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【小説】名もなき空の若者たち【第1章 佐伯の冬 ― 九九式艦爆訓練生たち】16.未来の影 ― 冬の空の下で

作品紹介  前節


第1章 佐伯の冬 ― 九九式艦爆訓練生たち

第16節 未来の影 ― 冬の空の下で

夕陽が沈みかけ、
冬の佐伯の空は、薄い橙色に染まっていた。
滑走路の端には、
三機の九九式艦爆が静かに影を落としている。

訓練を終えた六人は、
その影のそばに、立っていた。
疲れはある。
だが、昨日までの“恐怖の残滓”とは違う。
胸の奥に、
小さな芯のようなものが、灯っていた。

「明日も……飛ぶんだな」

石田がぽつりと言った。

軽口ではない。
その声には、
今日を生き延びた者だけが持つ、静かな実感があった。

「飛ぶさ」

 大庭が答えた。
 その横で川畑が小さく頷く。

「俺たち……少しは“組”になってきたよな」

 村瀬が言うと、
 新城が照れたように目をそらした。

「……はい」

浜田は何も言わなかったが、
その沈黙は、
六人の輪の中に、確かに馴染んでいた。

冬の風が、
六人の間を静かに通り抜けていく。
その風は冷たいのに、
どこか柔らかかった。

そこへ――
高梨勇作が歩いてきた。

黒縁の眼鏡をかけたまま、
夕陽の光を受けて、影を長く伸ばしている。

「今日は……よくやった」

その一言だけで、
六人の胸の奥にあった緊張が
ふっとほどけた。

高梨は六人の顔をひとりずつ見渡し、
ゆっくりと、眼鏡を外した。
胸ポケットにしまうと、
裸眼の瞳が夕陽を受けて静かに光った。

その光は、
どこか遠くを見ているようでもあり、
目の前の六人を、深く見つめているようでもあった。

「……お前たちは、強くなる」

高梨の声は、
冬の空気に溶けるように静かだった。

六人は、その言葉を胸に刻むように聞いていた。

だが――
その静かな瞳の奥に、
六人にはまだ見えない“影”が、揺れていた。

高梨自身も、
その影の形をはっきりとは知らない。
ただ、
空に生きる者だけが感じ取る、
“未来の気配”のようなものが、
胸の奥でひっそりと息づいていた。

夕陽が沈み、
冬の空が青く深く変わっていく。

六人の影は、
長く伸びて、ひとつに重なり、
やがて夜の気配に溶けていった。

その背中を、
高梨はしばらく黙って見つめていた。

まるで、
まだ見ぬ未来の空を
ひとりだけ先に見てしまったかのように。

冬の風が、
高梨と六人の間を静かに通り抜けていった。

第1章【完】



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