ヴァトンがつなぐ円環
んーとさ、みんなもっとしりとりに本気になったほうがいいんじゃないのか。簡単なルールだからこそ奥深い。行ったり来たりする言葉の応酬を、もっと全身全霊で楽しめよ。余暇をつぶすだけの単なる暇つぶし。しりとりをそんな風に考えている人が多すぎる。
ルールは単純で、最後に「ん」が付いたら負けになる、それだけ。けれど、いや、だからこそ勝ち負けにはこだわるべきだろ。ろくでもないぬるい空気感で、言葉の尻をとってんじゃないよ。
よく考えてほしいんだけど、勝敗をハッキリつけようと本気でしりとりをしている奴がいるか?勝ち負けにこだわって最後まで続けようとする奴がいるか?仮にいたとすれば、あなたはこちら側の人間です。好きなだけくつろいでいきなさいね、好きなだけ。
けれどさ、大多数の人間はどうせ、「しりとり➤りんご➤ごりら➤らっぱ」まで何も考えずに言葉を繋げているんでしょ。しょうもない。言い方キツイけど、それって単なる言葉の羅列でしかないから。
「ラッパ」まで来て、やっと「パンツ」にしようかな、それとも「パンダ」にしようかな、と考えている。ルーティンでやってるでしょ、しりとり。理解できない、全然理解できない。嫌なこと言うけどね、それ、ただのアホ。
本気でしりとりに臨んでいる人は、安易な言葉選びなんてしない。言うなれば、「攻め」。滅茶苦茶「攻め」のワードをチョイスしてるんだよ。
よく言われるのは「る」攻めか。勝ちにこだわる人間は「ボール」、「プール」、「ランドセル」…みたいに早々に「る」で攻め始める。
「る」攻めは確かに強力だ。ダラダラしりとりしている人間からすると、鬱陶しいことこの上ない戦法。うん、それは確かだ。
だが無敵かというと、決してそういうわけでもない。一瞬で地獄に落とされてしまうことがある。
「ルール」である。
「る」返し。勝利を確信して相手に突き付けたその刀が、気が付けば自分の喉元を突き刺しているのだ。
だからと言って、即敗北ということではない。いくらでも手段はある。
「ルノアール」、「ルーブル」、「ルーズボール」…。
「る返し」返し。死んだと思ったその刹那の、見事な切り返し。真剣同士でつばぜり合いをするような緊張感のまま、しりとりは永遠に続いていく。
苦しい戦いの先に何が待っているのか、そんなことは誰も分からない。意味もないかもしれないけれど、一度歩み始めたら立ち止まるわけにはいかない、それがしりとりという名の旅路。
じゃあ、本当に強い人は一体何の文字で攻めるのか。
勝ちにこだわる人間、手加減など一切しない人間が使う、たった一つの文字、それは「る」ではなく「ヴ」。
「ヴ」で始まる言葉はかなり少ないだろう。嘘だと思うなら考えてみろ。6,7個浮かべばよい方だ。だが一方で、「ヴ」で終わる言葉はかなり多い。一般的な言葉でも、すぐ浮かんでくるから。
「ラヴ」、「グルーヴ」…あれ?
冷静になれ、落ち着いて考えよう。「う」に濁点がつく言葉…やばい、浮かばないかも。
もしかしてあんまりない?いやいや待て、絶対そんなはずはないだろ?
…老化だろうか、全く言葉が浮かんでこないな。
なんということだ、計算が狂った。たくさんあると思っていたのに、たった二つしか思いつかないとは。
…ハッ、そうか!
変えればいいのか。
簡単なことだ。誰もケチのつけようののない、完璧な方法がある!ルール違反でもなんでもないその方法を、せっかくなので皆に教えてしんぜよう。
産み出せばいい。
一生懸命「ヴ」で終わる言葉を探すのではなく、「ヴ」で終わる言葉そのもの産み出す。すなわち創造、もはやアダムとイブ、いやアダムとイ「ヴ」か。
勝つために必要なのは、手段を選ばないこと。とにかく語尾を「ヴ」にする、これだけ。ケツが「ブ」で終わる言葉はすべて、「ヴ」に変えてしまえばいいじゃないか。
「カーブ」なら「カーヴ」、「ストーブ」なら「ストーヴ」と、ちょっと発音を変えるだけでいい。言われた相手は「え?」という顔をするかもしれないが、何食わぬ顔でもう一度言い直せばいい。言ったもん勝ちである。
ルール上、これは日本語に適用してももちろん問題ない。
「一発勝ヴ」、「紫式ヴ」、「海上保安本ヴ」…もはや無敵。きっと相手は手も足も出まい。いよいよ見つけてしまったしりとりの裏技。「ザリナモ」とこの戦術を名付けようかな。
などと考えていたのだが、致命的な欠陥に気が付いてしまった。
たしかに「ブ」を「ヴ」に変えることはできるかもしれないが、それは相手も同じ条件だ。だってよく考えてみれば、言われた相手も同じことができてしまう。
「う」に濁点をつけた文字で始めるのは、終わる文字を探すよりも楽勝だ。濁音から始まる言葉は、下手すれば濁音で終わる言葉より多いかもしれない。一番最初の文字が「ブ」なら、例えば「ヴ士道」、「ヴ愛想」、「ヴザービート」…いくらでも出てくる。
ルールの穴を突けるのは私だけではない、相手も同様だったらしい。いや、考えてみれば、むしろ相手の方が有利かもしれない。
一種類の攻撃しかできない私に対して、相手は「ば行」から始まる言葉を全て「ヴァ行」に変換することができてしまう。
嘘だろ、こんなの勝てるわけがない。
一瞬で浮かんだだけでも、「ヴァく風スランプ」、「ヴィンヴィール」、「ヴェっ件対応」、「ヴォ金活動」…ありとあらゆる言葉が「ヴァ行」になっていく。悔しいけれど、勝ち目はないかも。
もっと言えば、この戦術は単なるしりとりには留まらない。「陰ヴ」と私が言えば、「ヴァカ」、「デヴ」と言えば「ヴォケ」と返すという、精神的ダイレクトアタックにもなるだろう。
うん、負け。結果的に、完全に私の負けだ。ダメだったわ。
私は大馬鹿者、いや、大ヴァカ者でした。タラタラとここまで書き続けて、ようやく気が付きました。
楽しければいいんだよな、しりとりなんて。適当に言葉をつないでいるだけかもしれないけれど、勝ち負けにこだわる必要なんてそもそもない。
一本のバトン、いやヴァトンがどんどんつながって、でっかい輪が広がっていくこと。
遠いところにいた人と手を取り合って、一つの円環をつくること。
とどのつまり、それが何よりも素晴らしいことだったのか。
[完]
「う」か、「う」な~…と頭を悩ませているうちに、一週間経っておりました、ごめんなさい。いつも以上に楽しく書かせもらえたと思います。
すっかり配信を通して人気者になった常盤ばらん、いやヴぁらんさんですが、彼のプロフィールの一文が、私は大好きなんだよなぁ。
あっても良いけど無くても良い。
「いらない」と切り捨てるわけではなく、むしろ「必要性はないけれど、存在することは否定しない」という、優しい言葉だ。だって、みんな、しんどくなるためにnoteやってんじゃないんだからさ。
さて、このヴァトンですが、今回は一旦ここに置いておこうと思います。好きに持って行ってつないでもらうのは、もちろん大丈夫ですからね!念のためですが、一応。
うまくつながればそれでいいし、つながらなくてもいいんじゃないかな。
なぜなら、これこそ「あっても良いけど無くても良いもの」だと思うんで…うふふ。
~Fin~
