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Microsoftの正体は"ソフト会社"ではない──総務職の僕が毎日"家賃"を払う話

月曜の朝、会社のデスクでパソコンの電源を入れると、僕の一日は決まって同じ三つの画面から始まります。Outlookで週末のメールをさばき、Excelで備品台帳を開き、Teamsで朝の打ち合わせに入る。総務の仕事をしていると、この三つに触れない日はほとんどありません。

ある朝、Teamsの画面の隅にいつものように「Microsoft」のロゴを見つけて、僕はふと手を止めました。この会社に、うちの会社は毎月いくら払っているんだろう、と。

そして、もうひとつ引っかかったのです。Microsoftって、そもそも何を売って儲けている会社なんだろう、と。

「Microsoft=Windowsの会社」だと、たぶんみんな思っている

「Microsoftって何の会社?」と聞かれたら、多くの人は「Windowsの会社」と答えると思います。

パソコンを買えば最初から入っているWindows。仕事で使うWord・Excel・PowerPoint。ゲームが好きな人ならXbox。どれも「箱に入って売られているソフトやハード」のイメージです。実際、僕も少し前まではそう思っていました。ソフトを作って、それをたくさんの人に買ってもらう会社。そういう理解です。

総務の目線で言い換えると、「一度買ったら、それで終わりの買い物」。パソコンを買えばWindowsがついてくる。Officeのパッケージを買えば、あとは何年でも使える。備品を発注して、検収して、台帳に載せて終わり——僕の実務の感覚では、ソフトウェアもそういう「モノ」に近い存在でした。

ところが、Microsoftの決算を実際にのぞいてみると、その景色はまるで違っていたのです。

「一番目立つ事業」が、一番伸びていなかった

Microsoftの直近の決算(2025年6月期)を見て、僕が最初に「あれ?」と声が出たのは、事業の伸びの順番でした。※1

Microsoftは売上を大きく三つの事業に分けて発表しています。ざっくり訳すと、こうです。

  • 生産性事業(Productivity and Business Processes):Office(現・Microsoft 365)やTeams、LinkedInなど。売上 約1,208億ドル(前年比+13%)

  • クラウド事業(Intelligent Cloud):Azureなど、企業にサーバーの機能を貸す商売。売上 約1,063億ドル(前年比+21%)

  • 個人向け事業(More Personal Computing):Windows、Xbox、検索広告など。売上 約546億ドル(前年比+7%)※2

ここで気づいてほしいのは、一番「Microsoftらしい顔」であるWindowsやXboxが入った個人向け事業が、伸び率で見ると+7%と、三つの中で一番おとなしいという事実です。

一方で、僕らが普段いちばん目にしない「クラウド事業」の中身を見ると、その中核であるAzureは+34%も伸びています。※3 会社全体の売上が+15%ですから、Azureはその倍以上の速さで走っていることになります。

つまり、Microsoftの「顔」だと僕らが思っているWindowsは、もう会社を引っ張る主役ではなくなっていました。稼ぎ頭は僕らが毎日触るOffice系で、伸びしろは目に見えないクラウドにあります。同じ会社の中で、看板と稼ぎ頭と成長エンジンが、それぞれ別の場所にあったのです。

Officeは「売る商品」から「貸す商品」に変わっていた

会社のパソコンでExcelを開くとき、僕はもう「Excelを持っている」という感覚がありません。

数年前まで、Officeは「買うもの」でした。数万円のパッケージを一度買えば、そのバージョンをずっと使える。総務の台帳の世界で言えば、購入した年に一度だけお金が動く「固定資産」のような存在です。

それが今は、Microsoft 365という月額(または年額)のサブスクリプションに変わりました。会社は社員の人数分の「席(ライセンス)」を借り、毎月お金を払い続ける。使うのをやめたら、その席は使えなくなる。買い物ではなく、賃貸です。総務としてやることも、「一度発注して終わり」から「毎年ライセンスの数を棚卸しして更新する」仕事に変わりました。

この「売り切りから、毎月いただく形へ」という変化に、僕は自分の本業の匂いを感じます。

僕が働く生命保険という商売は、契約してもらった瞬間の一時金で成り立っているわけではありません。むしろ、契約を長く続けてもらい、毎月の保険料を積み重ねてもらうことで初めて成り立ちます。最初に一気に稼ぐのではなく、細く長くいただき続ける。業界ではこれを顧客生涯価値(LTV)などと呼びますが、要は「一回売って終わり」より「ずっと払い続けてもらう」ほうが、事業は安定して大きくなるという発想です。

Microsoftは、この「ずっと払い続けてもらう形」に、Officeという主力商品を丸ごと乗せ替えました。実際、Microsoft 365の法人向けクラウドは+15%伸び、利用する席の数も+6%増えています。※4 個人向けのMicrosoft 365も契約者が8,900万人まで増え、なお伸びています。※5 一度乗り換えてもらえれば、来月も再来月も収入が続く。この構造の強さは、以前書いた「入口で稼がず、続けてもらって回収する」型と、根っこは同じです。

Azureは「クラウドの地主」になろうとしている

「クラウド」という言葉は、総務の僕にはずっとふわっとしたものでした。

けれど最近、社内で使うシステムが少しずつ「自社のサーバー」から「どこかのクラウド」へ移っていくのを、現場で感じます。昔は会社の中に物理的なサーバーという「箱」を置き、それを情報システムの担当が管理していました。今は、その箱を自社で持たず、他社の巨大なサーバーの一部を「借りて」使う会社が増えています。

Azureがやっているのは、まさにこの「サーバーという土地を、月額で貸す商売」です。土地を整備して、電気と冷房を通して、区画を切って企業に貸す。使った分だけ家賃をもらう。僕にはこれが、ソフト会社というより「クラウドの地主業」に見えます。

地主業の強いところは、一度入居してもらうと、なかなか出ていかれない点です。会社の基幹システムを一度Azureの上に建ててしまえば、それを別のクラウドに引っ越すのは、オフィスそのものを移転するくらい大変になります。総務として社内システムの移行に立ち会うと、「動いているものを別の場所へ動かす」ことの重さが身に染みます。だからこそ、一度貸した相手からは、長く家賃をもらい続けられる。Azureの+34%という伸びの裏には、この「出ていけない構造」があるのだと思います。

囲い込みという意味では、Appleが自社製品同士でユーザーを離さないのと似ています。この「気づけば抜けられない」という設計そのものについては、Obsidianが無料で使える裏側に潜む戦略でも別の角度から書きました。無料や便利さの裏には、たいてい「続けてもらう」ための設計が隠れています。

そして今、Microsoftは「AIも月額で貸す」側に回った

「Copilot、うちも入れるらしいよ」——最近、社内でそんな会話を耳にするようになりました。

CopilotというのはMicrosoftのAIアシスタントで、WordやExcel、Teamsの中に入り込んで仕事を手伝ってくれる機能です。そしてこれもまた、買い切りではなく「一席いくら」の月額で貸し出されています。企業向けの有料の席は、2026年4月時点で2,000万を超えたと発表されています。※6 MicrosoftのAI関連事業は、年換算で約370億ドル規模の収入ペースにまで育ったとされます。※7

ここまで来ると、はっきり見えてきます。Microsoftは、OfficeもサーバーもAIも、すべて「毎月お金をいただく形」で貸す会社に姿を変えていました。僕らが「ソフトを売っている会社」だと思っていたあいだに、会社の重心は「箱を売る」から「毎月、場所と道具と知恵を貸す」へと、静かに移っていたのです。

これは僕ら会社員にとって、他人事ではありません。総務の立場で言えば、Officeもクラウドも、そしてこれからはAIも、「毎月払い続けるコスト」として会社の固定費に居座り続けるということです。一度使い始めたら、簡単には手放せない。まさに家賃と同じで、事業を続けるかぎり払い続けることになります。便利であることと引き換えに、僕らは毎月この会社に「家賃」を払う関係に入っている——それが、月曜の朝にTeamsのロゴを見て手が止まった、あの違和感の正体でした。

おわりに

次の月曜も、僕はきっといつも通り、会社でOutlookを開き、Excelの台帳を眺め、Teamsの会議に入ります。

でも、もう「ソフトを使っている」とは思わないでしょう。僕が毎朝触れているのは、Microsoftという巨大な地主から借りている「道具と場所」なのだと、数字を見た今なら分かります。Windowsという看板の裏側で、この会社の本当の稼ぎ方が、売り切りから毎月の家賃へと組み替えられていたことを、ちゃんと知った上で。

知った上で使うのと、知らずに払い続けるのとでは、同じ月額でも意味が違う。せめて僕は、何に家賃を払っているのかを分かっている側でいたいな、と思うのです。

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出典(※公開前に最新値を再確認する。数値は Microsoft 2025年6月期=FY2025 決算に基づく)

  • ※1・※2 Microsoft FY2025 通期・部門別売上(Productivity and Business Processes 約1,208億ドル/+13%、Intelligent Cloud 約1,063億ドル/+21%、More Personal Computing 約546億ドル/+7%、全社+15%):Microsoft FY25 Q4 Investor Relations / Form 10-K(SEC, 2025)

  • ※3 Azure and other cloud services +34%(FY2025通期。Q4単体は+39%):同上

  • ※4 Microsoft 365 法人向けクラウド +15%・席数+6%:同上

  • ※5 Microsoft 365 個人向け 契約者 約8,900万人(+8%):同上

  • ※6 Microsoft 365 Copilot 有料エンタープライズ席 2,000万超(2026年4月時点):Microsoft 公表

  • ※7 AI事業 年換算収入ペース 約370億ドル:Microsoft 決算発表(2026年)

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