妹と私だけの合図「トントン」を、ベランダの何かが真似た夜
妹と私には、小さな合図があった。
夜、寝る前になると、
二人の部屋の間にある壁を
「トントン」
とノックして、
おやすみの挨拶をするのだ。
たまには挨拶だけでは終わらず、
「トントン」
「トン」
「トトトントン」
そんなふうに、
お互いノックを返し合って遊ぶこともあった。
その日も、そんな夜だった。
しばらく叩き合って遊び、
「もう寝ようか」と自然にノックが途絶えた。
数分後――。
「トントン」
今度は、ベランダ側から音がした。
窓でもない。
いつもの壁でもない。
二人の部屋のちょうど間あたりのベランダから、
乾いたノックの音が二回、はっきり聞こえた。

一瞬、妹かと思った。
でも違う。
もし妹がベランダに出たのなら、
窓を開ける音がするはずだ。
私はしばらく動けなかった。
そのとき。
バン!
突然、部屋のドアが勢いよく開いた。
「おねえちゃん、今ノックした?」
青ざめた顔の妹が飛び込んできた。
「してない!」

私はベッドから飛び降り、寝室で眠っていた父を叩き起こした。
「誰かがベランダにいる!」
相手が人でも、人ではない何かでも、
その瞬間の私たちには同じくらい恐ろしい存在だった。
父が懐中電灯を持ってベランダを確認したが、
そこには誰もいなかった。
あの夜、確かに聞こえた。
「トントン」
乾いた音が、はっきり二回。
あれはいったい何だったのか。
今でも妹と話題になることがある。
けれど、あの夜の答えだけは、いまだに見つかっていない。
明日は、少し毛色の違う話。
器用だった祖父が、最後に残していったもの。
いいなと思ったら応援しよう!
「続きを読みたい」「また見たい」と思っていただけたことが何より嬉しいです。
いただいたチップは、これからの創作活動に大切に役立てます。