おいおい、゚レキを極めるんじゃなかったのかよ」

「そりゃあ、今埌もブラックボックスの䞉人でやっおくならそれで合っおたすけど、智さんがアコギにこだわるほどには楜噚ぞのこだわり、ないんっすよ。オレはあくたでも心に響く音楜を奏でたいのであっお、それが出来るなら楜噚はなんでもいいんっすよね」

「  お前、柔軟すぎるだろ」

「あヌ、よく蚀われたす。だけど、長子っおそういうもんじゃないですかね 調和を取るためにずりあえず自分が折れる、みたいな。色々やるから噚甚貧乏なんですけどね。䞖界平和を目指すなら、劥協するこずも必芁でしょう」

 その蚀葉を聞いお、ナヌゞンは僕よりずっず倧人で、謎のこだわりを持っおいた自分はうんず幌い子䟛のように思えた。

「  ここぞ来お、よりによっおナヌゞンに口説かれるこずになろうずは。参った、完敗だ」

 僕は差し出されたナヌゞンの手を取った。
「分かった。䞀緒にやろう。  考えおみたら、僕らの人生はもうずっくに折り返し地点を過ぎおるんだった。悩んで立ち止たったり、駄々をこねたりする暇はないんだよな  」

「心が決たったようね。もう䞀床聞くわ。私の話を受けおくれる」
 新瀟長に問われ、頷く。

「蚀っおおくが、あんたに心を蚱したわけじゃない。あくたでも僕らが成し遂げたいこずを成すための手段ずしおあんたの手を借りるだけだ」

「もちろんそれで構わないわ。だけど、い぀の日にか私に感謝する日が来るはずよ」

「それはどうかな  」
 曖昧に返事をした僕に瀟長が手を差し出す。

「䞀緒に䞖界をいい方に倉えおいきたしょう。私たちで力を合わせれば必ず実珟するわ」
 そっず握り返すず、仲間たちが次々手を乗せおきた。

「ありがずう。智くんならきっず分かっおくれるず思っおた」
 レむちゃんは優しく埮笑み、その隣で拓海も満足そうに頷く。圌は空いおいる方の腕を僕の肩に掛けるず、お前の歌声を䞖界䞭に響かせおくれ、ず口を動かしたのだった。


――第二郚・完――



いいなず思ったら応揎しよう

いろうた愛ず調和を描く芞術家 芞術家が集う癒やしの堎を提䟛するのが倢。共感者を倧募集䞭💖蚘事を読んでずきたらお声がけを💕䞀緒に愛ず調和の䞖界を物語りたしょう💖