後継者に残せる仕事、残せない仕事。──中小企業の事業承継で、"属人"を仕組みに変えていく現場から
顧問先で「後継者」の話になると、社長はたいてい、まず"人"の名前を思い浮かべます。長男か、専務か、それとも外から連れてくるか。。。でも私がいつも先に聞くのは、その前の質問です。「今、社長の頭の中にしかない仕事は、何個ありますか」。
事業承継もBCPも、じつは同じ壁にぶつかります。仕組みより先に、人を決めようとしてしまう壁です。

■ 「次の社長」を決める前に、決めることがある
中小企業の事業承継の相談で一番多いのは、「誰に継がせるか」という悩みです。もちろん大事な問いです。でも、その前に確かめてほしいことがあります。今の社長が急に抜けた瞬間に、止まる業務はどれか。逆に、誰が引き継いでも止まらない業務はどれか。
この線引きができていない会社ほど、後継者選びが難航します。だって、後継者に「社長そのもの」を求めてしまうから。同じ判断力、同じ人脈、同じ勘。そんな人、そう簡単には見つかりません。
■ ある建設会社で見た、"番頭"という発明
数年前からご一緒している、ある建設会社の顧問先での話です。社長は最初、「次の社長を一人決めたい」とおっしゃっていました。でも話を聞いていくと、社長が一人で抱えている仕事は、大きく分けて三つの種類があることが見えてきました。現場を見る目。数字を締める目。人を育てる目。
一人にぜんぶ渡すのは、正直、無理があります。だから私は、後継者を一人探すのをいったん止めて、「番頭」を二、三人つくる方向に舵を切ることを提案しました。現場番頭、数字番頭、人番頭。それぞれが自分の持ち場で"社長の代わりに判断できる"状態を、少しずつ作っていく。
半年ほど経ったころ、社長からこんな言葉をいただきました。「休みの日に、初めて電話が鳴らなかった」と。その一言、今でもよく覚えています!

■ 属人化は悪ではない。属人化のまま渡すのが問題
誤解されがちですが、属人化そのものは悪いことじゃありません。創業期の会社は、たいてい社長の属人的な判断力で伸びます。それは紛れもない強みです。
問題は、その強みを「渡せる形」に変えないまま、次の世代に渡そうとすることです。BCPの現場でも、まったく同じことが起きます。担当者が辞めたら、誰も避難所の場所を知らない。社長がいないと、取引先への連絡順番が分からない。──これは事業承継の縮図です。会社が止まる理由は、たいてい"人"ではなく"仕組みの不在"にあります。
■ 仕組みに変えると、社長も楽になる
仕組み化というと、分厚いマニュアルを作る話だと思われがちです。でも私が現場でお願いしているのは、もっと手前のことです。「今、頭の中にある判断基準を、声に出して誰かに話してみてください」。それだけで、驚くほど多くのことが言語化できます。
仕組みに変える作業は、後継者のためだけではありません。社長自身が、安心して休める日を取り戻すための作業でもあるんです。

■ さいごに
後継者に、何を残せるか。何は残せないか。その線引きは、後継者を探す前に、社長自身にしかできない仕事です。もし今、後継者選びで止まっているなら、一度「人」を探す手を止めて、「仕組み」に変えられる部分を一つだけ、書き出してみてください。

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✏️ 神山 健(株式会社BCPJAPAN)
土地から始める防災 × BCPの診断士。
地盤調査8,000件超/著書『防災は土地から始めなさい』
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・運営:株式会社BCPJAPAN

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