"とうもころし"の真実
いつも楽しく読んでいる、わんわんさんの子育てエッセイ。
その中に出てきた、娘さんの「テベリ」という愉快な言い間違い。
GWが過ぎると、娘は少しずつ変わっていった。こども園の話をしても、泣くことが少なくなった。四月に入園した幼馴染の様子を聞いて、少しずつ楽しみなことが増えてきたらしい。
その頃から、
「ナツニナッタラー」
が口癖になった。
「ナツニナッタラー、コロモエン、イクノ!」
「ナツニナッタラー、アイスタベテイーイ?」
「ナツニナッタラー、ネンネシナーイ!」
「ナツニナッタラー、テベリミテモイイ?」
「ナツニナッタラー、デンシャ、マタ、ノレルカナ?」
私は思わず笑った。欲しいものも、やりたいことも、全部、「夏になったら」。娘の中で、夏は特別な季節になっていた。何でも夏になったら許されるらしい。
その一言で、すっかり忘れていた息子の「へりぽくたー」を思い出した。
言わずもがな、ヘリコプターのことだ。
言い間違いといえば、『となりのトトロ』で、メイちゃんがヤギから必死にとうもろこしをかばいながら叫ぶ「とうもころし」のシーンはあまりにも有名だ。
かつての自分は、「子供って文字の順番をごちゃまぜに覚えるんだな」くらいにしか思っていなかった。
とうもろこし → とうもころし
だから、幼い息子の「へりぽくたー」を聞いたとき、そのルールにはっと気づいて感心したのだ。
入れ替わっているのは文字(ひらがな)ではなく、「子音」なんだと。
実際にローマ字で並べてみると、一目瞭然。
テレビ(TE-RE-BI) → テベリ(TE-BE-RI)
ヘリコプター(HE-RI-KO-PU-TA-) → ヘリポクター(HE-RI-PO-KU-TA-)
とうもろこし(TO-U-MO-RO-KO-SI) → とうもころし(TO-U-MO-KO-RO-SI)
一聴すると「そんな間違いせーへんやろ」と思うような言葉も、解剖してみると拍子抜けするほど合理的。
母音(あ・い・う・え・お)はそのままで、子音だけが席替えをしている。
だから、テレビは「テビレ」にはならないし、ヘリコプターも「ヘリプコター」にはならない。
無秩序に間違えているのではなく、実に精緻なルールに沿って"きちんと"間違えている。
これを言語学では「音位転換(メタセシス)」なんて呼ぶらしい。
大人の言葉でも、歴史の中で「あらたし」が「あたらし(新しい)」になったり、「ふんいき」を「ふいんき」と言ってしまったりするのと同じ現象だという。
子どもたちは適当にごまかしているのではなく、未発達な舌と脳をフル回転させて、一生懸命に言葉を獲得しようとしている。その奮闘のプロセスが、なんとも微笑ましい。
もっとも、そんな「へりぽくたー」の時期はそう長くはない。
言葉が上達するにつれて、いつの間にか正確な「ヘリコプター」に上書きされて消えてしまう。
正しく言えた成長を喜びつつも、どこか二度と聞けない寂しさを抱いたものだった。
そういえば、この前みんなでボウリングに行ったとき、レンタルシューズを借りて驚いた。
息子の靴のサイズが、自分とたった0.5cmしか違わなかったのだ。
彼もいまや中学生。道理で、幼い頃の記憶も遠くなるわけだ。
わんわんさんのエッセイを読み終え、足のサイズが今の半分くらいしか無かった頃の彼と、空を見上げて「へりぽくたー」を指差していた日のことを、ひそかに思い返していた。
この記事の筆者:日本少年(https://twitter.com/zipangu_boy)
S川式麻雀通信の一般視聴ナンバーズ。お盆休みの方が天鳳する時間がとれないと嘆いている人。普段は仕事の合間にするからです。子どもには見せらない大人の真実。君らにも、いずれわかる(わからなくていい)。
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