コンテンツにスキップ

ウェンロック

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
地質時代・古生代[* 1][* 2]
累代 基底年代
Mya[* 3]
顕生代 新生代 66.00
中生代 251.902
古生代 ペルム紀 ローピンジアン チャンシンジアン 254.14
ウーチャーピンジアン 259.51
グアダルピアン キャピタニアン 264.28
ウォーディアン 266.9
ローディアン 274.4
シスウラリアン クングーリアン 283.3
アーティンスキアン 290.1
サクマーリアン 293.52
アッセリアン 298.9
石炭紀 ペンシルバニアン亜紀 後期 グゼリアン 303.7
カシモビアン 307.0
中期 モスコビアン 315.2
前期 バシキーリアン 323.4
ミシシッピアン亜紀 後期 サープコビアン 330.3
中期 ビゼーアン 346.7
前期 トルネーシアン 358.86
デボン紀 後期 ファメニアン 372.15
フラニアン 382.31
中期 ジベティアン 387.95
アイフェリアン 393.47
前期 エムシアン 410.62
プラギアン 413.02
ロッコヴィアン 419.62
シルル紀 プリドリ 422.7
ラドロー ルドフォーディアン 425.0
ゴースティアン 426.7
ウェン
ロック
ホメリアン 430.6
シェイウッディアン 432.9
ランドベリ テリチアン 438.6
アエロニアン 440.5
ラッダニアン 443.1
オルドビス紀 後期 ヒルナンシアン 445.2
カティアン 452.8
サンドビアン 458.2
中期 ダーリウィリアン 469.4
ダーピンジアン 471.3
前期 フロイアン 477.1
トレマドキアン 485.85
カンブリア紀 フロン
ギアン
ステージ10 491.0
ジャンシャニアン 494.2
ペイビアン 497.0
ミャオリンギアン ガズハンジアン 500.5
ドラミアン 504.5
ウリューアン 506.5
シリーズ2 ステージ4 514.5
ステージ3 521.0
テレニュービアン ステージ2 529.0
フォーチュニアン 538.8
原生代 2500
太古代[* 4] 4031
冥王代 4567
  1. 基底年代の数値は、この表と本文中の記述では、異なる出典によるため違う場合もある。
  2. 基底年代の更新履歴
  3. 百万年前
  4. 「始生代」の新名称、日本地質学会が2018年7月に改訂
ウェンロック世ホメリアン期(約4億3000万年前)の大陸配置

ウェンロック[1]Wenlock[2][3])は、国際層序委員会によって定められた古生代シルル紀地質時代名である[1]。シルル紀を構成する4つののうちの2番目のもので[4]ランドベリの次、ラドローの前にあたる。シルル紀中期とされ[4]、絶対年代は4億3340万年前(±80万年前)から4億2740万年前(±50万年前)と見積もられている[2]

ウェンロックはシェイウッディアン(前期)およびホメリアン(後期)の2つの下位区分からなる[1][2]

名称と歴史

[編集]

時代区分を付してウェンロック世(ウェンロックせい、: Wenlock Epoch)とも呼ばれる[4][5][6]。対応する年代層序はウェンロック統(ウェンロックとう、: Wenlock Series)と呼ばれる[4][5][注釈 1]。国際層序委員会に定められた用語ではないが、ウェンロッキアン: Wenlockian)とも呼ばれる[8]

「ウェンロック」の名はイングランドウェスト・ミッドランズシュロップシャーにある町、マッチ・ウェンロックとその近郊に露出する石灰岩の断崖であるウェンロック・エッジWenlock Edge)を含むウェンロック地域に由来する[4][7][9]。層序学における「ウェンロック」の名は、1833年にロデリック・マーチソンによってウェンロック地域およびウェンロック・エッジに分布するウェンロック石灰岩(Wenlock Limestone)として初めて言及され、翌1834年にはウェンロック頁岩 (Wenlock Shale) という用語が用いられた[9]。マーチソンは1839年にはシルル系の岩石と化石に関する代表作 The Silurian System を著した[9]。これ以来、「ウェンロック」はこの時期の地質時代を指す用語として広く用いられてきた[9]。1974年にバーミンガム大学で開かれた会合において設置されたシルル系層序小委員会(Subcommission on Silurian Stratigraphy)により、シルル系を4つの統に区分し、第2統・第3統をそれぞれウェンロック・ラドローと呼ぶこと、また両者の基底の境界模式をウェルシュ・ボーダーランドとすることが決まった[10]。これは Bassett et al. (1975) にまとめられ、1980年に Lethaia で報告された[10][11][注釈 2]

この時代(中部シルル系)に対し用いられた別の用語に、サローピアンSalopian、サロープ統)がある[9][12]。これは、Lapworth (1880) がウェンロックから下部ラドロー相当層に対して導入した用語で[9]オーウェン・ジョーンズらによって実際に地質時代として使用されたが[12]、2010年現在では最早使用されない[9]

基底とその位置

[編集]

ウェンロック統の基底、すなわちシェイウッディアン階の基底は、イングランドシュロップシャーの小川、ヒューリー・ブルック(Hughley Brook)の北岸に露出するセクション [SO 5688 9839] のビルドワス層英語版Buildwas Fm.)の基底に設定されている[3][13]。露頭は農場 Leasows Farm の南東約 200 m、ヒューリー教会(Hughley Church)の北東 500 m に位置する[3]国際標準模式層断面及び地点 (Global Boundary Stratotype Section and Point, GSSP) は、ビルドワス層のユニットGの基底に位置する[3]。ユニットGは、基底部では灰緑色の泥岩からなり、上方に向かって青灰色となる[3]。岩相中には、破砕された苔虫動物、有柄ウミユリ類、腕足動物サンゴなどが含まれる[3]

生層序

[編集]

シルル系は炭酸カルシウム骨格をもつ生物遺骸からなる炭酸塩岩相と筆石に特徴づけられる泥岩層とからなるが、筆石およびコノドントが年代対比に重要な示準化石となっている[7]。ウェンロックの基底は、筆石 Cyrtograptus centrifugus 化石帯の基底近くに位置し、これが現在の一次指標となっている[3]。また、ビルドワス層の基底部層準には、Pterospathodus amorphognathoides 間隔帯に属する多様なコノドント群集が含まれ、これが二次指標となっている[3]。しかし、対比が不正確であり、当初の想定とは異なり、現在のGSSPは、アクリターク化石帯5の基底と、コノドント Pterospathodus amorphognathoides の最終出現との間に位置しており、これはCyrtograptus centrifugus 化石帯の基底と一致していない[3]。再検討の結果、より上位で国際対比が可能な層準、すなわち 絶滅事変 Ireviken datum 2 が推奨されており、この層準はおおよそ Didymograptus murchisoni 筆石化石帯の基底と一致する[3]

イギリスにおいてウェンロックを細分する化石帯区分ははじめ、ウェルシュ・ボーダーランド、とくにビルス英語版ロングマウンテン英語版地域の筆石化石帯に基づいて確立された[9]微化石群集についても、特定の層準や堆積相で生層序帯決定に寄与することが示されている[9]。模式セクションにおけるランドベリ=ウェンロック境界付近では、コノドント介形虫有孔虫キチノゾアアクリタークの分布が決定されている[9]

パリノモルフ

[編集]

花粉化石をはじめとするパリノモルフも年代決定に利用されている[9]

ウェンロック地域のCyrtograptus lundgreni 筆石化石帯の中には、Emphanisporites cf. protophanus および Synorisporites verrucatus によって特徴づけられる protophanus-verrucatus 群集帯があり、その基底近くにはへそ型の隠胞子と小形胞子の最古の産出が報告されている[14]。シェイウッディアン階に見出される胞子は平滑で、crassitate/patinate 肥厚構造を持っているものが4種見つかっている[14]。2–3種の三条溝小形胞子および4種のへそ型の crassitate/patinate 肥厚隠胞子の最古の彫刻のある標本は、ほぼ同時にホメリアン階の C. lundgreni 化石帯に出現する[14]。付加的彫刻を持つ2種はホメリアン階上部で現れる[14]。これらの微化石群集帯は Ambitisporites dilutus-avitus 群集帯と呼ばれ、ランドベリのアエロニアン後期から見られる[14]。これらの群集帯はアパラチア西ヨーロッパおよび北アメリカにみられる[14]スコットランド中央低地のシルル系におけるスポロモルフは、ウェンロック模式地におけるウェンロック初期のものと類似していることが報告されている[9]ペンシルベニア州クリントン郡でも微化石群群集が報告され、シルル期の初期と中期との間に胞子植物群に構造上の変化があることがわかっている[14]

ウェンロック上部(ホメリアン上部)からラドロー下部にかけて、維管束植物の大型化石が増加するが、それに勝る単一の三条溝胞子の多様性の増加が見られる[14]

下位区分

[編集]

ウェンロック統は、下部のシェイウッディアン階(シャインウッド階)と、その上に重なるホメリアン階(ホーマー階)の2つの階に区分される[4][7]。シェイウッディアン階は約4億3290万年前から4億3060万年前まで続き、ホメリアン階は約4億3060万年前から4億2670万年前まで続いた[2]

この区分は Bassett et al. (1975) に示され、シルル系層序小委員会で支持された[10]。ここでは、ホメリアンの基底もウェンロック地域内で模式地が定められることが決まった[10]

古環境

[編集]

ランドベリとウェンロックとの境界付近では、Ireviken Event と呼ばれる絶滅事変が起こったと考えられている[15][16]。このイベントでは、コノドント三葉虫などの遠洋性生物が打撃を受けた[15]

ウェンロックの気候は温暖湿潤で、大きな生物イベントは起きていない[4]。温暖で浅い海域には生物礁が発達し、特に北アメリカ五大湖周辺やヨーロッパのバルト海周辺では、ウェンロックおよびラドローの大規模な化石礁が知られている[7]。これらの化石礁は、層孔虫英語版床板サンゴ類苔虫動物石灰藻類、石灰質微生物などによって構築されていた[7]。これらの化石礁の拡大時期には、栄養塩の供給量が増加したと考えられ、低海水準期に相当すると考えられている[8]

動物相

[編集]
トリペレピスの一種 Tolypelepis undulata の復元画。

イングランドのウェンロック統で見られる礁群集には、600種を超える生物群が確認されている[7]。ソビエト地域のシルル系では、ランドベリ=ウェンロックの動物群は共通点が多いのに対し、ウェンロックとラドローとの間には大きな違いが見られることが指摘されている[17]

シルル紀には、魚類の多様性が拡大した[18]。ウェンロックでは、異甲類英語版と呼ばれる絶滅した魚類の一群が初めて出現した[19]。例えば、カナダ北西部のマッケンジー山脈に分布するウェンロック統では、トリペレピス Tolypelepis をはじめとするキアタスピス目 Cyathaspidiformes の異甲類が報告されている[18][20]

植物相

[編集]

ウェンロック(約4億3200万年前)から、最初期の維管束植物であるクックソニア属 Cooksonia の記録がある[21][22]。これは確実な陸上植物の大型化石としては最古のものとされる[21][22][注釈 3]二叉分枝した平滑な軸に、幅広い胞子嚢が頂生することで特徴づけられる[14]。この記録はEdwards et al. (1983) によりアイルランドティペラリー州のウェンロック統ホメリアン階から報告されたもので[23]、クロンカノン層 (Cloncannon Fm.)と呼ばれる地層から炭化した圧縮大型植物化石の群集として報告された[14]。群集の構成要素の多くはクックソニアで、小形胞子、アクリタークキチノゾアなどの保存は良くない[14]。この地層にはウェンロック末にあたる Monograptus ludensis 筆石化石帯があり、植物産出層準の上下を占めている[14]

大型化石の記録としては最も古いが、微化石では隠胞子英語版オルドビス系ダーピンジアン期(約4億7000万年前)から見つかっており[24][22]、陸上植物はオルドビス期には陸上に進出し、初期の多様化を遂げたと考えられている[25]

地域ごとの特徴

[編集]

ソビエト

[編集]

ソビエト地域では、ランドベリと同様にウェンロック堆積物は広く分布している[26]。ただし、台地地域ではランドベリに比べ層孔虫床板サンゴ類介形虫を特徴とする炭酸塩岩が増加する[26]ウクライナポジーリャ(ポドリア)では、ウェンロック統は主に石灰岩ドロマイトからなり、Muksha 層準、Ustye 層準、Malinovtsy 層準などがウェンロック統とされる[26]バルト地域では、石灰岩および泥灰岩を中心とする、Jaani 層準、Jaagarachu 層準が分布する[26]シベリア台地では、サンゴ石灰岩や層孔虫石灰岩、介形虫に富む泥灰岩・ドロマイトが分布する[26]

日本

[編集]

黒瀬川帯のうち、宮崎県祇園山高知県横倉山周辺には、ウェンロックからラドローにかけての石灰岩が知られている[7]。宮崎県五ヶ瀬町の鞍岡地域のシルル系祇園山層中部層からは、ランドベリ統テリチアン階およびウェンロック統のコノドント群集が産出しており[27]、これと整合的である。

上限

[編集]

ウェンロックの終わりは、ラドロー統ゴースティアン階の基底によって定義されている。これは筆石 Neodiversograptus nilssoni の初出現により区分される[7]

脚注

[編集]

注釈

[編集]
  1. 「ウエンロク統」という表記も見られる[7]
  2. ランドベリとプリドリはその後に定められた。
  3. ただし、陸上植物の大型化石とされる Eohostimella heathanaアメリカ合衆国メーン州ランドベリ統から報告されている[23]

出典

[編集]
  1. 1 2 3 INTERNATIONAL CHRONOSTRATIGRAPHIC CHART(国際年代層序表) v 2024/12 (PDF) (2024年12月). 2026年1月6日閲覧。
  2. 1 2 3 4 International Chronostratigraphic Chart”. International Commission on Stratigraphy (2024年12月). 2026年1月6日閲覧。
  3. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 GSSP for Sheinwoodian Stage”. International Commission on Stratigraphy. 2026年1月6日閲覧。
  4. 1 2 3 4 5 6 7 中村耕二・田中源吾「ウェンロック世」in 『最新地学事典』 (2024, p. 124)
  5. 1 2 伊藤剛 (2017-01). “地質学用語の中国語表記: 第2回 地質年代層序”. GSJ地質ニュース (産業技術総合研究所・地質調査総合センター) 6 (1): 34–40.
  6. 鈴木寿志 (2013). “地質年代区分2012”. 日本地質学会第120年学術大会講演要旨(2013仙台) (日本地質学会). doi:10.14863/geosocabst.2013.0_629.
  7. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 指田 2010, p. 250.
  8. 1 2 山本ほか 2007, p. 70.
  9. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 Sivete 2000.
  10. 1 2 3 4 Holland 1982, pp. 21–23.
  11. Holland 1980.
  12. 1 2 中村耕二「サローピアン」in 『最新地学事典』 (2024, p. 567)
  13. Hughley Brook”. Scotish Geology Trust GeoGuide. 2026年1月12日閲覧。
  14. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 高橋 1997, p. 126.
  15. 1 2 山本ほか 2007, p. 71.
  16. Munnecke, A.; Samtleben, C.; Bickert, T. (2003-06-05). “The Ireviken Event in the lower Silurian of Gotland, Sweden —relation to similar Palaeozoic and Proterozoic events”. Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology 195 (1–2): 99–124. doi:10.1016/S0031-0182(03)00304-3.
  17. 浜田 1962, p. 269.
  18. 1 2 土屋 2013, p. 126.
  19. 中坊徹次 (2025). “カンブリア紀から現世までの魚類相の変遷”. 地学雑誌 134 (3): 239–260. doi:10.5026/jgeography.134.239.
  20. Soehn, K.L.; Wilson, M.V.H. (1995). “Intraspecific variation and growth anomalies in Wenlockian (Silurian) Cyathaspidiformes (Heterostraci, Agnatha) from Canada”. Geobios 28 (Supplement 2): 71–77. doi:10.1016/S0016-6995(95)80155-2.
  21. 1 2 西田 2017, p. 70.
  22. 1 2 3 栗原 2023, p. 73.
  23. 1 2 Edwards & Wellman 2001, p. 4.
  24. 西田 2017, p. 66.
  25. Edwards & Wellman 2001, p. 3.
  26. 1 2 3 4 5 浜田 1962, p. 272.
  27. 福島佑一 (2023). “宮崎県より産出するコノドント化石の研究史”. 宮崎県総合博物館研究紀要 43: 41–54. doi:10.60322/mpmnh.43.0_41.

参考文献

[編集]

外部リンク

[編集]