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重伝建を歩く④ 売らない、貸さない、こわさない」。これがあっての妻籠宿


生活者の息遣いがある町


妻籠宿(つまごじゅく)は、江戸末期から明治期の家屋が連なる宿場町。中山道69次のうち42番目の宿場町に当たります。


1245ヘクタール。山々に囲まれたランドスケープは圧巻

長野県の代表的な宿場町には、馬籠宿、奈良井宿などがありますが、ここは1245ヘクタールと大きな面積を誇ります。古い町並みは重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)に選定されながらも、今なお多くの人が生活をし、その営みを感じさせます。


生活の息遣いを感じさせる妻籠宿

重伝建に選定された古い町並みの中には、生活とはかけ離れテーマパークみたいになってしまったところもありますが、ここには赤ちゃんと散歩する人、軒先で立ち話をする人、外出先からスクーターで帰宅する人――がいて、生活者の息遣いがあります。


住民憲章がある宿場町


この宿場を訪れて驚いたのは、「妻籠を愛する会事務所」の前を通りかかったとき。「売らない、貸さない、こわさない」の住民憲章が掲げられていました。


売らない、貸さない、こわさない

なるほど、これだ!と思いました。安易に売ったり貸したりすることは、外からの資本が入ってくることに他なりません。「外資」は、地元の人ほどに土地への愛着心がない場合もあります。そうなると、古くから守り継がれた宿場町はどんどん形を変えてしまうことになりかねません。一旦こわしてしまえば、もはやその家屋は修復が不可能です。この憲章があるからこそ、今の妻籠があるんだな、と…思った次第です。


代々続く家業

そういえば、奈良井宿には今風のおしゃれな宿泊施設ができていました。馬籠宿は飲食店やお土産店が立ち並んでいましたが、中には外からの資本に店を貸したところがあるかもしれません。追分宿は風情を残すたたずまいはごく一部、土地の多くは宅地化され、空き地は売買の対象になっていました。


日本に奇跡的に残るタイムカプセル

売却や転貸は「やむにやまれず」といった理由があるかもしれません。高齢化や跡継ぎ不足で悩んだ末の決断もあったでしょう。私が住む町の商店街も、櫛の歯が抜けるようにして昔ながらの経営者が消え、それと交代するように全国チェーンの店舗がひしめくようになりました。


歴史的価値を見い出してくれる外国人観光客

一方で、これを乗り越えるには、“脱落者”を出さない「町の団結」なのかもしれません。この宿場のポリシーは明白です。「保存をすべてに優先する」という堅い意志のもとで、住民が一致団結して、歴史的価値を守り抜いているとしたら、これは本当に価値ある取り組みだと思います。


妻籠を愛する会の事務所

この保存活動の母体となるのが、「妻籠を愛する会(1967年設立)」。すでに60年近くにわたる歴史があります。その設立趣意書はとても力強いものがあります。およそ次のようなことが掲げられています。


人づくりに力を入れる宿場町


「長い歳月をかけて築き上げられてきた妻籠宿の町並みは、過去と現在をつなぐ重要な国民的財産。一度破壊されるならばその復原は不可能に等しい。これらの保存については、国・県で保存対策が講じられているが、さらに住民が自らの手で保護し、後世に継承することが必要」――。



宿の中には数ヶ月先までいっぱいとも(観光案内所)

もうひとつ、私が注目したのは、1977年に始まった妻籠冬期大学講座です。地元の方のための勉強会でしょうか。2025年の今もこの取り組みは続いているようです。


町づくりには人づくりがあってこそ

かつて訪れた岩村城下町(岐阜県恵那市)を思い出しました。2018年に訪問したときにはNPO法人「いわむら一斎塾」が活動していました。「町づくりには人づくりがあってこそ」という思いで、『言志四録』で知られる儒学者・佐藤一斎(1772-1859)の思想を学んでいるのだそうです。


足元を見れば、私が住む東京23区も303の再開発プロジェクトが進み、庶民の台所だった商店街や居場所だった昭和の酒場がどんどんなくなっています。

市街地再開発事業について|市街地再開発事業|東京都都市整備局


惜しまれて幕を閉じた東中野の駅前飲食街

時代の変遷には抗えないにせよ、住民が価値を感じる「タイムカプセルのような空間」があってもいいじゃないですか。しかしながら、東中野も下北沢も大山も、反対運動もむなしくみな陥落してしまいました。再開発を経て姿を見せる一律同じカオを持つコンクリートの町並みは、没個性そのもので、多様な価値を認める民主主義国家のそれとはとても思えません。


猫が安心してくつろげる町づくり

「町づくりには人づくり」――それを啓蒙できる人材がいれば、不動産デベロッパー優位の町づくりから脱却できるのかも。いま、各地を行脚し、取り組みに学ばせていただいています。


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