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四十九日まで鳴り続けた、おもちゃ

私の母方の祖父は、とても器用な人だった。

母曰く、
「キャラメルの箱は開けた形跡がないのに、
 中に千円札を忍ばせることができる人」
だったという。

そんな祖父が、ある日、
高さ二メートルほどある側溝に落ちた。
幸い大きなけがはなかったが、
高齢だったこともあり、
一週間入院することになった。

病院は私の自宅と職場のちょうど中間にあったため、
その一週間、私はせっせとお見舞いに通った。
祖父はことのほか喜び、
一日だけ会社の打ち上げで顔を出せなかった翌日には、
「昨日は寂しかった。」
と、にこにこしながら訴えた。

その祖父が二度目の入院をしたのは、
それから五年後だった。

私はちょうど出産直後で、母から
「娘ちゃんも小さいし、病院は菌だらけだから、
 お見舞いは最小限にしなさい」
と言われていたこともあり、
なかなか病院へ足を運べずにいた。

その日、私は朝からひどい頭痛に襲われていた。

授乳中だったため服用できる薬は限られており、
その薬もまったく効かない。
ホットアイマスクで目を温めたり、
頭や首をマッサージしたりしてみたが、
体調は悪くなる一方だった。

やがて立っていられないほどの激しい頭痛に加え、
めまいと吐き気まで襲ってきた。

頭痛持ちの私でも、
ここまでひどい症状は初めてだった。
頭を万力で締めつけられるような痛みに耐えながら、
私はふと祖父の顔を思い浮かべた。

「……おじいちゃんに、何かあったのかな。」

その直後、電話が鳴った。
母からだった。
祖父が亡くなったという知らせだった。
電話を切ったあと、
不思議なくらい胸が静かになった。
そして、一時間ほどすると、
あれほど激しかった頭痛は、
まるで何事もなかったかのように消えていった。

その夜。

ティンティラ テンティラ ティンティンティン♪

突然、娘のおもちゃが鳴り出した。
誰も触っていないのに、
ミッキーのおもちゃが光とともに
音楽を奏で始めたのだ。
その音で起きた私は、
私が寝がえりで触ってしまったのかと、
慌てておもちゃをひっくり返してスイッチを見た。

スイッチはオフだった。

「えっ」と思っていると、
音楽はまた鳴り始めたときと同じく
突然静かになった。

私は黙っておもちゃを置いた。
起きてきた夫も、黙ってもう一度布団にもぐりこんだ。

翌日の夜も、
その次の夜も、
音の出るおもちゃが次々と鳴った。
スイッチが入っているものも
入っていないものも鳴った。
アンパンマンの電話は
乾電池を抜いていたのに、鳴った。

私と夫は
「娘ちゃんと遊びたいのかな」
と話しながら、毎晩、鳴るおもちゃに付き合った。
不思議と怖さはなかった。
スイッチも入っていないおもちゃを
鳴らしているのが祖父だとしたら
器用な祖父らしいと妙に感心さえしていた。

祖父の四十九日が過ぎたころ、
おもちゃは二度と鳴らなくなった。

あの日の頭痛が何だったのか。
鳴り続けたおもちゃが何だったのか。
本当の理由は、今でもわからない。

けれど、
あの四十九日が過ぎるまでの出来事を思い返すたび、
私は今でも、祖父らしい最後のいたずらだったのかもしれない
と思っている。

次は、季節を少し遡って。
私がまだ五歳だった頃の話。
人生で初めて経験した、お葬式の記憶。

玄関をくぐった、その瞬間。
忘れられない出来事があった。


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妃沙 彩未(ひさ あみ) 「続きを読みたい」「また見たい」と思っていただけたことが何より嬉しいです。 いただいたチップは、これからの創作活動に大切に役立てます。