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【小説】名もなき空の若者たち【第1章 佐伯の冬 ― 九九式艦爆訓練生たち】3.初めての哨戒の朝

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第1章 佐伯の冬 ― 九九式艦爆訓練生たち

第3節 初めての哨戒の朝

翌朝、空はわずかに明るかった。
雲の切れ間から、薄い陽の光が斜めに差し込んでいた。
それでも、吐く息は白く、
指先はすぐにかじかんでいった。

金星エンジンが低く唸り始めた。
最初は、喉の奥で咳払いをするような不安定な音だったが、
やがて、腹の底に響く一定の振動へと変わっていった。

「……うわ。腹にくるな、この音」

石田が、苦笑いを浮かべながら言った。
その言葉に、誰かが小さく笑う。

「慣れますよ……そのうち」

浜田が静かに答えた。
その声には、妙な落ち着きがあった。

大庭は操縦席に座り、
前に並ぶ計器の針をひとつひとつ目で追っていった。
油温、回転数、速度計。
どれもまだ、彼にとってはただの“数字の並び”でしかなかった。

後席では、川畑がシートベルトを締め直していた。
金具が、小さく鳴った。

「……緊張、してるか?」

大庭が、振り返らずに聞いた。

「……そりゃ、まあ」

川畑が答える。
声は思ったよりも落ち着いていた。

「俺もだ」

二人は、小さく笑った。
笑いながらも、指先には汗がにじんでいた。

風防の向こうで、整備員が手を上げた。
プロペラが本格的に回り始める。
空気が切り裂かれ、
冬の冷たさが、別の種類の冷たさへと変わっていった。

滑走路の向こうには、
まだ誰の記憶にもない空が広がっていた。

つづく



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