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AMDの正体はインテルの代替品ではないーーゲーム機の中身を握った黒子

火曜の夜、ダイニングテーブルの上でROG Allyの電源を入れました。妻はもう休んでいて、部屋に聞こえるのは小さなファンの音だけです。

SteamOSのロゴが出るまでの数秒、手持ち無沙汰に本体の刻印を眺めていました。AMD Ryzen Z1 Extreme。

そのまま顔を上げると、3メートルほど先のリビングに、自分で組んだデスクトップPCが置いてあります。あの中に入っているグラフィックボードも、Radeon RX 7800 XTです。同じ会社でした。

この会社のことを、僕はずっと「安いほうの選択肢」だと思っていました。ゲームでは十分に速いけれど、AIの話になると蚊帳の外に置かれる会社。実際、以前この記事でも、CUDAという壁の外側にいる側としてAMDのことを書きました。

けれども、その夜に気づいたのは逆のことでした。世界のゲーム機の中身を、この会社がほとんど握っている。PS5もXboxも、僕が以前使っていたSteam Deckも、中身はAMDです。表舞台では2番手と呼ばれ続けた会社が、なぜ「箱の中」だけは総取りできたのでしょうか。

「同じ性能なら、そのぶん安いから」——僕が持っていた通説

自作PCを組んだとき、僕がAMDを選んだ理由は情けないほど単純でした。同じくらいのフレームレートが出るなら、そのぶん安いからです。

ガジェット好きの間でも、AMDの扱いはだいたい似ています。インテルのCPUの隣に、少し安いAMDが並んでいます。NVIDIAのGeForceの隣にも、少し安いRadeonが並んでいます。性能で少し劣り、値段で少し勝つ。それがAMDというブランドの立ち位置——僕の理解はそこで止まっていました。

この見方は、間違ってはいません。売り場で並んでいる商品を比べる限り、AMDはたしかにそう見えます。

ただ、この見方だと説明がつかないことが1つあります。売り場に並んでいない場所——つまり完成品の箱の中では、AMDは2番手ではなく、ほぼ独占なのです。

1.61ドル。倒産寸前だった会社を救ったもの

1.61ドル。2015年7月、AMDの株価がつけた安値です。※2

当時、この会社は本気で倒産を心配されていました。手元の現金が減り続け、借金を返せるのかという話まで出ていた時期です。※2 パソコン向けのCPUではインテルに押され、グラフィックボードでもNVIDIAに押され、自社の看板で戦う場所がどんどん狭くなっていました。

その少し前、2014年10月にCEOに就いたのがリサ・スーです。※2 彼女がまず伸ばしたのは、Ryzenでもグラフィックボードでもありませんでした。

他社の箱の中身になる仕事でした。

2013年、AMDは同じ年に発売された2つのゲーム機の心臓部を、両方とも受け持ちます。ソニーのPS4と、マイクロソフトのXbox Oneです。どちらもAMDが専用に設計したチップで、x86のCPUコアとRadeonのグラフィックスを1つにまとめたものでした。※4

こうした「相手先の要望に合わせて専用チップを設計し、その会社の名前で売られる製品に載せる」仕事を、AMDはセミカスタムと呼んでいます。リサ・スーはこの事業を軸に、パソコン以外からの売上比率を約1割から約4割へと引き上げました。※2 2015年2月の時点で、AMDの売上の4割はゲーム機などが占めていたと報じられています。※2

ここが、この会社の分かれ目でした。自社のロゴを箱の表に出す商売では負け続けていた会社が、ロゴを出さない商売で息を吹き返した。PS4を買った人も、Xbox Oneを買った人も、その箱の中にAMDがいることをほとんど意識していません。意識されないまま、数千万台ぶんのチップが出荷されていきます。

そして今の世代でも、この構図は変わっていません。PS5もXboxシリーズも、Valveが出したSteam Deckも、来年出るという新しいSteam Machineも、中身はAMDが設計したチップです。※7

なぜAMDだけが、ゲーム機の中身になれたのか

任天堂のSwitch 2だけは、中身がAMDではありません。搭載されているのはNVIDIAのカスタムチップ「T239」です。※5

この例外が、実は答えそのものになっています。

Switch 2のCPUはArm系のコアで作られています。※5 一方、PS5もXboxも、そしてSteam Deckも、パソコンと同じx86という方式のCPUを積んでいます。ソニーやマイクロソフトがx86を選ぶのは、開発者が慣れた道具をそのまま使えるからです。

ここで、決定的な制約が効いてきます。x86の互換CPUを作る権利を持っている会社は、事実上ごく限られています。インテルと、AMDです。NVIDIAはインテルとの特許のやり取りの中でも、x86プロセッサはその対象から外されてきました。※8 つまりNVIDIAは、どれだけ強力なグラフィックスを持っていても、x86のCPUとセットにした「ゲーム機の心臓部」を1つのチップとして作ることができません。

では、インテルはどうでしょうか。x86のCPUは当然作れます。ただし、ゲーム機に必要なもう半分——ゲームを描くための強力なグラフィックス——を、長いあいだ自前で持っていませんでした。

x86のCPUと、本気で戦えるグラフィックスの両方を1枚のチップに載せられる会社は、AMDだけでした。これが「ゲーム機の中身がほぼ全部AMD」の正体です。

そして、AMDがその両方を持てるようになった理由は、2006年10月にさかのぼります。当時、AMDはグラフィックス専業のATIという会社を約54億ドルで買収しました。※3

この買収は、長らく大失敗と呼ばれていました。買った直後から巨額の減損が続き、AMD自身が「高く買いすぎた」と認めるほどでした。※3 借金は膨らみ、2009年には自社の工場まで手放すことになります。

会社をいちばん苦しめた買い物が、7年後に会社を救う唯一の武器になった。ATIを抱えていなければ、2013年に2つのゲーム機を同時に受け持つことはできませんでした。

名前が出ない仕事は、強いのか、弱いのか

会社の備品を発注していると、たまに箱の裏をひっくり返して見ることがあります。

有名メーカーのロゴが入った製品でも、製造しているのはまったく別の会社だった、というのはよくある話です。総務の仕事をしていると、この「表の名前」と「作っている人」がずれている構造に、わりとしょっちゅう出会います。プライベートブランドの食品も、オフィスの什器も、たいていそうなっています。

黒子側に回ることには、はっきりした利点があります。注文が読めることです。

自社ブランドで商品を出す場合、何台売れるかは出してみないと分かりません。売れ残れば在庫を抱えます。ところがセミカスタムは、相手が「この設計で、この数を、この時期に」と決めて発注してくれます。しかもゲーム機は、一度採用されたら5年でも7年でも同じチップを作り続けます。作る側にとっては、これ以上ないほど計算しやすい仕事です。

生命保険の仕事に引きつけると、この形は再保険に似ています。保険会社が引き受けたリスクの一部を、さらに別の会社が引き受ける仕組みです。契約者が名前を知ることはまずありませんが、表に立つ会社の後ろで、その事業を成り立たせています。表に出ないことと、影響力がないことは、まったく別の話です。

ただし、弱点も同じ場所にあります。

値段を決めるのは、発注する側です。ゲーム機は本体価格を安く抑えることが至上命題なので、中身のチップに払える金額はきつく絞られます。数は出るけれど、1個あたりの儲けは薄い。しかも、いつ発注が細るかも相手次第です。

つまりセミカスタムは、食いつなぐには最高で、儲け続けるには向いていない仕事でした。この見立ては、最後に出てくる決算の数字がそのまま証明します。

僕の家にある、2台のAMD

ここまで会社の話ばかり書いてきたので、僕が実際に毎日触っている2台を挙げておきます。どちらも、この記事で書いた構造がそのまま形になった機械です。

ROG Ally(2023)——ゲーム機の系譜が、そのまま手のひらに

去年の12月、中古で約5万円で買いました。8ヶ月ほど、ほぼ毎日ダイニングテーブルで起動しています。

中身はAMDのRyzen Z1 Extremeです。※6 ここは正確に書いておきたいのですが、このチップはPS5のようなセミカスタム(1社のための専用設計)ではなく、携帯ゲーム機向けにAMDが用意した製品です。ただし、ゲーム機に必要なものをCPUとグラフィックスごと1枚にまとめるという発想は、PS4から続く同じ系譜の上にあります。

僕はここに、標準のWindowsではなくSteamOSを入れて使っています。SSDは2TBに、バッテリーは大容量のものに換装しました。買った当初はWindowsのまま使っていましたが、電源を入れてから遊び始めるまでの手数が多くて、だんだん起動しなくなっていました。SteamOSに変えてから、その手数が消えました。

正直に書くと、欠点もあります。ファンの音は、静かな夜のダイニングでははっきり聞こえます。バッテリーも、重いゲームなら2時間持たない場面があります。SteamOSを入れるのはメーカーが想定した使い方ではないので、自己責任の作業です。それでも僕がこの機械を毎日起動しているのは、中学生の頃にPSPへ非公式のファームウェアを入れて遊んでいた感覚に、いちばん近いからです。

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Radeon RX 7800 XT——ゲームでは満点、AIでは弾かれる

リビングの自作デスクトップに入っているグラフィックボードです。27インチのモニターとモバイルモニターの2枚を、これ1枚で動かしています。

ゲーム用途では、値段を考えると文句のつけようがありません。フルHDで困る場面はまずありませんし、Linux(NixOS)でも素直に動きます。

不満は、ゲームの外に出た瞬間に来ます。AI関連のツールは、いまだにCUDA——つまりNVIDIA前提で作られているものが多く、Radeonでは動かない、あるいは手間をかけないと動かない。以前、この不便さそのものを1本の記事にしました。速さで負けているのではなく、世界がそちらの言葉で話しているから弾かれる、という話です。

だから僕は、この会社を手放しで褒める立場にはいません。ゲームの箱の中では総取りしていて、AIの部屋では締め出されている。同じ会社の、同じ僕の家での、この落差こそが実感です。

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そして今、ゲームはデータセンターの8.6分の1になりました

67億1,800万ドルと、7億7,900万ドル。

AMDが先日発表した2026年4〜6月期の、データセンター部門とゲーミング部門の売上です。※1 全社の売上高は115億3,600万ドルで前年同期比50%増、そのうちデータセンターが67億ドル超・前年から107%増と、ちょうど倍になりました。全社売上の58%がこの部門です。※1

一方でゲーミングは7億7,900万ドル、前年同期比31%減。しかもその減少の主因は、セミカスタムの売上減だと説明されています。※1 データセンターの売上は、ゲーミングの8.6倍まで開きました。

会社を救った事業が、いちばん縮んでいます。

ここで冒頭の見方に戻ると、風景が変わって見えてきます。セミカスタムは、AMDにとって最終目的地ではありませんでした。倒産寸前の会社が、儲けの薄い受託の仕事で数年ぶんの時間と現金を稼ぎ、その間にサーバー向けCPUと、AI向けのチップを仕上げた。ゲーム機の仕事は、稼ぎ頭ではなく、本命へ渡るための橋だったわけです。

橋を渡り終えたあと、橋の通行量が減るのは自然なことでもあります。

こう考えると、この10年のAMDは「2番手のまま強い会社」ではありませんでした。表に名前が出ない場所で耐えて、出せる場所ができた瞬間に主戦場を移した会社です。順番が逆だったのだと、決算の数字を見ながら思いました。

僕の手元にある2台は、その橋の上にあった時代の機械です。

おわりに

火曜の夜、ダイニングテーブルでROG Allyを起動するとき、僕はもうこの会社を「安いほうの選択肢」とは思っていません。

売り場では2番手に見えて、箱の中では総取りしている。救ってくれた事業を自分で縮ませながら、別の場所へ移っていく。ロゴが見えないところで何が起きているかは、値札を見比べているだけでは絶対に分からない——そのことを、手のひらの機械に教わりました。

次に自作PCを組むとき、僕がまたRadeonを選ぶかは正直まだ決めていません。AIの部屋で弾かれる不便さは本物です。それでも、何を選んでいて、何を選ばされているのかを知ったうえでレジに向かうのは、やっぱり気分がいいものです。

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出典

  • ※1 AMD 2026年4〜6月期(第2四半期)決算。売上高115億3,600万ドル(前年同期比50%増・前四半期比13%増)/データセンター部門67億1,800万ドル(同107%増・全社売上の58%)/クライアント・アンド・ゲーミング部門38億4,100万ドル(同6%増)のうちクライアント31億ドル(同23%増)・ゲーミング7億7,900万ドル(同31%減。減少の主因はセミカスタムの売上減)/エンベデッド部門9億7,700万ドル(同19%増)。マイナビニュース「AMD、2026年第2四半期売上高は前年同期比50%増 データセンター部門の売上高が倍増」(2026年8月5日)https://news.mynavi.jp/techplus/article/20260805-4780132/公開前にAMDのIR原本で再確認する

  • ※2 AMDの株価は2015年7月に1.61ドルの安値をつけ、当時は資金繰りと債務返済が懸念されていました。リサ・スーは2014年10月にCEO就任(当時の株価は約2.70ドル)。就任後3年ほどでPC向け以外の売上比率を約10%から約40%へ引き上げ、その柱がXbox One・PS4向けのセミカスタム事業でした。2015年2月時点で売上の約40%がゲーム機などの製品によるもの。Forbes「AMD CEO Lisa Su And The Art Of A Turnaround」https://www.forbes.com/sites/patrickmoorhead/2016/11/01/amd-ceo-lisa-su-and-the-art-of-a-turnaround/ /TheStreet「Lisa Su's net worth: How she saved AMD & built her wealth」https://www.thestreet.com/personalities/lisa-su-net-worth

  • ※3 AMDによるATI Technologies買収は2006年10月25日に完了。買収総額は約54億ドル(現金約43億ドル+AMD株式5,800万株)。その後AMDは「ATIに払いすぎた」と認めている。AMD Form 10-K(FY2006)https://www.sec.gov/Archives/edgar/data/0000002488/000119312507044191/d10k.htm /CBC News「AMD says it overpaid for ATI」https://www.cbc.ca/news/science/amd-says-it-overpaid-for-ati-1.641782

  • ※4 PS4(開発コード「Liverpool」)とXbox One(同「Durango」)は、いずれも2013年発売で、x86系CPUコアとRadeonのグラフィックスを1チップに統合したAMDのカスタムAPUを搭載

  • ※5 Nintendo Switch 2はNVIDIAのカスタムSoC「T239」を搭載。CPUはArm系のCortex-A78Cコア。TechSpot「Nintendo Switch 2 teardown confirms Nvidia Tegra T239 chip」https://www.techspot.com/news/107668-nintendo-switch-2-teardown-confirms-nvidia-tegra-t239.html

  • ※6 ROG Ally(2023)はAMD Ryzen Z1シリーズを搭載し、上位モデルはRyzen Z1 Extreme(Zen 4+RDNA 3)。テクノエッジ「ASUSがSteam Deck対抗の携帯ゲーミングPC『ROG Ally』発表。Zen 4+RDNA 3搭載」https://www.techno-edge.net/article/2023/04/04/1111.html

  • ※7 Valveが2026年初頭発売予定として発表した新型Steam Machineは、AMDのセミカスタムCPU/GPUを採用すると説明されている(発売時期・仕様は変更の可能性があるため、公開前に最新の公式発表を確認する

  • ※8 IntelとNVIDIAは2011年にクロスライセンス契約を結んでいるが、x86プロセッサなど一部の製品はライセンスの対象外とされている。GIGAZINE「インテルとNVIDIAが6年間のクロスライセンス契約に合意」https://gigazine.net/news/20110111_intel_nvidia_crosslicense/

※本記事の数値は2026年8月6日時点で確認できたものです。決算の数字は四半期ごとに変わります。筆者はROG Ally(2023)とRadeon RX 7800 XTを実際に使用していますが、PS5・Xbox・Switch 2・Steam Machineは所有しておらず、これらについては公開情報にもとづく考察です。投資判断の材料として書いたものではありません。


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