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「偶然」から始まった挑戦 ― 北陸RDXを支える事務局キーマン・常山 知広さん(北陸RDXメンバーインタビュー)

産学官金の連携プロジェクトを裏側で支え、時には自ら現場へ飛び込んで新たな風を吹き込むキーマンがいます。

25年以上のキャリアを持ちながら、「自分は巻き込まれた方」と笑う常山さんは、なぜ公的な立場から民間組織「株式会社RICH」への参画を決めたのか。

事務局という枠を超え、北陸の産業支援に「緊張感」をもたらそうとする彼の、挑戦の軌跡に迫りました。


事務局とコーディネーター、その二つの顔

北陸RDXの活動を日々支えているのが事務局の存在です。常山さんは、その中核を担っています。

「私の現在の肩書きは事務局の担当者です。経済産業省やJ-NEXUS事務局との交渉、予算の管理や書類の取りまとめなど、プロジェクト運営全般を担っています」

しかし、常山さんの役割はそれだけにとどまりません。現場に足を運び、企業と直接顔を合わせ、時には専門家を紹介し、課題解決に道筋をつける。単なる事務作業を超えて「コーディネーター的な役割」を担っています。

「本来、事務局は裏方に徹することが多いのですが、私は過去に大学の産学官連携部門でコーディネーターをしていた経験もあり、自然と現場に足を運んでしまいます。その経験も生かして、北陸RDXでも企業と弁護士や弁理士をつなぎ、契約や知財に関する課題解決に向けて現場のニーズに応じた支援を行っています」

北陸RDXとしては、過去4年間の活動を通じて約50社の支援を行ってきましたが、そのうち20〜30社は常山さん自身も直接訪問してきたそうです。

「事務局でありながら現場に行くというのは、少し特殊な立場かもしれません。でも、現場での対話がなければ本当に必要な支援は見えてこない。だからこそ、両方の役割を担うことを意識しています」

「偶然」から始まった北陸RDXとの関わり

北陸RDXとの関わりは、偶然の延長線上にありました。

「率直にいうと、僕は巻き込まれた方なんです」と常山さんは笑います。

北陸RDXは、北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)と⼀般財団法⼈北陸産業活性化センター(HIAC)が中心となって経済産業省への申請を進めていたプロジェクトでした。常山さんは当時、この2つの組織にたまたま籍を持っていたため、自然と事務局を引き受けることになったそうです。

このプロジェクトが具体化していく中で、常山さんが大きな影響を受けたのが、井熊 均 総括エリアコーディネーターの存在です。これまで数多くの企業支援に携わり、ビジネス経験も豊富な井熊さんが、北陸RDXに全力で取り組む姿勢は、周囲の多くの人を巻き込み、プロジェクトが本格的に動き始めました。

「一人が本気で動くと、周囲もやらなきゃいけない、協力したいと感じる。私も含め、多くの人がその姿に引き込まれたと思います」

常山さんにとって、偶然から始まった北陸RDXは、知らず知らずのうちに「自分がやるべき」プロジェクトになったそうです。

印象に残るプロジェクト ― 株式会社RICHの設立

北陸RDXの数多くの取り組みの中で、常山さんが最も印象に残っていると語るのが「株式会社RICH」の設立です。

北陸RDXは5年間のJ-NEXUS期間終了後は、自立して活動を続けることが期待されています。その答えの一つが、2023年11月に設立されたRICHでした。

株式会社RICHホームページ

「RICHは、北陸RDXの取り組みから生まれた会社であり、北陸RDXの取り組みを将来にわたって継続していくための仕組みの1つです。いくつかの取り組みを行っていますが、特徴の一つは『成功報酬型』の支援モデル。新事業や新製品の立ち上げをハンズオンで支援し、実際に成果が出て初めて対価をいただく仕組みです」

これまでの地域における産業支援は無料のものが多く、大学の産学連携機関や県の産業支援組織が無償で相談に応じてくれるというメリットがある一方で、企業側も「支援はタダで受けられるもの」という感覚を持ちがちでした。その結果、支援する側・される側の双方に、本気で成果を追求する緊張感が生まれにくいという課題があったのではないかと常山さんは語ります。

一方で、首都圏などの民間のコンサルティング会社に依頼すると、初期費用だけで数百万円単位がかかることも珍しくなく、地域企業にとっては敷居が高いのが実情です。結果として「無料か、もしくは手が届かないほど高額か」という二極化が生まれていました。

RICHは、その構造にメスを入れました。

「成功報酬型は、私たち支援者にとっても一定のプレッシャーがあります。でも、だからこそ真剣に成果を追いかけられる。私たちも、企業も本気にならざるを得ません。地域に新しい文化を根づかせる挑戦です」

キャリアを変えたRICHへの参画

RICHの設立は、常山さんのキャリアにとっても大きな転換点となりました。

「私は25年以上、大学や公的機関で産学官連携や企業支援の仕事に携わってきました。今回RICHに籍を置くことになり、有償で責任を伴う支援をするようになって、新たな発見がありました」

常山さんは長年「公」に近い立場で活動してきました。そこでは「支援は無償」という前提が強く、常山さん自身としても、成果に対する責任は曖昧になりがちだったといいます。

しかし民間企業としてのRICHでは、成果が出なければ報酬は得られません。その緊張感が、これまでのキャリアでは得られなかった経験をもたらしました。

「キャリアが変わったこと自体に価値があります。今までの延長では見えなかった景色が見えるようになりました」

偶然のきっかけで始まった北陸RDXでの活動が、やがて自らのキャリアを変える挑戦へとつながったのです。

今後に向けて ― 北陸RDXによる地域全体への貢献

RICHの立場からは、個別の企業の事業支援を行うことがメインとなりますが、常山さんは北陸RDXの事務局の立場として、さらに広い視野を持っています。

「企業一社一社の成長を支援することは地域への貢献に間違いなくつながります。ただ、それだけでなく、北陸全体の大学や研究者の成果を社会に届けることにも関わりたい。大学のプレゼンスを高め、研究成果が実用化されるようなプロセスを後押ししたいです」

複数の大学と企業との共同研究の推進やコンソーシアムの形成など、北陸RDXとして地域全体での仕組みづくりにも関わっていきたいと考えているそうです。

北陸外との連携に向けて

最後に、北陸外との連携について伺いました。

「正直、自分のマインドが追いついていない部分も多いですが、これまでの私は、知らず知らずのうちに内向きになっていて、手の届く範囲のマッチングに留まっていたのではないかと思います。これからは、偶然を待つだけではなく、北陸の外に対してもこちらから積極的に発信していく必要があります」

北陸RDXの取り組みの中で、外部からの様々な視点を感じることができたことは強烈な経験であり、多くの学びがあったといいます。

そして、それらを活かして外部の情報や知見を受け入れる懐を広げ、地域内外の資源を組み合わせる。それが次のステージに進むためのカギだと常山さんは語ってくれました。

おわりに

常山さんの北陸RDXでの歩みは、まさに「偶然の出会い」から始まりました。しかし事務局という裏方にとどまらず、現場に足を運び、企業と専門家をつなぎ、新しい会社の設立にも関わるなど、その役割は大きく広がっていきました。

北陸RDXから生まれた株式会社RICHは、地域の産業支援に新しい選択肢をもたらし、常山さん自身のキャリアの転換点にもなりました。こうした挑戦が積み重なることで、北陸における産学官金連携の形もさらに進化していくはずです。

これからの北陸RDXの取り組みにご期待ください。


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※本インタビューは2025年9月に実施しました。肩書や所属はインタビュー実施当時のものです。
※記事/構成:北陸RDX note編集チーム