【第159回】売場・マーケティングを読む⑥クロスMDで客単価を作る具体的手順
焼き鳥のタレの隣になぜかレモンが置いてある。
鍋つゆの棚の横にポン酢とカニ風味かまぼこが並んでいる。
カテゴリーとしてはまったく別物なのに、なぜか同じ場所にある。
気づいたことはないだろうか。
これは陳列担当者の気まぐれではない。
クロスMDと呼ばれる売場設計の技術である。
クロスMDとは何か
クロスMD(クロス・マーチャンダイジング)とは、異なるカテゴリーの商品を「使う場面」でつなげて陳列する手法である。
通常、売場はカテゴリーごとに区切られている。
調味料は調味料の棚、飲料は飲料の棚。
しかし、お客様の頭の中はカテゴリーで整理されていない。
「今夜は鍋にしよう」という一つの目的の中に、つゆも、薬味も、締めの麺もすべて含まれている。
クロスMDは、このお客様の「目的」に合わせて売場の方を再構成する手法である。
なぜ効果があるのか
理由は、お客様の買い忘れを防ぐからだけではない。
もっと本質的な効果がある。
売場をカテゴリー通りに歩いているだけでは「今日の献立」は完成しない。
しかし、つゆの隣に薬味と麺が置いてあるとお客様の頭の中で「これで完成する」という安心感が生まれる。
この安心感がそのまま"もう一品"をカゴに入れる後押しになる。
クロスMDは、値引きをせずに客単価を引き上げられる数少ない手法の一つである。
【現場で実際にあった数字】
ある店舗で、から揚げ粉の棚の隣に、レモン果汁と
サラダ油の少量サイズを並べたことがある。
から揚げ粉単体の売上はそのままに、併売率(一緒に買われた比率)を計測したところ、導入前はほぼゼロだった併売が、導入後は購入者の約3割がレモン果汁かサラダ油のどちらかを一緒に購入するようになった。
商品単体の値引きは一切していない。
置き方を変えただけで客単価が自然に上がった分かりやすい例だった。
クロスMDを設計する3つの手順
手順①:使用シーンを一つに絞る
「鍋」「揚げ物」「花見」
まず、一つの生活シーンを明確に決める。
複数のシーンを一つの売場に詰め込むと、お客様の頭の中で逆に整理できなくなる。
手順②:主役商品と、隣接商品を分ける
売場の中心になる「主役商品」(から揚げ粉など)、
それを引き立てる「隣接商品」(レモン、油など)。
隣接商品は点数を絞り、主役の邪魔をしないサイズ・数量にする。
手順③:定番の位置を動かしすぎない
隣接商品をクロスMDの売場に移すとき、その商品を
定番の棚から完全に無くしてしまうと以前このシリーズで扱った「指名買いのお客様が探せなくなる」という問題が起きる。
クロスMDは、基本的に「追加の展開」であり、定番の在り処を奪うものではない。
一般のお客様にとっての意味
ここまでは売場を作る側の視点だった。
もしこれを読んでいるあなたが、お客様の立場だとしたら、少し意地悪な見方もできる。
次に、買い物に行ったとき試しに自分のカゴの中を振り返ってみてほしい。
最初に買おうと思っていた商品と、その隣にあったからつい手に取った商品を分けて考えてみる。
後者が一つでもあれば、それは売場の設計がきちんと機能していたということでもある。
悪いことではまったくない。
売場は「今日はこれで献立が完成する」という、小さな安心感を提供しているに過ぎない。
ただその安心感の裏にこうした設計があると知っておくと、買い物という毎日の行動が少しだけ違って見えてくるはずだ。
結論
クロスMDは値引きに頼らずに客単価を上げられる数少ない技術である。
そして、この技術はお客様を騙すためのものではない。
バラバラなカテゴリーの中で、迷っているお客様の頭の中に「これで完成する」という一つの答えを差し出しているに過ぎない。
売場をカテゴリーの棚ではなく、お客様の生活シーンとして組み直せるかどうか。
それが、クロスMDが機能するかどうかの分かれ目になる。
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次回
売場・マーケティングを読む⑦
「"安さ"ではなく"納得"を作る価格表示」
※ドラッグストア商品部長・店舗運営部長としての経験や現場視点から、実在の出来事をもとに抽象化・再構成して書いています。特定の企業を指すものではなく、業界に共通する構造について述べています。
