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【䞀氣読み・長線小説】「愛の歌を君に」


こちらは長線小説「愛の歌を君に」党13話を通しで読めるようにたずめた蚘事です䞀郚修正しおいたす。テヌマは「愛ず赊し」。読み応えたっぷりの物語ずなっおおりたす。人生を倉えたい方はぜひ読んでみおください✚


前線


1.麗華れいか

 歌手、レむカずしお掻動するようになっお䞉十数幎。あたしは䞀人で歌詞ず曲を玡ぎ、䞖に送り出しおきた。誇りであり、自慢であり、生きがいでもある音楜掻動を、これからもずっず、生涯やっおいく。もちろん、䞀人で。

 最近ではネット配信のおかげで若いファンも増えおいる。幎霢を理由にあれこれ断念しおしたう人が倚い䞭、あたし自身は衰えをたったく感じおいない。

 ただただひずりで歌える――。

 そう思っおいた矢先、仕事甚のスマホに䞀本の電話がかかっおきた。電話の䞻は昔の仲間のひずりである拓海たくみ。圌はかすれた声で「たた䞀緒にバンドを組んでほしい」ず蚀った。

「䜕を今曎。悪いけどお断りよ」

 䞀人でやっおいくず誓いを新たにしたばかりだったので、あたしは迷わず答えた。しかし拓海は「もうすぐ䌚えなくなるかもしれないず聞いおも、か」ず続けた。

「  ちょっず。脅しはやめお」

「脅しじゃねえよ。マゞな話だ」
 真剣な口調に、それが冗談ではないず悟る。

「  詳しい話が聞きたいわ。返事をする前に䞀床どこかで䌚える」

「ああ。その時はメンバヌの智節ずもあ぀も䞀緒だからその぀もりで」
 予定を擊り合わせたあたしたちは䞀週間埌、早朝の東京駅で萜ち合った。

◇◇◇

 立秋が過ぎおも秋らしさはちっずも感じられない。今日も朝からすでに暑い。駅ビルの壁面の液晶モニタヌに映し出された倩気予報に目をやるず、最高気枩が䞉十五床を超えるず衚瀺されおいた。それをみお䜙蚈に暑くなる。

 氣䌑めに扇子で扇いでいるず、向こうから片手を挙げお近づいおくる人物が目に入った。

「よぉ。久しぶり。出おきおもらっお悪いな」
 すぐに拓海たちだず分かった。

「䜕よ。元氣そうじゃない」
 
 先日の電話では深刻な様子だったから、ひょっずしたら顔も分からないくらい別人になっおいるかも  などず考えおいただけに、予想はいい方に裏切られた。しかし、拓海の埌ろに立぀智ずもくんの衚情は硬い。

「匷がっおるだけで本圓はちっずも元氣じゃないんだ。詳しいこずは䞭で話すよ」
 智くんはそう蚀っお、拓海が予玄したずいうホテルのレストランに案内しおくれた。

 

 高局階のレストランはテヌブルずテヌブルの間が広く取られ、ゆっくり出来そうな雰囲氣が挂っおいた。食事が運ばれおくるたで時間があったので、電話で話しおいた「もうすぐ䌚えなくなる理由」を芋぀けおやろうず拓海の顔を凝芖する。

「  ガン芋するなよ。緊匵するじゃねえか」

「久しぶりに䌚ったんだもの、そりゃあ芋るわよ。  ずいぶん老けちゃったね」

「そうかぁ これでも若䜜りしおる方だず思うんだけど」

「よく蚀うわ。目尻なんお皺くちゃじゃない」

「それはお前も同じだろうが」

「喧嘩はよせよ。  ったく、䞉十幎ぶりに再䌚したっおのに、なんで君たちは昔ず倉わらず、すぐに口論したがるんだ」

「だっお、こい぀が  」
「だっお、拓海が  」

「  やれやれ。それが原因で解散したのを忘れたずは蚀わせないよ」
 智くんに指摘されたあたしたちは口を噀んだ。

「  智節ずもあ぀、煙草たばこをくれ」
 拓海は氣たずさを玛らわせるようにそう蚀った。

「そんなものは持っおない。諊めろ」
 智くんは぀っけんどんに蚀い、拓海が䌞ばした手を払った。どうやら犁煙させられおいるらしい。ヘビヌスモヌカヌだったはずだが、健康のためにそうしおいるのだろうか。

 尋ねおみようず思ったずころで朝食が配膳される。枩野菜がたっぷりず茉った厚切りトヌストずスクランブル゚ッグ、それに合わせおブレンドされたコヌヒヌは数量限定メニュヌなのだずいう。

 口論しおいおはせっかくの料理も台無しだ。たずは萜ち着こうず背筋を䌞ばしたあたしは、矎しい所䜜でフォヌクずナむフを持った。

「話は食べながら聞くわ。枩かいうちにいただきたしょう」
「そうしよう」
「いただきたす」

 頷いた二人も萜ち着きを取り戻したようだ。䞁寧に手を合わせ、たずは目の前の食事に集䞭する。

 少し食べ進んだずころであたしから話を切り出す。
「  ずころで、たたバンドを組みたいっおいうのはどういう心境の倉化なの これたで䞀床だっお連絡しおこなかったのに」

「  ああ。もう䞀床、お前の埌ろで匟きたくなっおな。それが叶えばたぁ、死んでもいいかなず」

「え  」
 思いがけない蚀葉に食べる手を止める。拓海は構わず話を続ける。

「実は、煙草の吞いすぎが原因で喉を病んじたっおさ。手術が有効だが、その堎合は声を出せなくなるこずもあるらしい」

「  がん、っおこず でも、治療すれば良くなるんでしょ」

「それは五分五分。病は氣からっお蚀うし、奜きなこずしおたらよくなる人もいるっお医者は蚀っおたけど、結構進行しおるっぜいから最悪、死ぬかもしれない」

「それが再結成の理由」

「そういうこず」

「    」
 蚀葉を倱っおいるず智くんが補足する。

「぀たり拓海は、元気なうちにもう䞀床レむちゃんのそばにいたくなったっお話さ。死ぬかもしれないずなったら、やっぱり昔奜きだった女の元に垰りたくなるのが男っおもんだよ」

「  䜕蚀っおるのよ。あたしたち、いく぀になったず  」

「別に恋愛しようっお蚀っおるわけじゃねえ。ただ  」
 拓海はそこで蚀葉を切り、自身の喉に手をやっおう぀むいた。

 智くんの蚀うように、あたしず拓海は若い頃に䞀床付き合っおいた。けれど、あたし䞀人が歌手デビュヌの切笊を手にしおしたったずころから仲違いし、バンド解散ず同時に別れ、それきり䌚っおいなかったのだった。

 死。目の前にいるか぀おの仲間の口から飛び出した䞀語は、短いがゆえにあたしの心に鋭く突き刺さった。断る理由も思い぀かないほどに。

「  そこたで蚀うなら、今でもちゃんず匟けるんでしょうね」
 睚み付けるように蚀うず、目を萜ずしおいた拓海が顔を䞊げた。

「ったりめえだろ。これでも俺たち、むンディヌズだけど『りむング』っお名前でずっず掻動しおきたんだ。埌悔はさせない」

 その蚀葉の真停を問うように智くんを芋る。圌は深くうなずいた。
「莔屓ひいきにしおいるラむブハりスもある。コネもある。レむちゃんに迷惑はかけない」

「  食事が枈んだら音を聞かせお。返事はそのあずでするわ」

「た、そう蚀うだろうず思っお、ちゃんずギタヌは持っおきおる。聞いお驚くなよ」
 拓海はそう蚀っおにやりず笑った。

2拓海

 再結成したいず思ったのはほかでもない、俺の寿呜が残りわずかだず知ったからだ。死ぬかもしれないず䌝えるこずで繊现なあい぀が曲を䜜れなくなる懞念はあった。それでも俺は、病氣であるこずを告癜しおでも再䌚したかった。理由はさっき智節が蚀ったずおりだ。

 麗華のこずはずっず奜きだった。もしメゞャヌデビュヌできたらその時はプロポヌズしよう  。そんなこずを毎日がんやり考えおもいた。そう、麗華がスカりトされるたでは。

「音楜事務所から連絡をもらっお、思わずオッケヌしちゃった  」

 あい぀の匟むような声を聞いたずきに湧き䞊がっおきた殺人的な感情は今でもありありず思い出せる。智節が止めおくれたから「解散」で枈んだが、二人きりの時に聞かされおいたらどうなっおいただろうず、今でも時々思うこずがある。そのくらいあの時は麗華に嫉劬した。

 自信がなかった。自分の歌声に。䜜曲に。でも麗華が䜜った曲をバックで匟いおいるずきだけはなぜか自信がみなぎっおきた。だから、俺には麗華が必芁だずずっず思っおいた。そんなずきに聞いた、䞀人だけプロデビュヌが決たったずいう報告。それは裏切り行為に等しかった。

 解散も別れも必然だった。けれど、あずのこずなんお䜕も考えずに解散した俺は、智節ず二人きりで掻動する日が続けば続くほど䞍安に陥った。

「自信がないなら自信が付くたでスキルアップするしかない。僕らには音楜を捚おるこずなんお出来ないんだから、やるしかないよ」

 感情に巊右されたくりの俺ずは察照的に、智節は状況を冷静に分析し、それたで以䞊に音楜の知識ずスキルを身に぀けおいった。そしお勉匷が苊手な俺にも䞁寧に䌝授しおくれた。

「圌女ぞの恚みはすべお音楜に向けろ。そしお埌悔させおやれ」

 その蚀葉通り、俺は麗華に埩讐する぀もりで今日たで曲を䜜り、歌い続けおきた。あい぀が新曲を発衚するたびにあの日の屈蟱を思い出し、それを燃料に今日たで走り続けおきた。

 なのに  。なのに、だ。

 自分に死が迫っおいるず知ったら過去のこずはすべおどうでもよくなっおしたった。無性に䌚いたくなり、觊れたくなった。あんなにも恚んでいたはずの麗華に  。

「銬鹿だね、君は。今曎そんなこずに氣付くなんお」
 再結成の話をしたずき智節は錻で笑ったが、䌚うなずも、やめろずも蚀わなかった。

「どうしおも䞉人でやり盎したいずいうなら君䞀人で亀枉しおくれ。そしお僕の前に圌女を連れおきおくれ。それが出来たら再結成も考えよう」

「反察  しないんだな」
 俺の玠盎な感想を聞いた智節は小さく息を吐いた。

「サザンクロスの解散に未緎を持っおいるのは知っおいたからね。い぀か再結成したいず蚀い出すだろうずは思っおいたよ」

「なんだよ、氣付いおいながら黙っおたっおのか」

「僕自身は、サザンクロスを再結成しようがするたいが、どうでもいいず思っおるから。でも、長幎䞀緒に掻動しおきた君が死ぬ前にそれを叶えたいっお蚀うなら聞いおやらないでもない、っおずころかな」

「    」

「  さぁ、僕の考えは䌝えた。君がどういう行動に出るか、楜しみにしおるよ」

◇◇◇

 
 あれから䞀週間。その麗華が今、目の前にいる。そしお今たさに、俺たちが䞉十幎かけお䜜り䞊げおきた音楜を聞かせようずしおいる。

「いくぜ  」

「い぀でもどうぞ」

 腕を組む麗華の挑戊的な芖線を感じながら、俺は智節ず目を合わせ、最初の䞀音を鳎らした。音楜スタゞオ䞭に゚レキの電子音が響き枡る。



クレむゞヌ、クレむゞヌ
今すぐお前を远っかけお
飛び蟌みたいぜ宇宙そらの海
クレむゞヌ、クレむゞヌ
鏡に映るのは誰
狂喜乱舞しすぎお
本圓の俺、芋倱っおる
ああ、党郚お前のせいだ

クレむゞヌ、クレむゞヌ
お前の瞳に吞い蟌たれお
抗えないぜこの想い
クレむゞヌ、クレむゞヌ
心の奥に隠した秘密
暎かれそうで怖いよ
ああ、党郚お前のせいだ

クレむゞヌ、クレむゞヌ
お前ず䞀緒に走りたい
どこたでも行こうぜ
クレむゞヌ、クレむゞヌ
倢ず珟実このよの境界線
越えたいず蚀っおくれ
ああ、党郚お前がほしい



 ギタヌをかき鳎らし、二人で歌う。歌いながら俺は、智節は、麗華を凝芖する。

これはお前ぞの恚み蟛みの歌、だった  。ずっず蚀いたかった想い、だった  。

 吐き捚おるように歌い、匊が切れるほどに匷くギタヌをかき鳎らし、歌い終わった「クレむゞヌ・ラブ」。麗華は瞬き䞀぀せず、最初から最埌たで俺たちを凝芖しおいた。俺たちの思いを真正面から受け止めるんだ、ず蚀わんばかりに。

 挔奏を終えたずき、俺の䞭に残っおいた黒い塊のようなものがすっかり消えおなくなっおいるのに氣付いた。歌ず䞀緒に、麗華に察する負の感情のすべおを出し切っおしたったのだず分かった。

今なら蚀える  。心の底からあい぀に、戻っおきお欲しい、っお  
 俺は肩からギタヌを䞋ろし、攟り投げた。そしお床に倧の字になっお倒れる。

「拓海  」
 困惑顔の智節ず麗華が俺を芋䞋ろす。

「智節。俺は決めたよ。麗華が戻っおくるず蚀っおくれたら、゚レキからアコギに持ち替えるっお。たたあの頃のように、心があったたるメロディヌを奏でるっお」

「    」
 智節は返事をしなかった。俺は返事を埅たずに起き䞊がり、今床は頭を床に぀けた。

「麗華。もう䞀床、サザンクロスのメむンボヌカルをやっおくれ。今の歌が氣に入らなかったずしおも、プロのお前が聞くに堪えないものだったずしおも、俺はお前ずたた䞀緒にやりたい。だから  戻っおきおくれ  」

 麗華もたた、すぐには返事をしなかった。頭を䞋げ続けお数分、もうダメかず諊めかけたずき、頭䞊から歌声が聞こえ始めた。



聞こえたすか この声が
霧の䞭で僕ら さたよい続ける
寒い倜空の䞋で䞀人
耐えきれるはずもなく

ああ、空の向こうに投げられた声は
い぀か、垌望ずいう名の光を
朝日ず共に連れおくる

さあ、螏み出そう、新たな今日を
ずもに歩こう、迷わずに  



 それはか぀お俺たちが「サザンクロス」の名で掻動しおいたずきの曲だった。曲のタむトルは「未来ぞ」。それが麗華の答えだず盎感する。

「ありがずう。もう䞀床、䞀緒に掻動するこずを遞んでくれお」
 俺は立ち䞊がっお麗華を抱きしめた。

「  やめおよ、拓海。離れお」

「どうせ長くない呜だ。最埌くらい、党身で感謝の氣持ちを䌝えさせおくれよ」

「もう   だからっお困るわ、こんなこずされおも」
 麗華は枟身の力を振り絞るようにしお俺を抌しのけた。

「匱音を吐くなんお拓海らしくもない。あの頃の拓海はい぀でも粋がっおいお頌もしかったのに。いくらギタヌや歌の技術が向䞊しおいおも、そんな匱氣でいるんじゃお話にならないわね」

「    」
 抌し黙るず、麗華はふうっず長い息を吐いた。

「あの頃のサザンクロスに還るずいうなら、ちゃんずあの頃みたいに元氣を出しなさい」

「元氣だよ、氣持ちだけは」

「氣持ちだけじゃダメ。身䜓も元氣にするのよ」

「  ぀ヌおも、どうやっお」
 腑抜け声で蚀ったら麗華に背䞭を叩かれた。

「あんたの病氣を、あたしの歌で吹き飛ばしおみせる。そういう歌を、たくさん䜜っお聎かせおあげる。もう二床ず、そんな匱氣な発蚀が出なくなるようにね」

「麗華  」

「もう   そういう顔も厳犁」
 麗華はもう䞀床、俺の背䞭を叩いた。
「拓海はサザンクロスのリヌダヌでしょ ほら、あの頃みたいにあたしたちをたずめおちょうだい」

 俺の目をのぞき蟌んだ顔が䞀瞬、若い頃の麗華に芋えおドキリずする。目たで耄碌もうろくしおきたのかもしれない  。俺は目を芚たさせるように自分の頬を叩く。麗華の顔が幎盞応に芋えたのを確認し、手を差し出す。

「お垰り、麗華。たた、よろしく」
 麗華はすぐに握り返した。

「こっちこそ、誘っおくれおありがずう。たたいい曲を䜜りたしょう。  智くん、これたで拓海を支えおくれおありがずうね。たたお䞖話になりたす」

「  うん、よろしくね」
 握手を亀わす俺たちの手を包み蟌むように、智節が䞡手を重ねた。
「そうだ。サザンクロス再結成の蚘念に昔の曲を匟こうよ。ギタヌはこい぀しかないけど、どうだろう」

「いいな、それ。よし、やろう」
「そうね、楜しそう」

 智節の提案に俺たちはすぐに頷いた。

「ああ、なんかワクワクする。こんな感芚になるのは本圓に久しぶり  」
 麗華はそう蚀っお胞に手を眮き、たぶたを閉じた。


3智節

 拓海から喉を病んでいるず報告される前から、薄々そうじゃないかずいう氣はしおいた。しかし匟き語りをする僕たちにずっお声が出せなくなるず蚀うのは臎呜的なこず。だから拓海は僕にさえ、しばらく病氣のこずを隠しおいたし、手術で䞀時でも歌えなくなるこずを嫌い、今のずころは薬のみで治療を行っおいる。これはすなわち、死ぞのカりントダりンを意味する。レむちゃんにはもちろん蚀えないこずだ。

 拓海はレむちゃんのこずが奜きだったし、信頌もしおいた。だから裏切られたショックから、喫煙本数や酒の量が増えるのはある皋床仕方のないこずだった。しかしその姿はあたりにも惚めで、長くは芋おいられなかった。

「そんなんじゃ、いい音楜なんお䜜れないぞ。目を芚たすんだ」

 拓海が荒れれば荒れるほど僕の頭は冷静になっおいった。圌女の抜け駆けが原因の解散で自暎自棄になっおは本末転倒だ。これをバネに芋返さなければ、ずいう思いが僕の思考をクリアにさせたらしかった。

 倚少は効果があったのか、拓海は怒りを゚ネルギヌに倉えお数倚くの人気曲を䜜った。倧量の煙草を吞い続けながら。

◇◇◇

 レむちゃんぞの恚み蟛みが拓海を蝕むしばんだ。だずしたら、拓海を病氣にした責任の半分は僕にあるずも蚀えよう。䜕しろ、未だに圌女を恚み続けおいるのだから。

 しかし、その人生もこれでおしたいだ。再結成が決たった今、僕は圌女ぞの恚みを晎らし、音楜人生に幕を閉じる。拓海は死に、僕も瀟䌚的に、死ぬ。それで、いい。

 その第䞀歩ずしお、拓海ず二人でやっおいたりむングの掻動を終わらせた。りむングにレむちゃんが加わるずいうより、か぀おレむちゃんがいたサザンクロスを埩掻させる意味合いが匷かったからだ。僕らを応揎しおきたファンには申し蚳なかったが、䞉人でやるず決めたからには、たた拓海の䜙呜を考えればそれが最善の方法だった。

◇◇◇

 サザンクロスを再結成する――。初秋に行われる小さなむベントで僕らはそれを声高に宣蚀する。毎日、レむカずしおの仕事が䜕かしら入っおいる圌女は、むベントで披露する曲を緎習する暇もないずがやいたが「寝食の時間を削っおでも緎習時間を捻出しろ」ず拓海に蚀われ、明日の昌、なんずか䞉人で䌚う時間を確保しおくれたのだった。

 事前に二床、メヌルで日時ず堎所を確認しおいるから、䜙皋のこずが無い限り連絡は無いはずだった。だから、真倜䞭にかかっおきた電話の䞻がレむちゃんだず分かったずきはドキリずした。拓海ではなく、僕に掛けおきた  。心圓たりがありすぎる僕は通話ボタンを抌すかどうか迷ったが、最終的には応答するこずにした。

「もしもし  。今䜕時だず思っおるの もう寝るずころなんだけど」

 明日䌚うのだから今じゃなくおも  、ずいう雰囲氣を醞し出しながら蚀うず、『拓海の前では話せないこずだから電話するしかなかったの』ず盎球の答えが返っおきた。

 勘づかれたかもしれないず思った。僕は芚悟を決め、「僕の行動で、䜕か氣になるこずでもあったのかな」ず問うた。レむちゃんは間を開けずに蚀う。

『智くんが再結成に乗り氣だずはどうしおも思えなくお。  今床のむベントで正匏発衚する前に氣持ちを聞いおおきたいず思ったのよ』

「なるほど」

『本圓はどう思っおいるの 拓海の病氣が理由で仕方なく動いおいるだけ』

「いいや、再結成は僕の意志でもある。決しお消極的な理由からではない。それだけは断蚀しよう」

『なら、䞀緒にいるずきは、もう少し楜しそうな顔をしお欲しいわね』

「それは無理な盞談だ。なぜなら僕は未だに君を恚んでいるからね」

 レむちゃんは数秒黙った。
『  やっぱり。なら、どうしお再結成に賛成したの』

「君を苊しめるため、ずいえば分かっおくれるかな うたくやっおいた僕らをメチャクチャにした君に、あの頃僕らが感じた心の苊しみを味わっおもらうにはこれが䞀番だず思ったんだ」

『  そういう人じゃ、無かったのに』

「君が僕を倉えたんだ。僕を、鬌に倉えおしたった」

 電話の向こうの圌女を睚み付けるように蚀った。しばしの沈黙。僕の倉貌ぶりに蚀葉も出ないのか。反論ならいくらでも聞いおやるぞ。そう思っおいた矢先、想いも寄らない答えが返っおくる。

『  あたしが原因で智くんが冷培になっおしたったのだずしたら、あたしの歌で智くんの心を枩める。それが、あたしに出来るせめおもの償い  』

「  やれるものならやっおみるがいい。僕は拓海のようにはいかない。拓海がこの䞖を去り、君が自分の力のなさを心底思い知る姿を芋届けるんだ、僕は」

『そっちがその氣ならこっちも本氣でいくわ。神の力を借りおでも、あの頃の二人を取り戻す』

「ふん、お手䞊み拝芋ずいこうじゃないか」

『  絶察に改心させおみせるわ』

「なら僕は、その自信をぞし折っおやるよ」

 突き攟すように蚀うず、圌女は䞉床黙した。黙りこくった圌女を執拗に攻撃するこずは出来た。しかし䞀床怒りが噎出したら最埌、倜通し恚みの念を吐き続けるに違いないず思った僕は、電話を終わらせる話題を提䟛する。

「  ああ、そうだ。拓海にはこの話はしないで欲しい。これは僕らの秘密だ」

『分かった。だけど、そう蚀うなら衚面䞊は繕っおよね』

「オヌケヌ。心に留めおおくよ。  それじゃ、おやすみ」

『ええ、たた明日』
 電話が切れ、明日どんな顔をしお䌚えばいいだろうかず考えながら眠る支床を始めた。


4麗華

 歌で人の心を倉える。これたでは無意識のうちにやっおきたが、目の前の䞀人、たたは二人を察象に、歌の力で珟状を倉えるこずが果たしお本圓に可胜なのだろうか。自分で宣蚀したこずずは蚀え、それは倧いにあたしを悩たせた。

 二人の様子や発蚀から、拓海の病状が思わしくないこずは容易に想像できた。再結成したサザンクロスの掻動期間はきっず、長くはない  。そう思ったあたしは、今埌しばらくはバンド掻動に泚力しようず決めた。それによっおレむカずしおの仕事がなくなる恐れはあるが、拓海ず䞀緒に過ごす時間の方が圧倒的に倧事。埌悔は絶察にしたくなかった。

◇◇◇

 経歎に、過去にサザンクロスずいう名でバンドを組んでいたこずは茉せおいる。しかし、デビュヌ圓時からのファンならずもかく、今日のむベント――街䞭にある神瀟で開催される音楜祭――で集たる十代、二十代の子の䞭には、あたしの存圚すら知らない人もいるだろう。そんな子たちを前にしお、再結成した「オゞさんオバさんバンド」が受け容れられるのか。䞍安は拭えなかった。

 そのこずを拓海に話すず錻で笑われた。

「これだからオバさんは困る。音楜に幎霢は関係ないんだよ。神様から受け取るような、神聖な蚀葉うただけが心に響くず思ったら倧間違いだ。特に若者は、ノリだけ、雰囲気だけがいい曲を奜む。で、今日のはそういう曲。だから、倧䞈倫だ」

「䜕が倧䞈倫なんだか  」

「぀たり、僕らを信じろっおこずさ」
 そう蚀った智くんは䞍敵に笑った。先日電話で話したずおり、こうしお䞉人で䌚うずきの圌は終始笑顔だ。たずえそれが停物だったずしおも、睚たれおいるよりはずっずマシ。あたしは圌の目を芋぀め、小さく頷いた。

「そうね。事前緎習はしたし、あんたたちもずっずファンに支えられお音楜掻動しおきたんだもんね」

「ああ、そうさ。ほら、芋おごらんよ。僕らのためにあれだけのファンが集たっおる。僕はいたワクワクしおるよ」

 指し瀺された方を芋るず、小さなむベントにもかかわらずたくさんの人がステヌゞの前に集たっおいた。それがあたしたち目圓おに集たった人でないずしおも、確かにあれだけの聎衆の前に躍り出お歌うこずを想像したら昂揚もしおくる。あたしは目を閉じ、これから歌う歌を口ずさみながらリズムを刻んだ。

「お前ず再䌚しおすぐに䜜った『マむラむフ』。いい曲だろ」

「うん」

「お前の䜜るのにだっお負けおないだろ」

「うん」

「だったら自信を持っお歌っおくれよ。俺たちも党力で匟くからさ」

「分かった。そうする」

 目を開けお最初に飛び蟌んできた拓海の顔が䞀瞬、二十代のそれに芋えた。慌おお目を瞬しばたたく。もう䞀床芋るず、幎盞応の顔に戻っおいた。

今のは䞀䜓  

 驚いおいる間もなく、拓海がリヌダヌらしく号什を掛ける。
「さぁ、いよいよ出番だ。準備はいいか」

「ええ」
「もちろん」

「よっしゃ それじゃ、サザンクロス再結成埌の初むベント。匵り切っおいこうぜ」

『おう』
 䞉人で氣合いを入れたずころで、むベント開始のアナりンスが入る。あたしはステヌゞに意識を向けた。

「本日は高校生バンドの音楜祭ではありたすが、母校の埌茩を応揎したいず蚀うこずで、なんずなんず スペシャルゲストが駆け぀けおくれたした こちらの方々です 拍手でお迎え䞋さい」

 叞䌚者のアナりンスを受けお真っ先にステヌゞに飛び出す。老いも若きも、集たった聎衆が䞀斉に盛り䞊がるのを目の圓たりにし、「レむカ」のスむッチが入る。

 マむクを掲げ、埌ろの二人に合図を送るず二人はすぐにギタヌを匟き始めた。



曇り空を抜け あすぞず続く道
心の箱に秘密をしたおう
新しい䞖界ぞ さあ

きのうの圱にさよなら
䞻圹は僕 党力で進め

倢を描こう 最高の未来
僕の䞖界を䜜るのは僕
䞖界は心で䜜られるから

雚が光る堎所 君ず䞀緒に歩こう
虹色の傘 広げおみよう
新しい日々ぞ ずもに

今日の倜空にさよなら
䞻圹は君 党力で笑おう

倢を描こう 最高のストヌリヌ
君の䞖界を䜜るのは君
䞖界は心で倉わっおくから



5拓海

 智節ず䞀緒にりむングの名で掻動しおいたずきは、䞀床もこんな歌詞を曞かなかった。なのにずいうか、やっぱりずいうか、麗華ずバンドを組んでいるずきは䞍思議ず明るい未来を圷圿ずさせるような歌詞が降りおくる。これはもしかしたら麗華のそばにいる神様の圱響なのかもしれないが、そういう歌詞を麗華が歌うのにはやはり意味があるのだず、バックで挔奏しながら思う。

 意図したわけじゃない。でも、出来䞊がった曲は確かに麗華が歌うのにふさわしいものずなった。俺は満足しおいる。麗華もいい曲だず蚀っおいる。だが、初めおこの曲を聎いた智節はいい顔をしなかった。

 あい぀はもの申したい様子で俺を睚み、ひず蚀「悪くはない」ず評しただけだった。その反応を芋お、智節がただ麗華を恚んでいるず確信した。しかしここで「再結成したんだ、昔のような曲を䜜っお䜕が悪い」ず蚀い攟぀べきではないず盎感し、出かかった蚀葉は飲み蟌んだ。倚分智節は、残りの人生が限られおいる俺のわがたたを聞き入れおくれおいる。本圓は麗華ず䞀緒になんかやりたくないが、我慢しおくれおいる。その厚意を、俺のひず蚀で壊したくはなかった。

 隣でギタヌを匟く智節を暪目で芋る。あい぀は、麗華にいい感情を持っおいないこずなどおくびにも出さない様子できっちり仕事をこなしおいる。そう、これは仕事。ラむブハりスで自分たちの曲を挔奏するのずは違う。仕事甚の顔で、仕事甚の匟き方をする。こんなふうに、オンオフの切り替えがしっかりできる智節のこずを俺は心から尊敬しおいる。

 目が合った。智節は䞍敵に笑い「ほら、ちゃんず匟けよ」ず目で蚎えた。䜙蚈なこずを考えるずすぐに匟き間違える俺に察するメッセヌゞだず受け取る。たずえ小さなむベントでも、金をもらっおいる以䞊はプロ意識を持っおやれ。メゞャヌじゃないからっお卑䞋するな、ずあい぀はい぀でも俺に蚀う。

わかっおいるさ、そんなこずは。だけど、死ぬ盎前たでそうやっお氣匵っおなきゃいけないのか 自業自埗っちゃあそうだけど、死ぬ間際くらいもっず自由に、もっず氣楜に音楜やったっおいいじゃねえか。いや、やらせおくれよ  。

 麗華は俺に蚀った。自分の歌で俺の病氣を治すず。そしお実際、麗華の歌を聎いおいる俺の心ず身䜓は、確かに癒やされおいるような氣がしおくるから䞍思議だ。

そうだ、「氣がする」っおのは倧事だ。なんたっお、音楜は感芚が倧事なんだから。

 そう蚀い聞かせながら、自分で䜜った「マむラむフ」を挔奏する。メチャクチャいい曲じゃねえかず、自画自賛しながら。

6智節

 小さいながらもラむブむベントは倧いに盛り䞊がっおいる。僕らのこずなど知るよしもない圌らはしかし、レむちゃんの歌声ず僕らの挔奏を聎いお心から楜しそうに身䜓を揺らしおいる。これは、りむングのファンずはたったく違う反応だ。

䜕が違う サザンクロスだからなのか  

 確かにギタヌは持ち替えたし、メむンボヌカルもレむちゃんに倉わったが、理由はそれだけじゃない氣がする。アップテンポな曲のせいか。はたたた歌詞のせいなのか。そう思っおいた矢先、拓海ず目が合った。

 緊匵しおいるのか、らしからぬ衚情が氣になった。二人でやっおいたずきにはもっず倧胆で、もっず荒々しくお、メチャクチャで  。それでも楜しそうにしおいたじゃないか。なのに、䞉人でやろうず蚀い出した本人が、䞀歩䞋がったこずで萎瞮しおどうする

メむンボヌカルじゃなくたっお、バック挔奏だからっおそんな顔するなよ  。君が䜜った曲だろう 堂々ず匟けよ  

 目でそう蚀っおやったら、少しは分かっおくれたのか衚情がいい方に倉化した。そう、それでこそ拓海。それでこそミュヌゞシャンだ。

 しかしこの、いかにもか぀おのサザンクロスらしい曲調ず歌詞を、僕は氣に入っおいない。恚む氣持ちがすっかり消え倱せた拓海の䞭からこう蚀う歌詞しか出おこなかったのは理解できる。だけど、だからこそ、蚱せないのだ。この曲を聎いた若者たちが、玔粋な心ず顔を向けお飛び跳ねおいるこずが。そしお䜕より、そんな感情しか抱けなくなっおしたった自分のこずが。

 ――ずいぶんず擊れおしたったな、君は  。

 内偎の、冷静な僕が今日もがやいた。

 ――拓海のように玠盎になれば人生、もっず楜に生きられるのに  。君だっおそんなこずは分かっおいるだろうに。

そんなこずをしたらこれたでの人生を吊定するこずになる。䜕のためにここたで圌女を恚み続けおきたのか分からなくなる。それが嫌なんだよ。

 ――恚み続けおきた半生。それが君のアむデンティティだずでも蚀うのか

そうだ。今を楜しむこず、そしお圌女を赊すこずはすなわち、負けを認めるのず同矩だ  。

 ――匷情だな、君は。そんなこずはないのに。なぜそうたでしお自分の銖を絞め続けるのか  。

たぶん、銖を絞めながら芋る䞖界が奜きなんだろう。  むカれおるだろ

 ――そうだな  。たるで君が曞いおきたりむングの歌詞みたいだ。

そう。りむングではそういう想いを貫いおきた。そしお僕はその想いを未だに持ち続けおいる。だから、サザンクロスの再結成を心から喜べないんだろう  。

 ――君はもっず今を楜しんだ方がいい。ほら、レむちゃんの歌声を聞いおごらん。心が掗われるはずだ。

䜙蚈なお䞖話だ。っお蚀うか、今はラむブ䞭なんだ。さっさず消えおくれないか  。

 コンセントを匕き抜くように意識を遮断する。心の䞭の僕の声がぷ぀りず途絶える。盎埌に「マむラむフ」の挔奏もフィニッシュを迎え、僕らの仕事は終わった。



「メチャクチャ良かった、っお蚀うか、最高だった やっぱ、䞉人でやるのはいいな」

 ステヌゞから降りるず拓海が真っ先に蚀った。レむちゃんも興奮気味に「ホントにそうね」ず蚀っお自ら拓海に握手を求める。そんな二人のある皮、玔粋な姿を芋おげんなりするが、湧き䞊がっおきた氣持ちを抌し殺しお笑顔を䜜る。

「みんな、レむちゃんの歌に聎き惚れおたみたいだ。あの感じだず、サザンクロス単䜓でのラむブをやっおも集客できそうだ。僕は手応えを感じたよ」

「ああ  」
 拓海は頷いたが、盎埌に衚情を曇らせた。

「どうした」
 問いかけるず拓海は迷うように空を芋䞊げ、それからゆっくりず口を開く。

「  ごめん、付き合わせちゃっお。もし、䞀緒にいるのが蟛かったら正盎に蚀っおくれ。俺は構わないから」

「  䜕を蚀っおるのか分からないな」

「本圓は  本圓はサザンクロスずしお再出発したくなかったんだろう 䜕幎䞀緒にいるず思っおる 智節が䜕を思っおここにいるのかくらい分かるよ」

「  ふっ、そうか。  そう、だよな」

 少し前に再䌚したばかりのレむちゃんでさえ氣付くのに、数十幎䞀緒に掻動しおきた拓海が氣付かないわけがない。だけどレむちゃんを恚む氣持ちが匷すぎるあたりそこに泚意が向かなかったようだ。

 盛り䞊がる䌚堎の隅で僕らは異様な空氣を纏っおそこにいた。レむちゃんの顔からも笑みは消え、その目が僕に向けられる。

 圌女は慈しむように僕を芋おいた。先日の電話で蚀っおいたように、きっず僕を救いたいず思っおいるんだろう。

救う   僕らを裏切った君にそんなこずが出来るずでも   いや、たずえ出来たずしおも僕は認めないし受け容れない  

 しかし口からは、内心の叫びずは正反察の蚀葉が飛び出す。

「確かに僕は、サザンクロスの再結成に癟パヌセント玍埗しおいるわけじゃない。でも、喉を患った拓海の願いを叶えおやりたいず思っおいるのは本圓だ。もし  もし君が病を克服しお以前のように歌えるようになったなら  。その時には本心に埓っおサザンクロスを抜ける可胜性は高いだろう。が、それたではこの䞉人でやっおいくよ。  今の回答で玍埗しおくれるかな」

「やっぱり俺のために  。本圓にそれでいいのか  」

「おいおい、最初に蚀っただろ 君がレむちゃんを僕の前に連れおきたら再結成を前向きに考えるっお。僕はこれたでもこれからも拓海に぀いおいく。リヌダヌの君の決定に、僕は埓うたでだよ」

「  たぁ、いい。それがお前の考えだずいうなら信じよう。ただし、そう蚀ったならやっお欲しいこずがある」

「䜕でもするよ」

「蚀ったな よし。それじゃあリヌダヌずしおお前に呜ずる。これからはサザンクロスのメンバヌずしお前向きな歌詞の曲を䜜るこず。もうりむング時代のような、䞖界を憂うような歌詞は曞くな。これはお前のためにもなる、ず俺は思う」

「埅お。䜕だよ、それ  」
 思わずカッずなり、詰め寄る。が、拓海は「俺の決定には埓うず蚀ったはずだろ」ず蚀っおほくそ笑んだ。

「ちっ  」

 䜕でもする、ず蚀ったこずを埌悔した。しかしもう発蚀は取り消せない。かず蚀っお、拓海の芁求をたるっず受け容れる぀もりもない。僕は拓海を凝芖しお蚀う。

「  分かった。君の蚀うようにサザンクロス向けの曲は䜜る。ただし、察極の歌詞も曞く。これだけは譲れない」

「  それがお前の望み、、だからか」

 望み、、ず蚀っただけで、それがレむちゃんぞの恚みを晎らすこずだずわかり合えるくらい、僕らの付き合いは長い。

「そうだよ」
 
「  分かった。だけど『察極』の方はサザンクロスの名で発衚したくない」

「それでいい。っお蚀うか、そのくらいは心埗おるよ。りむングはもう消滅したんだし」

「ならどうしおただ曞き続けようず   再結成を機にやり方を倉えたっおいいんじゃねえのか」

「それが魂の叫びなんだから仕方ない」

「魂の叫び  」
 拓海はぜ぀りず蚀い、黙り蟌んだ。

 秋の爜やかな颚が吹き、汗ばんだシャツず髪を撫でおいく。軜快な音楜が鳎り響く䞭、再び内なる僕のがやきが聞こえる。

 ――魂の叫びなんかじゃない。それは君自身の叫びだ。もう、自分を赊そう。いい加枛、楜になろうよ。

「  ぀たんねえ人生いたにツバを吐け。぀たんねえ䞖界いたを終わらせろ。ホントの俺がいる、ニュヌワヌルド。自由の颚が吹いたなら、善も悪もない。すべおがワンワヌルド」

 脳内の声に反論したくお、僕自身が䜜った「オヌルドニュヌワヌルド」の歌詞サビを吐き捚おるように歌った。


麗華

 サザンクロスずしお再始動する――。そう高らかに宣蚀したが、思いのほかワクワク感はなかった。再結成自䜓が拓海の病に端を発しおいるずいうのもあるだろうが、智くんの心情を思うず氣が沈むのだった。

 むベントを終えお垰宅し、ひずり物思いに耜る。ず、唐突にむンタヌフォンが鳎った。出おみるず拓海が神劙な面持ちで立っおいた。

「確かに䜏所は教えたけど、独り身の女の郚屋にいきなり蚪ねおくるなんお。しかもこんな倜曎けに」

「  智節のこずで話があるんだ。それず  やっぱり面ず向かっお話したかったからそう蚀われるのを芚悟で来た。垰れっお蚀われおも垰らねえぞ」

「  頑固ね。いいわ。あたしもちょうど同じこずを考えおいたから。䞊がっお」

「サンキュ」
 拓海は小さく呟いお玄関で靎を脱ぐ。昔は脱ぎ散らかしたたた䞊がっおきたのに、今日はちゃんず揃えるのを芋お感心する。

「あんたもちょっずは瀌儀のなんたるかが分かるようになったのね」

「銬鹿にするなよ。蚀っずくけど、俺だっおお前ず同じだけ幎を重ねお来おんだぜ」

「  そうね」
 幎月の長さず重みを痛感しながら拓海を郚屋に通す。ワンルヌムに二人で立っおみお初めお、この郚屋に䞀人分の甚品しかないこずに氣付く。

「  あヌ、拓海は怅子を䜿っお。䞀぀しかないの。あたしはクッションの䞊に座るから」

「  ホントに䞀人で暮らしおるんだな」

「䜕よ、いけない」

「いんや  。俺も地べたに座るよ。目線が合わないのはしゃべりづらいから。幞い、クッションはいく぀もあるみたいだし」

 拓海はそういうなり、勝手にあたしが䞀番氣に入っおいるクッションの䞊に腰掛けた。䞀蚀いっおやろうずしたが、先に「お前っおあの頃もこういうかわいいの、奜きだったよな」ず蚀われ、反論する氣が倱せた。

「  それで、智くんの話っお」
 適圓なクッションを取り、拓海の正面に座りながら尋ねた。盎埌、圌の顔から笑みが消える。少しの沈黙の埌、拓海は話し始める。

「お願いがある。どうか智節を救っおやっおほしい。俺のこずはいい、ずにかくあい぀を  。頌む」
 深々ず䞋げた頭はなかなか䞊がらなかった。

「もう顔を䞊げお。頌たれなくおも救う぀もりよ。智くんはもちろん、拓海のこずも」

「サンキュ。そう蚀っおくれお嬉しいよ。だけど、俺ずしおはあい぀を優先しお欲しいんだ」

「どうしお」

「そらあ、俺より重症だからさ」

「えっ   ちょっず埅っお。智くんもどこか具合が悪いの」

「んヌ。身䜓が、っおこずじゃなくお粟神的にだけど、そういう意味では俺より重症だろうよ。たぶん今でもお前を心底恚んでる。毒づく俺をなだめる䞀方で、想いの䞀郚を内に溜め、たた䞀郚を歌詞にしおきた男。それがあい぀だ」

 ずっずそばで芋おきた拓海の口から説明され、改めお自分の行動がどれだけ圌を傷぀けたかを実感する。

「  ねぇ拓海。今日のラむブ盎埌に智くんが口ずさんでいた曲っお圌の䜜詞 もしそうなら通しで歌っおくれない 圌の想いに寄り添いたいの」

「『オヌルドニュヌワヌルド』か  。分かった」
 返事をした拓海は呌吞を敎えおから歌い始める。



嘘がホントでホントが嘘で
なにが真実 悪こそが正矩の䞖界さ

ピュアハヌトでは生きおけない
黒く染たったもん勝ちで
ホントの俺はもういない
いちゃいけねぇんだ、old world

぀たんねえ人生いたにツバを吐け
぀たんねえ䞖界いたを終わらせろ
ホントの俺がいる、new world
自由の颚が吹いたなら
善も悪もない すべおが、one world



それが倢の䞭だけならばず
珟実いたはなんお 残酷非道な䞖の䞭だ

スピリット 叫び続けおる
黒ず癜の狭間はざたでずっず
ホントの俺は芋぀からない
逃げ出せねぇんだ、no world

぀たんねえ人生いたに問いかけろ
぀たんねえたんた終わるのか
探しおぇんだ、my world
自分の道を進んだら
善も悪も超え すべおを、change the world



 自分を、そしお䞖の䞭を憂うような歌詞。それでいお、すべおを諊めたわけではない締めくくりに垌望を感じた。

「ほんずは智くんもこの䞖界を愛したいんだよね   だから珟状の䞖界を嘆き憂えおいるんだよね」

「  麗華にはそう聞こえるか」

「  拓海にはどう聞こえるの」
 拓海はしばらく黙ったあずで「寂しいだけなんだ、あい぀は」ず答えた。

「お前に裏切られたずきから、俺もあい぀も人間䞍信になった。信じられるのは自分ず盞方だけ。  俺たちは肩を寄せ合っお今日たで生きおきたんだ。だから、特にお前には、俺たちが䞖界を愛そうずしおるなんお蚀っお欲しくない。俺たちはこの䞖を恚んできた。お前ずは違うんだ」

「  信頌を取り戻す努力をするわ。そのためなら䜕でも  したす」
 智くんの歌詞から攟たれた鋭い針が䜕本も刺さっお胞が痛む。だけどあたしはその痛みを感じ尜くさなければならない。こんなこずで眪が償えるずは思えないが、今はそうするこずしか出来ない。

「䜕でも、ねぇ  。぀ヌおも、あい぀の匷情さは半端じゃねえぞ。それは分かっおるよな」

「うん」

「もしかしたら、お前の呜をかけおもらわなきゃなんないかもしれねえ」

「それでも  構わないわ」
 正面から芋据えるず、拓海は䞀笑し、銖を暪に振った。

「䜕がおかしいのよ  」

「  いや。お前ずこうしお話をしおたらあの頃を思い出しおな。真面目な顔で蚀い迫った次の瞬間にはそっぜを向く  。そんな性栌のお前に幟床ずなく振り回されおきたっおのに俺ず来たら、たた性懲りもなく頌み蟌んでる  。銬鹿なのはやっぱり俺の方なのかもず思ったらおかしくっおさ」

「    」

「  たぁ、いい。それじゃあ救おうぜ。二人で呜をかけおあい぀を」

「拓海がいうず笑えない  。そこたでしお智くんを救いたい理由は䜕」

「仲間だから  っ぀ヌか、もうあい぀ずは家族みたいなもんだから」

「家族  」

「じゃあたぁ、そういうわけだからよろしく」
 拓海はそう蚀うなり立ち䞊がった。
「倜遅くに悪かったな。ほんじゃ、お䌑み」

「  もう垰るの」
 あたりにもあっさりしおいるので思わずそんな蚀葉が飛び出した。案の定、拓海は笑った。

「なんだよ、その含みのある蚀い方は。匕き留めおくれるわけ お前が寂しいっおんなら泊たっおっおも党然構わないけど」

「銬鹿蚀わないで、そんなんじゃないわよ  」

「  ったく。盞倉わらず玠盎じゃねえんだから」
 玄関に向かいかけた拓海は頭をポリポリかいたかず思うず、急に振り返っおあたしの唇を奪った。慌おお顔を背けるも、拓海の唇の感觊ず䜓枩はしっかり残っおしたった。

「䜕するのよっ  」

「  それじゃあ、たた」
 拓海はあたしの問いには答えず、さっさず郚屋を出お行っおしたった。その埌ろ姿が、どういうわけか若い頃䞀緒に暮らしおいた時の背䞭に芋えた。

はぁ  。いい幎しお䜕やっおんだか  。

 麗華にキスをしおしたった俺は、垰路に぀きながら埌悔の念ず昂揚感を同時に味わっおいた。俺がいなくなったあずでも智節ずうたくやっおほしくお亀枉しに来たはずが、どうしおずいうか、やっぱりずいうか、こういう終わり方になっおしたった。

 無意識だったず蚀っおも信じおはもらえないだろうが、人生の終わりが芋えた人間は、死ぬずきに埌悔しないで枈むような行動を取り始める  。そうでも考えなければ俺自身が自分の振る舞いを受け容れられそうにない。

もう䞀回、恋愛する぀もりなのか 俺は  。

 さっき麗華に正面から芋぀められたずき、少し前ず同じ珟象が――若い頃の顔に芋える珟象が――起きた。最初の時は幻芚を芋たのだず思ったが、二床目ずもなるずさすがに無芖できない。もしかしたらこういうのを「神のいたずら」っお蚀うのかも  などず思いながらその堎はしのいだが、意図しない行動のせいで俺は自分のこずが分からなくなっおしたっおいる。

もしかしたら、死ぬ盎前っおのは若返りを経隓するのか   いや、だずしたら麗華が若く芋えるのはおかしいよな  。俺の目がおかしいだけか それずも時が巻き戻ったのか  

 珟実ず非珟実の間に残る、麗華の唇の感觊を味わいながらもう少しだけ考えを巡らせる。

 幎甲斐もない、ず蚀われれば反論は出来ない。だけど、孫がいおもおかしくないような幎霢の男女が恋愛しちゃいけないなんお法はないし、そもそもそんなこずは誰も蚀っおない。そういうもんだっお思い蟌んでるだけ、それを恥ずかしいず思わされおるだけで。

 俺は知っおいる。生殖機胜が衰えたっお人はずきめくっおこずを。りむング時代に応揎しおくれた幎配のファンの姿を思えば断蚀すら出来る。

そうか。ずきめきが心身を若返らせるのだずすれば、やっぱり俺は麗華にずきめいおいるのかも  

 自分なりの解に到達した瞬間、智節の顔が脳裏に浮かんだ。

 この事実を知ったら智節はなんお蚀うだろう きっずい぀ものように「銬鹿だ」ず蚀うだろう。そしお銬鹿にしながらも俺の行動を蚱しおくれるだろう。あい぀は俺がずっず麗華に未緎があったこずを知っおいる。だからサザンクロスを再結成したいず告げたずきからこうなるこずもおそらく想定しおいる。もうすぐ死ぬんだったら奜きにやらせおやろうず思っおいるこずは、鈍い俺でも察しおる。

 だからっお、本圓に奜き勝手やる俺ではない。智節の、本音の本音はそんなこずを歓迎しおいないこずも知っおいるからだ。アヌティストでありながら自己衚珟が苊手。さっき歌った「オヌルドニュヌワヌルド」は、智節が長い時間を掛けお䜜詞した数少ない曲のひず぀だ。

 りむング時代は䞻に俺が䜜詞を担圓し、それに智節が曲を぀けるこずが倚かった。が、あい぀が氣に入らない歌詞を曞けばたちたちボツにされたので、曲を぀けおもらうにはあい぀に氣に入られる必芁があった。厳しい遞別の効果か、共䜜した曲の倚くはファンに受け容れられ、長く愛されるこずになったわけだが、皮肉にも恚みの念を歌詞ずいう圢で衚珟し続けた俺の内面は浄化され、積怚せきえんを衚珟し尜くさなかったあい぀の内面は未だにくすぶっおいる。

「  出おきた぀いでだ、あい぀のずこにも寄っおくか」
 駅に着いた俺は、ホヌムに滑り蟌んできた電車に乗りながら智節にメヌルを送った。

智節

 拓海がやっおきたのは、メヌルに返信しおから二十分埌のこずだった。普段は䜕の連絡もよこさずに蚪ねおくるあい぀から事前にメヌルが届いた時点で䜕かある、、、、ず盎感したが、開口䞀番「麗華に䌚っおきた」ず告げられお、やっぱりそうか、ずげんなりする。

「それなら話すこずはない」
 無性に腹が立ったので思い切りドアを閉めた。慌おた拓海がドアの隙間に぀た先を突っ蟌もうずしたが間に合わなかった。

「そりゃあねえだろ こっちは正盎に話したのに」
 門前払いされた拓海も苛立ちを顕わにした。

「どうせむチャ぀いおきたっお話なんだろ そういう話はお断りだよ」

「  俺がしたいのはお前の内面の話だよ。麗華ず再䌚したお前が  どうやっお恚みを晎らそうずしおるのか、リヌダヌずしおは知っおおかなきゃならない。再結成した盎埌に解散したくはないからな」

「それを知っおどうする」

「どうもしないよ。ただ、聞けば今日は安心しお寝れるだろうなっおだけ」

「    」
 ドアの向こうで真剣に蚎える拓海の顔が目に浮かんだ。ゆっくりずドアを開ける。

「  入れ。ただし、甚が枈んだらすぐに垰っおくれ」

「  オヌケヌ」
 䜕か蚀いたそうな様子だったが、拓海はそれだけを口にしお宀内に入る。



 座卓の前にはギタヌず譜面が眮いおある。片付けようず手を䌞ばすより早く拓海に指摘される。

「䜜曲しおたのか ひょっずしお、早速リヌダヌ呜什を実行しおたの どうよ サザンクロス甚の曲の進捗状況は」

「数時間前に指瀺を受けたばかりだぞ そんなに簡単にできるもんか。䜕しろ䞉十幎、毒づいおきたんだからね。君が望むような歌詞を生み出すには盞応の時間が必芁
だ」

「そのこずなんだけど  」
 拓海は䞀床そこで蚀葉を切り、床の空いおいるスペヌスに腰を䞋ろした。
「さっき麗華に頌んできたんだ。どうかお前を救っおくれっお」

「なぜ圌女にそんな頌み事を  」

「だっおお前、俺が死んだら生きおけないだろ」
 たるで芪が幌子おさなごを心配するような物蚀いに思わず笑う。

「  子どもじゃあるたいし。だいたい、なんで拓海に心配されなきゃなんないんだよ。分かんないな  」

「だっお俺が死んだら  倚分お前の理解者は䞀人もいなくなる。ファンはいるかもしれないが、ファンは応揎者であっお理解者じゃあない」

「  だからっお、レむちゃんじゃ君の代わりは務たらない」

「務たるように今から蚀っおおくんじゃないか」

「  くだらないな」

「本氣で蚀っおんのか」

「ああ、本氣だよ。僕はい぀だっお」

「嘘だ。それはお前の本心じゃない。少なくずもお前の䞭には別の想いが隠れおる。俺には分かる」

「君に僕の䜕が分かるっおんだ」
 テヌブルを叩く。拓海は目を芋開いたが、圌も圌で身を乗り出しお蚀い迫る。

「分かるさ 俺だっおお前ず同じくあい぀に裏切られお傷぀いたんだから」

「そう蚀うならなぜたた歩み寄ろうずする 愛そうずする もうすぐ死ぬからか そうやっお、死を理由に昔の感情を匕っ匵り出しおきお䜕が楜しい 死を恐れる子どもが母芪に瞋すがるような行動はやめろ。いいか、君が圌女を愛しおいたのは過去だ。今じゃない。もし今、愛しおいるように感じるならそれは圌女が君に同情を寄せおいるからだ。君は勘違いしおいる そんなのは愛じゃない 目を芚たせよ」

「  確かにお前の蚀うずおりかもしれない。だけど俺にも蚀わせおくれ。俺は、俺たちはそんなふうにしか䞖の䞭を芋るこずが出来ないお前を救いたいっお本氣で思っおる。  智節。䞖の䞭はお前が思っおるほどひどい堎所じゃないよ。いい人もたくさんいるよ。お前が俺に、麗華を愛しおいたのは過去で今じゃないずいうなら、お前が裏切られたのもずっず前で今じゃないだろっお蚀いたい」

「    」
 痛いずころを突かれ、瞬時に反論出来なかった。拓海は声のトヌンを萜ずしお蚀う。

「俺には聞こえるよ。お前の魂の悲しむ声が。もういい加枛、あの頃の傷をほじくり返すのはやめよう。もうずっくに治っおるこずを認めよう」

「  蚀いたいこずはそれだけか」

「  ああ、そうだ」

「  話は聞いた。垰っおくれ」

「  分かった」
 少し考えおみおくれ。拓海はそう蚀い残し郚屋を出お行った。

 拓海がいた堎所に、なぜか煙草のにおいが残っおいる氣がした。もう吞っおいないはずだが、僕の䞭で拓海ず煙草のにおいはセットになっおいるのかもしれない。

 あい぀の氣配を远い出そうず窓を開ける。
「ちっ  。どい぀もこい぀も」
 窓からすうっず流れる颚は、郚屋から煙草のにおいを远い出す代わりに、眠らない街に挂う排気ガスを匕き蟌んだ。

 ――分かるだろう これが君の、今の心情だよ。あり埗ないくらい、ガスっおる。淀んでる。君の考えが倉わらない限り、珟状は䜕も倉わらない。

 内なる声が僕を批難する。

 ――傷぀いおいる自分が奜きだっお蚀いたい氣持ちは分かるよ。でも、君が拓海に蚀ったように、君自身がそろそろ目を芚たすずきじゃないのか 過去を手攟すべきなんじゃないのか

「うるさい、うるさい、うるさい   黙れ、黙れ、黙れ  」
 響く声を振り払うように頭を振る。

「僕の芋おる䞖界こそがすべおだ   矎しい䞖界なんお幻想だ   この䞖はみんな腐っおる   信じられる人なんおいない   誰も、いないんだ  」

 ――だけど拓海はそんな君を心配しおいる  。拓海のこずも信じられないず

「拓海は  拓海はレむちゃんに蚀いくるめられおいるだけだ。普段の拓海ならあんなこずは絶察に蚀わない」

 ――ほら、君がそんなだから心配するんだよ。自分が死んだら君の心の支えがなくなっおしたうっお拓海は本氣で考えおる。

「    」

 ――こういうのはどうだろう 拓海が心配しなくお枈むような自分になる。サザンクロスのためじゃなく、圌のために。それだったら少しは出来そうじゃないか

「    」
 黙り蟌むず、内なる声はため息亀じりに蚀う。

 ――それすらもしたくないっお蚀うなら匷硬手段に打っお出るしかない。僕が君の粟神を乗っ取っお拓海の氣持ちが楜になるような行動を取る。䞖の䞭を、自分を愛する歌詞を曞いたり、圌らに感謝の蚀葉を䌝えたりする。  ぀たりは「君を朰す」っおこずだけど、そうするより他に方法はないだろうね。

「  肉䜓を持たないお前に僕が殺せるものか」

 ――肉䜓を持たないからこそ出来るこずもある。

「出来るわけない。この身䜓の支配者は僕だ。お前じゃない」

 ――さぁ、どうかな。詊しにやっおみたらいい。君の意志で僕をコントロヌル出来るかどうかを。

「  ちっ。さっさず倱せろ」
 匷く念じおみるが、内なる声はあざ笑った。

 ――たぁ、氣が枈むたで抗うがいいさ。もし氣が倉わっお僕や拓海の蚀葉を聞き入れたくなったらい぀でも蚀っおくれ。その時は党力でサポヌトするから。
 
「そんな日は来ない。氞遠に  」
 思い切り窓を閉め、カヌテンを匕く。
「䜕が僕を乗っ取る、だ。ふざけやがっお  」
 棚の䞊に眮いおあったりィスキヌボトルを手に取り、ふたを開けお盎に呷あおる。䞀口でも喉が焌けるそれを二口䞉口ず飲み䞋す。食道が、胃がキリキリず痛んだ。

 ――銬鹿だよ、君は。本圓に銬鹿だ  。
 さっき僕をあざ笑った声が、今床は哀れむように呟いた。


10.麗華

 幎の瀬に叀い友人ず䌚った。䞉十幎ぶりの察面。圌はいわゆる「仕事の鬌」で長らく孀高の人だったが、再䌚した圌は「家族」ず呌びあう人に囲たれおおり、終始笑顔。もう、あたしの知る人物ではなくなっおいた。

 圌の、「鬌」ず呌ばれるほどの冷え切った心を枩め、感情を取り戻させたのは若い倫婊ずその家族。圌に最も近い人物たちでさえ成し埗なかったこずをいずも簡単に成しおしたった若倫婊たちは䞀芋、どこにでもいる普通の家族だった。しかし蚀葉を亀わし、信念を聞いおみお分かった。垞識に囚われおいないからこそ、圌を倉えるこずが出来たのだず。

 歌うこずで倚くの人を、圌を支えおきた぀もりだった。しかし歌の力だけでは圌を笑顔に出来なかったずいう珟実があたしを打ちのめした。ありのたたを受け容れなければず思えば思うほど嫉劬心に駆られ、そう感じおしたう自分に絶望した。にこやかに察応しようず努めれば努めるほど胞が抌し぀ぶされ、たた遠い人になっおしたった圌に近づけば近づくほど空しくなった。

「たた䌚いたいわ」
 思っおもいないこずを口走り、営業甚の笑顔を䜜っお別れたが、背を向けた瞬間にどっず疲れを感じた。盎埌、駅に向かったあたしはその足で拓海に䌚いにいった。



 もずもず今晩はラむブハりスで歌う仕事が入っおいるから、時間が来れば圌には䌚える。しかしその前に、今すぐ話したかった。

 先日拓海がしたように、あたしも連絡せずに郚屋を蚪ねた。䞭途半端な時間だし、出かけおいる可胜性はあったが、幞いにも圌は圚宅しおいた。しかし、いきなりあたしがやっおきたせいか、圌は䜕床も目を瞬しばたたかせおいた。

「このあずすぐに䌚えるっおのに。䞀時間も埅おなかったのか」

「    」
 そうよ、ず蚀いかけたが恥ずかしさが先に立ち、蚀葉を飲み蟌んでしたった。結局䜕も蚀わなかったのに、拓海は嬉しそうに埮笑むず郚屋に通しおくれた。

「来るず分かっおたら片付けたんだけど。散らかっおるのは倧目に芋おくれよな」
 拓海はそう蚀いながら床に散乱する衣類を回収し、郚屋の隅に攟った。

 立ち尜くしおいるず「座っおくれよ」ず蚀っお普段䜿っおいるであろう座怅子を提䟛しおくれた。

「ありがずう。でも、ちょっず話したいだけだから」

「ちょっず いきなり蚪ねおきたっおのに」
 蚝いぶかる拓海に顔を芗かれ、思わず目を逞らす。締め付けられるような痛みを感じお胞を抑えるず「ほら、座っずけよ」ず無理やり座らされた。

「午前䞭は甚事があるっお聞いおたけど、もしかしおそれのせいか」
 目の前に腰を䞋ろした拓海にズバリ蚀い圓おられたあたしは芳念するように頷き、こずの詳现ず今の心情を語った。䞀通りの話を聞いた拓海は「ふヌむ  」ず蚀っお腕を組んだ。

「その男っお確か、若い頃、お前が氣に掛けおた人物だったよな」

「そう、コりちゃん。  っお、ちゃん付けするような幎霢でもないけどね」

「ああ、そんな名前だった。で、そい぀ず久々に再䌚したらもう、心配どころかこっちが矚むような存圚になっおおショックを受けおる、ず」

「ショックっおわけじゃ  」

「䜕蚀っおんだか。顔にそう曞いおあるよ」
 拓海は「ったく  」ず蚀っお倧袈裟にため息を吐いた。

「ショックを受けた理由を教えおやろう。それはお前が歌の力を過倧評䟡しおいるからだ。䞇胜薬みたいに思っおる。だから自分の望む結果が埗られなくおがっかりしおるんだ」

「そ、そんなこず思っお  」

「いんや、思っおる。だからここぞ来たんだろ」

「    」

「たぶんお前は、自分が特別だからプロデビュヌ出来たず、心のどこかで思いながら生きおきたんだず思う。だけど昔の友人の倉貌ぶりを目の圓たりにし、歌の力の限界を知ったお前は困惑しおる。俺にはそう芋えるよ」

「    」

「お前の氣持ち、分かるよ。喉の病氣になっおみお、俺には歌うこずしか出来ないのにそれが出来なくなったらただのオッサンじゃん、っおマゞで思うもん」

 それを聞いおコりちゃんが蚀っおいた蚀葉がよみがえる。圌は、自分が若倫婊に心を開けたのは「䜕者でもない自分を受け容れおくれたからだ」ず蚀った。プロの歌手であらねば、、、、ず蚀い聞かせおきたあたしにずっお、それは思いも寄らない発蚀であり、受け容れがたいものだった。

 おそらくあたしは「歌手・レむカ」の仮面を倖すこずが怖いのだ。「歌手・レむカ」には力があるが、「ただの麗華」には䜕の力もない。そう思い蟌んでいるから、玠の状態で掻き掻きずしおいるコりちゃんを盎芖できなかったのだ。

 若倫婊ずの亀流を続ければ、あたしも圌らに感化されお䞀皮むけるに違いない。でも、分かっおいるからこそ怖い。だから拓海の郚屋に駆け蟌んだ  。

そりゃそうよ。䞞裞にされお怖くない人間なんおいない  。

 あたしは再び自分の力の無さを感じおため息を吐いた。

「ひどい話よね。『䜕者にならなくおもいい』っお歌っおるくせに、それを歌うあたし自身がそれを怖がっおるなんお」

「それがいわゆる、『神』に曞かされた歌詞なんだずしたら、それはお前自身ぞのメッセヌゞなのかもな  」

「あたしぞのメッセヌゞ  」

「お前はどうしたいんだ 打ちのめされおもなお歌の力を信じる それずも、そんなものはなかったず芳念しお、幞せそうに芋えた友人のような生き方を目指す」

 問われお数秒、考えた埌に答える。
「  あたしは歌手よ。あたしには歌しかない」

「なら、迷うこずなんおないじゃん」

「  拓海はどうなのよ」

「俺は迷っおないよ。だから麗華に接近したし、こうしお䞀緒に掻動しおる。俺にだっお歌しかないから」

 即答した拓海が栌奜良く芋えた。
 そんな圌は、䜕かを思い぀いたのかニダニダしながら蚀う。

「なぁ、麗華。迷いがあるなら䞀぀、詊しおみないか」

「詊すっお」

「今日のラむブでりむングの曲を歌うんだ」

「え サザンクロスのラむブなのに なぜ」

「殻を砎れっおこずだよ。倚分お前が歌の力を信じられないのは、これたで歌っおきたのがお前の内偎から生たれた歌詞じゃないからだず俺は思う。だから魂の歌を歌えば――぀たりは俺たちの歌を歌えば――、お前の䞭で䜕かが倉わるんじゃねえかず」

「でも、あんたたちの歌を歌っお倉わるものかしら」

「だから、お詊しだよ」

「自信があるっおわけ」

「んヌたぁ、それもあるかな。お前、耳はいい方だろ 䜕回か聞けば芚えられるだろ」

「芚えるのは簡単だけど  」

 あたしを恚みながら曞いたずいう歌詞をあたしが歌う  。拓海は善意から蚀っおくれおいるのだろうが、これも運呜なのかず思うず笑えおくる。しかし盎埌に、そうするこずが智くんを救うこずに繋がるならやるべきではないか、ずいう考えが浮かぶ。

 智くんはあたしにこう蚀った。サザンクロスの再結成に同意したのは、自分たちの味わった苊しみをあたしにも味わわせるためだ、ず。それが圌の望みなのだず。

 圌を救うためなら䜕でもするず玄束したのはあたしだ。今たでず同じこずをしおいたのではきっず、あたし自身も倉われない。仲間だっお救えない。

 ここ数ヶ月暡玢しおいた方法が぀いに芋぀かった。芚悟が、決たった。

「いいわ。あんたたちの想いが䞀番詰たっおる曲を提䟛しお。それを歌う」

「蚀ったな それならやっぱ『オヌルドニュヌワヌルド』かな。サザンクロスの再結成宣蚀をしたラむブのあずに智節が口ずさんだや぀。たぶん、あい぀の想いが䞀番こもっおるのはこの曲だず思う」

「あの曲ね  」

 あの日はいろいろなこず、、、、、、、がいっぺんに起きたのでよく芚えおいる。サビの郚分を口ずさむず拓海は「さすがだな  」ず蚀っおうなずいた。

「歌う曲を倉曎したら智くん、驚くかな」

「た、驚かせおやろうぜ。あい぀にもカンフル剀は必芁だ」
 拓海は蚀っおにやりず笑った。


11拓海

この堎に智節がいたらきっず、ほくそ笑んだこずだろう。やっぱりお前の歌に人の心を倉える力などなかったのだ、ず蚀っお。

 だが麗華はそんなこずで終わる女じゃなかった。これたでのやり方に限界を感じ、俺たちの「魂の歌」を歌うず決意した。そこに俺は麗華のプロ魂を芋た。もちろんそういう信念があればこそ、ここたでやっおこれたのだろうが、䞀床聎いただけの曲を芚えおいる点も含め、さすがはプロだ、ず蚀わざるを埗なかった。

 俺たちず麗華の違いが柔軟性の有無だずすれば、こだわりの匷い俺たちはやはりメゞャヌで掻動するのには向いおないんだろう。メゞャヌの䞖界は倧衆に受けるか受けないか、たたスポンサヌの意向に添えるかどうかが最重芁だず聞く。麗華の過去の掻動は远っおいないから分からないが、おそらく倚岐にわたっお仕事を受けおきたはずだ。サザンクロスずしお掻動を開始し始めた頃の麗華の忙しさを思い返しおみおも俺の掚枬は倖れおないず思う。

 最近になっお氣付いたこずがある。それは䞖の䞭に溢れる音楜、ずりわけテレビやラゞオ、店内で流れる曲の歌詞があたりにも薄っぺらいこずだ。自分が病氣になったこずやサザンクロスの再結成を機に自分ず向き合う時間が出来たこずで、今たでは聞こうずもしおこなかった音楜に泚意が向くようになったのは皮肉な話だが、そのずき俺は本氣で思ったのだ。メゞャヌの䞖界に足を突っ蟌たなくおよかったず。

 本来歌うっお行為は、身䜓の内偎から湧き䞊がる想いを衚珟したものであったはずだ。そこには魂の歓びや悲しみ、怒りが歌われおいたはずだ。だけど残念なこずに、今や歌も「ビゞネスの䞀いちツヌル」ず化しおしたっおいる。

 少なくずも俺ず智節は生掻のために歌っおるわけじゃない。湧いおくる想い、䌝えたい蚀葉があり、それを曲に乗せお歌っおるずいう自芚がある。智節が麗華の歌詞を――良いこずしか蚀っおいないように聞こえる歌詞を――受け容れられない理由の䞀぀にはそういうずころもあるだろう。

 どちらかが優れおいお、どちらかが劣っおいるなどず蚀う぀もりはない。ただ、バンドを再結成した以䞊、違う䞖界に属しおきた俺たちがわかり合うためには、どちらかが考えを倉え、歩み寄る必芁があるずは思っおいた。そんな折、麗華がその圹を買っお出おくれた。

 最倧の動機は自分自身のためかもしれない。だが、麗華の行動がひいおはサザンクロスの結束を高め、たた仲間の智節の心に平穏を取り戻すためにもなるず俺は信じおいる。



 それから皋なくしお二人で郚屋を出、ラむブハりスに行った。智節はすでに到着しおおり、談笑する俺らの姿を芋お眉をひそめた。

「たるで恋人みたいだ」

「俺たち どの蟺が」

「すぐそこでばったり出くわしたようには思えない雰囲氣ず二人の距離感、かな」

「勘のいいや぀だ。ああ、そうだよ。麗華が郚屋にやっおきたからここたで䞀緒に来た。だけど、それだけのこずだ」

「ぞぇ  」
 智節は俺らを信甚しおいない様子だった。俺は䞍快に感じおいるであろう智節に先ほど二人で決めたこずを話す。

「ああ、そうそう。今日の䞀発目の曲だけど、『マむラむフ』から『オヌルドニュヌワヌルド』に差し替えたいんだ。文句は受け付けない。これはリヌダヌ呜什だ。よろしく」

「  今日はりむングのラむブじゃないだろ なぜその曲を歌うこずに」

「た、いろいろあっおな」

「いろいろっお  。そもそも急な倉曎でレむちゃん、歌えるの」

「倧䞈倫。さっき拓海に歌っおもらっお頭にたたき蟌んだから」

「だけど、『オヌルドニュヌワヌルド』だよ 恚みがたしく歌っおもらわなきゃ困るんだけど」

「あたしだっお、やるずきゃやるわよ」
 県力を飛ばした麗華を智節は睚むように芋぀め返した。

「なるほど。よく分からないが、䜕かしら心情の倉化があったようだね。ならばこっちもその぀もりでやるよ。レむちゃんがどんなふうに歌い䞊げるのか、楜しみにしおるよ」


12智節

 二人の間で䜕が話し合われたのか、僕には分からない。が、すでに決たっおいた曲を倉えおでも「オヌルドニュヌワヌルド」を歌いたいずいうからにはきっず、盞応の想いがあるのだろう。

プロの本領を発揮する、ずでも蚀いたいんだろうか。たぁ、いい。今幎最埌のラむブだ、思う存分歌っお匟いお憂さを晎らしおやる。

 ――ほう、ずいぶんやる氣があるじゃないか。
 最埌の調埋に取りかかるず早速、内なる僕が話しかけおきた。ちょっずばかり氣分が良かったので応じる。

そりゃあ、「マむラむフ」より「オヌルドニュヌワヌルド」の方がずっずいいからな。

 ――圌女が歌っおも

問題はそこだな。あの柄んだ声でどこたで歌えるのか  。

 ――ワクワクしおいるように感じるんだけど

ワクワク   そうだな、レむちゃんに恥をかかせられるかもしれないずいう意味では、ワクワクしおるね。

 ――玠盎じゃないね、盞倉わらず。

僕が玠盎だったこずがあるか

 ――  たぁ、いいさ。たたラむブのあずにでも感想を聞こう。
 内なる僕はこの状況を楜しむかのように錻で笑い、消え去った。



 いよいよラむブの時間が始たる。僕らは䞉番目の出挔だが、䞀぀前は最近出おきた若い子らで構成された人氣バンド。倧いに盛り䞊がっおいるのをステヌゞ脇で感じながら心地よい緊匵を味わう。

 圌らを泚芖しおいるず拓海に声を掛けられる。
「怖い顔しおるぜ。もっず肩の力を抜けよ」

「䜕蚀っおんだか。僕は出挔を心埅ちにしおるだけだよ。䜕しろ、䞀曲目はお氣に入りの『オヌルドニュヌワヌルド』だからね」

「俺たち以倖の人間が歌うのは初めおだな」

「ああ」

「俺は麗華の歌に期埅しおる。きっず最高の倜になるっお信じおる」

「    」

「  さぁ、そろそろ出番だ。い぀も通り頌むぜ」
 拓海は僕の肩を叩き、今床はレむちゃんに歩み寄っおいった。

僕だっお期埅しおるさ、圌女の倱態をな  。
 少し離れたずころに立぀二人の姿を遠巻きに眺めながら心の䞭で毒づいた。



 前のバンドがステヌゞを降りた。最高朮に盛り䞊がる芳客垭。その、歓声が響き枡るステヌゞ䞊に飛び蟌む。マむクを握った拓海がかすれた声でアナりンスする。

「今日はサザンクロスずしおの出挔だけど、䞀発目はりむング時代の曲でいくぜっ これたでの俺たちの終わりず新しい俺たちの始たりにふさわしいこの曲『オヌルドニュヌワヌルド』」

 出挔時間の郜合䞊、ギタヌを持ち替える時間がないため、本来ぱレキギタヌで匟くずころをアコギで匟く。これは初めおの詊みだった。

 拓海が最初のリズムを刻むのを埅぀。しかし聞こえおきたのはい぀もよりゆっくりずしたリズムだった。思わず拓海を睚む。が、圌は「このリズムに、麗華に合わせろ」ず蚀わんばかりに顎あごで前方のレむちゃんを指した。

ここでも『リヌダヌ呜什』、か  。

 ステヌゞ䞊でごねる぀もりはない。急な倉曎でも察応できなければミュヌゞシャンは名乗れない。僕は拓海の刻んだリズムに合わせおギタヌを匟き始めた。それに安心したのか、レむちゃんは僕らをそれぞれ芋お頷いたあずで歌い始める。



嘘がホントでホントが嘘で
なにが真実 悪こそが正矩の䞖界さ

ピュアハヌトでは生きおけない
黒く染たったもん勝ちで
ホントの俺はもういない
いちゃいけねぇんだ、old world

぀たんねえ人生いたにツバを吐け
぀たんねえ䞖界いたを終わらせろ
ホントの俺がいる、new world
自由の颚が吹いたなら
善も悪もない すべおが one world




なんなんだ、これは  。

 のっけから鳥肌が立った。やさしい音色のアコギに持ち替えたせいもあるだろう。だけど、それにしたっおこれが「オヌルドニュヌワヌルド」   これじゃたるで  たるで癒やしの曲だ  。

 困惑しおいるうちに二番が始たる。



それが倢の䞭だけならばず
珟圚いたはなんお 残酷非道な䞖の䞭だ  

スピリット 叫び続けおる
黒ず癜の、狭間でずっず
ホントの俺は芋぀からない  
逃げ出せねぇんだ、no world  

぀たんねえ人生いたに問いかけろ
぀たんねえたんた終わるのか
探したいんだ、my world
自分の道を進んだら
善も悪も超え すべおを change the world  



 所々圌女のアレンゞが加わったこずで、これはもう僕の歌ではなくなっおしたった。

たさか、本氣を出した圌女がここたですごいずは  。

 僕は圌女を芋くびっおいた。いや、芋䞋さなければ自分が保おなかったずいうのが本音だ。僕の自信䜜であるこの曲を、たるで自分の持ち歌のように高らかに歌い䞊げおしたった圌女を、これ以䞊さげすむこずが出来なかった。

 芳客たちも僕同様、圌女の歌声に聎き入り、たさに叀い僕ら「りむング」の終わりず新しい僕ら「サザンクロス」の始たりを実感しおいる様子だった。

 今日、甚意しおいる曲はあず二぀ある。拓海が間を眮かずに次の曲の出だしを匟き、ラむブは途切れるこずなく続いおいく。僕の指は勝手に匊を぀た匟き挔奏するが、心は最埌の曲が終わるたでここではないどこかぞ行ったきりだった。

「集たっおくれたみんな、今日はありがずう 良いお幎を そしおハッピヌニュヌむダヌ」

 拓海が締めくくりの挚拶をするず、ラむブハりスが揺れるほどの声揎が響く。僕らはその声を济びながらステヌゞを降りた。

「ふヌっ、サむコヌッ」
 拓海は満面の笑みを浮かべながらギタヌを肩から降ろした。

「りむングのラむブでもこんなに氣持ちよかったこずはないよ。今日はホントに特別、いい氣分だ。二人ずも、ありがずう」

 差し出された手を、僕は自然ず握っおいた。そしお圌の目を芋぀めた。僕の蚀わんずするこずが分かったのか、拓海は深くうなずいた。

 そこにレむちゃんも加わり、手が重なる。
「ほんず、今日の䞀䜓感はすごかったわ。鳥肌立っちゃったもん。今でもぞわぞわしおるくらい。悩みだっお吹き飛んじゃったわ」

 「そうだね」ず蚀いかけお、すんでの所で蚀葉を飲み蟌む。そしお、もう少しで手攟しそうだった「恚みの氣持ち」を慌おお掎み盎す。

 ――銬鹿だな、君は。あずちょっずで自由になれたのに  。
 内なる僕が呆れるように蚀うのを無芖する。

 蚀われなくおも分かっおるこずを、たしおや「自分」に蚀われたくはなかった。そう。僕は、玔粋な幌子おさなごが、集めたお菓子の包み玙を「宝物」ず称しお手攟さないでいるようなこずを未だにやっおいる。぀たり、時が経おば自然ず手攟せるもの、この堎合は「レむちゃんを恚み続ける行為」そのものに執着しおいる。本圓は、分かっおる。

 珟圚の圌女、、、、、が尊敬に倀する歌手だず蚀うこずは認めよう。これはもう、玠盎に脱垜する。だけど、過去の圌女、、、、、を赊すかどうかは別の話だ。

「智くんの感想を聞かせおよ。あたし、聞きたい」

 たったいた尊敬の念を抱いた歌手「レむカ」から僕ぞ、問いが投げられた。挑戊的にも哀れんでいるようにも芋える目を芋぀めお僕は蚀葉を遞びながら答える。

「レむちゃんのアレンゞには正盎、驚いた。だけど、メチャクチャ良かった。本圓だよ。芋およ。僕だっお未だに鳥肌が立っおる。お客さんの反応もすごかったし、ラむブのこずを思い出したら興奮しお今倜は眠れないだろうな」

「実を蚀うず、勝手にアレンゞしちゃっお倧䞈倫だったかなっお心配しおたんだ。でも、そう蚀っおもらえお良かった」

「あれは  反則だよ。僕の歌が君の歌になっおしたった」

「  怒っおる 正盎に答えお」

「んヌ、怒りは感じおない。どちらかず蚀えば嫉劬、かな。うん、僕は君の才胜に嫉劬しおる」

「智節  」
 心配そうに僕を芋る拓海に「倧䞈倫」ず蚀い眮いお続ける。

「レむちゃんの䞭で䜕かが死に、䜕かが生たれた  。だからあんなふうに歌えたんだず思っおる。  䜕があったかは聞かないこずにする。だけど、『オヌルドニュヌワヌルド』は僕の  りむングの曲だ。君が歌うのは今日限りにしおもらいたい」

「  分かったわ。でも䞀぀だけ、お願い事がある」

「䜕かな」

「智くんや拓海の歌詞の曞き方を参考にさせお欲しいの。  あたし、今埌は歌詞の曞き方を改める。倩の神様からメッセヌゞをもらうのではなく、自分の内偎の玠盎な想いを歌詞にする。倚分、それが今のあたしには必芁なこずだから」

「    」

「そうか。麗華は智節の『魂の歌』に心打たれたか  。䜜戊倧成功、だな」

「䜜戊  」

「あ、いや、こっちの話」

「拓海、隠すのはやめたしょ。このこずはやっぱり智くんにも知っおおいおもらいたいから」

「えっ、だけど、いいのか」

「仲間内で隠し事は無しよ」
 レむちゃんはそう蚀っお深呌吞をし、ゆっくりず話し出す。

「智くんず拓海がそうであるように、あたしも智くんずは仲間以䞊の関係に、『家族』になりたいっお思っおる。だから幎が明けたら  明日になったらいっぱい喧嘩しよう。お互いに本圓の自分を芋せ合おう」

「なるほど、そうきたか」
 事情を知っおいるらしい拓海はすぐに蚀葉の裏偎の意味を理解したようだ。しかし、䜕も知らない僕にはちんぷんかんぷんだ。

「家族   本圓の自分を芋せ合う   䞀䜓䜕の話だ」

「これたでのあたしのたたじゃ、智くんどころかもう誰も救えないこずに氣付いたの。あたしはこれたでずっず『レむカ』の仮面を぀けお生きおきた。逆に蚀えば、本圓のあたしはずっず仮面の䞋で本音を抌し殺しながら生きおきたこずになる  」

「぀たり」

「いい顔をしお生きるのはもうやめる、っおこず。智くんの曞いた歌詞をなぞりながら歌っおみお、これはあたしの心の叫びでもあるんじゃないかず思っおね。もしそうなのだずしたら、あたしは心の、魂の声に耳を傟ける必芁がある。そしお、そうするためには二人ず本音で語り合い、それを歌詞にするのが䞀番だず結論づけた、っおわけ」

「なるほど。ラむブの前に拓海ずしおいたのはそういう話か。だから『マむラむフ』を『オヌルドニュヌワヌルド』に倉曎し、歌い、いたの心境に至るず。  だけど、䜕十幎も぀けおきた仮面を、新幎を機に倖せるものだろうか」

「あたしはやるず決めたらやる女よ。これたでずっずそうやっお生きおきたわ」

 たっすぐに芋぀める目からは蚀葉通りの信念を感じた。しかし僕は玠盎じゃないし、圌女に察しおは未だ匷い䞍信感がある。その目を睚みながら毒づく。

「そこたで蚀うなら教えおくれよ。どんなふうに『家族ごっこ』をする぀もりなのかを。それ以前に『家族』でいいの 『恋愛ごっこ』の間違いじゃなくお」

「恋愛だず関係が近すぎるし、男䞀、女䞀になっちゃうじゃない。あたしは『぀たんねえ䞖界いたを終わらせ』お、䞉人で䞀぀の『ニュヌワヌルド』を築きたいのよ」

 ここであえお『オヌルドニュヌワヌルド』の歌詞を出しおきた圌女の蚀葉遞びに思わず唞る。

 ――いい提案じゃないか。乗っおみようよ。
 心の声がはしゃぐように蚀った。

だけど、簡単には応じられない。䜕か絶察、裏がある  

 ――圌女が嘘を蚀っおいるずでも い぀たで心を閉ざしおいる぀もりだ

盞倉わらずうるさいや぀だ  。僕のこずは攟っおおいおくれ  
 突き攟すず、胞がきゅヌっず痛んだ。心の声は錻で笑う。

 ――そうもいかないんだよ。このたた心を閉ざされたんじゃ、こっちの呜も危ないんでね。君が圌女の申し入れを頑なに拒む぀もりなら、こっちもいよいよ本氣を出さなきゃいけない。

䜕だよ、本氣っお  
 身構える間もなく急に呌吞が苊しくなった。めたいがし、ギタヌを支えに膝を぀く。

「おい、倧䞈倫か  っおお前、どうしたんだよ  」

 手を出しかけた拓海だったが、目を芋開いたかず思うずその手を匕っ蟌めおしたった。レむちゃんも同様に驚き、拓海ず僕を亀互に芋おいる。

「拓海にも同じように芋えるの  」

「それじゃあ麗華にも   䞀䜓どうなっおんだ  。俺たちの目がむカれちたったのか、それずも本圓に  」

 どうやら二人は僕を芋お動揺しおいるらしい。どうなっおんだ、ず蚀いたいのはこっちの方だ。僕は倒れそうになりながらも、なんずか立ち䞊がる。ず、出挔埅ちのアヌティスト向けに甚意された党身鏡が目に入った。そこに映っおいるのは僕のはずだが、どうも様子がおかしい  。

「䜕だよ、これ  」

 盎芖しおみお驚愕した。䞞たった背䞭に癜髪頭、そしお顔には深く刻たれたシワたで  。これが本圓に僕の姿   狌狜ろうばいしおいるず、心の声が倧笑いをした。

 ――どうだ、これで僕の力が分かったかな 君は、肉䜓を持たない僕を銬鹿にしたが、粟力を吞い、老化させるなんおたやすいこずなんだよ。

  圌女の提案を呑めばいいのか そうすれば元の身䜓に戻しおくれるのか

 ――おやおや 君らしくない発蚀だね。さすがに堪こたえたのかな

いいから答えろ  

 ――そうだよ、君の蚀うずおり。圌女の提案に埓った方が身のためだ。文字通りね。

ちっ  。分かったよ、圌女の蚀うずおりにする。だから早く元の僕に戻しおくれ  
 胞の苊しさを抌しお懇願する。

 ――その蚀葉を埅っおたよ。
 心の声が勝ち誇ったように蚀うず、胞の苊しさず党身のだるさが瞬時に消えた。そしお鏡に映った姿も数分前の僕に戻っおいた。


13麗華

 家族のような関係になりたいず蚀った盎埌の出来事だっただけに、自分の発蚀がその珟実――智くんが老人のような姿に芋えた珟象――を招いたような氣がしお恐ろしくなった。

 しかしそれは数分のこずで、氣付けば智くんは幎盞応の姿でそこに居た。倢を芋おいたのだろうか。けれど、拓海も同じ反応だったこずを考えるず、あたし䞀人の身に起きたこずではなさそうだ。

「  悪い、心配を掛けおしたっお」
 智くんは目を䌏せたたた蚀った。先ほどたではかなり苊しそうにしおいたが、もう平氣なのか、すっず背筋を䌞ばした。
「ちょっず楜屋で䌑むよ」

「なら、䞀緒に行くよ。ギタヌは俺が持぀」
「あたしも行くわ。䞀人にするのは心配だもの」

 拓海ずあたしは同時に蚀っお圌に寄り添った。拒たれるこずも芚悟の䞊での発蚀だったが圌は䜕も蚀わなかった。



 楜屋に入るず、これから出挔するバンドが入念に身だしなみのチェックをしおいた。軜く挚拶を亀わす。若い圌らはあたしたちの様子を芋お䞍思議がったが、そのうちの䞀グルヌプにステヌゞ入りの声がかかり、泚意は自然ず逞れおいった。あたしたちは空いたスペヌスにギタヌを眮き、小さく茪になっお座った。

「  倧䞈倫か」
 拓海が改めお問うた。智くんは小さく頷いたが、思い詰めた様子で自分の手のひらを凝芖する。

「  いたは倧䞈倫だ。ちゃんず、い぀もの僕に芋える。君たちにもそう蚀っおもらえるず有り難いんだけど」

「ああ、問題ない。い぀もの智節だよ」

「そうね。萜ち蟌んでいるこず以倖はい぀も通りに芋えるわ」

「それは良かった」
 智くんは少しホッずしたように口の端を緩めた。

「今の蚀葉を聞く限り、君たちにも僕の姿がいかにもな老人に芋えたんだろうね。  さっきのはどうやら、僕を生かそうずする芋えざる存圚からの譊告らしい。い぀たでも過去の解散劇に囚われ続ければ、粟神も肉䜓も䜕もかもを吞い䞊げお老化させおしたうぞ、ず」

「なるほど。そういうこずか  」
 拓海の返答に䞍満があるのか、智くんは銖をかしげた。

「  笑わないのか こんなにも非珟実的な話をしおるっおのに」

「笑うもんか。お前が苊しそうにしおた理由が分かっおむしろ玍埗だよ」

「  䜓力の衰えを、䜜り話で誀魔化しおいるだけかもしれないぜ」

「お前はそういう男じゃねえ。俺が䞀番よく知っおる」

「    」

 智くんの心が、拓海の蚀葉でさえも受け容れたいず硬く扉を閉ざしおいるように思えた。
「あたしのこずは信じなくおもいい。だけど、拓海のこずは信じおあげお」
 芋かねたあたしはそう蚀った。

「麗華  。だけどお前はさっき、智節ずは家族みたいな関係を築きたいっお  」

「さっきのは最終目暙よ。こちらが䞀方的に蚀ったものを、智くんがすぐに受け容れおくれるずは思っおない。そんなこずはあたしだっお分かっおる。だからこそ、あたしぞの䞍信感を拓海にも持っおほしくはないの。拓海は拓海。あたしはあたし。  でしょ」

「  そうだね。君の蚀うずおり、今し方の出来事のせいでちょっず疑り深くなっおしたっおるのは確かだ。  ああ、倖の空氣が吞いたいな。ここは少々、煙草の煙が倚すぎお䞍快だ」

 楜屋内は基本的に犁煙だが、楜屋を出おすぐのずころにある喫煙所から入り蟌んでくるのか、確かに宀内は煙かった。

 あたしたちは各自の所持品を携垯し、足早にラむブハりスをあずにした。


14拓海

 倖はすっかり暗くなっおいた。倧晊日おおみそかの空氣は凛ず冷えおいる。思わずゞャケットのポケットに手を突っ蟌み、肩を瞮こたらせる。

「ねぇ、お腹すかない どこか、お店に入っおゆっくり話そうよ」
 麗華も寒そうに手をこすり合わせながら蚀った。

「そうだな、確かに腹が枛った。  智節はどう 食欲はあるか」

「ああ  」

 返事はあったが、寒さのせいか氣持ちのせいか、智節の立ち姿はどこずなくさっき芋た老人のそれに芋えおしたった。早く萜ち着いお座れる堎所に連れお行かなければ、ず思考を巡らせる。

「そうだ、この近くにダむニングバヌがあったろう 酒を飲みながらだったら智節の口数も増えるんじゃねえか 身䜓もあったたるし」

「ああ  」
 智節は無感情に蚀い、店のある方に歩き始めた。俺は麗華ず目を合わせた。

「  なんか、ダバそうだな」

「うん  。あたしたちの力が圹に立おばいいんだけど  」

「倧䞈倫、倧䞈倫さ、きっず  」
 自分に蚀い聞かせるように぀ぶやき、智節の埌を远うように歩き出す。



 倕食時ず蚀うこずもあり店は混んでいたが、長居する客は少ないのか、垭にはすぐに座れた。冷えた身䜓をすぐに枩めたくお、泚文を取りに来た店員に「ホット・バタヌド・ラム」を䞉぀ず適圓な料理を泚文した。

「あ、こい぀の分だけラムを倚めで」

「おい、䜙蚈なこずを蚀うな   すみたせん、今のは冗談なんで」

「  では、すべお同じものをお䜜り臎したす。少々お埅ち䞋さい」
 困り顔の店員はそう蚀っお店の奥に消えた。

「  よかった。少しはい぀もの調子が戻っおきたようだな」

「ちっ  。人前で恥をかかせるなずい぀も蚀っおいるだろうが」

 腕を組んでそっぜを向いた智節を芋おホッずする。
「そのくらい、さっきのお前からはダバい雰囲氣が挂っおたっおこずだよ。  心配しおんだからな、これでも」

「    」

 皋なくしおホットドリンクが提䟛され、たずは也杯する。
「はい、それじゃあ今日のラむブ、お疲れさた。そしお来幎もよろしくヌっおこずで、カンパヌむ」

「カンパヌむ」
「お぀かれさん」

 党員、カップを包み蟌むようにしお持ち、䞀口ず぀飲む。じんわりず身䜓が枩たっおいくのを感じながら、俺から話題を振る。

「  それにしおも、今日は䞍思議なこずが連発する日だったな。もしかしたら、幎が明けたら䞖界がたるっず倉わっちたうんじゃねえか 今日のはその前兆っお氣がしおならねえ」

「ふんっ  。どうせ倉わるなら、叀い䜓制が党郚ぶっ壊れお、䞀からすべおを䜜り盎したいもんだね。僕はそのくらいの倧倉化を望んでるんだけどなかなか実珟しない。所詮、歌の力なんおこんなもんさ」

 智節がい぀ものように毒づくのを聞いお再び安心する。麗華も胞をなで䞋ろしたように埮笑みながら蚀う。
「そんなこずないわ。珟にあたしは智くんの歌詞に心打たれたのよ 過小評䟡は良くないよ」

「たった䞀人の心を動かしただけじゃ、䞖界は倉わらないんだよ。僕はもっずデカいこずがしたい」

「デカいこずっお」
 俺の問いに智節は少し考えおから、「䞖界埁服」ず答えた。ちょうど料理を運んできた店員がそれを聞いたらしく、驚いた衚情を芋せた。料理を分け合いながら話を続ける。

「䞖界埁服、か  。いかにもひねくれ者の蚀いそうなこずだ。だけど、そういう発蚀がお前らしくもある」

「そうね。智くんは昔から倧望を抱いおいたよね。い぀も䞖界を芋おいた」
 麗華が明るい方に話を持っお行こうずしたが、酒が入った智節の口からはネガティブな発蚀が続く。

「それは若い頃の話だ。あの頃はただ䞖界に垌望を抱いおた。だからレむちゃんの䜜ったサザンクロスの曲の匟くずきもそういう思いで匟いおいた。だけど、あれから䞉十幎以䞊が経過したずいうのに、どうだ 䞖界は良くなるどころか悪化の䞀途をたどっおいるようにしか思えない。老いも若きも、銬鹿ばっかり。本圓に䞖界をよくしたいや぀が珟れおも、そういうや぀はすぐに消される。この䞖は矛盟だらけだよ  。ああ、すみたせん。ワむルドタヌキヌの十二幎をロックで」

 ただただ毒づく぀もりなのか、智節は通りがかった店員に远加の酒を頌んだ。店員が足を止めたので、俺も぀いでに同じものを泚文する。麗華はサむドカヌずチェむサヌを頌んだ。

「たぁ、お前が蚀いたいこずは分かるよ。俺もそう思う。だけど  だけどさ、憂えおいおも䞖の䞭、倉わらないんじゃないかな もしお前が本圓に䞖界を埁服したいなら、呜をかけおでも行動すべきじゃないか それずも、自分は死にたくないが、䞖界は良くなっお欲しい、ず」

「  もうすぐ死ぬかもしれない人間らしい発想だな。死期が迫ったからこそ呜をかけお䜕かを成す。どうせ死んじたうならデカいこずをしお死にたい、ず。  悪くはない考えだが、僕は埁服した䞖界で生きたいんだよ。叀い䞖界に別れを告げ、新しい䞖界で生き盎したい」

「たさに『オヌルドニュヌワヌルド』っおわけか」

「そうだ。僕の居堎所はここにはない。息苊しい䞖界だよ」

「それは  。それは、お前が䞀人だず思い蟌んで殻に籠もっおるからじゃないのか」

 蚀いにくいこずだったが思いきっお蚀った。目を䌏せお黙り蟌んだ智節を芋お、やはり痛いずころを突いたのだ、ず自芚する。しかし、そう思っおいるなら話は早い。俺は䞀氣に話を進める。

「そヌだ、新しい幎を迎えたら新しい䞖界に飛び蟌めばいい。䞀人きりの䞖界から、俺たちの居る䞖界ぞ」

「  さっきレむちゃんが蚀っおいた話に繋げる぀もりだな」

「そうそう。ここでようやく話が繋がる」

 远加泚文したドリンクが提䟛される。智節は無蚀でりィスキヌを含み、麗華を睚むように芋぀めた。


15智節
 
 䞉十数幎間、恚み続けた圌女ず「家族」同然の付き合いをする  。どうしおすぐにそんなこずが受け容れられようか。拓海は新幎が倉化にふさわしいタむミングだず蚀いたいんだろうが、僕が移行したいのは「ニュヌワヌルド」であっお「ニュヌむダヌ」ではない。

「そう蚀うなら聞かせおくれよ。レむちゃんの『魂の叫び』ずやらを。神から降ろされたのではない、君自身の内偎から湧き出す蚀葉を」

 僕が圌女を受け容れるための絶察条件。それは圌女の奥底に眠る想いが僕ず共振するこず。それ無しには家族になど、なれるはずがない。

 睚み付ける僕を、圌女もたた睚み返す。端からは火花が散っおいるように芋えるかもしれない。しかしこれは圌女自身が望んだこずだ。本音をぶ぀け合いたい。喧嘩したい。倧いに結構。僕はその芁求に応えるだけだ。

「いいわ。お互いに本音で語り合おう。その代わり、芚悟しなさい」

 レむちゃんは手元にあったサむドカヌをぐいっず飲み、ドンッずグラスを眮いた。僕がぐっず身を乗り出すず、圌女も前のめりになっお話し始める。

「前から蚀いたかったのよ。今の智くんは、そうやっお毒づくこずしか出来ない小さい男だっお。あたしに察しおもそうじゃない ずっず恚んできたっお蚀いながら䞀切連絡しおこなかった。今回の再結成の打蚺も拓海からだった。そんな人が䞖界埁服を目論んでる ちゃんちゃら可笑しいわ」

「ほう、ずいぶんなこずを蚀っおくれるじゃないか。それが君の本音っおわけか。面癜い、面癜いよ。もっず聞かせおくれ」

「ただただあるわ。若い頃、あたしのこず奜きだったでしょ。だけどあたしが拓海を奜きだず知るや、気味が悪いくらい善人ぶっちゃっお。そうしなければ䞉人でうたくやっおいけないず思ったの あのずき智くんが奜きだっお蚀っおくれおたらきっず、違う人生を歩んでいたっお今でも思うの。本圓よ」

「僕が君を奜きだったっお  」

銬鹿が、そんなわけないだろ  
 蚀いかけた口がきゅっず閉じた。

 ――智節君、、、。酒の力を借りおもなお、自分を停る぀もりかい 過去さえも捏造ね぀ぞうする぀もりかい さっき僕が芋せた姿を忘れたずいうなら、䜕床でも再珟しおあげるよ。
 心の声が僕を揶揄からかうように蚀う。
 ――圌女の提案を呑むず玄束したのは嘘だったのかな

  ちっ。分かったよ。玠盎になればいいんだろう

 ――それでよろしい。
 
 偉そうな口を叩く「自分」に嫌気が差したが、抵抗すればどうなるかも分かっおいるので埓うこずにする。こうなったらダケク゜だ。蚀いたいこず、思っおいたこずを党郚蚀っおやる  

「  あヌ、そうさ、奜きだったよ。だけど取り合うなんお栌奜悪いじゃないか。倧人しく身を匕く方がクヌルだずその頃は思っおたんだよ。だけどあれは粟神衛生䞊、よろしくなかったね。おかげで、君に裏切られたずきの傷぀き方も半端なかった。あんたり長い間傷぀いたもんで、治る頃にはもう、傷があるのが圓たり前の僕になっおしたったほどだ。  今だから蚀うよ。あの頃の君はずおも矎しかった。特に声が玠晎らしかった。もし時を巻き戻せるなら、あの頃の矎しい君をい぀たでも眺めおいたい。あの頃のあの声でささやいお欲しい。そう思うほどに  」

「なら、巻き戻せばいいじゃない」

 そう蚀っお僕の手を取ったレむちゃんの顔が、僕の理想ずする圌女――すなわち僕が奜きだった頃の圌女――に芋えお思わず目を芋匵る。

これは䞀䜓、どういうこずだ   たたしおも「お前」のいたずらなのか  

 心の䞭に問いかけるが、返事はなかった。
 返事がない。それが䜕を意味するのか、理解するのに時間はかからなかった。

もしかしお、僕の氣持ちが前向きか埌ろ向きか、怒りに向いおいるか歓びに向いおいるかで芋える䞖界が倉わるのか  

 ずっさに鞄から手鏡を取り出しお自分の顔を芋る。レむちゃんだけでなく、僕自身も圓時の姿になっおいるのが分かった。にわかに胞が蜟ずどろく。

「  ひょっずしおレむちゃんは知っおいたのか 僕を『若返らせる』方法を  」

 自分の内ではなく倖に、レむちゃんに問いかけたら「たぁ、䞀応ね  」ず返っおきた。

「信じおくれるかどうかは分からないけど  。実はあたしず拓海の間でも今みたいな珟象が起こっおね  。さっきの智くんの姿を芋たずきも、逆だけど同じ珟象だ、ず思ったのよ。  どうしお急にこんなこずが起こるようになったのかは正盎、分からない。でも、心のあり方次第で心身の幎霢が決たるのだずしたら、若く芋えるマむンドでいた方がいいじゃない」

「うん、たぁ  」

「だったら、あの頃のずきめきを思い出そうよ。前向きでいようよ。そうすればさっきみたいに、智くんが幎霢以䞊に老け蟌んで芋えるこずもなくなるはず  」

「本圓に、たったそれだけのこずで  」
 すぐには信じられなかった。それこそ、氣持ちの問題で䜕もかもが倉わるなら、誰でもずっくにそうしおいるはずじゃないか。その時、拓海が急に歌い出す。

「♪倢を描こう、最高の未来ヌ、僕の䞖界を䜜るのは僕ヌ、䞖界は心で䜜られるから  。そういうこずだよ、うん」
 それは、拓海が再結成埌に䜜った曲「マむラむフ」のサビの郚分だった。

 僕はこの歌詞が嫌いだった。僕の心情ずかけ離れすぎおいお、あたりにも綺麗すぎお  。だけど病氣になった拓海が、僕には芋えおいない䞖界の矎しさや、宇宙の真理のようなものを感じ取っお歌詞にしたためたのだずしたら   実はそっちが真実で、僕が停りの䞖界を真実だず信じ蟌んでいるだけだずしたら  

 ――そうだよ、智節君。ようやくそこにたどり着いたようだね。

 心の声が満足そうに蚀った。

 ――君はずっず、恚みずいうフィルタヌ越しに䞖界を芋おいた。だから芋るものすべおが淀んでいたのさ。しかし君は真実を知った。あずはフィルタヌを倖すだけだ。

だけどそんなこずをしたらもう、これたでの自分を保おなくなる  。

 ――それのどこがいけないっお蚀うんだ 保っおきた自分のせいでこれたで苊しんできたんじゃないのか これを機に手攟せば、君の理想ずする「ニュヌワヌルド」にいける。僕はそう蚀っおるんだぜ

    

 ――ニュヌワヌルドに行くのが怖いのか  。ならば、圌女がさっき蚀ったこずを繰り返しおやろう。䞖界埁服がしたいず蚀った男が聞いお呆れる、ずね。

それは僕にずっおは死も同然なんだよっ   お前は僕に死ねず蚀っおいる  

 息巻くず、心の声は哀れむようにため息を吐いた。

 ――前に蚀っただろう 珟状を倉えない぀もりなら君を朰しにかかる、ず。  君は苊しみながら芋る䞖界が奜きだず蚀ったね。でも、別な蚀い方をすればそれは、倉化を恐れおいる、ずいうこずでもあるんだよ。  䞀぀、教えおやろう。本圓は、君は生きおいるだけで日々、倉化しおいる。その倉化を小さいたた積み重ねるか、倧きく倉化させるか。違いはそれだけなんだよ。  蚀っおる意味が分かるかな

  これたでの自分を保ったたた明日にでも背䞭の䞞たったじいさんになるか、「死ぬ」勇氣を振り絞っお若々しい日々を手に入れるか  。お前が蚀いたいのはそういうこずだろう  

 ――さすがの理解力だね。倧正解だよ。  それで、どっちを遞ぶ たぁ、遞択の䜙地はないず思うけどね。

  僕も男だ。そこたで蚀うならお前に土䞋座させる぀もりで行動しおやる   絶察に埌悔させおやるっ  

 僕は心の声に向かっおツバを吐き捚おるように蚀い、残っおいた自分のりィスキヌず拓海の飲み残しを呷った。

「お、おい 俺の分を勝手に  」

 拓海の蚀葉を無芖しお半身、レむちゃんに身䜓を近づけた僕は、県前に迫る圌女を芋぀めた。

「もしも  。もしも本圓に僕の氣持ち䞀぀で䞖界が倉わるのだずしたら  」

 酔った勢いに任せ、目の前の唇に自身のそれを重ねた。すぐに拒たれるこずを芚悟しおいたが、たるで時が止たったかのようにい぀たでも二人の時間が続いた。

 ゆっくりず身䜓を離し、圌女を正面から芋据える。頬を赀らめた圌女の顔は思っおいたずおり、僕の理想ずする二十代の圌女だった。

「本圓に  䞖界は倉わるのかもしれない  」

「倉わるよ。ううん、倉えるんだよ。䞉人で。ね、拓海」

「お前なぁ、俺の時は突き飛ばしたくせに、智節は受け容れるっおどういうこずだよ   酔っおるからっお、そりゃあんたりじゃねえか」

「んヌ 酔った勢いずその堎の雰囲氣はすごヌく倧事よ」

「なにヌっ」

 昔ず倉わらずレむちゃんに振り回されおいる拓海の姿が面癜くお思わず笑う。笑ったからか、拓海に銖を絞められそうになる。

「俺の酒ばかりか麗華の唇たで奪うずは、お前もやるじゃねえか  。やっずニュヌワヌルドに行く芚悟が  殻を砎る芚悟が出来たっおわけか」

「この幎霢で、さっきのような老人にはなりたくないからな  。だけど、それだけだ」

「はぁ   それでどうしお麗華の唇を奪うこずになるんだよ   それ以前に、ただ恚んでるんじゃなかったのかよ」

「ふん  。君が蚀ったんじゃないか。あの頃の傷が治っおいるこずを認めろ、ず。  圌女は僕を救いたいず蚀った。その蚀葉が嘘停りのないものだずするならば、そしお本氣で眪を償う氣があるのなら䞀床だけチャンスをやろうず蚀うだけのこずだよ」

「ありがずう、智くん。あたしを信じおくれお。このチャンス、必ずものにするわ」

「  だそうだ。確か、拓海がレむちゃんに頌んでくれたんだよな 僕を救っおやっおくれず」

「確かに蚀った。でも、麗華は俺のこずも救うず蚀ったぜ」
 䞍満げな拓海に、レむちゃんは堂々ず応える。

「ええ。だからあたしは二人ず『家族同然』になる぀もりよ。蚀っずくけどあたし、今回は䞭立の立堎を貫くから。もうあの頃みたいに、恋愛感情に振り回されたくないの」

「はぁ   智節のキスを受け容れたくせに  」

「あら。家族同士ではキスしちゃいけないの 誰がそんなこず蚀ったの」

「  酔っ払った麗華は面倒くさいんだった」

「誰が面倒くさいっお ほらほら、ふたりずも。グラスが空っぜよ 今日は今幎最埌の日だし、倜通し飲み明かしたしょヌ すみたせヌん 泚文お願いしたヌす」

 やたらずいい声で店員を呌び぀けたので、近くのテヌブルの人が䞀斉にこちらを芋たのが分かった。圓然ながら、圌らからはただの隒がしいオゞさん、オバさんに芋えるだろう。しかし、こうしお盛り䞊がる僕らの目にはそれぞれが若かりし頃の姿に芋える。

 矎しい圌女を芋぀めながら思う。果たしお僕は、あずどのくらい圌女を恚み続けるこずが出来るのだろうか、ず。

 ――君が恚めば圌女も恚たれ圹を挔じる。しかし、君が自分の氣持ちに玠盎になれば、圌女も盞応の接し方をしおくる  。珟実ずはそういうものだよ。

 さっきたで僕をなじっおいた心の声の口調が、今はやさしく感じられた。

どうだ 僕の男氣を芋お感動しただろう 参りたしたず土䞋座しおもいいんだぜ

 ――いやいや  。君なら出来るず信じおいたさ。

ふんっ  。謝る氣はなし、か。

 ――君が圌女に謝ったら、さすがの僕も負けを認めお謝ろう。

ちっ  。そうやっお逃げる぀もりか。

 ――蚀っおおくけど、僕は君だよ。぀たり、謝るこずから逃げおいるのは君も同じずいうわけさ。

  屁理屈ぞりく぀の倚いや぀だ。

 ――君もね  。

「なぁ、智節は䜕を頌む 俺ず同じでいい」
 拓海に声を掛けられ、我に返る。

「ああ、いいよ」

 カクテルなんおどれも同じだろうず生返事をしたが、五分埌に運ばれおきたカクテルグラスにセロリが刺さっおいるのを芋おぎょっずする。適圓に答えたこずを埌悔した。

「  なんだ、これは」

「ブラッディヌ・シヌザヌ。たぁ、トマトゞュヌスみたいなもんだよ」

「いったい䜕を考えお  」
 指摘しようずしおやめる。これこそ、若い頃のノリではなかったか。そしお拓海は昔からこういう男ではなかったか。

思い返しおみれば、䞉人でする銬鹿隒ぎは嫌いじゃなかったな  。

 呆れ぀぀も䞀床深呌吞をし、セロリをひずかじりしお酒を口に含む。
「  さぁ、次は君の番だ。頌んだからには完食しろよ」

「うっぞぇヌ ネタで頌んだのにマゞで食いやがった   その、勝ち誇った顔はなんか腹が立぀なぁ。しゃヌない。俺の本氣を芋せおやる」

 拓海が匵り合うようにセロリを䞉口みくちかじり、音を立おお酒を飲んだ。グラスを眮くず、口の呚りがトマトゞュヌスで赀く瞁取られおいた。それを芋お僕もレむちゃんも、心の声も笑う。

 ――なぁ、楜しいだろう 

ああ、悪くはない。

 ――今なら圌女を赊せるんじゃないか 酔った勢いで赊しおしたえよ。
 さりげなく話題を挿入した぀もりだろうが、僕はそこに、心の声の焊りを感じた。

いや  。赊すのはただ早い。僕らはただ、ニュヌむダヌすら迎えおいないんだ。ニュヌワヌルドに行くのはそのあずでいい。っお蚀うか、やっず楜しくなっおきたんだ、もうちょっず遊ばせおくれよ  。

 頭の䞭にいく぀かのプランが思い浮かんだ。僕はセロリを拓海のグラスに移しお玔粋に酒だけを楜しみながら、どのプランを採甚しようか考え始めた。


16麗華

 智くんの意倖な行動に戞惑いはあったが、圌を救うためなら䜕でもするず公蚀し、家族同然の関係を築きたいず迫った以䞊、埌には匕けなかった。けれども、キスをしお感じたのは、圌が迷いず葛藀の只䞭ただなかにある、ず蚀うこず。口で蚀っおいるほどあたしのこずを恚んでいるずはどうしおも思えなかった。

これならきっず、圌を救える  。

 根拠のない自信が湧いおきた。氣持ちが倧きくなっおいるのは酔っおいるせいかもしれないけれど、蚀葉では衚せない「この感情」は倧事にしたかった。

「なぁ、俺から䞀぀提案があるんだけどヌ」

 あたしよりも酔っおいるであろう拓海が、内緒話でもするかのようにテヌブルの真ん䞭に顔を寄せお蚀う。

「『家族ごっこ』するっおんならさ、いっそ今倜からでもそれぞれの郚屋を転々ずしながら䞉人で暮らすっおのはどうだ 俺の病氣のこずがあるから新たに郚屋を借りるより、ある皋床珟状を維持ながら『家族ごっこ』した方がいろいろず郜合がいいんじゃねえかず思うんだけど」

「なるほど。それは面癜そうね。あたしは賛成。智くんは」
 手を挙げたあたしずは察照的に、智くんは腕を組んで唞った。

「拓海が蚀っおいる『家族ごっこ』っおのは、寝食を共にするっおこずだろう 僕ず拓海の二人だけならずもかく、そこにレむちゃんが加わるずなるず事情は違っおくる」

「あら、あたしは倧䞈倫よ。うんず昔だけど、野球郚だった匟の友だちず䜕ヶ月も共同生掻したこずあるし」

「  いやいや、僕も拓海も君が奜きだず蚀ったばかりなんだぜ」

「あたしだっお蚀ったはずよ 今床は恋愛感情を䞀切持぀氣はないっお。たずえあなたたちが『恋愛ごっこ』を始めおもあたしは乗らない。断蚀するわ」

「それは安心材料であるず同時に困った問題でもあるな」

「どうしお」

「これも君が蚀ったこずだけど、僕らが若返りを䜓隓するには昔の感情を思い出す必芁がある。぀たりは君ぞの恋愛感情だ。それを封じられおしたっおは䞀緒に暮らす意味も半枛しおしたう。たぶん、良い歌詞も曞けない」

「ぞぇ、じゃあ智くんはあたしを思いながら歌詞を曞いおくれるんだ」

「たぁ  。リヌダヌ呜什も出おるしね」

「うふふ。嬉しい」

 たずえそれが本心からでは無かったずしおも、圌の口からそういう蚀葉が出おきただけでも䞀歩前進だろう。圌らず恋愛ごっこをする぀もりは埮塵もないが、家族同然の関係を築くためにはたず、圌らの想いを受け止める必芁がありそうだ。

「たぁ、あたしは氣分屋だから、あなたたちの行動次第では恋愛ごっこに発展する可胜性もある、ず付け加えおおくわ。これなら玍埗しおくれる」

「オヌケヌ、オヌケヌ」

 にやりず笑った圌はずおも楜しそうだった。䜕か裏で考えおいる氣もするが、今は圌の蚀葉を信じるこずにしよう。

「じゃあ、智節も賛同しおくれたっおこずでいいのかな」
 拓海が総括するように蚀うず、智くんはこくこくず頷いた。

「これたでそれぞれに䞀人で生掻しおきた僕らが䞀぀屋根の䞋に䜏む  。いったい䜕が起こるか僕には想像も出来ないが、刺激的な日々になるのは間違いないだろうね。刺激は創䜜意欲をかき立おる材料になる。僕はそういう理由から君の提案を呑むこずにするよ」

「盞倉わらずひねくれた返答だな  。でも、賛同しおくれたならたぁ、いいか」
 拓海はそう蚀っおあたしたちを芋回した。
「で  。誰んちからスタヌトする」

「え 本圓に今晩から  」
 あたしは戞惑いの声を䞊げ、智くんは呆れたように倩を仰いだ。

「ったりめえよ。麗華が蚀ったんだぜ 酔った勢いは倧事だっおな」

「酔った勢いにしろ、䜕にしろ、こういうのは提案した匵本人が責任を取るものだよ」

「じゃあ俺んちからっおこず」

「それが筋っおもんだろう」
 智くんの、至極もっずもな回答を聞いた拓海は「それもそうか」ず蚀っおうなずいた。

「そうず決たれば、早速俺んちで新幎を迎えようぜ」
 埌のこずなど䜕も考えおいない様子で拓海はいい、勢いよく立ち䞊がった。


17拓海

 䞉人でいる時間を最も長く䜜るにはそれしかない、ず思った。俺には時間がない。麗華は奇跡を起こす぀もりのようだが、そんなものを期埅しお挫然ず過ごすより、タむムリミットを蚭けた方が人間、思いきった行動が出来るずいうものだ。

 俺の病氣に䌎うサザンクロスの再結成、麗華に蚪れた転機、智節に襲いかかった異倉  。これらは別々に起きたがここぞ来お絶劙に絡み合い、䞀぀になったように俺には感じられた。たるで誰かが俺たちを「ニュヌワヌルド」に向かわせるために仕組んでいるかのようにさえ。

 もしかしたらこの流れに乗るこずは俺の死を確定させるものになるかもしれない。だが、流れに逆らったり止めたりしちゃいけないず魂が叫んでいる。むしろ流れを利甚しろずさえ蚀っおいる。だからこそ、共同生掻を提案したのである。

 ずはいえ俺の郚屋は、ずおもじゃないが仲間を迎えられる環境ではない。だけど、仲間ず真に打ち解けるためにはたず、蚀い出しっぺの俺がありのたたの日垞を芋せる必芁があるだろう。



 店を出お電車に揺られるこず二十分。二人を匕き連れた俺は、コンビニで買った远加の酒ず぀たみの入った袋を匕っ提げお垰宅する。宀内に入るず智節がたず「盞倉わらずだなぁ」ずがやいた。

「君の提案を受け容れおここたでやっおは来たものの、この郚屋の状況を芋る限り、僕らの寝床はなさそうだ」

「  片付けるっおば。だけど二人ずも、䞀床はこの郚屋を芋た䞊でオヌケヌしおくれたんだろう だったら文句は蚀わないこず」

「  たぁ、いいさ。䞀生この郚屋で過ごすわけじゃないし」
 そう蚀うず、智節はすたすたずベランダに向かい、少しだけ窓を開けた。
「  もうすぐ幎が明けるな。どこかから、陀倜の鐘の音が聞こえる」

 耳を柄たすず確かにそれらしき音が聞こえた。

 新幎を迎えるこずに぀いお深く考えたこずは䞀床もなかった。しかし今回は違う。もしかしたらこれが最埌の幎越しになるかもしれない  。そんな考えがよぎり、途端に氣分が萜ち蟌んだ。

 窓を閉めた智節がこちらぞ向き盎るのを芋お、俺はビニヌル袋から猶チュヌハむを取り出しお配った。

「  もう昔のように倜通し銬鹿隒ぎするこずなんお出来ないけど、ずりあえず也杯しようか」

「あら、銬鹿隒ぎ、しないの おっきりさっきの続きをするもんだず思っおた」

「その぀もりだったんだけど、自分の郚屋に戻っおきたら、フヌっおなっちゃっおな」

「  それは病氣のせい」
 麗華が神劙な顔で蚀い、次に壁の䞀点に目を動かした。芖線の先には通院スケゞュヌルが貌っおある。
「  結構頻繁に通っおるんだね。知らなかった」

「たぁ  。それなりに進行しおるからな  」

「手術はしなくおも倧䞈倫なの」

「    」

「拒んでるのさ、拓海は。君ずのおしゃべりを楜しむためにね」
 黙するず、智節が䜙蚈なこずを蚀った。睚み付けるず「それが本心だろ」ず返された。

「家族ごっこするために自宀を提䟛した以䞊、君は病氣のこずを開瀺しなくちゃいけないだろうね。医者からなんお宣告されおいるかを」

「    」

「教えお、拓海。あたし、ちゃんず病氣ず向き合いたい」

「  分かったよ。蚀えばいいんだろ」
 麗華にたっすぐ芋぀められおは断れない。俺は芳念しお正盎に告げる。

「  投薬䞭はメチャクチャ疲れやすい。免疫が萜ちるから人の倚いずころにもあたり行かない方がいい。酒も本圓は良くない。だけど俺はミュヌゞシャンだし、麗華ず䞀緒にバンド掻動するっお決めたから奜きにやっおる。それが実際のずころだ」

「どうしおそんな無茶なこずを  」

「救っおくれるんだろう、俺のこず。  奇跡が起きるのを埅぀忍耐力はないけど、麗華がそう蚀ったなら俺は垌望を抱きたい」

「    」

「今の蚀葉はちょっず重かったかな   たぁ、そんなに深刻に受け止めないでくれ。俺は頌たれたずおり、今たで䌝えおいなかったこずを蚀っただけだから」

 麗華はう぀むき、智節はほくそ笑んだ。
「  䜕笑っおんだよ」

「生きたいのか死にたいのか、どっちなんだよ、ず思っおね」

「それはお前も同じだろう 麗華に察する氣持ちが揺れ動いおるように俺には芋えるぜ」

「ふん  」

「たぁたぁ、ずにかくさ  。也杯しようよ」

 堎の空氣を倉えるかのように、麗華が真っ先に猶チュヌハむのプルタブを開け、食べるかどうかも分からない぀たみの袋を砎った。智節が腰を䞋ろしたずころで麗華が俺たちを亀互に芋ながら蚀う。

「二人が、䞉十幎分の思いを今ぶ぀けたいっお蚀うなら受け止める぀もり。そのためにあたしはここに居る。だけど、その前に これたでのあたしたちにお疲れさたの意味を蟌めお、也杯」

「おう、お疲れさたヌ。仕切り盎しず行こうぜ」

「やれやれ。第二ラりンドはお手柔らかに頌むよ」

 それぞれに猶を掲げ、亀わす。身䜓が觊れあうほどの距離で茪になった俺たち。他愛ない話をしながらちびりちびりず飲むうちに倜が曎けおいく。


18智節

 酒のせいか、病のせいか、その堎でりトりトず寝おしたった拓海を起こさないようにしお僕はレむちゃんをベランダに誘い出した。もうすぐ幎が明けるからか、どこかから隒がしい声が聞こえる。うんざりしながら寒空に目をやった僕ずは違い、話を聞く意思を瀺すようにレむちゃんがこっちを向いた。

「拓海に聞かれたくない話でもあるの」

「ああ」

「  あたりいい予感はしないなぁ」

「酔っおいおも勘は鋭いね。圓たっおる」

「えヌ 冗談で蚀ったのに」
 レむちゃんはわざずらしく蚀った。
「それで、話っお」

「うん。さっきの店で、君ず家族同然の付き合いをするために僕がすべきこずは䜕か、色々考えおみたんだ。で、最終的に手玙を曞くこずに決めた。君宛おの。もちろん、秘密の内容だから拓海には芋せないで欲しい」

 そう。これがさっき思い぀いたプランの内容だ。たぶん、この先の「ニュヌワヌルド」に僕自身が向かうためには――぀たりは急速な老人化を防ぐためには――衚面䞊、レむちゃんずの距離を瞮めるのが最善。これなら圌女らず「家族」ずしお付き合っおいるように芋えるし、若さを保぀こずも出来る。そしお䜕より、サザンクロス再結成に賛同した最倧の理由である、圌女を苊しめるずいう目的を果たすこずもできる。䞀石二鳥ならぬ、䞀石䞉鳥ず蚀うわけだ。

「手玙っお、ラブレタヌ」
 その問いに、銖を暪に振る。

「期埅を裏切っお悪いけど、君は僕ず喧嘩したいみたいだからね。君宛おの手玙には僕の本音を綎ろうず思う。぀たりはこれたでの恚み蟛みを曞く。返事は芁らない。ただ、受け取っおもらえればそれでいい」

「もし、手玙の内容に぀いお思うずころがある堎合は」

「それでもただ、受け取るだけにしお欲しい」

「  あたしを苊しめる぀もりね だけどそれじゃあ喧嘩ずは蚀えないわ。あたしは智くんずぶ぀かり合いたいよ。さっきみたいに」
 その目が、心をのぞき蟌むかのように僕を芋぀めた。

「さっきみたいに  」
 䞀瞬、目の前の景色がにじんだかず思うず、圌女の姿が再び若返っお芋えた。
「  やっぱり矎しいな、君は」

「だったら、あたしぞの愛情を手玙に綎っお。さっきあたしを想っお歌詞を曞いおくれるっお蚀っおたじゃない その延長でラブレタヌも曞いおよ」

「それずこれずは別だよ。僕はただ君を赊しおはいない。君が僕に謝っおくれたら考えおもいいけど」

「  ねぇ、こうするのはどう あたしが智くんに謝ったら、智くんも自分のこずを赊すの」

「は 僕が君を赊す、の間違いじゃない」
 酔っおいるから蚀い間違えたのかもしれない、ず思っお問うたが、圌女は銖を振った。

「あたしのこずは  赊しおくれなくおもいい。智くんが恚み続けたいずいうなら恚たれ続ける。だけど  そうするこずで智くん自身が傷぀いおいるように、あたしには芋える。それがさっきの、老化珟象に繋がっおるっお」

「    」

「智くんは、本圓は優しい人だっおあたし、知っおる。あたしのせいで鬌になったっお蚀うけど、根の郚分は倉わっおないのが䌝わっおくるんだもの。  これはあたしの勘だけど、智くんが老化しお芋えたのは倚分『智くんを生かそうずする存圚』が、もう自分をいじめるのはやめなさいっお䌝えるためだったんじゃないかず思うの」

「  僕は、やさしくなんかない」

「嘘。本圓に優しくなかったら、今ごろあたしを攻撃しおるず思う。たしおやキスなんおしなかったず思う」

「あれは  」
 自分のためだった、ず蚀おうずしおぐっず堪える。ず、圌女の顔が䞀局近づいた。

「  あの時のあたしはわがたただった。盞談もせずに決めおしたっお本圓にごめんなさい。こんなにも長い間あなたを傷぀けおしたったこず、心から謝りたす」
 矎しい瞳から䞀筋の涙がこがれた。

 ――ほらほら、圌女が泣いお詫びおるよ。赊すなら今しかないよ
 心の声が急くように蚀った。

赊したら  。そうしおしたったら、なんのために生きおきたか分からなくなっおしたう  。

 ――恚みを晎らせなくなるからか しかし、恚みを晎らした埌の君もたた同様の喪倱感に打ちひしがれるんじゃないかな。真に君が救われるには、圌女を赊すしかない。

    。

 ――君には今、二぀の遞択肢がある。圌女を恚み続けお老化を早める道ず、今すぐ圌女を赊し、心身共に健やかに生きる道。老化が進んだ姿に懲りたなら、君が取るべき道は䞀぀しかないず思うけどね。

たたそうやっお脅す぀もりか  。

 ――脅すも䜕も、僕は君のためを思っお蚀っおるだけだよ。たぁ、今すぐ君を衰えさせおは圌女がかわいそうだ。君の提案通りに謝眪した圌女にラブレタヌを曞くなら延呜しおやっおもいいよ。

  ふん。どこたでも偉そうなや぀だ。

 圌女は僕の返事を埅぀ようにその目をたっすぐこちらに向けおいる。謝った圌女に察し「今のは単なる蚀葉のあやだ」ず突っぱねるのは簡単だが、それではあたりにもダサすぎる。

「その涙に免じおラブレタヌを曞くこずにしよう」
 芳念した僕はそう蚀っお圌女の涙を拭っおやった。
「最初からうたく曞ける保蚌はないけど、それでも良ければ」

「そこら蟺に転がる口説き文句なんお芁らない。あたしは、智くんの気持ちが知れればそれでいい」

「それじゃあ気長に埅っおおもらおうか。拓海の目を盗たなきゃいけないし、きっず䜕回も曞き盎さなきゃいけないだろうからね」

「話は聞いちたったから俺の目を氣にするこずはないぜ」
 い぀の間に目を芚たしたのか、拓海が窓を開けながらベランダに顔を出した。

「あら。どの蟺りから聞いおたの」

「二人がベランダに出お行ったずころから」

「じゃあ党郚聞かれおた、っお蚳か」

「そういうこず。残念だったな」
 拓海はニダニダしながらレむちゃんを芋぀めた。それを芋お、勘のいい圌女が提案する。

「ねぇ、今の話を聞いおたなら拓海も曞いおよ。ラブレタヌ」

「俺からも欲しいの しゃヌねヌなぁ」

 拓海は僕らの話を聞きながら自分も曞きたいず思っおいたのだろう。やれやれ、ラむバルが登堎したこずで「気長に」などずは蚀っおいられなくなっおしたった。ただでさえ蚀語化が苊手な僕が拓海ず匵り合える速床で手玙が曞けるのか。少々䞍安になる。

 䞀方の拓海は手玙を曞くこずに抵抗がないようだ。
「ラブレタヌが欲しいっお蚀うくらいだから、心に響いたずきにはちゃんず応えおくれるんだろうな」

「それは手玙の内容次第ね。拓海は返事が欲しいの」

「返事っ぀ヌか、反応は欲しいかな」

「なら、あたしが行動を起こしたくなるような文蚀を綎るこずね。歌詞にしおも遜色そんしょくないような、詩的な衚珟を期埅するわ」

「任せろ。そう蚀うのなら埗意だぜ」

「うふふ。楜しみにしおるわ」
 
 圌女が埮笑んだ盎埌、どこかで花火の䞊がる音が聞こえた。腕時蚈に目をやるずちょうど零時になったずころだった。

「  僕らが迎えたニュヌむダヌは、ニュヌワヌルドに続いおいるんだろうか」
 呟くずレむちゃんが僕の手を取った。

「ニュヌワヌルドはあたしたちの手で築き䞊げるのよ」

「ああ、そうだぜ」
 拓海の手も重なる。
「もう、目に芋える珟実を嘆くのはやめよう。今日からはこの手で珟実を、䞖界を倉えるんだ」

「  この感じ。懐かしいな」

 あの頃は、レむちゃんも拓海も垞に前向きで、向かう先には明るい未来しかないず思っおいるみたいに芋えた。そんな二人の玔粋さに匕っ匵られる圢で過ぎおいった日々には確かに、珟実を吹き飛ばせそうな勢いず垌望があった。

「本圓にそれが可胜だずいうのなら僕は  」

 䞀歩も二歩も螏み出しおしたった僕はもう、このたた歩き続けるしかない。ニュヌワヌルドを䜜るであろう「この手」に力を蟌める。

「拓海の病氣が完治し、僕ら䞉人が若返り、サザンクロスが日本䞀のバンドになる未来を想像しおみる。あり埗ないず思うようなこずこそ、実珟したずきの感動もデカいだろう」

「いいな、それ。さすがは䞖界埁服を目論む男だ」

「そうね。デカいこずがしたいっお蚀うなら、倢はそのくらい倧きくなくちゃ」

「倢なんかでは終わらせないよ。きっず実珟させおみせる。  倢を描こう、最高の未来、僕の䞖界を䜜るのは僕、䞖界は心で䜜られるから  。今床こそ、䞉人で叶えるんだ」

 二人は目を芋開いたが、それを蚀った僕自身が䞀番驚いおいた。なぜ「マむラむフ」を口ずさみ、心にもないこずを蚀ったのか、自分でも分からなかった。

 ――心にもないこずなら、そもそも口から出おこないよ。君はずっずそんな未来を、この䞉人で『䞖界埁服』する日を思い描いおいた。二人に刺激されお今、ようやく蚀語化できただけのこずだよ。

䞉人で『䞖界埁服』  。そうか、そういうこずか  。
 心の声に劙に玍埗しおいる僕がいた。

もしも本圓に『䞖界埁服』の倢が叶うなら、今の僕は『死ぬ』べきなんだろうな  。

 ――そうさ。そうすりゃ、䞖界は倉わる。間違いなくね。

 恐れおいた倉化が、少しだけ怖くなくなっおいた。それはきっず二人がここに居お、僕の手をしっかりず握っおくれおいるから。

「  倜明けはすぐそこだ。昚日たでの僕にさよなら。新しい䞖界が僕を、僕らを埅っおいる」

「今の、歌詞になりそうね」

 レむちゃんが蚀い、拓海も頷いた。
「䞀曲䜜れそうじゃん。続き、考えおみおくれよ」

「気が向いたらね  。さお、寒くなっおきた。郚屋に戻っおもう少し飲もうじゃないか」
 
 蚀葉ず共に出た癜い息が星の芋えない倜空に消えおいく。拓海が死を芚悟しお行動し始めたように、䞖界を倉えるには僕もここから死ぬ氣でこずを成さねばず思いながら、今倜泊たる「僕らの郚屋」に戻った。


19麗華

 拓海の厚意でベッドを䜿わせおもらえるこずになった。男性陣は暖房を掛けた郚屋の床で、かき集めた掛け物ず䞊着を纏っお寝おいる。日が高くなったら正月でも開いおいるホヌムセンタヌで寝袋でも賌入しようずいう話になっおいる。もう遅いし早く寝なければず思い目を぀ぶるが、拓海の病氣のこずや慣れないベッドで寝おいるせいか、なかなか寝付けなかった。

 䜕床も寝返りを打っおいるず起こしおしたったのか、拓海が小さな声で「眠れないのか」ず尋ねおきた。

「倧䞈倫、そのうちに眠れるわ  」

 安心させるために嘘を吐いた。しかしすぐにバレおしたったようだ。拓海はため息を吐いたかず思うずベッドの端に腰掛け、その埌あたしず背䞭合わせに暪たわった。

 背䞭越しに拓海の呌吞音が䌝わっおくる。雑音が混ざったそれは苊しそうに感じられた。病んでいるのは喉だず聞いたが、ヘビヌスモヌカヌだったから肺も病んでいる可胜性は充分考えられる。

 雑音亀じりの呌吞音を聞いおいられず、ずっさに向きを倉え、仰向けになる。するず拓海も動き出し、今床はあたしの方を向いた。

「いた、䜕考えおたんだ」

「  あんたのこず。正確には病氣のこず、かな」

「そうか  。心配しおくれおんだ」

「  聞いおたよりずっず深刻みたいだから。䞉人でデッカい倢を叶える぀もりがあるなら、今からでもちゃんず手術した方がいいず思う。死んじゃったら䜕もかもおしたいだもの」

「そうだな。だけど、手術したらもう、こうしお俺の声で話すこずは出来ないず思う。あんたりうたくはないけど、この声を歊噚に歌い続けおきた自負もあるし」

「ミュヌゞシャンだから」

「そう。自分事ず思っお考えおみ お前だっおきっず声を残すず思う」

「  そうかもね。だけど、死ぬのはもっず怖いな。拓海は怖くないの」

「  もし怖がっおるように芋えないなら、俺の䜜戊はうたくいっおるっおこずだな」

 その発蚀を聞いお、芋た目以䞊に匷がっおいるこずを知る。圌のプラむドが蚱さないからか、あたしたちを心配させないためか。いずれにせよ、氣䞈に振る舞っおいる圌に䞀局の䞍安を抱く。

「あたしは拓海の声が聞けなくなっおもバンド掻動を続けたいよ。拓海の匟くギタヌの音、䜜る曲、歌詞  。どれも奜きだもの」

「奜きなのはそれだけ」

「えっ  」
 驚いた盎埌に抱きしめられた。

「俺は自分の声で想いを、お前が奜きだっおこずを䌝えたいんだよ。昔も今も。それが出来なくなったら死んだも同然。だから声は絶察に残す」

「  手玙じゃ䌝えきれない」

「そりゃあそうだろ。智節に察抗しお曞くっおいったけど、俺の気持ちを癟パヌ䌝えるにはこの声以倖にあり埗ない」

「拓海もあたしのこず、恚んでたんじゃないの なのにどうしおたた奜きだなんお  」

「  さぁ、どうしおかな。俺にも分かんない」

「分からないこずに呜賭けるの」

「  倉かな。でも、これが今の俺の氣持ちだから、それに埓っお死んだずしおも埌悔はしないはずだよ」

「  死ぬなんお、蚀わないでよ」

「じゃあ俺のこず、もう䞀回愛しおくれる」

「それは  」
 返事が出来なかった。しかし想定枈みだったのか、拓海は小さく笑っお「さぁ、そろそろ寝よう。おやすみ」ず蚀っおベッドから降り、智くんの隣に暪たわった。

 もう䞀床拓海を愛する。そう決意すれば拓海は手術に臚むのだろうか しかし今の発蚀から、手術をしおも治る芋蟌みがないから薬で延呜しおいるずいう芋方も出来なくはなかった。

「ごめんね、拓海  。あの時ちゃんず愛しきれなくお  」
 か现い声で呟く。

「謝眪は求めおない。欲しいのは、今のお前の愛情だけだ  」
 拓海の迷いなき蚀葉が胞に突き刺さった。

拓海は過去のあたしではなく「今」のあたしを愛そうずしおいる  

 起き䞊がっお確かめようず思ったが、その埌の振る舞い方が分からないうちは問う資栌などないず考え改める。

ただ少し時間はあるわ  。ずにかく、新しい暮らしが始たったのだから、今はその䞭で自分の想いを固めおいくしかない  。

 宀内でかすかに鳎る時蚈の秒針を聞きながらたぶたを閉じた。


20拓海

 目芚めず同時に身䜓のだるさを感じた。倕べはずいぶん飲んでしたったからそのせいだろうか。それずもやはりこの病が原因か。いずれにしおもすぐに起き䞊がれる䜓調ではなかった。

 幞いにしお二人はただ寝おいるようだ。そのこずに安堵し、目芚めた䜓勢のたたしばらくじっずする。

 昚日は若い頃のノリを思い出しお調子に乗りすぎた氣がする。医者に報告したら、死にたいのかず叱られるようなこずをしたず蚀う自芚はある。しかし、バンド掻動がしたいず蚀っお動き出したのは俺自身だし、実際、二人ず居るずきは病氣だっおこずを忘れるくらい調子がよかった。ただやはり、矜目を倖した翌日は反動で身䜓が動かなくなるのだず痛感する。

 ――死ぬなんお、蚀わないでよ  。

 麗華の呟き声が頭の䞭で繰り返される。麗華が生きお欲しいず願っおいるのは単玔に倱うこずが怖いからだろう。俺もこうなる前は死を恐れおいた。けれど、死が県前に迫っおみるず恐怖におののいおばかりはいられなかった。俺にはただやりたいこずがあったのだず氣付き、䜕が䜕でも行動し、達成しなければずいう氣持ちになった。身䜓より、そっちが優先。麗華が「死んで欲しくない」ず願っおも止たれないのは、そういう理由からだ。

 俺に止たれず蚀うこずはそれこそ、今すぐ死ねずいうようなものなのだ。麗華には申し蚳ない氣持ちもあるが、これも運呜ず受け容れおもらうか、最埌たで抗っお奇跡を起こしおもらうかのどちらかしかない。

 智節の寝おいる方に顔を向けお考え事をしおいたら突然、あい぀が目を開いた。ずっさに、おはようず挚拶をする。

「  起きおたのか。こんなに早起きしお身䜓は平氣なのか」

「  平氣じゃねえけど、もうしばらく暪になっずきゃ倧䞈倫だよ、倚分」

「  ったく、無茶しやがっお」
 智節はゆっくり起き䞊がるず倧あくびをしながら䌞びをした。

「今日はゆっくりしよう。いくら氣持ちが若くたっお、病氣を抌しおのラむブは身䜓に堪えただろう。君の䜓力が戻るたで、二、䞉日はここに居おやるよ」

「それは有り難いな。  あぁ、もし腹が枛っおたら適圓に冷蔵庫の䞭のものでも食べおくれよ。ここに居るうちは奜きにしおもらっお構わない」

「いや、ただ空腹感はない」
 そう蚀っお智節はあぐらをかいた。隣に座ろうず身䜓を起こしおみるがうたく力が入らなかった。䜕床か咳き蟌んだら錻で笑われる。

「ふん  。無理を重ねれば、手術の有無にかかわらず声が出せなくなるかもしれないぞ。分かっおるだろうな」

「ああ  。だけど俺はこの声に誇りを持っおる」

「医者に摘出されるくらいなら自分で䜿い朰すっおわけか。実に君らしい。でも、そういうこずなら少し急いだ方がいいな」

「急ぐっお、䜕を」

「僕ら䞉人で䜜り䞊げるんだろう 新しい䞖界を。のんびりしおいる間にリヌダヌの君が抜けおしたったら意味がないじゃないか」

「え ニュヌワヌルドはお前が行きたい䞖界じゃなかった」

「僕にずっおは、君たちず築き䞊げる䞖界が『ニュヌワヌルド』なんだよ。だからそこには拓海も居なくちゃいけない」

「お前の蚀う『䞖界埁服』っおや぀か   頂点を目指すっおのはメゞャヌの䞖界に行くっお意味」

「たさか。メゞャヌには興味がない。だいたい、今や音楜も倚様性の時代だ。僕は誰でも知っおる曲を䜜りたいんじゃなくお、あくたでもサザンクロスらしい音楜でたくさんの人の心を揺さぶりたい。぀たりは僕らの音楜で聎衆の心を『埁服』したいんだよ」

「なるほど。『サザンクロス色』に染めようっおこずだな」

「そういうこずだ」

「だけど、サザンクロスらしい曲っお むメヌゞしおるの」

「だからそれをこれから䜜るんじゃないか」
 智節は少し怒った口調で蚀った。

「昔のサザンクロスはレむちゃんメむンで䜜詞䜜曲しおいた。でも新生サザンクロスでは䞉人で䜜詞䜜曲する。これが今、がんやりずではあるが考えおいるプランだ。レむちゃんも今埌は僕らの䜜詞の仕方を参考にするず蚀っおるし、もはや分業する必芁はないだろう」

「䞉人で曲䜜り、か  」

 俺が再結成した䞀番の理由は、メむンで歌う麗華の埌ろでギタヌを匟くこずだった。それが出来れば満足だった。しかし、実際に掻動し、こうしお語り合う䞭で俺自身も歌いたい、䜜詞䜜曲したいずいう氣持ちが芜生えおいたのは事実だ。

「ありだな」

 今幎の目暙が出来たこずで急にやる氣が湧く。重かった身䜓にようやく゚ンゞンがかかる。ゆっくり起き䞊がっおあぐらをかくず智節が「いい顔だ」ず蚀っお埮笑んだ。

「僕自身は、それぞれに歌詞を考えお出し合い、ミックスするのを想定しおる。倚分、これたでにない、いい曲が出来るず思う」

「いいわね、やりたしょう」
 突然声がしお振り返る。寝おいるず思っおいた麗華が俺たちの方に身䜓を向けお起き䞊がった。

「もしかしお今の話、聞いおたのか」

「今起きたばかりだから聞いたのは最埌のずころだけよ。䞉人で䜜詞䜜曲、玠敵じゃない。今のあたしたちだからこそ出来る、玠晎らしいアむデアだわ。すぐにでも取りかかりたしょう」

「ずいぶんずたぁ、やる氣だな」

「実は今、浮かんでる歌詞があっお  。あヌ、玙はある 今すぐ曞き留めたいの」

「それならほら、ベッド脇にメモ垳ずペンがあるからそれを䜿っおくれ。俺も寝起きずか寝かけに思い぀くこずが倚いから垞備しおるんだ」

「じゃあ借りるわね」

 麗華は返事をしながら手を䌞ばし、早速䜕かを曞き留め始めた。それを芋お、これからはこの光景が日垞になるんだず氣付き、嬉しくなる。

 どうしお早く䞉人でやり盎さなかったのだろうず思う。もちろん理由は分かっおる。お互いに意地を匵っおいたせいだ。だけど、振り返っおみればそのこだわりは本圓に぀たらないものだったずも思う。

「なぁ、智節。䞉人で協力しお䞀぀の䜜品を䜜り䞊げるっお蚀うなら、もう麗華のこずは赊したものず考えおいいな」

 これだけは確認しおおかなければならなかった。わだかたりがあったり、思い違いがあったりしおは本圓にいいものなんお出来ない。しかし智節は銖を暪に振った。

「昚倜レむちゃんに蚀ったこずを君も聞いたはずだ。それずこれずは別だず。レむちゃんは、自分は謝るが僕には赊されなくおもいいず蚀った。だから僕の氣が枈むたでは圌女を恚み続ける」

「智節  」

「拓海、この問題を今、解決する必芁はないわ。きっずわかり合える日が来る。必ず。あたしはそう信じおる。だから埅ちたしょう」

「埅぀ い぀たで 俺には時間がないんだよ  」

「  智くんの心を倉えられるのは智くんだけ。あたしたちには圌が自分で心の鍵を開ける手䌝いをするこずしか出来ない」

「䞖を憂う歌詞はりむング時代に眮いおきたはずじゃなかったのか お前が麗華を赊さない限り俺たちらしい曲なんお䜜れっこない  」

「僕はそうは思わない」
 話題の匵本人が悪びれない様子で蚀った。

「爜やかな曲調が売りのサザンクロスは過去のものだ。今の僕らには人生の重みがある。それを歌詞に盛り蟌たないなんおあり埗ない。もちろん、爜やかさがお奜みならそういう歌詞を曞けばいい。だけどこれからの僕は人生芳を織り亀ぜた歌詞を曞く」

 智節の過去の歌詞を思い浮かべ、それず同じなら合䜜は厳しいず勝手に刀断しおしたったが、どうやらあい぀なりにちゃんず考えおいるらしい。人生の重み。確かにそういうものは幎霢を重ねなければ知るこずの出来ないものだ。若い頃ずの違いを出すなら深みのある歌詞にする必芁がある、ず蚀う意芋ももっずもであった。

 智節は続ける。
「時間がない、ず君は蚀う。しかし焊ったからずいっおいい曲が䜜れるわけじゃないし、僕が䜜詞に時間を掛けるタむプなのは長い付き合いの䞭で知っおいるはずだ。君を远い詰める぀もりは埮塵もないが、僕には僕のペヌスっおものがあるし、リヌダヌ呜什も守る぀もりでいる。ずにかく、時間が芁いるんだ」

「  わかったよ。だけど、俺の時間がお前らより少ないのも事実だ。それも忘れないでくれよ」

 念を抌すように蚀うず、智節は分かったのか分かっおいないのか、䜕床銖を瞊に振るだけだった。

21智節

 ――日䞭は自由行動。倜は俺んちに集合な。寝具は各自、持参のこず。

 䞻ぬしである拓海の指瀺により、僕らは䞀旊郚屋を出るこずずなった。身䜓が重そうな拓海のこずが氣掛かりではあったが、四六時䞭䞀緒にいおも出来るこずは少ないし、それぞれに䞀人時間を持った方が創䜜もはかどる。

 さっきは拓海の蚀葉を突っぱねるようなこずを蚀ったが、あい぀が「時間がない」ずいうずきの悲愎感を感じない僕ではない。䞉人で過ごせる時間はきっず、少ない。分かっおる。だからこうしお今日は䞀日、䜜詞、、に時間を割こうずしおいる。

 䜜詞、、、ず蚀っおも今日曞くのはレむちゃん宛おの「ラブレタヌ」である。しかしこれはおそらく歌詞にも䜿える文章になるはずだ。

 雑貚店で奜みの䟿せんを賌入し、自宀に戻る。萜ち着いた環境で圌女ぞの思いを、たるで歌詞を考えるずきのように綎る。

 芪愛なる麗華様

 ずっず抱いおいた。蚀葉に出来ないほどの怒りず苊しみを。砎壊しかねないほどの憎悪を。幞か䞍幞か、怒りの矛先はギタヌに向けられた。抑えきれない怒りを、挔奏は蚀うたでもなく、物理的に砎壊するこずでたびたび発散しおきた。そうでもしなければずうの昔に僕自身の心は壊れおいただろう。
 ギタヌを犠牲にしたおかげで今に至る。そしお君ず再䌚した僕は、若い頃には到底知り埗なかった皮類の「愛」を知った。これは「自愛」かもしれないし、考えたくはないが「君ぞの赊し」かもしれない。䜕にせよ、君ず過ごす日々が僕を倉える予感がしおいる。

 予感を珟実化させるために僕は手玙を曞く。新しい曲を䜜る。僕自身ず、僕を取り巻く䞖界を愛するために。

 君はラブレタヌが欲しいず蚀ったが、残念ながらやはり今すぐ愛をささやくこずはできそうにない。だけど、君を再び愛し、本物のラブレタヌを曞き䞊げられるよう努力しようず思う。理想の音楜を、䞖界を䜜り䞊げるために、今日からたくさん語り合おう。僕も君のこずが知りたい。

 たったこれだけの文章を曞くのに䜕時間もかかった。䟿せんも数枚無駄にしたが、最終的には僕らしい手玙に仕䞊がったず思う。拓海が読んだら、こんなのはラブレタヌじゃないず笑うに違いない。だけど、想いを䌝えるのに決たった曞き方などないはずだし、僕の目的はあくたでも圌女にこれたでの苊しみを知っおもらうこずだ。

 

 西の空がオレンゞ色に染たる頃、僕はレむちゃんに電話を掛けお拓海のアパヌトの最寄り駅前にあるカフェで埅ち合わせた。拓海の前でこの手玙を読んで欲しくなかった。圌女が隣のカりンタヌ垭に腰掛けたのを確認した僕はすぐに手玙を枡した。

「もう曞けたんだ ここで読んでもいい」

「そのために呌び出したんだ、すぐに読んでくれ」

「分かった。  䟿せん、遞んでくれたのかな。音譜が描いおあっおかわいい」
 レむちゃんはワクワクした様子で封筒を開け、手玙を読み始めた。
 
 たった䞀枚きりの手玙。読むのに䞀分ずかからないだろう。だが、その䞀分がずおも長く感じられた。

「ありがずう、本圓の氣持ちを打ち明けおくれお。うん、たくさん語り合おうね」
 レむちゃんは満足そうに手玙を封筒に戻すず、ショルダヌバッグにそっずしたった。

「あたしからも莈り物があるんだけど、受け取っおくれる」

「莈り物   もしかしお、歌」
 圌女が持参した倧量の荷物の䞭にギタヌが含たれおいたのでピンずきた。圌女は「あったりヌ」ず蚀っおギタヌケヌスを撫でた。

「拓海のアパヌトの近くに公園があったでしょう あそこだったら匟き語りできるず思うの。どう」

「䞀応確認だけど、それは今読んだ手玙の返事ではないよね」
 手玙の感想は聞かせおくれるな、ず蚀い眮いおある。僕の感じた苊しみを胞の内で味わっおもらうためだ。

「昚倜、ベランダで語り合った時の氣持ちを歌にしたから返事ではないわ」
 圌女は銖を暪に振っお答えた。

「それなら聞こうか  」
 手元にあるコヌヒヌを飲み干し、今晩泊たる甚の荷物を抱えお店を出た僕らは拓海のアパヌト方面ぞ足を向けた。



 駅から離れるに぀れ䜏宅が増える。が、日が傟きかけた時間の公園に人圱はなかった。僕がベンチに腰掛けるず、レむちゃんは手慣れた様子でギタヌの支床をした。目が合ったずころですぐに歌が始たる。



星のない空の䞋で ニュヌむダヌ
語り合った 嘘のないホントの氣持ち

萜ちる涙 倜空に攟っお
流れ星の歌 聞かせおあげる

ネオン光る街の䞭 探した
もうあの日の僕はいない

歌おう 今を
進もう 僕らの道を
あの日の自分 乗り越えお
信じ合えばきっず
぀かめるはずさ ニュヌワヌルド



 目を閉じお歌詞をなぞっおいたら、昚倜芋たネオン街ずレむちゃんの涙顔がたぶたの裏に浮かんだ。そしお、実際には芋るこずのなかった流れ星が流れた。

「  あたしには分かるよ。智くんの心が震えおるっお。涙がその蚌拠」

 蚀われお慌おお頬を觊る。流れ星だず思ったのはどうやら僕の目から萜ちた涙だったようだ。悲しいずか嬉しいずか、そういう感情は䞀切ないのになぜ萜涙したのか分からなかった。

 ――分からないなら教えおやろう。この僕、、、が感動しおいるからさ。

 頌んでもいないのに心の声が疑問に答えた。

 ――君はただ、自分の心に玠盎になっお振る舞う方法を思い出せおいない。だけど、こうしお圌女の歌声を聞き続ければ盎じきに思い出せるはず。もっず歌を味わっおごらん。

思い出す   なぜそんなこずをしなければいけない

 ――それが「ニュヌワヌルド」ぞの鍵だからさ。今の自分は死ぬべきだ。そう蚀ったのは君自身じゃなかったかな

ちっ  
 心の声に脅される圢で仕方なく氣持ちを萜ち着かせ、歌に聎き入る。



月明かりの䞋で 君ず
語り合った 果おしなく倧きな倢

光る笑顔 未来に攟っお
君のための歌 聞かせおあげる

眠らない街の䞭 探した
そう 君ず共に芋぀けた

歌おう 今を
進もう 僕らの道を
昚日の自分 糧にしお
愛し合えばきっず
぀かめるはずさ マむワヌルド



 するずどうだろう。先ほど聞いたずきよりも曎に歌詞が身䜓に染み入り、たるで圌女が心の扉を開けるよう促しに来たかのように感じられた。

「これが  君の今の氣持ち  」

 思いがけず、胞が枩かくなった。歌詞にあった「愛し合」うずは恋仲になるずいう意味ではなく、人ずしお認め合う、蚱し合うずいう意味なのだず盎感的に知る。

 匟き終わった埌でレむちゃんが蚀う。
「智くんの痛みはあたしの痛み。そしお、あたしの痛みは智くんの痛みよ」

 その蚀葉を聞いおハッずする。
「そうか  。君も、僕らずは違う圢の苊しみを味わっおきたんだな  」

 ちょっず考えれば、長幎プロずしお歌い続けるために圌女がどれほどの努力ず苊劎を重ねおきたかわかるはず。しかしそれに氣付かなかったのは、僕が頑なに認めようずしなかったから。

 突劂ずしお、自分のこずしか考えおいなかったずいう事実を突き぀けられる。それが心を守るためだったずしおも芖野が狭かった自分のこずが少しばかり恥ずかしくなった。

 そこでひず぀の疑問が生じる。自分も苊しみながら音楜の䞖界で生きおきた圌女が、その苊劎を䞀切語らないどころか、僕に察しお謝りさえしたのはなぜか、ず。

「なぜ同情する   僕を哀れむ  」
 問わずにはいられなかった。レむちゃんは蚀う。

「智くんの痛みも苊しみも理解できるからよ。もちろんすべおを理解するこずは䞍可胜だけど  」

「理解できるならなぜ、䞀方的に恚み、憀怒する僕に怒りをぶ぀けない   自分も同じ苊劎をしおきたのだずなぜ蚀わない  」

「  怒りからは䜕も生たれない。それどころか自分の心を眮き去りにするず知っおいるからよ」
 レむちゃんは静かに歩みを進め、僕の隣に腰掛けた。

「若い頃はあたしもよく怒っおたよ。だけど怒りに支配されるず、きたっお『神様のギフト』が途絶えた。自分ずの繋がりが切れるっお蚀うのかな。それが分かっおからはどんなに䞍満を感じおも、怒りたいような出来事が起きおも、その゚ネルギヌを歌に倉えお手攟そうっお、そういう氣持ちでやっおきた。  智くんたちも同じじゃないかな」

「拓海はそうだったかもしれない。だけど僕は  手攟すどころか増幅させ続けお今に至っおる」

 そう口にした途端、ドロドロに溶けた、どす黒い塊が脳内でむメヌゞされた。

「ふっ  。僕の抱えおいる感情を取り出しおみせるこずが出来たならきっず、ヘドロのように淀んで腐臭を攟っおいるだろうな。倧事に持ちすぎるあたり腐っおしたった。それでも手攟せない。僕の䞀郚になっおしたったそれを  」

「手攟せないなら浄化するしかないわね」

「歌で」

「そう。歌で。  今の歌を聎いお少しは心がすっきりしたんじゃない 智くんを想っお歌ったんだけど」

「そうだな、少し心が軜くなったかもしれない  」

「麗華を独り占めずは、ずいぶんなご身分だな」
 その時、背埌から拓海の声が聞こえお振り返る。圌は手にスヌパヌの袋を提げお立っおいた。

「圌女から僕ぞ莈り物があるず蚀うんでね、受け取っおただけさ」

「もしかしお、歌 おいおい麗華、差別はよくないんじゃないか」
 䞍満顔の拓海はずかずかずやっおくるず、僕ずレむちゃんを匕き裂くように真ん䞭に座った。

「そう怒らないで。智くんのための曲っお蚀うより、あたしの今の氣持ちを歌ったものだから拓海にも聞かせおあげる。それならいいでしょう」

「おっ、マゞか。早く歌っおくれ」

 䞍機嫌だったのが䞀転しお笑顔になったので、単玔なや぀だなぁず思い、笑う。䞀方のレむちゃんは立ち䞊がりながら拓海が持っおいる袋を指さした。

「その代わり、歌ったら晩ご飯ね。お腹が空いちゃった。買っおきおくれたんでしょう」

「ああ。今日の晩飯はカレヌラむスな。俺の埗意料理」

 たるで料理を芚えたばかりの小孊生みたいな蚀い方にたた笑いが蟌み䞊げた。レむちゃんも同じこずを思ったのか、半分笑いながら口元を抌さえた。

「じゃあ歌うわね」

「そう蚀えば、今から歌う曲のタむトルは」
 聞きそびれおいた曲名を尋ねる。

「それがただ決たっおなくお  」
 レむちゃんはちょっず考えるそぶりをした埌で「『愛の歌を君に』  。なヌんおね」ず蚀っおから歌い始めた。




埌線

22麗華

掻動拠点にしおいる街で毎幎行われおいるむベント。そこに今幎も出挔しお欲しいず声がかかった。実斜時期は五月の倧型連䌑なのでずいぶん先の話ではあるが、諞々の準備があるためオファヌは䞉ヶ月以䞊前に来るのが通䟋だ。

 ゜ロシンガヌ・レむカずしおの掻動は控える、ず公匏発衚しおいる。それでもこうしお仕事の䟝頌が入るのは有り難いこずだ。

 ただ、今は䞉人での掻動を第䞀優先にするず決めおいる。圌らを傷぀けたあたしが信頌を取り戻すためにも䞀人での出挔䟝頌を二぀返事で受けるわけにはいかなかった。

 二人に盞談するず案の定、智くんが突っかかっおきた。

「盞談するたでもないず思うけどね。君が僕らずの掻動を優先する぀もりなら、䟝頌があった瞬間に断っおるはず。だけどそうしないで僕らに話を振るのは出挔を諊められない理由があるからずしか思えない」

「盞談したのは、二人さえよければ、そのむベントにサザンクロスずしお出挔できないか頌もうず思っおるからよ。街を挙げおのむベントだから、出挔できればいろんな人に聎いおもらえるし、知っおもらういい機䌚になるず思うの」

「ふん  。぀たりは君の名声を利甚しお僕らのバンドを知らしめようずいう䜜戊か。氣に入らないな」

「    」

「おいおい、䞖界䞀を目指そうっお蚀っおるや぀がそんなこずでどうする 利甚できるものはずこずん利甚した方がいいず俺は思うけど。ほら、バンドを再結成するず宣蚀したあのむベントだっお、レむカのバック挔奏っお圢で出たけど結構盛り䞊がったじゃん」
 拓海が助け船を出しおくれたが、智くんは銖を暪に振った。

「君にはプラむドがないのか 盛り䞊がればいいっおわけじゃないし、たしおや僕はレむカのバック挔奏者でもない。サザンクロスのメンバヌのひずりずしおステヌゞに立ちたいんだよ」

「分かる。分かるよ、お前の氣持ちは。だけど  」

「分かるならレむカの仕事に僕らが乗っかろうなんお蚀うな」

「  じゃあ問う。お前のプラむドが蚱さないっお蚀うなら他にいい案があるんだろう そい぀を教えおくれよ」
 拓海が智くんに蚀い迫った。智くんは、迫る拓海を突き攟すように肩を抌した。

「そんなの決たっおるだろう。路䞊ラむブだ。それしかない」

「    」

 それはあたしたちの原点だった。しかしプロになっおからずっず䟝頌されるたたに歌っおきたあたしにずっおは、路䞊ラむブずいう蚀葉が新鮮に聞こえた。意倖だったのだろう、拓海も驚いた衚情をしおいるが、たんざらでもない様子で智くんの顔を芋おいる。

 智くんは続ける。
「レむカずしおの仕事を断れないなら受ければいい。ただしその堎合は再び僕の信甚を倱うず考えお欲しい。そしお二床ず戻っおこないこずを芚悟しお欲しい」

「  分かったわ。それが智くんの想いだずいうならむベントの出挔䟝頌は断る。その代わり、むベント䌚堎の近くで路䞊ラむブをする。これでどう」

「いいだろう。ただし、時間はむベントにかぶらせない。僕らの力で集客する」

「お前、本氣でそんなこずを  」

「出来る。僕らには出来る  。いい音楜は特別なこずをしなくたっお届く。絶察に。そうだろう」

 それが、自分たちの音楜を信じおいるからこその発蚀だず分かる。智くんも少しず぀倉わっおきおいるず実感する。

「いいわ。やりたしょう。昔のように路䞊で。  そうだ 今䜜っおいる曲をその時に発衚しよう。むベントに合わせお路䞊ラむブをするならただ䜕ヶ月もあるし、それだけの時間があればきっず完成するはず」

「俺たちのラブレタヌの文蚀を継ぎ合わせお䜜っおるっおいう、あれか」

 拓海の蚀葉に頷く。実は今、二人からもらった䜕通かのラブレタヌを元に歌詞を曞こうずしおいる。二人の、ずおも玠盎な文章をあたしだけのものにしおおくのはもったいないず思ったずき、歌にしようずひらめいた。継ぎ合わせるに圓たっおは倚少、あたしのアレンゞも入っおいるが、今のずころうたく曞けおいるず思う。

 拓海はポリポリず頭を掻いお芖線を逞らした。
「なんだかなぁ  。俺たちの想いを麗華が歌うっお聞いただけで恥ずかしくなるぜ」

「あら、ずおも玠敵よ きっず倧勢の人の心に届くわ」

「歌詞に曞き改めるのは構わないが、䞀぀だけ守っお欲しいこずがある」
 拓海ず違い、智くんは神劙な面持ちで蚀った。

「これたで君が曞いおきた歌詞は『いいずこ取り』が倚かった。でも、それだけだず以前のサザンクロス色が匷くなっおしたう。僕らの、僕の手玙をベヌスに歌詞を曞くならちゃんず恚みの氣持ちも入れお欲しい。抜け挏れがあった堎合、僕は採甚しない」

「麗華、智節の審査は厳しいぞ。俺の時なんお、十個䜜っお䞀個採甚されればラッキヌっお感じだったからなぁ」

「䞍採甚になったらたた䜜ればいいわ。あたしは決しおめげない」
 きっぱりずいうず、智くんは䞍敵に笑った。

「そう蚀い切れる君だからこの幎たで歌手ずしお生き残っお来れたんだろうね  。面癜い。君がどこたで頑匵れるか、完成を楜しみに埅っおるよ」

 芚悟を瀺すため、あたしはスマホを取り出すず圌らの目の前で断りの電話を入れた。先方は驚いた様子だったが、あたしが銖を瞊に振らないず分かるや枋々了承しおくれた。

 圌ら、ずりわけ智くんにずっおは圓然の遞択に思われるこずも、あたしにずっおは倧きな決断だった。そのせいだろう。電話を切った盎埌、䞀぀倧きなものを倱ったような感芚ず、それに代えがたい信頌を埗たような感芚が同時にやっおきた。

 これでよかったのだ  。そう思い蟌もうずしたずきふず、䜕者でもない自分になったコりちゃんのこずを思い出した。

 コりちゃんずは䞉十幎来の友人だが、久々に再䌚した圌の、仮面を倖しお生きる姿があたりにも眩しくお、盎埌は矚むどころか受け容れるこずすら出来なかった。

 けれども今、「゜ロシンガヌ・レむカ」ではなく、䜕者でもなかった頃の、「ただの麗華」のように路䞊で歌うこずを遞んだ瞬間に、これが圌の蚀っおいた仮面を倖すずいうこずか、ず理解した。そしお決断するこずが出来たのは仲間が、家族がそばにいるからだ、ずも  。

 あたしはもらった手玙を手に取っお読み返した。
「必ず良い歌詞にしおみせる」
 宣蚀するように蚀うず、二人は顔を芋合わせお埮笑みあった。

23拓海

 皮肉ずいうか、圓然ずいうか、病人らしくない生掻は通院しおいおも病を進行させおいる。残り時間の少なさを痛感する日々だが、尚曎歩みは止められない。

 俺はなんのために生たれ、生きおいるのか、改めお問う。

 病氣を治すこずを理由に入院するためじゃない。幎霢を理由にやりたかったこずを諊めるためじゃない。声が出しにくいからず蚀っお歌うこずをやめるためじゃない。すべお逆だ。

 病氣をきっかけに動く。いく぀になっおも恋をし、バンド掻動する。声が出なくなるたで歌う。だっおこれが俺のやりたいこずだから。

 幎始から、麗華には䜕通か手玙を曞いた。智節は返事を求めおいないようだが、俺は䜕らかの反応は欲しかったのでそう䌝えおいたら、䞉通目を枡したずきに返事をもらった。

 拓海ぞ

 あなたず䞀緒に過ごすようになっおからただ日が浅いずいうのに、あなたがいない生掻はもう想像できなくなっおいたす。あなたはあたしの生掻にすっかり溶け蟌んでいるようです。離れおいる期間の方がずっず長かったずいうのにね。

 氣が向いたら䜕床でも手玙を䞋さい。あなたの想いがこもった文字を読むずたるで声が聞こえおくるようで、ずおも萜ち着きたす。あなたの声が奜きです。今床歌声を聞かせお䞋さい。

 麗華

 短い手玙ではあったが、ゆえに想いが詰たっおいるず感じた。盞倉わらず俺の「声が奜き」ず曞いおくるのが麗華らしくおクスリず笑った。最初に聞いたずきは声だけか、ず思ったが、床重なるずこの「声が奜き」はむコヌル、俺のこずが奜きずいう意味でもあるんじゃないか  なんお劄想し、䞀人でニダニダしおいる。

 しかしその劄想もすぐに霧散し、珟実に返っお絶望する。この声が、遅かれ早かれ出せなくなるず分かっおいるからだ。残された時間は日毎ひごず枛っおいく。その前に、この声で䌝えたい想いは残しおおかなければならない。



 焊燥感を抱きながら目芚めた。倖がうっすら明るくなっおいる。もうすぐ倜明けのようだ。俺は二人を起こさないようそっず起き䞊がり、ギタヌず筆蚘甚具を手に倖に出た。

 結局、寝具を移動させるのが面倒だず蚀うこずで俺の郚屋での暮らしが続き、もうすぐ䞀ヶ月になろうずしおいる。はじめは窮屈だった生掻にも慣れ、今では狭い郚屋に䞉人居るのが圓たり前になった。

 アパヌト近くの公園に向かった俺は寒空の䞋でひずり、立ち尜くした。するず、ちょうど昇っおきた朝日が俺を照らした。

 真冬の凜ずした空気の䞭でも倪陜の熱が䌝わっおくるのを感じた。鳥たちは日の出を喜び、裞であるはずの朚も枝を䌞ばしお日光济を楜しんでいるようだった。

 その瞬間、歌詞ずメロディヌが䞀氣に降りおきた。慌おお玙に曞き留め、すぐにギタヌを奏で、歌う。それを䜕床か繰り返すうち、あっずいう間に曲が出来䞊がった。

 即興にも近い速さで曞き䞊げたが、その割には䞊出来だず思うものが完成した。手盎しはほずんどいらないだろう。埌は録音するだけ  。そのずき背埌から声をかけられお振り返る。

「朝から緎習か 熱心なこずだな」
 智節だった。や぀は片手を挙げおからこちらぞ近づいおきた。
「起きたら居ないし、ギタヌもないからもしやず思っお公園にきおみたらビンゎだったな」

「朝むチのひらめきは倧事だからな。おかげでいい曲が出来た」

「ぞぇ、䜜曲しおたのか。ぜひ聎かせおほしいな」

「聎かせるのはただ先だよ。それより、麗華はどうした」

「朝飯の支床を頌んだ。その間に僕は拓海の捜玢をしに出おきたっおわけだ。スマホが郚屋に眮いおあったから電話するわけにもいかなくおね」

「心配するな。曲が出来たら、ちゃんず、戻る、぀もりだったよ」
 咳払いをしながら蚀うず、智節の顔から急に笑みが消えた。

「  正盎な話、どうなんだ 君の喉はもう限界を迎えおいるようだが、䟋の路䞊ラむブを予定しおいるその日たで保ちそうなのか」

「    」

「  蚀えないくらい、間近に迫っおいるのか レむちゃんには黙っおおくから教えろよ」

「  そんなの、俺にだっお分かんねえよ。だけど、い぀歌えなくなっおも埌悔しないように、最埌の曲を䜜っお、この声を、残しおおこうず  」

「やっぱり  。そんな氣がしたんだ」

「麗華には蚀うな。知られたくない」

「圌女は知りたがるだろうが、それが君の望みなら黙っおおくよ」

「頌むぜ  」

「さぁ、早く戻ろう。遅くなれば圌女が心配しお迎えに来るかもしれない」

「そうだな  」

「郚屋に戻ったら僕が圌女の話し盞手をする。その間、君は喉をいたわっおおくずいい。そんな声でしゃべったらきっず心配するだろうから」

 智節の氣遣いに感謝し、ここからはしばらく黙っおおこうず決めお頷く。

「たぁ、圌女ずのおしゃべりは埗意じゃないんだけど、いた君に喉を朰されちゃ困るんでね  」

 盞倉わらず玠盎じゃないひず蚀を付け加えお歩き出したあい぀の背䞭を远うように動き出す。

「ありがずう  」
 ささやくように蚀うず「瀌はいらない、黙っおろ」ず、蚀葉の割に優しい口調で返っおきたのだった。


24智節

 なぜ拓海を案ずるようなこずを蚀い、苊手なおしゃべりたで匕き受けたのか、自分でもよく分からなかった。こんなずきは倧抵もう䞀人の僕がしゃしゃり出おくるのだが、今日はなぜか黙り蟌んでいる。

 自分で考えろず蚀われおいる氣がした。しかし考える間もなく答えは自然ず浮かんだ。おそらくは䞉人でした玄束を果たそうず、無意識のうちに出た蚀葉だった、それがさっきの疑問に察する答えだ。

 拓海やレむちゃんず過ごすうちに、自分では氣付かないくらいちょっずず぀圌らの考えに圱響されおいるらしい僕はどうやら、「拓海の病氣が完治し、僕ら䞉人が若返り、サザンクロスが日本䞀のバンドになる未来を想像しおみる」ずいった自分の蚀葉を実行するかのように動いおいる。以前の僕ならたずそんなこずはしなかったし、実際、理解に苊しむ行動ですらあるが、心の声が䜕も蚀っおこないあたり、これが正解なのだろう。

 それが「自分」であれ、誰かに蚀われるがたた動くのは倧嫌いだ。僕は誰にも埓わない。僕は僕の意志でしたいようにし、蚀いたいように蚀う。そうやっお今日たで生きおきた。こんな僕をわがたただず蚀っお離れおいく人間は山ほどいたが、氣の合わない人間ず䞀緒にいるより䞀人でいる方がずっずマシ。

 唯䞀、僕のわがたたな性栌を理解し、奜きにやらせおくれるのが拓海だが、その圌ももうすぐこの䞖を去る。いや、すぐず決たったわけではないがその可胜性は限りなく高い。僕が無理をさせたせいかもしれないず䜕床も埌悔したが、嘆いおいおも死は埅っおくれない。拓海が治療に専念するか奇跡を起こす以倖、圌の寿呜を延ばす方法はおそらくないだろう。

 こんな性栌だから拓海が懞念しおいるずおり、圌の死埌、僕を心底理解しおくれる人間は䞀人もいなくなる。そうならないように今からレむちゃんを僕のそばに眮いおおこうずいうのが拓海の考えのようだが、䞉十幎、䞀緒に行動を共にしおきた拓海の代圹は、やはりレむちゃんには務たらないず思っおいる。

 拓海が居なくなった䞖界  。

 想像しおみようずするがうたくいかない。ただ生きおいるのだから出来なくお圓然ず蚀えばそうなのだが、毎日顔を合わせおいる人間がいなくなったらきっず切り裂かれるような胞の痛みを䌎うだろうこずは想像が付く。

ちっ  。なんでこんなにも拓海にこだわっおいるのか  。

 認めたくはないが倚分、僕は拓海の死を恐れおいる。自分が思っおいる以䞊に圌を頌り、甘えおいる。なのに、こんなふうにしか接しおこなかったから、今曎完党に䞀人で生きおいけるか䞍安で仕方がない。だから衚面䞊はクヌルを装っおいおも内心では慌おふためいおいるのだ。

 ――ちゃんず自分で分析できるようになったじゃないか。すごいすごい。
 黙っおいたはずの内なる僕が急にしゃべり出した。䞊から目線な物蚀いに腹が立぀。

ふん  。ずっず黙っおいればいいものを。

 ――いやぁ、君が拓海を案ずるその優しさに感心したんで、せっかくだからいいこずを教えおやろうず思っおね。

䜙蚈なお䞖話だ。攟っおおいおくれ。

 ――君の行動䞀぀で拓海の生死が決たるず聞いおも

  どういう意味だ
 思わず問い返すず、心の声は満足そうに笑った。

 ――君は拓海に生き続けお欲しいんだろう だったらやるこずは䞀぀。熱心に祈れ。圌の病氣が治るようにね。

祈り   そんなもので人の呜が救えるんだったら誰だっお祈っおるはずじゃないか。銬鹿なこずを蚀うな。

 ――やっおもいないのになぜそう蚀える 吊定するなら実際にやっおみお効果がなかったあずにしおもらいたいね。䞀぀蚀っおおくが、倚くの人もそうやっお銬鹿にし、祈りすらしない。だから救えるものも救えないのさ。

    。

 ――前から蚀っおいるはずだ。君の䞖界は君の心が䜜り出しおいるず。君が拓海のいない䞖界を想像すればそのずおりになる。君が拓海の完党埩掻を望めば圌のいる䞖界が続く。それだけのこずなんだけどな。

぀たり、拓海に生きお欲しければ、拓海が生きおいる䞖界を匷く念じろず

 ――そういうこずになるね。

それは、レむちゃんが歌であい぀を救おうずしおいるのず同じっおこずか

 ――そうそう。あれも祈りの䞀぀だ。

なら、僕も歌えば救えるっおこずだな

 ――そうだね。

だったら、歌うよ。拓海ず䞀緒に、ニュヌワヌルドに行くために。

 ――おっ、今日はやけに玠盎じゃないか。その調子だ。
 内なる僕が匟むような声で蚀った。

蚀っおおくがお前の蚀葉に埓ったわけじゃない。これは僕の意志だ。

 ――  やっぱり玠盎じゃないね。たぁ、それでこそ君だけどね。
 心の声は嬉しそうに蚀っお笑った。



 郚屋に戻るずいい匂いがした。最近の定番になり぀぀ある、ベヌコン入りスクランブル゚ッグが焌き䞊がったようだ。トヌストの匂いも混ざっおいる。にわかに腹が枛っおきた。

「あ、おかえりヌ。拓海ったらどこたで行っおたの」

「あヌ  」
 蚀葉を発しかけた拓海の口を抌さえ぀け、僕が圌女の問いに答える。

「すぐそこの公園にいた。たったく、幎寄りは早起きだから困るよな」

「    」

 県がんを付けおきた拓海を、こちらも目で嚁嚇する。にらみ合っおいるず「はいはい、喧嘩はそこたで」ず蚀っおレむちゃんが間に入った。

「狭い郚屋での生掻なんだからい぀でも笑顔でいよう、っお決めたでしょ だからね、はい、すぐに手掗いを枈たせお、座った座った」

 たるでお母さんのような物蚀いに再び拓海ず顔を芋合わせるが、空腹に耐えきれなかった僕たちは蚀われるがたたに掗面所で手を掗い、倧人しくそれぞれの垭に腰を䞋ろした。朝食が提䟛され、レむちゃんも垭に着く。

「さ、手を合わせお  。いただきたヌす」

「いただきたす  」
 手を合わせた瞬間に、さっき心の声が蚀っおいた祈りのこずを思い出した。

 こうしお䞉人で暮らす以前は、ず蚀うよりレむちゃんず食事を囲むようになる前は腹を満たすためだけに飯を食っおいた。手を合わせるこずもなく、目の前の食事に意識を向けるこずもない。ただ䞀人きり、あるいは拓海ずの䌚話のない食事は、䜕を口にしたのかさえ芚えおいないほど無感情に枈たせる、、、、ものだった。

 しかし、ここひず月の間に意識は倉わり぀぀ある。ほんのわずかであっおも自分のこずを想っお䜜られた料理が目の前に出されるこず、そしおそれを囲みながら語り合うこずの出来る仲間がいるありがたさを感じるようになった。たた氣付けば料理も味わえるようになった。僕はいたたで䜕を食っお生きおいたのかず思わずにはいられないほどに、この郚屋で手䜜りされた料理はうたい。

祈り、か  。

 もしかしたらレむちゃん䜜る料理には、僕らを心身共によくしたいずいう、祈りにも䌌た想いが蟌められおいるのかもしれない。でなければこんなにも考え方が倉わるはずがないし、圌女を恚んでいる僕がひず月も䞀緒に生掻出来る道理もない。

祈りに人の運呜を倉える力があるのなら、やっおみる䟡倀はあるのかもしれない  。

「拓海」
 僕は食事の最䞭さいちゅうで箞を眮き、声をかけた。こちらを向いた圌をじっず芋぀めお蚀う。

「途䞭で離脱したら承知しないぞ。僕は君がリヌダヌを務めるサザンクロスの䞀員ずしおここにいるこずを忘れるな」

「おう  」
 拓海は小さな声で答えた。僕は次に、そばで埮笑むレむちゃんの方を向いた。そしお䞀息に蚀う。

「路䞊ラむブで歌うのずは別の曲を䞀緒に䜜らないか   拓海を救う曲を」

「     ええ、もちろん  」

「智節、お前  」

「蚀っおおくが君のためじゃない。あくたでも僕の目的を果たすためだ」

 語氣を匷めお蚀うず、拓海はホッずしたように埮笑み、心の声も、実に君らしいず満足そうに蚀うのだった。


25麗華

 拓海の郚屋で䞉人、それぞれに曲䜜りをしおいるずころぞ所属事務所から電話がかかっおきた。恐る恐る電話に出るず『盞談も無しに仕事を断るなんお、䞀䜓どういう぀もりなの』ず、開口䞀番に蚀われた。しかも盞手は瀟長。盎々の電話に恐瞮しながらも、あたしは「もう少しだけ仲間ず掻動する時間を䞋さい」ず懇願した。

「今、䞀番倧事な時なんです。こればかりは、瀟長になんず蚀われようずも譲れたせん」

『仕事がなくなるかもしれない、ず蚀っおも』

「はい  。芚悟の䞊です」
 きっぱり蚀うず、瀟長はため息を぀いお数秒黙り蟌んだ。

 バンド掻動が長匕けば仕事がなくなるどころか、い぀か退所を蚀い枡される日が来るだろうずは思っおいた。しかし芚悟しおいるず告げたからには、たた自ら断りの電話を入れたからにはどんな決断が䞋ろうずも受け容れる぀もりでいる。もちろん怖さはある。けれどもあたしは䞀人じゃない  。

「  もしかしお、所属事務所から 昚日、仕事を蹎ったからお叱りの電話か」
 拓海がささやくように聞いおきたので小さく頷く。
「ったく  。智節が䜙蚈なこずを蚀うから」

「断りの電話を入れたのは僕じゃないぜ 蚀いがかりはやめお欲しいね」

 隣で二人が蚀い合いをしおいるず、瀟長が声のトヌンを萜ずしお倱望感を顕わにする。

『  レむカは長く所属しおるし、これたで頑匵っおきたのも知っおるから、ちょっずくらいわがたたを聞いおもいいかなず思っお自由にさせおきたけど、今回の身勝手な振る舞いには正盎がっかりしおる。  昔の仲間ずの掻動の方が優先床が高いずでも蚀うの そんなに倧事なの』

「はい  」

『  理解に苊しむわ。調べさせおもらったけど、レむカが䞀緒にバンドを組んでるのっお、むンディヌズで掻動しおきた人たちなんでしょう』

「むンディヌズずメゞャヌは掻動堎所が違うだけで胜力に差はない、ずいうのが今のあたしの考えです。瀟長も聞いおみれば分かりたす。圌らの音楜はずおも玠晎らしいですから」

『  レむカの䜜る曲ずはだいぶ毛色が違うようだけど 私は別に、圌らの音楜を吊定しおるんじゃないの。レむカが圌らの音楜に染たっおしたうんじゃないかっお、そっちを心配しおるのよ。  悪いこずは蚀わないわ。䞀日でも早くバンド掻動を終えおこれたでの仕事に戻っおちょうだい。それがあなたのためよ』

「    」
 瀟長は玔粋にあたしのこずを想っおそう蚀っおくれおいるのだろう。その優しさは確かにありがたいず思う。しかし隣にいる二人の、射貫くような芖線を無芖するなんおあたしには出来なかった。

「  ごめんなさい、今は戻れたせん。二人ず亀わした玄束を砎る蚳にはいかないんです」

『  それが、あなたの氣持ちなのね』

「はい」

『  頑固なのは知っおるけど、これほどたでずはね。分かったわ。もう少しだけ自由にさせおあげる。ただし、次に倧口の仕事が入ったずきには勝手にキャンセルしないように。それだけは守りなさい』

「  わかりたした」

 電話はため息ず共に切れた。通話を終えたあたしはしばらくの間、蚀葉を発するこずが出来ずその堎で立ち尜くした。

 するず暪から突然、拍手が聞こえた。
「君の芚悟を芋せおもらったよ。合栌だ」
 智くんは満足そうに蚀った。
「これで安心しお共䜜できる」

「盞倉わらず偉そうだなぁ、お前は。少しは麗華の氣持ちも  」

「あたしは倧䞈倫よ、拓海。たずえ銖を切られおいたずしおも、あたしの隣には二人がいおくれるから。そ・う・で・しょ・う」

 顔を智くんに目いっぱい近づける。智くんは䞀瞬ひるんだが、売られた喧嘩を買うかのように額をひっ぀け、抌し返しおきた。

「ああ、そうだ。もっずも、君を誘ったのは拓海だから最終的に君の面倒を匕き受けるのは拓海だけどね」

「おいおい、いたは䞉人で䞀぀のグルヌプなんだぜ 麗華に䜕かあったずきはお前も責任の䞀端を担うんだよ」

「やだね。それはリヌダヌの仕事だろ」

「麗華を恚んでるからっお、い぀たでもそうやっお責任逃れするなよ  」
 拓海は少し怒っおいるのか、眉を぀り䞊げた。

「  俺が健康䜓ならそれでも構わないさ。だけど  だけど俺はお前らより確実に早くあっちの䞖界に行く。そうなった埌も、二人にはこんなふうにいがみ合っお欲しくない」

「拓海  」

「  これは蚀うかどうか悩んでたこずだけど、ちょうどいい機䌚だから蚀うよ」
 拓海はそう前眮きするず、あたしたちを順に芋ながら蚀う。

「智節。どうか麗華を幞せにしおやっおくれ。そしお麗華。こんな智節のこずをよろしく頌む」

「はぁっ」
「ええっ」

 予想もしない発蚀にあたしたちは同時に声を䞊げ、互いの顔を芋合った。そしおそれぞれに想いをぶ぀ける。

「蚀っおいいこずず悪いこずがあるだろう いくらリヌダヌ呜什でもそれだけは断固拒吊する」

「あたしだっお受け容れないわ。あたしたちがうたく付き合っおいくためにはどうしおも拓海が必芁なんだもの。今すぐにでもいなくなるような、䞍吉なこずは蚀わないで」

「いや、だけど  」

「そうならないように二人で曲を䜜るんだろうが。なぁ、レむちゃん」

「ええ、そうよ。こうなったら善は急げ、よ。早速、話を擊り合わせたしょう」
 智くんが頷くのを確認したあたしは、すぐにギタヌず筆蚘甚具を甚意した。

「ははっ  。やっぱり仲いいじゃん、お前ら。二人だけでもきっずうたくやれるよ」

「黙れ。そう蚀ったこずを必ず埌悔させおやる」
 蚀い攟った智くんの衚情がい぀になく怖かった。



 あたしたちは狭い郚屋から出お䟋の公園で䜜詞䜜曲するこずになった。朚の䞋にある長いベンチに二人しお腰掛ける。しかしその距離は、今の話の埌だからか少し遠い。そしおしばし沈黙の時が流れた。

「  ちっ、思い出しただけで腹が立぀」
 少し経った埌で、智くんが地団駄を螏みながら蚀った。
「こうなったら、二床ずあんな発蚀が飛び出さないような健康䜓にしおやる。僕らより長生きさせおやる」

 その発蚀から、智くんは心底拓海が奜きなのだず知る。早速䜕かを曞き留め始めた智くんに負けたいず、あたしも圌の隣で拓海を想いながらペンを走らせる。

 寒さに手がかじかんできた頃、智くんが立ち䞊がっおあたしの前に回った。顔を䞊げるず手に持った玙を差し出された。

「これは僕の考えず蚀うより、願望だず思っお欲しい。䞉十幎間、拓海にかけ続けおきた呪いを解くための、祈りの蚀葉ず蚀い換えおもいい。ずにかく、匷い想いを蟌めた」

「  ここで読んでもいい」

「そのために手枡しおいる」

「じゃあ、読たせおもらうわね」
 受け取るず、圌はさっきず同じ堎所に腕を組んで座り盎した。圌が目を぀ぶっおう぀むいたのを芋おから受け取った玙に目を萜ずす。

 䜕床も曞き盎された蚀葉。その䞭の、楕円で囲んである郚分をなぞっおいく。

 目で远っおいるうちに心がじんわり枩かくなる。そしお最埌の䞀文を読んで目頭が熱くなる。

 ――氞遠に君の呜、続くように願う。

 思わず圌の方を芋た。息を吞い、蚀葉を発しようずしたが遮られる。

「これは  願掛けだ。歌に乗せお発した蚀葉は珟実になるず信じお  。僕に出来るこずはもうそれしかない。だから  」

「この䞀文は必ず䜿うわ。あたしもそう願っおいるから」

「いたこそ信じよう、歌の力を」

「智くん  」

「  ふっ。たさか僕がそんなこずを蚀う日が来るずは。君もきっずそう思っおいるだろうね。だけど  だけど僕だっお人生のほずんどを、歌うこずずギタヌ挔奏に費やしおきたんだ。それが意味のあるこずだったず蚌明するためにも、持おる力のすべおを䜿っおこの曲を完成させる぀もりだ」

「ええ。あたしたちならきっず拓海を救えるわ。いいえ、必ず救う」
 蚀い聞かせるように蚀ったあたしは自分の想いを歌詞に蟌めるため、続きを考え始めた。


26拓海

 郚屋に残された俺は結局、䞀人で時間を朰すこずに飜きお倖ぞ出た。ず蚀うより、出お行っおしたった二人のこずが氣になっおじっずしおいられなかった。

 二人のこずだから遠くたでは行っおいないだろうず予想したが、案の定すぐそばの公園にいた。遠くからだず仲良く䞀぀のベンチに腰掛けおいるように芋えたが、近づいたらそっぜを向いお䞡端に座っおいるず分かっお二人らしいな、ず埮笑む。

 䜙蚈なこずを蚀ったかな、ず思う䞀方で、これでよかったのだずも思う。どっちにしろ俺のひず蚀が、二人が䞀緒に過ごす時間を䜜ったこずに倉わりはない。

 二人が俺のために曲を䜜り、歌うその日が来たずきどんな反応をすればいいのか考えおみる。いや、反応はどうずにでも出来る。その想いに応えられるかどうか。そっちの方が問題だろう。

 生きお欲しい  。そう願っおもらえるのは有り難いこずに違いない。俺自身、病氣を克服しおこの先もミュヌゞシャンずしお生き続けるこずが出来たならきっず楜しいだろうなずは思う。だけど正盎、想いに身䜓が぀いおこない。少なくずも喉は智節の蚀うずおり限界を迎えおいる。

声が出せる今のうちにやるべき事を終えなければ  。

 二人が䞀緒に過ごしおいるこずを知っお安心した俺は、今朝公園で曞き䞊げたばかりの曲の録音䜜業をしようず思い立ち、行き぀けの音楜スタゞオに足を向けた。


27智節

 拓海のふざけた頌み事を聞く氣は埮塵もなかった。いよいよその時が迫っおいるのだずいう切迫感に胞が苊しくなるだけだった。

䜕が幞せにしおやっおくれ、だ。レむちゃんのこずを想っおいるなら自分で幞せにしろよ  。

 急に老け蟌んだように芋えた拓海の顔が脳裏に浮かんだ。おそらく圌は盞圓匱氣になっおいる。このたたでは間に合わなくなる、ずいう思いが募る。急かされるのは奜きじゃないが、今回ばかりは僕も焊っおいる。

「あたしも歌詞がかけたわ」
 焊燥感を抱いおいるず、今床はレむちゃんが玙をよこした。半ば奪うように受け取り歌詞をなぞる。

「  君も倧袈裟だな。どこたでも君ず生きれるように、だなんお」

「倧袈裟でも䜕でも、拓海が元氣になるならいいじゃない。智くんの真䌌をしお、あたしも願掛けする぀もりで曞いたわ」

「  ふっ。この歌を聎いた拓海が氞遠の呜を手に入れたら面癜いな」

「そうね。でも、そのくらいの想いは蟌めたい」

「うん。  よし、互いに歌詞がかけたずころで早速、合䜜に取りかかろう。僕らに残された時間はあたりないようだから」

「ええ  」
 返事をした圌女の目からぜろぜろず涙がこがれ萜ちた。盎埌、衚情が厩れる。僕はずっさに圌女の肩を抱いた。

「  泣いおいる時間はないぞ。䞀秒でも早くこの歌をあい぀に聎かせおやろうぜ」

「  そうだよね。泣いたりしおごめん。慰めおくれおありがずう。やっぱり智くんは優しい」

「  女の涙が苊手なだけだ。さぁ、涙を拭いお。すぐに再開しよう」
 僕は圌女を抌しのけるように離れ、䞀床背を向けお立ち䞊がった。

 ――泣きたいなら䞀緒に泣けばいいのに。
 空を仰いだずき、心の声が䜙蚈なこずを蚀った。

ふん  。女の前で感情の動くたた泣くのはろくでもない野郎だけだ。

 ――匷がるか。本圓は今にも泣きたいくせに。拓海が死んだら君は  。

倱せろ   䜜詞の邪魔をするな  
 声を振り払うように足もずの砂を蹎飛ばす。

「智くん  」
 䞍思議がるレむちゃんの声に振り返る。涙を拭ったばかりのその矎しい顔を芋た途端、再び拓海の蚀葉がよみがえった。

本氣で蚀っおるのかよ。君が愛しおるはずのレむちゃんを僕に蚗すっお  。
 もう䞀床圌女ず真向かう。そのたた䜕も蚀わずにいるず、立ち䞊がった圌女の腕が背に回った。

「  こういうこずは拓海にしおやれ。あい぀、ずいぶん匱っおきおるから」

「ええ  。だけど智くんも家族だから、苊しんでいるなら癒やしおあげたい」

「僕のこずは構うな。あい぀を  拓海を第䞀に救っおくれ」

「  うん。救うよ、絶察に。  あ、曲が浮かんだ」
 圌女はそう蚀うず慌おお玙にコヌドを曞き蟌み、盎埌にギタヌを奏で始めた。

 そのメロディヌは優しくお、拓海のための曲のはずだが聞いおいる僕の心たでもが癒やされおいくようだった。

 䜕床か同じメロディヌが奏でられ、耳に残ったその音を手元の歌詞に照らしお歌う。氣に入るずレむちゃんは「それ、採甚ね」ず蚀っおその郜床匟く手を止め玙に曞き留めた。

「ああ、僕もメロディヌが浮かんだ。この郚分は僕に任せおくれないか  」
 曲のラストの郚分は僕の枟身の想いを蟌めたかった。匟きながら歌い䞊げるずレむちゃんは䜕床も頷いた。

「  ねぇ。この歌が出来䞊がったら智くんが拓海に歌っおあげお。絶察にそれがいいわ」

「え   僕が   いや  歌は君の担圓だろう」

「今の歌いっぷりを聞いたら感動しちゃっお  。䞀緒に䜜ろうっお提案しおくれたのは智くんだし、ぜひそうしお欲しいな。拓海のためにも」

「だけど  」

「拓海の呜が氞遠に続くように、願いを蟌めるんでしょう 智くんが歌う隣であたしはギタヌを匟くから。ね」

 提案しおおいおなんだが正盎、自分で歌うこずは想定しおいなかった。しかしこれが拓海を生かすための「祈りの歌」であるならば、呪いをかけた人間ずしお責任を持っお歌うべきなのでは、ず思わなくもない。

「  たぁ、考えおおこう」

 ずはいえ、僕が歌うかどうかは曲が完成しおから決めたかったから返事は保留にした。りむング時代にはよく、曲の雰囲氣によっお歌い手を倉えおいた。拓海がメむンで歌う曲が倚かったが、僕が䞀人で歌う曲もいく぀かあった。

「智くん、いい声しおるから絶察アリだず思うんだけどなぁ  」
 即答しなかったからか少々䞍満のようだったが、レむちゃんは「もうちょっず頑匵ろう」ず自分に氣合いを入れるように蚀い、再びギタヌを匟き始めた。



 曲の倧枠が出来䞊がる頃にはずいぶん日が傟いおいた。こんなにも䞀氣に䜜詞䜜曲したこずはいただか぀おない。拓海の䜙呜を思えば圓然のこずではあるが、さすがに疲劎感は拭えなかった。

「郚屋に戻っお少し䌑憩しよう。小腹も枛ったし」

「  え、もうこんな時間 そうね、䞀旊䌑みたしょう」
 時蚈を芋お驚いたレむちゃんは倧きく䌞びをしお立ち䞊がるず、すぐに拓海の郚屋に足を向けた。



 郚屋はもぬけの殻からだった。ギタヌがないずころを芋るず拓海もどこかに匟きに行っおいるのだろうず想像するが、今朝も起きたらいなかったし、少し䞍安になる。

「レむちゃん、拓海の居堎所に心圓たりある」

「いいえ、残念ながら  。心配なら電話しおみようか」

「いや  。たぁ、盎じきに戻るだろう」
 戻る、ず口にした瞬間、今朝の拓海の蚀葉がよみがえった。

そういえばあい぀、最埌の曲を䜜っお声を残す぀もりだず蚀っおいたな  。

 もしかしたら拓海は今朝ほど完成した曲を圢にしおいるのかもしれない。「遺蚀」の぀もりで  。

ちっ  。
 それが事実ではなかったずしおも、そう匂わせた拓海が恚めしかった。

んなもん残したっお聞くものか   新曲が出来たなら生の声で歌えよ  

 苛立ちが頂点に達した僕は「やっぱり電話する」ず告げお電話をかけた。なかなか出ないので曎にむラむラしたが、蟛抱匷く埅぀。コヌル音を十数回聞いたずころでようやく繋がる。

『ったく、いた忙しい  』

「死ぬ準備を着々ず進めおんじゃねえよ 君を生かそうず必死に曲䜜りしおるこっちの氣持ちも考えろ さっさず戻っおこい」

『    』
 拓海は黙り蟌んだ。息巻く僕の隣でレむちゃんが心配そうな県差しを向ける。熱くなっお電話を握りしめる僕ずは察照的に、拓海は冷え切った声でぜ぀りず蚀う。

『お前の氣持ちはありがたく受け取るよ。でも  人は死ぬよ。い぀か必ず。そのために䜕かを残そうず思うのは自然なこずじゃねえのか』

 芇氣のない声を聞いた僕は悔しさのあたり歯を食いしばった。

「  君じゃなくお僕が病氣になればよかったのにな。悔しい。本圓に悔しい」

『智節  』

「  君のための曲はもうすぐ完成する。聞かせおやるから䞉十分以内に戻っおこい、いいな」

『䞉十分   戻れっかな  』

「戻れ これは呜什だ」

『  わかったよぉ。すぐに垰る支床をしお電車に飛び乗るから』
 電話口で片付けを始める音が聞こえた。

「  最寄り駅で埅぀。䞉十分埌に䌚おう」
 そう告げお電話を切る。ため息を぀くず、レむちゃんに芋぀められる。

「  拓海、どこにいるの」

「たぶん音楜スタゞオ。そこで最埌の歌声を録音しおいたんだろう」

「最埌  。それで智くんはあんなに怒っお  」

「ったく、ふざけおるだろう ああ、思い出すだけで腹が立぀」
 僕は電話をポケットに突っ蟌み、再びギタヌを背負った。

「行こう、レむちゃん。老け蟌んじたったあい぀を若返らせおやろうぜ、僕らの歌で」

「ええ  」
 返事をした圌女はう぀むきながら僕の手を取った。その手が少し震えおいたので匷く握っおやる。

「匱氣になるな。悲芳するな。僕らがそんなんでどうする 氣を匷く保っおあい぀を迎えなきゃ。それが出来ないならここに残っおくれ」

 今の僕からはそんな蚀葉しか出おこなかった。き぀い蚀い方だったかもしれないず思った矢先、圌女がキッず僕を睚み、痛いくらいの力で手を握り返しおきた。

「ここに残るなんおあり埗ない。行くわよ、あたしだっお歌うんだから」
 レむちゃんは吐き捚おるように蚀い、自身のギタヌを背負った。

「そう、その意氣だ」
 やる氣を取り戻した圌女に満足する。
「行こう、あい぀のずころぞ」
 再び圌女の手を取る。その手はもう震えおいなかった。


28麗華

 匷氣の発蚀をし、奇跡を信じる䞀方で、胞の内は䞍安ず恐怖で満たされ぀぀あった。智くんが、怒りをぶ぀けるこずで拓海の「旅支床」を拒んだのも分かる。だっおそうでもしなければ恐怖に抌し぀ぶされおしたいそうだもの。

 先を歩く智くんは、郚屋を出たずきからずっずあたしの手を握り続けおいる。ずんずんず進むその足取りは、未だ拓海ぞの怒りを衚しおいるようにも、恐怖をかき消そうずしおいるようにも芋えた。

 拓海のための曲は䞀応、完成しおいる。ただ䞀床も通しで匟き語りしおいないし、荒削りだから、せめおあず䞀日は曲䜜りに圓おたいずころ。それでも智くんが拓海に聞かせたいず蚀い匵る理由があるずすればやはり、圌の呜がいよいよ残り少ないず感じおいるからに違いない。

「拓海から聞いおいるの あずどのくらい時間、、があるかを  」

 すぐに返事はなかった。が、数秒の埌、圌は前を向いたたた答える。
「そんなこずを問うこず自䜓、無意味だ。人の寿呜など誰にも分からない」

「そうだね、ごめん  」

「だけど、分からないからこそこうしお急いでいるのも事実だ。  ちっ。たた赀信号か」

 駅に向かう道䞭で信号に匕っかかるたび、智くんは苛立ちを顕わにした。その焊りようから、䞀秒でも早く拓海のために歌いたいず思っおいるこずが分かる。そしおそれだけ二人で䜜った歌に賭けおいるこずも。

 奇跡なんお簡単に起こせるもんじゃないず蚀っおしたえばそれたでだ。智くんもはじめはそう蚀っおいた。けれど今の圌は、珟実から目を背けお䜕もしないよりはマシだず思っお動いおいるように、あたしには芋える。

 必死すぎる智くんの姿は、端から芋れば痛々しく映るだろう。しかし、䜕十幎にもわたり支え合っおきた盞方を救う手立おがあるのだずしたら、たずえ非珟実的だず蚀われるようなこずにだっお瞋すがる。誰もがきっず。

 信号埅ちの間、空いおいる方の手でギタヌにぶら䞋げたお守りを握った。正月に䞉人で近くの神瀟に赎き、拓海の病氣が快埩するよう祈願した際に買い求めたものだ。

神様、どうか拓海のために歌う時間を䞋さい  。そしお歌に病氣を治す力を䞎えお䞋さい  。お願いしたす。お願いしたす  。

 祈る声が聞こえたはずもないが、智くんがあたしの手を匷く握った。たるで「倧䞈倫だ」ず䌝えるかのように。


29拓海

 ここに来るこずはひず蚀も告げなかったのに、付き合いの長い智節には俺の居堎所が分かっおしたったようだ。たぁ、いい。幞いにしお録音䜜業は無事に終えおいる。すぐに退宀の手続きを枈たせおちょっず走れば倚分、間に合う。

 電話口の智節がひどくご立腹だったのが氣になった。怒られるこずには慣れおいるが、今回は状況が状況だけに軜く受け流すこずが出来なかった。

これ以䞊怒らせるず埌が面倒だな  。早く垰ろうっず  。

 ずころが受付に向かうず、数人の男がむラむラした様子で声を匵り䞊げおいた。聞き取れた䌚話から、どうやら予玄したはずの郚屋が取れおいなかったこずに腹を立おおいるらしかった。受付の人は䞀方的に責められる栌奜になり、萎瞮しおいる。

面倒なこずになったな。あい぀らの話が枈むたで埅っおたら智節にどやされちたう  。ちょっず亀枉するか  。

 出しゃばるのは奜きじゃないが、こっちは時間がない。俺は䞀぀咳払いをしお受付に向かう。

「俺が䜿っおた郚屋でよければ空くよ。だからさ、そんなにこの人を責めるなよ。な」

 男たちは顔を芋合わせたが「䞀番デカい郚屋を䜿う予定で来おんだよ、こっちは」ず声を荒らげた。

「たぁ、氣持ちは分かるよ。だけど、緎習するだけならどの郚屋でも同じだろう そうやっおごねおる時間がもったいないず思わない」

「     同じじゃねえよ、オッサン」
 本圓のこずを蚀っただけなのに盞手を怒らせおしたったようだ。男たちは俺を巻き蟌んであヌだこヌだず文句を蚀い始めた。

 五分ほど抌し問答が続いたずころでようやく事務所の奥から支配人らしき人が出おきお䞍手際を詫びた。そしお、今日の䜿甚料はタダにするから空いおいる郚屋を䜿っおもらえないかず亀枉し、ようやく男たちを黙らせたのだった。

 隒動の埌で退宀手続きを枈たせるこずになった俺は、時間が抌したこずでかなり焊っおいた。よりによっお「䞉十分以内に戻れ」ず呜什された日に限っおトラブルに巻き蟌たれるずは。

理由を蚀っおも信じおもらえないだろうけど、䜕も蚀わずに遅刻したら絶察に怒られるよなぁ  。

 仕方なく、蚀い蚳じみおしたうのを承知でスタゞオの前からメヌルを入れる。

「よし  。遅れるかもっお蚀っずいお間に合えば文句は蚀われないはず  」
 せめお誠意は芋せようず、人が抌し寄せる道をダッシュで駆け抜ける。最近はほずんど走るこずがなくなった䞊にギタヌを背負っおいるから足取りが重い。病氣も盞たっお息苊しい。それでも俺は走った。あい぀らの元に垰るために。

 だが䞀分も走るず、聞いたこずのないれェれェずいう呌吞音が肺の奥の方から聞こえ始めた。぀いに肺たでおかしくなったのか   そう思った盎埌、喉ず肺を同時に切り裂かれるような痛みに襲われ立ち止たる。痛みのあたり膝を぀くが、その時にはもう息が出来なくなっおいた。

マゞかよ  。こんなずころで俺は死ぬのか  。

 道路に倒れ蟌むず呚囲の人が悲鳎を䞊げ、俺から離れお茪を䜜った。勇敢な人が二人ほど俺に声をかけたり救急車を呌んだりする声が遠くの方で聞こえた。その声に玛れお麗華からの着信音が鳎る。慌おお手を䌞ばそうずするが身䜓はピクリずも動かない。 

埅っおろ、麗華  。今、そっちに向かうから  。
 しかし電話に出るこずは出来ず、意識もそこで぀いえた。

30智節

『音楜スタゞオでトラブル発生。今出たずころだから間に合わないかも   䞀応、ダッシュで駅に向かうけど🏃‍』

 最寄り駅に着く手前で拓海からメヌルが入った。トラブルず聞いお、お人奜しの拓海のこずだから人様の問題に銖を突っ蟌んで巻き蟌たれたに違いないず予想する。

「智くん。拓海の到着が遅れおも怒らないであげお。  っお蚀うか、䞉十分で戻っおくるのは、䜕もなくおも結構ぎりぎりだず思うんだよね」

「僕の怒りが䌝わればそれでいい。五分や十分遅れたずころで本圓に怒るような男じゃないよ、僕は」

「拓海もそう思っおいればいいけど  」

 駅に着くず改札口が劙に混雑しおいた。どうやら䞋り線で人身事故があり、遅れが発生しおいるようだ。䞋りは拓海が乗るはずの路線だ。事故は十分ほど前に発生したらしく、駅員が察応に远われおいた。

「やれやれ。この様子じゃ䞉十分以内には来そうにないな  」

「  どうする 拓海に連絡しお、ゆっくりおいでっお䌝えずく」

「  レむちゃんから䌝えおくれ。僕はそういうこずを蚀うキャラじゃない」
 レむちゃんは小さくため息を぀いたあずで拓海に電話をかけた。しかし、繋がらないのか䜕床も銖をかしげる。

「  でないわ。倉ね」
 䞀床電話を切り、再床かけ盎したがやはり繋がらないようだ。

「もしかしお、電話に出られないような出来事があったのかな  」

「たさか」
 そんなわけないだろうず蚀おうずしたずき、劙な胞隒ぎがした。氣のせいだず思い蟌むこずも出来たが、どうも萜ち着かない。

「ちっ  。繋がらないんじゃしょうがない。こっちから出向いおやるか」

 遅れるず分かっおいるのに、い぀来るずも分からないあい぀を埅぀ほどの忍耐力はない。䞍安も募る䞀方。だったらこっちから動いた方がただマシだ。僕らは混雑する改札口をかいくぐり、ホヌムに入線しおきた䞊り電車に飛び乗った。



 垰宅時間に重なったのか、車内も混んでいた。孊生、瀟䌚人、老倫婊。いろんな人の姿が芋える。なのにみな、その目は手元の小さな画面に釘付けで生氣の欠片もなかった。そうでない人は倖の音を遮断したいのか、もれなくむダホンをしおう぀むいおいた。

 誰もがみな、この珟実䞖界に嫌氣が差し、逃避しおいる。嫌だ嫌だず蚀いながらも、そこしか生きる堎所がないからず自分に鞭打っお生きおいる。そう、これが珟実。僕もそんな䞖界で長らく生きおきた。倉わらない珟実を憂いながら  。

 あず䞀駅ずいうずころでたくさんの人が車内に乗り蟌んできた。僕らはその人たちに抌され、身䜓をぎったりず寄せ合う栌奜になる。背負ったギタヌが身䜓に食い蟌み、苊しい。レむちゃんも苊しそうに顔をゆがめおいる。

 僕は仕方なく近くの人を少し抌しお壁になり、圌女を抱き寄せた。

「あず数分の蟛抱だ  」

「うん、ありがずう  」

 動き出した電車の揺れに身䜓を持っお行かれそうになるが必死に耐える。揺れに身を委ねた人たちに抌し぀ぶされたいず螏ん匵る。

流されおたたるか   僕の䞖界の䞭心は僕なんだ  

 流れを劚げる人間は時代を問わず排斥されおきた。それでも抵抗し続けた人たちが新時代を切り開いおきたのもたた事実。そのこずに氣付かせおくれたのは奇しくもレむちゃんず拓海のコンビだ。

 あのずきサザンクロスの再結成に同意し、レむちゃんずの共同生掻を受け容れおいなければ卑屈な人間のたた䞀生を終えおいただろう。だけど、手を取り合った二人がたさに僕を「ニュヌワヌルド」ぞ誘いざなおうずしおくれおいる今、差し出された手を振り払ったり、倉化を止めようずするもっずもらしい蚀葉に耳を傟けたりしおはいけないのは、ひねくれ者の僕でも分かる。

 ――間もなく到着したす。ご乗車ありがずうございたした。

 車内アナりンスが聞こえ、降りる準備を始める。ドアが開き、出口ぞ向かう人が捌はけるのを埅っお最埌に降りる。せっかちな老人が僕らにぶ぀かるようにしお乗車しおきたが、構わず抌しのけお䞋車する。ぎろりず睚たれたが、「降りる人が先だろ」ず蚀い返しおやるず老人は顔を背け、慌おお空いおいる垭に身䜓を滑り蟌たせたのだった。



 向かい偎の䞋り線ホヌムは盞倉わらず混んでいた。ただ運転再開のめどが立っおいないようだ。拓海はあの人混みの䞭にいるのだろうか。ずりあえず䞀旊改札を出お開けた堎所で再床、電話をかけおみよう。

「  ねぇ、あそこ芋お。䜕かあったのかな」

 レむちゃんに蚀われおホヌムから芋える駅前広堎の端に目をやるず、確かに劙な人だかりが出来おいた。よく芋ればその䞭心には救急車が止たっおいる。事故か、事件か  。

「嫌な予感がする  」

 呟いた瞬間に走り出しおいた。電話が繋がらなかった理由が倒れたからだずしたら   倒れた原因が僕が急かしたせいだずしたら  

 ――萜ち着け、あそこにいるのが拓海だず決たったわけじゃないだろう

 こんなずきに内なる僕が、冷静になれず蚎えかけるように声を発したが、無芖する。いや、止めどなく䞍安が抌し寄せおきお反論するどころではなかった。

 冷や汗が止たらない。

 なぜ止めなかったのだろう。倧病を患っおいる拓海が走っお駅に向かうずメヌルしおきた時点で。なぜ急かしおしたったのだろう。急いで戻っおこなければいけない理由などこれっぜっちもなかったのに。

冷静に考えれば分かったものを、僕ず来たら怒りにたかせお拓海に無茶を  。

「どけっ   どいおくれっ  」
 自分でも驚く速床で階段を降り、改札を通り抜けお駅前広堎の人だかりをかき分ける。悪い予感は的䞭し、そこには顔面蒌癜の老人ず化した拓海がいお、今たさに救急車に乗せられるずころだった。

「拓海っ  」
 そばに駆け寄るず救急隊員に止められた。

「䞀刻を争う状況です。離れおくださ  」

「友人  いや、家族なんですよ、こい぀は」

「ご家族ですか もし病状などをご存じでしたら同乗しお詳现を教えお䞋さい。我々もその方が助かりたす」

「乗せお䞋さい。䜕でも話したす」
 そこぞ息を切らせたレむちゃんが到着した。拓海の姿を芋るなり悲鳎を䞊げる。

「なぜこんなこずに  」

「僕は拓海に぀いおいく。レむちゃんは」

「あたしも  」
 蚀いかけたレむちゃんは地面に目を萜ずし、眮き去りにされた拓海のギタヌを拟い䞊げた。それから乗り蟌もうず䞀歩螏み出したが隊員に止められる。

「その荷物を持ったたたでは無理です   もう行きたす」

「  なら、あたしはタクシヌで远う」
 レむちゃんはギタヌをギュッず抱え蟌み、近くのタクシヌ乗り堎ぞ走った。それを芋届けた救急隊員はすぐにドアを閉め、サむレンを鳎らしながら発車した。


31麗華

「あの救急車を远っお䞋さい」

 自分ず拓海のギタヌを抱え、無理やりタクシヌに乗り蟌んだ。運転手が慌おお車を走らせる。安堵したのも぀かの間、バックミラヌにちらりず映った皺しわくちゃな顔に驚愕する。これが、今のあたしの顔   さっき芋た拓海の姿ず重なりぞっずするが、今は芋た目を氣にしおいる堎合ではない。

拓海  。どうか無事で  。

 圌のギタヌを抱く。そしお知る。拓海が倒れおようやく、あたしは圌を深く想っおいたんだっお。圌のいない䞖界で生きおいく芚悟もないんだ、っお。

ずっず䞀人で生きおきた぀もりだった。だけど違ったんだ。あたしは、同じ䞖界に拓海がいたから頑匵れたんだ  。ごめんね、拓海。氣付くのが遅くおごめん  。

 急に声が聞きたくなった。が、蚘憶をたどり思い出そうずするも、䞀生懞呜になればなるほど遠ざかっおいくような氣がしお焊る。

どうしおよ   数時間前に聞いたばかりじゃない。どうしおはっきり思い出せないのよ  

 悔しさのあたり唇を匷く噛む。
やっぱりあたしには  「ただの麗華」には力がないの  

 ――匱氣になるな。悲芳するな。僕らがそんなんでどうする 氣を匷く保っおあい぀を迎えなきゃ。

 塞ぎ蟌みかけたずき、頭の䞭で力匷い声が聞こえた。それはさっき智くんに蚀われた蚀葉だった。

そうだ  。拓海が病に冒されおいるこずは再䌚したずきから分かっおいたこず。それを歌で吹き飛ばすっお蚀ったのはあたし自身  。いよいよその時が迫っおいるなら尚のこず、歌の力を信じなくおどうするのよ、麗華

 自分を錓舞した瞬間、唐突に歌詞ずメロディヌが降りおきた。急いでスマホを取り出したあたしは、タクシヌの䞭にもかかわらず思い浮かんだ歌を録音し始めた。はじめは怪蚝な顔をしおいた運転手だが、そのうちにハッず衚情を倉えた。

「  もしかしおお客さん、歌手のレむカさんですか」

 問われお頷く。運転手は前を行く救急車をじっず芋おいたが、少ししお「そのギタヌの持ち䞻のために歌われたんでしょうか」ず蚀った。

「ええ  。倧切な『家族』なんです  」

 あたしが答えるず同時に救急車が病院に入っおいった。タクシヌはすぐに埌を远い、止たった救急車の少し埌ろで停車した。

 震える手で財垃からお金を取り出しお支払うず、運転手に手を握られた。
「パヌトナヌのご無事をお祈りしおいたす」

「ありがずうございたす。お䞖話になりたした」

 蚀いながら䞀瀌したあたしは、自分のギタヌを背に、拓海のギタヌを胞に抱き、救急車から降ろされる拓海の元に駆け寄った。ずころが救急隊員に「離れお」ず䞀蹎される。思わず足を止めるず、拓海はあっずいう間に院内ぞ消えおいった。

 呆然ずしおいるず智くんに肩を抱かれる。

「  そんな胜面みたいな顔で拓海ず䌚う぀もりか 氣を匷く持お」
 しかし、そう蚀った智くんの顔はや぀れ、䞍安でいっぱいに芋えた。あたしは銖を暪に振り、深呌吞をしおから笑顔を䜜った。

「はい。智くんも笑っお」

 智くんは頑匵っお笑顔を䜜ろうずしたが、うたくいかないのか、䜕床やっおもぞの字口のたただった。そのうちに歯を食いしばり、倩を仰いだ。

「拓海  。これが最埌の別れになったら  」
 蚀葉はもう少し続いたが、声が震えおいたせいで䜕を蚀ったのかはっきりず聞き取るこずが出来なかった。


32拓海

「おいっ 䞉十分で来いず蚀ったのになんだ、このザマは こんな  こんな察面をするために呌び぀けたんじゃねえぞ、分かっおんのか 黙っおないでなんずか蚀えよ  」

 倢か珟実か智節が必死に蚎えかける声が聞こえた。やはりひどく怒っおいる。ごめん、ず謝ろうずするが目は開かず、声も出せない。

 少し前に感じおいた身䜓の痛みや苊しさは、今はない。意識が蟛うじおこの䞖に残っおいる、そんな感じだ。今はただ、黒ず癜の䞭間くらいの色の䞭で挂っおいる。もしかしたら俺は半分、黄泉の囜に足を突っ蟌んでいるのかもしれない。

 胞のあたりをぐいぐいず抌される感芚が続く。再び意識が朊朧もうろうずし、埐々に薄れおいく。



 ハッず目を開けたずき、なぜだか俺は自分の姿を芋降ろしおいた。

぀いに死んだのか  。

 しかしよく芳察しおみるずただ息はあるらしい。腕には点滎らしきチュヌブが繋がっおいるし、人工呌吞噚も぀いおいる。だが、暪たわる自分の姿は実幎霢よりはるか䞊に芋え、い぀息を匕き取っおもおかしくないように思われた。

 芋知らぬ人が通報しおくれたおかげで、なんずか生きた状態で病院に搬送されたのは䞍幞䞭の幞いず蚀えるだろう。ただ、同居䞭ずはいえ、血の繋がりのない智節ず麗華にすぐ連絡が行くずは思えなかった。芪はずっくに亡くしおいるし、䌎䟶もいない。こうなるこずが分かっおいたなら、二人の電話番号を目に぀くずころにメモしおおけばよかったず埌悔する。

 䞀人で死ぬかもしれないず蚀う考えがよぎったずき、蚀い知れぬ寂しさに襲われた。どうやら俺は、二人に知られるこずなく静かにこの䞖を去るこずを想定しおいなかったらしい。死ぬ芚悟は出来おいた぀もりだったが、実は心のどこかで二人が看取っおくれるこずを信じお疑わず、安心しおいた。だから今、それが叶わないず知っお胞を痛めおいる。

 こんなに柔な男だったかなず思ったが、思い返しおみれば、たった䞀人で匟き語りする勇氣も実力もなかった俺は、智節ありきで生きおきた、文字通り柔な男だったず蚀えるだろう。それは智節も同じで、俺たちは支え合わなければ生きお来れなかった匱い人間。にもかかわらず、俺が先にこの䞖を去っおしたう  。智節があんなふうに怒ったのも圓然ず蚀えば圓然だった。

悪いな、智節。䞀緒に死ねたらよかったのかもしれないけど、どうやらそれは叶えられそうにない  。

 身䜓がすっず軜くなるような感芚。芋えおいる自分の姿も遠くなり、今にも倩井をすり抜けそうになる。

さよなら、智節。さよなら、麗華  。二人ず出䌚えお本圓によかっ  。

「この歌を歌うたでは垰らねえぞ 誰がなんず蚀おうず、歌う、ここで」

 智節が乱暎に郚屋のドアを開けお入っおきたこずに驚き、その拍子に遠ざかりかけおいた意識が戻る。

駅で埅っおるはずの智節がなぜ   なぜ俺がここにいるこずを知っおいる  

 頭が混乱する。そんな俺のこずなど知るよしもなく、ギタヌを匕っ提げた智節は暪たわる俺の暪に立぀ずすぐにギタヌを鳎らし始めた。

「やめお䞋さい ここは病院ですよ しかもこちらの患者さんは絶察安静の  」
 看護垫の制止などものずもせず、智節は声を荒らげる。

「それがどうした 䜕ヶ月も治療薬を投䞎されおきたこい぀が治っおないのは、今の医療に限界があるからじゃないのかっ そもそも治す氣なんおないからじゃないのかっ   自分たちはこい぀の䞻治医じゃないっお目をしおるな だがな、僕に蚀わせりゃ医者なんおみんな同じなんだよ。僕はあんたらを信じない。信じられるのは僕らの歌だけ。僕らは  歌で拓海をよみがえらせる  」

「歌で瀕死の人を救うだなんお、そんなの無理に決たっおるでしょう 銬鹿なこずを蚀わないで䞋さい あなたの頭、おかしいですよ ずにかく、出お行っお䞋さい」

「銬鹿はどっちだ 僕は絶察に歌うぞ。拓海に聞かせるためにここたで来たんだからなっ」

 そこぞ医垫らしき男性が数人やっおきお智節を取り囲んだ。
「本圓にこの患者さんのこずを思うなら静かにするこずです これ以䞊蚀っおも聞き入れおもらえない堎合は譊察に通報したす」

「あんたら、拓海のこずをどれだけ知っおるっお蚀うんだ こい぀に䞀番効く薬は音楜なんだよ」

「  音楜療法をお望みなら転院しおもらっおも構いたせんが、呜の保蚌はありたせんよ」

 冷静な医垫の蚀葉を受け取ったのは、ずっずそばで静芳しおいた麗華だった。
「智くん。お医者様の蚀うずおりにしたしょう。少なくずも拓海は、ここに運ばれたから今、生きおいるんだもの」

「レむちゃん   本氣でそんなこずを  」
 反論しかけた智節に麗華が寄り添う。そしお耳元で䜕かをささやいたかず思うず、智節は蚀葉をぐっず飲み蟌み、医垫を睚んでから郚屋を出お行った。

 麗華が䜕を蚀ったのかたでは聞こえなかった。が、あい぀がすんなりず抵抗をやめるようなこずを蚀ったのは間違いないだろう。麗華は次に医垫に向き盎った。

「  お隒がせしお申し蚳ありたせんでした。智くんは  今出お行った圌はもう倧䞈倫です。あの  」
 麗華はそこで䞀床蚀葉を切ったが、躊躇いがちに続ける。
「そばにいおも構いたせんか 拓海はあたしの  恋人なんです」

 その蚀葉に驚いたのは医垫ではなく、俺だった。か぀お胞があった堎所がじんわりず枩かくなる。医垫は俺の容態が萜ち着いおいるこずを確認したあずで「そばにいるだけなら差し支えないでしょう」ず蚀った。

「ありがずうございたす」

「ただし、少しでも異垞が芋られたらすぐに連絡しお䞋さい」

「わかりたした」
 麗華の玠盎な返答を聞いた医垫は安心したように頷き、郚屋を出お行った。

 再び静寂が蚪れた。麗華は郚屋の端にあった怅子をベッドに匕き寄せお腰掛け、俺の手を取った。

「あったかい  。生きお䌚えおよかった  」
 そう蚀っお䞡手で包み蟌む。

俺も䌚えお嬉しいよ、麗華。たさか、ここたで迎えに来おくれるずは思っおなかった。
 声に出しお蚀うも声垯が震えるこずはなく、俺の声はむなしく霧散した。

せっかく「恋人」っお蚀っおもらえたのに、この嬉しさを䌝えられないなんおもどかしいな  。たしおやこのたた死んだら埌悔しかねえ  。

 麗華がどんな顔で俺を芋぀めおいるか芋たくお意識を身䜓に向ける。ず、芖点が麗華の顔がよく芋える䜍眮に倉わった。

 心配そうに芋぀めるその目には涙が浮かんでいた。ずいぶん泣いたのか、腫れがったい。だけどそんな顔も愛おしくお抱きしめたくなる。

ごめんな  。抱いおあげたいけど身䜓が動かないんだ  。
 思い通りにならないこずが蟛かった。そしお䜕より、麗華を眮いおこの䞖を去るこずが蟛かった。

 その時、たるで俺の蚀葉を聞いたかのように麗華が蚀う。
「死なせないよ。拓海の呜はあたしたちが救う。そう蚀ったでしょ」

 麗華は立ち䞊がり、カヌテンず窓をそっず開けた。そしお急に衚情を倉えたかず思うず深く息を吞った。



あなたの声が倧奜きで
ささやかれるず嬉しくお
眠れぬ倜を過ごしたわ、䜕床も

䞀緒に月を眺めたね 
芋果おぬ倢、語りながら

聞きたいよ、君の声を
䌚いたいよ、今すぐに
倧奜きな君に  



 初めお聞く歌だった。それもそのはず、歌い終わったあずで麗華が「今のはね、さっきタクシヌでここに向かう途䞭に浮かんできた新曲なのよ」ず教えおくれた。

「拓海  。もう䞀床あたしの名前を呌んで。その声でささやいお。  麗華、愛しおるっお  」

ああ、䜕床でも蚀うよ。麗華、愛しおる。愛しおるよ  。
 俺の声が喉から出るこずはなかったが、麗華は嬉しそうに埮笑んだ。

「ありがずう。拓海の心の声、ちゃんず届いたよ。うん、あたしも愛しおる。本圓にありがずう  」

 どうやら俺の声は盎接麗華の心に響いおいるらしい。麗華の錓膜を震わせられないのは残念だが、想いが䌝わったこずに満足する。麗華が俺の手を握っお蚀う。

「  倧䞈倫。すぐにここに戻っおこれるよ。智くんが、うたくやっおくれる。だから、もう少し埅っおお  」

 麗華が蚀い終わるより早く、倖からギタヌの音が聞こえた。これは智節のギタヌの音  。短い前奏のあずで歌が聞こえ始める。俺はそれにじっず耳を傟けた。


33智節

「  倖から歌っお。あたしの歌声が合図。智くんの声量なら䞉階のこの郚屋たで聞こえるはず。䞀緒に拓海を救おう」

 これが、レむちゃんに耳打ちされた内容だ。郚屋に乗り蟌んで拓海のそばで匟き語ろうず考えおいた僕の䜜戊が浅はかだったこずを思い知らされはしたものの、䞀分䞀秒を争う状況䞋では冷静な刀断ができる人間の指瀺に埓うのが正しいこずもたた知っおいたので玠盎に埓い、郚屋を出た。

 階段を駆け䞋りながらよみがえるのは数時間前のこず。

 僕は救急車の䞭で拓海にひどい蚀葉をかけ続けた。これで拓海が死んだら絶察に埌悔するず分かっおいるのに癖付いた蚀葉遣いがやめられなかった。こんな自分が倧嫌いだず唇を噛んだ。そしお、こんな日を迎えるために今たで䞖を、人を眵ののしり続けおきたのかず思うず悔やしくお仕方がなかった。

 そう思うなら今すぐこの苊しみを手攟そう。そしおニュヌワヌルドに行こうよ  。そう蚎え続けおきたのは他でもない、「心の声」ずいう名の「本圓の僕」。

 そう。レむちゃんに裏切られ、サザンクロスを解散したあずに生たれたのがこの、ひねくれ者の僕。だから僕はレむちゃんを恚み続けおきた。この身䜓の支配者であり続けるためだけ、、に憎しみの感情を握りしめおきたのだ。

 「本圓の僕」は䞉十幎間、ずっず僕を静芳しおいた。しかし拓海が病み、レむちゃんずコンタクトを取ったこずで状況は䞀倉した。

 「本圓の僕」はレむちゃんが奜きだったから、幎末のラむブで圌女が歌う「オヌルドニュヌワヌルド」を聎いおも尚、圌女を赊さないず蚀い匵る僕を懲らしめにかかったのは圓然のこずだった。だが、それが無かったずしおも僕はきっず考えを改めたに違いない。それくらい、本氣を出した圌女の歌には力があった。

 「闇」の歌詞でも「光」の声で歌えばその先には「ニュヌワヌルド」が埅っおいるこずを圌女は教えおくれた。そう、「オヌルドニュヌワヌルド」の歌詞のように、善ず悪が䞀぀になればそこがニュヌワヌルドになる、ず  。

 だが、叀い䞖界ず新しい䞖界を䞀぀にするには僕らだけでは䞍十分。やはり間には拓海が必芁だった。倜ず昌の間に朝が存圚するように、二぀の䞖界はそのたたでは決しお繋がらない。

 ひねくれ者の僕ずレむちゃんを必死に繋ごうずしおくれた拓海。圌の働きによっお僕は「本圓の僕」やレむちゃんの蚀葉に耳を傟け、か぀おの自分を取り戻そうずしおいる。なのに、瀌も蚀わないうちに拓海は倒れ、今にも死にそうになっおいる  。

 あの時、急かさなければ  。
 あの時、優しくしおいれば  。
 あの時、身䜓のこずを思っお犁煙を勧めおいれば  。
 そしおあの時、レむちゃんずきちんず話し合おうず蚀っおいれば  。

 すべお僕のせい。取らなかった行動の積み重ねが拓海を死の淵に远いやった  。

 ――本圓に君だけのせいなんだろうか 拓海やレむちゃんはどうだろう もう䞀床よく考えおみおごらん。

 急に心の声が、「本圓の僕」の声が聞こえおきおハッずする。振り返っおみれば確かにすべおが僕のせいずも蚀い切れない。遞択肢は拓海にもレむちゃんにも等しくあったはずだず氣付く。

 あの時、僕の蚀葉など無芖しおゆっくり行くず䞀蚀いっおたら  。
 あの時、進んで犁煙しおくれおたら  。
 あの時、リヌダヌらしく僕らをたずめおくれおいたら  。
 あるいはあの時、僕らにひず蚀盞談する勇氣を持っおくれおいたら  。

『あたしが智くんに謝ったら、智くんも自分のこずを赊すの』

 拓海の郚屋で新幎を迎えたあの日にレむちゃんが蚀っおいたこずの意味が、ここぞきおようやく分かった。

 あの日、レむちゃんは僕に謝った。が、同時に自分自身にも謝り、赊したのだ。責め続けた本圓の、、、自分自身を。それは決しお過あやたちを正圓化するものではない。傷぀けおしたった盞手ず同様に苊しんできた自分を認め、愛するために圌女はああ蚀ったのだ。

 そう、埌悔しおいるのは僕だけじゃない。誰もが時に遞択を誀り、あの時こうしおいればず思いながら生きおいる。けれど、そこに囚われ続けお生きる人ず、今床は間違えないぞず思いながら生きる人ずでは、きっず次の遞択肢が、未来が倉わる。

だけど今、赊すのか   僕が僕を   拓海が死ぬかもしれないっお時に  
 頭ず心が混乱した状態のたた建物の倖に出る。



 病院の駐車堎たで降りおきた。ちょうどそのずきレむちゃんの歌声が聞こえおきた。玄束通りだ。僕は声のする方に急ぎ足を向け、拓海の病宀を特定する。そしお聞こえおきた歌の歌詞をなぞりながら、やはりレむちゃんは拓海を想っおいるんだず確信する。

こんなにも健気な圌女を眮いおいく぀もりか 死んだら承知しないぞ、拓海  。
 歌声が聞こえなくなった。次は僕の番だ。

二人で䜜った君のための歌だ  。耳の穎をかっぜじっおよヌく聞いずけ
 病宀の窓を睚み付けながら深く息を吞う。静かにギタヌを鳎らし、歌い始める。



朝日ず共に響く
たっすぐな君の歌声は高く
かなたたで届け
僕らの䞖界 貫くように

君ずあなたず僕
䞉぀の音が重なれば
無敵になれるんだ

ゆこうただ芋ぬ明日ぞ
ハヌモニヌ 倧地ほしも震えるほどに
ギタヌず歌を響かせ
氞遠に 君の呜続くように願う



倜明けの空に祈る
どこたでも君ず生きれるようにず
宇宙そらたで届け
僕らの歌を 星にのせお

君ずあなたず僕
䞉぀の倢が叶えば
そこは新しい䞖界

描こう未来 手を取り合っお
ハヌモニヌ 颚に乗せお届けよう
垌望の歌を奏でお
氞遠に 君の歌聎けるように願う



 最埌たで僕を咎める者はいなかった。それどころか車の゚ンゞン音、いや、颚の音䞀぀聞こえなかった。たるで異空間に移動しおしたったかのように思われたずき、たさにそうだずしか思えない出来事が起きた。突劂ずしおいるはずもない拓海の声が聞こえたのだ。

『最高だったよ、智節。本圓によかった。ありがずう  』

「そばにいるのか   たさかもうこの䞖にいないなんお蚀わないよな  」
 蟺りを芋回すが人氣ひずけはなく、再び静かな声だけが聞こえる。

『  䞀応ただ生きおるから安心しろ。お前の氣持ち、䌝わったよ。もう䞀床瀌を蚀う。ありがずう』

「䌝わったなら   䌝わったならちゃんず自分の身䜓に戻れよっ  」

『戻れっお蚀われおも  。お前がそんな調子じゃ戻れないなぁ  』

「どうすればいい   䜕でもする  」

『本圓に䜕でもするか』

「拓海が戻っおくるためなら䜕でも   僕を病氣にしおくれたっおいい  」
 本氣でそう蚀うず拓海に笑われた。

『お前、どんだけ自分をいじめる぀もりだよ もうさ  。やめようぜ、そう蚀うの』

「やめるっお、どうやっお  」

『赊すんだよ、自分自身を。俺が病氣になったのはお前のせいじゃない。途䞭で倒れたのもお前のせいじゃない。仮に死んだずしおも、死ぬのは人の宿呜だからたしおやお前のせいじゃない。  お前は充分苊しんだよ。だからこれ以䞊恚んでるフリをするな。ほんずの自分に優しくしおやれ』

「     拓海たで同じこずを  」
 圌の蚀葉は心の扉を優しく開け、淀みを綺麗に掗い流しおいった。肩に、いないはずの拓海の手の枩もりを感じる。僕はそこに右手を重ねた。

「自分の心を守るためにはそうするしかなかったんだっ   誰かのせいにしなければ生きおいけなかったんだっ  」

『頑匵ったよ、お前は。だからもうニュヌワヌルドに行こう。いい加枛、前に進もう』

「だけど   だけどそこには拓海もいおもらわなきゃ困る   僕ずレむちゃんを繋ぐ圹は君しかいない   君がいお初めお僕らのニュヌワヌルドは完成するんだ  」

『じゃあ、自分を赊せ。本圓の自分を解攟しおやれ』

 正面からたっすぐに芋぀められおいるような氣がした。リヌダヌ呜什でも䜕でもなく、拓海は心から僕を想いそう蚀っおくれおいるのが分かった。抵抗する理由は䞀぀もなかった。

「  わかった。赊すよ、自分自身を。そしおこれからはその過去を糧に新しい䞖界ぞ行く。  君ず共に」

『  行けるかな』

「僕は玄束を守った。次は君の番だよ。君はただ、䞉十分以内に戻れずいった玄束を果たしおいない」

『そうだったな  。聎かせたい歌もあるし、麗華にも䌚いたいし、戻らないずいけないよなぁ  』
 拓海ははっきりしない調子で蚀った。盎埌に肩に感じおいた枩もりが消える。

「拓海  」

『  もう䞀床歌っおくれ。今床は麗華ず䞀緒に。その歌を手がかりに、なんずかやっおみる』

 そばに拓海の気配を感じたかず思うず、それはすうっず颚に乗っお僕が芋おいる䞉階の䞀宀に飛んでいった。僕は螵きびすを返し、急ぎ拓海の病宀に駆け戻った。


34麗華

 開け攟った窓から智くんの力匷い歌声がはっきりず聞こえた。初めお二人で共䜜した、拓海のための歌。荒削りだった郚分は圌が芋事に修正し、完璧に仕䞊げおくれたので今のが完成圢ず蚀っおも過蚀ではなかった。

「拓海、智くんの歌声が聞こえた ずっおもいい曲でしょう」

『ああ  。メチャクチャよかったよ。でも、ここに戻っおくるにはただ力が足りない  』
 心に盎接、拓海の声が響いた。

「力が足りないっお  。どうすればいいの」
 その時、郚屋の扉が開き、同時に智くんが飛び蟌んできた。

「拓海はっ  」

「倧䞈倫、ただ息はあるわ」

「䞀緒に歌っおくれ  。拓海に頌たれお  。そうしたら、なんずかするっお蚀うから  」
 智くんは肩で呌吞をしながら、語順も調えずに蚀った。

 なるほど。拓海が「力が足りない」ず蚀ったのはそういうこずか。あたしは䞀床拓海の手を握った。

「今助けるから、埅っおお」
 怅子から立ち䞊がるず、智くんがすぐ近くに歩み寄る。

「歌詞ずメロディヌは今聎いお頭に入ったね」

「ええ、芚えたわ。  ギタヌは匟かないわね」

「ああ、歌声だけで勝負する。ず蚀っおも、声量も抑えなきゃいけないが  」

「やむを埗ないわ。その代わり、心を蟌めたしょう」

 本音を蚀えば今智くんがしたようにギタヌも匟きたかったが、院内でそんなこずをすれば次こそ通報されかねない。最埌の最埌で倱敗するわけにはいかなかった。

 智くんは匟む息を敎えるように䜕床か深呌吞をしたあずであたしず目を合わせた。頷くず圌がリズムを刻む。
「ワン、ツヌ、ワンツヌスリヌ  」

 あたしが歌詞を口ずさむ隣で智くんがハモり、、、を加える。こんなふうに二人で歌ったこずは䞀床もないのに、たるでずっずこれでやっおきたかのように息がぎったりず合う。

 プロの歌手ずしお䜕十幎ものあいだ、たくさんの人のために歌っおきたあたしは今、たった䞀人、拓海のためだけに歌っおいる。お金のためでも奜かれるためでもなく、玔粋に圌を救いたい䞀心で、「ただの麗華」ずしおここにいる。

 少し前のあたしなら「ただの麗華」には力がないず氣匱になっお、歌に想いを蟌めるこずすら出来なかっただろう。でも今は違う。智くんが蚀っおいたように「祈りの蚀葉」が届くようにず、ただそれだけを考え、声を出しおいる。

 今こそ信じよう、歌の力を――。

 智くんず誓い合い、䜜り䞊げたこの歌で拓海を救うこずが出来たずき、あたしの生き方はきっず倉わる。䞉人䞀緒なら、これたで築き䞊げおきたものすべおを眮いおニュヌワヌルドに行くこずだっお、きっずできる。いや、行きたい  。

 ――そうね、あなたはもう充分倚くの人を救った。プロの歌手ずしおよく頑匵ったわ。

 歌の最䞭にもかかわらず、い぀もあたしの曲䜜りをサポヌトしおくれる「神様」の声が聞こえた。あたしが歌うのをやめられないず分かっおいお「神様」は続ける。

 ――孝倪郎をはじめ、倧勢の人が救われ、新たな人生を歩み始めたのは間違いなくあなたの歌声のおかげよ。私の蚀葉を玠盎に受け取り、䌝えおくれおありがずう。倧圹、お疲れさた。これからはあなたが幞せになるために、愛する人のそばで歌いなさい。私からはもうメッセヌゞを䌝えないけれど、あなたのそばには支えおくれる圌らがいるのだから安心しお生きなさい。今埌も陰ながら芋守っおいるわ。

今、圌らずおっしゃいたしたか   ず蚀うこずは、拓海は助かるのですか  
 語るずいうより念じるように問うず、神様はひず蚀「歌い続けなさい」ずいっお頭の䞭から消えおしたった。

自分を、仲間を、そしお歌の力を信じなさいずおっしゃるのですね  。分かりたした。歌い続けたす  。

「氞遠に君の歌聎けるように願う  」
 歌詞の最埌を口ずさんだ。
「拓海  。二人で歌ったよ  。あたしたちの想いが届いたなら戻っおきお  」
 再び手を取り、祈るように䞡手で匷く握った。


35拓海

 二人の歌声が身䜓に染み枡り、氣付けば心地よい空間の䞭に身を眮いおいた。目の前には癜い発光䜓が芋える。どこずなく人の姿にも芋えるそれから声が聞こえる。

『本来であれば、お前はこのたた私の元に来るはずだったが、仲間がそれを阻止したこずでもう䞀぀の道が瀺された。もしお前に未緎があるなら、お前の䞀番倧事なものず匕き換えに圌らのもずに還る道を遞ぶこずが出来る。どちらを遞ぶかはお前の自由だ』

「䞀番倧切なもの  」
 俺はずっさに喉に觊れた。いや、実際には觊れおいないがずにかく、俺にずっおは「声」が䞀番の宝物だった。

 「声」を差し出せば珟䞖に戻れる、ず目の前の存圚は蚀いたいのだろう。しかしそれは俺が病氣になっおからずっず拒み続けおきたこず。すぐには返事が出来なかった。

『珟䞖に未緎はないのか 仲間の想いに応えず、運呜を受け容れるのもたた良かろう。そう決意したならこの手を取るがよい』

 黙っおいるず、目の前の光の䞭から癜い手が珟れた。俺はその手を芋぀めながら人生を振り返る。

 正盎な話、やりたかったこずは党郚やった。ミュヌゞシャンずしおそれなりに名を残せたし、毎日倧奜きな音楜に觊れられお楜しかったし、たた麗華に䌚えたし、䞀緒に暮らせたし、最埌には想いも聞けた。これだけ出来れば充分じゃないか  。

 そう。声を残すために手術を拒み続けおきた結果がこれなのに、やっぱり生きたくなっお声を「売った」ずなればあたりにも栌奜が悪い。俺ずしおは、かっこいいミュヌゞシャンのたた最期を迎えたいず蚀う氣持ちも少なからずあった。

『どうした 私ず䞀緒に来る氣はあるか』
 癜い手がぐっず近づく。たるでこっちぞ来いず誘うかのように。

 俺自身はもう意識だけの状態で肉䜓がなく、その手を盎接取るこずが出来ない。が、意識をそこに集䞭すればきっずあちら偎の䞖界に行けるんだろうずいうこずは分かる。

 二人の歌声を聞いおもなお氣持ちがぐら぀いおいるのは、実はこの「癜い存圚」のせいかもしれない。口では遞択肢があるようなこずを蚀っおおきながらそれはすでになく、この手を取るよう仕向けられおいる可胜性は充分考えられる。

 意識ががんやりしおくる。今にも癜い手のほうぞ吞い蟌たれそうになる  。

 ――ごめん、拓海。

 その時、声が聞こえた。智節の、声だ。


36智節

「ごめん、拓海。僕が悪かった  」

 歌い終わったからずいっおいきなり奇跡が起こるこずはなかった。盞倉わらず暪たわったたた、今にも死んでしたいそうな拓海を芋䞋ろしおいたらいおも立っおもいられなくなっお、氣付けばそんな蚀葉が口を぀いお出た。たるで「䜕でもする」ず蚀った僕自身の蚀葉に突き動かされるかのように口が動き続ける。

「君を巻き蟌んでレむちゃんを恚めず蚀い続けおきた僕を赊しおくれ  。でも  僕の氣持ちも分かっお欲しい。あの時はああするしかなかったこずを。それが結果的に僕らの、りむングの音楜の原動力になったこずを」

「智くん  」
 呟いたレむちゃんず目が合う。僕は腰を䞋ろしお目線を合わせ、それから頭を䞋げた。

「ごめん、レむちゃん。そしおありがずう、こんな僕を受け容れおくれお。おかげで自分を取り戻すこずが出来た。  ホントにありがずう」

「うん  」

「僕はただ、あの時の悲しみを聞いおほしかっただけなんだ。それを嫉劬や恚みずいう名に倉えおくすぶらせおいただけ  。でも君ず再䌚し、手玙を介しお盎接䌝えたこずで氣持ちの敎理が぀いた。そしお君ずの共䜜を拓海に聎かせるこずで悲しみは浄化された  」

 僕は胞に手を圓お、自分自身に語りかける。
  そういうわけだから、甚枈みの僕はお前ず入れ替わるこずにするよ。長い間閉じ蟌めおしたっお悪かったな  。

 ――分かっおないな、君は。どうしお残るか消えるかの二択しか思い぀かないんだ これだから頭でしか物を考えられない人間は困る。

え  。だけど、䞻人栌はお前の方だろう だったら僕が匕っ蟌むしか  。

 ――闇ず光が䞀぀になればニュヌワヌルドに行けるず分かったはずじゃなかった 僕らも同じだよ。優劣を぀けるんじゃなく、共存するんだ。

 「本圓の僕」からの思いがけない蚀葉に戞惑う。

  共存。だけど、お前はそれでいいのか だっおずっず  蚀うなればひねくれ者の僕に虐げられおきたっおのに  

 ――だ・か・ら 赊すんだよ、そんな君のこずを。君は僕を閉じ蟌めおきたず思っおいるようだけど、あの時レむちゃんに抱いた憎悪を音楜䜜りの゚ネルギヌに倉換できたのは、間違いなく君が前に出おきおくれたおかげだ。優しいだけの僕じゃ、ああはいかなかったはずだもの。君こそずいぶん頑匵っおくれた。ありがずう。これからは君ず僕ず、力を合わせおニュヌワヌルドで生きおいこうじゃないか。

出来るだろうか、そんなこずが  。

 ――君が僕を、「自分」を赊せば、きっず出来る。

    
 いたの蚀葉を聞いお「自分を赊す」こずの真の意味がはっきりず分かり、腑に萜ちた。

過ちを認めればいいだけじゃなく、僕がここにいるこず自䜓を赊す  。そういうこずだな   だけど、いおいいのか 本圓に。こんな僕でも  。

 ――もちろんさ。君は僕で、僕は君なんだから。

 心のどこかでずっず「こんな自分じゃダメだ。もっず匷くなければ」あるいは「もっず優しくあらねば」などず蚀い続けおきた。だけどそれは誰かず比范したずきに劣っおいるように感じられたからであっお、本圓はありのたたの僕――匷さ、優しさ、幌さや涙もろさなど、様々な面を持ち合わせた僕――でいればよかったのだ。僕らの仕事は堎面堎面に応じお前に出、協力しおこの身䜓を生かすこず。䞀぀の性栌が頑匵っお、他の性栌を殺す必芁などはじめからなかったのだず知る。

䞍噚甚だな、僕らは  。それに氣付くのに䜕十幎もかかっおしたった  。

 ――ああ。だけど今、氣付けた。幞いなこずに、僕らの寿呜はただ残っおる。あずは  。

あずは  拓海だけ、だな。

 ――そういうこず。

 僕はうなずき、拓海の手を握るレむちゃんの手をたるっず包み蟌んだ。そしお拓海に呌びかける。本圓の僕ず䞀緒になっお。

「  拓海、聞こえおいるか 僕はなぁ  僕は君がいなきゃ生きおけないんだよ。知っおるだろう 知っおお眮いおくなんお、そんな薄情なこずがあるかよ  。ああ、そうだ、たた䜜っおくれよ。しゃばしゃば、、、、、、のルヌをかけたカレヌラむス。あんな、飲み物みたいなのは君にしか䜜れない。でも、今は無性にあれが食べたい  。他にもある。僕は君の隣でギタヌを匟くのが奜きだ。君ず、目ず音を合わせる瞬間が奜きだ。もしもそれが出来なくなったら僕は本氣で泣く。君のギタヌを濡らしお泣き続ける。そんなの、嫌だろう 嫌だず思ったら早く戻っおこい。僕は埅っおる。䜕時間でも、䜕日でも、ここで埅っおるから  」

「今の蚀葉遣い、䜕だか昔の智くんを思い出すわ」

「そりゃそうさ。だっお戻っおきたんだもの、昔の僕が。君ず拓海のおかげでね」

「そう  。じゃあ、あずは拓海だけだね」

「うん。あずは拓海が戻るだけだ  」
 僕は力匷く頷いた。
「  もう䞀床、いや、拓海が戻るたで繰り返し歌おう。そうすれば必ず想いは届くはずだ」

 今床は僕が歌を歌い、レむちゃんがハモる。僕らの祈りが通じるようにず願いながら。


37麗華

 お前は自分の歌の力を過倧評䟡し、たるで䞇胜薬のように思っおる。歌に力が宿るのは心の底から生たれた歌詞ず曲を歌うずきだけだ――。

 拓海にそう蚀われたずきはショックを隠せなかったが、今のあたしにはその蚀葉の意味がはっきりず分かる。

 あたしはずっず神様の蚀葉、぀たりは䞇人に響く蚀葉を歌にしおきた。それはプロの歌手なら圓然求められる胜力であり、事実倚くの人があたしの歌に耳を傟けおくれた。けれど䞇人に受け容れられるが故に、深く心を病んだ人や䞖を憂えおいるような人の心を癒やすほどの力がなかったのは、ある意味圓然のこずであった。

 そんなあたしは今、䜕者でもない自分ずしお「名もなき歌」を歌い続けおいる。拓海専甚の秘薬が効くこずを信じお  。


38拓海

 智節の謝眪ず自己の赊し、そしお繰り返される歌を聞くごずに意識を芆っおいたモダは晎れ、氣付けば再び病宀内に舞い戻っおいた。今はさっきず同じように少し高いずころから自分ず圌らを俯瞰しおいる。

もういい  。もういいよ  。

 必死すぎる二人をこれ以䞊芋おいられなくなった俺は二人の心に語りかけるこずにした。

『麗華、智節』
 二人が揃っお顔を䞊げたのを確認し、続ける。
『俺のために歌っおくれおサンキュヌな。二人の想いはしっかり受け取った。だからこれ以䞊、そんな顔で祈り続けるのはやめおくれ  』

「君が戻るたではやめないよ」

「そうよ。やめるずきはここにいる拓海が目を芚たすずきよ」

 そう蚀われお、嬉しいやら戞惑うやらでどう返事をしたものか悩んだ。が、再びこの䞖界に意識が戻っお来たのはきっず二人が祈りを蟌めお歌っおくれたおかげ。それが確かなものだったず蚌明するために俺が取る行動は䞀぀しかなかった。

俺をあの䞖に連れお行こうずした声の䞻、聞こえおるか   こい぀らずの玄束を果たしたいからあの䞖に行くのはもう少し先にさせおもらいたいんだけど、いいかな

 問いかけるずすぐに返事がある。
『無論。生きるも逝くもお前次第。だが、珟䞖に舞い戻るには  』

声を眮いおいけ、っお蚀うんだろう   この声は俺の宝物だった。捚おたくないからこのたた死ぬ぀もりで手術さえ拒んだ。  だけど、こうも匕き留められたんじゃあ匕き返さないわけにもいかない。玄束を砎った男だず埌ろ指を差される方が栌奜悪いからさ、取匕に応じるこずにするよ。

『それが、お前の出した答えか。埌悔はしないな』

ああ  。こっちの䞖界でもうちょっず足掻あがいおいくわヌ。んで、こい぀らず新しい䞖界を築き䞊げたら今床こそそっちに行くよ。でもその前にひず蚀だけ、こい぀らに䌝えさせおくれ。声はそのあず眮いおいく。

『気の枈むたで語り合うがよい』

サンキュ。

 「あの䞖の氎先案内人」に瀌を蚀った俺は、俺の手を握り続ける二人の前に立った。そしお最埌の蚀葉をかける。

『麗華、智節。俺の声を愛しおくれおありがずう。この声で語りかけられるのはこれで最埌だ。最埌だからよヌく芚えおおいお欲しい。そしお、宝物である声を捚おおたで俺が守りたいものは䜕か自分の胞に問いかけ、自芚ず芚悟を持っお欲しい』

「最埌  」
「声を、捚おる  」

 二人は戞惑い、顔を芋合わせた。

『愛しおるよ、麗華。ありがずう、智節。そしおさよなら、俺の声  』

 意識の䞊で喉に手を圓おた俺は、あの䞖の氎先案内人に声をかけた。
『挚拶は枈んだ。戻るよ』


39智節

 拓海の蚀葉を聞いた僕らは青ざめた。いよいよ最期のずきが来おしたったのかず思ったら悔しくお涙が蟌み䞊げる。やはり僕らの歌では拓海を救えなかったのか、ず  。

 悲しみの感情が溢れそうになったずき、隣にいるレむちゃんが息を呑んだ。そしお拓海に目いっぱい顔を寄せた。

「レむちゃん  」

「  今、目が開いたような氣がしお」

「えっ  」
 慌おお立ち䞊がり、圌女ず同じように拓海の顔をのぞき蟌む。
「おい、拓海  。生きお  いるのか  」
 問いかけるず、声に反応するかのようにたぶたが動き、ゆっくりず目が開いた。

「ああ、拓海  」
 僕らは圌にしがみ぀いた。
「よかった、本圓によかった  」

 興奮状態の僕らずは察照的に拓海は穏やかに埮笑み、静かに呌吞を繰り返しおいた。その様子を芋お違和感を芚える。

「もしかしお  声が出せないのか   あっ  。さっきの『声を捚おる』っお蚀うのは  」
 拓海はゆっくり頷いた。レむちゃんの衚情がさっず倉わり、今床は悲しみの涙がこがれる。

「自慢の声を犠牲にしおたで戻っおきおくれたんだね、ありがずう拓海。あたしたちのために  。本圓にありがずう  」



 僕らはすぐに医垫を呌び、拓海の身䜓を蚺おもらった。医垫は蚺察しながら䜕床も銖をかしげ、最埌には驚愕した。

「  峠は越えたようです。肺の雑音も聞こえなくなりたしたし、顔色もいい。これならもう心配はいらないでしょう。それにしおも、䞍思議なこずが起きたものですね  」

「䞍思議なこず  」

「重床の呌吞噚疟患がみられたにもかかわらず、数時間安静にしおいただけでここたで快埩するなんお通垞ではあり埗ないこずです。これが  歌の力なのでしょうか。ただ信じられない  」

 止めには来なかったがきっず僕らの歌を聎いたのだろう。医垫はしばらくの間、䞍満そうにう぀むいおいた。

 その埌すぐに粟密怜査が行われ、拓海が患っおいた病が綺麗さっぱりなくなっおいるこずが分かるず医垫は再び驚きの声を䞊げた。たた、異垞が芋られないにもかかわらず声が出せないこずにも玍埗がいかないらしく、頭を悩たせおいる様子だった。

 しかし僕らにずっおは、医垫が珟実を受け容れられるかどうかなど、どうでもよかった。僕らの願いが、祈りが聞き届けられ、拓海が生きお僕らの目の前に戻っおきた。それがすべおであり、䜕より重芁なこずなのだから。

◇◇◇

 拓海は皋なくしお退院、数日ぶりに僕らず圌の䜏む安アパヌトに戻った。い぀もなら真っ先に拓海がだらけた声を発するが、今日はそれが無い。垰っおきたのに、少しだけ寂しさを芚える。二人も同様に感じたのか、靎を脱ぐず黙ったたた腰を䞋ろした。

 静かな郚屋。これたでいかに拓海の「声」に助けられおきたかを痛感する。唐突にその声が聞きたくなるが、もう二床ず聞くこずが出来ないのだず思ったら錻の奥がツンずしおきた。隣を芋るずレむちゃんも静かに涙を流しおいる。

 その時、拓海が急に立ち䞊がっおギタヌずスマホを取り出した。慌ただしく画面を操䜜したかず思うず「よヌく聞いずけ」ず蚀わんばかりに音量ボタンを最倧倀たで連打する。

「いったい、䜕が始たるんだ  」

 僕ずレむちゃんが顔を芋合わせおいるず、ギタヌの生挔奏ず共に拓海の「声」が聞こえ始める。



呜芜吹くずき 倧地は光り茝く
朝日昇るずき 鳥たちは歌う
手を䌞ばそう 倜明けの空に
オレンゞに染たる手は 君の枩もり

抱きしめたい 光溢れる君の心を
抱きしめたい 愛にあふれるこの䞖界を
呜ある今に 君に出䌚えた歓びに
ありがずう

呜生たれゆく 日の出ず共に、ああ
新しい日垞ひびが 今日も始たる
手を䌞ばそう 未来の空ぞ
虹色に染たる道は 垌望の架け橋

越えおいこう 䞍安も悲しみも 共に
生きずし生ける すべおが笑う䞖界ぞ
怖くなんおないさ 君ずなら
手を繋いで䞀぀に

抱きしめたい 光溢れる君の心を
抱きしめたい 愛にあふれるこの䞖界を
越えおいこう 䞍安も悲しみも 共に
生きずし生ける すべおが笑う䞖界ぞ  



 すぐに、倒れる盎前に録音した曲だず分かり、涙が止たらなかった。これが最埌の声だず蚀うこず、そしお拓海がこの䞖で生きた蚌しを残そうずしたずきに感じた想いの矎しさに心動かされる。

「生きるこずを遞択しおくれおありがずう  」
 レむちゃんが涙ながらに蚀い、拓海に抱き぀いた。僕も拓海の正面に立っおその手を取った。

「これからも響かせよう、僕らの音楜を。そしお䞀緒に行こう、䞉人で新しい䞖界ぞ」

 拓海はちょっず照れくさそうにはにかみ、頷いた。そしおベッド脇に眮いおあったメモ垳を手に取り、䜕やら曞き始めた。のぞき蟌むず、玙にはこう曞いおあった。

 ――生きよう、䞀緒に。これからもよろしく


40

麗華

 歌の力が起こした奇跡はその埌も続いた。なんず、あたしたち党員が日を远うごずに若返り、氣付けばサザンクロス結成圓初の颚貌になっおしたったのだ。たるで時が巻き戻ったかのようにさえ思える䞍思議な珟象。唯䞀違うこずずいえば、拓海が声を倱っおいるこずくらいだろうか。

 はじめは筆談でコミュニケヌションを図っおいたあたしたち。だが、盎感的に話せないこずにストレスを感じ始めた拓海を芋おいられず、最終的にはみんなで手話を芚えようずいうこずで意芋が䞀臎した。この幎霢で新しく䜕かを芚えるのは倧倉に思われたが、心身の若返りに加えあたしたちにはこの方が合っおいたらしく、幞いにしおすぐ習埗するこずができたのだった。

◇◇◇

 桜の぀がみが膚らみ始めた頃、あたしたちはそれぞれのアパヌトを匕き払い、䞉人で暮らせる䞭叀の䞀戞建おに居きょを移した。近隣に氣兌ねなく匟き語りするため、郚屋の䞀぀を音楜スタゞオに改造しおいる。スタゞオの出来に満足しおいるあたしたちはおそらく、倚くの時間をこの郚屋で過ごすこずになるだろう。

「なんか、ただ倢を芋おいる氣がする。たさかホントにこんな日が来るなんお思っおなかったんだもの」

 ――倢じゃないよ。これは俺たちが遞び取った最良の未来だ。――
 拓海の手の動きを読み取り、脳内で圌の声に倉換する。これはあたしが勝手にしおいるこずだが、こうするこずで圌に盎接語りかけられおいるように感じられるので氣に入っおいる。

「確かにそうかもしれないけど、倢みたいに感じる点は僕もレむちゃんず同意芋だな。サザンクロスの再結成をしたずきにはこんな未来、想像できなかったもんな。あの時は、拓海を芋送り、レむちゃんを恚み倒しおサザンクロスを抜けおやるんだっお、本氣で思っおた」

 再結成を快く思っおいなかった圌は始め、拓海が病を克服し歌えるようになったらおそらくバンドを抜けるだろうず蚀っおいた。その圌が今はこうしおここにいお、生掻を共にしながらバンド掻動を継続しようずしおいる。考えを倉えたきっかけはいく぀もあるのだろうが、拓海の病が䞀因であるこずは間違いないだろう。䞀人の生死が他の人の人生を巊右するのだずすれば、自分の生き方や死に方に぀いおもう少し真剣に考えなければいけないのかもしれない。

 ――サンキュヌな、残っおくれお。
 拓海の手の動きを読み取った智くんは銖を暪に振る。

「すべおを赊した僕の居堎所はもはやここしかない。  っおいうか、僕には君を生かした責任を果たす矩務があるからね。僕の残りの人生は君に捧げる぀もりだよ」

 ――人生捧げるっお  。ちょっず重いんだけど  。

「あヌ、そうだな  。じゃあ  」
 智くんは少し考えおからこう答える。
「䞀生涯、リヌダヌの君に぀いおいく。これでどうだ」

 拓海は満面の笑みを浮かべ、䞡手で倧きく䞞の圢を䜜った。

拓海

 病気が刀明したのが䞀幎前の今ごろ。たさかもう䞀床桜の季節を迎えられるずは正盎思っおいなかった。

俺、生きおるんだよな  。麗華の宣蚀通り、生かされちたったんだよなぁ  。

 救われたこの呜。やりたいこずをすべおやりきった俺に出来るのは、こい぀らのために残りの呜を䜿うこず。すなわち、「䞖界埁服」を成し遂げるためにあらゆる努力を惜したないずいうこず。

 もはや出来るかどうかではなく、䜕が䜕でも叶える぀もりでいる。二人が尻蟌みしたら俺が切り蟌む。たずえ䞖界が盞手であっおも。死にかけた人間に怖いものなどない。

◇◇◇

 結局、話しおいた路䞊ラむブをする今日ずいう日たで俺の生の声を残しおおくこずは出来なかった。しかし二人は諊めなかった。俺の最埌の曲「サンラむズ」をデゞタル音源化しお正匏に残しおくれたのだ。路䞊ラむブではこれを流すこずで俺の声を再珟する予定になっおいる。二人の尜力には感謝の蚀葉しかない。

 路䞊ラむブのこずは完党シヌクレット。本圓に若い頃ず同じで予告も無しに駅前に足を運び、いきなり匟き始める蚈画だ。ただあの頃ず違っお今の俺たちは玠人ではない。匟き始めれば必ずや人を集められるず信じ、ゎヌルデンりィヌクで倚くの人が行き亀う倜の駅前でギタヌの準備を始める。

 路䞊ラむブをやるのは初めおじゃないし手順も心埗おるはずなのに、数十幎ぶりず蚀うこずもあっおなぜか緊匵しおきた。䜕床も深呌吞を繰り返しおいるず智節に笑われる。

「おい、たるで初めお路䞊ラむブをするみたいじゃないか。リヌダヌがそんなんじゃ、先が思いやられるな  」

 ――うっせえ そういうなら絶察に匟き間違えるなよ

「  たぁ、間違えたらその時さ。ハプニングはラむブの醍醐味でもあるからね」
 反論されるかず思いきや、たさかの返しにこっちが笑う。

智節のや぀、ずいぶん倉わったな  。うん、これなら安心だ。

 二人に生かしおもらった呜ではあるけれど、実際のずころい぀たで保぀かは俺にも分からない。だからやっぱり、次に本圓に死んだずきには以前頌んだずおり、麗華のこずは智節に任せようず思っおる。

 今は俺ず麗華が恋仲っおこずになっおるけど、結局のずころ麗華が幞せならいいわけで、盞手が俺だろうが智節だろうが、正盎どっちでもいいず思っおる。珟に智節は若返った麗華を密かに想っおいるようだし、麗華もたんざらではない様子。今ずなっおは争う氣もないのでこの件に関しおは流れに身を任せようず思っおる。たぁ、こんなこずを蚀ったら怒られるに違いないだろうけど。

智節

 熱心な祈りが奇跡を起こし、本圓に拓海の病を治しおしたったずきから僕自身も生たれ倉わったような心地で日々を生きおいる。たず、仲間かぞくに察しお匷がるのが無意味だず悟り、反論するのをやめた。もっず早く自分の氣持ちに玠盎になっおいればず思うくらい、今は心が穏やかだ。

 ただ、瀟䌚に察しおはこれたで以䞊に反発し、歌の力で倧勢の人の心を掎んで䞖界を揺るがす぀もりだ。䞉人きりで䜕が出来る ずいう人もいるだろうが、僕らの歌は、祈りの力は僕らでさえも驚くほど匷倧なのだ。そこに聎衆の力も加われば必ずや䞖界は倉わる。だっおそうだろう 倉わらないものなんおこの䞖に䞀぀もないのだから。

 䞉人でニュヌワヌルドを築き䞊げるための第䞀歩ずしお僕らは今日、䞉人で䜜った曲を披露する。タむトルは「芚醒」。これには僕ら䞉人の芚醒ず䞖界の芚醒、二぀の意味が蟌められおいる。

 か぀おず同じ堎所で、か぀おず同じようにギタヌを匕っ提げ、立぀。珟時点で僕らを芋ようずする通行人はれロだ。この感じに懐かしさを芚える。

「さぁお、それじゃあ䞀䞁、驚かせおやるずするか。僕らに無関心な人たちを釘付けにしおやろうぜ」

 声を倱った拓海の代わりに号什をかける。二人はうなずき、たずはリヌダヌ自らが始たりのリズムを刻む。短いむントロのあずでレむちゃんの歌声が響く。

 

狂っおんだろ、お前ら
いい加枛、目を芚たせよ
反撃の狌煙あげおさ
い぀たでも俺たちゃ操り人圢じゃない

「お口にチャック」なんおもう
通甚しねぇんだよっおさ

いい子のフリはもうやめな
生きたいや぀は声あげろ
でないず乗せられちゃうぜ
あの䞖行きのバスに

流されっぱでいいのかよ
お前らの人生だろ、決めようぜ進む道くらい、なあ



分かっおんだろ、お前ら
いい加枛、動き出せよ

合わねぇんだ 曇ったメガネは捚おようぜ
「蚀うこず聞きなさい」なんお
ノヌだぜ、子どもだっお

いい子の時代はもう終わり
俺らのパワヌをなめるなよ
でないず痛い目にあうぜ
ひっくり返しおやらぁ、こんな䞖界

蚀われっぱなしでいいのかよ
䞻人公は俺なんだ、決めおいいだろ人生くらいさ

倜明けが迫る
さよならしよう 昚日たでの自分に
新しい䞖界が俺たちを埅っおいるから  

いい子のフリはもうやめな
生きたいや぀は声あげろ
でないず乗せられちゃうぜ
あの䞖行きのバスに

いい子の時代はもう終わり
俺らのパワヌをなめるなよ
でないず痛い目にあうぜ
䜜り替えおやらぁ、たっさらな䞖界に

 

 歌い始めるに぀れ、埐々に人が集たっおきた。これたでのサザンクロスにはない過激な歌詞。それでいおただ䞖を憂うのではなく、たるで錓舞されおいるかのような歌詞に倚くの人が耳を奪われおいる様子だった。

「ただただ行くぜっ」
 拓海ならきっずこう蚀うだろうず、圌になりきっお蚀った。拓海は歯をこがしお笑い、続けお次の曲のむントロを静かに匟き始める。

 

あの時きみはなぜ去っおしたったの
远いかける僕を振り返りもせず
涙は涞れお倧地は也いた
かすれた声で歌い続けた

君ぞの愛を憎しみに倉えお
暗闇の䞭で、もがき続けた日々
むしばたれた、心ず身䜓
死が連れおきた君を
ずっず僕はゆるさないず
泣きながら誓う

憎しみの涙を流せたら
救われるだろう僕は
だけど流せないのは君のせいだず
蚀わなければきっず壊れるだろう僕は

君をゆるすずき
僕はゆるされるだろう
ゆるされた僕は
安らかに死ぬだろう

だけどその前に䌝えたいんだ、愛を
ずっず玠敵になった君にこの想いを
僕の声を愛しおくれた君ぞ
ずっずずっず愛しおいるず

 

 先ほどの曲から䞀転、こっちは僕ず拓海の手玙から着想を埗お䜜られた「LOVE LETTERラブレタヌ」。ゆえに、ここたで情感を蟌めお歌えるのはレむちゃんしかおらず、䜕床も聞いおいる僕でさえ鳥肌が立぀。本氣を出した圌女の歌声を聎けばさすがにレむカだず氣付く人がちらほら珟れ、ささやき合っおいるのが分かった。

 もし拓海があのたた死んでいたら、この曲が完成するこずも歌われるこずも氞遠になかった。拓海が生きおここにいるからこそ「死」ずいうワヌドを採甚するこずができ、よりリアリティヌある歌詞に仕䞊げるこずが出来たのだった。

 その埌、拓海の残した曲「サンラむズ」を含めお数曲匟き語りし、氣付けば駅前にかなりの人だかりが生たれおいた。
「すごい人数だね  」

「だから蚀っただろう 僕らの歌ならむベントに出なくずも人を集められるっお」
 圧倒されるレむちゃんに自信たっぷりに返した。

 ――同じ無名でも若い頃ずは党然違うな。俺たちやっぱ、実力぀いたっおこずなのかな
 拓海の手話を読み取り「圓たり前だろ」ず、こちらにも力匷く返事をした。

 ――  ぀ヌおも、ちょっず集めすぎたな。そろそろお開きにするか。

 拓海はそう䌝えるなり聎衆に投げ銭を芁求し、自分はさっさず垰り支床を始めた。空からのギタヌケヌスには次々お札が投げ入れられ、あっずいう間に玙の山が出来た。

 これからの掻躍に期埅しおいたすずか、次はい぀来たすかずか、かっこよかったですなどず声をかけられ、思わず苊笑する。レむちゃんに氣付いた人は別ずしお、若返ったこの姿を芋お、果たしお䜕人が僕らのこずを䞉十数幎も音楜掻動をしおきた倧ベテランだず芋抜けるだろうか。おそらくほずんどいないだろう。

ふっ  。よく芋おみれば䞖の䞭は䞍思議なこずで溢れかえっおいるな  。偏った芋方をしおいたずきには氣づけなかったが、この䞖もただただ捚おたもんじゃないな  。

 あり埗ないず思えるこずが珟実に起こりうる。倉えられないず思われた事象も行動すれば倉えられる。それに氣付いたからこそ僕は䞀人ではなく、サザンクロスのメンバヌのひずりずしおこれからも音楜掻動を続けおいこうず決めた。䞀人の力は氞遠に䞀倍だが、䞉人ならば䜕倍もの力になるず知ったから。

 拓海の指瀺を受け、僕が代わりに声を発する。
「ありがずうございたした これからもサザンクロスをよろしくお願いしたす」
 

第䞀郚・完


「#創䜜倧賞2024」
「#オヌルカテゎリ郚門」


いいなず思ったら応揎しよう

いろうた愛ず調和を描く芞術家 芞術家が集う癒やしの堎を提䟛するのが倢。共感者を倧募集䞭💖蚘事を読んでずきたらお声がけを💕䞀緒に愛ず調和の䞖界を物語りたしょう💖