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2週間前まで知らなかった男と、今日会うことになりました。

 娘には、知らない人についていってはいけないと厳重に教えている。
 「いかのおすし」である。

 いかない。
 らない。
 おごえを出す。
 ぐ逃げる。
 らせる。

 特にネットで知り合った男には気をつけろ、と念を押している。「ネットで近づいてくる男の九割は体目当てだと思っておけ」ーー父親として、そこはかなり厳格に教育してきたつもりである。

 それなのに今日、僕はネットで知り合った男に会いに池袋へ行く。
 「YOU、来ちゃいなよ!」という、軽いノリに誘われて。

 しかも、知り合って、まだ二週間。

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 きっかけは、僕が主催している「#エッセイしりとり」だった。ところがコハクシスさんは、誰からもバトンを受け取っていないのに、勝手にコースへ乱入してきた。

 そんな美味しい人を、僕が見逃すはずがない。納豆は食べれんけど。

 出会って四日後。彼はなぜか審査員席に座り、さらにはスポンサーとして賞金まで出すと言い出した。四日前まで存在すら知らなかった男が、金を出すと言っている。

 これが娘のスマホに届いたDMなら、即座にスマホを取り上げ、「今すぐブロックしろ!」と怒鳴り散らしていただろう。

 だが、今の僕は「企画を盛り上げてくれたお礼を言いに行く」という、最もらしい大義名分を握りしめ、初デート前の学生のようなドキドキを隠せないでいる。
 せめて身だしなみくらいは整えようとしたが、髭剃りの充電は切れ、髪の毛もボサボサだ。父親どころか、いち社会人としての清潔感すら詰みである。

 気持ちを落ち着かせるために、改めてこの二週間で得たコハクシスさんについて整理してみることにした。 

 たぶん、年下。偏差値65以上。そして、ベランダでタバコを吸う。しかも健康診断当日ですら吸う。なかなかファンキーな男である。
 まだ、二十本ほどしか読んでないが、「恥ずかしい話を拾っては膨らませ、文体まで巻き込んで遊ぶ人」だろう。自らを「日陰者のナメクジ」と称しながら、結構な頻度で日向に這い出してくる。

 ……やっぱ、一番会ったらあかんタイプの男やんけ!

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 今日、コハクシスさんがいるのは、池袋のジュンク堂で開催される「第3回人文系リトルプレス市」

 個人や小さなグループが作った本を持ち寄る、いわば文芸系の同人誌即売会みたいなものらしい。そして彼は、〈文芸的露出狂集団チ部〉というブースで、『恥と和解せよ』という本を売っている。

 ……人文系リトルプレス市?
 文芸的露出狂集団チ部?

 耳慣れない単語の羅列に、一気にハードルが上がる。哲学的な問答を吹っかけられたらどうしよう。場違いな僕が迷い込んだら、インテリな方々に「ぶぶ漬けでもどうどす?」と箒を逆さに立てられ、冷ややかな視線を浴びせられるのではないだろうか。

 さらに問題なのは、コハクシスさんの顔が一ミリもわからないことである。本人いわく、アイコンやクリエイター図鑑のイラストは実物と似ても似つかないらしい。


 ……人のことは言えんけど。

 それでも、合言葉は決めてある。

 「タバコ、もらうベースで」

 これを、どのタイミングで、誰に言えばいいのか。もし相手がコハクシスさんでなかった場合、僕は「人文系の聖地」で、見ず知らずの人にタバコをたかる身なりの汚いおっさんとして、チ部界隈で噂されるだろう。

 もう少し確実な手がかりを得ようと、吸っているタバコの銘柄を聞くと「IQOSのメンソール」らしい。ならば喫煙所へ行けば見つけられるかもしれない。そう思って「IQOS メンソール」と検索した。

 ……IQOSのメンソール、何種類あんねん。

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 残る手がかりは、眼鏡くらいである。眼鏡の男を一人ずつ見ながら、「ナメクジっぽい」「これは違う」「ちょっとナメクジ」と心の中で仕分けるしかない。
 やはり、池袋のジュンク堂九階、人文系リトルプレス市で眼鏡を目印に人を探すのは情報として弱すぎる。最もやってはいけないウォーリーを探せである。

 そもそも、プライベートで知らない人と喋ったのがいつなのかすら思い出せないのに、コハクシスさんらしき人を見つけたところで、僕は声をかけることができるのか。

 結局僕は、「おおごえを出す」ことも「しらせる」こともできず、物陰からナメクジのようにこっそりと覗くことしかできないだろう。

 娘よ。すまん。
 パパは「いかない」も「のらない」も守れなかった。せめて、「すぐ逃げる」準備はしておく。

 ナマコハクシスと会う前に、僕の方がナメクジになりそうである。


 パラ子さん、「2」のバトンをありがとうございました。無事「2」は、ナメクジと共に成仏させました😇

 そして気づけば、「#エッセイしりとり」の投稿は500本を超えました。軽い気持ちで始めた企画に、ここまでたくさんの方がバトンをつないでくださるとは思っていませんでした。

 書いてくださった皆さん、読んでくださった皆さん、本当にありがとうございます。

 明日はいよいよ最終日。
 最終日は特別ルールで、「ん」で終わってもよい日です✨

 そして、もうここまで来たらバトンを待つ必要もありません。最後に一本走りたい方は、勝手にバトンを持っていってください。

 もちろん審査員の皆さんも例外ではありません。最後は、綺麗に締めていただきます。

 「た」で始まり、「ん」で終わるエッセイをお願いします。

 みんなで成仏しましょう😇

 ※特別審査員の四名。媚びを売るなら今のうちやで〜😏✨

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